コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Wanted dead or alive 5


「それでは改めて。ジョー、優勝おめでとう。それから同時に東日本大会出場のキップも手に入れたというわけだ。二重におめでとうだ」
 沢口の言葉に小さな居酒屋を貸し切りにし集まった15、6人の男達が口々にジョーを祝った。
「もういいですよ、沢口さん」
 頬を赤くしテレ臭そうにジョーが手を振った。
 今回、結城自動車工業レーシング部がバックアップした車両は3台あったが入賞したのはブルーコンドルだけだ。おまけに3日後に行われる大きな大会の出場権も得た。ジョーはもちろんだがスタッフが喜ぶのも当然だ。
「おれ1人の力で勝てたわけじゃないし」
「そうだとも、ジョー。我々ピットクルーの力は大きいぞ」
「あ、でもやっぱおれの力が1番大きいかも。レーサーの腕がいいとラクですね」
「こいつ」沢口がジョーの頭を小突く。枯葉色の髪がサラッと流れた。その下の青い瞳が沢口に向けられる。子どものように澄んでいた。「で、えと・・・そちらのお名前は」
「やだなあ、もう酔ったんですか?トーニです。日本で言うと、?いとこ?になるのかな」
「おお、そうだ。トーニ君、もっと飲みなさい」
 上機嫌の沢口がトーニのグラスにウィスキーを注いだ。そう、ちゃっかりとトーニも祝賀会に参加していた。
「ミスター・サワグチ、私お酒強いですよ。こんなに注いでいたらボトルがすぐカラになります」
「望むところだ」カラカラと沢口が笑う。「それにしてもいい男のいとこというのも、やはりいい男なんだねえ。羨ましいぞ、ジョー」
「沢口さん・・・」ジョーがため息をついた。「絶対酔ってる」
 それに女ならともかく、いい?男?がいてもあまり嬉しくはない。
 レースが終わると神宮寺とトーニがピットまで来てくれた。神宮寺は明日の午前中にフライトがあるとかで夕食の仲間には入ったが2次会はパスした。
 ジョーはトーニからロレンツォが一緒に見に来ていた事を聞いて驚いた。が、ロレンツォはマルティーノと共に先に東京に戻ったという。ジョーの心内は複雑だったが、その中には嬉しい気持ちも少し入っていてジョーを戸惑わせた。
「イタリアからいらしたんですか。いい車のたくさんある国ですね。ブルーコンドルのランボルギーニ、フェラーリにフィアット─」
 沢口と何人かのスタッフがトーニに話しかけている。
 結城自動車工業の本社は六本木にある。場所柄外国人のお客も多いのでスタッフ全員が必要最低限の英語が話せる。
 酒が入り少々ろれつの怪しくなった沢口に、トーニはニコニコと答えている。人当たりの良いトーニは誰とでもすぐ友達になれる。時々お互いに意味が通じない事もあるが、“そーか、そーか”“イエス、イエス”と楽しそうだ。
 そんな光景をジョーは不思議な想いで見ていた。
 遠い異国の地で出会ったトーニ。しかしまさか日本で、このスタッフと共に酒を酌み交わすとは思ってもいなかった。日本に戻った時点で彼らとは縁が切れたと思っていた。会うつもりもなかった。なのに─。
 またこの状況を自然と受け入れている自分にも驚いていた。
「でもなんであんな所でスピンしたのかな、NSX」スタッフの1人、中山の言葉がジョーの気を引いた。「絶対スピンなんかするコースじゃないぜ」
 それはジョーも思っていた。
「NSXのスタッフが言ってたけど、コーナーを抜けた時何か光る物がドライバーの目を突いたらしい。一瞬目が眩んでミスッたらしいよ」
 へえ、気がつかなかったな、と周りのスタッフが口々に言った。
(確かにあの時おれも光る物を見たが・・)コースを思い出してみても、周りに光を反射する物だどなかった。最終ラップの時だけ現れたという事か。(まさか・・)
 NSXの前を走っていたのはジョーのブルーコンドルだ。?光る物?が故意だとすれば狙われたのは─。
(そんなバカな。出場者の誰かの妨害行為だとしても、一歩間違えれば大事故になり自分も巻き込まれる可能性がある。そんなリスクを犯すとは思えない)
