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コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

いらっしゃいませ


 淳のお話ブログへようこそ


   「なんでも書いていいノート」を友人達でまわして好き勝手な事を書き・・そこから生まれたお話が、この「コールナンバーダブル J」です。

  ならば、登場人物も私や友人達のお気に入りアニメキャラにしよう。国際秘密警察なんて本当はいないから(当時、そう思っていました)自由に書けていいよね、と安易な設定で書き始めたお話が、昭和を生き抜き、中断があったものの平成の世で再び甦るとは思っていませんでした。

  サブタイトルは「昭和(S51~S57)」「平成(H18~ )」にわかれます。
  何も考えずに書きなぐった昭和。少しは考えて・・でも書きなぐっている平成。
  しかし元々自分が楽しむために書いたものなので、他人様には読みにくい所が多々あります。でも文章がよほどおかしくない限り、当時のままを載せようと思います。

  では、下記の一覧よりお入りください。


  コールナンバーダブル J  サブタイトル一覧へ

  ※  S51~S57   ⇒    一覧へ
  ※  H18~         ⇒    一覧へ
  ※  登場人物紹介

  ※  淳のたからもの      ⇒    一覧へ   

 

   お話は1話完結ですが、シリーズ物なので最初から(上記一覧の上から順番に)読んでいただければ、詳細もわかってよいのですが、「細かい事は面倒くさい!でも、ちょっと読んでみてもいいかも」という方はこちらへどうぞ─

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Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

スクール・ララバイ 3


「女子が参加すると必ずここに来たがるな」
 貸切りのワゴンタクシーから降りた彼らの目の前に建つのは箱根ラリック美術館だ。
 アール・ヌーヴォー、アール・デコという2つの様式で活躍した装飾美術工芸家ルネ・ラリックの作品が展示されている。
 神宮寺達の通っていた中学は私立校で、文武両道で有名な学校だ。勉強はもちろん様々な情操教育も盛んで、男女共美術品や工芸品に対する関心は高い。箱根への旅行が多いのはここには美術館が多い事も理由のひとつに上がる。
「このオリエント急行のガラスパネルの装飾もラリックの作品なのよ」
 別棟に展示されている本物のオリエント急行を指し、美術部だった里穂が説明する。
「それよりこの広い芝生!」安木が口を出す。「ボールを蹴ったら気持ちいいだろうな~」
「そういえば安木君、大学大会準優勝だって?」笙子の言葉に全員がヘェ~ と声を上げた。「決勝は山口君の大学とだったんですってね」
「そうなんだ、また負けたよ。山口とは一生ライバルだな」
 安木と山口は同じサッカー部でFW だった。常に点取りを争っていた。今は2人共、企業のクラブに所属しているという。
 大学を出て好きな事が続けられる。神宮寺は羨ましいと思った。
「でも神宮寺君がテストパイロットをしているのには驚いたな」赤い大きなシェードの付いたテラスのテーブルに着いた原口が言った。「確か、弁護士になりたいって言ってたよな」
 これは少し前の高校のクラス会の時にも言われた。

 国立大学の法学部を選び首席で卒業したのだ。誰もがそのまま法曹の道へ進むと思っただろう。
 しかし神宮寺自身は高校生の時に見た国際警察の勇姿がずっと心に残っていた。
 弁護士は年令を重ねてからもできる仕事だ。しかし国際警察の現場で働くのなら若い方がいい。
 母は反対だったが父は賛成してくれた。ある事件で、この父の警護に就いてくれた国際警察─ 当時、捜査課にいた森が神宮寺の人生を変えた。

「空はいいぜ。広大で誰でもその広い腕の中に包み込んでくれる」
「だったら旅客機のパイロットになればよかったのに。格好いいし外国へも行けるし」
「その代わり大勢の人の命を預かるんだよ。おれにはそんな度胸はない」
 しかしある意味彼は人の命を預かる仕事に就いている。そう気がつきおかしくなった。が、
「どうしたんだ?」急に黙り、友人達とは違う方向を見つめている神宮寺に内田が怪訝な顔を向けた。「また、“ どこかの女の子がおれを見てる~ ” ってか?」
「・・・・・」
 おれ・・かどうかはわからないが鋭い視線は感じる。が、今回はすぐに消えた。
「あ、サイレンだわ」
「救急車?」
 女の子達が音のする方に目を向けた。
「いや・・、あれはパトカーのサイレンだ」
 神宮寺の双瞳が一瞬光った。

