コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
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一緒に歩こう この道を 完


「行け、一平!」
 神宮寺の命令にラジャ! と半ばヤケになった一平の声が響いた。ヘリを列車に近づけ伴走させる。
 ジョーがヘリのドアを開けた。空気の流れにヘリがグラッと揺れる。が、一平の腕は確かだ。
 神宮寺がマグナムを構える。が、
「ストップ、ミスター! 1回上がるぞ!」
 ヘリが急上昇した。列車との間に小さな林が入ったのだ。列車が一瞬隠れてしまう。
「一平、あと20キロくらいで海岸線に出るよ。その方が障害物が少ないだろう」
「わかった」
 ヘリが一旦線路から離れた。
 パラパラと人家が見えた。小さな子どもが普段目にした事がない銀色に光る列車を見てしきりに手を振っている。
「くそォ・・、絶対止めてやるぜ」
 小さなジョーの呟きが全員の耳を突いた。
「出るぞ!」
 〝沖波〝と書かれた駅舎を抜け一平が声を上げた。
 神宮寺がオートマグのトリガーを引く。ガンガンと列車に当たるものの、なかなか壊す事はできない。爆薬の方が確実だが、内部のコンピュータをも壊す危険がある。
 が、残り弾が少なくなってきた時、列車のドアが吹き飛んだ。
「よし、一平! 近づいてくれ!」
 ジョーがスキッドに降りる。かなりのスピードで走る列車に伴走するヘリだ。風圧で体が吹き飛ばされてしまいそうだ。
「行けるか、ジョー」
「やるしかねえだろ。くそォ、おれはガッチャマンじゃねえって!」
「接近するぞ!」
 一平の声と共にヘリの機体がグッと左に滑る。
 躊躇う事なくジョーの体が空(くう)を飛んだ。壊されたドアの部分をガツッ! と掴んだ。右腕1本で車体に貼り付く。すぐ先の線路際に大木が見えた。ヘリが列車から離れた。
「ぐあああ・・!」
 全身の力を右腕に込める。筋肉が膨張し少しづつ体を、車体に開いた穴に引き寄せる。
 左手が掛かった。全身のバネを使い車内に跳び込む。その直後、大木の枝が車体をなめた。

「フウ─」神宮寺が安堵の息をつく。と、スキッドに降りた洸が目に入った。「何をするんだ」
「相手はコンピュータだよ。ジョー1人じゃ無理だ」
 確かにその通りだが、
「危険だぞ、洸。ヘタするとあの列車は─」
「そんなの百も承知さ。大丈夫、ミスターの足の分もジョーを補佐するよ」子どものような邪気のない瞳が神宮寺に笑いかける。「一平! 今度は列車の入口より少し前にヘリを出して!」
 洸はジョーより体重が軽い。風に流される距離が多くなる。それがどのくらいなのかなんて計算はできないが、
「とうっ!」
 洸の体が空(くう)を跳ぶ。ガツン! と、やはり右腕1本でマグナムが開けた穴に取りついた。
「・・・洸にもバレてたか」チッと神宮寺が舌を打ち、「ジョー! 洸を!」

「洸!?」車内のジョーが気がつき、洸の腕を掴むと車内に引き摺り込んだ。「無茶する奴だ。この列車は爆破されるかもしれないんだぜ」
「その前に止めればいいんだろ。それとも君1人で手に負える?」
 コンピュータを指差し洸がニッと口元を歪めた。グッと詰まるジョーに満足したのか、さっそくコンピュータに取り付く。
「MOX燃料システムに直結した爆弾は後ろの車両だ。そいつをなんとかするより起爆装置を解除した方がいい」
 洸はザーツのアジトのコンピュータから手に入れたデータを見ながら言った。
「うわ・・・すごいロックが掛かってる」
「いけるか、洸」
「・・・やってみる」
“任せておけ!”と即答しないのは珍しい。洸にしても難しいのだろう。
 そちらは洸に任せて、ジョーは列車を止めようとした。が、ブレーキを掛けても配線を何本か切断しても列車の勢いは止まらない。
 いっその事コンピュータをぶち壊してやろうかと思ったが、それを察した洸に止められた。
「起爆装置と連動してるんだから無茶しないでよね!」
「だったらさっさと解除しろ!」
「やってるよ!」
 洸はムーとコンピュータをUSBケーブルで繋げる。ロックを解く4つの数字の組み合わせをものすごい速さでムーからコンピュータへと叩き入れる。
「時間が掛かり過ぎる─。ジョー、誘導装置の解除も同時にやろう。プログラムから入って─」
 洸がムーを操作しながらジョーに指示を出す。ジョーもコンピュータが苦手なわけではないが、専門知識の豊富な洸にはとても及ばない。
「ロックは掛かってねぇけど、誘導装置のプログラムなんてねえぜ」
「えっ」洸の目が一瞬、ジョーの前のモニタに向けられた。「別のコンピュータか、それともそこだけは独立システムなのか・・・。あっ、解けた!」
 起爆装置のプログラムには入れたようだ。モニタには数字と記号とアルファベットが並ぶ。それらを洸がすごいスピードで書き替えて行く。

 列車のスピードが上がったような気がした。と、スピードマスターが鳴った。
『まだか、ジョー! もう3分の1まで来たぞ』
「今、洸が起爆装置を無効にしている。誘導装置はまだ解除できない」
『列車のスピードが上がっている。脱線の可能性がある。今JBに連絡して沿線の町や村に警官を出してもらっている』
 が、人間は避難出来ても原子力研究所は動かす事はできない。まだウランなどの燃料は入っていないが、列車が衝突すればMOX燃料が拡散しさらに被害を増やすだろう。いやその手前で脱線し列車が破壊されても─。
『脱線する前に脱出するんだ!』
「まだだ、神宮寺。もう少しで─」
「できた!」洸の声が上がった。エンターキーをひっぱたく。モニタに〝clear〝の文字が表示された。「起爆装置は解除したよ、ミスター。あとは列車を止めれば─」
 その時、ガシャーン! という音と共に、マグナムで吹き飛ばしたドアの部分や窓など外部に通じる空間を鉄のシャッターが下りて塞いでしまった。
「閉じ込められた!」
「くそォ!」
 ジョーがウッズマンを向ける。が、この距離では相手が鉄製なだけに跳弾の危険がある。
 それに神宮寺のマグナムでさえ、あれだけてこずったのだ。ウッズマンの22LR弾では穴を開けるのが精々だろう。
 ジョーは送電を切断しようと思った。─ が、この列車はMOX燃料システムで動いている。送電は受けていないのだ。それならば、
「洸、MOX燃料システムからのエネルギー供給を切れば列車も誘導装置も止まるんじゃないか」
「そうなんだけど、ここにあるコンピュータではシステムから誘導装置や動力への供給コントロールはできないんだ。まったく別のシステムで動いているらしい。この運転車両内には誘導装置は見当たらないし」
 本元がなければ、さすがの洸もムーも手が出せない。
「誘導装置の設置場所はわかるか?」
「待って」洸の指がキーの上を走る。ムーのモニタが列車の側面図を映し出した。「列車の先端だね。ほらここに突起物が見えるだろ。これが受信機─ アンテナだ」
「外かっ」
 ジョーが舌を打った。今この状況で彼らが外に出るのは難しい。と、スピードマスターが自分を呼んでいるのに気がついた。通信は切れていなかったのだ。
「悪い、神宮寺」
『先頭車両が鉄板で覆われちまったぞ。状況を説明しろ』
「ここのコンピュータからでは誘導装置を切る事はできない。装置は列車の先端についている。蛸島の先の原子力研究所までこのまま突き進むだろう」ちょっと言葉を切ったが、「おれ達は車外に出る事はできない。先端のアンテナを撃ち抜いてくれ」
『なんだと!? 飛んでいるヘリから走っている列車を撃てというのか!』
「そうだ。お前ならできる。誘導装置さえ壊せばあとは洸が制御できる」
『だ、だが万が一撃ち損ねたら─』
「そんな事考えるな!一平! 神宮寺をひっぱたけ!」えっ、と遠くから一平の声がした。「やるんだ、神宮寺。こいつを止めなければ大事故になる。お前ができないと言うのなら、おれが内部から爆破してでもこいつを止めてやるぞ!」
『・・・・・』ジョーは本気だ。本気で列車共々自爆するだろう。『・・わかった』
「ジョー・・・」
 洸がジョーを見上げた。
「すまねえ、洸。お前だけでも出してやりたいが」
「わかってるさ。Sメンバーになった時から覚悟はしているさ。ただ予想よりちょっと早かったけど」洸の口元がニコッと上がる。「それに神宮寺の腕も信じているし」
「うん」
 ジョーが頷き、見えぬ相棒に目を向けた。

