コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

毒を食らわば富士山で 2

img10461529064.jpg


「オナカすいたな・・・」
 洸がポツリと言った。そういえばと、後の3人も顔を見合す。
「それじゃ2人づつに分かれよう。おれと一平で溝掘り。ジョーと洸は夕食の用意だ」
「・・おれ、溝掘りの方がいいな・・」
「みんな1回はやるんだぜ。ほら、飯盒は緑のリョックの中だ」
 神宮寺にあしらわれジョーは渋々とリュックのヒモを解き始めた。洸はとうに観念したらしく水を汲みに行った。
「なあ、ミスター」
「ん?」
 呟くような一平の声に神宮寺は溝掘りの手を休め彼を見た。
「みんな一回はやらなきゃならない事はよくわかるさ。しかしあのコンビじゃ・・・」
「わかってるさ。だからこそ早いうちにやらせちゃった方がいいんだよ」
「な~るっ!」
 さすが神宮寺だと一平は感心した。
「なんだよ、洸!」ジョーだ。「こんな石の積み方ってあるか!賽の河原じゃあるまいし」
「ジョーこそ、こんなに水入れて!おかゆでも作る気!」
 洸は飯盒の水を減らそうと片向けた。と、水と一緒にお米まで流れ出てしまう。彼はあわてて元に戻した。
「洸、マッチはどうした。入ってないぜ」
「え?そんなはずないよ。ちゃんと入れたよ」洸はジョーの横からリョックの中を引っ掻き回した。だがマッチのマの字もない。「お、おかしいな・・確かにこの中へ・・」
「あ~あ、知らねえぜ。マッチがなくちゃ火が点けられないじゃないか」
「よーし、こうなったら─」
 何かを決心したらしく洸が木の板と棒をどこからか取って来た。
「そんなもん、どうするんだよ」
「まあ見てなって!洸様の古代応用編」
「・・・?」変な顔をしているジョーを尻目に、洸は板を下に置きその上を棒で強く擦り始めた。「な、なン─!」
 これにはさすがのジョーも驚いた。驚きついでに石を蹴っ飛ばしたからたまらない。炉は音を立てて崩れてしまった。
「た・・助けてくれ、神宮寺・・・」
 とうとうジョーは呆れて頭を抱えてしまった。
「ヘェ、お前の口から、“助けて”なんて言葉を聞くのは初めてだぜ」
「所変われば言葉も変わる。おれもうついて行けん」
「貸してみろ、洸」
 一平が洸の手から棒を受け取った。そして抉るようにして擦っていく。洸は大きな眼をますます大きくして見入っている。
 15、6回も擦ったろうか。棒先からかすかに煙が上がった。
「よし、洸。枯葉や草を取って来てくれ」
 洸は急いで集めて来た葉や草を煙の上がった所に重ねた。と、少しも経たぬうちにパチパチという良い音が聞こえて来て、やがて小さいが炎が見えて来た。そしてそれがさらに重ねられた葉に移り大きな火となった。
「ほら、これでOKだ」
「やったあ!古代文明の勝利だ!」
「・・・古代文明ねえ・・・」
「それじゃ一気に室町時代に飛んで米を炊く事にしようぜ」
 炉を直していた神宮寺は火を貰い受けると飯盒の下に置いた。
「あ~あ、これで夕飯にありつけるぜ」
「ところで、ミスター。室町以前ってお米炊かなかったの?」
「さあ、弥生時代は蒸していたらしいがその頃おれいなかったから知らん」
「3つ(3才)前の時代の人間でも知らないのか」
「そんな事よりコンビーフの缶開けてくれ。それからツナ缶もだ」
 ナンだカンだと言って、結局4人で夕食の支度に取りかかる事になってしまったようだ。
 が、口で言う程フライパンやナベと付き合うのは難しい。日頃めったに料理などやらない4人だからなおさらだ。なのに缶詰やインスタントは少なく、そのほとんどがなんらかの形で調理しなければならない物なので事ややっこしくなる。
「油ってこれくらいでいいのかな」
「それじゃプールだぜ、神宮寺」
「せめて池と言ってくれ。─うわっち!」
「あたりまえだ。フライパンの上の油が冷たいか」
「だからぼく言ったんだよ。インスタントのにしようって」
「その後ですぐ、“やっぱりちゃんと作った物の方がいい”とも言ったっけな」
「~~~~~
 洸は赤くなって下を向きいじけた。その横で一平が包丁を握っている。
「ニンジンの大きさ、このくらいでいいかな」
「や、やめろ、一平!」
「へ?」
 突然のジョーの大声に一平は振り向いた。
「ニンジンなんか入れたら、おれ食わねェからな!」
「だってニンジン抜きのカレーなんて・・・。あー!もしかしたら、ジョー、ニンジン苦手!?」
「・・・好きじゃねぇ・・・」
「ヘェ」洸がわざと驚いたように3人のそばに来た。「無敵のダブルJともあろう者がニンジンが嫌いとは・・・まるで子どもだね」
「関係ねェやい!おれは親父似でね。ゆえにニンジンはダメなのっ!」
「それこそカンケーないと思うけど・・・」
「そーと知ったらばかすか・・・・入れてやる!洸、ありったけのニンジン持ってこい!」
「リョーカイ、リョーカイ
「てめえら!ワルサーのターゲットになりたいのか!」
「その前に飢え死ににしてやるよ。─わっ!」
 洸がすっ飛んだ。ジョーが手元に落ちていた木切れを彼の足もとに投げたのだ。
「それじゃおれが!」
 包丁を放り出し一平がニンジン目掛けて突進した。
「なにやってんだか、あいつら・・」
 自分のすぐ横に落ちた包丁を拾い、神宮寺は板の上のニンジンを切り素早くナベの中に入れ、また飯盒の所に戻った。

