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コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

いらっしゃいませ


 淳のお話ブログへようこそ


   「なんでも書いていいノート」を友人達でまわして好き勝手な事を書き・・そこから生まれたお話が、この「コールナンバーダブル J」です。

  ならば、登場人物も私や友人達のお気に入りアニメキャラにしよう。国際秘密警察なんて本当はいないから(当時、そう思っていました)自由に書けていいよね、と安易な設定で書き始めたお話が、昭和を生き抜き、中断があったものの平成の世で再び甦るとは思っていませんでした。

  サブタイトルは「昭和(S51~S57)」「平成(H18~ )」にわかれます。
  何も考えずに書きなぐった昭和。少しは考えて・・でも書きなぐっている平成。
  しかし元々自分が楽しむために書いたものなので、他人様には読みにくい所が多々あります。でも文章がよほどおかしくない限り、当時のままを載せようと思います。

  では、下記の一覧よりお入りください。


  コールナンバーダブル J  サブタイトル一覧へ

  ※  S51~S57   ⇒    一覧へ
  ※  H18~         ⇒    一覧へ
  ※  登場人物紹介

  ※  淳のたからもの      ⇒    一覧へ   

 

   お話は1話完結ですが、シリーズ物なので最初から(上記一覧の上から順番に)読んでいただければ、詳細もわかってよいのですが、「細かい事は面倒くさい!でも、ちょっと読んでみてもいいかも」という方はこちらへどうぞ─

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Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

スクール・ララバイ 完


 桃源台で海賊船を降りた8人はそのまま箱根ロープウェイに乗り込んだ。
 16分の空中散歩を楽しみ大涌谷で降りる。箱根観光の定番で現在も火山活動が続き地表から噴き出す蒸気を間近に見る事ができる。
 彼らは自然研究路を閻魔台の方へと歩き始めた。辺りには硫黄の臭いが漂いすぐ近くで水蒸気が噴出している。
「で、すごかったぜ、その映画。今のCG の技術ってすごいよな」安木が言うのへ内田や市井、美加も同意する。「それから先週封切になったあの映画─」
「あ、見た見た」
「私も。地球ってすばらしいわ!」
 と、次々と同意の声が上がる。
「神宮寺は見た?」
 1人黙っている神宮寺に市井が声を掛けた。
「いや・・、このところ全然見ていない」
「お前、映画好きだったよな。仕事忙しいのか?」
「急に仕事が入る事が多いからね。友人と約束もできないんだ」
「かわいそう!」
「社長に訴えて職場改善すべきよ!」
 相変わらず元気な女の子達だ。
 もし彼女達の言うとおり、“ ○時から×時までしか仕事しません” と言ったらチーフはどんな顔をするだろう。容疑者を追っていて、“ あ、もう定時だからお先に失礼しま~す” と帰ってしまったら─チーフはともかく、間違いなく相棒にはぶん殴られるだろう。
「や~だ、神宮寺君。急にニヤニヤして」笙子が言った。「彼女の事でも考えているの?」
 絶対違う! と弁解しようとし、ふと殺気を感じた。その方へ目を向けるが知っている顔はない。と、殺気はすぐに消えた。しかし何者かの視線は感じたままだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。─ あ、名物の黒玉子だぜ」
 少し先の小さな茶店を指差す。さっそく買ってきて皆に手渡した。
「85度の硫黄泉で茹で蒸気で蒸すと硫化水素がカラの鉄分と化学反応を起こしてこのように真っ黒に変化するんだ」
「さすが科学部!」
 カラを剥きながら内田が言った。
「ひとつ食べれば7年長生きできるって言うから、おれ10個ぐらい食っちゃおうかな」
「寿命プラスで70年って・・・何歳まで生きるつもりだよ」
 原口が安木に言った。
「明日死ぬ運命でもあと7年生きられるのかな・・・」ポツリと神宮寺が言った。みんなの口がふっと止まる。「─ あ、悪い。深い意味はないんだ。なんとなくそう思っただけで」
「びっくりした」
「なんか真に迫ってるんだもん、神宮寺君」
「ごめん」
 そう言い玉子をパクッと口に入れる。これであと7年は仕事ができると思った。
 この先は通行止めになっているので一同は来た道を駅へと引き返す事にした。
 ちょっと疲れが出て来たのか8人の歩調も揃わず、神宮寺と美加が皆から少し離れ最後になった。
「あら?」前を行く友人達を見て、美加が言った。「笙子がいないわ」
「え?」
 見ると確かに前方の5人の中に笙子はいない。2人の後ろにもその姿はなかった。
「玉子茶屋では一緒だったのに、どうしたのかしら」
「まさか・・・」
 神宮寺の脳裏に昨夜笙子を追っていた若い男の姿が浮き上がった。だがたとえ笙子を気に入ったとしてもここまで追ってくるのは考えずらい。あの男も観光客で、ここで再び笙子を見かけたという事か─。
 まさか神宮寺に狙いをつけ一緒にいた彼女を─。
「美加、皆と合流して駅で待っていてくれ。おれは笙子を捜す」
「だったら皆で捜した方が早いわ」
「皆は一緒にいてほしいんだ。さっ、行って」
 美加を前方に押しやり神宮寺は来た道を戻り始めた。

 平日とはいえ人は多い。もし笙子が強引に連れていかれたら誰かが見て騒ぎになっているはずだ。だがそんな声は聞いていない。
 ふと玉子茶屋より先の道が目に付いた。この先は閻魔台という噴出孔があり、現在は封鎖されている。
 が、試しにその道を登ってみた。と、道を塞ぐゲートの前に2人の男女がいた。
「笙子!」
「神宮寺君」
 笙子が声を上げ傍らの若い男を見た。
「あいつか」
 男が鋭い目を向け神宮寺に向かってきた。止めようとした笙子を横に突き飛ばした。ゴツゴツした石の道の上に笙子が膝をついた。
「何をする!」
 笙子に走り寄ろうとする神宮寺に男が拳を繰り出してきた。ケンカ技ではない。明らかにボクシングの技だ。正確に打ち所を攻めて来る。スレスレで避け、が、服や頬を掠り、シュッと響く。神宮寺は次第に後ろに下がっていく。
「やめて! その人は違うわ!」
 笙子の声に勢いがついたように男は神宮寺の右頬を狙ってきた。スッと横に避け、その腕を掴むと同時に相手の足を払って体を一回転させ地面に転がした。倒れた男はポカンと神宮寺を見て、しかしすぐに立ち上がった。
「やめて、遠山君!彼は中学の同級生よ! それだけだから!」
「・・・知り合い?」
 神宮寺が笙子に目を向けた。

