コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

いらっしゃいませ


 淳のお話ブログへようこそ


   「なんでも書いていいノート」を友人達でまわして好き勝手な事を書き・・そこから生まれたお話が、この「コールナンバーダブル J」です。

  ならば、登場人物も私や友人達のお気に入りアニメキャラにしよう。国際秘密警察なんて本当はいないから(当時、そう思っていました)自由に書けていいよね、と安易な設定で書き始めたお話が、昭和を生き抜き、中断があったものの平成の世で再び甦るとは思っていませんでした。

  サブタイトルは「昭和(S51~S57)」「平成(H18~ )」にわかれます。
  何も考えずに書きなぐった昭和。少しは考えて・・でも書きなぐっている平成。
  しかし元々自分が楽しむために書いたものなので、他人様には読みにくい所が多々あります。でも文章がよほどおかしくない限り、当時のままを載せようと思います。

  では、下記の一覧よりお入りください。


  コールナンバーダブル J  サブタイトル一覧へ

  ※  S51~S57   ⇒    一覧へ
  ※  H18~         ⇒    一覧へ
  ※  登場人物紹介

  ※  淳のたからもの      ⇒    一覧へ   

 

   お話は1話完結ですが、シリーズ物なので最初から(上記一覧の上から順番に)読んでいただければ、詳細もわかってよいのですが、「細かい事は面倒くさい!でも、ちょっと読んでみてもいいかも」という方はこちらへどうぞ─

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闇に輝く光の下(もと)に 6


「関!」
 目の前に赤い血が飛び散った。腕を押さえ、関の手が男から離れた。ジョーと関の間をすり抜け逃げようとする。
 だがジョーは男には見向きもせず関に取り付いた。

 神宮寺とジョーが追い詰め捕らえようとした矢先、出張(でば)って来た公安に男は確保された。
 謎の多いザーツのメンバー、それも下っ端ではない。かなりの情報が取れる。そして奴らがMOX エンジンシステムの行方も。
 だがジョーにはその男に確かめたい事があった。関に男の引渡しを求めたが拒否された。 男はその一瞬を突いたのだ。

「関さん!」
「主任!」
 神宮寺が関の体を支えた。木村と山本は逃げようとする男に組みつき地面にうつ伏せに倒した。パンパンとボディチェックをする。
「関! 関!」
 ジョーは関の体を掴んだまま叫び続けていた。
「大丈夫・・・腕を掠っただけだ」
 関が腕を少し上げて見せた。
 出血はあるが深い傷ではなさそうだ。だがすぐにジョーの異変に気がついた。必死の眼を、彼は関に向けていた。しかしその眼に映るのは自分(関)ではない。
 ジョーは関を掴んだままその名を呼び続けている。
「大丈夫だから・・・。神宮寺君、ジョーを─。落ち着かせるんだ」
「ジョー」
 神宮寺がジョーを関から引き離した。

「勝手に出て行ったと思ったら、こんな事になって─」
 榊原がため息をつき神宮寺を睨んだ。彼のせいではないのはもちろんわかっているが、パテーションの向こうのベッドに寝ているジョーはまだ薬が効いていて睨まれてもわからないだろう。
 右腕の傷を再び縫合し、それは部分麻酔で済んだが極度の興奮状態に陥っていたジョーを休ませる必要があった。
 だが薬を投与しても状態は変わらず、縫合処置が行われる5分程前にやっと眠りに付いたのだ。
「目の前で関さんが撃たれてショックだったのはわかるが、今までにも何度も体験しているだろうに。今回だけなぜ・・・」
 と、再び神宮寺に目を向けた。
「・・・・・」
 その目を困ったように神宮寺が外した。
 あの時ジョーは男の引渡しを関に求めていた。公安に正式な辞令が下りたとはいえジョーは納得せず、あのまま言い合いが続けば力ずくで男を引き戻していたかもしれない。
 それを断ち切ったのは一発の銃声だった。
 男が隠し持っていた小型の銃で腕を撃たれた関を前にジョーの脳裏から男が消えた。関の体を掴み、うわ言のように彼の名を呼び続けた。
 神宮寺が関からジョーを引き離した後も関に目を向けたままガクガクと震え続けていた。軽いショック状態だった─。
(だけどあの時、ジョーが見ていたのは関さんではない。別の何かを・・・)
「こうなった理由を知っていそうだね」榊原に言われ、しかし神宮寺は視線を外したまま黙っていた。「知っていたら教えてくれないか。医者として彼を診るのに必要な事だ」
「ドクタ・・・」
 自分の知っている事がその原因かどうかはわからない。だが榊原に言われて黙っているわけにもいかない。
 神宮寺はパテーションに目を向け、しかしすぐに榊原に戻した。「実は─」
 神宮寺は声を落とし、ザーツにイタリアのマフィアが出入りしているという噂がある事、さらに公安との争いの原因になった男がジョーを見て〝ボルツァーノ〝 と言った事を話した。が、ふと違和感に襲われた。
 ザーツにイタリアのマフィアが出入りしていると言ったのは木梨だ。彼がザーツのメンバーだとしたら、なぜわざわざそんな事を言ったのだろう。
「ボルツァーノというとグランディーテの・・・。そういう事か・・・」榊原がため息をついた。「その事がジョーの心の重荷になっていたのだろう。ザーツを解明していくうちにもしも・・・という─。関さんが撃たれた時、彼が見たのは関さんではなくアサクラさんだ」
「親父さんを?」
 驚く神宮寺に榊原が頷いた。
「心に負荷を抱えたまま親しい人が撃たれて・・・混乱したのだろう。これが進むと以前のようなフラッシュバックの再発に繋がる。今度はもっと重症になる」
 アサクラの知人で元JB 員だったクロードがきっかけでジョーは幼少時の〝抑圧された記憶〝 をフラッシュバックという形で思い出した。
 大人になってから現れるフラッシュバックは年月が経っているにも拘わらず、原記憶より鮮明さを増す傾向が強いと言われている。今度ジョーに現れるとしたら間違いなく以前よりもはっきりした強力な〝記憶の復活〝 になるだろう。今のジョーには耐えられない。
「おれ、もう相棒を失うのは・・・いやです」
「わかっているよ。私もその事態は回避したいと思っている」
 榊原が強く頷いた。
「それから、ドクタ。この事はチーフに報告していません。・・するべきですが・・・」
「わかった。ジョーの治療に関して必要だと判断したら私から話そう」
 おそらく時を置かずしてチーフの耳に入るだろう。報告を怠ったと叱咤されても仕方がない。