「あの小さなアンテナをか」
 ベルトで体を固定された神宮寺が、大きく開いたヘリのドアから腰を降ろし眉をしかめた。が、それは一瞬の事だった。
「行け!一平!」
 合図と共にヘリが列車に急接近する。神宮寺がオートマグの銃口を列車の先端に向けた。
 実際の長さはわからないが、神宮寺には2、3センチにしか見えなかった。
 もし失敗し車体を撃ち抜いてしまったら。その場所にMOX燃料システムが設置されていたら─。さすがの神宮寺の手も震えた。
 と、ヘリと列車の速度がピタリと合った。恐れと不安を断ち切るようにオートマグが火を噴いた。
 チュイーンと長い余韻を残し、アンテナが吹き飛ぶのが見えた。うわ~お~! と一平が声を上げた。
「ジョー!アンテナは壊したぞ!列車を止めるんだ!」

『洸!』
『だめだ! 動力システムにロックが掛かってしまった!』

「な、なんだと・・・」
 リンクから響き出る2人の叫びに神宮寺が茫然と呟く。と、
「ミスター!」一平だ。「まずいよ。この先に急カーブがある。その先は大きな町だ」
 グンッとヘリが上昇する。と、大きく曲がる線路が見えた。スピードを落とせばなんという事のないカーブだが、あの列車のスピードのまま突っ込んだら─。

『仕方がねえな、神宮寺』リンクからジョーの声が静かに響く。『車輪を撃って列車を脱線させろ。カーブに差し掛かる前にやるんだ』
「じ、冗談じゃない! そんな事をしたら─!」
『このスピードじゃあのカーブは曲がりきれない。脱線してヘタすりゃ町中に突っ込むぞ』ジョーと洸はムーで線路の映像を見ているのだろう。『カーブの手前には人家はなさそうだ。完璧な条件じゃないが町中で爆発するよりはいい。やるんだ!』

「──」フラリと神宮寺が立ち上がる。武器箱から小型のバズーカと取り出した。「一平、列車の正面に出るんだ。ギリギリまで地上近くに降りられる地点を探してくれ」
「ミ、ミスター・・・」
 一平の瞳が揺れ言葉が震える。ジョーは仲間だし洸は大事な相棒だ。それを・・・。
 しかし神宮寺の顔には決心とある確信とが現われていた。凛とした静かな落ち着き─。一平はそんな神宮寺に賭けた。
「ラジャ!」

「ジョー、洸、よく聞け。今からバズーカで1両目の前輪だけ脱輪させる」
『脱輪?』
『そんな事出来るの?』
「角度さえ合えばな。うまくすれば横転せずに済む。確率は低いが」
『発射角度の計算がいるね。しようか?』
「その時間はない。おれのカンでいく」
 え~、と洸の声が上がるが、
『ま、いいや。やってくれ、神宮寺』
「ラージャ!」
 まるでどこで待ち合わせるか決めるような軽さだ。

「最後まで諦めるなよ。必ず止めて外へ出してやるからな。─ まだか、一平!」
「見つけたぜ! 人家もないし平坦地だ」ヘリがホバリングを始めた。ゆっくりと降下していく。「ただしカーブがすぐ後ろだ。チャンスは1回しかないぜ」
「失敗する時は何回やっても失敗するものさ」バズーカを担ぎ、神宮寺が再びドアを開けその端に腰を降ろした。「成功する時は1回でもする。今回のように─」
 神宮寺が言葉を切り顔を上げた。遥か前方から列車が迫る。
 肩に担いだバズーカの砲口を列車の左前輪合わせる。車輪の外側に当て線路内に脱輪させるつもりだ。
 バズーカを押さえる手の平が汗ばんだ。指が太いトリガーに掛かる。

 バムッ!

 その反動で神宮寺の上半身が後ろに倒れた。
 ヘリが急上昇する。その下を列車が通り過ぎた。ガガガ・・・と金属音が響き、砂利が巻き上がる。
 車体を傾けた列車が線路の幅だけ左右にガンゴンと揺れながら進んで行く。

「ジョー!洸!」ヘリで追う2人が叫ぶ。「頼む!止まってくれ!」
 と、その声が届いたのか列車がキーと鳴った。ブレーキが掛かったのだ。
 キキキ・・・とさらに鳴き、左に傾いた列車はカーブのわずか20メートル前で砂煙と共にその巨体を止めた。

「ミスターが脱輪させたのと同時に、動力システムのロックを解除したんだ」洸が自慢げにムーを目の前に掲げた。「それでブレーキを掛けたんだよ」
「そうか。それがなかったら危なかったかもしれないな」神宮寺が苦笑いし、いたずらっ子のような目を向けた。「実は全然自信がなかったんだ」
「ひでえ相棒だぜ」
 眉をひそめジョーが睨む。が、その目は笑っていた。
 列車が止まったのは良いが、鉄板で覆われた車両からジョーと洸が助け出されたのはそれから2時間も経ってからの事だった。
 早めに森に報告を入れていたのですぐに事故処理班が東京を出たのだが、長野県の上空で豪雨に巻き込まれ現場到着が遅れてしまった。しかしその後の救助活動は早かった。
 と、同時に車体の解体に入る。MOX燃料システムを取り出すためだ。
「2人共、掠り傷程度でよかった」医療部の手当てを受けているジョーと洸に目を向け佐々木が言った。「どうだい?講義は少しは役に立ったかい?」
「ぜ~んぜん!」
 洸が首を振る。
「あんな講義を受けても、結局おれ達肉体労働じゃん」
 ムスッと言うジョーがふと横に立つ神宮寺に目を向ける。
 いつもと・・今までと変わらぬ端整な静かな面持ちでしっかりと前を見つめていた。
 これから先、不安や躊躇いに捕われる事もあるだろう。だがこいつなら大丈夫だ。しっかり歩いて行かれる。そしておれも─。
 ジョーは神宮寺が見つめている方へとその目を向けた。


                                            完



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一緒に歩こう この道を 9


     AS355


 JBの屋上ヘリポートからAS355が飛び立つ。6人乗りの双発タービンヘリコプターだ。
 操縦桿を握るのは一平。コ・パイに神宮寺が入っている。巡航速度220キロメートル。穴水まで1時間30分のフライトだ。
 後部席のジョーと洸は機器の整備をしている。
 ジョーの右手の甲と胸部の包帯はまだ取ってもらえなかった。だが部屋で燻っているより外へ出た方がいい。いざという時は包帯なんて自分でも取れる。
「なんだ、それ?」
 ふと見ると、洸が見慣れない機器を持っていた。
「最新型のモバイルさ。軽いだろ? こんなに小さいのにパソコン並みの働きをするんだ。JBに置いて来たぼくのノートパソコンとも繋がってるし」
「またヘンなソフト入ってンじゃねえだろうな」
 ジョーが露骨に顔をしかめる。
「太陽神からとって、〝ムー〝って名前をつけたんだ」
「ヌー?」
「ムー! ラ・ムーのムー!」
「ブー?」
「・・・遊んでない?」
 睨む洸にジョーがニッと口元を歪めた。

 やがて機は石川県警穴水署のヘリポートに着陸した。署長直々に出迎えてくれた。
 彼はヘリから降りて来た4人の男達があまりにも若いので驚いた。だが4人はあいさつを済ますと穴水署が用意してくれた車両に機器類を運び始めた。
 車はランドクルーザーのプラドだった。以前に使用した事のある力(リキ)のいい車だ。 ただオートマなのと、ちょっとイヤな思い出があるのでジョーの眉が寄りっぱなしだったが。
「ではお借りします。今後我々との連絡はとれませんがご心配無用です。車両の返却はこちらから連絡しますので」
 若いのに物怖じせずテキパキと事を勧める神宮寺に署長は無言で頷いた。きっと余計な事は訊くな、と言われているのだろう。こちらとしてはありがたい。
 神宮寺がプラドの助手席に体を入れる。運転席ではいつものレーサーグラブをつけたジョーがステアリングを握っていた。相棒の姿をチラと見た神宮寺は、やはりこいつにはこの場所が1番だと思った。
 その2人の目に、北へ向かうAS355が見えた。JB2はヘリコプターで捜査に入る。双方に電波探知機を乗せている。
「さっきの線路の映像が気になる。─ ああ、やはりJBのパソコンのように細かい所までは映らないな」グーグル映像から地図表示に替えた。「穴水から蛸島までは海岸線を行く単線だったんだな。これといった重要な施設はないようだが─」
 モニタの地図が段々と北上していく。珠洲市に入り、終点だった蛸島に着いた。もう少し上がる。と、
「これは─」
「掛かったぜ!」ピーと響き渡る音と共にジョーが声を上げた。ザーツが江古田の研究所に連絡を入れたのだ。「できるだけ会話を伸ばしてくれよォ」
 ジョーがナビのスイッチをバチバチ押した。地図が消えトレーサーになる。
「洸! 捕まえたか!」
『もちろんさ!こんなに早くキャッチできるなんてラッキーだね』
「だがワナの可能性もある。油断するな」
 ラジャ! と快活な洸の返事を聞き神宮寺は再びトレーサーに目を向けた。
 発信元は249号線を走るプラドより北を示している。
 国道から一般道に入り北上する。ゴルフ場が見えた。緑が多く仕事でなければのんびりしたい所だ。
 と、遥か前方でAS355がホバリングしているのが見えた。あの下が発信元という事か。
 と、クルッと方向を変えAS355が移動する。着陸可能地点を見つけたのだ。