 リネン室やスタッフルームなど開けられるところはすべて開けてみた。看護師に怒鳴られたが無視してジョーは病院を走り回る。
 浅井の行きたい所がこの病院の中にあるとは思えない。美人の看護師さんの所でなければどこかに閉じ込められているのだ。
「メチャクチャな話だが・・・当たっているかも」
 と、西崎は階下から当たる事にした。
 だがこの広い病院中をたった2人で捜すのは無理だ。〝保護〝 を解かれているので刑事はいない。
「その隙を突かれたってわけか、くそっ」
 階段の昇り降りで軽い運動はしていたものの、1週間近い入院生活は確実にジョーの体力を低下させていた。普通の人間ならもうへたばっている頃だ。
 だが体力がなければ気力だっ、とジョーの動きは止まらない。だが、
「だめだ。もう病院の外へ出ているのかもしれない」
 そうなるとジョーと西崎だけでは手に負えない。
 と、前から病院のスタッフがカートに大きな縦長の箱を乗せ押してくるのが見えた。とっさに走り寄り箱の中を引っ掻き回した。使用済みのリネン類が入っていた。驚いて止めるスタッフに、
「これはどこへ持っていくんだ! どこで業者に渡す!」
「ち、地下のリネン置き場に」ジョーの勢いに一瞬怯えたが、「もうすぐ業者が取りに来るので」
「ジョー!」
 榊原が、スタッフの襟首を掴んでいるジョーに走り寄ってきた。
「地下のリネン置き場だ。そこから外へ運ばれる!」
 大の男を1人、誰にも気づかれず病院内を運ぶとしたらストレッチャーに乗せるか洗濯に出すリネン類と一緒に運ぶしかないだろう。小柄な浅井ならこの箱に入る。一瞬で理解した榊原の横をジョーが走り抜けた。
「ジョー! そこはスタッフオンリーだ。鍵が掛かっている!」
 榊原が、アッケにとられているスタッフから鍵を受け取りジョーに放った。バッとキャッチし一瞬口元を歪め、ジョーが階段室に走り込んだ。自信がある時のアサクラ氏の貌によく似ている、と榊原は思った。

 一方、階段を一気に地下まで駆け下りたジョーは病院内より薄暗い地下室に並ぶドアのうち〝リネン置き場〝 のプレートが貼られたドアの鍵を開け中に入った。と、外部に通じる出口があり、小型トラックの荷台が見えた。
 白いリネン類が入れられていて、その中にわずかに黒い物が見えた。その横に立つ男が驚いてジョーを見た。
「浅井!」ジョーが荷台へ飛び乗る。男がジョーを抑えに掛かった。が、反対に荷台から放り出してやった。「浅井」
 リネン類の中から浅井が出て来た。怪我はなさそうだが気を失っている。
 と、トラックが動き出した。同時に、放り出した男が荷台に戻りジョーに殴り掛かって来た。 その腕を止め殴り返そうとしたが、ガクンとトラックが揺れ男と共にリネン類の中に没した。
「どけ! このやろう!」
 ジョーは自分の上に倒れた男の腹を蹴飛ばし、その体を飛ばした。ズーとリネン類を引き摺り、男が荷台から転げ落ちていった。
 地下から地上に出るスロープに白い線が引かれる。パッと明るくなった。地上に出たのだ。そこは病院の裏駐車場の横だった。
 トラックはもちろん裏門に向かっている。が、突然激しく左右に蛇行し始めた。体を固定できない荷台でジョーと浅井が周りのパネルに体をぶつける。しかしリネン類がクッションになってくれた。
「くそォ、しょーもねえ事しやがって」
 ジョーが荷台からトラックの屋根に上がった。助手席の窓が開き短髪の男が身を乗り出した。手には小型の拳銃が握られている。
 トラックが右にハンドルを切った。ジョーが窓枠に手を掛ける。銃声がした。弾丸はジョーの左手を掠ったが窓枠は離さなかった。
「てめェ!」
 久々に聞く銃声にジョーが爆発した。男の腕を蹴り銃をすっ飛ばした。さらに男のアゴを蹴り上げる。男が車内に引っ込むと同時にジョーも体を入れた。
 トラックは広い駐車場をグルグルと回っている。急ハンドルを切りジョーの動きを抑えようとするがあまり効果はない。が、あまりの蛇行運転に助手席のドアが開いた。短髪の男がジョーの胸を蹴った。
「うわっ!」
 ジョーが車内から転がり落ちる。地面で頭を打ち一瞬意識が遠のいた。が、U ターンしたトラックがこちらに向かってくるのが見えた。ギリギリで転がり避ける。と、サイレンが聞こえてきた。赤い回転灯をつけた警察車両がこちらに向かって来る。
 と、トラックがU ターンし、こちらに向かってきた。出口は覆面車の後方だ。このまま強行突破するつもりか。
「銃を貸せ」下りてきた刑事にジョーが言った。は? と顔を向けてくるので、「早くしろ!」
 と、強引に引き抜いた。向かって来るトラックの前輪に銃口を向ける。
「君!」
 刑事が止めようとし─ しかし思わず手を引っ込めてしまった。
 額からいく筋もの血を滴らせ、それでもその強い瞳の光が鈍る事なく標的に向けられているジョーにさすがの刑事達も何も言えなかった。
 と、銃声が2発響き、キキーとトラックがそのコースを変えた。
「あ、危ない!」
 刑事達が逃げる。
 トラックは銃を降ろし立つジョーの横をすり抜け、その後ろに停まっていた覆面車にぶつかり止った。

 ダブルJ室のソファセットのテーブルの上には温泉まんじゅうの箱といくつかの袋、そしてなぜか新宿署の名が入った始末書が2枚乗っていた。
「で、その遠山って男は笙子って娘(こ)の彼氏なの?」
 瞳と同じくらい大きな口を開け洸がまんじゅうを頬張る。その横では一平が湯もちの竹皮を開いていた。フワッとユズの香りが広がる。
「そういう事かな」
 聞かれるままに、しかし少し言いにくそうにボソボソと神宮寺が答えた。
 1年前から付き合っていた遠山と笙子だが、ここ何週間は擦れ違いが多くうまくいってなかったらしい。そんな時に笙子が中学の同級生と一泊旅行に行くという。もしかしたらその男の中に─。
「そう思って狙いをつけたのが神宮寺て事か。そりゃ気の毒な事だ」ケラケラと笑うジョーを相棒が横目で睨みつけた。「お前のカンも当てにならねえな。とんだ3枚目だ。で、お前はどうだったんだ? 女の子と火が点いて焼き魚で真っ黒になったか?」
「なにわけわかンない事言ってるんだ」確か以前にも同じような言葉を聞いたが。「いや・・焼き魚はともかく、もう少しでタタキになったかも」
 後で聞いたら遠山はボクシングのセミプロだという。笙子はもちろんだが遠山もしきりに頭を下げていた。
「タタキの方が焼き魚より活き・・がいいじゃん。そーか、女の子とタタキになったんだ─ ってどーいう意味だ?」
 首を傾げるジョーに、両方・・わからんと洸と一平がため息をついた。
「お前こそ入院していたのに、なんで怪我が増えているんだ?」
「拉致されそうになった友人を間一髪で助け出したんだぜ」頭に巻かれている包帯を引っ掻いた。「お前より格好いい結末だぜ」
「で、覆面壊して始末書ものだけどね~」
「言うな! くそォ、密輸団の一味を捕まえてやったのに~」
 ジョーがテーブルの上にある始末書をクシャッと掴んだ。
 トラックが覆面車にぶつかって止まり、中にいた2人の男は新宿署に連行された。浅井に怪我はなかったが退院が1、2日延びたそうだ。
 これは後の調べでわかった事だが、東南アジアを中心に貿易の仕事をしている浅井の父の会社の取引相手の中にたまたま麻薬密輸団が取引している会社があったらしい。しかし最近両者はトラブルを起こし取引が中断している。
 密輸団からしてみれば自分達の事を知っているその会社に危険を感じ─ そんな時、その会社の取引先である浅井の息子がバイクで警察に追われている仲間の進路を妨害し─ と、奴らは思っていた─ その後も警察が付いているので、まさか自分達の事を警察に話すのでは、と勝手に思い込んでしまったようだ。
 一度は口を封じようとしたが、拉致して密輸団の事を知っている浅井の父も脅そうとしたらしい。もちろん浅井も父も密輸団の事など何も知らなかった。
「しかし警察車両にぶつけて止めるなんて。よくそんな無茶ができるものだ」
「もちろんちゃんと計算してたぜ。あのくらいの速度ならぶち当たっても大破しないって」絶対怪しい。「浅井もリネンに包まれていたし、見事な計算だ」
「そういえば、新宿署の刑事を蹴り飛ばして事情聴取を受けたとか・・・」
「なんでそんな事を知ってるんだ?」
 ジョーがジロリと洸を睨んだ。
「だって神宮寺が何かおもしろい事はないかって言って来たんだも~ん」
「おもしろい事とは言っていない」
 ジロリと神宮寺も睨む。2人似てきたらやだよ~と洸と一平が声を上げた。
「で、土産は甘いものだけかよ。温泉に入ったまんじゅうなんて、どーいう代物だ」
「お前の頭と一緒だ」そう言い神宮寺が袋の中からいくつかの包みを出した。開けると小さな木の箱が出て来た。「頭打ったんだろ。脳が大丈夫かどうか調べてみろよ」
「寄木細工だね」
 洸がひとつ手に取った。
 桜やブナなど様々な木材を組み合わせて作る事で独特な模様が生まれる箱根の伝統工芸品として有名な一品だ。洸は細工をスッスッとスライドさせ、何行程かの後開ける事ができた。
「プログラマを甘く見ないでね」
「なんだよ、これ。全然開かねえじゃん」ジョーが手にした小さめの箱は実は行程が50近い難易度の高い物だ。「こいつ、このやろ。あ、開かねえ。こっちは─動かねえっ」
「壊すなよ。力いっぱいやればいいって物じゃない。女性を扱うのと一緒だ」
「うるせえ焼き魚!これ開けたら中にいい物が入っているのか?」
「入ってないよ。箱なんだから」
「何も入ってないのに、なんでこんな苦労して開けなきゃならねーんだよ!」
「正常のようだ」
 放り投げられた箱をキャッチして神宮寺が微笑んだ。