 やがて榊原は病室から出て行った。
 電気も点いていない薄暗い中に神宮寺は立ち竦んでいた。
 幼少時のジョーの記憶が所々切れているのは知っている。あの夜の事はクロードの事件の時に繋がった。しかしその夜から鷲尾に引き取られるまでの記憶がはっきりしないのも聞いている。
 だがもう12年も前の事だ。神宮寺だって11才だった頃のことを全て覚えているわけではない。しかし今の生活に支障はない。
 おそらくジョーも同じだろう。
 だが困るのは、何かの拍子に彼自身覚えていない過去の記憶が映像となって浮かび上がって来る事だ。それがなんなのか・・・ジョーに確かめる術はない。
 ふと弟の智(さとし)の事を思い出した。
 彼は10年前に神宮寺の目の前で交通事故により死亡した。その時の事もその後の事も鮮明に覚えている。辛いが、自分が確かに経験した事だ、と認識できる。 
 だがジョーは自分の記憶・・さえ信用できない。辛い事を忘れたいために都合よく勝手に作り上げられているのかもしれないのだ。
 ジョーは自分の不確かな記憶の部分を繋げたいと思っているが、なぜか未だにその部分を知っている鷲尾や榊原の元を尋ねてはいない。
「──」
 と、誰かに呼ばれたような気がして神宮寺が我れに返った。パテーションを回るとベッドの上のジョーと目が合った。
「お前─ もう目が覚めて─」
 だがまだ薬が効いているのだろう。向けてくる双眼はぼおっとしていて焦点が合っていない。
「・・ここは・・・」
 それでもそこにいるのが相棒だとわかるのだろう。ともすれば再び眠りの世界に引き摺り込まれるのを押しやるように言葉を繋げる。
「・・どうして・・」
「・・・覚えていないのか?」
 神宮寺がジョーの瞳を覗き込んだ。
 灰色がかった青い瞳が怪訝そうに相棒を見つめ─ が、眩しそうに閉じられた。どう対処してよいのかわからず神宮寺が榊原を呼ぼうとした時、ジョーの体がバッと跳ねた。
「ジョー」
「・・・パパ・・違う・・・関・・・関をあの男が・・・関が・・・」
「関さんは大丈夫だ。掠っただけでもう手当ても済んで警察庁に戻ったよ」
「あの男は・・・」
「・・・公安が連行した」
 ジョーをベッドに戻し神宮寺が静かに言った。
「・・・そうか」頭を枕に押し付けジョーが目を閉じた。「よりによって公安かよ・・・」
 動く左手で顔を覆う。
 あの男が公安で何を話すのか・・・。それはよいがその前に真実を知りたかった。他人から聞かされるのはいやだ。本人から直に聞きたい。
「飲むか?」
 神宮寺がレモン入りのペリエを差し出した。上半身を起こしジョーが受け取る。だがちょっと口をつけただけでそれ以上飲めなかった。
「もう少し休んでいろ。勝手に出た事で榊原さんが怒ってる。ほとぼり・・・・を冷ました方がいい」
「やばいな・・・」
 思わず唸り、今気がついたように右腕を押さえた。麻酔が切れたようだ。神宮寺がベッドの背を少し起こしてくれた。それに寄りかかりホォと息をつく。そのまま眠ってしまいそうで・・・だが頭を振ってなんとか意識を保とうとする。
「寝ててもいいぜ。どうせ榊原さんが当分の間、出してくれないだろうから」
 神宮寺がベッドの背を水平に戻そうとした。と、その手をジョーが止める。
「関が撃たれた時・・・なぜか親父の姿が浮かんできて関と重なったんだ」まだぼぉっとした面持ちのままジョーが言った。「以前、鷲尾さんが関が親父とよく似ていると言っていた。もちろんおれはそうは思わなかったけど・・・。あの時はなぜか関が親父に見えて・・・そしておれは、また何もできなかった」
 両手で顔を覆うジョーを見て、やはり榊原の言ったとおりだと神宮寺は思った。
 両親が目の前で撃たれた時、ジョーは何もできずただ見ているだけだった。今回は男を巡って自分と争ったのが原因で関が撃たれた。そして男は公安に奪われた。
「研究所は公安の範囲だがMOX エンジンシステムやザーツはおれ達の担当だ。公安の取調べが終わったらあの男を尋問できる」
 そう言いながら、しかしジョーをこのままこの事件の担当にしていていいのかと思った。彼が抜けるのなら当然自分も抜ける事になるが、これ以上ジョーを追い詰めてはいけないと思った。
 ジョーの事だ。今は気弱な貌を見せているがすぐにまた立ち上がろうとするだろう。不安や焦りをどこかへ押し込め不敵に輝く瞳とふてぶてしい笑みを顔面に貼り付けて─ 自分で自分を追い詰めて行くように。
 そんなジョーを見るのはいやだが、
「おれはJBに戻る。様子は逐一知らせるからもう少しおとなしていろ。また脱走でもしたら榊原さんが怖い」
 神宮寺もう1本ペリエを取り出しテーブルに置くと病室を出て行った。
 ジョーはしばらくの間そのグリーンのボトルを見つめていた。

 JB に戻った神宮寺には待機命令が出ていた。仕方なくパソコンを立ち上げ、研究所内を調べた公安がJB に上げてくれた調査書を読み始めた。
 この時になって神宮寺はあの隠し部屋の事を関達に話していなかった事を思い出した。が、調査書にはしっかりと載っていた。
 あの部屋は一部の研究員が使用していたらしく、その中には例の─ 黙秘を続けているので関達は〝アド〝 と呼んでいるが─ も入っていた。
(アド? ADO・・・EKODA・・・ADOKE・・・なるほど)
 苦笑しながらこのアドは研究所の所員でもあったのかと思う。やはりあの研究所はザーツのメンバーが入り込んでいたのだ。
 しかし今のところはこのアドとジョーがのした・・・という男以外は本当の政府の研究員と確認されている。その中に木梨はいなかった。
(あの男、関さん相手にいつまで黙秘を続けるだろう)
 悪名高いザーツのメンバーだ。ちょっとやそっとでは口を割らないだろう。自分はそれを望んでいる?
(まさか・・・)
 これ以外の報告はまだ上がってきてはいない。
 研究所の担当を外されたJB に公安が情報を提供する必要はない。あくまでも関の一存で行われているのだろう。ヘタに手を出して彼に迷惑を掛ける事はできない。
 しかしあの男を尋問する権利はJB にもある。
 神宮寺はJB による男の尋問を森から公安に申請してもらおうかと思い─ ふと、手を止めた。
〝ボルツァーノ〝 の事はもう森の耳に入っているだろう。彼はどのような判断を下すだろう。 一旦、森にゲタを預けた方がよさそうだ。と、外線が入った。
「神宮寺です」
『JB は警察庁からの電話もあちこち回してセキュリティを確かめるのか?』
 関だ。
 JB への外線は通信課や管理課のコンピュータを経由する。どこかでいじめられたのか?
「当然です。以前ひどいめに遭いましたし」
 シレッと言う神宮寺に関は一瞬黙ったが、
『森さんから例の男の尋問要請が出ている。窓口は君に─ という事だ』
 さすがに森は決断も行動も早い。自分(神宮寺)を窓口にしたという事はジョーも続投するという事だ。〝ボルツァーノ〝 は枷にはならなかった。
『と、言っても未だダンマリでね。そっちに渡せるのはいつになるか見当もつかん。もう1人は下っ端であまり内部の事は詳しくなさそうだ』
「公安はやさしいですからね。お手伝いしますか?」
『やめておくよ。日本の警察は無謀で乱暴だと思われかねない』ヒヒヒ・・・と笑い、関が言う。『用意が整い次第連絡するよ。ところでその無謀な奴はどうした?』
「ジョーなら病院でドクタに怒られるのをおとなしく待っています」
『まさか』と、また笑った。が、『ジョーの訊きたい事というのはなんだ? 事件の事ではないような気がするが』
 さすがに鋭い、と神宮寺は思ったが黙っていた。と、関も何かを感じたらしい。
『ま、早くそっちに渡せるように努力するがね。うちらやさしいからな~』
「報告書・・・ありがとうございます。今、読みました」
『君とジョーだけで見てくれ。この件が終わったら破棄してくれよ』
 そう言い電話が切れた。
 色々と便宜を図ってくれる関に何も言えないのは辛いが、事実がはっきりするまでは仕方がない。
 もし伝えるとしたら、それはジョーが直接言う事だろう。



