コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
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闇に輝く光の下(もと)に 9


「栃木? MOX エンジンシステムの電波は栃木から発信されたのか?」
『中禅寺湖の近くだ。データを送る』と、モニタに映った高浜が消え北関東の地図が表示された。中禅寺湖と戦場ヶ原の間に赤い点が点滅している。『その赤い点の周囲5キロ以内だそうだ。これ以上は通信課でも無理だ』
「わかった。西崎に伝えて出動の準備をしてくれ」
 ラジャと声だけが響く。
 ジョーとの通信が途切れてすでに1時間が経つ。向こうの様子がわからないのでこちらからは入れないようにしているが─。
 と、室内フォンが神宮寺を呼んだ。

 ─ お前の名前は? ─ 所属を答えろ ─ 国際警察か? ─
 同じ声が同じ言葉を繰り返す。ジョーの耳に入り込み、しかしすぐに出て行った。
 後に残るのは白い空間、そして混沌 ─
 ─ 同じ声が同じ言葉を繰り返す。ジョーの耳に─

「だめだ。こいつ何もしゃべらない」スコットが舌を打った。「もう1本打つか?」
「これ以上打ったらかえってしゃべれなくなるぞ」
 イスに後ろ手に結わかれているジョーを見下ろしアンディが言った。

 建物内から不審な電波が出ているのを調べに行ったスコットを振り切り、ジョーが逃げ出した。だが途中研究室に入り、侵入者対策用の空気銃に撃たれ気を失っているところを見つけ尋問しているのだが、
「交代するよ、スコット。後はおれがやる。君は車の方を見てくれ」
 OK とスコットが出て行った。と、ジョーがゆっくりと顔を上げた。ぼやけた視線を目の前に立つ男に向けた。それがアンディだとわかったのだろう。目を見開き光が戻る。ジョーのブルーグレイの瞳が真っ直ぐにアンディを射る。
「やはりよく似ている。いや、お前の方が深く神秘的だ」
 アンディはジョーのアゴに手を添えグッとさらに顔を上げた。小刻みに息を継ぐジョーは一瞬目を眇めたが、それでもアンディから目を離さなかった。
「お前、イタリア人だろ。ボルツァーノを知ってるか」
「!」
 ジョーの貌が固まった。驚愕に震える唇を、だが必死に噛みしめる。
「お前と同じイタリア人で同じ目の色をしている。いや、お前より少し薄いかな」
「・・・おれはイタリア人じゃない。ボルツァーノなんて奴は知らない」言葉が震える。それを隠すためゆっくりと口を動かす。「木梨が、ザーツにはイタリアのマフィアが出入りしていると言っていた。そいつがそのボルツァーノという奴なのか?」
「それは昔の話だ。ボルツァーノはおれがイタリアにいた頃の対立相手でね。ひどい目に遭った。お前があいつの一族ならちょっと仕返しさせてもらおうと思ったが」
「・・・ザーツには出入りしているイタリアマフィアはいないんだな」
「手柄にならなくて悪いがいないね。木梨の奴、お前を見てとっさに言ったんじゃないのか?」
(いない・・・)
 その言葉を噛みしめてジョーはイスの背に頭を預けた。枯葉色の髪がサァと流れる。安堵感で今の状態などどうでもよくなってしまう。
「寝るのはまだ早いぞ。お前の所属部署を言え」
 グッとジョーの髪を掴んだ。
「走行テストに協力してやったのにこの仕打ちかよ」
「元々はおれがドライバーを務めるはずだった。だけど以前お前に撃たれた傷が治ってなくて─。だからお前が協力するのは当然だ」と、勝手な事を言い、「そうだ。お礼にいい物を見せてやろう」
 アンディはパソコンを立ち上げモニタをジョーに向けた。
「お前も見ただろう。MOX エンジンシステムを搭載したマークX だ。お前のおかげでボックスは無事だったからな。以前から用意していたマークX に移動できた」
「こりねえな。あんた達が造った試作品は不完全だ。危ないぜ」
「その危なさをアピールする。人のたくさん集まる所で暴走したらどうなるかな」
「な、なんだと」
 ジョーの全身に力が入る。ロープがギュッと体を締め付ける。
「この車は日本政府がバックとなり開発され、危険なMOX を動力として用いられている。そしてこれが事故ると大惨事になる。と、説明して爆走してみせる。そのキャンペーンをしてくれるのがあの公安官だ。さしずめMOX エンジンシステムのキャンペーン・ガールだな」
「せ、関がキャンペーン・ガール・・・」ふと脳裏に浮かんだ映像を─ ジョーは頭を振って払い除けた。「そんな気色悪い事はやめろ」
「この車は予め行き先を設定できる。止めようとするとMOX エンジンシステムが爆発する仕組みだ。公安官諸共な」そしてアンディはジョーの瞳を覗き込む。「いい眼をしている。ボルツァーノと一緒だ。敵ながら大した奴だった。お前と似ている」
「・・・・・」
〝ボルツァーノ〝 の名をジョーは何回聞いただろう。だが会った事はないし顔も知らない。わずかでも血が繋がっているのなら似ているかもしれないが─。
 ふとロレンツォとトーニの顔が浮かんだ。彼らもそう思っているのだろうか。ジョーとボルツァーノは似ている─ そう思いながらジョーを見ているのか。
「シニョーレ・・・」
 かすかに呟いた。何かをしゃべってしまいたい。何かを・・・。
「話す気になったか? なんでもいいぜ。話してすっきりしろ。そしたらおれ達の仲間に入れる。お前ならすぐ実戦で─」
 アンディの声がだんだん小さくなっていく。何かをしゃべってしまいたいのにそれができないジレンマとずっと戦っている。
 そんな状態から逃れるためにジョーは意識をシャットダウンしようとしたが、
「こらっ、寝るのはまだ早いぜ!」
 思いっきり頬を撲られた。口の中に血の味が広がる。が、おかげでジョーは開きそうになる口をグッと閉めた。と、アンディの携帯電話が鳴った。
「ああ─ そうか。すぐ行く」
 ちょっと残念そうにジョーを見たが、アンディはそのまま出て行った。
 ジョーはホォ・・と息をつき、気が抜けたように目を閉じたが、
「いけねっ、寝てる場合じゃねぇや。関のレオタード姿なんて見たくないぞ」
 ザーツもそこまではやらないと思うが・・・。とにかく後ろ手にされている両手のロープを解きに掛かった。

『こちら立花、中禅寺湖上空です。MOX エンジンシステムからの電波はまだキャッチできない』
「ラジャ。こっちはもうすぐ栃木に入る」ハリアの助手席の神宮寺が言った。「引き続き電波探知を頼む。それからスピードマスターのトレースも」
 ラジャ! と立花が答えた。
「ジョーが連絡を寄こさないという事は、やばいのかな」
 ステアリングを握る高浜だ。後部席には公安3課の木村と山本が乗っている。公安はMOX エンジンシステムの件には関与していないが、アド・・・アンディの確保と関を救出しなければならない。
「あの2人がつるむとロクな事がない。・・・あ、失礼」
 と、詫びる高浜に木村と山本は、“いいえ” “確かに” と苦笑いした。
「あの時、ジョーはあわてて通信を切った」リンクに目をやり神宮寺が言った。「スピードマスターを奪われている可能性もあるな」
 ウッズマンはセリカの中にあった。ジョーは武器を持っていない。スピードマスターだけが彼と神宮寺を繋ぐ物なのだが。
「関さんから連絡は?」   
「ありません。携帯電話に入れても繋がりません」山本が答えた。「部長に報告したら“昔とったナントカで血が騒いだんじゃないか” って」
 関は元々潜入専門の公安官だ。敵地に乗り込んではりきっているのかもしれない。それにしても呑気な部長だ。
「ジョーもはりきるタイプだからな。この2人が一緒に奴らのアジトに乗り込んでいるんだ。なんとかなる・・・かな・・・」
 と、神宮寺が首を傾げた。ハリアは群馬県を抜け栃木県に入った。

「ハァク・・・」くしゃみが出そうになってジョーはあわてて口を押さえた。「なんで急に・・・。くそォ、誰かがおれの悪口言ってやがるな」
 候補者は何人もいる。が、とりあえずそいつらの顔はどこかへ吹っ飛ばした。
 拘束されていた部屋から出てジョーは関を捜している。大きな建物だが人はほとんどいない。ここも一時的な隠れ家なのだろう。
 何本か打たれた自白剤のせいか体が重い。だが気力は萎えていなかった。
 と、かすかに開いているドアの隙間から1台の大型コンピュータが見えた。MOX エンジンシステムのデータが収まっているかもしれない。
 ジョーは慎重に操作していく。と、さっきアンディが見せてくれたマークXジオのデータがあった。
 MOX エンジンシステムを搭載し行き先をインプットすると後は衛星を使って目的地まで自動運転される。タイヤの回転が止まると車体を爆破する装置も見える。
「すげえな・・・」
 感心しつつジョーは設計図やシステム図などを頭に入れていった。
 ひと通り見終わるとジョーはシャツのエリからボタンを引き抜いた。その表面をカジカジと爪で突っつきコンピュータの表面に貼り付けた。
 科研から預かったこれは特殊な電磁波を出しコンピュータ内のデータを消去してしまう。まだ試作品だし容量の大きなコンピュータでは消去を終えるまで時間が掛かる。
 本当はデータを1つ1つ見てMOX エンジンシステムのデータを探し出したいが、キャンペーンに向かうというマークX や関が気になる。
 おそらく神宮寺達がこちらに向かっているはずだ。データの消去は彼らに任せてもいい。