「今度は何をやったんだ、ジョー?」入ってくるなり榊原が言った。「無銭飲食か?それとも病室抜け出して女性をナンパしたか? はたまた脱走準備罪とか」
「・・・・・」
 階段をトレーニング場にしたのがバレたのか? ジョーが怪訝な目を向けると、
「新宿署の捜査課から君の照会があった。1008号室の浅井洋一君と会っていたそうだね」 ああ、あの目つきの悪い男は新宿署の刑事だったのか。だが─
「新宿署の奴がなんで浅井を張ってるんです?」
「私も詳しい説明は受けていない。ただ彼を保護する必要があるから刑事の出入りを許可してほしいと署長の名で事務局に申し込みがあった。浅井君は知らないようだが」
「保護ねぇ・・・」
 警察がよく使う手だ。本当に護る場合もあるが容疑が固まっていない者を見張る場合にも使われる。浅井はどっちだろう。
「奴は中学の時の同級生で、親しかったわけじゃないけど警察の世話になるような奴とは思えないが」しかしそれはもう8年も前の事だ。人が変わるには充分な年月だ。「奴はいつ退院するんです?」
「このまま順調なら明後日が退院予定だが」火傷を負った腕の包帯をひとつ外してくれた。「君も順調に回復しているね。だから新宿署の邪魔をしてはいけない」
「・・・・・」
 余計な仕事をする気はないが相手が知っている奴だけに気になるのは確かだ。森から新宿署に照会してもらえば詳細を教えてくれるだろうか。
「だめだよ、ジョー。早くここから出たいのならおとなしくしている事だ」
 ジロリと榊原が睨む。まったく元JB捜査課の医者だなんてやり難くてしょうがない。
「じゃあ夕メシはVIP 用の豪華な食事にしてください。でないとおれ1008に食いに行きますよ」
 駄々っ子のような眼のジョーに、“善処しよう” と言い、榊原は出て行った。
 もちろんジョーには自ら浅井の所に行く気などない。
 今の榊原の口調からすれば、浅井に関してトラブルなどはないようだ。ならば本当の保護・・なのだろう。ジョーの出番ではない。
 だが彼は常に頭か体を動かしていたかった。でないと余計な事を考えてしまう。
 そのひとつが榊原看護師長の言葉・・・あれはいったいなんだったんだろう。彼女に会ってもう一度話を聞きたい、と思ったが急に担当が代わってしまいあれから顔を合わせていない。
 それでも同じ病院内にいるのだから捕まえようと思えばできる。しかしなぜかそうしようとは思わなかった。彼の中のもう1人の自分が止めているようだ。それがどうしてなのか考えると頭痛が起きる。今回は榊原の言うとおり、おとなしくしていた方がいいのかもしれない。
「それにしても今頃神宮寺は酒注いでもらって鼻の下のばして女の子突っついて焼き魚で真っ黒に焦げてるンだろーな」
 いいのか悪いのかよくわからないが、それでもこんな所に1人でいるよりはマシだ、と思った。

 内田の親戚が経営している旅館は、芦ノ湖畔の元箱根の旧街道口沿いに建つ中規模の和風旅館だった。杉並木で有名な旧街道とは少し離れているのでとても静かだ。女将だという内田の伯母が出迎えてくれた。
 一同はラリック美術館の後二ヶ所程寄って4時過ぎに到着したのだ。男性は杉の間、女性は隣の桜の間に案内された。
「よ~し、夕食の前にひとっ風呂浴びようぜ!」市井がオヤジ口調で言った。「ここの露天風呂は広くて気持ちいいぜ。泳げるし隣の風呂からは女の子の声も聞こえるし」
「そんな事言ってると、また美加に怒鳴られるぞ」
 内田が苦笑している。以前に何かあったのだろうか。箱根の時はいつもこの旅館なのだろう。内田はもちろんだが市井も安木も館内をよく知っていた。
「でも風呂は賛成だな。汗かいたし」
 と、市井にならってタオルや着替えをバッグから引っ張り出した。原口も安木も同様だが、「どうした、神宮寺? 風呂に行かないのか?」
 見ると窓際に建ったまま神宮寺は動かない。
「恥ずかしいってわけじゃないよな~」
「体に自信がないとか」
「まさかー、あの体格で」
 などと勝手な事を言って笑っている。
 もちろん神宮寺は恥ずかしいわけでも体に自信がないわけでもない。だが体に残るいくつもの傷跡を彼らに見られるのも・・・。
「まっ、男同士だし・・・いいか」
「って、女の子と入れると思ってたのかよ」
「それだったら迷わないさ」
「─ ごもっとも」
 アハハ・・・と笑いながら男5人はお風呂セットを持ち部屋を出た。

 大浴場は別棟になっていた。寝湯やうたせ湯、サウナもある。露天風呂は屋根が付いていたが周りは木々に囲まれ、その間から芦ノ湖が見えた。高い垣根の向こうが女湯だ。
「市井、あまりそっちに近づかない方がいいぞ」ニヤニヤと原口が言った。「美加達が入ってるかどうかわからないけど、また覗きを見つかったら今度こそ─」
「だから覗いてないって!」市井が大声を出した。平日の早い時間のせいか入浴客は5人だけだ。「たまたま垣根の近くで滑って浴槽に落ちて─。なのにその事をおもしろおかしく話すものだから美加が誤解してひどいめに遭った」
「なるほどね」神宮寺が頷く。「でもあんなに高い垣根じゃジャンプしても無理だよ」
「忘れたのか。市井はバレーボールのアタッカーだぜ」
 そういえば中学選抜だったっけ。
「だからってあの高さじゃ日本代表だって無理だよ~!」市井がわめく。じゃあやってみろ、と安木がそそのかす。「それより神宮寺、お前何かやばい事してるのか?」
 え? と神宮寺が目を向ける。
「体中、傷だらけじゃないか。何いたずらすればそうなるんだ?」
「鉾先をこっちに向けてきたな」
 ゆったりと湯に浸かり神宮寺が言った。ジョーのような大きな傷はないが、よく見ると神宮寺の全身も細かい傷跡がいくつも見える。
「テストパイロットもけっこうハードなんだ。乱気流には巻き込まれるし整備中にあちこちぶつけて傷だらけになるし」
 かなり無理な説明だが、“ヘェ~、そうなんだ” “大変だなァ” と素直な友人達は納得してくれた。
 騙しているわけではないがそれ以上何も言いたくなくて神宮寺はシャワーブースに移った。