                                    7へつづく







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闇に輝く光の下(もと)に 5


 研究所の前にチーム1の車両が着いた時、門の前に立花が貼り付いていた。ここを開けるようにと彼にしてはかなり強い口調で言っていた。が、
『捜査員は2名と聞いています』スピーカーから聞き覚えのある声が響いた。『それ以上、所内に入れる事は私の権限では─ 』
「どけ」ジョーが立花を押し退けた。「ジョーです。スカイラインの走行テストをした─ 」
“ああ” と植田の声が和んだ。
「捜査に入った2人からの連絡が途絶えてます。何かあったのかもしれない。門を開けてください」
『それも聞いています。今、所員が所内を捜していますが見当たりません。もう出られたのではないですか?』
 植田の言葉に立花が首を振った。
「この建物は始めから政府の研究機関の研究所として建てられたのですか?」
『いえ、倒産した企業の所有物で公売に出されていたものです。2年前に購入されました』
 では彼らが知らない隠し部屋や通路があっても不思議ではない。極秘の研究や実験を行うためにそのようなスペースを作る、と聞いた事があるが─。
 しかしザーツの一味がこの研究所に逃げ込んだ今、植田でさえ信用できない。
「とにかく開けてください。でないと強行手段をとります」
『そんな事をしたら─ 』ふいに声が途絶えた。インターフォンから少し離れたらしく、『なんだって─ 』 『どこで─ 』 『早く─ 』とあわてている様子がかすかに聞こえてくる。
「ジョー」
 立花が指をさした。2階の窓から黒い煙が吹き出している。
「仕方ねえや」
 ジョーは大きな鉄門の下に爆薬玉を2つ置いた。ウッズマンで撃ち抜く。バン! と鉄門が弾かれた。
 こうしている間にも建物のあちこちから煙が吹き出し始めた。
 ジョーを先頭にチーム1のメンバーが所内に入る。炎は見えないがキナ臭さが漂う。と植田と3、4人の男達が奥から走り出て来た。
「いくら国際警察とはいえ無茶です。上部に苦情が行きますよ」
「かわまねえさ。それよりおれ達の仲間に何かあったら─ 」
 ジョーが口を閉じ植田達を睨んだ。
 政府の人間とはいえ植田達は学者だ。ジョーの圧倒的な威圧感に太刀打ちできるわけはない。
 案の定、彼らは黙り込んでしまった。
「行くぞ」
 チーム1はペアになり所内に散らばる。ジョーは1人で1階の奥へと向かった。
 神宮寺のリンクのトレーサーがオンになっていないのか、スピードマスターに反応はない。それとも電波の届かない所にいるのか。
「立花、そっちの通信機で西崎に連絡が取れるか」
『さっきからやってるがだめだ。おそらく電波が遮断された空間にいるんだろう』研究所内では通じるので遮断されているのは隔離された空間なのだろう。『今、所員に該当する部屋か場所があるかどうか聞いている。それから原因は不明だが、所内のあちこちから火の手が上がっているそうだ。まだ大きくはなっていないが』
「ラジャ」
 所員の確保や消火は立花達に任せ、ジョーは神宮寺と西崎の行方を追った。
 片っ端からドアを開け─ が、2人の姿はない。少しづつだが空気に煙が混ざり始めた。ジョーの胸がかすかな痛みを感じた。
 と、前方のドアが開き白衣を着た男が1人出て来た。手に消火器のような物を持っていたので火を消しに来たのかと思ったが、
「─ お前はっ」
 男の顔を見てジョーが声を上げる。木梨が乗り込んだ車の助手席からジョーに銃を向けた男だ。相手もジョーに気がつき、手に持っている物を向けて来た。バーと炎が飛び出す。小型のバーナーか。
 ジョーは壁に背中を付け炎を避けた。さらに向かってくる男の手を蹴り上げ、バーナーを飛ばす。ガッと男の胸倉を掴んだ。
「2人はどこだ!言え!」
 ジョーはこの男が神宮寺達の居場所を知っていると直感した。と、男は自分を掴んでいるジョーの腕を反対に掴み返した。
「うっ」
 右腕の、縫合を終えたばかりの所だ。しかしジョーは男を離さなかった。男の力が強くなっていく。袖にポツポツと赤いシミが浮かんできた。
「であっ!」ジョーは足を掛け、男を床に叩きつけた。男がぐったりとのびる。「くそォ、新品のシャツなんだぜ」
 だがこの男は口を割らないだろう。掴み合っていても時間の無駄だ。ジョーは男が出て来た部屋へと入った。
 壁沿いに大型コンピュータが並ぶ。他の部屋と変わらない室内に─ しかしジョーは違和感を感じていた。動かす必要のない大型コンピュータの1台が壁から少しずれていた。後ろを覗くと壁にスイッチのような物があった。押すとコンピュータと壁が動いて─

「神宮寺!」
「ジョー」神宮寺が振り向いた。「早かったな」
「こんな所でなに遊んでンだよ。おかげでおれはチーフから大目玉を食らいそうだぜ」
「そんなのいつもの事だろ。それより、ジョー。このコンピュータ、持って帰れないかな」
「おれはミミズクのリュウじゃねぇって!」
 リュウでもムリだ。
「仕方がない。焼け残る事を祈ろう」この部屋にまで煙が流れ込んできた。ふとジョーの右腕に目を向けた。「まだ治療していなかったのか?」
「したさ。あ、榊原さんにも大目玉を─ 
「とにかく出るぞ」
 頭を抱えるジョーを尻目に神宮寺と西崎がその部屋から出た。
「くそォ、神宮寺とチーム1の奴らも説教に付き合わせてやる。─ 立花! 神宮寺と西崎は救出した。そっちはどうだ?」
『所員は確保したが何人かいないらしい。彼らを外へ誘導している。それと煙を見て誰かが通報したらしく消防がこちらに向かっている。樋口が交渉役で出た』
「心配掛けてすまなかった」神宮寺が割り込んできた。「おれ達は、そのいなくなった・・・・・・所員とやらを捜す。皆は確保した所員をガードしてくれ。公安が出てくるかもしれない」
「公安? 関か? なんで?」
「お前達、強引に入ったんだろ?おまけにザーツのメンバーがまだここ・・に潜入しているとなると、政府が公安に国際警察との折り合いやこの事態の収拾を依頼する事も考えられる」
「チェッ!じゃあ最初っから公安がやれよ!」
「クサるな。で、立花、確保した所員の中には木梨やジョーが言った特徴の男はいないんだな?」両方ともいないそうだ。「いなくなったのはそいつらか」
「そいつらの1人はさっきおれが─ あ?」廊下に目をやったジョーだが、のびているはずの男はいなかった。「くそォ、ちょっと手加減し過ぎちまったか」
「おれはチームに戻る」西崎が言った。「関さんとの交渉役は君の方がいいんだけどな、ジョー」
「やだ。行こうぜ、神宮寺」
 踵を返し、ちょっと足首を気にしたがすぐに奥へと向かう。
「関さんがツベコベ言ったら〝ジョーの眼〝 をして睨んでやればいいさ」
「元に戻らなくなったらどうするんだ」
〝西崎の眼〝 で神宮寺を睨んだ。