 山の日暮れは早い。悪戦苦闘の末彼らが食事を済ませたのはもう21時を回っていた。
 もちろん周りは真っ暗で、たき火をしているここらだけがその闇の中に浮いている。
 4人は食事の後片付けを終えると今度はウイスキーやお菓子類を並べ始めた。
 夕食を済ませたから後は歯を磨いておやすみ~、という彼らではない。本当の楽しみはこれからだ。
 4人は30分も経たないうちにもう皿を叩き始めた。
「山の中で呑むウイスキーのまた美味な事美味な事!」
 ウイスキー好きの一平はもうボトル半分を空けている。
「ほんとだな」
 3本目のワンカップ大関を開け、神宮寺が答えた。
「しかし酒はいいとしても・・・つまみがピーナッツ、ポテトチップ、チョコレート、キャラメル・・・。なんだ、こりゃ・・ストロベリーキャンディ?ビスケットにクッキー、アップルパイ」
「だって・・・
「洸に買い物に行かせたのが間違いだったな」
 一平に睨まれ洸はますます小さくなった。
「まったくだ。女の子の買い物じゃあるまいしよ」
「洸も女の子も大して変わらないんじゃないか?」
「そりゃそ~だ!」
 神宮寺の言葉に後の2人は大声で笑い出した。
「いーよ、いーよ!そんなにバカにするならこれ分けてあげないから!」
「え?」
 頭から湯気を出し怒鳴る洸に3人は顔を向けた。なんと洸が手にしているのは特大のナポレオンのボトルだった。
「ど、どうしたんだい、これ!」
「ん!ちょっとね」
「すげえ・・・」ジョーが手に取った。「こいつ1本5、6千円するんだろ」
「いや、これはカミュ・ナポレオン・エクストラ・・・1本5万円だ」
「えー!そ、そんなにするのお!」
 一平の言葉に洸は思わず大声を上げた。
「するのォ・・って、洸、こいつどうしたんだい」
「・・・ん、実はチーフの居間のラックから・・・」
「あ、あそこから持ち出したのか!」
 一平も洸に負けないぐらい大声を出した。
 JBの支部長室の隣の居間には大きなバーラックがあって、その中には150本もの多種多様なボトルが置いてある。
 ここはVIP来部の時に使う所で普段はめったに使わない。神宮寺とジョーでさえ、まだ数える程しか入った事がない。
「も、持ち出したなんて人聞きの悪い。ぼくはチーフにちゃんと断ったんだよ。キャンプにお酒持って行きたいから、2、3本貰っていいかって─」
「・・2、3本って・・・。じゃあまだ他にも・・」
「・・・ん」
 洸は小さく答えるとアイスボックスの中からボトルを出して並べた。
「シャトー・オー・ブリヨン、ジョニー・ウォッカ、シャトー・イカン。最高級品ばかりをまあ・・・」
「洸にこんな才能があるなんて・・知らなかったなァ」
「だってチーフが持って行っていいって!」
「チーフったら食堂の酒蔵の酒と勘違いしたんだよ、きっと」
「ドジなチーフ!食堂の酒蔵を荒らすのに、おれ達がいちいち断るかい!」
「どうしょうか・・これ・・・」
 洸がポツリと言った。
「どうしようって・・・、まずいなァ・・」
 神宮寺が困ったように頭を掻いた。が、目は並んでいる高級酒から離れない。あとの3人も同様である。
「そーだよ!まずい事ないよ!飲んじまおうぜ!」
「え、でも・・」
 洸はジョーに顔を向けた。
「大丈夫だよ。お前はちゃんと断ったんだろ。チーフが勝手に間違えたんじゃないか。言い訳になるぜ」
「そう言われれば・・・」ジョーの自信満々の言葉に洸もその気になってきたようだ。「そうだよね、ぼくは別に酒蔵のお酒、とは言わなかったもん。ただお酒と─」
「そーだろ!だったら構わねえぜ、飲んじまおう」ジョーは言いながら、もうナポレオンを抱えている。洸も一平も1本抱き込んだ。「う~ん、いい香り。やっぱり高級品は違うぜェ」