「“善処しよう” ねえ・・・」
 目の前の夕食にジョーがため息をついた。
 具たくさんのミネストローネにチキンサラダ、プレーンオムレツ─ ただ今回もパンは焼きたてだった。
「胃の潰瘍がまだ少し見られるの」高島とネームプレートを付けた女性看護師が気の毒そうに、可笑しそうに言った。「それでもチキンサラダは院長先生の〝善処〝 よ」
 車から飛び出し受身もなく地面に転がったジョーは全身に強い打撲を負った。そのストレスにより胃にびらんや潰瘍が発生し吐血した。すぐに抗潰瘍薬が投与されたので治りは早かったが多少の食事制限は仕方がない。
 しかし、日頃食べ物にはあまり拘らないジョーだが彼も若い男だ。ステーキとまでは言わないがそろそろボリュ-ムのある物が食べたい。
 が、トレイの上の物を睨んでいてもお腹はいっぱいにならないのでミネストローネをひと口啜った。
「それからシャワーの許可が出ましたからどうぞ。必要でしたら男性看護師が介助に就きます」
「女性の看護師さんがいいなァ」
「わがまま言ってると榊原師長に叱ってもらいますよ」
 高島はよく敬子と共にここに来ていたので、ジョーが看護師長に弱いのはよく知っている。
「師長は今どこの科にいるの?」
「小児科に回っています。看護師が2人やめてしまったので」
「ふうん・・・」
 オムレツは中はトロトロだがジョーには少し甘い。高島は、“トレイは出しておいてくださいね” と言い行ってしまった。
「ちっともVIP じゃねーじゃん」
 それでもガツガツと平らげた。と、
「私の〝善処〝 は喜んでもらえたかね?」榊原だ。ジロリとジョーが睨む。「まあ、そう睨むな。退院したら森チーフがステーキでも寿司でもご馳走してくれる」
「チーフ? なんで?」
「例の新宿署からの君の照会だ。チーフから内閣府に行って、警察庁から公安3課に回り警視庁へ行って新宿署署長に回答した」
「ご苦労な事だ。で、それでなんでチーフがおれにご馳走してくれるんですか?」
「チーフが内閣府にこの話を持って行った時、JBの研究所への乱入の事でかなり文句を言われたようだ。しかしザーツが政府の研究所に入り込んでいた点について建言すると先方は何も言えなかった、とニコニコ顔で話してくれたよ」
 森も妙に子どもっぽいところがある。駄々をこねたら日本最強の子どもだろう。
「ま、なんにしろこれであの目つきの悪い奴に睨まれる事はなくなるな」
「浅井君の事だが」言いにくそうに榊原が口を閉じた。が、ジョーが目を向けてきたので再び口を開く。「彼が事故に遭った経緯は知ってるね? あの時警察が追っていたのは指名手配中の麻薬密輸団の男で、細い横道から実にいいタイミングで浅井君のバイクが飛び出してきたらしい。おかげで男には逃げられた」
「つまり浅井はそいつらの仲間で、男を逃がすためにパトカーにぶち当たったと?」ジョーはベッドから降りソファに腰掛けた。精悍な、JBのSメンバーの貌になっていた。「仲間を助けるためとはいえそこまで無茶をするとは思えねえ。一歩間違えば自分があの世行きだ」
「だが彼の父親は貿易会社を経営していて、彼も父親の代わりによく海外まで仕事に行っているようでだ。その密輸団の本拠地がある東南アジアにもね」
「仕事で海外に行っている奴が怪しいならおれ達が一番怪しいよな」
「男が逃げてしまって手掛かりがなくなって浅井君を保護という名目で見張っていたらしい。1週間見張ってやっと目つきの悪い男と接触して、これかっと思ったら─」
「気の毒な事だな」フンとジョーが鼻を鳴らした。新宿署の連中の喜ぶ顔と落胆する顔が目に浮かび楽しくなった。「で、なんでおれにこんな事教えるんです? まさかおれに浅井に付けというんじゃ─。それともチーフ公認で首を突っ込んでもいいと」
「いや、事実がわからないと君は勝手に動き出すだろ?これで君はおとなしく入院生活を楽しめるというものだ」
「シャワーに男の介助が付くんじゃ楽しめねー!女性看護師がいい!」
「それなら師長を付けるよ」
 言ってしまってから榊原は気まずい顔になった。彼も敬子が言た事の内容を知っているのだ。
 だがジョーは問い質す事はしなかった。軽い頭痛がする。ソファの背もたれに頭を預けた。
「どうした?」
「・・急に・・・眠くなって・・・」
「ベッドに戻りなさい」
 榊原がジョーに手を添えベッドに寝かす。枕に頭を押し付けジョーが細かい息を継ぐ。パジャマの胸を開け榊原が聴診器を当てた。
「浅井の退院はあさってに変わりないんですか?」
「いや、明日になったが君には関係のない事だ」ジョーが落ち着いたので榊原がトレイを持って立ち上がった。「次の食事にステーキをつけたかったらおとなしくしている事だ」
 そう言い、ジョーが目を瞑るのを見るとそのまま病室を出て行った。