 廊下に戻るとかすかに人の声が聞こえた。突き当りのドアを少し開けると広い車庫のような所だった。
 アンディがいた。スコットも。ケートが関をマークX の運転席に押し込んでいる。関は両手をステアリングに固定され、両足は縛られていた。いよいよキャンペーンに向かうのか。一刻の余裕もない。
 マークX のエンジンが掛かった。と、同時にジョーが室内に飛び込みドアのそばにいたスコットを押さえ、その手から拳銃を奪った。
「動くな! 関を降ろせ!」
「お前は─」
 アンディが銃口を向けた。が、ジョーの銃に弾き跳ばされた。
「関のキャンペーン・ガールなんて見たくねーぜ。早く降ろせ!」
 体を半分車内に入れ止まっているケートに言った。と、アンディが動いた。壁のスイッチを入れる。天井近くから銃が下りて来た。 とっさにジョーはスコットの体を回しその影に入った。 バババ・・・と銃声が響きスコットごとジョーも後ろに飛んだ。思ったとおり空気銃だった。発射されたのは圧縮空気だが、命中すれば気絶させる威力がある。さっきはこれで失敗したが、今はスコットが盾となり気を失わないで済んだ。が、その間にケートは車外に出た。
 マークX が動き出した。前方のシャッターが上がっていく。
「チッ!」
 ジョーがマークX を追って外へ出た。アンディとケートが追ってきてジョーに発砲する。
「あっ!」
 右足に激痛を受け転倒した。が、振り向きざま銃を撃った。ケートに当たりひっくり返った。が、目が眩み一瞬アンディの姿が見えなくなった。
「な、なんで─」
 手から銃が落ち、ジョーは地面に崩れた。
「自白剤の副作用だな。激しい動きをするからだ」
 ニヤと口元を歪めながらアンディが近づいてくる。ジョーは顔を上げ振り返ったが、マークX の姿はもう見えなかった。
「残念だったな。あの車は東京の中心部に向かっている。その途中でも爆発する可能性はあるけどな」
 銃口がゆっくりとジョーに向けられる。
「それからあのシステムには余計な物が付いているようだな。だが取り除いたからもう電波が発信される事はない」
「く・・・」
 ジョーの右手が震えながら落とした銃へと向かう。アンディが二重に見えた。
「お前を仲間にできれば新しい情報源になると思ったが残念だ」
 トリガーに指が掛かった。
 と、遥か上空からバラバラ・・・と音が降ってきた。ヘリコプターが一機こちらに向かっている。
 アンディが驚き見上げた。そのすぐ上でホバリング体勢に入る。凄まじいダウンウォッシュにより、立っているのも難しくその場に膝をついた。
「・・・神宮寺」
 そのヘリの正体をジョーは悟った。と、車が2台近づいてきた。

「ジョー!」
 ハリアから降りて来たのは神宮寺だった。続いて山本や木村、パジェロからは西崎達が飛び出しアンディとケートを押さえようとしたが、
「近寄るな!」立ち上がったアンディがジョーに銃口を向けた。男達がピタリと止まる。「まだ生きてるぜ。それ以上近づくとこいつを撃つぞ」
 地面に倒れたままジョーは動かない。だが彼がこの状況を把握している事は神宮寺にもわかった。
 アンディを刺激しないよう、神宮寺がヘリに合図を送る。ヘリは上空へ戻った。
「そんな事をしても逃げられない。我々の仲間は人質にはならない」
「そっちこそ今頃来ても遅い。MOX エンジンシステムは動き出した。今東京に向かっている」男達の顔が強張る。と、アンディがポケットから小さな機器を取り出した。「このスイッチを押せばMOX エンジンシステムが爆発するぜ」
 そんな物をいつの間に取り付けたのか。アンディは機器を掲げたままケートと後ろに下がっていく。
 と、突然ジョーが動いた。地面に落ちていた銃を掴み、機器を持つアンディの右手を撃った。
「ジョー!」
「きさま!」
 男達の声が重なる。
「そんなもん付けてねえだろっ!」
 ジョーは設計図を見ている。アンディの言った事は嘘だとわかった。が、地面に落ちた機器をケートが拾った。
「押せ!」
 アンディの声と共にケートの指がスイッチを押した。ドガンッ!! と彼らの背後の建物が爆発音を上げた。ガレキや煙が四方に飛ぶ。
「ジョー!」
 建物近くにいたジョーが煽りを食い地面に叩きつけられた。神宮寺が駆け寄る。西崎達は煙に紛れて逃げるアンディ達を追った。
「大丈夫か」
「ま、まずいぜ、神宮寺」
 支える手をすり抜けジョーが走り出そうとするが─ 体が思うように動かず、ドッと倒れた。
「無理するな。右足は掠っただけのようだが他にどこか─」
「自白剤を打たれた。くそォ、今頃効いてくるなんて」
「ハリアで休んでいろ」
 神宮寺はジョーを抱えるようにして立たせるが、
「大丈夫、それどころじゃないんだ。関がキャンペーン・ガールになる」
「・・・大丈夫じゃないな」
「奴の言った事は本当だ。MOX エンジンシステムを搭載した車に関が乗っているんだ」
「なんだって」
 神宮寺はハリアの後席にジョーを押し込み、自分は運転席に回った。PC ナビを入れるが、「MOX エンジンシステムからの電波をキャッチできないぞ」
「その仕掛けは取り外された」ジョーが助手席に移動してきた。小刻みに継ぐ呼吸は辛そうだがその瞳は気力に溢れていた。「マークX を追うしかない」
「おれ達は国道を登って来た。だがマークX には会わなかった」
 神宮寺がPC ナビを操作する。
「反対の道か─ 中根!」リンクでヘリのコ・パイに入っている中根を呼んだ。「MOX エンジンシステムの電波はキャッチ不可能になった。上空から捜してくれ」
 神宮寺がジョーから聞いた車種や色を中根に伝える。ラジャ! と中根が快諾した。
「大丈夫か、ジョー」
 見ると助手席のジョーはシートに寄り掛かり今にも意識を失いそうだ。
「大丈夫だが・・・少し休む・・・」眼を瞑りジョーが言った。「マークX が見つかったら知らせてくれ」
 そしてそのまま眠りに落ちた。
 神宮寺はジョーのシートベルトを確かめ、彼をそのままにしておいた。
 組織的犯罪が増え、S メンバーといえども2人だけで立ち向かうのが難しくなってきた。今回も西崎率いるチーム1がバックアップに入っている。
 だが肝心な時はいつもこいつと2人だ。これでうまくいく。難しい局面を必ず打開してみせる。
 だんだんと穏やかな呼吸になっていくジョーを横に、神宮寺はアクセルを踏み込んだ。





                              10につづく


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闇に輝く光の下(もと)に 8


 虎ノ門にある公安専用の拘置所の入り口が見える所にジョーはセリカを停めた。と、彼が着いて10分も経たないうちに公安のクレスタが1台正面から入って行った。
 ここで関に食いついてみようかと思ったが、ヘタすると尋問の機会を失う事になるかもしれないので我慢した。 
 ジョーはダッシュボードからたばこを取り出しくわえた。が、火は点けずそのままじっと正面入り口に目を向ける。
 警備員が胡乱そうにこちらを見ている。1人が無線で報告をしている。おそらくセリカのナンバー照会をしているのだろう。
 もう少ししたら職質に掛けられるかもしれないが構う事はない。こちらはまだ・・何もしていない。善良なる都民だ。
(いや、脱走罪があるかな)
 ちょっといやな予感がした。自分を逮捕・・しに青い車(ポルシェ)で向かって来る奴を想像した。こいつからは逃げられない─。
 と、目の前をクレスタが通って行った。たばこをメインボードの上に放りジョーがセリカを出した。ドアミラーにあわてている警備員の姿が映ったがすぐに消えた。
 もしかしたら公安車両を追けている怪しい赤い車の報告がクレスタに入るかもしれない。思いっきり顔をしかめる関を想像しジョーは口元を緩めた。

 クレスタはゆっくりと桜田通りを北上して行く。警察庁とは3キロと離れていないのだ。前方に虎ノ門の交差点が見えてきた。
 と、突然横道から大型のワゴンが飛び出して来てクレスタの横っ腹に突っ込んだ。
「なっ─!」
 ジョーはブレーキを踏んだが、クレスタとの間に入っていた2、3台の車は反応が遅れクレスタのリアにぶつかった。セリカも後ろから突っ込まれ、ジョーはステアリングに胸をぶつけた。が、
「関!」
 ジョーが車から飛び出す。
 大型ワゴンから降りて来た5、6人の男がクレスタの後席から男を引っ張り出していた。が、手錠で繋がれているのか関も一緒について来た。
 男達は関に怒鳴っている。山本と木村が男達に銃を向けたが腕を撃たれ銃を落とした。 
 ジョーがウッズマンを抜く。が、追突した車から降りて来た人々が弾道を塞いだ。男と関がワゴンに押し込まれる。
「チッ!」
 ジョーはウッズマンを車内に放り、代わりに1丁の拳銃を手にした。コルト・ガバメントに似た大型拳銃だ。
 発進しようとするワゴンの側面にサイトを合わせ、弾道が空いた一瞬にトリガーを引いた。パンと小さな音だったので、サイレンが鳴り響く音に紛れ聞こえなかっただろう。
 ワゴンが横道をバックしていく。ジョーはセリカに戻り、何度もステアリングを切り返し固まっている車両の群れから抜け出した。
 クレスタが邪魔で横道には入れない。山本が無線を手にしているのを横目で見て、ジョーはPC ナビを入れた。モニタに光る点が移り移動している。
 さっきジョーが撃ったのはトレーサーを逃走する車両に撃ち込む特殊な銃だ。まだ試作品だが科研にテストを頼まれていた。
「よし、このままアジトにつれて行ってくれよ」
 あの男を取り戻したのは仲間だろう。都心のど真ん中でこんな危ない救出をしなければならないほど大物なのか。