 立花達の消火活動が功を成したのかキナ臭さは残るものの火の手は見えない。消防もサイレンは聞こえたが研究所の中に入っては来なかった。
 正門には黒田と兵道が待機しているので誰かが出たらわかるがそんな報告もない。
 もっとも神宮寺とチーム1が到着する前に車だけ置いて逃走した可能性はある。だが少なくとも1人は─ ジョーが伸した男はいるはずだ。
 彼らは目につくドアを次から次へと開けて行き室内を捜索した。研究室や実験室が多いので建物の規模の割には部屋数は少ない。
「いないな」神宮寺が小さく息をつく。「時間が掛かり過ぎる。西崎達に応援を頼もうか」
 ふとジョーを見るが─ 彼は部屋の隅の小さな机の引き出しを開けていた。そのそばの壁やデスクに貼ってあるメモに書かれているのはイタリア語だった。イタリア人の所員なのだろうか。
 神宮寺の言葉も耳に入らず、何かを捜すように次々と引き出しを開けて行くジョーを言葉もなく神宮寺が見つめている。
 しかし、やがてそのジョーの手が止まる。自分のしている事に気がついた。
「─ 行くぞ」
 神宮寺が声をかけジョーが振り向く。が、そのまま黙って相棒の後から廊下に出た。と、突き辺りでチラッと何かが動いた。
「いたぜ、あのヤロウ」
 ジョーが走り出す。左足がちょっと辛そうだ。が、奴を捕らえたいと思う気持ちの方が強い。しかし─ 。
「お、お前は、あの時の─ 」
 ジョーの足が止まった。追い付いた神宮寺もあっ、と声を上げた。
 目の前のいるのは鋸山で2人の手から逃れた男だった。
「今回の侵入者も君達か」男が苦笑した。「これが本職か?」
「うるせえ! 今度は逃がさないぜ」
 ジョーがウッズマンを男に向けた。とっさに男が両手を上げ、そしてニヤリと口元を歪めるとそのまま後ろのドアに体当たりした。
「ジョー!」
 神宮寺が叫び2人が身を伏せた。ドンッ! と破裂音がし2人のすぐ横のドアが頭上を跳び反対側の壁に当たった。
「コンピュータが─ 」音がした室内はメチャクチャになり、コンピュータが黒い煙を上げていた。「証拠隠滅か─ 」
「くそォ!」
 ジョーは男が飛び込んだ部屋に走り込んだ。とたんに弾丸が飛んでくる。
「右へまわれ。おれは左から行く」神宮寺の指示にジョーが頷く。そして、「無理はするな。ここは3階だからな」
 足首はまだ完治していない。右腕の赤いシミもさっきより大きくなっている。しかしジョーはフンと鼻を鳴らし、右側のデスクの陰に走った。
「ま、素直に聞くとは思ってないが」
 ちょっと口元を緩め、しかしすぐに男に目を向けた。
 ジョーは是が非でもあの男を手に入れたいだろう。自分を見て、〝ボルツァーノ〝と言った・・・あの男を─。
 だが、男の証言がまたジョーを苦しめるとしたらいっその事捕まらない方が・・・。
「神宮寺!」ジョーが呼び、自分(神宮寺)の前を弾が飛んで行ったのに気がついた。「なにぼやっとしてる! 一気に行くぜ!」
 ジョーが部屋の中央に飛び出した。両手でウッズマンをかまえ大型コンピュータの陰にいる男に向けた。
「出て来い! こっちは口が無事なら手足の1本や2本撃ち飛ばしてもかまわないんだぜ!」
 ジョーが一歩一歩男に近づく。神宮寺は援護に入っている。と、突然男が横の窓に体当たりした。
「あっ!」
 2人が走り寄る。下の植え込みに男が転がっていた。
「また飛び降りろってか!」
「無茶だ。外階段を行こう」
 廊下の突き当たりが非常口になっていた。オートマグで鍵を吹き飛ばした。が、結局、中2階まで駆け下り後は手すりを乗り越え飛び降りた。男が降りた植え込みへと建物を回り込む。と、
「関さん」
「やあ」片手を上げ、関が2人を迎えた。その足元では木村や山本があの男を地面に押さえつけている。「君達が追っているという事は、こいつは大物だね」
「前にザーツのアジトで見かけました。MOX 燃料システムの研究に関わっているものと─ 」
「そいつを離せ!」ジョーが詰め寄る。「おれ達の獲物だ!」
「そうしてやりたいが」関がチラリと男を見た。「この研究所に関しての事は全て公安が担当する事になった。正式な命令が出た」
「やはり・・・」
 神宮寺が呟く。
 しかしジョーは納得しない。力づくで男を木村達の手から取り返そうとする。普段は親しい2人もこの暴挙には黙っているわけにはいかない。
 だが彼らはジョーの敵ではない。あっという間に地面に転がされてしまった。
「やめろ、ジョー」
 神宮寺が止めるが、その手も振り払う。
「手を引いてくれ、ジョー。これ以上邪魔をすると─ 」
「この男に訊きたい事があるんだ。それが済んだら渡してやる」
「こっちも訊きたい事は山ほどある。森チーフを通してこっちに文書で質問を出せば回答する事もできるが」
「・・・それじゃあ・・だめなんだ・・・」ジョーが唇を噛みしめる。訊きたい事の内容などとても森には話せない。まして公安官である関には・・・。「頼む、関。1時間でいいから」
「すまん、ジョー。いくら君の頼みでもこの件は」
 関はジョーが押さえている男の腕を掴み立たせた。飛び降りた時にどこか痛めたのか男が顔をしかめる。と、目の前のジョーに気がついた。その瞳を覗き込み自らの目を見開く。ジョーが関の手から男を引きの戻そうとした。
「やめろ、ジョー。これ以上手を出すと公務執行妨害で逮捕するぞ」
「おれ達の邪魔をしているのはそっちだろ!逮捕するならしろっ。おれはかまわないぜ」
「君がよくても森さんが困るよ。かなり強引に研究所への捜査を押したらしいからね。君がここで不祥事を起こせば・・・」
「・・・・・」
 ジョーは唇を噛み関を睨みつけた。その顔をちょっと不可解そうに見て、関が彼の手から男を自分の方へ引き戻した。が、自分を追い縋るジョーの瞳に再び目を向け・・・一瞬のスキができた。
 男が上着の内側に手を入れた。何かを取り出し関に向けた。
 バン! と乾いた音が響き、うわっ!と声が上がる。
「関!」
 ジョーの目の前を真っ赤な血が飛んだ。



