コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

記憶の底にひそむもの 6

 

 榊原病院のICU病室前のソファに神宮寺は一人腰を下ろしていた。
 弥生町からすぐそばのこの病院に搬送されたドウラの手術は1時間前に終わっている。
 ロブの言葉で弥生町の資材置き場に駆け付けドウラを見つけここに運んだ後、その後始末のために関とサントスは警察庁に戻ったので神宮寺が病院に残ったのだ。
 と、長い廊下の向こうからサントスの姿が見えた。
「ジングージ、ドウラはどうだ?」
「腕と胸を撃たれて出血もひどかったがうまく貫通したらしく、とりあえず命の心配はないそうだ。ただこの2、3日は油断できないようだが」
「そうか・・。すまんな、ミスター。余計な面倒まで掛けて」
「かまわないさ。おれのドジな相棒も関わっているし」
「で、その事なんだが・・・。悪いニュースとそれよりもう少し悪いニュースがあるんだが・・どっちを先に聞く?」
「・・そういうのって普通、良いニュースと悪いニュースって言わないか?」
 神宮寺が眉をひそめ、隣に腰を落としたサントスを見た。

 ベッドもイスもない暗い部屋に何時間か放っておかれたジョーだが、慣れているので床に座り体を休めていた。
 撃たれた右足にはさっきロブから貰ったバンソウコウを貼り、ドアの鍵を針金で開けようとしたがなぜか開かなかった。電子ロックになっているらようだ。
 こんな何もない部屋にそんなものを設置するのは・・・ここは監禁用の部屋なのだ、と気が付いた。
 そういわれれば窓は天井近くにしかないし、外の音もほとんど聞こえない。スピードマスターも発信できないのだ。
 こうなったらジタバタしても仕方がない。だがチャンスは必ず訪れる。
 ジョーはそう信じ─ふとスピードマスターを見るとそれを手首から外した。裏ぶたを外し細かい部品を指先で慎重に取り外していく。
 室内が暗いせいもあり、なかなかうまくいかない。
 ドアの鍵がガチャリと音を立てた。ジョーが顔を上げドアに目を向ける。
「何をコソコソしてるんだ?」入って来たのはロブと、もう1人─日本人だ。今までに見た事のない  50代くらいの男だった。「今、隠した物を出せ」
「・・・・・」とっさに後ろに回した手をジョーはロブの前で広げて見せた。「時計だよ。ひまなんで分解してたら本当にバレけやがった」
「・・・・・」ロブと男が呆れたように顔を見合わせた。「お前、本当に警察か?」
「違うって言ったら、信じてくれるか?」
「少なくとも、こんなイカれた公安はいないな」男が口を開いた。「本当にこの男とファーを交換できるのか?」
 どうやらまだ諦めていないらしい。
「交換しなくてもファーを取り戻せばいい。それにはそちらの協力が─」
 ロブに、いやTEと繋がっている日本の組織なのだろう。
 ジョーは耳だけを彼らに向け、手は相変わらず時計をいじっている。そしてお目当ての部品を外すと左の掌に隠しまた部品をはめ込んでいった。
「で、こいつはやはり公安ではないんですね?」
「見た事がないが」
 男が再びジョーに目を向けた。この男は公安官の顔を知っているのだろうか。
 部署にもよっても違うが、公安官はその職柄から警視庁に出向いても自分が公安官である事を名乗らない。だから警視庁の警官の中には、訪問者が同じ警官である事を知らない場合もあるのだ。
 関の所属する公安3課などはその代表的な部署である。
「とにかくファーを取り戻さない事にはアレも手に入らないわけだし急いでくれ、ロブ」
「ジョーと言ったな。もう一度サントスにファーの解放を要求するんだ」
「何回やっても同じだよ。ファーは解放されない。それより─」ジョーが時計の部品をいくつか摘まんで、「あれー?おかしいなァ。部品が余っちまった。直せるか、ロブ?」
 なんで、おれが?とロブが睨む。
「だってあんた機器に強そうじゃん。公安の通信機に割り込むなんてなかなか出来る事じゃ─」
 ロブの足が飛んできてジョーのアゴを蹴った。とっさにまだ裏ぶたをしていないスピードマスターを握り部品の分散を防いだが床に手を付けず、その勢いのまま床に転がった。
 目が眩み口の中に血の味が広がる。床に吐き出すがなかなか止まらない。
「乱暴だな。体を大事にしろと言ったくせに」
「調子にのってるンじゃねえ。言う事を聞かないとドウラが死ぬぜ」
「ドウラはそっちの仲間だろ。なんでおれが奴のために何かしなきゃいけねえんだよ」
 ジョーはドウラがサントス達に保護されたのを知らない。生死もわからないのだ。と
「ロブ」仲間の1人─確かギイといったか─が呼んだ。「来てくれ。新しい情報だ」
「よく考えろよ、ジョー」
 ロブは再びジョーを睨み、日本人の男と出て行った。
「チェッ、その台詞こっちが言いたいよ」
 口の中を切って流れた血が喉に向かいジョーが咽せた。咳で追い出す。
 が、2人が出て行く時ジョーの指が何かを弾くように動いたのを─そして小さな金属製の物が男に向かって飛んで行ったのに気付く者はいなかった。
 ジョーは握り締めていた手を開いてスピードマスターの裏ぶたをはめた。