「この辺でいいだろう」神宮寺の言葉にジョーが車を停めた。「・・・ジョー」
「あ?」隣に目を向けたジョーは、相棒の思い詰めたような貌に驚いた。「─ なんだよ」
「もしもおれがこの前のような状態になったら・・・おれに構わずJB2と任務を続行するんだ」
 ジョーに向けられた神宮寺の目は真剣で、しかしおちついていた。
 普通に暮らしている人達の平和を乱すのは許せない。それでもまだ不安や割り切れない思いはある。
 しかしその瞳に躊躇いはなかった。自分の進むべき道は確信している。
「わかったよ」レーサーグラブを外し包帯をシュッと取った。「もしそうなったら、おれがひっぱたいて正気に戻してやるよ」
 スッとジョーが車外へ立つ。助手席の神宮寺もプラドの横に立った。互いの存在が頼もしく感じる。

 細い道を進む2人の前に大きな建物が現われた。元はペンションかプチホテルだったようだ。直感でここが発信元だと思った。
「─ にしては静かだな。もうズラかっちまったのかな」
「研究所に連絡が入ったのは20分前だぜ」
 移動したにしては早い。と、
「ミスター、ジョー」一平と洸が追いついて来た。「発信は間違いなくこの中からだ」
「行こう」神宮寺の合図と共に4人が建物のドアに取りついた。が、「伏せろ!」
 神宮寺が横に飛ぶ。考える間もなく3人も従った。
 ドガンッ! とドアが吹っ飛んできた。
「うわっ!」
 伏せた神宮寺の上に落ちて来た。
「神宮寺!」ジョーが駆け寄る。「大丈夫かっ」
「足に当たっただけだ。大した事はない」
 その言葉通りすぐに立ち上がる。
「やっぱりワナかな」
 洸が呟く。
「たとえそうでも行かなければならない」
 自分に言い聞かせるように神宮寺が言った。
「せっかく入口を開けてくれたんだしな」
 ジョーがひと足先に建物に入る。小さなフロントがあった。グルリと見回し右の廊下へと進む。その先の突き当たりをまた右に曲がった。
「ヘェ、ジョーの当てずっぽうも大したものだね」ふいに洸が言った。手には例の超小型モバイル ─ 洸が名づけたムーを持っている。「ムーも発信元はこっちだと言ってるよ」
「─ お前、そーいう便利な物は早く出せ」
 ピコピコと点滅を繰り返すムーにジョーが眉をしかめた。はいはいと洸が先頭に立つ。と、行きついたのは、〝食堂〝とプレートの貼られた大きなドアの前だった。
 4人は2人づつドアの左右に分かれる。人の気配はなかった。
 バンッ! とドアを押し開け、ジョーと一平が飛び込んだ。室内に銃口を向ける。が、
「うっ!?」
「な、なんだ、ここ─」
 2人に続き室内に入った神宮寺と洸も一瞬動きを止める。
 広い空間にはコンピュータと大きなスクリーンが置かれていた。
 スクリーンにはいくつもの四角が表示されていて、それぞれ〝塵波〝〝白丸〝と書かれている。1番端は〝蛸島〝だ。その四角を線が結んでいる。まるで鉄道会社のコントロールルームのようだ。
「これって─」
「のと鉄道の、廃線になった路線図だ」神宮寺が言った。だがなぜこんな物が。と、リンクが鳴った。「はい、神宮寺です」
 相手は森だ。
『先程ザーツから連絡が入った。政府が奴らの要求を突っぱねた事で強行手段を取って来た。あと1時間以内に要求を呑まなければ重要施設を爆破すると─』
「チーフ、実はこちらも気になる物を見つけまして─」
 神宮寺が説明する。そばで洸がコンピュータを起動させていた。
 スクリーンが明るくなり〝穴水〝と書かれた四角─ おそらく駅だろう─ が点滅し始めた。
「─ はい、ただ何に使われるのかは─」
「列車だ! 廃線に列車が走る!」別のモニタを見ていた洸が叫んだ。「この列車、例のMOX燃料システムで動いているんだ!」
 なんだって! と3人が洸の周りに集まって来た。
 モニタには列車の車体図が表示されている。エンジン部にはMOXの文字が見える。
「だけど、こんな所に列車を走らせてどうするんだ?」
「洸!」神宮寺だ。「モバイルに蛸島から北の地図を出してくれ」
「ラジャ」洸の指がキーボードの上を走る。「別にこれといった重要施設は─ あ? なにこれ?」
 ポインタを合わせて検索する。
「建設中の実験用原子力研究所だっ」
「これだな」神宮寺が路線図が表示されているスクリーンを見上げた。「建設資材を運ぶのに廃線が利用されているのだろう。奴らそこにMOXの列車を走らせ研究所に衝突させるつもりだ」
 全員が息を呑む。
「奴ら、その事をおれ達に教えるためにわざと電波をキャッチさせここに導き入れたんだ」
「なぜだ。そんな事しねえでいきなり爆破しちまえばいいじゃねえか!」
「事前に政府に知らせる事によって爆発が起こった時の対応のミスを世間に知ら示すためだろう。そして・・・奴らも成功させる自信があるのだろう」
「きったねえ奴らだぜ!」
 バンッ! とジョーがコンピュータを叩いた。今までの事件でもザーツはその姿を見せなかった。今回もまた─。
 と、今まで点滅していた〝穴水〝から、その点滅が線の方へ移動した。
「止めろ、こいつ!」
 ジョーがコンピュータを蹴った。と、ピピピ・・・とコンピュータが鳴り出した。背後から黒い煙が上がる。
「あ、あら・・」
「出るんだ!」
 神宮寺が叫び、そのとたんジョーに腕を掴まれた。そのまま引っ張られていく。
 4人が建物から飛び出したとたん、ドーン! と音が響き建物の一部が破壊された。
「無茶するなよ、ジョー!」
「いや、始めからセットされていたんだろう」神宮寺がジョーの手を振り払い言った。「それより列車だ。おれ達もヘリで飛ぼう」
 ラジャと一平と洸が先に立ちヘリへと向かう。と、
「─ 気がついていたのか」神宮寺が小声でジョーに言った。まーね、と肩をすくめる。「そうか─。だが余計な気遣いは無用だぜ」
 と、左足を庇いながら2人の後を追う。
「気の強い相棒だぜ」
 ジョーは再び肩をすくめ、その相棒に後を追った。

 やがて、一平が操縦桿を握るAS355が大空に飛び上がった。
「この列車は完全誘導だ。コンピュータが壊れても動いているところを見ると、誘導装置は車内か列車の終着地にセットされているね」
 洸はあのわずかな時間にコンピュータから自分のモバイル─ ムーにできる限りのデータを移していた。
「穴水から蛸島まで61キロ。1時間あれば到着するよ」
 奴らの言っていた〝1時間以内〝というのはこの事か。
「車内にはコンピュータ制御の起爆装置がセットされていて─ ああ、だめだ。ここからじゃ解除できない。直接車内のコンピュータを叩かなきゃ」
「列車を止める事はできないのか?線路を爆破して通れなくする、とか」
「バカな事を言うな。万一脱線して爆発でもしたらどうする。MOX燃料を積んでいるんだぞ」
 海岸線や山間を走る路線だが、もちろん街もある。ヘタをすると大勢の人が巻き添えを食う事になる。
 神宮寺は森に連絡を入れ、原子力研究所の建設作業員達の退避を要請した。
「ポイントを切り替えて予備線に入れちまったらどうだ?」
 ジョーにしてはまともな意見だが、
「今検索してるんだけど、予備線は線路が外されてもう使えないんだ」
 と、
「北上する列車を発見!」一平の声が響く。「な、なんてスピードだ。あれでは終点まで1時間も掛からないぞ」
 列車はのどかな能登半島を走るローカル線ではなかった。鼻づらの長い金属製の─ 山形新幹線に似たフォルムをしている。
 2両編成だがスピードが尋常ではなかった。もし線路上で整備の悪い箇所があったら脱線していまうかもしれない。
 一平はヘリを列車の横に並び飛ばせた。
「神宮寺、マグナムで運転席の側面を壊してくれ」
「どうするつもりだ」
「おれが飛び移る。中に入ってコンピュータを止めてやる」
「無茶だ!」
「あのスピードだよ。弾き返されたらどうするの!」
「うるせぇな! それしか方法はねえだろ! おれに任せておけ。絶対に止めてやるっ」
 神宮寺を見るジョーの瞳がいつにも増して青く輝いている。今までこの瞳の輝きに何回も賭けてきた。そしてその賭けの結果は─。
「一平、できるだけ列車に近づけてくれ」
 胸のホルスタからオートマグを抜く。
「ミスター!?」
「ムチャだよ~」
「うるさい! 言うとおりにしろ!」
 怒鳴られ一平と洸が首をすくめた。
「怖いコンビ・・・」
 洸が呟き、ジョーがニッと口元を歪めた。