                              6へつづく



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闇に輝く光の下(もと)に 4


 公安はホテルの5階の一角を7人の科学者の部屋に当て、そこへの廊下を2人のSP が守っているはずだったが・・・そこには誰もいなかった。
 が、昼食時なので2階の小会議室だろう、と関が先に立って案内してくれた。警護の関係で一般のレストランは使わず、7人一緒に小会議室で昼食を摂っているのだ。
 4人は階段を使って2階に向かう。
「こーいう時って普通ルームサービスを使うんじゃねえの?」
「朝と夜はな。だが1日中1人で部屋に籠っているのは苦痛だと言われてね。ま、彼らは容疑者じゃないからあまり強制もできないし─。足、怪我ってるのか?」
 一瞬、ジョーは関を睨んだがすぐにそっぽを向いた。だが階段を降りる足取りでわかる。しかし関はそれ以上は聞かなかった。
 と、廊下の突き当たりに男が2人立っていた。
「関です。五木さん、畑山君」
 周りに誰もいないのを確かめ関が声をかけた。まず関1人だけで2人と話す。チラッと神宮寺達の方を見て五木が携帯を取り出した。本部に確認するのだろう。
「チッ」ジョーが舌を打つ。「関の奴、手古摺りやがって」
「ジョー」
「おちつけって言うんだろ。わかってるよっ」
「行こう」
「え? お、おい」
 ジョーはあわてて神宮寺の後を追った。SP の2人が目を向けてくる。
「神宮寺君?」
 関が振り向いた時、ドアの向こうからガシャーンという音が響いた。関を押し退けた神宮寺がドアを開けた。男達がテーブルや床に俯しているのが見えた。その足元には食器が散らばっていた。
「どうしたんだっ」
 関に続きSP が、そしてジョーが入った。
「救急車を!早く!」
 神宮寺が叫び、木村が携帯を取り出す。
「木梨がいないぜっ!」
 ジョーが叫び、揺れているカーテンが目に入った。窓が開いている。下を見ると見覚えのある若い男が1人走って行った。
「木梨が逃げる!」
 ジョーがベランダから身を躍らせた。トンッと地面に降りる。ホテルの敷地内で芝生だったせいもありダメージはない。そのまま木梨を追う。

 彼は門を出て乃木坂方面に向かっている。この辺りは不案内のようでキョロキョロと回りを見回している。それがロスに繋がった。
「このやろう! よくも騙したな!」
 追い付いたジョーが木梨の腕を掴む。ヒュンッと反対の腕が飛んできた。ジョーが頭を下げて避ける。続いて足がジョーの体のすぐ横に入って来た。
「こいつ・・・」
 生ちょろい学者かと思ったがなかなか使うらしい。ジョーにとっては遠慮をする必要のない相手なのはありがたかった。
 ジョーは向かってくる拳(コブシ)を左手で受け止め、木梨の頬に一発食らわせた。避けながらも木梨はジョーのわき腹を足で払おうとした。とっさに右腕で受け止める。
「うっ!」 
 傷を直撃された。袖に赤い点々が浮かんできた。だがジョーは受け止めた足を大きく引いた。
 デンッ! と木梨が尻もちをつく。その上にジョーが伸し掛かった。
 こうなると体の大きいジョーが有利だ。逃げようとする木梨が体を回すのを利用して俯せにし、その背中に体を乗せた。後ろから軽く首を絞める。
 と、その細い道に車が1台入って来た。
 地面に2人の男が転がっている事がわかるだろうに、車はそのまま2人に向かってきた。ジョーは木梨の体に手を回し、共に転がり避けた。
 車がU ターンするのが見えた。木梨を引き摺り電柱の陰に体を入れた。が、ふいに木梨が肘鉄をジョーの右腕に打ち下ろした。
「うわっ!」
 木梨を掴んでいたジョーの手が離れる。すぐ横に車が止まった。木梨が乗り込む。助手席の男がジョーに向かってトリガーを引いた。が、素早く電柱の陰に入った。ピシッ! と目の前で弾丸が跳ねた。
 車が急発進する。それに向かってジョーが何かを投げ付けた。が、右腕を抱え地面に倒れ込む。
「ジョー!」神宮寺だ。「大丈夫か」
「木梨が車で逃げた」溢れる血を押さえジョーが言った。「トレーサーを付けた。奴を追え」
「よし、西崎を呼ぼう」
 神宮寺がリンクをオンにする。が、
「今ならハリアで追える!」立ち上がろうとし電柱に手を掛けたが、「─ あ」
「動かない方がいい」
 ガクンと膝をついたジョーの体を支え神宮寺が西崎を呼んだ。 

「で、トレーサーを追ってきたらよりによってここ・・に着くとはね」
 高い塀に囲まれた白い建物を見上げ立花が言った。
 ここは江古田の政府研究機関の研究所だ。実験車両であるスカイラインが盗まれた所だ。
「まだ奴らの仲間が残っているという事か」
「面倒だな・・」
 珍しく神宮寺が弱気なため息をついた。ふと横に停めてあるハリアの助手席を覗き込む。西崎がPC ナビの前で森からの連絡を待っているのだ。
 ジョーがトレーサーをつけた車が研究所の敷地内にあるのは確かだ。ハリアのモニタにもしっかり映っている。だが研究所側は国際警察の立ち入り捜査をガンとして受け入れない。
 そこで森が自分の持てる権限のすべてを用いて、政府に研究所内の捜査許可を申請しているのだ。
「こんなに時間が掛かるって事は・・やはりNOなのかな」
 立花がチラリと西崎を見る。
「だったら今頃チーフ自身が政府を脅して・・・いや、協力を求めて出向いているさ」
 普段はやさ男の森だが、ひとたびチーフの貌になったら神宮寺とて太刀打ちできないだろう。
「ところで、ジョーは? また怪我ったんだって?」
「2階から飛び降りた時、捻っている足の方で着地したらしい。どっちの足が痛いのかわからなくなった、と言ってたっけ。さすがに榊原さんに捕まったよ」
「時々わけわかんないドジするからな、ジョー」
 立花が苦笑し時計を見た。と、
「取れたぜ」マイクを置き西崎が車外に出て来た。「ただし2時間だけだ。捜査員も2人だ」
 後の2人が眉をひそめたが、
「その代り、同行すると言っていた所長の申し出はてーねいにお断りしたそうだ。2時間は研究員も会議室にまとまっている。立花、残ってくれ」
 立花が頷くのを見ると西崎と神宮寺がロックの解除された門を開けた。

「目が覚めたかい。気分はどうだ」
「・・ドクタ」目の前でにっこり笑う榊原にジョーは思いっきり顔をしかめる。「かただか腕の縫合ぐらいで半身麻酔しないでください。しばらくぼおっとして動けないんだ」
「下半身麻酔にすれば早く動けたな」
 左手首に指を当てシレッと榊原が言った。
 半身麻酔にしたのはジョーを休ませるためだ。こうでもしないと彼もなかなか休まない。
 今回も右足には支障がないので、そのまま放っておいたら神宮寺達について行ってしまっただろう。
「右腕は動かさないように。麻酔が完全に切れるまでおとなしくしていたまえ」
「で、センセ。神宮寺達は? もう研究所の捜査に入ったんですか」
「私は医者だよ。そんな事は知らん」
 サラサラとカルテにペンを走らせる。
「・・・チッ、Waschbär Vater(タヌキ親父め) ・・・」
 と、ピンッ! と額を指で弾かれた。
「医者にドイツ語で悪口言ってどうする」と、スッと手で額を覆った。「少し熱が出て来たね。相変わらず反応の良い体質だ」
 処置後発熱するのは体の防衛機能がキチンと動いている証拠だ、と榊原は言うが、
「でもおれは神宮寺達と─」
 左腕に力を入れ体を起こす。
「ドクター・ストップが出ている。チーフも出動を許可しないよ」
「寝てる場合じゃないんだ。いやな感じがする。頼むよ、榊原さん」
 S メンバーとしてのジョーのカンは鋭い。敵の懐に飛び込んでいる神宮寺達が危険なのは確かだが。
「10分程前にやっと研究所への立ち入りが許可されて、神宮寺君と西崎君が捜査に入ったそうだ。まだ報告はない」ジョーをベッドに押し戻す。「何か報告が入ってきたら君にも伝えるから、それまではおとなしく休んでいなさい」
「・・・やっぱり知っているんじゃないですか」
 ムスッと言うジョーの体をポンッと叩いて榊原は病室を出て行った。