                                          完










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スクール・ララバイ 4


 豪華な夕食とちょっぴりお酒も入り、しかしまだ寝るのは早いので8人は遊技場で卓球のチーム対抗戦を行う事にした。4人づつに分かれた勝ち抜け戦だ。
「それェ! アタック!」
「市井君! 手加減してよ!」
「またボール潰して弁償させられるぞ」
 以前、別の旅館に泊まった時、バレーボール部のエースアタッカーだった市井が打ち出すスマッシュに球が耐え切れず何個もへこませた。弁償はもちろん全員でした。
「元気だな、市井」同じチームの神宮寺が言った。「おれの分もやってくれよ」
「足を使っていいのならおれの方が強い」と安木。「そういえば神宮寺は卓球が苦手だったよな」
 え、そうなの? と目を向けてくる里穂に、眉を八の字にした神宮寺が頷く。
 スポーツ万能の彼だがなぜか卓球とは相性が悪い。学校を卒業してからやる機会がなかったが、たぶん今もそうだろう。
「よ~し、神宮寺に勝てるぜ!」
「って、同じチームだぜ、おれ達」
 に、一同が笑う。ちゃんとカウントとれ~、と市井がわめいた。
「笙子、遅いなァ」
 ポツリと美加が言った。部屋に忘れ物を取りに行ってずい分経つ。
「おれ、見てくるよ。順番がきたら頼むぜ、市井」
 お~! と手を振り上げる市井と、逃げるな、神宮寺! と言う原口達の声を背に神宮寺は遊戯室からそそくさと出て行った。

 彼らの部屋は2階で、遊技場からは一番遠い。平日の今日は宿泊客もそう多くはなさそうだ。宴会場も大部屋一室しか可動していなかった。
 と、そちらの方から笙子が走ってきた。すぐ後ろを男が追ってくる。神宮寺が笙子に走り寄った。
「神宮寺君!」
 笙子が神宮寺の腕を掴み後ろに隠れる。神宮寺は自分の前で止まった同年配の男と対峙した。
 ギラギラと物凄い目で神宮寺を睨みつけてくる。酒に酔ってはいない。明らかな悪意がある。
 その手を神宮寺に伸ばそうとして─止めた。相手が何もしないうちに神宮寺から手を出す事はできない。こんな男の1人や2人彼の手に掛かればあっという間に床に転がされてしまう。それゆえ先に手を出せない。
 と、男は気まずそうに唇を噛みクルッと踵を返すと来た方へと走って行ってしまった。
「大丈夫か、笙子」
「ええ、ちょっと追いかけられただけだから・・・」
「旅館の人に言って注意してもらった方が─」
「いいの。酔っ払いよ、きっと。だから誰にも言わないで。皆楽しんでいるんだもん」そう言われても見過ごせない気がして神宮寺は渋っていたが、「お願い、神宮寺君」
「─ わかった」
 真剣な目で言われ仕方なく頷いた。一緒に遊技場に戻る。しかし、
(あの目、あの視線は確かに昼間の・・・)
 神宮寺はソッと後ろを振り向いた。
 
 一度は目を瞑ったが榊原が出て行くとジョーはベッドの上で上半身を起こした。
 病院の夕食は早い。時計を見ると20時を過ぎたばかりだ。こんな時間に眠れるわけがない。
 体を動かしたくてジョーは病室を出て階段に向かう。
 病院内は夕食後の雑談を楽しむ者やシャワーを使うために浴室に向かう患者達でけっこう賑やかだ。
 さっきは少し頭痛がしたが、今はどうして入院しているのかわからないほど調子がいい。階段の昇り降りも5、6往復増やしてやろうかと思った。
 と、例の屋上庭園に浅井が入って行くのが見えた。その後をこの前のとは別人の、しかしやはり目つきの悪い男が1人続いていた。だがジョーを見ると庭園には入らずクルリと背を向けた。
(こんな時間までご苦労なこった)
 庭園もあと30分ほどで施錠される。代わりに見張ってやろうかな、と男を困らせるつもりでジョーも庭園へと入った。
「アサクラ」
 こんな時間に庭園に来る人間はめったにいないので浅井は驚いたようだが、相手がジョーだとわかると後ろに隠した物を取り出し照れ臭そうに笑った。たばこだった。
「本当は喫煙室で吸わなきゃいけないんだけど」
 それには廊下をグルリと回らなければならない。浅井の病室からでは確かに遠かった。もちろんジョーに咎める気はない。
「大麻じゃなきゃ、いいさ」
 さりげなく水を向けるが、 “そんな物持ってるはずないだろー” と笑われた。直感で、こいつは麻薬密輸団なんかに関係していないと思った。それなら無駄にくっついている新宿署の奴に教えてやろうかと思ったが、
「そうだ、アサクラ。クラス会の通知来ただろ。行くか?」
「─ いや、おれ不定期の仕事をしてるからたぶん無理だ」
 本当は通知など来ていない。