「おお、神宮寺君」関がデスクから顔を上げ、サントスと共にこちらに向かってくる神宮寺を見た。「ドウラの事は榊原医師から聞いたよ。君はサントスから─」
「ええ、聞きました。ファーがアメリカに移送されるそうですね」
「こちらは必要な調書はとったし、後はTEに協力していた日本の組織を挙げるだけだ。ネバタ州警もファーを欲しがっている」苦虫を噛みしめたような口調だ。「明日の午後の便で成田から発つよう手配しているが・・問題はジョーだ」
「ロブから連絡が入ったそうですね。やはりジョーとファーの交換、ですか?」
「うん。それも明日の夕方までにファーを解放しろと言ってきている。ヘタすりゃその頃ファーはアメリカへ向かう飛行機の中だ。いや、これはもう決定で変更はない」
 ネバタ州警と公安の上層部との話し合いで決まりその後ロブから連絡があったのだが、上層部はこの決定を変えるつもりはない。関にも口出しはできない。
「ロブはハッカーだ。どうかしてこの事を知りジョーをぶつけてきやがったんだ」サントスが息巻く。「いったい何してやがるんだ。爆弾でもチェインガンでも使って逃げ出して来いっ」
「・・何か情報を取ろうとしているのか・・・。それとも本当に逃げ出せないのか・・」ポツリと呟く神宮寺に関とサントスが口を閉じた。「連絡がないのが気になる」
「主任」木村だ。「ファーの移送時間が決まりました。明日13時20分、成田発のロスアンゼルス行きのユナイテット機です。2時間前の搭乗となります」
「・・時間がないな」関が呟いた。「だが我々はこの決定に従うしかない」
「わかっています。ジョーの事はおれ達が」
 神宮寺はそう答えるしかなかった。

 翌朝、神宮寺は自宅で少し早目の朝食を摂っていた。
 あの後警察庁に泊るという関を残し、サントスをJB近くのホテルに送り自分は中野に戻って来た。
 長期戦になる予感がしていた。JBには着替えが置いてあるが警察庁にはない。少しポルシェに積んでおこうと思った。
「あ」
 2枚目のパンをトースターから取り出しテレビに目を戻すとニュース速報が流れていた。読もうと思ったがそれより早く臨時ニュースでアナウンサーが伝え始めた。
 それによると今から10分程前、成田空港近くの空き倉庫から火の手が上がり現在も炎上中だという。空き倉庫なので何も入っていないのになかなか火の手が収まらず、消防の必死の消火活動が続いている。
 ただ目撃者の話では火の上がる1、2分前にボンッと何かが爆発したような音がしたと言うのでガス漏れの可能性もあるとアナウンサーは報じていた。
「成田・・・、いやな符合だな・・」
 彼はどんなに急いで食事を摂っても食後のコーヒーだけはゆっくりと味わうのだが、今はその余裕もなかった。急いで食器を片づけ着替えの入ったバッグを持ち地下駐車場に下りる。助手席にバッグを放った。
「隣に下着の入ったバッグじゃ、なんか色気がないよなあ」
 つい呟いたがサントスが座っているよりいいか、とポルシェを地上に乗り出した。
 いつもより2時間も早いが青梅街道はやはり混んでいる。と、リンクが鳴った。森からだ。
『神宮寺君、今、家かね?』JBに向かっていると答えると、『君はそのまま関さんの所へ行って合同捜査に入ってくれ。ロブからまた連絡が入ったそうだ』
「ラジャ」
 神宮寺はいつもなら右折する新宿御苑横の道をそのまま突っ切った。ちょうど昨日警察庁から弥生町へ向かったのとは反対のコースになる。
 合同庁舎二号館に車を乗り入れ5階に上がると3課に向かった。

