コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

大地と海のプレリュード 完

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?STAFF ONLY?のドアを開けるとわずかに煙と焦げ臭さが鼻をついた。突き当たりのブリッジからだ。ジョーが中を窺う。と、計器が壊れて黒い煙が上がっていた。
「ジョイン」ライトだ。「押さえるのに時間が掛かってすまない。急に爆発して─」
 見るとライトに目立った怪我はなさそうだ。が、船員服の男と大柄な男が倒れていた。
「チョッサー(一等航海士)だ。爆発でやられた。船は制御できないし停まらないんだ」
 ジョーがコンソールパネルの前に立った。オートパイロットが働いている。オフのスイッチを入れても切れない。
 航海衛星システムで船の位置を確かめようとしたが爆発のせいで壊れていた。エンジンを停止させようとしたが、こちらもなぜか利かない。微速ではあるが船は進行したままだ。
「レーダー範囲内に飛行機も船もなしか」八方塞りだ。「仕方がない。このままのしておこう。それより奴ら船内に爆発物を仕掛けたらしい。人質の乗客を降ろせないかな」
「救命ボートは奴らが壊したよ。奴らも一緒に死ぬ気だったんだな」
「くそォ、これはどうあっても爆弾を見つけねえと─」と、スピードマスターが鳴った。「神宮寺か!」
『よかった、やっと繋がった』ひどいノイズだが確かに神宮寺の声だ。『スピードマスターのトレーサーをキャッチしたんだが電波がひどく乱れてる。こっちはデイトナから西400キロだがそっちはどこだ』
「システムがイカれちまってわかンねえ。方位は」ジャイロコンパスを覗く。「北西に向かっている」
『わかった。海上保安部隊の大型レーダーを載せたヘリだ。すぐ見つけてやる。で、犯人達は?』
「犯人は押さえた。だが船内に爆弾を仕掛けたようだ。1つがブリッジで爆発した。降りるならそのつもりで降りて来てくれ」
“ラジャ!”と快活な神宮寺の声を聞き通信を終えた。彼が来てくれれば一万人力だ。だがそれまでじっと待っているわけにもいかない。
「グレン達と合流しよう」
 倒れている男達が気になったが呼吸(いき)のあるのを確かめて一旦ラウンジに降りた。室内にはハワードとテッド、そしてグレンがいた。1人の女性と2人の男性がハワード達の手当てをしていた。
「乗客の中に医師がいたんだ。サントスとキーツは爆弾を探しに行った」
 犯人のほとんどはショットガンで傷を負った。無傷なのは撃った当人だけだが、彼は爆弾の仕掛けには関わっていないので場所はわからないそうだ。とりあえずサントスとキーツが手分けして捜索する事にした。
「医師(せんせい)、ブリッジにも怪我人がいます。診てください」ジョーの言葉に男性医師が頷いた。「もうすぐ海上保安部隊が到着する。おれ達は船内を─」
 バムッ!と空気が弾けた。とっさにジョーが走り出す。ライトもついてきた。グレンはハワード達のそばを離れられないのだろう。