 ジョーは小さく息をつくと頭を枕に押し付け天井を仰いだ。
 右腕も、捻った足首も痛みを感じないのは、まだ麻酔が残っているからだろう。こんな自分が動いたところで役に立たないのはわかっている。神宮寺や西崎に任せておけば大丈夫だ。
 だが時折襲ってくるこの焦りを抑えるのはむずかしい。自分がここにいるためには常に動いていないと・・・。
 ふと、木梨を逃がした時の事を思い出した。
 あの時、神宮寺がハリアで追っていたら木梨を捕える事ができたかもしれない。そうすれば研究所なんてややこしい所に逃げ込まれる事はなかった。
(いや・・・その前におれが捕まえていればよかったんだがな)
 木梨に腕を打たれ血だらけになってはいたが、あの時のジョーは危険の中にいたわけではない。なのに神宮寺は残った・・・。
 S メンバーに限らず彼らはJBに入隊する時、仲間を─特にコンビを組む相棒を大切にするよう教え込まれる。それはあたり前の事なのでそれ以上の事は考えなかったが、最近その本当の意味がわかってきた。おそらく神宮寺もなのだろう。
(だけど、犯人を逃がしちゃイミねーよな)
 天井の一点を睨み、やがてソッと目を閉じた。

「この車だ」
 車庫に収められていた黒い車を目の前にし神宮寺が言った。彼は木梨が乗った車のリアしか見ていないが間違いないだろう。だがトレーサーはもうついていなかった。
 2人は車庫から研究所内に戻った。所員達は別の部屋にいるので辺りはシンとしている。コンピュータも動いていない。
 実は国際警察の目的は所内捜査ではない。所員全体の面通しだ。
 木梨の顔は知っている。黒い車に乗っていた2人の男はジョーしか見ていないが、特徴は訊いて来た。
 しかしこれもまた研究所側が渋り、今頃森が最後の脅しを─ いや、協力を求めているだろう。
「神宮寺、これを」
 西崎が指差す。壁沿いに並ぶ大型コンピュータが少し斜めになっていた。壁の色も違ってるし、床には何か引き摺った跡があった。
「江戸川乱歩の〝少年探偵団〝 なら、この後ろに隠し部屋があって扉のスイッチがあるところだが」ふと西崎の声が途切れた。「─ あった」
「えっ」神宮寺が覗いた。確かに不自然な突起物がある。「押してみよう」
 西崎が頷き、ソッと押してみた。と、斜めになっていたコンピュータが扉のようにグルリと右側に回り、その後ろの壁がスーとスライドした。その向こうは10メートル四方程の部屋になっていた。
 入ってみた。
「ここも研究室かな。コンピュータもあるし・・・」
「極秘の研究かもしれないな」と、神宮寺が開いている壁の方を見た。白衣を着た男が1人覗き込んでいた。「すみません。ここも研究用の─」
 突然殺気を感じた。銃声が響き神宮寺と西崎が左右に跳ぶ。
「奴らか!」
 オートマグを抜いたが男との間の壁が閉まって行く。2人は出ようと駆け付けたがそこを狙い撃ちされ壁の横に身を隠す。そうこうしているうちに壁が完全に閉まってしまった。
「くそォ・・・。立花! 応答してくれ! 立花!」
 だがリンクはガガ・・と耳障りな音を発するばかりだった。

 ふっと目が開いた。さっきまで見ていた白い天井が映った。いつの間にか眠ってしまったようだ。時間にして30分くらいだったが気分も良く体も動く。
 そろそろ出ようかと体を起こし─ だがその動きが止まった。
 JB の病室は完全防音になっているので何も聞こえないが、なにやらいつもとは違うざわめきを感じた。
 ジョーはベッドから出るとドアを開けた。
 医療部は捜査課などが入っている建物とは別棟だが端同士で繋がっている。しかし同じ4階にある捜査課の音などは聞こえないのだが─。
 ジョーは病室に戻りロッカーを開けた。が、ズボンしかなかった。シャツは血が付いていたのでここへは持ち込めなかったのだろう。
 仕方なくジョーは処置服を脱ぎズボンを穿いた。上半身はアンダーシャツだけだがそのまま出た。急いで榊原達がいる事務室の前を通り、西館に向かう。
 東館との境のドアがスライドするとたちまちいつもの喧騒がジョーを押し包んだ。ひどく苛立つ気分で捜査課に向かう。と、4、5人の男達がバラバラと廊下に飛び出して来た。高浜や伊藤ら、チーム1の面々だ。
「ジョー」
「なんて格好だ。脱走して来たみたいだな」
 まさしくその通りなのだが。
「どこへ行く。神宮寺達に何かあったのか」
 男達は一瞬顔を見合わせたが、
「研究所に入った神宮寺と西崎と連絡が取れなくなったそうだ」高浜が言った。「立花が知らせてきたんだが、彼も中には入れないので詳細はわからない」
「神宮寺と西崎が・・・」ジョーが息を呑む。が、「おれも行く。待っててくれ」
 階段で6階まで上がろうとしたが─ ふいに体がよろけ壁にドンと当たった。
「おい、大丈夫か」高浜がジョーの体を支えた。「ドクタの許可は出ているのかい?」
「大丈夫だ」ジョーが高浜を押し退ける。「それよりお前の車で行くからな、高浜。待ってろよ」 
 え~~ と、名指しされた高浜は恐怖の声を上げ、階段を上がって行くジョーを見上げた。

「だめだ。こちら側に壁を動かすスイッチは見当たらない」
「おれ達からの連絡が途絶えた事は立花もわかっているだろう。すぐに応援が来るさ。それよりこのコンピュータ、動かせないかな」
 何台かあるコンピュータの1台に取り付き神宮寺が言った。
 コンピュータは動いていないしモニタも真っ暗だ。だが電源ランプは点いている。
 国際警察の捜査が入るというのでコンピュータは止めたが電源まで抜いていない。おそらくロックが掛かっているのだろう。
 何の手掛かりもなくそのロックを解除するのは難しい。が、諦め切れない神宮寺がキーボードを叩き始めた。
 そちらは任せて、なんとか脱出の方法を模索していた西崎がふと顔を上げた。
「なんか・・・キナ臭くないか?」
 西崎の言葉に神宮寺が顔を上げた。