 中学生の時、ジョーは鷲尾達と赤坂に住んでいた。が、鷲尾家はもう日本にはない。ジョーの元麻布の住所も中学時代の友人等に教えていないのだ。
「今回の幹事は椎奈美子だぜ」ちょっと意味あり気に言う浅井にジョーは首を傾げた。「覚えてないのか? 君に猛アタックしてた女子がいただろ。ショートカットの目の大きな─」
「・・・・・」
 名前に覚えはあるがアタックされたかどうかは覚えていなかった。女子が元気なクラスだったから、けっこうあちこちからちょっかいは出されていたが。
「覚えてないんだな」なぜかため息をつく。「ま、君は女子から人気があったし・・・」
「人の事なのにお前はよく覚えているんだな」
「好きだったんだ、椎奈が」え、とジョーが浅井を見た。「だけど彼女は君しか眼中になくてさ。1回コクったんだけど・・あっさり断られた」
「・・・・・」
 こういう時はなんて言っていいのか・・・。わからずにジョーは黙り込んだ。と、
「昔の事だから気にするな」邪気のない笑顔で浅井が言う。「そうか、君は参加できないのか。よーし、だったら今度こそおれがアタックして成功させてみせるぞっ」
「─ がんばってくれ」
 と、言うのが良いかどうか・・・しかし浅井は笑って受けてくれた。
「もう入ろう。鍵掛けられちまう」
 先に立ち、浅井が病棟へと続く出口に向かった。と、先ほどまで浅井に付いていた男が入ってきた。真っ直ぐに浅井を見、向かって来る。
 驚いて浅井が、そしてジョーが足を止めた。男の手がジャケットの胸の内に入る。
(警察じゃない!)
 直感と同時にジョーが浅井の前に出た。繰り出されるナイフを手刀で受け払う。ナイフは木々の間に飛んで行った。と、男の左拳がジョーの顔に向かってきた。バシッと手の平で受け止め、その腕を取り地面に投げ下ろした。
「アサクラ!」
 浅井の声に振り向くと、もう1人目つきの悪い男がこちらに向かって走ってくるのが見えた。やはり背広の内側に手を入れている男をジョーは思い切り蹴り飛ばした。

『どーしたの、神宮寺。同窓会旅行の真っ最中なんだろ?』
「うん。温泉と酒と卓球で熱くなったから中庭で涼んでる」
 リンクから出る元気な洸の声に神宮寺が答えた。結局卓球はやらされたらしい。
『いいな~。で、焼き魚に火が点いて真っ黒に燃え上がっちゃってるんだ~』
「なんの話だ?」首を傾げたが、「ところで箱根方面で何か事件が起きていないか?凶悪犯が脱走したとか、どこかの組織が挙げられたとか」
『箱根?』洸の、キーボードを打つ音が聞こえた。『別にないよ。一平、知ってる?』
 いや、と一平の声も聞こえた。
『中野だったらジョーが公務執行妨害で事情聴取されたけど』
「ジョーが? 何をしたんだ?」
『マル対に付いていた新宿署の刑事を蹴り飛ばした』病院に刑事がいたという事か? それがなんでジョーに蹴飛ばされるような事になったのだろう。『そっちは何かあったの?』
「いや・・・別に・・ただなんとなく・・・」
『君は休暇で行ったんだからちょっとは仕事を忘れて遊んでおいでよ。気が持たないぜ。こっちは今のところ大きな事件は起きてないし、ザーツの件も変化なしだ。友人と楽しんで、後はお土産忘れないでねー』
 と、言いたい事を言ってプツリと切られてしまった。
「やっぱり気の回しすぎかなァ」不穏を感じるカンが鈍ったのだろうか。「ジョーは元気に暴れているみたいだし」
 入院中にナニやってんだか、とリンクを切り館内へと戻った。

「だって目つきの悪い奴が2人続けて向かってくれば当然仲間だと思うだろ」
 ムスッと口元を曲げ、それでも杉本調理師長が焼いてくれたパンケーキを1枚取り口に入れた。
「状況的に見れば無理ないけどね」
 ペリエのボトルをテーブルに置き西崎が苦笑した。
 昨夜、庭園でジョーが蹴り飛ばした男は浅井に付いていた新宿署の刑事だった。ちょうど交代の時間で打ち合わせをしているうちに浅井が庭園に行ってしまったらしい。
 だが1人目の男は明らかに襲撃者だった。面会時間に入り込み、トイレに隠れていたらしい。
「警察では例の麻薬密輸団の一味だと思ってんだろ。それがどうして浅井を襲う?」
「それはわからない。だが新宿署では浅井は仲間ではないと判断したらしく〝保護〝 は解くそうだ。一味の男は捕まえたし。未だ黙秘を続けているがそっちから当たっていくんだろう」
「襲われた理由がわからなければまた襲われるかもしれねえのに? 勝手に〝保護〝 しておいて後はポイかよ」
 ジョーの言い分はもっともだが警察にもそこまでの余裕はない。今は確保した男の口を割らせる方が先だ。
「奴は午後に退院すると言ってたが」
「なんにせよ、これは新宿署の事件(ヤマ)だ。おれ達は手が出せない」
「退院する友人を見送るのは自由だろ?」いたずらっ子の目でジョーが言った。「そうだ、おれも一緒に退院すればいいんだ」
 さっそくベッドから出てクローゼットを開けた。
「何するんだ?」
「退院の準備に決まってるだろ。あれ? 靴下がねぇや」
「そういう事は榊原さんが決める事だぞ」
 西崎が呆れて息をついた。だが昨日までの疲れた顔はない。やはり多少無茶をする方がこの男には合っている、と思った。

 青い湖面をカラフルな海賊船が滑るように進んでいく。目の前には箱根神社の朱塗りの大鳥居が見える。
 その船のデッキに仲間から離れた神宮寺が1人立っていた。彼の目は出港したばかりの元箱根方向に向けられている。
「まだ気になるの?」美加だ。「神宮寺君って意外とやじ馬なのね」
「ん・・・」
 そう言われて苦笑する。
 湖畔には赤い回転筒を光らせたパトカーが何台か見える。
 旅館から元箱根港へ向かう途中にその光景に出くわし、やはり遠巻きに見ていたやじ馬に訊いたところ、昨日から行方不明の男性の持ち物がこの近くで発見され警察が付近を捜索している、という事だった。
 もちろん神宮寺が出るような事件ではないがやはり気になる。
 さらに、やじ馬の中に昨夜笙子を追っていた若い男がいたような気も・・・。
「そうだ。私、先月新宿で神宮寺君を見かけたのよ」
 え、と神宮寺が美加を見た。
「私はバスに乗っていたから声は掛けられなかったけど、伊勢丹の前を背の高い外国人の男の人と歩いていたわ。ブロンドより少しくすんだ髪の人だったけど」ジョーらしい。「2人共背が高くて格好良かったからすぐに目についたわ。今度紹介して」
「やめた方がいい。命がいくつあっても足りな─」今度は美加が、え? と目を向けてきたので、「い、いや。奴は忙しい男だから─」
 と、ヘンに誤魔化した。と、他の6人が客室から出てきた。
「神宮寺君を独り占めして、ずるいわよ、美加!」
「きゃ~」
 と、なかなか姦しい。