                                     完へつづく
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一緒に歩こう この道を 8


「西崎、応答してくれ! 樋口!─ だめか」この事を早く知らせて、ここから脱出しなければ。「仕方がない。先に出よう。外からなら通じるかもしれない」
「よし、二手に分かれよう。お前は外へ、おれはこの中を行ってみる」
「それは危険だぞ、ジョー」
「彼らだって同じだ。それにこの方が効率がいい」ジョーが早くも廊下に飛び出す。「もしリンクが通じなかったらエルグランドの通信機を使え」
 エルグランドの通信機は妨害電波を突き破るほどの高出力を備えている。
「気をつけて行け」
 神宮寺の言葉にジョーの貌がふと緩んだ。今1人にしてもこいつは大丈夫だと思った。 身を躱しジョーが奥へと走って行く。神宮寺もすぐさま今来た廊下を引き返した。妨害もなく正面のドアに辿り着く。何発かマグナム弾を撃ち込んでドアを壊した。
「黒田!通信機をセットして皆を呼べ!あの建物から早く出るよう伝えろ!」
 爆発が聞こえたのだろう。門のすぐそばまで来ていた黒田が急いで引き返し、エルグランドに飛び込んだ。
「だめだ、応答がない!」
 すぐ後から乗り込んで来た神宮寺を振り返った。
「呼び続けるんだ。兵道! 現状を眉村さんに知らせてくれ!」
 前方から、ラジャ! と兵道の声が上がる。状況を聞いた眉村が後々の手を打ってくれるだろう。
 と、突然ドーン! という轟音が響いた。車外へ飛び出し建物に目をやる。右側半分が吹き飛び、真っ黒な煙が吹き上がった。
「ジョー! 西崎!」
「危ない、ミスター!」
 現場に走ろうとする神宮寺を黒田が止めた。

 神宮寺と別れたジョーは建物の奥へと向かった。こういう時は自分のカンが1番信じられる。
 と、前方のドアが開き、男が2人ジョーに向かって発砲してきた。
「チッ!」
 ジョーが床に逃れる。その位置で1人の肩を撃ち抜いた。
 ジョーのすぐ横で弾丸が跳ねた。クルッと体を半回転させ仰向けでもう1人の男を狙う。が─、
 「うっ!?」
 ボンッと爆発音がして天井が崩れて来た。あわてて立ち上がり壁に身を寄せた。
 しかし爆発の規模は小さく、気がつくともう1人の男が瓦礫に埋まってのびていた。
 ジョーがホッと息をつく。
「あまり銃を使わせないでくれ」
 ホルスタをしているのでウッズマンを抜くたびに火傷に擦れて痛いのだ。と、
“ジョー!”
 と、自分を呼ぶ声がした。その方へ走ると樋口がドアを叩いて叫んでいた。
「どうした!」
「やっぱりウッズマンの銃声だったんだ」樋口がちょっとホッとした顔になる。だが、「今の爆発でドアが歪んで開かなくなった。白鳥が閉じ込められ返事がない」
「なんだって」
 ジョーもドアを叩いて白鳥を呼ぶ。しかしドアの向こうからは何も聞こえなかった。ドアも人間の力では開きそうにない。
 ジョーは小型の爆薬玉を持っている。しかし白鳥が室内のどこにいるのかわからないまま使うのは危険だ。だが、
『─ 全メン─ 建物─ 脱出せよ─』2人の通信機が鳴った。『崩壊の恐れが─』
「仕方がねえ。─ 白鳥! 聞こえてたらドアから離れろ!」
 ジョーはドアの下にケースから取り出した爆薬玉を3つ並べスッと下がった。
 ウッズマンで一気に撃ち抜く。熱い鉄のドアがさらに大きく歪み壁との隙間ができた。強引に指を捩じ込み思いっきり引き剥がした。
「白鳥!」
 ジョーに続き樋口も飛び込む。と、 次の瞬間、ドーン! と今までにはない大きな爆発が起こった。

「君達が見たのはやはりMOXシステムの実験車両(スカイライン)で、エンジンと燃料タンクまどが無くなっていたそうだ」
 森が報告書を神宮寺に手渡した。
「相手はやはりザーツでしょうか」
 目を通した書類をジョーに渡した。漢字ばかりの書面に顔をしかめたが、神宮寺が内容を説明してくれそうにないので観念して読み始めた。
「MOXシステムを手に入れて、いったいどうしようというのか─」

 最初の爆発で今までいた廊下は落下物で埋まってしまった。もし部屋に入るのが遅れていたら、ジョーと樋口は下敷きになっていただろう。
 幸い室内には被害はなく、しかしその前の爆発で白鳥が大怪我を負って倒れていた。 ジョーは爆薬玉で鉄格子のはまっている窓を壊し、白鳥を担ぎ樋口と脱出した。他のメンバーはすでに外へ出ていた。
 やがてJBの医療ヘリが到着し、重傷の白鳥と軽傷だがあちこち焦げたジョーと樋口を乗せ病院へと飛び立った。
 残ったメンバーは煙の収まるのを待って研究所内の捜査に入り、車の残骸と外国人らしい2人の遺体を確認した。

「これって結局なんだったんだ? おれ達を誘き出すワナか? なんのために?」
「そんな事をする意味はない。おそらく車が電波を発信した事に気がつき、すぐに警察が来ると思い場所を移動したのだろう。そのついでにやっつけてやろうと思ったか─」
「チェッ、ついでかよ。甘く見られたものだ」
 バンッ! とジョーが報告書ごとデスクを叩いた。
「だが興味深い物を見つけたよ」森がパソコンのモニタを2人の方へ向けた。「何枚かあったCD─ROMの1枚が読み取り可能だった。これがその内容だが」
 モニタには日本地図が表示されている。茨城や福井など50ヶ所程に○がつけられていた。
「まさか奴らのアジトの場所じゃねえだろうな。多すぎるぜ」
「いや、これは─」神宮寺の眉が寄る。「原子力発電所の─」
「その通り。東海、敦賀、泊─ 全部、原子力発電所がある場所だ」森の言葉に2人は顔を見合わせた。「このうちの二重丸の所が現在稼働中だ」
「奴らの狙いは原子力発電所?」
 神宮寺が呟く。どうもピンとこない。
「まさかMOXを貰いに行くとかじゃねーよな」
 ジョーが前髪を掻き上げた。
 右手の甲に包帯が見える。爆発による火傷だ。あと2、3ヶ所あるが大した事はない。と、通信課が江古田にある研究機関から電話が入っていると伝えて来た。
「セキュリティレベルを5に上げて繋いでくれ」少し間を置き森が受話器を取った。「はい、森です。植田さんですか。─ はい─ え、ザーツですか」
 神宮寺とジョーが森のそばまで来た。
「はい─ はい」
 森が植田の話をメモに取って行く。チラッと覗き込み、神宮寺が眉をしかめた。
「わかりました。ええ─ はい、では」カチャと受話器を置く。2人に向き直り、「10分程前だが、江古田の研究所にザーツと名乗る組織から連絡が入った。MOX燃料システムの設計図や研究データを要求してきたそうだ。もし拒否すれば日本のどこかで大事故が起こるだろうと」
「データを?」
「なんてずうずうしい奴らだ!」
 2人の脳裏にブラジルで起こった列車爆発テロの映像が浮かんだ。もし日本であんな事が起こったら─。
「今から内閣府に行って協議に入る」
 森があわただしく外出の用意を始めた。「君達は待機していてくれ。それとこの事は当分他言しないように、それから─」ちょっと言葉を切ったが、「やはり研究所員にザーツのスパイがいたそうだ。もう10年も勤めている人物なのでまさかと思ったようだが」
 その言葉に神宮寺の口元がキュッと結ばれた。ギリリ・・・と歯ぎしりが聞こえてくるようだ。
「三神の時もそうだが、ザーツは何年も掛けて国や組織の中に潜り込むようだな。─ あ、山田さん、今から一緒に─」
 森が室内フォンで話し始めたのを見た神宮寺がチーフ室から出て行った。ジョーも続き1階下のダブルJ室に戻る。
 室内は急に出動した時のままでコーヒーも冷たくなっていた。
「やはりザーツだったか」バンッと自分のデスクに手をつき吐き出すような口調で神宮寺が言った。「国際テロ法ができてもテロリスト集団は依然として存在する。叩いても潰しても復活する。奴らはそれだけの組織力と資金を持っているんだ」
「神宮寺・・・」
「おれ達がいくら潰してもその倍の速さで復活する。これでは追いつくわけがない」
「お前、まだそんな事言っているのか。それでもおれ達は─」
「勘違いするな、ジョー。おれは気弱で言ってるんじゃない」
 スッと神宮寺の瞳がジョーに向けられた。
「奴らにどんな考えや主張があるのか知らない。腐敗した政府に立ち向かっているテロ集団もあるだろう。だがその主張がたとえ正しくても、テロというやり方で認めさせようとするのはやはり許せない。ましてや普通に暮らしている人達を巻き込み、仲間や相棒に怪我を負わせた奴らを」
「神宮寺」
 彼の双瞳に再び強い意志の光が灯るのをジョーは見た。
 端整な顔立ちの、しかしその底にある彼の怒りとそれに向かおうとする強さと優しさ─ 神宮寺力という1人の人間としての想いを─、
「そうだよな。何度復活してもおれ達が叩き潰してやろうぜ。へっ、お前がその気になってくれれば強いぜ!」
「だから関さんに余計な事を言うな」
 うっ、とジョーが詰まる。チラと上目づかいで相棒を見て、復活したこいつの方が怖いと思った。と、
「そういえば眠いって・・・。ベッドに入れよ。少し寝ておいた方がいいぜ」
「・・・誘ってるのか?」
「誰がだ!」
 真っ赤になって怒鳴るジョーに神宮寺がとびきりの笑顔を見せた。やっぱテロより怖い・・・と改めて思った。