 確かに1位を走っていたジョーが事故を起こせば後続車も影響を受けるだろう。だがそれ以外の、個人的にジョーを恨んでいる者の仕業だとしたら─。
 確かに仕事上恨みは買っているだろう。しかしレースに関してはジョーはアマチュアに近い。それでも毎回上位に入賞しているので目障りだと思っている者もいるかもしれない。
 しかしそんなレーサーはジョー1人ではない。彼を襲ったところで解決する問題ではないのだ。
 だがもう1つ可能性が─。
「どうしたんだ、ジョー?」トーニが訊いた。「君のお祝いなのに1番静かだね」
「・・・・・」
 ジョーが困ったようにトーニを見る。彼はいつもこんな感じで周りもわかっている。
「おまけにタバコなんか吸って。スポーツ選手は吸わない方がいいんだろ?」
「そういえばトーニは吸わねーな」
「苦手なんだ。ぼくもじい様もね」
 珍しいだろ?と、トーニが笑う。
 しかしジョーも言われるほどのヘビースモーカーではない。手持無沙汰になるとなんとなく手が行くぐらいだ。今もここに入って2時間経つがこれが2本目だ。それでも肺の手術を受けてからは気を付けている。
「吸わなくてもいいならそれに越した事はないさ」
 ジョーが灰皿にタバコを押し付けた。
「その代りお酒ならいくらでもいけちゃうけど」
 そのようだ。目の前の?結城?のボトルの中味がどんどん減っていく。この店は本社に近い六本木の裏通りにあり、結城の行きつけの店だ。今夜彼はこの席にはいないが、スタッフは自分達のボトルがなくなると結城のボトルを出してもらって飲んでいる。
 大きな声では言えないが酒の苦手なジョーはまだ1杯も空けていない。いや、空けようとすると横でトーニや沢口に注がれてしまい、仕舞いにはジョーのグラスの中は水割りではなく並々のロックになっていた。とても彼がどうにかできる代物ではない。
 お開きになる頃には皆さんいい顔色になっていた。店の前で、“また明日から頑張ろー!”“今度は優勝だー!”と声を挙げ帰宅の途につく。それでも明日には何事もなかったように出勤するのだ。
「楽しかったなァ。久々に若い人達と飲んだ。いつもはずーと年上ばかりだからね」けっこう飲んだわりにはちょっと頬を赤くしているだけのトーニが言った。「いい仲間だね」
「まあな・・」厳密に言えば仲間とは言えない。でもジョーはトーニの言葉に頷いた。「ここからハイアットまですぐだな。入口まで送るよ」
「いいなァ、ジョー!おれも日本で暮らしたくなったよ。君とね!」
「お、おい、ひっつくなよ!重いって!」
「今から帰るのも面倒だろ?おれの部屋へ泊って行けよ。ダブルベッドで寝ようぜ!」
「大きな声出すなよ。男同士でダブルベッドだなんてご免だぜ」
「何かあっても、いとこ同士だから大丈夫さ!」
「だから何が大丈夫なんだよ!」
 六本木の表通りは夜半を過ぎたこの時間でもけっこうな人通りがあるが、大きな料亭が並ぶこの辺りは静かだ。男2人の酔っ払いが騒いでいても誰も出てこない。
 と、突然ジョーの意識が跳ねた。
 密度を増した空気にあっという間に押し包まれる。酔いがすっ飛んだ。こちらに向かってくる足音が聞こえる。
「走るぞ、トーニ」
 ジョーがトーニを引っ張って走り出した。足音が速度を増して2人に迫る。動きから見てただの物盗りというわけではなさそうだ。
 狙いはおれか、それともトーニ─。
「くそォ、この辺りは細い道だらけでわからねえ」
 六本木ヒルズの高いビルは見える。人通りの多い所へ出れば紛れ込めるかもしれない。そう考えたが銃声が聞こえ、その考えは消えた。相手は少なくとも3人はいる。銃を持ったままの奴らを人の多くいる所に引き連れて行くわけにはいかない。
 銃を持ち出した事から確実にこちらを殺る事を考えているだろう。自分一人ならなんとかなるがトーニを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
 ふいに足音が消えた。ジョーとトーニも路地に入り足を止める。
「ジョー、これってやばいのか?」トーニの問いにジョーが頷いてみせる。「マルティーノを呼ぶよ」