   
                                    5 につづく




Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

闇に輝く光の下(もと)に 3


「これがあのアジトから押収された物だ」森がパソコンのモニタを2人に向けた。「書類やフロッピー、CD─ ROM もあったが割られていたり爆発で多くは破損していた」
 ジョーがちょっと気まずげにモニタに映る一覧表を見ている。もちろん報告はしていない。
「西崎達が確保した白衣の男はどうなりましたか?」
「山田さんと眉村さんが取り囲んでいる。落ちるのは時間の問題だ。関さんへの土産は彼だけだな」
 ジロリと2人に目を向けた。
 神宮寺は軽い火傷だけだが、足首を捻り右腕には銃創を負ったジョーはひどく憔悴しているように見える。
「MOX 燃料システムの試作品は運び出しに間に合わなかったから仕方がないが、データの収集はできたはずだ。MOX 燃料システムのデータも一部は残っていたが多くは持ち出された。君達らしくない仕事だな」
「申しわけありません」
 森の言葉に口を開きかけたジョーを制し、神宮寺が頭を下げた。そして再び顔を上げた神宮寺の眼が真っ直ぐに森に向けられた。その双瞳に捉えられた森はもはや何も言う事ができなかった。と、
「ジョー、大丈夫か?」見るとソファに座っていたジョーが辛そうに身を屈ませている。息使いも荒くそれを抑えようとしているが叶わないようだ。「医療部に連絡を─」
「─ いえ、下で休みます」ジョーが顔を上げソファの背を掴んだ。「もう、行ってもいいですか」
 森が頷くのを見るとジョーは神宮寺と共にチーフ室を出た。

 エレベータには向かわず階段を一歩一歩ゆっくり降りて行く。手摺りを掴む手がブルブルと震えていた。
「本当に大丈夫か? 医療部に行った方がいい」
「大丈夫だ。体が辛いわけじゃないんだ」階段を下り切りふと立ち止まった。「それより今回の件はおれのミスだ。おれが命令に反して余計な事を・・・すまない」
「お前のせいじゃない。まっ、おれ達にもこういう時はあるさ」普段キッチリしている神宮寺だが、たまにそれらをどこかへ投げてしまう。「だが次はないぞ。─ それより何があった」
「え」
 先にダブルJ 室に入ったジョーが振り向いた。神宮寺の穏やかな双瞳が、しかしジョーの心内を見抜いている。
 ジョーは口を閉じ目を背けたが、この相棒相手にウソをつき通す自信はない。
「─ お前と一緒になる娘(こ)は絶対浮気できねえな」
「お前と一緒になる気はないから安心しろ」苦笑し手早くコーヒーの用意をする。「第一、おれとお前じゃ赤ん坊はできないし─」
「だから、欲しかねえって!」
 時々とんでもない事を言う相棒にムキになり─ それでも大声を出してちょっとすっきりしたらしい。ジョーがソファに腰を降ろし、コーヒーを注ぐ神宮寺に目を向けた。
「逃げた男と対峙した時、おれの顔を見て、“ボルツァーノ” と・・・」
「─ まさか」
「そう聞こえたわけじゃない。だが口元はそう言っていた─」
 ボルツァーノはイタリアマフィア、ジェルマーノ・ファミリーのNo2で、グランディーテ一族の1人だ。もちろんジョーは会った事もないが。
「木梨が言っていたザーツに出入りしているマフィアというのは─」
「・・・・・」
 神宮寺はジョーの前にコーヒーを置くとその向かい側に座り、片手で自らの顔を覆うジョーに目を向けた。
 今のジョーには右腕の銃創も足首の痛みも感じないだろう。
 グランディーテ家を手に入れようとボルツァーノはアントニオに対抗するためにカテリーナの息子であるジョーを手中に収めようとした。それが叶わぬと知るとジョーを亡きものにしようとした。
 ボルツァーノに関する事ではジョーは被害者だ。しかしもしザーツに彼が関係しているとしたら・・・。国際警察のS メンバーとしてのジョーの立場は微妙なものになる。
 それを察する神宮寺も今回ばかりは迂闊に慰めの言葉も言えない。そんなものは何にもならないのだ。
 神宮寺はソッとカップに口をつけた。パーコレータがコポコポと音を立てている。
「まるで誰かがこの仕事をやめろ、と言っているようで・・・。ここから出て行け、と・・・」
「そんな事は─」
 “ない” と言おうとし・・だが、彼は口を閉じた。奥歯をギッと噛みしめる。苦しんでいる相棒に対して何も言ってやれない。
「すまん・・。おれは何もできない・・・」
「──」
 ジョーが顔を上げた。
 神宮寺を追い込むつもりはなかった。彼には関係のない事なのだから─。
「悪い、大丈夫だ。何があってもおれはおれだから」
 ジョーはひと口コーヒーを飲む。ブラックの苦さがかえって彼をしっかりと前に向けてくれた。

「それより奴ら、MOX 燃料システムの試作品なんか作って今度は何をするつもりだろう。また列車や車に乗せてどこかへぶつけるというのも考えにくいしよ」
「ん・・・。実はさっき佐々木さんとも話したんだが、ザーツの狙いは日本国内でテロを起こす事ではなく直接政府を脅す事だろう。MOX 燃料システムはその手段のひとつだ」
 MOX 燃料システムのエネルギー源はMOX だ。
 地球環境に配慮し核廃棄物のリサイクル利用を行える一挙両得の計画だが、原子力に関する国民の感情を考えるとスムーズに受け入れられるとは思えない。
 もし研究中に事故でも起こしたら─ その安全性は疑われ、国民に公表せず危険な研究を行っていたと非難されるだろう。政府は完璧な形にしてから発表したいのだ。
「そこをザーツに突かれたんだ。政府も公表して国民の理解を得られるようにキチンと説明すればいいんだ。ヘタに隠すから付け込まれる」
「その尻拭いがおれ達かよ」右手がまだ痛むので左手で持っていたカップをカタンとテーブルに置いた。「やだなァ。関に押し付けちまおうぜ。最高機密だからって公安が動けねえなんておかしいぜ。いくらおれ達が中立だからって─」
「・・・・・」
 それは神宮寺も同感だった。
 もしかしたら政府は、都合の悪い事が起こる前にこの計画を中断するかもしれない。その時のために計画を知る者は少ない方がいい。
 どの国とも中立な立場にある国際警察の守秘義務は厳しい。自国の警察を使うよりは─。
 そう考えても無理はないが、今回は科学者の誘拐事件が起こり、最初はザーツとの繋がりが不明だったので一般警察の扱いとなった。が、これが一連のMOX 燃料システム事件と関連があるとわかり、仕方なく公安を出したのだ。
「この件をこれからもおれ達が扱うか、それとも公安になるか─。どちらにしろMOX 燃料システムを奴らの手中に残しておくわけにはいかないからな。ジョー、ちゃんと傷の治療に行けよ。まったく・・おれ達が医者嫌いだと命取りになるな」
「ひとつ忘れてたぜ」右の手首から肘までキッチリと巻かれている包帯を摩りジョーが言った。「今回はおれのミスがでかいが、あの時お前は奴を追うべきだったぜ。そうすればデータファイルは取り戻せた。結局、奴は西崎達に見つからず逃げちまったんだからな。今までのお前ならそうしていた。それでうまく行っていたんだ。なのに今回はなぜ─」
「あの状況でお前を置いて行ったら、確実に爆発に巻き込まれていた」
「だが西崎達が近くまで来ていたんだ。おれの事は彼らに任せる事もできたはずだ」
「あの状況では無理だ。お、おれに・・相棒を見殺しにしろ、と言うのか」
「・・・・・」
 神宮寺の言葉にジョーが黙った。
 もしこれが反対の立場なら、ジョーは神宮寺をあの場に置いて行かれるだろうか。任務のために相棒を・・・。
 自分はそれを神宮寺にさせようとしている・・・。だが、
「・・・甘いぜ、神宮寺。そんな考えが通り程この仕事は─」
「取り戻せばいいんだろ。試作品もデータも。おれ達に手で」神宮寺の眼が真っ直ぐにジョーに向けられる。「さっきはこの件はおれ達か公安かわからないと言ったが、おそらくおれ達の扱いになる。その時は─」
 ジョーに言われるまでもなく、目の前にいたあの男を逃がした事は神宮寺とて悔しい。
 捜査の扱いが決まるまではチーム1が奴らの行方を追っているが、ぜひ自分達の手で捕らえたい。さらに、もしもザーツにボルツァーノが関係しているとしたら・・・公安にこの件を任せたくはない。
「だからちゃんと治療に行けよ。でなければここに置いて行くからな」
 ニッと口元を歪める神宮寺にジョーは渋い顔を向けた。

