コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Breaking the habit 1

「ナイト2000?」
 駐車場の入り口そばの1台分だけ空いていたスペースにセリカを入れ、ふと奥を見ると特徴ある黒いボディが目に入った。
 近寄って見ると、それはまさしくポンティアック製ファイヤーバード・トランザム─あの「ナイト2000」で一躍有名になった黒いトランザムのレプリカモデルカーだった。
「すごいなァ、日本にもいるんだな、レプリカオーナー」
 周りに誰もいないのをいい事に、ジョーはそのボディや内装を見て回った。
 人工頭脳キットこそ搭載していないものの、フロントマスクも飛行機の操縦桿のようなステアリングもしっかりナイト2000仕様だ。
 第3世代ファイヤーバードの宣伝の為作られたとされる「ナイトライダー」だったが、トランザムのあまりの売れ行きの加熱ぶりに?ポンティアック?のロゴをエンドロールから消してくれとGMサイドからナイトライダー制作陣へ要請があったほど人気の車種だ。
「立花に見せてやりたいな」
 元々は車好きの立花からの受け売りであったナイト2000。
 このレプリカモデルのオーナーはどんな奴だろう。マイケルナイトのような正義感溢れる男だろうか。もちろん美人でもいいが─などと勝手な事を思いながら、ジョーはしばらくその車のそばから離れられなかった。

 キューン!とエンジン音を響かせ、目の前を10数台のGTマシンがすっ飛んでいく。そのたびに観客席からは大きなどよめきが上がる。
 2週間後に控えたスーパーGT開幕前─公開合同テストを兼ねたGTフェスティバルがここ富士スピードウェイで行われている。
 10数台のうち注目はなんと言ってもGT500の日産フェアレディZ、ホンダNSX、トヨタレクサスSC430の日本勢だろう。
 フェアレディZは今までのV6ターボエンジンからV8自然吸気エンジンに変え、従来からの強みでもあるコーナーリング性能を保ちつつ直線も速くなるように、?直線番長?と銘打ち、ストレートの速さをアピールしている。
 NSXも新レギュレションでステップボトムが導入され、レクサスSC430は前後のオーバーハングがNSX基準で3メートル同一になったので多少スポイラーが伸び、リアウィングも少し後ろに移動した新しいスタイルを見せている。
 各メーカー各チームの’07モデルが勢ぞろいした。
 このデモ走行に、F1よりはファンが少ないと言われているGTだが富士スピードウェイの観客席はかなりの客入りになっている。
 そんなGTファンの中に、今日1日のオフを利用して愛車を飛ばしてきたジョーの姿も見える。
 彼は先程東ゲート近くの駐車場でナイト2000のレプリカモデルを目にし、その興奮のまま目の前を走るスーパーGTのエキゾートノートに巻き込まれていた。
 ジョーが参戦しているツーリングN2の車両もかなり大幅なチューニングアップが許され、一般的なレーシング・カーのイメージに近い。
 だがそれよりさらに大幅な改造が許されているスーパーGTマシンは、外装はオリジナルの面影を残していても中身はまったく別物のモンスターマシンだ。
 ライセンスも国際Cライセンス以上の所有者でないと乗る事はできない。
 ジョーは前髪を掻き上げ富士の1500メートルストレートを、持てる力をいっぱいに出し走り行くGTマシンを見つめている。
 できる事なら自分も国際Cを取り、行く行くはスーパーGTに参戦したかった。いやそのつもりだった。しかし─
「ジョー!ジョーじゃないか!」聞き覚えのあるその声に体が跳ね、いやな予感を覚えながらジョーは振り向いた。「おー、やっぱり君かあ!」
「関─」
 ジョーは無意識に眉をしかめ、その場から?まわれ右!?をする。
「あー大丈夫だ。今日はプライベートだ。仕事じゃない。手伝いはいらないぞ」
「・・・本当に?」
 ジョーは回そうとした体を辛うじて止めた。関の服装を見る。確かに勤務中ではなさそうだ。
 しかし本心を言えばプライベート中でもあまり顔を合わせたくないのだが。
「じゃあ、いい」