 この日のうちに政府の担当者や植田、森など10名からなる対策協議会がザーツの要求に対する話し合いを行った。
 その最中にザーツからの2回目の連絡が入った。
 先の事項と共に研究責任者をも要求してきた。本より受け入れる事はできない。
 テロ組織にも色々なタイプがあり、テロを起こして声明を発表し自分達のしたことを誇示するものもあれば、あまり公けにはせずその国の最高機関にのみ要求を突き付けてくるものもある。
 ザーツは後者だった。国としては極秘に片を付けやすい。
 協議会は満場一致でザーツの要求を拒否する事に決定し、捜査については国際秘密警察パリ本部を介してJBに一任された。

「ザーツって鉄道マニアなのかな」ポツリと呟く洸に神宮寺とジョー、一平が目を向ける。「例のCD─ROMの最後に線路の映像が何枚もあるんだ。どこかはわからないけど・・・でも電車の映像はないから、線路マニア?」
「そんなマニアいるのか?」
 一平が洸のノートパソコンもモニタを覗く。なるほど、ずーと伸びている線路と遥か遠くに海か湖が映っている。日本の風景だと思うが都心ではない。「「これ駅だよな。たこじま?どこだ?」さっそく自分のノートパソコンで検索する。いくつもヒットしたが、その中で鉄道に関係するものは─。「のと鉄道? 能登半島だ」
「ああ」思い出したように神宮寺が声を上げた。「和倉から輪島や珠洲市方面へ出ている第3セクターだ。しかし何年か前に一部廃線になったはずだが」
「そんな所に奴らのアジトでもあるのかねっ」苛立だしげにジョーが言う。「こんな所でパソコン相手にしてたってラチがあかねえ。その能登半島に行ってみるかっ」
「おちつけ、ジョー。闇雲に動いても仕方がない」見ると神宮寺がグーグルを呼び出していた。石川県へ進む。「政府はザーツの要求をきっぱりと跳ねたんだ。そろそろ何か言ってくると─」
 ふいに神宮寺の声が途切れた。モニタには廃線になったのと鉄道の線路が映し出されている。
「使ってないわりには綺麗だな。雑草もサビも少ないし」
『石丸だが、ジョーはいるか』室内フォンのモニタに石丸医師が映った。“やべっ” とジョーがあわてて死角へと逃れる。『火傷の処置に来ていないじゃないか。今から10分以内に来ないと医療部全員でダブルJ室に押し掛けるぞ』
「今、それどころじゃないんです。ザーツのアジトを捜してるんだ」
「ジョーは何もしてないけどね~」
 洸が言いジョーに睨まれた。
「行ってこい、ジョー」神宮寺だ。「でないと出動命令が下っても連れていかないぞ」
 まるで、“早く寝ないと明日遊園地に連れて行かないぞ” と言われている子どものようだ。
 ジョーは思いっきり口元を曲げ神宮寺を睨みつけた。が、仕方なくドアへと向かう。
「神宮寺パパだね。─ あっ、痛い!ダブルJ攻撃だあ!」洸の頭がポカポカ鳴った。彼はパソコンの前から逃げ出した。「息の合ったコンビだことで!」
 と、
『ダブルJ、JB2、すぐに7階へ来てくれ』
 フォンから森の声が響く。
「ラージャ!」真っ先にジョーが叫ぶ。「チーフの命令が最優先だな」
「いつもはそんな事、思っていないくせに」
 ダブルJ室から飛び出すジョーを見て神宮寺が苦笑した。が、自分達も7階のチーフ室へと向かう。

「奴らからの発信元がわかったぜ!」3人が部屋に入ったとたんジョーの声が飛んできた。声が大きいとチーフが諌めるが、「北陸方面だ!」
「北陸?」
「能登って北陸だよな」
 偶然の符合か、と3人が顔を見合わせた。
「なんだね?」
 チーフが訊くのへ、洸が先程まで見ていたCD─ROMの映像の話をした。う~ん、と森が唸る。
「江古田に入る奴らからの通信を張っていたのだが、その発信元は確かに能登半島の穴水町周辺だ。君達4人はすぐに捜査に行ってもらいたい。穴水まではAS355を使い、穴水署のヘリポートを使用、捜査用の車両は向こうが用意してくれる。だが内容に関して説明する必要はない。君達4人のみで動く極秘任務だ。情報提供は私からのもののみ有効とする」
 はい、と4人が頷く。
「MOX燃料システムはまだ研究途中のもので改良点も多い。取り扱いを間違えると惨事になるだろう。なんとしてでも取り戻さなければならない。それも君達だけでだ」
「わかりました、チーフ。ただちに穴水に向かいます」
 出て行こうとする4人へ、
「ジョーは医療部に行ってからだ。石丸さんからの出頭命令が出ているはずだが」
「えっ、でももう大丈夫─」
「チーフの命令が最優先なんだろ?」ニコッと笑みを浮かべ神宮寺が言う。「言う事を聞かないとおルス番になるよ」
 優しげに言う相棒は怖い。ジョーはため息をついた。


                                        9へつづく

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一緒に歩こう この道を 7


「これ見てよ、神宮寺。研究所のセキュリティを破ったプログラミング・パターンだよ」
「え?」神宮寺はイスごと横のデスクの洸の元に移動して来た。「残っていたのか?」
「ううん、ぼくが作った」
「・・・・・」
 つい洸を凝視してしまう。あまり詳しい事は聞かない方がよさそうだ。
「そしてこっち」画面が二分割され、もうひとつのパターンが表示された。「この2つのプログラム・・・似てると思わない? 作ったのは同一人物か、同じマニュアルを使用した人物だね」
 絵や彫刻を見れば作者がわかるように、プログラミングにも製作者の癖が出るらしい。ちょっと見ただけではわからないが洸には一目瞭然なのだろう。
「それで、こっちは何のプログラムなんだ?」
「1ヶ月くらい前に防衛省のコンピュータに入り込んだ奴がいて、セキュリティは破られなかったけどいくつかの足跡を残して行ったんだ。それを参考に組み上げたパターンさ。そしてこれはパリ本部に資料として記録されているものと一致する。例の、ザーツがよく使うパターンだ」
「ザーツ!?」神宮寺が思わず声を上げた。「では、今回の事は─」
「ザーツが関わっている可能性が高いね」洸も真剣な目を向けて来た。「で、ひとつ疑問があるんだけど」
 え? と神宮寺が顔を向ける。
「この机、なんで横に並んでるの?」
「・・・・・」
 またも洸を凝視する。思考回路がよくわからない。
 模様替えだと自分のデスクを窓側に動かしたジョーは、結局そのままそこへ居座ってしまった。もちろん神宮寺も譲る気はない。
「・・・男の意地の結果かな」
「なにそれ? 2人の思考回路ってよくわかんないや」呆れた洸の言葉と同時にジョーと一平がダブルJ室に入って来た。「遅いなァ。どっかでデートして来たの?」
「大事な車を盗まれたアホな研究所を見に行って来た」
 バッグをソファに放り、ジョーが2人のデスクの前に立った。
 シャツのエリを大きく開けた隙間から包帯が見えた。が、その動きに怪我を庇う様子はなくいつもと同じだ。神宮寺の表情が和んだ。
「なんだ。ぼくはまた、関さんとおとといの夜のデートの続きでもしているのかと思った」
「・・・なんでお前がそんな事を知っているんだ」
「高浜に言っただろ? デートだったって。いい所で呼び出されて欲求不満(←言ってないって・・)だって。それでトランザムで乗りつければ誰だってわかる。皆優秀なメンバーだからね」
「たかはまのやつ~」
 メラメラと炎が噴き上がるが、さすがにそれどころではないと気がついた。ヘラヘラ笑う洸をひと睨みし、
「で、何かわかったか?」
「ちょっとね、これ見てよ」
 洸がジョーと一平に自分のパソコンのモニタを示した。
「・・・おれをまた病院送りにしたいのか、洸」目の前に広がるいくつもの数字と記号の乱舞にジョーが凄む。「お前も一緒に送ってやろーか?」
「理解しろなんて言わないよ。ただ─」
 洸が説明する。ザーツの名を聞き、2人も驚いた。
「ザーツがMOX燃料を搭載した車を盗んで、いったい何に使うんだ」
「世界平和に貢献しようって事は、まずねーよな。くそ、しばらく聞かなかったのに」
「そーいう難しい事はチーフ達に考えてもらおうよ」
 洸がプログラミング・パターンの件をファイルにしてチーフに送った。ヘラヘラと無駄話をしているが、やる事はちゃんとやっている。
「おれ達(JB)が担当するかわからないけど、出動に備えておいた方がよさそうだな」
「机上の分析はこれで精一杯だね」
 洸と一平は隣のJB2室へと戻って行った。