「なあ、神宮寺」女の子達の様子を眉を八の字にして見ていた神宮寺に原口が小声で言った。「おれ、ずっと気にしている事があるんだ」
 神宮寺が怪訝な目を向ける。
「中1の遠足の時・・・お前がバスに乗れないから歩いて行こうとおれが言っただろ。あの時は本当にそう思い、歩いて行ってもいいと思ったんだ。だけどお前にしてみれば余計なお世話だったんじゃないかと」
「そんな事はないよ」
「でもあの時お前、迷惑そうな顔をしてたぜ。クラスが盛り上がったから取り消せなかったけど」
「そうだったかなあ」また眉を八の字にして神宮寺が苦笑した。「ん・・・、少しはあったかな。皆には関係のない事だから放っておいて欲しいとは思った。でも君が言ってくれてクラスの皆が賛成してくれて・・・そう、先生は“ん~” って唸っていたけどな」
 そうだった、と原口が笑った。
「でもそれで吹っ切れたのは確かだ。次の日から通学のバスに乗ってみようと思ったもの」
 が、30分の道のりの5分も乗っていられず降りてしまった。が、帰りは10分、次の日は半分、とだんだんと時間が伸びていき─5日掛け神宮寺は登下校に今までと同様バス通学ができるようになった。もちろん遠足の伊豆半島までバスで行く事ができたのだ。
「おれは感謝しているよ」
「ホントに!?」顔を突き出してくる原口に神宮寺が頷く。「よかった~。おれ本当に気になっていたんだぜ。いつか訊きたいと思っていたけどなかなか会えなくて」
 と、言って肩に手を回してきた。
「10年間もか? 悪い事したな」
 神宮寺も原口の肩に手を回しバンバンと叩いた。いてェなァ、と原口もバンバンと肩を打ってきた。すぐムキになるところは昔と変わらない。
「や~ん、男同士でイチャイチャしてる!」
「ここに素敵な女性が3人もいるのに!」
「え~? どこに~?」
 内田が声を上げ3人の攻撃を受ける。
 中3の時に同じクラスだった彼ら─。8年経っているのにちっとも変わらないな、と神宮寺は思った。が、
(おそらく、おれが一番変わったんだろうな・・・)
 今は友人と遊ぶ23才の青年だが、明日は大型銃(オートマグ)をかまえ誰かに向けているかもしれない。何度も血に染まった手で友人に触れてはいけないのでは─。
 神宮寺は原口の肩からスッと腕を抜いた。

「浅井がいない?」
 勝手に退院の準備をしていたジョーの下に榊原が言ってきた。
「午前の回診の後に退院の手続きに事務員が病室に出向いたがいなくて。約束の時間を30分以上過ぎているのに未だ病室に戻っていない」
 これが通常の生活なら何かで遅れているのかとも思えるが病院内では考えにくい。
「何人かで捜しているが」
「どういう事だ」西崎がジョーを見た。が、それより先にジョーが飛び出した。「ジョー!」
 西崎も追って廊下に出る。
 昼食のカートが並ぶ中を走っていくジョーの後姿が見えた。



                                   完 につづく







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スクール・ララバイ 3


「女子が参加すると必ずここに来たがるな」
 貸切りのワゴンタクシーから降りた彼らの目の前に建つのは箱根ラリック美術館だ。
 アール・ヌーヴォー、アール・デコという2つの様式で活躍した装飾美術工芸家ルネ・ラリックの作品が展示されている。
 神宮寺達の通っていた中学は私立校で、文武両道で有名な学校だ。勉強はもちろん様々な情操教育も盛んで、男女共美術品や工芸品に対する関心は高い。箱根への旅行が多いのはここには美術館が多い事も理由のひとつに上がる。
「このオリエント急行のガラスパネルの装飾もラリックの作品なのよ」
 別棟に展示されている本物のオリエント急行を指し、美術部だった里穂が説明する。
「それよりこの広い芝生!」安木が口を出す。「ボールを蹴ったら気持ちいいだろうな~」
「そういえば安木君、大学大会準優勝だって?」笙子の言葉に全員がヘェ~ と声を上げた。「決勝は山口君の大学とだったんですってね」
「そうなんだ、また負けたよ。山口とは一生ライバルだな」
 安木と山口は同じサッカー部でFW だった。常に点取りを争っていた。今は2人共、企業のクラブに所属しているという。
 大学を出て好きな事が続けられる。神宮寺は羨ましいと思った。
「でも神宮寺君がテストパイロットをしているのには驚いたな」赤い大きなシェードの付いたテラスのテーブルに着いた原口が言った。「確か、弁護士になりたいって言ってたよな」
 これは少し前の高校のクラス会の時にも言われた。

 国立大学の法学部を選び首席で卒業したのだ。誰もがそのまま法曹の道へ進むと思っただろう。
 しかし神宮寺自身は高校生の時に見た国際警察の勇姿がずっと心に残っていた。
 弁護士は年令を重ねてからもできる仕事だ。しかし国際警察の現場で働くのなら若い方がいい。
 母は反対だったが父は賛成してくれた。ある事件で、この父の警護に就いてくれた国際警察─ 当時、捜査課にいた森が神宮寺の人生を変えた。

「空はいいぜ。広大で誰でもその広い腕の中に包み込んでくれる」
「だったら旅客機のパイロットになればよかったのに。格好いいし外国へも行けるし」
「その代わり大勢の人の命を預かるんだよ。おれにはそんな度胸はない」
 しかしある意味彼は人の命を預かる仕事に就いている。そう気がつきおかしくなった。が、
「どうしたんだ?」急に黙り、友人達とは違う方向を見つめている神宮寺に内田が怪訝な顔を向けた。「また、“ どこかの女の子がおれを見てる~ ” ってか?」
「・・・・・」
 おれ・・かどうかはわからないが鋭い視線は感じる。が、今回はすぐに消えた。
「あ、サイレンだわ」
「救急車?」
 女の子達が音のする方に目を向けた。
「いや・・、あれはパトカーのサイレンだ」
 神宮寺の双瞳が一瞬光った。

「今度は何をやったんだ、ジョー?」入ってくるなり榊原が言った。「無銭飲食か?それとも病室抜け出して女性をナンパしたか? はたまた脱走準備罪とか」
「・・・・・」
 階段をトレーニング場にしたのがバレたのか? ジョーが怪訝な目を向けると、
「新宿署の捜査課から君の照会があった。1008号室の浅井洋一君と会っていたそうだね」 ああ、あの目つきの悪い男は新宿署の刑事だったのか。だが─
「新宿署の奴がなんで浅井を張ってるんです?」
「私も詳しい説明は受けていない。ただ彼を保護する必要があるから刑事の出入りを許可してほしいと署長の名で事務局に申し込みがあった。浅井君は知らないようだが」
「保護ねぇ・・・」
 警察がよく使う手だ。本当に護る場合もあるが容疑が固まっていない者を見張る場合にも使われる。浅井はどっちだろう。
「奴は中学の時の同級生で、親しかったわけじゃないけど警察の世話になるような奴とは思えないが」しかしそれはもう8年も前の事だ。人が変わるには充分な年月だ。「奴はいつ退院するんです?」
「このまま順調なら明後日が退院予定だが」火傷を負った腕の包帯をひとつ外してくれた。「君も順調に回復しているね。だから新宿署の邪魔をしてはいけない」
「・・・・・」
 余計な仕事をする気はないが相手が知っている奴だけに気になるのは確かだ。森から新宿署に照会してもらえば詳細を教えてくれるだろうか。
「だめだよ、ジョー。早くここから出たいのならおとなしくしている事だ」
 ジロリと榊原が睨む。まったく元JB捜査課の医者だなんてやり難くてしょうがない。
「じゃあ夕メシはVIP 用の豪華な食事にしてください。でないとおれ1008に食いに行きますよ」
 駄々っ子のような眼のジョーに、“善処しよう” と言い、榊原は出て行った。
 もちろんジョーには自ら浅井の所に行く気などない。
 今の榊原の口調からすれば、浅井に関してトラブルなどはないようだ。ならば本当の保護・・なのだろう。ジョーの出番ではない。
 だが彼は常に頭か体を動かしていたかった。でないと余計な事を考えてしまう。
 そのひとつが榊原看護師長の言葉・・・あれはいったいなんだったんだろう。彼女に会ってもう一度話を聞きたい、と思ったが急に担当が代わってしまいあれから顔を合わせていない。
 それでも同じ病院内にいるのだから捕まえようと思えばできる。しかしなぜかそうしようとは思わなかった。彼の中のもう1人の自分が止めているようだ。それがどうしてなのか考えると頭痛が起きる。今回は榊原の言うとおり、おとなしくしていた方がいいのかもしれない。
「それにしても今頃神宮寺は酒注いでもらって鼻の下のばして女の子突っついて焼き魚で真っ黒に焦げてるンだろーな」
 いいのか悪いのかよくわからないが、それでもこんな所に1人でいるよりはマシだ、と思った。