 爆発音は下階から聞こえた。エレベータは使用せず階段を下りた。と、2階のエントランスロビーが黒い煙で覆われていた。外部に通じる窓がないので煙が引かない。
「キーツ!」
「爆弾が・・」足をもつれさせキーツが歩いて来る。「持ち上げたら・・。規模は小さくて助かった」
「キーツ!」ジョーがキーツを支えた、「ライト、キ?ツを医師に」
 よし、とライトがキーツを抱えた。
「頼むぜ」
 ジョーはそのまま船内の捜索を続けた。
 この下からは機関室や倉庫のある階だ。長期のクルーズ船も兼ねているのか倉庫はけっこう大きかった。食糧や備品も置かれているのでこの下に仕掛けられたらやっかいだな、と思った。と、奥でドスンという音がした。
 ジョーが慎重に近づく。床に大きな四角い穴が開いていた。船底倉庫だ。ジョーはちょっと躊躇ったがやがて倉口から内部を見降ろした。音はそこからしたからだ。と
「サントス!」
「ジョー!」暗くてよく見えないがあの巨体はサントスだ。「爆弾を1つ見つけたぞ!」
「動かすなよ!持ち上げたらドカンだ!」
 ジョーは積荷を吊るし上げる大きなネットが倉口から内部に降りているのに気がつき、それを伝い倉底に降りた。
 床に足が着いたとたん体が強張った。辛い記憶が彼の意志に反して彼の動きを止めた。が、それも一瞬の事だった。サントスがすでに爆弾の解体に入っているのを見ると彼の横に跪いた。
「おれは爆処じゃなかったが、このくらいの物(ブツ)なら大丈夫だ」サントスが手にしているのは医療用の鋭いハサミだ。救急箱から失敬してきたのか。「ほら、この3本のうち1本が本線だ。そいつを断てばタイマーが止まる。ジョー、何色がいい?」
「って、おれに訊くのかよっ」ジョーが不満の声を上げた。「大丈夫だって言ったじゃないか」
「解体は大丈夫だがあとは運のようなものさ。じゃあ、ミスター・ジングージの好きな色は?」
「・・・黒」
 好きかどうかは知らないがその色の服はよく見るし、以前黒い線を─。
「よしっ」
 サントスはなんの躊躇いもせず黒い線をハサミで切った。タイマーが止まる。
「おお、さすがミスター・ジングージ!東洋の神秘だ!」笑顔で爆発物を持ち上げた。「─え?」
「タイマーが動き始めた!?」ジョーが叫びサントスはあわてて箱を床に置いたがタイマーは動いたままだ。「トラップか!そのくらい見抜け、ブラック神宮寺!」
 無理だ。
「こんな底の方で爆発したらまずいぞ。ジョー、上へ上がれ。おれはこいつを─」
「かっこつけるなっ。おれの好きな色を聞かなくていいのか?」
「君に花を贈るつもりはないからいらない」
「神宮寺に黒い花を贈るつもりかよっ!」
 そのとたんサントスがジョーに覆い被さってきた。重さに耐えきれず仰向けにひっくり返る。
 サントスの体の向こうからバン!という音が響いた。バラバラ・・・と周りに細かい破片が降り注ぐ。
「サ、サントス!」ジョーはグッタリと力を抜いたサントスの体の下からやっと抜け出した。「しっかりしろよ、サントス!」
 サントスに取りつきハッとした。爆発の威力により船底に亀裂が入ったのか水が入り込んでいた。まだわずかな量だが水の威力によって亀裂が広がれば一気に流れ込んでくるだろう。
「ク・・クロード・・・」
 ジョーは思わず呟いた。もう何ヶ月も前の事なのに、まるで今そこに存在するような感覚に襲われる。力が抜けその場に座り込んだ。震える体を押さえる事ができない。と
「ジョー・・・」どこかで声がした。「・・大丈夫か・・・速く上がれ・・・」
「・・サントス」
 声のする方にゆっくりと目を向けた。自分を見ているサントスと目が合う。
 震えが止まった。青い瞳に意志が戻り力強く輝く。立ち上がった。
「待ってろ、サントス」
 水はくるぶしの辺りまで溜まっていた。ジョーは自分が降りる時に使った積荷を吊り上げるネットの中にサントスを入れようと彼の体を引っ張った。
 水の中をサントスの体が少しづつ動く。
「ジョー、それより上へ行って・・皆に知らせて・・・」
「うるさい!口が利けるなら少しは歩け!」ジョーは決して小柄ではないがサントスはそれ以上だ。たった5メートル引き摺るだけで息が切れた。「本当にダイエットしろよ!」
 ジョーはやっとの思いでサントスをネットの中に押し込んだ。そして壁際のスイッチをオンにした。 キリキリとロープが巻かれネットが上昇していく。
 さすがに積荷用なのでサントスの重さにもビクともしない。
 倉口から出た所を横に移動させる。この先は下からは見えないので後はカンだ。
 倉口からネットが見えなくなった地点で降下させる。ドンと床に当たった音がした。
「サントス、降りろ。ネットを戻すぞ!」
“おー!”とサントスの声が聞こえた瞬間─船底の亀裂が広がり一気に海水がなだれ込んできた。
「うわっ!」
 勢いを増した水はジョーの足元を掬い彼の体を水中に沈めた。手を伸ばしすぐさま浮き上がる。
 ああ、前にもこんな事があった。あの時おれはどうした?あの後おれは・・・。
 一瞬体の力が抜けた。そのまま水の流れに身を任せる。ガボッと水が喉に押し入ってきた。体が沈んだ。
 暖かい海の水なのになぜか固まって動けない。と
「ジョー!」遥か頭上で誰かが呼んだ。「こら!しっかりしろ!ネットを降ろすぞ!」
「じ・・じんぐ・・う・・」
 無意識に手を伸ばす。その手が何かに触れた。グッと力が入る。
「離すなよ!離したらサントスとコンビを組むぞ!」
「ひ・・ひでェ・・」
 ジョーが思わず口元を歪めた。体が上昇していく。
 やがて何か硬い物に当たり、その手が一気に引き上げられた。床に転がる。
「いてえね・・もう少しやさしく上げてくれよ」
「沈んでいたかったら好きにしろ。ここは防水壁を降ろすぞ」
 神宮寺がジョーを引っ張り上げた。彼の後ろには海上保安部の隊員に付き添われたサントスの姿が見える。よろめきながらも自分の足で歩いている。頑丈な奴だ、と初めて感心した。
「おれ達も出るぞ」
「グレンやハワード、乗客達は?」
「保安部隊の巡視船に保護された。もちろんシージャック犯もね。全員生きているそうだ」
「そうか・・」
 ジョーはディーノが生きていて良かったと思った。こんな事件を起こした事は許されないが彼にも同情する余地はある。何より死んでしまったらサントスが悲しむだろう。
「ちゃんと歩けよ」
 そう言いながら神宮寺が肩を貸してくれた。