 ワゴンは外堀通りを赤坂方面に向かっている。
 ジョーは神宮寺に連絡しようとし─だが、やめた。この事はすぐ国際警察にも知られるだろう。山本や木村はジョーのセリカがワゴン車を追って行ったのを見ている。神宮寺はスピードマスターのトレーサーを追ってくればいい。それに・・・。
 ジョーはできれば1人であの男に会いたかった。1人で訊き、確認したい。その思いが相棒を呼ぶ行為を止めていた。
 車は新宿区を抜け中野区に入った。 
 緊急手配がされているはずだがワゴン車はそれをうまく擦り抜けて行く。まるで検問を行っている場所を知っているようだ。
 西武新宿線の線路を越えた。このまま行けば江古田に出る。
「まさか、研究所じゃ・・・」
 が、新青梅街道に出る前で細い横道に入った。この辺りは緑も多く住宅も建て込んではいない。
 ジョーはステアリングをゆっくり回しワゴンに付いて横道に入った。
 彼は気がついていた。ワゴン車の連中はジョーの尾行を承知の上で誘い込もうとしている事を。
 もちろん願ったり叶ったりだ。

 やがてワゴンは大きな工場のような建物の敷地に入って行った。看板に書かれた社名を検索してみたら1年前に倒産した機器製造業だった。 
 ジョーは門の前でセリカを停めた。と、ワゴンから男達が出て来た。あの男は関と手錠で繋がれたままだ。その関の頭に銃が押し当てられていた。
 あの男─ アドが門の向こうのセリカに目を向ける。ジョーはPC ナビのセキュリティスイッチを入れ、ウッズマンをセキュリティボックスに入れ車外に出た。
 銃を持って出てもこの状況では相手に奪われる。必要なら奴らのをいただけばいい。
 ジョーはゆっくりと正門を通り男達の目の前で止まった。
「ジョー」
「いい度胸だ」関とアドの言葉が重なった。「やはりあいつの一族か」
「──!」
 ドキッと胸が鳴ったがアドから視線を外し、ボディチェックをする男達に向けた。
「ついて来い」関に向けられた銃口をジョーに向け男達は建物の中に入った。「まず手錠を外す。スコット、頼む。ケートはこいつ(ジョー)を見ていてくれ」
 と、関を引っ張り奥へ向かおうとした。
「なんだってそんな無防備な格好でついて来たんだっ」
 擦れ違いざまに歯を剥く関に、しかしジョーは黙ったまま彼を見送った。やがて奥からチェンソーの音が響き、アドがすっきりした顔で戻って来た。ジョーが奥に目を向けると、
「大丈夫だ。向こうでちょっとスコットとお話しているだけだ」
「ここは日本でのあんた達のアジトなのか?」
「違う。ここは一時的に使わせてもらっているだけだ。無断でだがな。しかしもう引き上げる。その前にお前に訊きたい事がある」
 アドの言葉にジョーが怪訝そうな目を向けた。と、ケートの携帯電話が鳴り彼はそれをアドに渡した。
「アンディです」背を向ける男(アド)にジョーはちょっと息をついた。「そうか、まずいな。─ わかった。え? テスト走行? 完成したのか」
 アンディはしばらく相手の話を聞いていたが、
「そうだ、打ってつけの奴がいるぜ。なにせ体験者だ」 
 チラリとジョーを見た。そして携帯電話を切り、その手をいきなりジョーの首筋に叩き落とした。
 ドッと床に倒れた。

「神宮寺、これを」立花が切断された手錠を差し出した。「やはり関さんはここに連れて来られたんだ。だけど今は誰もいない」
 立花は建物内をグルリと見回し神宮寺に戻した。
 関やアドの乗った車が襲撃を受けた事を神宮寺が知ったのは、彼が警察庁に到着して10分も経たない時だった。彼はいつものようにJB から新宿通り経由で来たので事件には遭遇しなかった。
 3課に関や木村、そしてジョーもいなかった。が、ジョーは必ずここに来ると確信していた。そこへ山本から第一報が入ったのだ。
 初動捜査は3課の達村班が出た。
 もちろん神宮寺は加わらなかったのだが、その後に入った情報でジョーがセリカで逃走車を追って行った事がわかった。神宮寺はリンクでジョーを呼んだが応答がない。トレーサーもオフになっていた。
“あのバカ、1人で─ ”
 と悪舌をつき、すぐにJBに戻った。チーム1と共に出動準備をしている時にセリカからのセキュリティサインが入ったのだ。
「遺留品もないし─。仕方がない、一度引き上げよう。そのうちジョーから連絡が入るだろう」 
 そう言う神宮寺だが、果たして彼が居場所を知らせてくるかどうかわからなかった。
 ジョーはきっと1人であの男と話がしたいのだろう。だから今はズピードマスターをオフにしているのだ。だが─。
 神宮寺は床に目を落とした。ポツポツとまだ新しい血の跡があった。

「これは・・・」目の前に置かれた車にジョーが目を見張った。「スカイライン250GT・・・」
「どうせならも同じ物がいいだろうと思って」
「ま、まさかこの車はMOX エンジンシステムの─」
 思わず振り返り─グキッと首の後ろが傷んだ。ジョーは唸って手を当てる。だが目だけはアンディから離さなかった。
 昏倒し気がつくと今までいた工場跡ではなかった。周りはとても静かだ。どんよりとした空気が感じられる。が、ジョーは関と顔を合わす事なくすぐに外へ連れ出された。
 思ったとおり街中ではなかった。周りを樹木が囲み、目の前に広い空き地があった。そこへ出されたのがスカイラインだった。
「お前達が追っていた試作品だよ。このテスト走行をお前に頼みたい」
「な、なんだと」ジョーの目がきつくなる。「あんたらの片棒を担ぐなんてご免だぜ」
「お前はそれでいいが、あのセキという公安官はどうなる? 痛い目をみるのは彼だ」
「・・・・・」
 常套句でおもしろくもない。関なら自分でなんとかするだろう。が、結局ジョーはアンディから渡されたキーを受け取った。試作品がどんな物か確かめてみたかった。
「研究所がテスト走行をした時のようなコースじゃないけどな」
 舗装もされていない剥き出しの地面だ。だがスピードレースをやるわけではない。周囲50メートル程のこの広場を回るだけだ。
 スコットがジョーをシートに押し込んだ。シートベルトを締めキーを差し込む。エンジンを掛けた。グォン!という音が響いた。
 吹き上がりは前の車より遥かによかった。だがかすかな・・・普通のドライバーならわからないようなかすかな振動はジョーにとっては大きな違和感だった。
 とっさにこの車はやばい、と思ったのだが─。
 スコットが車体をボンッ! と叩いた。エンジンを吹かしスカイラインが飛び出した。ドアミラーにコケるスコットが映った。
「うおっ!?」
 だがジョーはそのシーンを楽しむ事はできなかった。
 唸るエンジンの馬力が強すぎる。いや、不安定だ。まるで制御の効かない暴れ馬に乗っているようだ。
「こ、こいつやっぱりやばい─」
 タイヤが4つ付いた物ならなんでも乗りこなすと豪語していたジョーだが、素直にこの車は危ないと思った。
 システムの力に車体の強度が付いていない。各パーツが軋みバラバラになりそうだ。
 それがMOX エンジンシステムが強すぎるのか製造ミスなのかはわからない。わかるのは、この車をぶつけて大破させてはいけない事だ。
「うわっ!」
 2周したところで車体のあちこちからパキッ、ボキンとパーツが折れる音が響いた。ステアリングが緩くなった。一団となっている男達の方へ滑るように向かって行く。
 ジョーはステアリングを思い切り繰った。カララ・・・と音がしたが、わずかのところで男達を避けた。
 ジョーはブレーキを掛けたが効かなかった。このままだと周りの樹木に衝突する。MOX エンジンシステムが爆発したら大変な事になる。
「仕方ねえな」
 ジョーは1本の大きな木にスカイラインを向けた。効かないブレーキもサイドブレーキも全部引いた。わずかにスピードが落ちた。大木が目の前に迫る。
「あいつ!車をぶつけてMOX エンジンシステムをぶっ壊すつもりか!」
 ケートが叫んだ。
「いや、システムは後方にある。前が潰れてもなんとかなる」
 アンディが言った。
 車の制御が効かないのは見ていてわかった。それにしてもMOX を積んだ車をぶつけて止めようとするとは。
「止まれ!」
 サイドブレーキを握るジョーの手に力が入る。爆発したような激突音が響いた。

『捕まえたぜ、神宮寺! MOX エンジンシステムの電波サインだ!』
「やったか。どこだ、高浜」
 神宮寺は車内モニタに映る高浜に言った。
『今、解析中だ。弱くて短時間だった。まだ不安定なのかもしれない』
「わかった。急いでくれ」
 ラジャ! と高浜がモニタから消えた。
 電波がキャッチされたという事は奴らのMOX エンジンシステムが完成し稼動したという事だ。それを何に使ったのだろう。
 神宮寺はリンクのトレーサーを入れた。ジョーのスピードマスターからの応答はなかった。