 と、シッシッと犬でも追いやるように手を振った。
「冷たいなァ。手伝いはいらないが連れは欲しい」
 と、ジョーの横に腰を下ろす。
「おれはいらねえ」と立ち上がろうとし、だがそのベルトを掴まれ座席に引っ張り戻された。ゴンッ!と思いっきり尻を打つ。「なにするんだ!」
「ほれ、静かにしろ。周りの可愛い子ちゃん達が君を見ている。尻を打って騒ぐなんて格好悪いぞ」
 その言葉にジョーは思わず周りを見回した。
 F1同様GTにも女の子のファンはかなりいる。車よりもドライバーに興味があるのかもしれない。GTにもイケメンレーサーはいる。
 なるほど、関の言うとおり観客の半分近くは女性だ。実際ジョーに目を向けている娘(こ)も多い。
 長めの枯葉色の髪は太陽の光を受け金色に輝き、ホリの深い精悍な顔に神秘的なブルーグレイの瞳─決して美男子というわけではないが人々の目を向けさせるのは充分だ。
「あんたが引っ張るからだ」
 ジョーも男なので女の子の目は気になる。居心地悪そうに、しかし元の席に座りなおした。
「君は誰のファンだ?おれは脇坂だな。あの生意気さがたまらない」
「それとレーサーとしてのテクニックが関係あるのか?」ジョーが苦笑する。「しかしあんたがGTファンだとは知らなかったな。カウンタックに乗ってビビッてたのに」
「ぬかせっ、見るのと乗るのとでは違うだろ」関の目は本当に楽しそうに、ストレートを走るGTマシンを見ている。「おれのGTファン歴は長いんだ。まだこんなに一般化していない時からだからな。君がおむつをしている頃からのファンだぜ」
 オムツ??とジョーが首を傾げた。
 彼と関の年齢差は20以上だ。それが本当なら、まだスーパーGTも今日のように多くのファンが集まる催しものもない時からのファンという事になる。
「昨日の走行の順位はEPSON・NSXが1位で、続いてZENT・CERUMO・SC430、XANANIN・SO・Zだったそうだ。今日は今のところ上位3台は全部NSXだ」
「あんた本当に好きなんだな」さっきまで眉を立てていたジョーだが、今は穏やかな表情だ。「見ているだけじゃなくて、あんたも乗ってみればよかったのに」
「いやあ、それは無理だ。あんなモンスターマシンに乗ったらどこまですっ飛ばすか自分でもわからない」そう言って笑った。「君こそ乗れるだろう。スーパーGTに出てほしいなあ」
「・・・おれの持ってるライセンスではだめだ」声を落としジョーが再びコースに目をやる。「それに鷲尾さんと約束したんだ。仕事に支障が出ないようにするって」
 それっきり口を閉じ前を向いてしまう。
 自分勝手な行動をとる事の多いジョーだが、交わした約束は律儀に守る。その横顔に関は何も言わない。
 確かに今の彼の状況では、たとえスーパーGTに進めるライセンスを取れたとしてもJBとの両立は無理だろう。
 いつだったか、国際ライセンスを取ってF1に参戦したい、と言っていた。あれが彼の本心なのかもしれない。
「今からでも遅くないだろ」関もまたコースに目を戻す。「自分のしたい事をすればいい。諦めるには君は若すぎる。こっち(公安)に呼ぶのを諦めるさ」
「諦めてはいないさ。ただ─」
 キュッと唇を閉じまた黙り込んだ。
 ジョーとは短い付き合いだが、こんな時の彼は自分の気持ちをどう相手に伝えていいのかわからないのだ。決して相手を軽んじているのではない。だがうまく言葉を繋ぐ事のできないジョーは結局口を噤み、その不遜な態度に人は眉をしかめるのだ。それは関の若い頃とよく似ていた。だからこそ彼に親近感が湧くのかもしれない。
「そうだ。君におれの愛車を紹介してやろう。きっと驚くぞ」
「ヘェ、タカコちゃんが来てるんだ。だけど中古のジャガーのイメージなんだよな」
「?ちゃん?付けはやめてくれ。それになんで中古なんだ?」
 言いながら席を立った。珍しくジョーも素直に着いてきた。
 2人はメインスタンドからかなり離れた駐車場に向う。
 並んで歩くとジョーの方が10センチくらい高いし体もひと回り大きかった。だが、それでも見劣りしない迫力が関の全身から醸し出されている。
「ほら、あの黒いボディの車だ」