「おお?、ジングージ?!おれの後を追って来てくれたのか?!」
 ラウンジに戻ると両手を広げたサントスがジョーを突き飛ばし神宮寺を抱きしめようと待っていた。当然避ける。
「なんであんたがまだいるんだよ」ジョーがサントスに突っ掛かった。「早いとこ行っちまえよ!」
「乗客優先でね。定員オーバーだそうだ」
 ニッと歯を見せサントスが笑う。
 先行したのは巡視船一隻と神宮寺達が乗ってきて大型ヘリだけだ。後はまだこちらに向かっている最中だという。そこで人質となっていた50人の乗客を優先したのだ。
 ラウンジにはサントス、神宮寺とジョー、グレンにライト、そして隊員に銃で囲まれたハワードとテッド─護衛と称する身柄確保だろう─がいた。
 別室にはこちらは本当に銃を向けられているシージャック犯達が傷の手当てを受けているという。船底は隊員達の処置に寄り1日2日は大丈夫だろうという事だ。
「だがまさかジョーが先に来ているとは思わなかったな」
「こっちもあんたがテッドと入ってきた時には驚いたぜ」
 全身ずぶ濡れになってしまったジョーはとりあえずライトの着替えを借りていた。だが胸幅はジョーの方があるらしく上の方のボタンが留まらない。いつもは見えない金色のタグネックレスが胸の上で光っていた。
 さすがにサントスのサイズの服はないので彼はバスロープを羽織っていた。
「奴らからテッドを連れてくるようにと州警を通しておれ達に連絡があったのが昨日の昼前だ。それからチャーター機でデイトナに飛んで奴らからの連絡を待った。ほら、ちょうど君達がアレンとリックを空港へ出迎えた時だ。あの時おれもいたのさ。こんな状況だから声も掛けられなかったが、じーと見つめているのに気が付いてくれないもんな?、ジングージ」
「・・・・・」
 あの時の悪感は?これ?だったのか、と、神宮寺は眉をひそめた。
「今日の昼過ぎにやっと奴らから連絡が入りバートン達はデイトナに残しておれ1人でテッドを連れて来た。おそらく犯人の1人はディーノではないかと思って」
「そのディーノというリーダーと5人の男達は招待客に紛れ込んでいたんだ」グレンが言った。「本来の招待客とは違う人物だが代理というのはよくあるから、つい見逃してしまった。やたらにミスター・ハワードを睨んでいる男達がいるな、とは思っていたんだが」
「キーツとエド・・・、大丈夫かな・・」
 ライトがポツリと呟いた。怪我を負った彼らは乗客と共に巡視船で帰港している。ライト達はハワードが残るので従ったのだ。
「どうした、ジョー?」ふと神宮寺が、すっかり黙ってしまったジョーに気が付く。「大丈夫か?」
「ん・・・。余計な仕事したから疲れたぜ」
 薄っすらと微笑んだ。
 冷たい水の記憶が甦る。だが神宮寺には・・・神宮寺だけには知られたくない。気付かれたくない。
「・・・・・」
 神宮寺が怪訝そうにジョーを見る。と、そこへ後発の船が着いたという連絡が入った。まず隊員に囲まれたハワードとテッドが立ち上がった。
「テッド」サントスが止める。テッドがビクッと体を震わせ、わずかにサントスの方へ体を向けた。「船に仕掛けられた爆弾は、ありゃ回り回って手に入れた物らしいが、元はお前がどこかのチンピラに売った物だ。お前は自分が売った爆弾で命を落とすところだったんだ」
 テッドが、そしてハワードが目を見開く。
「神様の罪は今回は下らなかった。しかし次は違うぞ。おれが神様の使いをしてやる。覚悟しておけ」
 ハワードもテッドも無言でサントスの前を通って行く。グレンもライトもハワード達の後についた。
「おれ達も行こう」
 神宮寺が立ち上がった。すかさずサントスが寄る。“今度黒い花を贈るぜ”、とわけわかんない事を言っている。そして“このままニューヨークに戻ろうぜ”、と言っていたが─。
「ジョー?」神宮寺が、まだ座ったままのジョーを振り向いた。「どうした?行くぞ」
「足、痛ぇ・・・」
「・・・お前、なに甘えてるんだ?」
 眉をひそめるがそれでも手を取り肩を貸してくれた。
「だって足に一発食らって、その後走って泳いで─」
「それならおれが運んでやる!」
 突然サントスがジョーの体を持ち上げた。
「わっ!やめろ!おれに触るな!降ろせ、このやろ!」
「君みたいな奴が寄り掛かったらジングージが大変だ!いて!暴れるな!こらァ!」サントスは忘れているようだが彼も立派な怪我人だ。暴れるジョーをいつまでも押さえつけておくのは難しい。「ぐあっ!」
 鼻パンチを食らい2人共ドタッ!と床に落下した。
「・・・なにやってンだ。2人共??」
 キョトンと神宮寺が2人を見た。