                                     4 へつづく





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スクール・ララバイ 2


 目が覚めて─ ジョーは一瞬自分の置かれている状態がわからなかった。
 ひとつには見慣れた室内ではなかった事、もうひとつはなぜか目覚めが悪くぼおっとしていて頭が働かなかった。
「寝すぎだぞ、ジョー」ベッドの横に榊原が立っていた。「丸1日寝ていたよ。気分はどうだ?」 
 その言葉にジョーが眉をしかめた。なぜそんなに寝てしまったのか。もっとも今はベッドにいるしかないのだ。寝てても起きていても変わらないのだが─。
 いや、それよりも─。
「・・師長さんは・・・」
「内科の回診に付いているが・・・何か用かい?」
「・・・いえ」
 そのまま再び目を瞑る。
 寝すぎというのは本当だろう。かったるくって何も考えたくない。榊原が何かを言って病室を出て行ってもジョーには聞こえてはいなかった。
 しかし、さすがにもう眠る事はできない。
 ジョーはソッと体を起こしてみた。まだあちこち痛むが今までよりはましだ。
 少し良くなるとつい動きたくなってしまうのが彼の悪いところだ。点滴が外れているのをいい事にベッドから下り、窓際に立った。
 都心には珍しく雲ひとつない爽やかな青空が広がっていた。新宿副都心のビル郡もくっきりと見える。
 と、ノックがした。
「起きていていいのか、ジョー」
「西崎」ジョーが入ってきた同僚に向き直る。「痛みが引いたから大丈夫さ」
「そうか? でもなんだか顔がぼおっとしてるぜ」
「ちょっと寝すぎた。他にする事もねえしよ」
 そう言いながらもベッドに戻って腰掛けた。
「すごい病室だな。君はいつからVIP になったんだ?」
「それよりアンディ達は捕まったのか?チーム3が動いていると聞いたが」
「逃走車両は発見されたが中身・・はまだだ。もう日本にはいないだろうな」ため息をつきソファに腰を下ろす。「担当はチーム3に移った。おれは地味にデスクワークさ」
「そうか・・・」
 ザーツの人間にここまで迫れたのは稀な話だ。だが一度取り逃がしたら二度とその手を掴む事はできないだろう。ボルツァーノを知っていたアンディ─奴とは二度と会いたくはないが・・・。
「で、神宮寺もおとなしくデスクワークか?」
「いや、彼は同窓会で箱根へ行ったよ。一泊旅行だ」
「同窓会?」ジョーの眉がピクッと動く。「温泉に入って豪華な料理食って芸者を呼んでドンチャン騒ぎするのか? 一緒に踊ってジャンケンして─」
「・・・君のそのイメージは、どこから来るんだ?」
「そんな堕落(?)した奴はおれの相棒じゃねえっ」
「いいじゃないか。旧友に会って話をして・・・、初恋の娘(こ)がいてそこから想いが再び─」
「そーいうのを〝焼き魚に火が点いて真っ黒〝って言うんだろ。結局焦げちまってダメじゃん」
 ケラケラ笑うジョーに、誰がそんな事を教えたんだろうと思ったが、
「このところ君達は出ずっぱりだったからな。内容もハードだったし、榊原さんがチーフに提言したらしい。君が入院しなかったら一緒に休暇を取れたのにな」
「・・・ンなもの、ほしくねーよ・・・」
「神宮寺には必要だぜ。色々考える事もあるだろうし」
「あいつがこの仕事をやめた方がいいと思っているのかよ」
 それは以前自分が思った事だ。
「そうじゃない。続けて行くためにも少し仕事から離れて外から自分を見る事も必要だと言っているんだ。この旅行はいい機会だと思うよ」
「芸者にお酒注いでもらってデレデレしていても?」
「何を見たんだ、いったい」
「あいつおれに“なに考えてるんだ!” って怒る事があるけど、おれだってあいつが何を考えているのかわからない時がある」
 ジョーがテーブルに飾られているカーネーションの花びらを1枚引っ張った。それをテーブルに落としていく。
「もちろん他人の考えている事なんてわかるわけないけど、これが仕事中だとけっこう面倒な事になる。犯人前にしてケンカだ」
「タフが売りの神宮寺もけっこう疲れてたみたいだからいい気分転換さ」
「芸者と歌って踊れば神宮寺もリフレッシュして帰ってくるかな」
「どうしても芸者が付いてくるんだな」
 苦笑しながらも西崎は頷いた。
「じゃあ、いいや。迫力のねえあいつなんて見たくねえもんな」プツプツと花びらが増えていく。「おれ、しばらくここに居ようかな。そうすればあいつにも仕事が入らねえだろう」
「君がそれで我慢できればね」
 ん~ と唸るジョーの貌に疲れが見えた。居たくなくてももうしばらくここに居なくてはならないだろう。
「おれ、もう一度JBに戻るから」
「今度来る時、サンドイッチを─」え? と振り返る西崎にジョーは口を閉じた。神宮寺ではなかったっけ・・・。「いや、食事制限されてるんだった」
「退院したら奢ってやるよ。杉本さんのサバの味噌煮バージョン9!」
「ゲッ! いつの間にそんなっ!」
 楽しみにしてろよ~ と西崎が出て行った。
 さっきまで自分を包んでいた重い空気が消えているのに気がついた。
 人と話すというのは良い事かもしれない。たった一泊だけど、仕事を忘れて友人と話せばきっと元気になって戻ってくる。さらに芸者と踊れば以前のようなスーパー神宮寺に─。
「見たくねえな・・・それは・・・」
 ブルル・・・と悪寒がしてジョーはベッドに潜り込んだ。

 昼を少し過ぎた頃、神宮寺達は箱根湯本駅に降り立った。
 平日だが駅前商店街はけっこうな人出で、あちこちで温泉まんじゅうを蒸す湯気が上がっている。
「ハラへったァ」体の大きな市井が言った。「いつもの店で蕎麦食おうぜ」
 年1回の同窓会旅行の大半はこの箱根だ。うまい店は承知している。
「その前に原口と合流しなきゃ。あいつを置いて行くと怖いぞ。─ おー! 原口!」
 内田が手を振る方から背の高い男が走ってきた。
「待たせてすまん。─ 久しぶりだな、神宮寺」
 差し出す手を神宮寺が無言で握り返す。長髪の、真っ直ぐな瞳を向けてくる原口は昔とちっとも変わらなかった。

 中1の時、弟を交通事故で亡くした神宮寺は車に対する怒りと恐れから通学のバスにも乗れなくなってしまった。しかし遠足でバスに乗らなければならなくなり─この時、“うちのクラスは歩いて行こう” と提案したのが原口だ。
 実際、歩きで行ける距離ではなかったが、クラスの皆は賛成してくれた。
 それからまもなく神宮寺はバスや車に乗れるようになった。