「─え」ジョーが目をやった先には黒のトランザムが─まさしくナイト2000レプリカモデルカーが停められていた。「あれは関の車だったのか」
 いや、でもここはジョーがセリカを停めた駐車場ではない。それに目の前の車は練馬ナンバーだ。あっちは確か─。
「レプリカモデルが2台集まったという事か。すげえ」
 ジョーが目を輝かせる。GTを見に来る人達だ。レプリカモデルを所有している人がいてもおかしくはない。
 ナイイト2000のレプリカパーツの取り扱いをしているのは世界で2社のみ。そのうちの1社が日本の福岡県にある。
「あはは・・・。驚いたろ?」しきりに“すげえ”を連発するジョーを満足気に見て関が言った。「でも驚くのはまだ早いぞ。ジョー、タカコのボディに触れてみろ」
 ニヤニヤと目元を波立たせる関に、ジョーは怪訝な目を向けたものの軽く触れてみた。と
『誰ですか?』車から声がした。ジョーは驚き、しかし手を触れたままでいると、『この車はセンサーが作動中です』
『私に触れないでください』
「すげえ!なんだよ、これ!」
 思わず両手でボディにタッチする。と。
『私への侵入は禁じられています』
 と言われ、ようやく手を離した。
「これって、もしかして」
「そう、音声カーセキュリティ・ナイト2000版だ」今まで見た事もないくらい驚きと興味の顔を自分に向けてくるジョーに、関は嬉しそうに言った。「台詞はナイトライダーの中にあるものと同じだし、声もキットの声優さんのものだ」
「すげえなあ。キットはどこにいるんだ?」
「さすがにキットは載ってない。これはあくまでもセキュリティプログラムだ」
「このままずーと触っていたらどうなるんだ?」
「やめてくれ。それ以上続けるとサイレンが鳴っちまう」
 と、あわててセキュリティを解除した。
「なんだよ、サイレン聞かせろよ」
 ジョーが口を尖らせる。
「そんな事したら、サーキット場の警備員が飛んでくるぞ」
「関、助手席に乗っていいか?」
 どうやら関の言っている事は聞いていないようだ。日頃にはないくらいの勢いで言葉が飛び出してくる。
 ジョーは関の返事も待たずに助手席に体を滑り込ませた。
「うわあ、スイッチがいっぱいある!テレビと同じ内装だ!」
 と、パチパチとスイッチを押し捲る。
「おい、ミサイルが発射されるぞ。あ、それはロケットブースターのスイッチだ」
 もちろん本物ではない。
 関は愛車の内装をいじられるのは好まない。だが無邪気に声を上げはしゃぐジョーに何も言えなかった。それは21才の青年の姿というより、5、6才の子どものようだった。
 いくら車好きとはいえ、顔中口にして喜ぶジョーの姿は関にこいつはまだ子どもなんだ、と思わせた。
 関の脳裏に10才くらいの男の子の顔が浮かぶ。
「でも関、どうしてこいつの名前がタカコなんだ?」
「あ、それはつまり・・・」ちょっと言いにくそうに鼻の頭を掻いて「手に入れたのは5年くらい前で、品薄で中古でも高かったんだ。欲しい、でも高い、でも欲しい、高いって─」
「それでタカコか?」
 なンだそれ、とジョーが笑う。
 枯葉色の髪がサラッと流れて彼の瞳が現れた。
 脛に傷を持つ者が見れば恐怖を覚えるブルーグレイの瞳が、今は素直にジョーの本心を表している。
 実は彼が運転免許書を取り1番最初に乗ったのが同じポンティアック社のファイヤーバードだった。偶然通りかかった中古車センターで、フロントバンバーに大きくファイヤーバードのエンブレムが描かれた車を見つけひと目で気に入った。
 だが中古とはいえ、当時18才の少年が買うには高額で─未成年でローンも組めず、仕方なく鷲尾の援助を受けた。
 しかし1年後にはすべて鷲尾に返している。
“買ってやるつもりだったのに。変なところで律儀な子だ”と、鷲尾が苦笑していた。
「走らせてくれよ。関。運転はあんたに任せてやるからさあ」
「おれの車だっ。だが君が運転したいのならいいよ」
“やったあ!”と、ジョーはすぐさま運転席に移動する。狙っていたとしか思えない。関は肩を竦めて助手席へ回ろうとした。と
「遅かったじゃないか」接近してくる3人の男の姿を捉え足を止めた。「ここは駐車場がたくさんあるんだな。ちょっと迷っちまったぜ。もっともこの車は特徴があるからすぐわかったけど」