 神宮寺はまたパソコンに向かいキーを叩き出した。
 ジョーのいる位置からだと横顔しか見えないがいつもの彼の貌に見えた。チラッとその横顔に目を向けて、
「やっぱ変だよな」
 と、自分のデスクに近寄る。神宮寺が怪訝な目を向けて来た。
「2人並んで仕事をしてるのも変だ。気持ち悪い。元に戻すから手伝え」目をパチクリしている相棒を促し、「あれ? 上に乗ってた書類はどうした? 片付けてくれたのか?」
「まさか」
 神宮寺の指差す方を見ると書棚の上に乗っていた。チェッとジョーが舌を打つ。
 2人はジョーのデスクを元のソファのそばまで戻した。
「おれのも戻してくれ」
「ひでえ相棒だ。怪我人だぜ、おれ」
 ブツクサと勝手な事を言い、それでも神宮寺のデスクをズーと引いてこちらも元の場所に収まった。
「─ まだ林さんの所に行ってるのか?」
「え?」
 デスクを戻しホッと息をついていた神宮寺がジョーを見た。真っ直ぐに自分を見つめる青い瞳には今までのような激しさはなかった。
「いや、ここ6日程行っていない」
「・・・そうか」
 ジョーは、またパソコンに向き直ってしまった神宮寺の横顔をしばらく見ていた。が、ふと目が書類の山に移る。
 1番上に管理課へ提出する始末書が乗っていた。

 この日、1日スカイラインの行方を捜査していたチーム1がJBに戻ったのは夜中近かった。
 ナンバープレートの付いていない車両なので大型車両に積んで運ばれたらしく目撃者もなく、GPSによる追跡システムも途中で犯人に寄って切られてしまった。
 チーム3は結城達に張り付いている。
 森の指示で神宮寺と洸はザーツに関するニュースをネット上で検索する作業に入り、一平はチーム1との捜査に参加している。
 だが怪我を治す事に専念するよう言われたジョーだけは、医療部に処置入院させられていた。
 と、いっても同じJB内なので、2人が作業しているダブルJ室に戻るのは難しくない。
 だが事が動いたら必ずおれ達が出る─ と確信しているジョーは、珍しくおとなしく処置を受けていた。

「おはよー、ジョー」カチャカチャと何かを掻き回している洸の手元をジョーがじっと見ている。「なに?」
「茶・・・じゃねえよな・・・」
「お茶にネギとしょう油入れてご飯にかける気?」
 洸が小鉢の中味をジョーに見せた。
「よかった、茶色だ」
 ホッとし洸の向かい側に腰を降ろす。
 トレイにはハムエッグやウインナーなどが乗っている。
 日本に12年もいるが朝食に米を食べる習慣はつかなかった。和食は好きだが、それでも週に1、2回だ。
「目、赤いぜ。一晩中モニタとにらめっこか?」
「ぼくも年とったよな。学生の頃は3日程徹夜しても大丈夫だったのに」暖かいご飯に卵も加えた納豆をかけ掻き込んだ。ジョーが見ている。「食べる? おいしいよ」
「いや・・・いらねえ」
 以前食べようとしてひどい目に遭った。皆で海へ行った時だ。あの時は鷲尾も森も榊原も一緒だった。今はいない風間も─。
「で、神宮寺は?」
「とっくに部屋に戻ったよ。相変わらずやる事が早いね」
 漬物を口に入れ、洸は何か言いたそうにジョーを見たが結局何も口にしなかった。
 神宮寺の変化を洸が気がつかないはずがない。だが今は黙っていてくれた方がありがたい。
 ジョーはロールパンをふたつに千切り、
「─ あ」
「うわ、どうしたんだ、あれ」
 2人の目が食堂の隅に置かれているテレビに向けられた。
 点いているのをあまり見た事がないが、今日はやはり徹夜明けの西崎や伊藤達がテレビの前のソファに座ってニュースを見ていた。
 画面には激しい炎と黒い煙が見える。列車が横転しているようだが暗くてよくわからない。洸がわざわざテレビの前まで見に行った。
「リオデジャネイロの郊外だ」西崎が教えてくれた。「列車が脱線して爆発したらしい」
 転んだだけで列車が爆発するわけがない。案の定、キャスターは爆弾テロの可能性があると伝えている。
「向こうは夜の8時頃だから、帰宅する人が多く乗っていただろうに」
「もし東京で起こったらと思うと─」
 モゴモゴと洸が口籠る。
 テーブルに戻ると、前に座るジョーが激しい形相でテレビを睨みつけていた。彼の想いはここにいる全員の想いだ。
 世界の平和を守るヒーローのつもりはないが、混乱を起こす奴らはやはり許せない。と、
『ダブルJ及びチーム1、チーフ室へ集合せよ』
 と、館内放送が入った。
 とっさにジョーが立ち上がる。トレイの上のウインナをひとつ口に放り込んで食堂を出た。その後に西崎達も続く。
 1人残された洸の眼には、まだ黒い煙を噴き上げている列車が映っていた。

「スカイラインの所在がわかった」
 森の言葉に目の前の男達がえっ、と声を上げた。
「あの車にはGPS追跡システムが搭載されていたが、それを故意にオフにすると自動的に位置を知らせる装置が付いているそうだ。今、研究所から連絡があった」
「持って行った先で犯人がエンジンを掛けたって事ですね」
 西崎が訊いた。
「うむ、場所は千葉県の君津市だ。捜査車両のハリアとエルグランドのPCナビで、スカイラインから送られてくる電波をキャッチできる。すぐに向かってくれ」
「了解!」
 ダブルJとチーム1の捜査課メンバー総勢10名が分乗する。
「たーかはまっ」ジョーが高浜の肩に腕を回した。「また、おれと組まねえ?」
「・・・・・」
 あのブルーグレイの瞳を間近に見て高浜が固まった。表情はにこやかだが目は笑っていない。仕事中に後ろからぶん殴られそうな気がするのは気のせいか?
「い、いや、おれは伊藤達と」
 あたふたとエルグランドに乗り込む。
「フンッ」ジョーがハリアの運転席に着いた。「おイタする子はあと2、3回ビビらせてやる」
「なにやったのかな・・・高浜・・・」
 後席で樋口が恐ろしげに呟いた。

 アクアラインを抜けると木更津市に入った。君津市はこのすぐ南だ。
「この先に牧場のテーマパークがあってね。子どもの頃はよく家族で遊びに来た」後席の白鳥が言った。「そういう所に仕事で向かうのっていやだな」
 ほとんど独り言のような呟きだったが、同乗している人の耳にはしっかりと届いていた。
「白鳥らしくないな。どうした?」
 と、樋口の問いに、う~んと首を傾げている。
「おれ、日本でそーいう思い出ねぇからいいや!」急にジョーが声を上げた。「仕事の前にそんな話するなよ」
 ジョーの勝手な言い分だが、すまんと白鳥が頭を掻いた。
「ナビによると、この道の先だが」
 PCナビのモニタに映る地図を見ながら神宮寺が言った。
 スカイラインからの電波はもう切れている。実際には10分もなかったそうだ。
 JBではその電波の記録をエンドレスで繋いでPCナビに取り込み、地図で位置を表示している。多少の誤差は仕方がないが。
「ジョー、あと50メートルくらいで一度止めよう」
「ラジャ」
 ジョーはピタリと50メートル走ってハリアを止めた。後ろのエルグランドも停車する。
 周りを木々に囲まれた山道の真ん中だ。前方の緑の合間に白い建物が見える。
 神宮寺がPCナビのグーグルを呼び出した。
 建物の上からの─ だが木々が邪魔して建物全体を捕らえるのは無理だ。しかしかなり大きな物だとわかる。
「相馬電子工学研究所、だとよ」車外に出て双眼鏡を覗いていたジョーが再びドライバーズ・シートに着く。「だけど門の鉄柵も壊れてるし、古ぼけた感じで今は使ってないみたいだな」
 再び神宮寺が、ジョーの言った名称をPCナビで検索した。
 それによると20年程前、相馬電子工業という企業の研究所として建てられたらしい。しかしその企業は3年前に倒産している。
「黒田と兵道は車に残れ。あとはペアを組んで建物の正面、左右、裏から入る」
「おれと一緒にランデブーなんてどうだ?」
 ニヤッとジョーが高浜の首に腕を回した。プルプル・・・と高速で首が振られる。樋口と白鳥が恐ろしそうに2人を見た。