「まて、トーニ」携帯を取り出すトーニの手を止めた。「彼は・・・だめだ」
「マルティーノを疑っているのか?」さすがにトーニの回転は早い。「彼は元々はおれの父に着いていた男で、父が死んだ後じい様の秘書になりおれに着いてくれた。例の、ローマで君が襲われた時彼は最後までボルツァーノに反対して─。説得はできなかったけどすぐにじい様に連絡してミスター・ワシオに知らせた」
 だからあんなに早くバイクに襲われたジョーの元に神宮寺が駆けつける事ができたのだ。
「大丈夫。彼を、おれを信じてくれ」
「─わかった。だがシニョーレには知らせない方がいい。警察にもだ」
「賛成だ」トーニが携帯を使っている間もジョーが辺りを窺う。なんとしてでもトーニだけは無事ロレンツォの元に帰さなければ。「マルティーノはじい様の秘書だけどボディガードも兼ねている。日本の武道も使えるぜ」
 なるほど、ジョーの腕を瞬時につかんだ動きから何かやっていると思っていたが。しかしいくら武術の使い手でも銃相手ではどうしようもないだろう。
 が、相手が銃を撃ってこなくなった。街中ではさすがにまずいと思ったのか。もしそうならジョーの勝算はグンと増える。
「マルティーノは携帯のGPSを使って来るんだろ?だったらもう少し大きな道路に出た方が─」
 2、3歩進んだ2人の前に突然人影が飛び出した。ジョーの胸倉をガツ!と掴み締め上げようとする。体格も力も向こうの方が上だ。
 ジョーは両手で相手の頭を掴み、ガツン!と自分の頭をぶつけた。一瞬怯んだ相手の腹に膝蹴りを入れてやる。手が離れた。ジョーの体がストンと落ちた。相手の足を横払いし倒す。
「ジョー!」
 トーニの声に振り向くと自分に銃口を向けている男の姿が目に入った。とっさに飛び退く。弾丸が地面を跳ねた。
 トーニがその男を止めようと後ろから組みついたが肘鉄を食らい後ろにすっ飛んだ。銃口が再びジョーを狙う。ターゲットは自分だと確信した。
「トーニ、逃げろ!」こいつらの狙いが自分ならばトーニは逃げられる。が、相手もそう甘くはなかった。いつの間にか現れた男がトーニを押さえつける。「トーニ!」
 ジョーはトーニを押さえている男に掴みかかった。背後に殺気を感じ体を横に流した。そのジョーのわき腹を掠り、弾丸がトーニを押さえている男の腰に着弾した。トーニが男の手から逃れた。
「アントニオ様!ミスター!」
 マルティーノだ。目の前の光景に一瞬足が止まる。が
「マルティーノ!トーニを連れて行け!」
 ジョーが叫び、銃を持つ男の前に立ちはだかった。
 弾丸がジョーの髪を散らす。そのまま男にタックルした。男共々地面に転がる。が、男の足がジョーの脇腹を蹴り、地面に叩きつけられた。
 男の背後からマルティーノが蹴りを入れてきた。男が振り向いてマルティーノに銃口を向ける。
「手を出すな!」ジョーが怒鳴り再び振り向いた男の顔面めがけて回し蹴りを放った。男の体が横にすっ飛んだ。が、すぐに起き上がり反対方向に走り出した。「まて─」
 追おうとし、だがガクンと膝をついた。わき腹が痛む。
「大丈夫ですか?ミスター」
「ミスターと呼ぶな、と言ったはずだ」顔をしかめジョーが言う。「ジョーと呼ばないと返事しないぞ」
「なに言ってるんですか、こんな時に。とにかくホテルまでお連れします。歩けますか?」
「ホテルはだめだ。あんた達を巻き込む」
「では病院です。どっちにしろこのまま麻布まで行くのは無理ですよ」そう言っているうちに辺りが騒がしくなってきた。サイレンの音も聞こえる。「それとも警察に?」
「─ホテルへ」
 ぶっきらぼうなその答えにマルティーノが頷く。ジョーの腕を自分の肩に回した。
「アントニオ様も大丈夫ですか?ミスター、酔っ払いのふりしてくださいね。あ、本当に酒臭いですね」
 ジョーが睨むがマルティーノはニッと笑い歩き出した。

「─そうです。今は六本木のグランド・ハイアットに─。ええ、お願いします」ジョーがスピードマスターをオフにした。トーニの部屋に入りジョーは一連の出来事を森に報告し後始末を頼んだ。「これでここに警察が押し入る事はないだろう」
 そう言いソファに座り込む。