 内田の親戚が経営している旅館は、芦ノ湖畔の元箱根の旧街道口沿いに建つ中規模の和風旅館だった。杉並木で有名な旧街道とは少し離れているのでとても静かだ。女将だという内田の伯母が出迎えてくれた。
 一同はラリック美術館の後二ヶ所程寄って4時過ぎに到着したのだ。男性は杉の間、女性は隣の桜の間に案内された。
「よ~し、夕食の前にひとっ風呂浴びようぜ!」市井がオヤジ口調で言った。「ここの露天風呂は広くて気持ちいいぜ。泳げるし隣の風呂からは女の子の声も聞こえるし」
「そんな事言ってると、また美加に怒鳴られるぞ」
 内田が苦笑している。以前に何かあったのだろうか。箱根の時はいつもこの旅館なのだろう。内田はもちろんだが市井も安木も館内をよく知っていた。
「でも風呂は賛成だな。汗かいたし」
 と、市井にならってタオルや着替えをバッグから引っ張り出した。原口も安木も同様だが、「どうした、神宮寺? 風呂に行かないのか?」
 見ると窓際に建ったまま神宮寺は動かない。
「恥ずかしいってわけじゃないよな~」
「体に自信がないとか」
「まさかー、あの体格で」
 などと勝手な事を言って笑っている。
 もちろん神宮寺は恥ずかしいわけでも体に自信がないわけでもない。だが体に残るいくつもの傷跡を彼らに見られるのも・・・。
「まっ、男同士だし・・・いいか」
「って、女の子と入れると思ってたのかよ」
「それだったら迷わないさ」
「─ ごもっとも」
 アハハ・・・と笑いながら男5人はお風呂セットを持ち部屋を出た。

 大浴場は別棟になっていた。寝湯やうたせ湯、サウナもある。露天風呂は屋根が付いていたが周りは木々に囲まれ、その間から芦ノ湖が見えた。高い垣根の向こうが女湯だ。
「市井、あまりそっちに近づかない方がいいぞ」ニヤニヤと原口が言った。「美加達が入ってるかどうかわからないけど、また覗きを見つかったら今度こそ─」
「だから覗いてないって!」市井が大声を出した。平日の早い時間のせいか入浴客は5人だけだ。「たまたま垣根の近くで滑って浴槽に落ちて─。なのにその事をおもしろおかしく話すものだから美加が誤解してひどいめに遭った」
「なるほどね」神宮寺が頷く。「でもあんなに高い垣根じゃジャンプしても無理だよ」
「忘れたのか。市井はバレーボールのアタッカーだぜ」
 そういえば中学選抜だったっけ。
「だからってあの高さじゃ日本代表だって無理だよ~!」市井がわめく。じゃあやってみろ、と安木がそそのかす。「それより神宮寺、お前何かやばい事してるのか?」
 え? と神宮寺が目を向ける。
「体中、傷だらけじゃないか。何いたずらすればそうなるんだ?」
「鉾先をこっちに向けてきたな」
 ゆったりと湯に浸かり神宮寺が言った。ジョーのような大きな傷はないが、よく見ると神宮寺の全身も細かい傷跡がいくつも見える。
「テストパイロットもけっこうハードなんだ。乱気流には巻き込まれるし整備中にあちこちぶつけて傷だらけになるし」
 かなり無理な説明だが、“ヘェ~、そうなんだ” “大変だなァ” と素直な友人達は納得してくれた。
 騙しているわけではないがそれ以上何も言いたくなくて神宮寺はシャワーブースに移った。

「“善処しよう” ねえ・・・」
 目の前の夕食にジョーがため息をついた。
 具たくさんのミネストローネにチキンサラダ、プレーンオムレツ─ ただ今回もパンは焼きたてだった。
「胃の潰瘍がまだ少し見られるの」高島とネームプレートを付けた女性看護師が気の毒そうに、可笑しそうに言った。「それでもチキンサラダは院長先生の〝善処〝 よ」
 車から飛び出し受身もなく地面に転がったジョーは全身に強い打撲を負った。そのストレスにより胃にびらんや潰瘍が発生し吐血した。すぐに抗潰瘍薬が投与されたので治りは早かったが多少の食事制限は仕方がない。
 しかし、日頃食べ物にはあまり拘らないジョーだが彼も若い男だ。ステーキとまでは言わないがそろそろボリュ-ムのある物が食べたい。
 が、トレイの上の物を睨んでいてもお腹はいっぱいにならないのでミネストローネをひと口啜った。
「それからシャワーの許可が出ましたからどうぞ。必要でしたら男性看護師が介助に就きます」
「女性の看護師さんがいいなァ」
「わがまま言ってると榊原師長に叱ってもらいますよ」
 高島はよく敬子と共にここに来ていたので、ジョーが看護師長に弱いのはよく知っている。
「師長は今どこの科にいるの?」
「小児科に回っています。看護師が2人やめてしまったので」
「ふうん・・・」
 オムレツは中はトロトロだがジョーには少し甘い。高島は、“トレイは出しておいてくださいね” と言い行ってしまった。
「ちっともVIP じゃねーじゃん」
 それでもガツガツと平らげた。と、
「私の〝善処〝 は喜んでもらえたかね?」榊原だ。ジロリとジョーが睨む。「まあ、そう睨むな。退院したら森チーフがステーキでも寿司でもご馳走してくれる」
「チーフ? なんで?」
「例の新宿署からの君の照会だ。チーフから内閣府に行って、警察庁から公安3課に回り警視庁へ行って新宿署署長に回答した」
「ご苦労な事だ。で、それでなんでチーフがおれにご馳走してくれるんですか?」
「チーフが内閣府にこの話を持って行った時、JBの研究所への乱入の事でかなり文句を言われたようだ。しかしザーツが政府の研究所に入り込んでいた点について建言すると先方は何も言えなかった、とニコニコ顔で話してくれたよ」
 森も妙に子どもっぽいところがある。駄々をこねたら日本最強の子どもだろう。
「ま、なんにしろこれであの目つきの悪い奴に睨まれる事はなくなるな」
「浅井君の事だが」言いにくそうに榊原が口を閉じた。が、ジョーが目を向けてきたので再び口を開く。「彼が事故に遭った経緯は知ってるね? あの時警察が追っていたのは指名手配中の麻薬密輸団の男で、細い横道から実にいいタイミングで浅井君のバイクが飛び出してきたらしい。おかげで男には逃げられた」
「つまり浅井はそいつらの仲間で、男を逃がすためにパトカーにぶち当たったと?」ジョーはベッドから降りソファに腰掛けた。精悍な、JBのSメンバーの貌になっていた。「仲間を助けるためとはいえそこまで無茶をするとは思えねえ。一歩間違えば自分があの世行きだ」
「だが彼の父親は貿易会社を経営していて、彼も父親の代わりによく海外まで仕事に行っているようでだ。その密輸団の本拠地がある東南アジアにもね」
「仕事で海外に行っている奴が怪しいならおれ達が一番怪しいよな」
「男が逃げてしまって手掛かりがなくなって浅井君を保護という名目で見張っていたらしい。1週間見張ってやっと目つきの悪い男と接触して、これかっと思ったら─」
「気の毒な事だな」フンとジョーが鼻を鳴らした。新宿署の連中の喜ぶ顔と落胆する顔が目に浮かび楽しくなった。「で、なんでおれにこんな事教えるんです? まさかおれに浅井に付けというんじゃ─。それともチーフ公認で首を突っ込んでもいいと」
「いや、事実がわからないと君は勝手に動き出すだろ?これで君はおとなしく入院生活を楽しめるというものだ」
「シャワーに男の介助が付くんじゃ楽しめねー!女性看護師がいい!」
「それなら師長を付けるよ」
 言ってしまってから榊原は気まずい顔になった。彼も敬子が言た事の内容を知っているのだ。
 だがジョーは問い質す事はしなかった。軽い頭痛がする。ソファの背もたれに頭を預けた。
「どうした?」
「・・急に・・・眠くなって・・・」
「ベッドに戻りなさい」
 榊原がジョーに手を添えベッドに寝かす。枕に頭を押し付けジョーが細かい息を継ぐ。パジャマの胸を開け榊原が聴診器を当てた。
「浅井の退院はあさってに変わりないんですか?」
「いや、明日になったが君には関係のない事だ」ジョーが落ち着いたので榊原がトレイを持って立ち上がった。「次の食事にステーキをつけたかったらおとなしくしている事だ」
 そう言い、ジョーが目を瞑るのを見るとそのまま病室を出て行った。