「変わらないなァ。いや、昔よりいい男になったか?」
「口のうまいところなんてお前も変わらないな。いや、少しはいい男になったかも」
「男2人で慰めあってないでさ~、メシ食いに行こうぜ~」
 再び市井が声を上げた。
「まったくムードないんだから」里穂が市井を睨む。「だからさゆりに振られたのよ~」
「中学の頃の話するなよ~
「だって中学の同窓会じゃない」
「振られた話は無しだぜー」
「そーいえば3年間でナンバー1だったな。市井が振られた回数」
「ナンバー2の内田に言われたくないよ」
 と、賑やかに商店街を進んでいく。
 ふと神宮寺が足を止めた。振り返り、何かを捜すように頭をゆっくりと動かす。
「どうしたの?」
「いや・・・。誰かに見られてるような気がして・・・」
「あー、そうだろうさ。神宮寺はいつも女共の注目の的だ」
 ってなによ~、と女子から攻撃を受ける市井を尻目に神宮寺は再び後ろを向いた。人通りは多い商店街の─ しかしその中に知っている顔はいなかった。いや、向こう・・・が神宮寺を知っている事も─。
「行こう、神宮寺君」
 腕を取られ引っ張られた。
「あー、ドサクサに紛れて。ずるいわ、笙子」
 女子達の声に神宮寺は仕方なく前を向いた。だが視線は消えてはいない。悪意も感じられた。
(まさか・・・こんな所まで・・・)
 万一の場合彼らを巻き添えにしてしまうかもしれない。今すぐ彼らから離れた方がいいのでは・・・。
 しかし神宮寺は彼らと別れる事はできなかった。

 昼食にやっと薄く切ったハムやスクランブルエッグが出た。かぼちゃのポタージュは苦手だが空腹だったのでとりあえず流し込んだ。パンは焼きたてでうまい。
 VIP の豪華な食事、とはいかないが食器は全部カラにした。
「こうなったら次は退院だな」
 と、勝手に決め廊下のカートにトレイを返すついでにフラッと病室を出た。
 動いてみると痛みもほとんどなくスムーズだ。やっぱおれは動いていないとダメなんだな、と思う。
「神宮寺には悪いが、やっぱ早く退院したいし」
 ジョーは入院中の体力回復によく階段の昇り降りをする。見つかると怒られるが、病院で階段を使い人はあまりいないので大概はフリーパスだ。
 今もそうしようと思ったのだが─ ふと屋上庭園の入り口が目に入った。
 この病棟はジョーがいつも入る312号室のある病棟とは離れているのでこの庭園にも来た事はない─ はずなのだが・・・。
  ジョーは不思議な感覚を覚えた。
 庭園はツツジなど低木が植えられ、その間に小道が巡らされている。以前入院した神奈川の大学病院の庭園と似たような造りだ。
 しかしその時は何も感じなかった。なのに今、目の前にあるこの場所に、そしてそこから見える周りの風景に─確かに見覚えがある。
 ジョーはゆっくりと小道を歩いてみた。一先一番端まで行き、金網越しに眼下を見た。が、そこから見た風景には見覚えがなかった。だがこの感覚には確かに覚えが─。
 ちょっと身を屈めてみた。30センチ程屈めると見覚えのある風景になった。小学生の頃の身長だが・・・。
「アサクラ、か?」ふいに呼ばれジョーは驚いて体を伸ばした。振り向くとそこには同年代の男がいた。「ジョージだろ? おれだよ、中学で一緒だった─」
「・・・アサイ?」
「やっぱりジョージか! そうだよ、アサイ・アサクラの浅井さ」
 10センチ以上小柄のこの男はジョーの中学の同級生だ。出席番号でひとつ前だった浅井は、隣に座る頭ひとつ分大きなジョーに臆する事なく、“よろしく” と笑いかけた男だ。
 戦国武将の〝浅井・朝倉〝 を捩って2人まとめてよくそう呼ばれていた。
「髪と目の色が昔と違うから最初はわからなかったよ。でもこうやって正面から見るとやっぱりアサクラだな」
「こんな所で何をしてるんだ?」
「バイクで事故って腕を骨折したんだ。もう大丈夫だけど」病院なんだから入院しているのに決まってるだろーと、浅井が笑う。「君はどうしたんだ?」
「─車で事故って─」
 浅井がベンチに腰掛けたのでジョーも隣に座った。
 街中なら通り過ぎてしまったかもしれないがここではそうもいかない。それに神宮寺が中学の同窓会に行った、と聞いた後で自分も同級生だった奴に会うなんて・・・。
 普段なら避けて通るようなこの状態を、ジョーはあっさりと受け入れていた。
「君も事故か」ジョーのパジャマの胸元から覗く白い包帯に目を向け浅井が言った。「おれの事故はひどいぜ。警察が逃走車両を追っていて巻き込まれたんだ。おかげで左腕骨折の全身打撲で一週間入院した」
 ドジな警察だ、とジョーは思った。
「新宿中央公園の北側の交差点でさ。対向車がいなかったのが不幸中の幸いだって言われた」
 と、言う事は担当は新宿署か?
「君はどこで?」
「・・・・・」
 なんと答えればいいのか、ジョーが迷っていると、
「相変わらず自分の事はあまり話さないなァ」浅井が笑って受けてくれた。「それにしても中学の頃は金髪だったのにすい分くすんだくすんだ・・・・色になったな。枯葉みたいだ」
「ああ、高校に入る頃には─」
 そうだ、おれは中学の頃まではブロンドだった。ではあれは・・・目の前に流れる金色の髪は・・・おれ?
「どうした?」突然黙り込んでしまったジョーを浅井が覗き込む。「気分が悪いのか?」
「・・・いや」
 息をついて浅井に目を向けた。瞳の色も違うと浅井は言っていたが、今の方が深く不思議な色合いだ。
 中学入学時で170センチを軽く超えていた長身のこの男は、さらに金髪と青い瞳を持ち校内でもかなり目立ってた。
 勉強もスポーツもそこそこ出来て女の子の人気も高かったが、そういう事には一切興味を示さなかった。
 今はその頃のように外見では目立たないが独特の雰囲気と存在感で人々の目を引き寄せる。
「悪い。・・・おれもう戻る」
「うん、もうすぐ午後の回診だしな。1人で大丈夫か?」ああ、と返事をするジョーと共に園から病棟へと移り、「おれの部屋はこの五つ向こうだ。ひまだったら来てくれよ」
 と、手を振りながらジョーとは反対の方へと歩き出した。そういえば浅井はどこかの会社の社長の息子だった。だからこのフロアにいるのか、と踵を返し、ふと振り返る。
 2人の後から庭園を出てきた男がジョーを見ていた。がっちりとした目つきの悪い男だったが、
(同業者、か)
 直感でそう思った。