「ジョー、病院に行かなくていいのか?せめて医者を─」
「こんな傷で?」ジョーがクスッと口元を歪める。「マルティーノ、悪いがフロントで救急箱を借りてきてくれ。こういうホテルには必ず置いてあるはずだ」
「わかりました、ミ・・ジョー」
 マルティーノが穏やかな、が、ちょっと諦めたような口調で答えた。
「だけどいったい何者だったんだろう。あれは明らかにおれ達を狙っていた」
「狙いはおれだろう。危ない目に遭わせて悪かったな、トーニ」
「いや・・・ただ・・」ちょっと口籠る。「おれ、後継者に選ばれてからマルティーノについて護身術とか習ってたんだ。けっこう使えるつもりだったんだけどさっきは全然体が動かなかった。でも君はすごいな、ジョー。銃の前に立つなんて信じられない」
「慣れさ。あんただって何度かこういう目に遭えば、自然に体が動くように─」ふと言葉が切れた。「いや・・、遭わねえ方がいいな」
 苦笑するジョーにトーニが微笑む。
「借りて来ましたよ」マルティーノが戻ってきた。「フロントにはアントニオ様がコケたと言っておきました」
「もう少しマシな理由はなかったのか?」トーニが眉をひそめる。「それと前から言ってるが、いい加減?アントニオ様?はやめてくれ。敬称はじい様だけでいい。トーニと呼ばないと返事しないぞ」
「ア・・アントニオ様まで・・・」
 マルティーノが戸惑いジョーを見た。ジョーが視線を背ける。だがその目元が笑っているのに気がつきマルティーノはジョーを睨んだ。
「トーニ、水を持ってきてくれないか?」救急箱を開けながらジョーが言った。「手を洗えるだけあればいいから」
 わかった、と立ち上がるトーニに
「そんな事は私が─」
 と、マルティーノが言った。が
「あんたは手伝え」低い、凄味を帯びたジョーの声がマルティーノを止める。彼は仕方なくジョーのそばに跪き救急箱の中を覗いた。と、「─なぜ、知っている」
 え?とジョーを振り返った。
「おれの家が麻布にある事を─」
「─あ」マルティーノの表情が凍りついた。ジョーの日本での住所はトーニにさえ教えていない。なのになぜこの男が─。「すみません、調べました。・・・万一のために・・・」
「万一って、なんだ?」ジョーの問いにマルティーノは口を閉じたまま答えなかった。「この事はシニョーレやトーニは知っているのか?」
 いいえ、とマルティーノが首を振る。
「そうか─」ホッと息をつく。だが、「この事は2人には言うな。調べた奴にも口止めしろ」
「なぜですか、ジョー。住所ぐらい知っていてもいいじゃないですか」
「おれに関わらない方がいい。またいつ今日のような事が起こるかわからない。命の保証はできない」
「ですが─」
 ふっと、マルティーノが口を閉じた。少し俯いたジョーの横顔が、その口調とは裏腹にとても哀しく寂しいものに見えたからだ。それはごくたまにロレンツォが見せる表情とよく似ていた。確かジョーは父親似と聞いていたが─。
「水、持って来たぜ。ジョー」トーニがプラスチックのごみ箱に水を入れてきた。「自分で手当てするの?」
「ああ」
 ジョーはシャツを脱いだ。わき腹の傷と生地がくっついていたが慎重に剥がす。また少し血が出てきた。
 消毒薬を入れた水で手を洗い、傷口に生地や槌などが残っていないか診る。たちまち指先が赤く染まった。
 マルティーノが消毒薬を染み込ませたガーゼを渡した。傷口を押さえ消毒する。掠っただけなので深い傷ではない。
 ジョーは顔をしかめながら、だが一言も発せず手当てをしていく。代わりにトーニが唸っていた。
「とりあえずこれでいいだろう」最後に大きめのバンソウコウを貼りジョーが息をつく。そして、「帰る」
「だめです、ジョー。今夜はここで休んでください。もうひと部屋取りますから」
「いや、おれと一緒でいいよ。1人じゃ眠れないかもしれないし・・・」
「トーニ・・・」
 ジョーが心配そうに目を向けた。やはり自分はここに、彼らのそばにいるべきではない、と思ったが今のトーニを置いて帰る事もできなかった。


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