 3人のうち1番背の高い、茶色のジャケットを着た男が関に言った。
「これが例の物だ。気をつけて運べよ。行き先はこのCD─ROMに入っている」
「お、おい、ちょっと─」
 何やら小さな箱とCD─ROMを押し付けられ関が戸惑う。と、その彼の横にジョーが立った。
 先程までの無邪気な表情は消え、その瞳にいつもの鋭い光が甦る。その何者をも恐れぬ不敵な貌に男達がたじろぐ。が、
「忘れるところだった。こいつも一緒に─」
 そう言いジャケットの男が合図すると後の2人が関の左腕を取った。ガシャン!と関の腕にシルバーのブレスレットがはめられる。
「な、なんだこれは!こんな物いらないぞ!」
 わめく関にジャケットの男が銃を向けた。関が口を噤む。と、男達はジョーの左腕を取りスピードマスターを剥ぎ取った。
「なにをする!」ジョーの手がスピードマスターを持った男に伸びた。「返せ!」
 だがすぐにピタリと動きを止めた。
 彼の額に銃口が押し当てられていた。
「ガキのくせにいい時計してるな」手の上で玩びながら男が笑う。「大丈夫だよ、仕事が終わったら返してやるから」
 そしてジョーの左手首にも関と同じシルバーのブレスレットがはめられた。ジョーが取ろうとしたがビクともしない。
「無駄だよ。こいつはキーがなければ開かない。無理に取ろうとすると爆発する」ジョーの動きが止まり男に目を向けた。「こいつはうちの研究所で開発した一種の手錠でね。お互いが電波で確認し合っている。10キロ以上離れたらボムッ!だ。運んだ先で外してもらえ」
「なんでこんな物を・・・」
「君達が裏切らないようにね。ブツを持って逃げるのを防ぐ為さ」
「・・・・・」
 関とジョーが顔を見合わせる。どうやら誰かと間違われているらしい。
 こいつらを伸して、ていねいに話を訊いてやる事は簡単だ。現にジョーはその気らしい。彼を纏う空気が戦闘モードに変化していくのがわかる。が、小さな声が聞こえ関がその方を見た。
 子どもを連れた家族がこちらに向ってくる。今ここで騒ぎを起こしたら、相手は銃を持っているだけにあの家族連れを巻き込む恐れがある。
 ジョーの体がピクリと動く。
「だめだ、ジョー」
 関がジョーの腕を掴んだ。ジョーが鋭い視線を関に突き刺す。が、関の視線の先を見て気がついた。体から勢いが抜けていく。悔しそうに男達を睨むが関に促され運転席に戻った。関も箱とCD─ROMを手に助手席に体を入れた。
 ジョーがエンジンを掛け、思いっきり後輪を鳴らし飛び出した。
「ジョー、おれの車を乱暴に扱うな」
「スピードマスターを取られた」ジョーが歯ぎしりする。「まずいなァ・・・」
 オフなので時計以外の機能はロックされていてジョーでなければ解除できない。しかしJBに直接繋がる物だけにジョーは動揺していた。
「あんた、通信機は?」
「オフなのにそんな物は持ってないよ。だが携帯はある。どこにだって連絡はできるさ」
 だが関はどこにも連絡しようとはしない。
 これがもし一般人なら、事件に巻き込まれどうすればいいのかわからなく警察に連絡するかもしれない。
 しかし2人は所属は違っていても事件を捜査する側だ。奴らは何者で関の預かった物はなんなのか興味があるし、自分達の手でなんとかする事ができる。
「とにかくどこへお届けすればいいのか見てみるか」手渡されたCD─ROMをナビに入れる。「国道138経由で139・・・西湖方面だな。逆だぞ、ジョー」
 ジョーがステアリングを切った。
 丸いステアリングではなく飛行機の操縦桿の形をしている。慣れないはずなのにジョーの扱いに迷いはない。トランザムは急激にUターンする。
「お、おい」
「手錠であんたと繋がれるなんてよ。安物の刑事ドラマみたいだ」
 憧れの車のステアリングを握っているのに、ジョーの機嫌はすこぶる悪い。だからといって車を雑に扱い事はないが、できれば機嫌良くやさしく運転してもらいたいものだ、と関は祈った。

    
           →
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。