                                3 へつづく



Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

『自動車会社のコラボでジョーが』


 ブロ友さん情報。

 熊本トヨペットという自動車販売店が科学忍者隊ガッチャマンとのコラボをHP に出している。

 え、こっちはコンドルではなくダブルJ なのではって?
 そうなのだが、このコラボでコンドルのジョーがお勧めする車がハリアとC-HR なのだ。

 実は最初にこの企画(HP)を見た時は、『ジョーにお勧めする車両』なのかと思った。
 なので、

「おお、(なぜか)わかってるー。ハリアはもう使っているしC-HR も考え中だ。まさしくドンピシャ! よくわかったね~」

 な~んて、1人でキャイキャイしていた。
 が、よく読むと、『ジョーがお勧めしてくれる車両』だった。
 ま、なんにせよ、この2台をジョーが選んだのはグーゼンでもすごい。

 ハリアはJB の捜査車両の1台で主にダブルJ が使用している。
 SUV なので機動性があり大きく、捜査によっては車内で寝泊まりするための最低限の装備もある。
 淳が設定した時のハリアは初代で、今のハリアより車体が少し大きい気がするが。

 淳注目のC-HR は去年人気№1のSUV 車。ただしダブルJにはまだ登場していない。
 恰好いいのでどこかで使おうと考えているが、ジョーが乗る車のイメージとちょっと違う。(彼はセリカSS-Ⅱを前の事件で壊したままで、まだ新しい車を決めていない)

 SUV なのでやはり捜査車両かな。
 でも、こちらは寝泊まりするには狭いだろう。

 このお店に行ったらジョーにお勧めされるのかな~。
 いいな~。(だから^こちらはコンドルさんではないって)




Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

スクール・ララバイ 1


「内田か? 神宮寺だ」
『おー、久しぶりだなァ、神宮寺』
 携帯電話からいつも元気な友人の声が響く。
「先日の、キャンセルが出たからってお誘いの件だがまだ空きはあるか?」
『ああ、あと1人分だが、なに? 参加できるの?』
「うん、急に休暇が取れて・・・2日前で悪いんだけど」
『なに言ってる、大歓迎さ』
 中学の同窓会を箱根1泊旅行で行うと幹事の内田から連絡が来たのは1ヶ月程前だった。だが仕事上参加は無理だ、と神宮寺は不参加の返事を出した。
 が、10日程前にキャンセルが出たので行かれる人は連絡をくれ、と内田からの電話が回ってきた。
『今回は少人数の予定が本当に少人数でな。君を入れて8名だ。就職した奴らが多いから仕方ないが、でも君が参加するといったら女子がうるさいぞ。もっと早く知らせてくれたら君をエサに女子を誘えたのに』
「エサってなんだよ」
 苦笑し─ 言ってしまってからジョーの言い方に似てるな、と思った。その目をいつも彼が寝っ転がっているソファに向けた。
 ポカリと空いたその空間がとても広く感じた。

「休暇、ですか?」
 神宮寺は目の前に座る森を見つめた。
「うむ。榊原さんからの提言でね。今回のMOX エンジンシステムの件は長丁場だったし、君の勤務記録を確認したら最低限の休暇も取れていない。管理課からも指摘があった」
「しかし、ジョーがこんな時に自分だけ休暇を取るというのも・・・」

 3日前、MOX エンジンシステムを搭載したマークXからMOX ボックスを回収したジョーは、衝突間際の車から飛び出し地面に転がった。腹にMOX ボックスを両腕で庇うように押し付けていたので受身が取れず、おまけに飛んで来た車体の一部に当たり全身打撲の重症を負った。
 神宮寺から連絡を受け榊原が受け入れ態勢を整える。
 その際少量の血を吐いたと報告があり、肺からの喀血かと懸念したが一目見て胃からの吐血だとわかった。すぐに抗潰瘍薬が投与された。
 それから1日意識が戻らない状態が続いたが、早期の治療と持ち前の体力で2日目の朝には目を覚まし榊原と話せるまでに回復した。今日の午前中に神宮寺が寄った時にはカップ半分ぐらいだがスープを飲んでいた。が、退院するまでにはもう何日か掛かるだろう。

「ジョーの事は君がヤキモキしても仕方がない。榊原さんに任せておけば大丈夫だ。休みは取れるうちに取っておいた方がいい」
 MOX ボックスは回収できたがアンディを始めとしたザーツの連中を捕まえる事はできなかった。追跡捜査はチーム3の担当となった。
「私としても榊原医療部長の意見は尊重したいし」
「・・・同窓会に、行けるかな・・」え? と森が聞き返すのへ、「あさって同窓会の旅行があるんです。一泊で箱根ですが今まで一度も参加できなくて」
「榊原さんは自宅でゆっくり休むように言っていたが一泊なら行って来たらいい。箱根なら近いからすぐ東京に戻ってこれるだろう」
 ニッコリ笑顔で言う森に、やっぱり何かあったら呼び戻されるんだろうなと半ば諦め顔で神宮寺はチーフ室を出た。
 だが、6階に戻るとすぐに幹事の内田に電話を入れた。