「ジョー」
 ロビーに下りるとグレンとライトが手を振っていた。2人は今日ニューヨークに戻るのだという。ハワードがニューヨーク市警の事情聴取を受けるためだ。
「神宮寺は?」
「電話だ。すぐ来るよ」ジョーは昨日急いでクリーニングしてもらったライトの服を手渡した。「おれ達も州警に報告が済んだら日本に戻る予定だ。元気でな」
「なあ、ジョー。グレンとも話したんだけど、おれ達と組まないか?君が入ってくれればアメリカ一のボディガードコンビが世界一のトリオになるよ」
「おれにボディガードは無理だ。依頼人を忘れて犯人に食いついちまうぜ」
「そこはおれ達がカバーするから。一流のガードサービスの報酬はすごいぜ。依頼人だっていつも男ばかりじゃない。素敵な美人にぴったりくっつく事だってあるんだぞ」
「おー、それはいい話じゃないか、ジョー」
「サントス」いきなり自分の前に立つサントスをジョーが睨み上げた。「なにしに来た」
「なにって、州警に行くんだろ。おれも行くから迎えに来た」
「おれ達は自分の車で行くからあんたの迎えなんていらねーぜ」
「君は自分で行け。おれはジングージを迎えに─」ふいにジョーが立ち上がってサントスの胸倉を掴む。その手をサントスがガシッ!と掴み返した。「やるかい、ぼうや」
「神宮寺はおれの相棒だ。余計な手を出すな」
「今はそうだがこれから先はわからないぜ。おれがSメンバーになったら─」
「あんたのテストなんておれが落としてやるぜっ!」
「あの・・・コンビの件は・・・」
 うるさい!と一喝され、ヒッ!とライトが飛びあがった。と
「あれ?、ジョー」
 エレベータから降りて来た神宮寺だ。
「サントスも。こんな所で抱き合って─。いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」バッ!と2人が離れる。「まあいい。好みは人それぞれだ。おれは気にしないぜ、ジョー」
 そのまま出口に向かう。
「ち、違うって、神宮寺?
「ミスタ?
 2人があわてて後を追う。
「・・・ジングージが一番ひとが悪いな」
 グレンの言葉にウンウンとライトが頷いた。


                                              完

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