「気がついたか、ジョー」
 聞き覚えのある声に、ぼんやりしていた焦点がだんだんと合ってきた。
「・・・関」自分を覗き込んでいる男の顔がはっきりしていく。「生きてたのか」
「ひどい言葉だな。膝枕で介抱してやったのに」
 ガバッ! とジョーが飛び起きた。が、すぐに体を屈める。全身がズキズキと唸っていた。
「無茶したもんだ。あれをぶつけて止めるなんて」
「おれ達が無事なところを見ると・・・成功したようだな」壁に寄り掛かり息をついた。「あのシステムが動けば位置を知らせる電波が出る。JB が拾ってくれる」
 ふと周りを見回した。薄暗い小さな部屋だ。ソファが一台置いてある。
「何もない部屋から昇格したな」
「何を言ってるんだ。なんとかここから脱出してMOX エンジンシステムを破壊しないと」
 それはダブルJの仕事だ。
 MOX エンジンシステムの破壊というが、実際にはMOX ボックスを取り出してからの破壊となる。強固な容器に収められていてミカンくらいの大きさだと聞いている。その量でも万一容器から漏れたら大惨事になりかねない。
 だが焦る関とは反対にジョーは動こうとしなかった。
 まだここから出たくない。あの男─ アンディと話をするまでは。
「おい、ジョー」
「それにしても、あんたとはよく一緒に閉じ込められるな。普段の行いが悪いんじゃないのか?」
「おれがか!? って、どうしたんだ、ジョー? いつもの君らしくないな」
「・・・・・」
 ジョーはコツンと頭を壁につけ目を閉じた。
 奴らの試作品は以前研究所が作製した物とは明らかに違っていた。どこか改造したのだろうか。素人目に見ても危険な事だ。
 と、ジョーが目を開けた。その目をドアに向ける。カチッと鍵が開けられた。
「気がついたか」入って来たのはアンディとケートだった。「丈夫だねぇ」
「車は・・・MOX エンジンシステムはどうなった?」
「車はフロントは潰れたがリアは無事だ。だがシステムは改良の必要がある」アンディの顔が科学者のソレになる。本職はそっちなのかもしれない。「今度はセキに用がある。一緒に来てもらおう」
 アンディの合図にケートが関に銃口を向ける。こんな物、蹴っ飛ばすのはわけないが。
「おとなしくしていないとそっちのぼうやが危険になるよ」
「やめた方がいい」関が言った。「そう言って成功した奴はいない。試しにちょっと突っついてみろ。反対にやられるだけだぜ。この男のまー、強い事、強い事!」
「うるさい! さっさと来い!」
 ケートが関の腕を掴んで廊下に引っ張り出した。その後についてアンディが出ようとし、ふとジョーを振り返った。何か言いたそうにしていたがケートに呼ばれ行ってしまった。
 ジョーがホッと息をつく。関の前であの話をしたくはなかった。
「神宮寺、応答しろ」
 ジョーはスピードマスターの通信をオンにした。小さなノイズが入るが、
『ジョーか、今どこにいる。関さんも一緒か?』
「わからねえ、山の中みたいだ。今のところ関も生きてるぜ。それより電波をキャッチできたか?」
『今、発信場所を解析している。まもなくわかるだろう。お前が動かしたのか?』
「MOX エンジンシステムのテスト走行をさせられた。あの男─ アンディという名だが、おれが研究所のテスト車のドライバーだと知っていて─」
 ふと言葉を切った。急いでいるような足音が聞こえる。
「まあ連絡する」
 通信をオフにしたとたんバン! とドアが開いた。険しい顔をしたスコットが立っていた。見上げるジョーを睨みつけ、腕を取って立たせると彼の体をパンパンと叩き始めた。が、ジョーはサイフひとつ持っていない。と、スコットはジョーの左腕を取りスピードマスターに手を掛けた。
「何をする!」
 ジョーはとっさにスコットの腹に蹴りを入れた。床に尻もちをついたスコットが銃を撃った。廊下に飛び出し避ける。と、銃声を聞きつけたのか男達がこちらに走ってきた。
 ジョーは身を翻し反対側に走る。こうなったら関を助け出しMOXエンジンステム破壊しようと思い─ ふと〝研究室〝 と書かれたプレートが目に入った。
 ドアを開けるとそこには八割程組み上がっている1台の車が置いてあった。マークX ジオに似たその車体の後部には─、
「MOX ボックス?」
 MOX を収めた容器がセットされていた。壊れたスカイラインから取り出しジオに移し変えたのか。
 ジョーが車体に近寄る。と、バババ・・・と銃声が響きジョーの体が吹っ飛んだ。



                         9へつづく






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闇に輝く光の下(もと)に 7


「握って・・それからゆっくり開いてごらん」榊原の目の前でジョーの右手がぎこちなく動く。「神経は大丈夫だな。傷の経過もいいし─。痛むか?」
 いえ、とジョーが答えた。が、何度も傷つけられているのだ。痛まないはずはない。しかし榊原は頷き、自ら包帯を取り替えた。
 ふと自分をじっと見ているジョーに気がついた。
「どうしたんだ? やっぱり痛いか?」
「いや・・・、神宮寺の奴が榊原さんが怒ってるって言ってたから─」
「怒ってるよ。麻酔なしで縫合処置してやろうかと思った」
 痛そうに眉をしかめジョーがそっぽを向いた。枯葉色の髪が白いシーツの上をサァと流れる。
 素直に怒られるつもりだったのだろうか。いつもとは違い、おとなしくベッドにいる。脱走してやろうという気力を感じない。
 それは助かるが、空しか見えない窓をぼぉっと見ているジョーはやはりらしくない・・・・・。 
 ジョーのように体力のある若い男でも、やはり気力がなければベッドから体を起こすのも億劫になるのだろうか。
 傷が治っても、このまま何日も寝付いてしまう患者を榊原は見てきた。
「神宮寺君からの伝言だ。チーフが、捕まえた男の尋問要請を公安に提出した。もっとも男は黙秘を続けていて関さんも手を焼いているらしいが」ジョーの眉がピクッと震えた。「それからボルツァーノの事は私からチーフに話しておいた」
「!」ジョーが振り返った。今までぼぉっとしていた貌が一瞬のうちに険しくなる。ブルーグレイの瞳にもいつもの鋭さが戻った。「神宮寺が話したのか」
「神宮寺君を責めないでくれ。私が訊いた。君の治療に必要だと言って」
「・・・・・」
 ジョーは榊原に向けていた眼を、しかしすぐに逸らした。再び枕に頭を押し付ける。神宮寺を責める事などできない。報告を怠ったのは自分だ。
「チーフはすべて承知していて、だがこの件は君達に続投するようにと─」
「ドクター」榊原の言葉を遮るようにジョーが続けた。「人間の脳っていやな事や辛い事を忘れる機能があるんでしょ。なのに、なんでおれはいつまでも覚えているのかな・・・」
 榊原が口を閉じ、一歩ベッドに近づいた。
「クロードの事件であの夜のことはすべて思い出して・・・これですっきりする、もう悪夢は見ないと思っていたのに・・・。何かあるごとにおれの目の前に浮かび上がり・・・体が震えて苦しくなる」
 白い天井に目をやる。阿佐ヶ谷の家の応接間も確かこのような白い天井だった・・・。
「あの時は思い出そうと必死だった。だけど今は忘れたい。でもダメなんだ。忘れたい事は忘れられなくて、両親とドイツで暮らした頃の事は思い出せない。なぜなんだ・・・」
(・・・・・)
 すべての辛い事を脳は忘れさせてくれるわけではない。特にジョーのような衝撃的な記憶は、一時的に封印されても完全に忘れる事はできないだろう。
 さらに─両親の記憶の少ないジョーにとっては、あの夜の惨劇でさえ両親に関する記憶だ。彼の脳は無意識のうちにそれを捨て去る事を拒んでいるのかもしれない。
(残酷な事だ・・・)
 
 榊原が初めてジョーに会ったのは彼が9才の時だった。その次はJB に入隊した時で17才になっていた。
 金髪と青い瞳をした小さな子どもは自分達と同じくらい大きくなって物怖じせず周りの大人達を見据えていた。
 当時のJB にはアサクラ氏の事件を知っているメンバーがまだ大勢いた。
 小さな子どもが体験するにはあまりにも凄惨な事件─。だが彼らはジョーがその逆境を乗り越え、父親の意思を継ぐために過酷な国際警察という道を選んだと思っていた。
 父親譲りの恵まれた体と射撃の腕、そして圧倒的な威圧感─。怖いものだどない、と向けてくる鋭い瞳と気迫に誰もが彼を強い人間だと思った。もちろん榊原もだ。
 が、彼を診ているうちにそれが間違いだと気がついた。
 ジョーはあの事件を乗り越えてはいない。どこかに押し込めているだけだ。
 もちろんすべての人間が辛い体験を乗り越えられるわけではない。それを抱えたまま生きて行く人の方が多いだろう。
 だがジョーは辛い時も苦しい時もそれを口に出して言う事ができなかった。ただただ黙って耐えていた。
 それが不遜な態度に見え、そして彼自身他人と交じるのが苦手なため、なんでも話せる相手もいなかった。
 それでも鷲尾がJBにいるうちはよかった。この、人を寄せ付けない強固な意志を持つ彼も鷲尾の言う事だけは素直に聞いていた。
 だが鷲尾はジョーが入隊して2ヶ月後にパリ本部に転勤になった。自分の気持ちを表せる人がいなくなり、ジョーは完全に孤立した。
 榊原は日本での鷲尾の役をしようとジョーに接したが、最初はうまくいかなかった。それでもS メンバーとして相棒を、さらに一緒に話したり笑ったりできる仲間を得るとジョーも少しづつ変わっていった。そして榊原に対しても─。今では森や神宮寺にも話せない事もわずかだが話してくれるようになった。
 だが今回のように医師の力ではどうしようもできない事もある。彼がこれから生きていくためには彼自身が向き合うしかない事も─。