「どれどれ、おれにも─」
 一平が腰をずらして来た。
「どうした、神宮寺。お前も味見してみろよ。〝さっいこ~〝だぜ」
「ん・・・しかしな・・・」
「ミスターはマジメだから飲まないよね~」
「よけーな事言うな!」言ってしまってから神宮寺は口を押さえ赤くなった。「今、おれのコンピュータがものすごいスピードで計算しているんだ。静かにしててくれ」
「コンピュータ?」一平が訊いた。「なんの計算?」
「・・・このまま、おれがチーフへの忠義心故に酒に手を出さないとしても、結局この3人の裏切り者に全部飲まれちまう事になる。いや、たとえ無事飲まれなかったとしても、持って帰る途中割れておじゃん・・・・になってしまうかもしれない。それはとてつもなく無駄な事だ。とすると・・そうしたら1番いい方法はと言うと・・・」
「結論!飲んじまった方が得という事だ!」jジョーは神宮寺にグラスを放った。彼はそれを受けるとジョニーウォッカに手を伸ばした。「素直じゃねえんだからな、まったく」
「慎重派と言ってほしいね。う~、うまい!」
「ホントだよ、最高さ。あ、ミスター、チョコレートどうぞ」
「・・・・・★」
 洸に勧められ神宮寺は申し訳程度に一粒取った。
「こうしているとまた歌でも歌いたくなるよ」
「ブッ!」一平が吹いた。「う、歌うって・・歌を・・・」
「あたりまえじゃん。お経を歌うかい」
「そうだな。おれも歌いたい気分になってきたよ」
「えっ?」神宮寺が振り向いた。「ジョー、お前がか?」
「悪いか?」
「いーや!ぜひ聞きたいね。始めてだもの」
「ジョー、歌ってよ!─洸よりましだろう・・・」
「それでは皆様のセーダイ・・・・なリクエストにより私、ジョージ・アサクラその喉をお聞かせいたしましょう」
 ジョーが調子づいている。酔ってるな、と神宮寺は思った。一平と洸はヤンヤヤンヤと囃し立てている 。
Summ, summ, summ! Bienchen summ herum─
「あ、これって」一平と洸が同時に声を上げた。「〝蜂が飛ぶ〝の曲だね。でもなに言ってるのか、まるでわからん」
「おれにもわからん」
 ケロリとジョーが言った。
「な~んだ。歌ってる本人がわからないんじゃ、こっちにわかるわけないよォ」
「忘れちまってるんだな・・・ドイツの歌を・・・。不思議なくらい・・・」ジョーは小声で呟くとグラスを仰いだ。「アハ、悪かったな。さあ次は誰だ」
「ぼくぼく!なんと言ってもこの洸様!」
「あちゃ~☆」
 一平が頭を抱えた。
 洸は決してオンチなわけではない。ただ人間とは思えないほどのスタミナで大声を出し、高音部などは10才の少年さながらの声なのだ。それも急にピーと上がるのだからたまらない。
か~ぜよ、ひかりよ~。せいぎのいのり~。かわれししまる~ライオンまるに~
「なんとまあ・・・古い歌を」神宮寺がため息をついた。「いくら作者がこのシーン書く時にちょうど〝ライオン丸〝の歌を聞いているからとはいえ・・・」
「なんの歌なの?」
 一平が訊いた。
にほんのへいわをまもるため~
「え、ああ。洸のテーマソングだよ」
ゆくぞかいけつライオンまる~~
「なるほど」
 一平は納得したように洸を見た。

「は、博士。研究所の周りはくまなく捜しましたがどこにも─」
「もっとよく捜すんだ。もしあれが他の者の手に渡ったら大変な事になる」
「は、はい」
 トニーズは再び真っ暗な外に飛び出した。
「も、もしあの薬が科学者の手に渡れば・・・いやそれより瓶が割れて流れ出てしまったら、我々の長年の極秘研究がすべて水の泡になってしまう。そうなれば─」
 博士は思わず身震いした。


                  1 へ       ⇔      3 へ

スポンサーサイト