「ねえ、師長さん。なんで今回おれこんな高い部屋に入れられてるの?」
 ベッドの背を少し起こしジョーが訊いた。
 見るとそこはいつのも312号室ではない。部屋の広さは倍近くあり、内装も豪華だ。10階なのでベッドからは本当に空しか見えない。
「312号室は改装中なの」師長─榊原敬子看護師長は榊原医療部長の姉だ。今回はジョーの担当らしい。「脱走する患者がいるから鉄格子を入れるとか入れないとか─」
「ひでェ・・・」とクサるジョーに敬子が笑った。「こんな高い部屋に何日もいたらまた借金が増えそうだ」
 特別室ではないが、このフロアに入院するのは金持ちが多い。病室もそれなりに豪華だし、隣接した病棟の屋上を利用した庭園にもすぐに出られる。食事も豪華らしいがジョーはまだお目に掛かってはいない。
 もっともJB持ちなので、ジョーはここで暮らしても大丈夫なのだが。
「ところでおれいつになったらメシ食えるんです? ハラへって病院で餓死なんてまっぴらだ」
「午前の診察で潰瘍がまだ完治していないので、固形物の摂取は明日以降になると院長が言ってたわ」まるで幼稚園児のようにダダをこねるジョーを、しかし穏やかな表情で敬子が取り成していく。「もう1日我慢してね。その代わり院長のお許しが出たらチョコレートでもケーキでも差し入れしてあげるわ」
「ガキじゃあるまいし・・・」
 母親と同じくらいの年齢の相手に、ジョーもあまりきつい事は言えない。手際よく包帯を換え、点滴を調整する敬子をじっと見ている。
 実際、空腹はあまり感じない。だが車から飛び出しそのまま地面を転がった際の打撲で全身が悲鳴を挙げている。何か言っていないと呻き声がもれそうだ。そんな格好悪い事はいやだ。
 ジョーは枕に頭を押し付け、知らずうちに大きく息を吐いた。
「鎮痛剤を入れたから少しは痛みが緩和されるわ。ベッドを戻す?」
「いや・・・このままで」
 ジョーは目を瞑りそのまま眠りに落ちそうになる。催眠剤を入れたのかな? と思ったとたん目を開けた。病室を出て行こうとする敬子を止めた。
「師長さん、おれが子どもの頃、事件の後に入院したのを覚えてる?」
「・・・ええ」小さく頷き敬子はもう一度ベッドのそばに戻って来た。「報道規制がされていたのにここに入院した事がマスコミに知れて、父が苦慮していたわ」
 アサクラ氏の事件は報道規制がされていたのだろうか。そんな話は聞いた事がない。
「ここは完全看護だから夜間の泊り込みは禁止されているけど、父があなたに関してはご両親の泊まり込みを許可して、病室にエキストラベッドを持ち込んで─」
「・・え」
 両親? その時にはもう両親は亡くなっているはずだ。入院の付き添いなどできるはずはない。敬子は誰か他の子どもと間違えているのだ。
「師長、それはおれじゃなくて─」

─ ジョージ! ─

   え? 

 突然ジョーの周りに風景が飛んだ。どこかわからないところに立っていた。右手が痛い。

  誰かが強く掴んでいた。 

   放して! 

 ─ ジョージ! ─ 

 男の声が彼を呼ぶ

    放せ!

 目の前を金色に光る髪が流れた─

「ジョージ君、どうしたの?」
 敬子がジョーの顔を覗き込んだ。
「う・・・」
 自由になる右手で口元を押さえ、ジョーは全身を震わせている。顔面は青ざめ、目は何かを探すようにキョロキョロと動き回る。頭の片隅で何かが光ったような気がした。思わず瞳を閉じる。が、それも長くは続かなかった。
「ジョージ君、おちついて、大丈夫だから」何が大丈夫なのかよくわからないが、敬子の言葉にジョーは次第におちつきを取り戻していく。「いい話ではなかったわ。ごめんなさい」
 その言葉にジョーが首を振った。言い始めは自分だ。敬子が悪いわけではない。
「・・・師長・・今の話・・・」口が渇いたようにうまく声が出せない。おまけにとても眠い。「・・話を・・・」
 だがジョーはそのまま眠りに落ちた。
 白いシーツの上を枯葉色の髪がサァと流れる。その髪をソッと整え敬子が小さく息をついた。

「逃走車両が発見されたって?」
 神宮寺が目の前にトレイを置く洸を見上げた。
「N システムでアンディ達が使ったと判明した車さ。所沢に乗り捨てられていたって」
 アンディ達の行方を追っているチーム3から聞いたのだ。同チームの巻は一平や洸の養成所の同期だ。
「もちろん奴らの行方はまだ掴めていないけどね」
「・・・そうか」
 飲もうとしたコーヒーを、しかし彼はトレイに置いた。
 明日からの休暇のために今日はいつもより少し早く出て来た。書類の整理をして早めの昼食を摂りに食堂に来たのだが。
「この分ではいつ呼び出しが入るかわからないな」
「そんな事気にするなよ。いざとなったらおれ達が出るから」クルッとフォークにパスタを巻きつけ一平が言った。「同窓会旅行か、いいなあ。ジョーには言ったの?」
「いや、言うと、“おれがスープしか飲めねえのになんでお前が豪華な料理食うんだよ!” って言われそうで」確かに~と2人が笑った。「何かあったらすぐにリンクに入れてくれ」
「大丈夫だってば。それよりお土産忘れないでね~」
 トレイを片付け食堂を出て行く神宮寺に洸が手を振った。
「あの調子で遊べるのかな。遊ぶ時は何もかも忘れてパーと思いっきり遊ばないとかえって疲れるのに。神宮寺らしいけど」
「お前は忘れすぎだ、洸」一平がチロリと横目を洸に流した。「張り込みの最中に休日の事を考えていて。もう少しでマル対を見失うところだった」
「それって養成所の訓練の時の話じゃん!」
「だけど、さっきの神宮寺の言い方・・・ジョーに似てたな・・」
「うん・・・、ぼくもそう思った・・・。神宮寺もジョーみたいになったら・・・」
 なにかとても恐ろしいことを口にしたようで2人は全身をブルル・・・と震わせた。