「ジョー?」
 見ると榊原から顔を背けたままジョーが寝息を立てていた。夕食後に飲むよう処方した薬が効いたのだろう。
 だがいつまでも彼をベッドに伏せておいてはいけない。辛いがこの件を解決するにはジョーを現場に戻さなければならない。そして彼自身の手で真実を確かめ受け入れなくては。
「私ができる事は、君の傷を1日も早く治す事しかないのだろうな」
 それでも心の傷までは治せない。
 榊原は鷲尾がやるようにジョーの前髪をクシャと掻き上げた。ジョーは目を覚まさなかった。

「くそォ、アドベめ。おれの英語はわかりにくくて答えられねえとぬかしやがって」
 3課に関の唸り声が響く。アド・・はともかくってなんだろう? と思ったが誰も口には出さなかった。
「このネ)ティブな英語のどこがわかりにくいと言うんだ」確かにわかりにくいかも・・・と、山本と木村が顔を見合わせた。「おれはあっちの言ってる事がわかるぞ。なのにどうして─」
「そういえば関さん、ファーの時もそんな事言われてましたね」
 若い部下の1人が言い、飛んで来たボールペンがスコーンと頭に当たって跳ね返った。
「部下の教育ぐらいちゃんとしておけ、達村!」
「おれの部下は正直なのさ」同僚の達村がカラカラと笑う。「それより千駄ヶ谷から催促メールがまた来ているぞ。これで何通目だ? 今に公安のサーバはJB に乗っ取られるぞ」
「ん~」
 思わず関が頭を掻いた。  
 世界を相手にする国際警察は決定したら即実行する。のんびりしていると時差や国々の習慣の違いによって初動捜査が難航する場合があるからだ。
「あそこは皆若いからなァ。辛抱が効かないんだ」
 などと言っていたが・・・。
 逮捕されてからあの男はひと言も口をきかない。いや、“ Your English is incomprehensible ” とだけ言った。ここはひとつJBに・・・いや、ダブルJ に任せてみようか。
 向こうはMOX エンジンシステムの件がまだ片付いていないし、ここら辺で恩を売っておくのもよいかも。
「・・・おれも彼らには甘いなァ」
 さて、なんの理由をつけて部長の許可を取ろうかと関が考えた。

「あの船らしいな」
 自分の横に身を移してきた西崎に神宮寺が言った。彼とチーム1の目の前には豊洲埠頭に着岸しようとしている1隻の貨物船が見える。
 先日、江古田の研究所に入り公安が来る前に押収したいくつかの書類やCD ─ ROM にはMOX エンジンシステムの研究データの一部や設計図に交じってこの船の情報が入っていた。
 植田に確認したが、なぜこのようなものが入っていたのかわからないという事だった。
 もしかしたらザーツに関係があるかもしれない。奴らの船だったら大歓迎だが。
 一応埠頭の管理事務所に確認を取ったが、その時間に入港する船はないという返答だった。密輸船の可能性もある。
「だけどザーツと関係がないとわかったらすぐに手を引いて水上警察に任せる。公安が入る前に押収したとはいえ、研究所の資料を持ち出したのがバレたらやばい」
「公安にだけは捕まりたくないな」
 眉を八の字にして西崎が言った。
「同感だよ。ま、こっちも関さんの弱みを握っているけど」
「ジョーを人身御供として関さんに差し出せば」
 高浜だ。
「やめた方がいい。公安よりジョーの方が怖い」神宮寺の言葉に周りの男達がウンウンと頷いた。「行くぞ」
 船が着岸した。神宮寺が一歩踏み出す。

 その頃ジョーは2回目の縫合処置を受けていた。何度も裂かれた傷口は1回の処置では完了しなかった。
 右腕なので部分麻酔で充分だったが、ジョーの精神状態があまり良いものではなかったので上半身麻酔に切り替えた。ジョーはいやがったが、いつものような抵抗はなかった。
 口元にマスクを押し付けられても黙って受け入れた。
(やはりこのままではいかんな・・・)
 眠りに落ちたジョーを見て榊原が思った。

「起きてるか」
 ドアをスライドさせ神宮寺が312号室に入った。ベッドの背を少し上げ、窓の方を向いていたジョーが振り返る。その貌を見て一瞬足を止めるが、
「ル・モンドのサンドイッチ持って来たぜ。夕食前だがこれくらい入るだろ?」
 と、テーブルの上に紙袋を置いた。
 実はここへ来る前に電話で榊原にジョーの様子を訊いていた。ジョーは朝食も昼食もほとんど手をつけなかったそうだ。
 そのせいというわけではないが、たった1日会わないだけでかなり消耗しているように見えた。
 神宮寺はサンドイッチの包みの横にジョーの好きなペリエも置いた。
「今日1日なんの報告もなかったが何してたんだ?」
「豊洲まで出張って密輸船を1隻、水上警察に引き渡した」
「なんでそんな仕事してるんだよ」
 相変わらずのきつい口調で言い、しかしテーブルの上の物には手を出そうとしなかった。それどころか話をするのも億劫そうだ。
 こんな状態のジョーに伝えてよいのか、と神宮寺は迷った。が、榊原は許可してくれた。
「明日、午後からあの男の尋問に入る。公安の許可が下りた。とりあえず1日だけだが」
「あの男の?お前がするのか?」
「そうだ。あの男の尋問はおれ達・・・に一任されている」
「そうか」ジョーの顔がパッと明るくなった。「待て、神宮寺。おれも行く」
「あわてるな、尋問は午後の2時からだ」ベッドから降りようとするジョーを苦笑して神宮寺が止める。「明日の昼前に術後の経過を診て、それでOK なら外出してもいいそうだ。榊原さんの許可は取った。おれが迎えに来てやる。そのまま霞ヶ関に行こう」
「何も明日でなくても今でもいいじゃねえか」
「病院の事務局が閉まっちまったから外出の手続きは取れないそうだ」今までそんなものを取った事はない。大概が勝手に出て行っていた。「それにそんなひどい貌をしたお前を連れて行ったら関さんが心配する。ちょっと気にしているようだ」
「・・・関のせいじゃない」ポツリと言い口を閉じたが、「ちょっと待て。外出? 退院じゃないのか」
「お前次第だな。食事もできない・・・・重病人を退院させるわけにはいかないだろう」と、面会時間終了のアナウンスが流れた。「じゃあ明日、ちゃんと食えよ」
「くそォ、やっぱり関のせいだ」
 神宮寺の背中を睨みジョーが唸った。

 翌朝早くから神宮寺は研究所から押収した資料の整理をしていた。霞ヶ関に行くついでに関に返そうと思ったのだ。
 落ち着いたらこれらは研究所に返さなければならない。国際警察より公安からの方がよいだろう。関に怒鳴られるのは覚悟の上だ。もちろんしっかりコピーは取ってある。
 と、設計図に目が留まった。MOX エンジンシステムの試作品にはGPS が、それが切られたら位置を知らせる装置が付いていた。
 もしザーツがこの設計図どおり組み立てたとしたら・・・当然その装置も組み込まれるはずだ。完成してエンジンを掛ければJB のコンピュータやPC ナビでその位置を確かめる事ができる。
 神宮寺は西崎に連絡して1人パソコンの前に張り付かせてくれるよう要請した。

 一方ジョーは朝食を終え榊原の回診を待っていた。
 久々にトレイを空っぽにし、おまけにサンドイッチの空袋まであったので榊原看護師長から褒められた。
 ガキじゃあるまいしとジョーは口元をへの字に曲げたが、榊原の姉である看護師長から見ればジョーは子どもの年令だ。 
 食器を持ち病室を出て行く彼女に向けていて目をジョーは窓に移した。空には飛行機雲が1本綺麗に引かれていた。
 それをぼおっと見ていて─ ジョーはふと気がついた。自分はなぜいつまでもじっとしているのだろう。足首はもう完治している。右腕も痛みはあるが銃を扱うのに支障はない。なのに自分はここから出ようとはしない。
(おれはまた逃げている─)
 ザーツを解明していくうちにボルツァーノに行き着くかもしれない。そしてその先には、まさか・・・。
 ジョーは目を閉じ頭を振った。そんな事があるはずないと思っていても万一の可能性を考え体が震える。だから考えないように、行動しないようにしているのか─。
 時計を見ると10時を回っていた。あの男への尋問は2時からだと神宮寺は言っていた。その前は公安がするらしい。と、すると公安専用の拘置所から警察庁に移送するのは昼ごろか─。
 そう思うと居ても立ってもいられなくなった。
 ジョーはロッカーから昨日神宮寺が持って来てくれた服を取り出し着替えると病室を出た。 ここから外へ出るのはラクだ。JB 専用の312号室は病棟の1番端にあり、廊下が曲がっているためにナースステーション側からは死角になっているのだ。
 いつものとおり難なく外へ出られた。
 近くの中野坂上から大江戸線で麻布十番に向かった。
 足首はもうなんともない。右腕は少し痛むものの充分我慢できる。なぜもっと早く動かなかったのだろう。
 ジョーはマンションの地下駐車場に向かった。修理を終えたセリカが納車されていた。ホッと息をつき一度10階に上がる。
 しばらく留守にしていたので冷蔵庫の中にはミネラルウォーターしかなかった。それを一気飲みしてウッズマンや科研から機会があったら使ってくれと言われていた物を持ち駐車場に下りた。
 拘置所は虎ノ門にある。飛ばせば10分も掛からない。今行ってもあの男に会わせてもらえないだろうが、ちゃんと警察庁に入るかこの目で確かめたかった。
 セリカが地上に出た。