                                     4 へつづく





Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

スクール・ララバイ 2


 目が覚めて─ ジョーは一瞬自分の置かれている状態がわからなかった。
 ひとつには見慣れた室内ではなかった事、もうひとつはなぜか目覚めが悪くぼおっとしていて頭が働かなかった。
「寝すぎだぞ、ジョー」ベッドの横に榊原が立っていた。「丸1日寝ていたよ。気分はどうだ?」 
 その言葉にジョーが眉をしかめた。なぜそんなに寝てしまったのか。もっとも今はベッドにいるしかないのだ。寝てても起きていても変わらないのだが─。
 いや、それよりも─。
「・・師長さんは・・・」
「内科の回診に付いているが・・・何か用かい?」
「・・・いえ」
 そのまま再び目を瞑る。
 寝すぎというのは本当だろう。かったるくって何も考えたくない。榊原が何かを言って病室を出て行ってもジョーには聞こえてはいなかった。
 しかし、さすがにもう眠る事はできない。
 ジョーはソッと体を起こしてみた。まだあちこち痛むが今までよりはましだ。
 少し良くなるとつい動きたくなってしまうのが彼の悪いところだ。点滴が外れているのをいい事にベッドから下り、窓際に立った。
 都心には珍しく雲ひとつない爽やかな青空が広がっていた。新宿副都心のビル郡もくっきりと見える。
 と、ノックがした。
「起きていていいのか、ジョー」
「西崎」ジョーが入ってきた同僚に向き直る。「痛みが引いたから大丈夫さ」
「そうか? でもなんだか顔がぼおっとしてるぜ」
「ちょっと寝すぎた。他にする事もねえしよ」
 そう言いながらもベッドに戻って腰掛けた。
「すごい病室だな。君はいつからVIP になったんだ?」
「それよりアンディ達は捕まったのか?チーム3が動いていると聞いたが」
「逃走車両は発見されたが中身・・はまだだ。もう日本にはいないだろうな」ため息をつきソファに腰を下ろす。「担当はチーム3に移った。おれは地味にデスクワークさ」
「そうか・・・」
 ザーツの人間にここまで迫れたのは稀な話だ。だが一度取り逃がしたら二度とその手を掴む事はできないだろう。ボルツァーノを知っていたアンディ─奴とは二度と会いたくはないが・・・。
「で、神宮寺もおとなしくデスクワークか?」
「いや、彼は同窓会で箱根へ行ったよ。一泊旅行だ」
「同窓会?」ジョーの眉がピクッと動く。「温泉に入って豪華な料理食って芸者を呼んでドンチャン騒ぎするのか? 一緒に踊ってジャンケンして─」
「・・・君のそのイメージは、どこから来るんだ?」
「そんな堕落(?)した奴はおれの相棒じゃねえっ」
「いいじゃないか。旧友に会って話をして・・・、初恋の娘(こ)がいてそこから想いが再び─」
「そーいうのを〝焼き魚に火が点いて真っ黒〝って言うんだろ。結局焦げちまってダメじゃん」
 ケラケラ笑うジョーに、誰がそんな事を教えたんだろうと思ったが、
「このところ君達は出ずっぱりだったからな。内容もハードだったし、榊原さんがチーフに提言したらしい。君が入院しなかったら一緒に休暇を取れたのにな」
「・・・ンなもの、ほしくねーよ・・・」
「神宮寺には必要だぜ。色々考える事もあるだろうし」
「あいつがこの仕事をやめた方がいいと思っているのかよ」
 それは以前自分が思った事だ。
「そうじゃない。続けて行くためにも少し仕事から離れて外から自分を見る事も必要だと言っているんだ。この旅行はいい機会だと思うよ」
「芸者にお酒注いでもらってデレデレしていても?」
「何を見たんだ、いったい」
「あいつおれに“なに考えてるんだ!” って怒る事があるけど、おれだってあいつが何を考えているのかわからない時がある」
 ジョーがテーブルに飾られているカーネーションの花びらを1枚引っ張った。それをテーブルに落としていく。
「もちろん他人の考えている事なんてわかるわけないけど、これが仕事中だとけっこう面倒な事になる。犯人前にしてケンカだ」
「タフが売りの神宮寺もけっこう疲れてたみたいだからいい気分転換さ」
「芸者と歌って踊れば神宮寺もリフレッシュして帰ってくるかな」
「どうしても芸者が付いてくるんだな」
 苦笑しながらも西崎は頷いた。
「じゃあ、いいや。迫力のねえあいつなんて見たくねえもんな」プツプツと花びらが増えていく。「おれ、しばらくここに居ようかな。そうすればあいつにも仕事が入らねえだろう」
「君がそれで我慢できればね」
 ん~ と唸るジョーの貌に疲れが見えた。居たくなくてももうしばらくここに居なくてはならないだろう。
「おれ、もう一度JBに戻るから」
「今度来る時、サンドイッチを─」え? と振り返る西崎にジョーは口を閉じた。神宮寺ではなかったっけ・・・。「いや、食事制限されてるんだった」
「退院したら奢ってやるよ。杉本さんのサバの味噌煮バージョン9!」
「ゲッ! いつの間にそんなっ!」
 楽しみにしてろよ~ と西崎が出て行った。
 さっきまで自分を包んでいた重い空気が消えているのに気がついた。
 人と話すというのは良い事かもしれない。たった一泊だけど、仕事を忘れて友人と話せばきっと元気になって戻ってくる。さらに芸者と踊れば以前のようなスーパー神宮寺に─。
「見たくねえな・・・それは・・・」
 ブルル・・・と悪寒がしてジョーはベッドに潜り込んだ。

 昼を少し過ぎた頃、神宮寺達は箱根湯本駅に降り立った。
 平日だが駅前商店街はけっこうな人出で、あちこちで温泉まんじゅうを蒸す湯気が上がっている。
「ハラへったァ」体の大きな市井が言った。「いつもの店で蕎麦食おうぜ」
 年1回の同窓会旅行の大半はこの箱根だ。うまい店は承知している。
「その前に原口と合流しなきゃ。あいつを置いて行くと怖いぞ。─ おー! 原口!」
 内田が手を振る方から背の高い男が走ってきた。
「待たせてすまん。─ 久しぶりだな、神宮寺」
 差し出す手を神宮寺が無言で握り返す。長髪の、真っ直ぐな瞳を向けてくる原口は昔とちっとも変わらなかった。