 その頃神宮寺は4階の捜査課に顔を出していた。
「アンディ達の車が所沢で発見されたのはおれも聞いてる」珍しくデスクワークに就いている西崎が言った。「チーム3が周辺を洗っているがまず無理だろうな」
 ダブルJとタッグを組んだチーム1の任務はザーツのメンバーの確保だった。だが奴らはMOX エンジンシステムの車を暴走させるという混乱の中うまく逃げ延びた。
 西崎は引き続きこの事件の担当を望んだがチーム3に移行された。
 途中で担当が代わる事は決して珍しくはない。が、西崎達チーム1の悔しさは容易に想像できる。
「ヘタしたら、もう日本にいないかもしれない」
「ジョーが奴らのコンピュータのデータを消却したと言っていた。残っていたとしてもあの爆発でコンピュータ自体使い物にはならないだろう。データが流出しないだけマシか」
「ん・・・。ところで明日から同窓会で箱根だって? いいなァ、おれも温泉に浸かりたい!」
 その言葉に周りから、“土産は温泉まんじゅうな” “蕎麦もうまいぜ” と声が飛ぶ。
「まったく・・・。君といい一平といい、どこから聞いてくるんだ?」
「そんなの決まってるだろ」西崎がツンツンと指で上を指し示した。2つ上は6階、ダブルJ やJB2の部屋がある。「でも君は事件の事は気にせず温泉を楽しんで来いよ。友人に会って話して笑って・・・。そうすればまた活力が出る。明日に向かって行かれる」
「・・・うん」
 一時、期神宮寺が悩んでいた事を知っている西崎の言葉に彼は素直に頷いた。そしてこの2日間呼び出しがなければいい、と本気で思った。

「すみません、院長。私、間違えたようです」
「師長は10年前・・・・の事件の時のジョーの担当看護婦だったんだから仕方ないですよ」敬子と共に病室を出て榊原が言った。「だけど彼は本当に覚えていないのだろうか・・・」
 昨日、敬子と話してから眠りについたジョーはそのまま翌日も眠り続けていた。
 昏睡などという危険な状態ではなく、ただ眠っているだけだ。まるで彼の脳が記憶の調整をしているように・・・。
 榊原はそれを止める事はできなかった。

 カーテンを開けると真っ青な空が一面に広がっていた。
 神宮寺は昨夜の残りのシチューを温め直し、卵とハムを取り出して朝食の準備を始めた。
 1人暮らしをはじめて4年。朝食は行きつけのサ店かJBで摂る事が多いがこの作業は嫌いではない。
 ジョーはよく朝食を抜くらしいが神宮寺は朝食だけはキチンと食べるようにしている。
「朝メシ食わないであの体を維持してるんだから、ある意味すごいよな」
 ジュッと卵の焼ける音がした。
 昨日早めにJB を出て新宿で買い物をした。男の一泊旅行に大した荷物はないが、新しいジャケットを1枚買った。お気に入りだったジャケットは前の事件の時に焦げてボロボロになってしまった。ジョーと同じで彼の服も長持ちはしない。
 ふとジョーの所に寄って行こうかと思ったが─ やめた。
 明日から久々の休暇、それも友人に会えるという事で自分でも浮ついているのがわかる。そんな顔をジョーに見られるのはいやだった。
 それに今日は西崎が見舞いに行くと言っていたので、彼から相棒の休暇が知らされるだろう。
「西崎に当たらなきゃいいけどな」
 食器を片付け小さなバッグを持ち部屋を出る。集合場所の新宿までは中央線で5分だ。

「神宮寺ー!」
 ロマンスカーのホームに元気な内田の声が響いた。神宮寺も手を上げ応える。
「キャー! 本当に神宮寺君だァ!」
「久しぶり!でかいなあ」
 黄色い声と太い声が入り混じる。
「山村さん、安木、市田─ 皆久しぶり」
 中学を卒業して8年。皆すっかり大人になったが、こうして会うと当時の顔が浮かび上がってくるから不思議だ。
「神宮寺が参加するのは初めてだな」
 変わらぬ大きな瞳の市田が言った。
「いつも連絡を貰っているのに申し訳ない。今回も急で内田には面倒かけた」
「かまわないさ。うちの親戚の旅館だから融通が利くし」
「私、夕べ恵美に神宮寺君が参加するって電話したの」短めのサラサラヘアを揺らし美加が言った。「そうしたらひどく残念がってたわ。早く教えてくれなかった内田君を恨むって」
「なんでおれが恨まれるのよ~
 皆の笑い声と共にロマンスカーに乗り込もうとして、
「あれ? 8人じゃないのか? 1人足りないぞ」
「原口は小田原だからな。現地集合なんだ。─ お、ここだ」
 クルッと座席を回し、女の子達に席を勧めて自分もちゃっかりその横に腰を下ろした。
「おい、女子3人を1人締めかよ」
 中学時代サッカー部だった安木が口を尖らせる。
「私、神宮寺君の隣がいい」
「内田君、向こうに座ってよ」
「神宮寺君、こっち」
「・・・お前、やっぱ参加しなくていいわ」
 ジト目の内田に睨まれ神宮寺が肩をすくめた。



                                 2につづく