「ジョーがですか?」意外そうに神宮寺が言った。「いつです?」
『入り口のカメラを確認したら、もう1時間も前の事だ』電話の向こうの榊原が申しわけなさそうに言う。『救急患者が入ってそちらを優先したのだが、その間に─』
「今回はそんな風には見えなかったのに・・・。わかりました、ドクタ。行く先は見当つきますので」頼むと電話が切れた。「今行ったって会えないのに」
 が、ジョーの気持ちもわかる。しかし万一移送する公安とトラブルになったらまずい。
「仕方のない奴だ」
 昼食はお預けだなと愛車のキーを取り出し、ダブルJ 室を出た。


  
                             8につづく







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闇に輝く光の下(もと)に 6


「関!」
 目の前に赤い血が飛び散った。腕を押さえ、関の手が男から離れた。ジョーと関の間をすり抜け逃げようとする。
 だがジョーは男には見向きもせず関に取り付いた。

 神宮寺とジョーが追い詰め捕らえようとした矢先、出張(でば)って来た公安に男は確保された。
 謎の多いザーツのメンバー、それも下っ端ではない。かなりの情報が取れる。そして奴らがMOX エンジンシステムの行方も。
 だがジョーにはその男に確かめたい事があった。関に男の引渡しを求めたが拒否された。 男はその一瞬を突いたのだ。

「関さん!」
「主任!」
 神宮寺が関の体を支えた。木村と山本は逃げようとする男に組みつき地面にうつ伏せに倒した。パンパンとボディチェックをする。
「関! 関!」
 ジョーは関の体を掴んだまま叫び続けていた。
「大丈夫・・・腕を掠っただけだ」
 関が腕を少し上げて見せた。
 出血はあるが深い傷ではなさそうだ。だがすぐにジョーの異変に気がついた。必死の眼を、彼は関に向けていた。しかしその眼に映るのは自分(関)ではない。
 ジョーは関を掴んだままその名を呼び続けている。
「大丈夫だから・・・。神宮寺君、ジョーを─。落ち着かせるんだ」
「ジョー」
 神宮寺がジョーを関から引き離した。

「勝手に出て行ったと思ったら、こんな事になって─」
 榊原がため息をつき神宮寺を睨んだ。彼のせいではないのはもちろんわかっているが、パテーションの向こうのベッドに寝ているジョーはまだ薬が効いていて睨まれてもわからないだろう。
 右腕の傷を再び縫合し、それは部分麻酔で済んだが極度の興奮状態に陥っていたジョーを休ませる必要があった。
 だが薬を投与しても状態は変わらず、縫合処置が行われる5分程前にやっと眠りに付いたのだ。
「目の前で関さんが撃たれてショックだったのはわかるが、今までにも何度も体験しているだろうに。今回だけなぜ・・・」
 と、再び神宮寺に目を向けた。
「・・・・・」
 その目を困ったように神宮寺が外した。
 あの時ジョーは男の引渡しを関に求めていた。公安に正式な辞令が下りたとはいえジョーは納得せず、あのまま言い合いが続けば力ずくで男を引き戻していたかもしれない。
 それを断ち切ったのは一発の銃声だった。
 男が隠し持っていた小型の銃で腕を撃たれた関を前にジョーの脳裏から男が消えた。関の体を掴み、うわ言のように彼の名を呼び続けた。
 神宮寺が関からジョーを引き離した後も関に目を向けたままガクガクと震え続けていた。軽いショック状態だった─。
(だけどあの時、ジョーが見ていたのは関さんではない。別の何かを・・・)
「こうなった理由を知っていそうだね」榊原に言われ、しかし神宮寺は視線を外したまま黙っていた。「知っていたら教えてくれないか。医者として彼を診るのに必要な事だ」
「ドクタ・・・」
 自分の知っている事がその原因かどうかはわからない。だが榊原に言われて黙っているわけにもいかない。
 神宮寺はパテーションに目を向け、しかしすぐに榊原に戻した。「実は─」
 神宮寺は声を落とし、ザーツにイタリアのマフィアが出入りしているという噂がある事、さらに公安との争いの原因になった男がジョーを見て〝ボルツァーノ〝 と言った事を話した。が、ふと違和感に襲われた。
 ザーツにイタリアのマフィアが出入りしていると言ったのは木梨だ。彼がザーツのメンバーだとしたら、なぜわざわざそんな事を言ったのだろう。
「ボルツァーノというとグランディーテの・・・。そういう事か・・・」榊原がため息をついた。「その事がジョーの心の重荷になっていたのだろう。ザーツを解明していくうちにもしも・・・という─。関さんが撃たれた時、彼が見たのは関さんではなくアサクラさんだ」
「親父さんを?」
 驚く神宮寺に榊原が頷いた。
「心に負荷を抱えたまま親しい人が撃たれて・・・混乱したのだろう。これが進むと以前のようなフラッシュバックの再発に繋がる。今度はもっと重症になる」
 アサクラの知人で元JB 員だったクロードがきっかけでジョーは幼少時の〝抑圧された記憶〝 をフラッシュバックという形で思い出した。
 大人になってから現れるフラッシュバックは年月が経っているにも拘わらず、原記憶より鮮明さを増す傾向が強いと言われている。今度ジョーに現れるとしたら間違いなく以前よりもはっきりした強力な〝記憶の復活〝 になるだろう。今のジョーには耐えられない。
「おれ、もう相棒を失うのは・・・いやです」
「わかっているよ。私もその事態は回避したいと思っている」
 榊原が強く頷いた。
「それから、ドクタ。この事はチーフに報告していません。・・するべきですが・・・」
「わかった。ジョーの治療に関して必要だと判断したら私から話そう」
 おそらく時を置かずしてチーフの耳に入るだろう。報告を怠ったと叱咤されても仕方がない。

 やがて榊原は病室から出て行った。
 電気も点いていない薄暗い中に神宮寺は立ち竦んでいた。
 幼少時のジョーの記憶が所々切れているのは知っている。あの夜の事はクロードの事件の時に繋がった。しかしその夜から鷲尾に引き取られるまでの記憶がはっきりしないのも聞いている。
 だがもう12年も前の事だ。神宮寺だって11才だった頃のことを全て覚えているわけではない。しかし今の生活に支障はない。
 おそらくジョーも同じだろう。
 だが困るのは、何かの拍子に彼自身覚えていない過去の記憶が映像となって浮かび上がって来る事だ。それがなんなのか・・・ジョーに確かめる術はない。
 ふと弟の智(さとし)の事を思い出した。
 彼は10年前に神宮寺の目の前で交通事故により死亡した。その時の事もその後の事も鮮明に覚えている。辛いが、自分が確かに経験した事だ、と認識できる。 
 だがジョーは自分の記憶・・さえ信用できない。辛い事を忘れたいために都合よく勝手に作り上げられているのかもしれないのだ。
 ジョーは自分の不確かな記憶の部分を繋げたいと思っているが、なぜか未だにその部分を知っている鷲尾や榊原の元を尋ねてはいない。
「──」
 と、誰かに呼ばれたような気がして神宮寺が我れに返った。パテーションを回るとベッドの上のジョーと目が合った。
「お前─ もう目が覚めて─」
 だがまだ薬が効いているのだろう。向けてくる双眼はぼおっとしていて焦点が合っていない。
「・・ここは・・・」
 それでもそこにいるのが相棒だとわかるのだろう。ともすれば再び眠りの世界に引き摺り込まれるのを押しやるように言葉を繋げる。
「・・どうして・・」
「・・・覚えていないのか?」
 神宮寺がジョーの瞳を覗き込んだ。
 灰色がかった青い瞳が怪訝そうに相棒を見つめ─ が、眩しそうに閉じられた。どう対処してよいのかわからず神宮寺が榊原を呼ぼうとした時、ジョーの体がバッと跳ねた。
「ジョー」
「・・・パパ・・違う・・・関・・・関をあの男が・・・関が・・・」
「関さんは大丈夫だ。掠っただけでもう手当ても済んで警察庁に戻ったよ」
「あの男は・・・」
「・・・公安が連行した」
 ジョーをベッドに戻し神宮寺が静かに言った。
「・・・そうか」頭を枕に押し付けジョーが目を閉じた。「よりによって公安かよ・・・」
 動く左手で顔を覆う。
 あの男が公安で何を話すのか・・・。それはよいがその前に真実を知りたかった。他人から聞かされるのはいやだ。本人から直に聞きたい。
「飲むか?」
 神宮寺がレモン入りのペリエを差し出した。上半身を起こしジョーが受け取る。だがちょっと口をつけただけでそれ以上飲めなかった。
「もう少し休んでいろ。勝手に出た事で榊原さんが怒ってる。ほとぼり・・・・を冷ました方がいい」
「やばいな・・・」
 思わず唸り、今気がついたように右腕を押さえた。麻酔が切れたようだ。神宮寺がベッドの背を少し起こしてくれた。それに寄りかかりホォと息をつく。そのまま眠ってしまいそうで・・・だが頭を振ってなんとか意識を保とうとする。
「寝ててもいいぜ。どうせ榊原さんが当分の間、出してくれないだろうから」
 神宮寺がベッドの背を水平に戻そうとした。と、その手をジョーが止める。
「関が撃たれた時・・・なぜか親父の姿が浮かんできて関と重なったんだ」まだぼぉっとした面持ちのままジョーが言った。「以前、鷲尾さんが関が親父とよく似ていると言っていた。もちろんおれはそうは思わなかったけど・・・。あの時はなぜか関が親父に見えて・・・そしておれは、また何もできなかった」
 両手で顔を覆うジョーを見て、やはり榊原の言ったとおりだと神宮寺は思った。
 両親が目の前で撃たれた時、ジョーは何もできずただ見ているだけだった。今回は男を巡って自分と争ったのが原因で関が撃たれた。そして男は公安に奪われた。
「研究所は公安の範囲だがMOX エンジンシステムやザーツはおれ達の担当だ。公安の取調べが終わったらあの男を尋問できる」
 そう言いながら、しかしジョーをこのままこの事件の担当にしていていいのかと思った。彼が抜けるのなら当然自分も抜ける事になるが、これ以上ジョーを追い詰めてはいけないと思った。
 ジョーの事だ。今は気弱な貌を見せているがすぐにまた立ち上がろうとするだろう。不安や焦りをどこかへ押し込め不敵に輝く瞳とふてぶてしい笑みを顔面に貼り付けて─ 自分で自分を追い詰めて行くように。
 そんなジョーを見るのはいやだが、
「おれはJBに戻る。様子は逐一知らせるからもう少しおとなしていろ。また脱走でもしたら榊原さんが怖い」
 神宮寺もう1本ペリエを取り出しテーブルに置くと病室を出て行った。
 ジョーはしばらくの間そのグリーンのボトルを見つめていた。