「MOX 燃料システムの件は引き続きうちが担当する事になった」2人にソファを勧め森が言った。ジョーが小さく唇を鳴らし神宮寺を見た。「だが手掛かりがない。鋸山のアジトで確保された男はどうやら相手がテロ集団とは知らず、研究員募集の広告で応募してまだ2日目だったようだ。したがってザーツの事は何も知らない」
「確かなんですか?」
「1日掛けて山田課長とチーム2が裏を取った。間違いないだろう。ところで捜査の担当だが─」
 森がジョーに目を向けた。
 実は森はダブルJ を呼び出す前に榊原に連絡を入れてジョーの怪我の具合を訊いた。 
 痛みはあるだろうが捻った足首は普通に歩くだけなら支障はない。問題は右手の銃創だった。
 角度が浅かったのか貫通せず、手首から肘にかけて弾丸が走ったような傷になっている。そのため傷も出血も広範囲に広がっている。かなりの痛みが伴うはずだ。
 当然、榊原はジョーの出動を許可しなかった。おまけに彼ら2人は鋸山の件では任務を全うしていない。普通に考えれば担当を変えるところだが─。

 森は昨日、自分に向けられた神宮寺の眼が忘れられなかった。
 森も捜査畑出身だ。どんな理由があろうと手の届く所にいた犯人を逃がすのは悔しい。
 無念と痛恨、そして決意・・・。自分を見つめる神宮寺の双瞳にそれは現われていた。   
 それに、自分の前で気を張っているのかもしれないがジョーの足取りに不安はないし右手を庇うようなしぐさもない。
 森は決心した。

「今まで通り、君達が当たってくれ。協力はチーム1」
 2人の表情が一瞬和んだ。
「佐藤ってセンセイはアジトを覚えていた。他の6人はどうなんです?」
「彼らは他の場所に行った事はないそうだ。あ、これが関さん達公安が取った彼らの供述書だ」
 と、2人に手渡す。手書きの綺麗な文字が並んでいる。が、
「たまには英語で書いてほしいよな」ジョーが舌を鳴らした。「漢字なんて誰が作ったんだ」
「文句は中国に言うんだな」
 神宮寺がサッと目を通す。
 各自の供述を木村が書き留め、最後に供述者のサインが入っている。2枚目を繰り、ふと神宮寺の手が止まった。
 双眼が一点を凝視し、自らの記憶を呼び起こそうとしている。
「どうした? お前にも読めない漢字があるのか?」
 ジョーが楽しそうに言ったが、
「チーフ、鋸山で押収された書類をもう一度見せてください」
 神宮寺がパソコンのモニタに駆け寄った。森がファイルをモニタに出す。
「手書きの書類が7、8枚ありましたが─。あ、これです」神宮寺はキーボードを受け取り1枚1枚見て行った。森もジョーも無言でその操作を見守る。「─ やっぱりだ」
「どうしたんだよ」
 ジョーがモニタを覗き込んだ。焼け焦げた書類が1枚映っている。
「この書類のサインを見てみろ」モニタを指差す。「そしてこっちの供述書─」
「kinashi─ あ? 同じじゃねえかっ」
 アジトから押収された書類は何かのデータを記録したものだ。その責任者の欄にあるサインと供述書のサインは間違いなく同一人物によるものだ。
「え? ってー事は、木梨はザーツのメンバー?」
「いや、誘拐された後にそのデータを取る仕事をさせられていたのかもしれないぞ」
「それはないですよ、チーフ。木梨は他の場所に行った事はないと供述しているでしょ。それだけでも明らかにウソをついている」
「だがよ、サインした書類だけが鋸山のアジトに運ばれた、って事も考えられるぜ」
「そうだが・・・」
 神宮寺の胸がざわつく。
 実は彼とは反対の意見を言ったジョーも何やら胸騒ぎを覚えていた。2人の不安が同調する。
「どちらにしろ一度会って話を訊きたい。彼らは今どこにいますか?」
「もう1日2日は公安の指定のホテルに保護されているはずだ。SP 付きで」
「赤坂ですね」
 森が頷く。
「行くぞ」
 神宮寺が足早に出て行った。ジョーはチラッと森を見たがすぐに相棒の後を追う。
 地下駐車場からハリアを乗り出した。

 公安指定の赤坂にあるホテルは防衛庁跡地のすぐそばに建つ部屋数は20程の小さなホテルだ。
 しかし警護するにはホテルの規模が小さい方がいい。だが、
「SP 付きか・・。面倒だな」
 珍しくもおとなしく助手席に収まったジョーが呟く。
 マル対の安全を何より優先するSP 相手では、仲間の警察官でさえそばに寄れない事もある。
 ましてや神宮寺とジョーは面識すらない。身分を明かしてもすんなり会わせてもらえるかどうか─。
「チーフから警備課に話を通してもらった方がいいんじゃねーの」
「時間が掛かりすぎる」だが先方で押し問答するのも面倒だ。「仕方がない。ジョー、関さんに来てもらってくれ。あの人なら双方に面識がある」
 え~、とジョーが不満の声を上げるが、
「頼むよ。─ いやな予感がするんだ」
 と、今まで口をへの字に曲げていたジョーがすぐさま携帯電話を取り出した。簡単に事情と神宮寺の決め台詞を伝えると、“すぐ行く” と関もあわてて言った。
「よかった。チーフから回してもらうよりお前が言った方が早く来てくれると思ったんだ」
「呑むからつき合え、と言ったら来なかったかもしれねえけどな」カツンと携帯を閉じて、「・・・なんでおれが言ったら早く来るんだ?」
「さあ・・・。お、関さんだ」

 大通りを1本入った細い道に建つホテルの前には1台のクレスタが停まっていた。霞が関にいた関達の方が早かった。
「急にすみません」
「木梨という若いのがザーツの仲間だって?」
 挨拶なしに関が意気込む。
「それをこれから確認します。SP をなんとかしてほしいんですが」
「わかってる」頷き、横の木村を指差す。「SP の1人が木村と同期だ。それでもツベコベ言ったらおれと木村でSP を押さえるからその間に突破しろ」
「主任・・・」
 眉をへの字に曲げ、木村が首を振った。


                 

                              4へつづく