「行くぞ」
 西崎の命令と共に8名の男達が走り出す。塀は高いが所々崩れているので苦労せず敷地内に入る事ができた。
 研究所というだけあってコンクリート3階建ての建物は普通のビルより高さがあり堂々としていた。しかし長い間放っておかれたままなのは明らかだ。
 内部の見取りも相手の数もわからないので細かい作戦は立てにくい。行動しかなかった。
 最低でも、MOX燃料システムを搭載したスカイラインだけは奪回しなければならない。 ダブルJが正面から、西崎と高浜が裏側に回り、立花と伊藤は左、樋口と白鳥が右側へと向かった。
 監視カメラは見当たらない。だがここが彼らのアジトだとしたら侵入者の事はもう知られているだろう。
「チェッ、鍵が掛かってるぜ」
 ドアの前でジョーが舌を打つ。と、神宮寺がノブの下にマグナムの銃口を当ていきなり撃った。
 バン! と音が弾けドアが開く。
 ジョーが驚いて相棒に目を向けた。これはいつのはジョーの役だ。
「お前・・・機嫌悪くねえ?」
「眠い」え? とジョーが目を見張る。「仮眠しようとしたら呼び出された。眠いんだ」
「・・・・・」
 赤ん坊か、と言いかけてやめた。
 機嫌の悪い神宮寺をいじるのはさすがのジョーでも恐ろしい。早く仕事を終わらせ、神宮寺をベッドに放り込もうと思った。

 建物の中は思ったより明るく広々としていた。退却の際、機器類は持ち出したのだろう。所々イスが転がっているだけだ。
「人の気配がしねえな」ジョーが呟いた時だ。バンッとドアが鳴った。ジョーがドアを押した。ビクともしない。「閉じ込められたっ」
「気をつけろ、ジョー。奴らはどこかでおれ達を見ているぞ」
「西崎!立花!─ くそォ、通信機も使えねえ!」
 だがこのまま進むしかない。
 こういう状況には慣れている2人が、しかし言いようのない不安に襲われていた。言わなくても相手も同じ思いだとわかるほどに─。
「神宮寺」
「車を取り返さなければならない」
 それだけ言い、神宮寺が進む。彼はジョー以上に不穏な空気を感じているはずだ。それでも今は進まなければならない。
「ジョー!」
 いきなり神宮寺が走り出した。ジョーも続く。今まで2人がいた所に弾丸が降って来た。
「ホーガンズ・アレーのテーマパークじゃねえだろうなっ!」
 2人は向かいの廊下に飛び込んだ。そのまま左右のドアをどんどん開けて行く。
 本当なら慎重に行動したいところだが、この状況ではかえって危ない。
 西崎や立花達も同じような状況だろう。誰かが早く車を見つければその分早く脱出できる。
 どこかで小さな爆発音がした。
 ジョーが顔をしかめた。ノブに手を掛けようとして─ そのドアが轟音と共に飛んできた。
「うわあっ!」
「ジョー!」神宮寺がジョーの上に乗っているドアを蹴り退かした。「大丈夫か」
「─ ドアが盾になってくれたぜ」ニッとジョーが口元を歪め立ち上がる。「おかげでドアにキスされちまったけど」
 赤くなった頬を押さえた。が、
「─神宮寺」
「あ─」
 まだ煙が吹き出している室内に目を向けると、そこには黒い破片が散らばっていた。が、明らかに自動車の車体だとわかる物がある。
 煙を避けながら2人が黒い瓦礫の山に近寄る。
「間違いない・・・。あのスカイラインだ」
「パーツが足りねえ。エンジンやその周辺のパーツが無くなっている」爆発でバラけたわけではなさそうだ。人の手で乱暴に解体されたのだろう。「ひでえ事しやがる」
「奴らMOX燃料システムだけ持って行ったのか」
 いったいどこへ・・・。何に使うつもりなのか─。しかしそれを考えているひまはない。
 またどこかで爆発音がした。


                               8へつづく
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

一緒に歩こう この道を 6


 一瞬の空白だった。自覚する間もないくらいの─。
 爆発物を持った男の手が振り上がった。床に転がっているジョーに投げようとしている。
 男にオートマグを向け、だが神宮寺の指は動かなかった。
 爆発物が床で弾けた。
「ジョー!」
 神宮寺は爆発物を避け、しかし床に倒れたままのジョーに駆け寄った。そのすきに男達が裏口へと走った。その足元に中根が弾丸を撃ち込む。神宮寺がジョーの体を起こした。
「大丈夫か。どこをやられた」
「─ なにしてるンだ、お前」片目だけ開けジョーが言った。「奴らが逃げる。追え」
「し、しかし・・・」
 迷う神宮寺の声と、うわっ! という中根の叫ぶ声が重なった。彼は肩に弾を受け床に転がっていた。2人の男達が裏口から出て行く。
「行け!」ジョーが神宮寺を押しやる。「逃がすんじゃねーぞ」
「・・・・・」
 神宮寺が立ち上がりオートマグを握り直した。裏口に向かって走り出した。
 上半身を起こしたままその様子を見ていたジョーだが、ふっと糸が切れたように再び床に体を倒した。
「ジョー!」
 西崎の声が聞こえた。

 中根と市原の見舞いを終え、神宮寺は321号室に向かった。
 来た時はまだ面会できなかったが、2人の回診に来た榊原から許可を貰った。
 神宮寺はしばらくの間321と書かれたドアの前に立っていたが、ひとつ息をつくとノックしドアをスライドした。
「よお、神宮寺」ベッドの上半分を45°に上げて胸部を包帯に包まれたジョーがいた。「奴ら全員確保したんだってな。中根達も命に別条はないっていうし─」
「ジョー」かすかに神宮寺が口を開く。「おれ・・・」
「できればおれ達だけの手で捕まえたかったな。水上警察には感謝してるけど」
「・・・おれ・・・お前に2度も怪我を負わせて・・・」
「お前のせいじゃない。逃がしたくなくて奴らに飛び付いたおれの判断ミスだ」
「そんなのいつもの事だ。やっぱりおれが・・・。ジョー、おれはもう・・・」
「大丈夫だ。こんな怪我大した事ないって─。だからそれ以上何も言わないでくれ」
 青い双眸に願いと希望とそして哀願を乗せ、ジョーが神宮寺を見つめた。と、その瞳から逃れるように神宮寺が顔を伏せた。
 あの細いが精悍な瞳がまつ毛の下(もと)に隠れる。そこにいるのは国際警察のSメンバーではなく、23才の青年でしかない。
 初めて見る相棒の姿に、ジョーはどうしてよいのかわからなかった。と、再びノックがした。
「どうだ、ジョー」榊原と女性看護師だった。2人の様子に一瞬足を止めた榊原だったが、「包帯を替えるからベッドを水平に戻すよ」
 と、自らレバーを引いた。
 ジョーが露骨にいやな顔をしている。火傷の包帯替えは大の男でもけっこうきついのだ。
 そんなジョーの思いがわかるのかちょっと気の毒そうな顔を向け、だがテキパキと看護師が包帯を外していく。と、右胸の上部に大きな火傷が見えた。
「至近距離での爆発だ。これで済んだのは運がよかったな。爆発物も強力な物ではなかったようだし」
 だが熱を帯びた破片がひとつ、ジョーの胸部を直撃したのだ。他に顔や体の所々に小さな傷があるがバンソウコウを貼る必要もないくらいだ。
だがそれらを目にした神宮寺は顔をしかめた。
 傷の重い軽いではない。相棒が怪我を負う切っ掛けになったのは明らかに自分のミスだ。それも今回で2回目の・・・。
「そんな顔するなよ」薬を塗ったガーゼを火傷に貼られ顔をしかめたが、「見掛けほど大した事ないんだ。明日には退院してやるさ」
「勝手に退院の日を決められても困る」榊原がポンッと包帯を叩いた。その下にいるジョーが、“イテッ!” と声を挙げた。「確かに重傷というほどではないが、ちゃんと完治してから出てもらうよ。さて左足の銃創を診ようか」
「そっちはもう大丈夫です。いてっ!」
「大丈夫じゃないではないか」
「そりゃ叩かれれば痛いですよ!」
「それはよかった。神経は無事だ」
「叩かなくてもわかります!」
 元気な怪我人と医師だ。
 そんな2人を見ていた神宮寺だったが、“JBに戻ります” と病室を出て行った。
「少し疲れているようだね、神宮寺君・・・」ポツリと榊原が言った。「休暇を与えるよう森さんに進言してみようか」
 医師である榊原の言葉なら森も聞くだろう。そして命令ならば神宮寺は従うしかない。そうでもしなければ、彼はなかなか休暇を取らないのも事実だ。
 休ませてやりたいと思う─。だがジョーは首を縦に振る事ができなかった。
 今JBから神宮寺を離したら、もう2度と戻って来ないような気がする。もちろんあいつはそんな弱い奴ではない。そう信じている。だが─。
「ドクタ、おれおとなしくしてますから早く治して出してください」
 真剣な顔で言うジョーに榊原は驚いたように目を向けた。