 JB に戻った神宮寺には待機命令が出ていた。仕方なくパソコンを立ち上げ、研究所内を調べた公安がJB に上げてくれた調査書を読み始めた。
 この時になって神宮寺はあの隠し部屋の事を関達に話していなかった事を思い出した。が、調査書にはしっかりと載っていた。
 あの部屋は一部の研究員が使用していたらしく、その中には例の─ 黙秘を続けているので関達は〝アド〝 と呼んでいるが─ も入っていた。
(アド? ADO・・・EKODA・・・ADOKE・・・なるほど)
 苦笑しながらこのアドは研究所の所員でもあったのかと思う。やはりあの研究所はザーツのメンバーが入り込んでいたのだ。
 しかし今のところはこのアドとジョーがのした・・・という男以外は本当の政府の研究員と確認されている。その中に木梨はいなかった。
(あの男、関さん相手にいつまで黙秘を続けるだろう)
 悪名高いザーツのメンバーだ。ちょっとやそっとでは口を割らないだろう。自分はそれを望んでいる?
(まさか・・・)
 これ以外の報告はまだ上がってきてはいない。
 研究所の担当を外されたJB に公安が情報を提供する必要はない。あくまでも関の一存で行われているのだろう。ヘタに手を出して彼に迷惑を掛ける事はできない。
 しかしあの男を尋問する権利はJB にもある。
 神宮寺はJB による男の尋問を森から公安に申請してもらおうかと思い─ ふと、手を止めた。
〝ボルツァーノ〝 の事はもう森の耳に入っているだろう。彼はどのような判断を下すだろう。 一旦、森にゲタを預けた方がよさそうだ。と、外線が入った。
「神宮寺です」
『JB は警察庁からの電話もあちこち回してセキュリティを確かめるのか?』
 関だ。
 JB への外線は通信課や管理課のコンピュータを経由する。どこかでいじめられたのか?
「当然です。以前ひどいめに遭いましたし」
 シレッと言う神宮寺に関は一瞬黙ったが、
『森さんから例の男の尋問要請が出ている。窓口は君に─ という事だ』
 さすがに森は決断も行動も早い。自分(神宮寺)を窓口にしたという事はジョーも続投するという事だ。〝ボルツァーノ〝 は枷にはならなかった。
『と、言っても未だダンマリでね。そっちに渡せるのはいつになるか見当もつかん。もう1人は下っ端であまり内部の事は詳しくなさそうだ』
「公安はやさしいですからね。お手伝いしますか?」
『やめておくよ。日本の警察は無謀で乱暴だと思われかねない』ヒヒヒ・・・と笑い、関が言う。『用意が整い次第連絡するよ。ところでその無謀な奴はどうした?』
「ジョーなら病院でドクタに怒られるのをおとなしく待っています」
『まさか』と、また笑った。が、『ジョーの訊きたい事というのはなんだ? 事件の事ではないような気がするが』
 さすがに鋭い、と神宮寺は思ったが黙っていた。と、関も何かを感じたらしい。
『ま、早くそっちに渡せるように努力するがね。うちらやさしいからな~』
「報告書・・・ありがとうございます。今、読みました」
『君とジョーだけで見てくれ。この件が終わったら破棄してくれよ』
 そう言い電話が切れた。
 色々と便宜を図ってくれる関に何も言えないのは辛いが、事実がはっきりするまでは仕方がない。
 もし伝えるとしたら、それはジョーが直接言う事だろう。



                                    7へつづく







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闇に輝く光の下(もと)に 5


 研究所の前にチーム1の車両が着いた時、門の前に立花が貼り付いていた。ここを開けるようにと彼にしてはかなり強い口調で言っていた。が、
『捜査員は2名と聞いています』スピーカーから聞き覚えのある声が響いた。『それ以上、所内に入れる事は私の権限では─ 』
「どけ」ジョーが立花を押し退けた。「ジョーです。スカイラインの走行テストをした─ 」
“ああ” と植田の声が和んだ。
「捜査に入った2人からの連絡が途絶えてます。何かあったのかもしれない。門を開けてください」
『それも聞いています。今、所員が所内を捜していますが見当たりません。もう出られたのではないですか?』
 植田の言葉に立花が首を振った。
「この建物は始めから政府の研究機関の研究所として建てられたのですか?」
『いえ、倒産した企業の所有物で公売に出されていたものです。2年前に購入されました』
 では彼らが知らない隠し部屋や通路があっても不思議ではない。極秘の研究や実験を行うためにそのようなスペースを作る、と聞いた事があるが─。
 しかしザーツの一味がこの研究所に逃げ込んだ今、植田でさえ信用できない。
「とにかく開けてください。でないと強行手段をとります」
『そんな事をしたら─ 』ふいに声が途絶えた。インターフォンから少し離れたらしく、『なんだって─ 』 『どこで─ 』 『早く─ 』とあわてている様子がかすかに聞こえてくる。
「ジョー」
 立花が指をさした。2階の窓から黒い煙が吹き出している。
「仕方ねえや」
 ジョーは大きな鉄門の下に爆薬玉を2つ置いた。ウッズマンで撃ち抜く。バン! と鉄門が弾かれた。
 こうしている間にも建物のあちこちから煙が吹き出し始めた。
 ジョーを先頭にチーム1のメンバーが所内に入る。炎は見えないがキナ臭さが漂う。と植田と3、4人の男達が奥から走り出て来た。
「いくら国際警察とはいえ無茶です。上部に苦情が行きますよ」
「かわまねえさ。それよりおれ達の仲間に何かあったら─ 」
 ジョーが口を閉じ植田達を睨んだ。
 政府の人間とはいえ植田達は学者だ。ジョーの圧倒的な威圧感に太刀打ちできるわけはない。
 案の定、彼らは黙り込んでしまった。
「行くぞ」
 チーム1はペアになり所内に散らばる。ジョーは1人で1階の奥へと向かった。
 神宮寺のリンクのトレーサーがオンになっていないのか、スピードマスターに反応はない。それとも電波の届かない所にいるのか。
「立花、そっちの通信機で西崎に連絡が取れるか」
『さっきからやってるがだめだ。おそらく電波が遮断された空間にいるんだろう』研究所内では通じるので遮断されているのは隔離された空間なのだろう。『今、所員に該当する部屋か場所があるかどうか聞いている。それから原因は不明だが、所内のあちこちから火の手が上がっているそうだ。まだ大きくはなっていないが』
「ラジャ」
 所員の確保や消火は立花達に任せ、ジョーは神宮寺と西崎の行方を追った。
 片っ端からドアを開け─ が、2人の姿はない。少しづつだが空気に煙が混ざり始めた。ジョーの胸がかすかな痛みを感じた。
 と、前方のドアが開き白衣を着た男が1人出て来た。手に消火器のような物を持っていたので火を消しに来たのかと思ったが、
「─ お前はっ」
 男の顔を見てジョーが声を上げる。木梨が乗り込んだ車の助手席からジョーに銃を向けた男だ。相手もジョーに気がつき、手に持っている物を向けて来た。バーと炎が飛び出す。小型のバーナーか。
 ジョーは壁に背中を付け炎を避けた。さらに向かってくる男の手を蹴り上げ、バーナーを飛ばす。ガッと男の胸倉を掴んだ。
「2人はどこだ!言え!」
 ジョーはこの男が神宮寺達の居場所を知っていると直感した。と、男は自分を掴んでいるジョーの腕を反対に掴み返した。
「うっ」
 右腕の、縫合を終えたばかりの所だ。しかしジョーは男を離さなかった。男の力が強くなっていく。袖にポツポツと赤いシミが浮かんできた。
「であっ!」ジョーは足を掛け、男を床に叩きつけた。男がぐったりとのびる。「くそォ、新品のシャツなんだぜ」
 だがこの男は口を割らないだろう。掴み合っていても時間の無駄だ。ジョーは男が出て来た部屋へと入った。
 壁沿いに大型コンピュータが並ぶ。他の部屋と変わらない室内に─ しかしジョーは違和感を感じていた。動かす必要のない大型コンピュータの1台が壁から少しずれていた。後ろを覗くと壁にスイッチのような物があった。押すとコンピュータと壁が動いて─