 中1の時、弟を交通事故で亡くした神宮寺は車に対する怒りと恐れから通学のバスにも乗れなくなってしまった。しかし遠足でバスに乗らなければならなくなり─この時、“うちのクラスは歩いて行こう” と提案したのが原口だ。
 実際、歩きで行ける距離ではなかったが、クラスの皆は賛成してくれた。
 それからまもなく神宮寺はバスや車に乗れるようになった。

「変わらないなァ。いや、昔よりいい男になったか?」
「口のうまいところなんてお前も変わらないな。いや、少しはいい男になったかも」
「男2人で慰めあってないでさ~、メシ食いに行こうぜ~」
 再び市井が声を上げた。
「まったくムードないんだから」里穂が市井を睨む。「だからさゆりに振られたのよ~」
「中学の頃の話するなよ~
「だって中学の同窓会じゃない」
「振られた話は無しだぜー」
「そーいえば3年間でナンバー1だったな。市井が振られた回数」
「ナンバー2の内田に言われたくないよ」
 と、賑やかに商店街を進んでいく。
 ふと神宮寺が足を止めた。振り返り、何かを捜すように頭をゆっくりと動かす。
「どうしたの?」
「いや・・・。誰かに見られてるような気がして・・・」
「あー、そうだろうさ。神宮寺はいつも女共の注目の的だ」
 ってなによ~、と女子から攻撃を受ける市井を尻目に神宮寺は再び後ろを向いた。人通りは多い商店街の─ しかしその中に知っている顔はいなかった。いや、向こう・・・が神宮寺を知っている事も─。
「行こう、神宮寺君」
 腕を取られ引っ張られた。
「あー、ドサクサに紛れて。ずるいわ、笙子」
 女子達の声に神宮寺は仕方なく前を向いた。だが視線は消えてはいない。悪意も感じられた。
(まさか・・・こんな所まで・・・)
 万一の場合彼らを巻き添えにしてしまうかもしれない。今すぐ彼らから離れた方がいいのでは・・・。
 しかし神宮寺は彼らと別れる事はできなかった。

 昼食にやっと薄く切ったハムやスクランブルエッグが出た。かぼちゃのポタージュは苦手だが空腹だったのでとりあえず流し込んだ。パンは焼きたてでうまい。
 VIP の豪華な食事、とはいかないが食器は全部カラにした。
「こうなったら次は退院だな」
 と、勝手に決め廊下のカートにトレイを返すついでにフラッと病室を出た。
 動いてみると痛みもほとんどなくスムーズだ。やっぱおれは動いていないとダメなんだな、と思う。
「神宮寺には悪いが、やっぱ早く退院したいし」
 ジョーは入院中の体力回復によく階段の昇り降りをする。見つかると怒られるが、病院で階段を使い人はあまりいないので大概はフリーパスだ。
 今もそうしようと思ったのだが─ ふと屋上庭園の入り口が目に入った。
 この病棟はジョーがいつも入る312号室のある病棟とは離れているのでこの庭園にも来た事はない─ はずなのだが・・・。
  ジョーは不思議な感覚を覚えた。
 庭園はツツジなど低木が植えられ、その間に小道が巡らされている。以前入院した神奈川の大学病院の庭園と似たような造りだ。
 しかしその時は何も感じなかった。なのに今、目の前にあるこの場所に、そしてそこから見える周りの風景に─確かに見覚えがある。
 ジョーはゆっくりと小道を歩いてみた。一先一番端まで行き、金網越しに眼下を見た。が、そこから見た風景には見覚えがなかった。だがこの感覚には確かに覚えが─。
 ちょっと身を屈めてみた。30センチ程屈めると見覚えのある風景になった。小学生の頃の身長だが・・・。
「アサクラ、か?」ふいに呼ばれジョーは驚いて体を伸ばした。振り向くとそこには同年代の男がいた。「ジョージだろ? おれだよ、中学で一緒だった─」
「・・・アサイ?」
「やっぱりジョージか! そうだよ、アサイ・アサクラの浅井さ」
 10センチ以上小柄のこの男はジョーの中学の同級生だ。出席番号でひとつ前だった浅井は、隣に座る頭ひとつ分大きなジョーに臆する事なく、“よろしく” と笑いかけた男だ。
 戦国武将の〝浅井・朝倉〝 を捩って2人まとめてよくそう呼ばれていた。
「髪と目の色が昔と違うから最初はわからなかったよ。でもこうやって正面から見るとやっぱりアサクラだな」
「こんな所で何をしてるんだ?」
「バイクで事故って腕を骨折したんだ。もう大丈夫だけど」病院なんだから入院しているのに決まってるだろーと、浅井が笑う。「君はどうしたんだ?」
「─車で事故って─」
 浅井がベンチに腰掛けたのでジョーも隣に座った。
 街中なら通り過ぎてしまったかもしれないがここではそうもいかない。それに神宮寺が中学の同窓会に行った、と聞いた後で自分も同級生だった奴に会うなんて・・・。
 普段なら避けて通るようなこの状態を、ジョーはあっさりと受け入れていた。
「君も事故か」ジョーのパジャマの胸元から覗く白い包帯に目を向け浅井が言った。「おれの事故はひどいぜ。警察が逃走車両を追っていて巻き込まれたんだ。おかげで左腕骨折の全身打撲で一週間入院した」
 ドジな警察だ、とジョーは思った。
「新宿中央公園の北側の交差点でさ。対向車がいなかったのが不幸中の幸いだって言われた」
 と、言う事は担当は新宿署か?
「君はどこで?」
「・・・・・」
 なんと答えればいいのか、ジョーが迷っていると、
「相変わらず自分の事はあまり話さないなァ」浅井が笑って受けてくれた。「それにしても中学の頃は金髪だったのにすい分くすんだくすんだ・・・・色になったな。枯葉みたいだ」
「ああ、高校に入る頃には─」
 そうだ、おれは中学の頃まではブロンドだった。ではあれは・・・目の前に流れる金色の髪は・・・おれ?
「どうした?」突然黙り込んでしまったジョーを浅井が覗き込む。「気分が悪いのか?」
「・・・いや」
 息をついて浅井に目を向けた。瞳の色も違うと浅井は言っていたが、今の方が深く不思議な色合いだ。
 中学入学時で170センチを軽く超えていた長身のこの男は、さらに金髪と青い瞳を持ち校内でもかなり目立ってた。
 勉強もスポーツもそこそこ出来て女の子の人気も高かったが、そういう事には一切興味を示さなかった。
 今はその頃のように外見では目立たないが独特の雰囲気と存在感で人々の目を引き寄せる。
「悪い。・・・おれもう戻る」
「うん、もうすぐ午後の回診だしな。1人で大丈夫か?」ああ、と返事をするジョーと共に園から病棟へと移り、「おれの部屋はこの五つ向こうだ。ひまだったら来てくれよ」
 と、手を振りながらジョーとは反対の方へと歩き出した。そういえば浅井はどこかの会社の社長の息子だった。だからこのフロアにいるのか、と踵を返し、ふと振り返る。
 2人の後から庭園を出てきた男がジョーを見ていた。がっちりとした目つきの悪い男だったが、
(同業者、か)
 直感でそう思った。



                                3 へつづく