「神宮寺君」
 病院のロビーを出口に向かっていると誰かに呼ばれた。関だ。
「ジョーの見舞いに来てくれたんですか?」
「トランザムをJBに取りに行ったらジョーがケガったと聞いたんでね」
 そういえばジョーは関の車で現場に入った。スーツのままなので帰宅せず、関と会っていたのか。
「ジョーと飲んでいたんだ」
 神宮寺の疑問を感じ取り関が言った。
「もっとも彼は、茶を飲み過ぎたとかでひと口も飲んでいないが─。そして君の事をとても心配していた。いつもの神宮寺じゃない。虚しいだの恐ろしいだの言う奴じゃないって─」
「あいつ、そんな事まで関さんに言ったんですか」
「怒らんでやってくれ。いつもは自分勝手な事を言っているが、こういう時はどうしていいのかわからないんだ。でなければおれになんぞ話はしないだろう」
「・・・・・」
 いつだったか、ジョーに、“お前、友達多いよな”と言われた。
 確かにJB内だけでもあちこちの部署に友人がいる。大勢でつるむのが苦手なジョーに比べれば数は多いだろう。
 だがこの関を始めジョーの周りにいる人物は、彼がどんなに暴言を吐いたり自分勝手な行動をしても彼の本心を知り理解してくれる。
 ジョーがジョーでいられるのは、そんな理解者達のおかげだ。
 では自分は? 自分を理解してくれる人は周りにいるだろうか。
 もし誰かに問えば森や佐々木、西崎と多くの名前が出てくるだろう。しかし神宮寺自身はそう思ってはいない。
 思いつく何人もの親しい人々に、彼は自分の悩みを自ら相談した事はなかった。
「君達は若い。人生も勉強も恋愛もこれからだ」
「・・・そうですね」神宮寺がひどく曖昧な笑顔を見せた。「これからJBに戻って報告書を書きます。またジョーの分までやらなければならない」
 ちょっと肩をすくめ、“では” と出口に向かう。その後ろ姿を見て、
「確かにこれは一大事だな・・・」
 関が呟いた。

「えー! おれがあんたに言った事を神宮寺に話しちまったのかよ!」
「いやあ・・・、あんまり深刻な顔をしていたので心配になって、つい・・・」
「やばいなァ、ミエっぱりだもんな、あいつ。どんな仕返しされるか─」手ぶらで見舞いに来てくれた関をジョーが睨む。「あんたの口がこんなに軽いとは思わなかった」
「すまない。だが2人の秘密は守るぞ。何があろうと2人だけの秘密として─」
 関の頭がガコン! と鳴った。ジョーがプラスチックのコップを投げたのだ。
 イテ~ と床のコップを拾いジョーの目を向けた。と、彼は少し俯き気味に、そして何か考えているようだった。
「おい、神宮寺君の仕返しはそんなにきついのか?」
「─ あいつはいったい誰に言うんだろう」え? と関が訊く。「こういう時、あいつは・・・」
 少し前までの自分がそうだった。辛い事や苦しい事があっても、相棒はもちろん他の誰にも言わなかった。
 今回、関に話したのも大した理由はない。強いて言えば彼がJBのメンバーではなかったからだ。
「そういえば西崎には話していたな」その2人の話を偶然ジョーが聞いたのだ。「おれに話すのは・・・やっぱムリだよな・・・」
「おい、君まで深刻な顔になっているぞ」スッとベッドの端に腰を降ろしジョーの肩に手を掛けた。「こういう事は考えたってダメだ。行動しないと─」
「な─! このやろう!」ベッドに押し倒されそうになり、ジョーの裏拳が関に飛んだ。見越していたように関が飛び退く。「な、なに考えているんだ、いったい」
「もちろん君と神宮寺君の事だ」
「余計なお世話だ。あんたは自分達の足元をしっかり─」
 いきなり胸倉を捕まれ引き寄せられた。関の、いつになく険しい目がすぐ前にある。
「堂本の事を言っているのか。それこそ君に言われなくてもわかっている。少なくとも、恐ろしいだの虚しいだの口に出して言うひよっこに言われたくない」
「は、放せ─」
 ジョーが関の腕を掴む。力はジョーの方が強いはずだが、
「相棒だろ。これからも一緒に仕事をしていきたいんだろ。だったらおれではムリだ、なんて格好つけてないで、神宮寺君が話してみようと思う男になれ。それが相棒だ」
 ジョーは関の腕を掴んだまま、その青い瞳で彼を見据えた。口元や指先の震えが全身に広がって行く。それを感じているはずなのに、関はジョーの胸倉を掴んだまま放さない。ジョーの腕にグッと力が入る。が、
「何をしているんですか!」榊原だ。関がとっさに手を離した。「ジョーは怪我人ですよ! それをわかっててこんな事しているんですか!」
「い、いや、ドクタ。これには・・その・・あっちにもこっちにもそっちにも理由(わけ)が」
「どこの理由でも通りません。さっ、出て!」
 泣く子も黙る公安の関も榊原には敵わない。病室から出るしかなかった。が、ドアの所で振り返り、
「もし君が神宮寺君を離したら、おれ達が貰うからな」
「やるかっ!」シュッと風を切り、カップが関に向かって行った。ヒョイッと避けられた。「あ、つ・・・」
 火傷が引きつり、思わず患部に手をやるジョーの目に出て行く関が映った。
「どうしたんだね、君も関さんも」ジョーの手を引き離し患部を診る。包帯に薄っすらとシミが広がっていた。「軽傷とはいえ怪我人にこんな事するなんて─」
「・・・関のせいじゃない」ポツリとジョーが言った。「神宮寺のせいでもない・・・」
 ではなぜこんな事に?
「痛い、ドクタ。包帯はさっき替えたばかりじゃないですかっ」
「おとなしくするんじゃなかったのかね?」
 ジョーのささやかな抵抗も榊原には通じない。
「くそォ、やっぱり関と神宮寺のせいだ。口に出して言ったのはおれじゃないぞ」
 赤く熱を帯びた患部に目をやりジョーが唸った。

 神宮寺の小さな変化に気づいた者は少なかった。仲の良いチーム1の面々さえはっきり聞いているのは西崎だけだ。
 だが森や佐々木は気がついていた。
 Sメンバーはチーフ直属のメンバーだ。一度、神宮寺と話をしようかと森は考えていた時、それは入った。

「スカイラインが盗まれた?」服をバッグに詰める手を止めジョーが振り返った。「あの車は政府の研究機関に保管されてるって聞いたぜ。そこから盗まれたのか?」
「ああ」車のキーを弄びながら一平が言った。「午前中に情報が入って、おれ達と神宮寺、チーム3の柏木と水野が7階に集まったんだ。スカイラインはコンピュータセキュリティの掛かった研究所の倉庫に収められていたんだけどそのセキュリティが破られ、朝早く研究員が見た時にはもぬけの殻だったそうだ」
「ハッカーか? だがセキュリティを破ったぐらいで簡単に持ち出せる物じゃないだろ。キーはどうしたんだ? あの車、発進時にけっこう大きな音が─」
 言ってからジョーが顔をしかめた。
「まさか、内部に・・・」
「調査中だ。だがおれ達は研究所の中に入れてもらえないから情報のみで分析している。神宮寺と洸がパソコンの前に貼り付いているよ」
「GPS追跡システムは付いていないのか?」
 ジーとバッグの口を閉めた。
「もちろん付いているさ。高輪辺りまで追尾できたが、そこから先は─」
 と、肩をすくめる。
「内部の奴が関わってたら・・・やだな」
 ジョーの呟きを、しかし一平には聞こえなかったようだ。
 2人は312号室を出て一平が乗って来たティアナでJBに向かう。
 今回は1日半の入院だった。あとの処置はJBの医療部でもできるので退院を許されたのだ。
 ちなみに立花と白鳥はこの前日に退院してJBに復帰している。中根と市原はあと4、5日は出られないだろう。
「情報だけで分析してるって、どういう事だ?」
「セキュリティに侵入した時、奴ら色々と足跡を残しているらしいんだ。それを神宮寺と洸が追っている」
 ふうん、とジョーが頷く。
 2人の得意分野だ。今までもそれで活路を見つけて来た。だがそれよりも神宮寺がいつものようにJBで仕事をしている事にホッとした。早く相棒の姿が見たかったが、
「一平、その研究所の場所、知ってるか?」
「知ってるけど中には入れてもらえないぜ。チーフでさえダメだったんだ。それで捜査しろっていうんだからな」
 苛立たしげにステアリングを叩く。
「チーム3は結城さん達をちゃんと守っていたんだ。政府直属のSPだかLPだか知らないけど、車1台ぐらいちゃんと守れって!」
「車にSPは付かないだろう」ジョーが苦笑した。「外見だけでいいんだ。ちょっと見ておきたい。頼むよ、一平」
 妙に落ち着いた、いつものようにのってこないジョーに不可解な目を向ける一平だが、とりあえず研究所のある江古田に向かう事にした。


                                  7へつづく