「神宮寺!」
「ジョー」神宮寺が振り向いた。「早かったな」
「こんな所でなに遊んでンだよ。おかげでおれはチーフから大目玉を食らいそうだぜ」
「そんなのいつもの事だろ。それより、ジョー。このコンピュータ、持って帰れないかな」
「おれはミミズクのリュウじゃねぇって!」
 リュウでもムリだ。
「仕方がない。焼け残る事を祈ろう」この部屋にまで煙が流れ込んできた。ふとジョーの右腕に目を向けた。「まだ治療していなかったのか?」
「したさ。あ、榊原さんにも大目玉を─ 
「とにかく出るぞ」
 頭を抱えるジョーを尻目に神宮寺と西崎がその部屋から出た。
「くそォ、神宮寺とチーム1の奴らも説教に付き合わせてやる。─ 立花! 神宮寺と西崎は救出した。そっちはどうだ?」
『所員は確保したが何人かいないらしい。彼らを外へ誘導している。それと煙を見て誰かが通報したらしく消防がこちらに向かっている。樋口が交渉役で出た』
「心配掛けてすまなかった」神宮寺が割り込んできた。「おれ達は、そのいなくなった・・・・・・所員とやらを捜す。皆は確保した所員をガードしてくれ。公安が出てくるかもしれない」
「公安? 関か? なんで?」
「お前達、強引に入ったんだろ?おまけにザーツのメンバーがまだここ・・に潜入しているとなると、政府が公安に国際警察との折り合いやこの事態の収拾を依頼する事も考えられる」
「チェッ!じゃあ最初っから公安がやれよ!」
「クサるな。で、立花、確保した所員の中には木梨やジョーが言った特徴の男はいないんだな?」両方ともいないそうだ。「いなくなったのはそいつらか」
「そいつらの1人はさっきおれが─ あ?」廊下に目をやったジョーだが、のびているはずの男はいなかった。「くそォ、ちょっと手加減し過ぎちまったか」
「おれはチームに戻る」西崎が言った。「関さんとの交渉役は君の方がいいんだけどな、ジョー」
「やだ。行こうぜ、神宮寺」
 踵を返し、ちょっと足首を気にしたがすぐに奥へと向かう。
「関さんがツベコベ言ったら〝ジョーの眼〝 をして睨んでやればいいさ」
「元に戻らなくなったらどうするんだ」
〝西崎の眼〝 で神宮寺を睨んだ。

 立花達の消火活動が功を成したのかキナ臭さは残るものの火の手は見えない。消防もサイレンは聞こえたが研究所の中に入っては来なかった。
 正門には黒田と兵道が待機しているので誰かが出たらわかるがそんな報告もない。
 もっとも神宮寺とチーム1が到着する前に車だけ置いて逃走した可能性はある。だが少なくとも1人は─ ジョーが伸した男はいるはずだ。
 彼らは目につくドアを次から次へと開けて行き室内を捜索した。研究室や実験室が多いので建物の規模の割には部屋数は少ない。
「いないな」神宮寺が小さく息をつく。「時間が掛かり過ぎる。西崎達に応援を頼もうか」
 ふとジョーを見るが─ 彼は部屋の隅の小さな机の引き出しを開けていた。そのそばの壁やデスクに貼ってあるメモに書かれているのはイタリア語だった。イタリア人の所員なのだろうか。
 神宮寺の言葉も耳に入らず、何かを捜すように次々と引き出しを開けて行くジョーを言葉もなく神宮寺が見つめている。
 しかし、やがてそのジョーの手が止まる。自分のしている事に気がついた。
「─ 行くぞ」
 神宮寺が声をかけジョーが振り向く。が、そのまま黙って相棒の後から廊下に出た。と、突き辺りでチラッと何かが動いた。
「いたぜ、あのヤロウ」
 ジョーが走り出す。左足がちょっと辛そうだ。が、奴を捕らえたいと思う気持ちの方が強い。しかし─ 。
「お、お前は、あの時の─ 」
 ジョーの足が止まった。追い付いた神宮寺もあっ、と声を上げた。
 目の前のいるのは鋸山で2人の手から逃れた男だった。
「今回の侵入者も君達か」男が苦笑した。「これが本職か?」
「うるせえ! 今度は逃がさないぜ」
 ジョーがウッズマンを男に向けた。とっさに男が両手を上げ、そしてニヤリと口元を歪めるとそのまま後ろのドアに体当たりした。
「ジョー!」
 神宮寺が叫び2人が身を伏せた。ドンッ! と破裂音がし2人のすぐ横のドアが頭上を跳び反対側の壁に当たった。
「コンピュータが─ 」音がした室内はメチャクチャになり、コンピュータが黒い煙を上げていた。「証拠隠滅か─ 」
「くそォ!」
 ジョーは男が飛び込んだ部屋に走り込んだ。とたんに弾丸が飛んでくる。
「右へまわれ。おれは左から行く」神宮寺の指示にジョーが頷く。そして、「無理はするな。ここは3階だからな」
 足首はまだ完治していない。右腕の赤いシミもさっきより大きくなっている。しかしジョーはフンと鼻を鳴らし、右側のデスクの陰に走った。
「ま、素直に聞くとは思ってないが」
 ちょっと口元を緩め、しかしすぐに男に目を向けた。
 ジョーは是が非でもあの男を手に入れたいだろう。自分を見て、〝ボルツァーノ〝と言った・・・あの男を─。
 だが、男の証言がまたジョーを苦しめるとしたらいっその事捕まらない方が・・・。
「神宮寺!」ジョーが呼び、自分(神宮寺)の前を弾が飛んで行ったのに気がついた。「なにぼやっとしてる! 一気に行くぜ!」
 ジョーが部屋の中央に飛び出した。両手でウッズマンをかまえ大型コンピュータの陰にいる男に向けた。
「出て来い! こっちは口が無事なら手足の1本や2本撃ち飛ばしてもかまわないんだぜ!」
 ジョーが一歩一歩男に近づく。神宮寺は援護に入っている。と、突然男が横の窓に体当たりした。
「あっ!」
 2人が走り寄る。下の植え込みに男が転がっていた。
「また飛び降りろってか!」
「無茶だ。外階段を行こう」
 廊下の突き当たりが非常口になっていた。オートマグで鍵を吹き飛ばした。が、結局、中2階まで駆け下り後は手すりを乗り越え飛び降りた。男が降りた植え込みへと建物を回り込む。と、
「関さん」
「やあ」片手を上げ、関が2人を迎えた。その足元では木村や山本があの男を地面に押さえつけている。「君達が追っているという事は、こいつは大物だね」
「前にザーツのアジトで見かけました。MOX 燃料システムの研究に関わっているものと─ 」
「そいつを離せ!」ジョーが詰め寄る。「おれ達の獲物だ!」
「そうしてやりたいが」関がチラリと男を見た。「この研究所に関しての事は全て公安が担当する事になった。正式な命令が出た」
「やはり・・・」
 神宮寺が呟く。
 しかしジョーは納得しない。力づくで男を木村達の手から取り返そうとする。普段は親しい2人もこの暴挙には黙っているわけにはいかない。
 だが彼らはジョーの敵ではない。あっという間に地面に転がされてしまった。
「やめろ、ジョー」
 神宮寺が止めるが、その手も振り払う。
「手を引いてくれ、ジョー。これ以上邪魔をすると─ 」
「この男に訊きたい事があるんだ。それが済んだら渡してやる」
「こっちも訊きたい事は山ほどある。森チーフを通してこっちに文書で質問を出せば回答する事もできるが」
「・・・それじゃあ・・だめなんだ・・・」ジョーが唇を噛みしめる。訊きたい事の内容などとても森には話せない。まして公安官である関には・・・。「頼む、関。1時間でいいから」
「すまん、ジョー。いくら君の頼みでもこの件は」
 関はジョーが押さえている男の腕を掴み立たせた。飛び降りた時にどこか痛めたのか男が顔をしかめる。と、目の前のジョーに気がついた。その瞳を覗き込み自らの目を見開く。ジョーが関の手から男を引きの戻そうとした。
「やめろ、ジョー。これ以上手を出すと公務執行妨害で逮捕するぞ」
「おれ達の邪魔をしているのはそっちだろ!逮捕するならしろっ。おれはかまわないぜ」
「君がよくても森さんが困るよ。かなり強引に研究所への捜査を押したらしいからね。君がここで不祥事を起こせば・・・」
「・・・・・」
 ジョーは唇を噛み関を睨みつけた。その顔をちょっと不可解そうに見て、関が彼の手から男を自分の方へ引き戻した。が、自分を追い縋るジョーの瞳に再び目を向け・・・一瞬のスキができた。
 男が上着の内側に手を入れた。何かを取り出し関に向けた。
 バン! と乾いた音が響き、うわっ!と声が上がる。
「関!」
 ジョーの目の前を真っ赤な血が飛んだ。



                              6へつづく