「神宮寺君、こっちだ」関が自分のデスクからではなく、その向こうの小部屋のドアから顔を出し神宮寺を呼んだ。「おはよう、眠れたかね?」
「おはようございます。ええ、おかげ様で。─ここは?」
「完全防音の部屋だ。デートにはぴったりの部屋だな」
「デートだと!?」開けっ放しの3課の入り口からサントスの大声が飛び込んで来た。「セキ!ジングーをこんな所に連れ込んでナニする気だ!お前の狙いはジョーだろう!」
「ち、違うサントス!この中に─あ、苦しいっ!」
「ス、ストップ、サントス!関さんを締め上げるな!」
 ジタバタと暴れる関の体を掴んでいるサントスの腕に飛びついた神宮寺だが、力では敵うはずはない。技を掛けるにしてもこの部屋は狭すぎて、周りに並んでいる機械類を壊してしまいそうだ。
「放せ、サントス!事件が解決したら新宿でも六本木でも付きあってやるから!」ピタッとサントスの動きが止まり関を放した。「大丈夫ですか、関さん」
「な、なんちゅーバカ力だ。このまま潰されるかと思った」
「な、ジングー、本当か」
 サントスが関のそばから神宮寺を引き離した。
「ああ。ただしジョーと関さんも一緒だぜ」
「お、それはいいね」
 真っ先に関が反応し、ダブルデートか・・・ま、いいか、とサントスが呟いた。
 絶対違う、と思った神宮寺だったが、
「それよりロブからまた連絡があったそうですが、なんと言って来たんです?」
「おお、そうだった」
 関がドアを閉めた。6畳くらいのその部屋の空気が圧迫されたように感じた。室外の音は聞こえない。
「今朝、成田で爆発事故があったのは知ってるかい?」神宮寺とサントスが頷いた。「ロブがあれは自分達の犯行だと知らせて来た。そしてファーを解放しないとまたどこかが吹っ飛ぶと」
「ヤロウ、テロリストの本領を出してきやがったな」
「本当にロブ達の犯行なんですか?」
「今、事件と事故の両面で調べている。さらに悪い事に・・」関が一旦言葉を切った。ちょっと迷っているようだったが、「・・ファーをアメリカに移送するならその飛行機に爆弾を仕掛けてやると・・・。13時20分発のユナイテットだと知っていた」
「まさか」
「なんでそんなに早くわかるんだ!?」
「奴らこちらの情報をパソコンからハッキングしているだけじゃないようだ。今、課内を点検している。盗聴器が仕掛けられている可能性が高い。この部屋は一番に念入りに調べたから大丈夫だ」
「関さん・・」眉をひそめ神宮寺が目を向ける。「まさか・・・」
「うん。もし盗聴器が見つかったら、この中に奴らと通じている者がいるという事だ」
 思いっきり口元を歪め関が言った。
 ここ3課8係内の機器はセキュリティシステムによりすべて登録されている。外から持ち込もうとしても入り口でシャットアウトされるのだ。
 しかし8係内にある機器なら使える。だがそれを使用できるの者は・・・。
「この件はおれと山本と木村で扱う事になった。彼らは信用できる」
「おれもチーフからこちらに入るよう言われました」
「そーか、ならば解決は近い。デート、デート」
 サントスが嬉しそうに言った。
「2時間後にファーがここを発つ。今はTEのアジトの捜査に出ているバートンが戻ってきて彼と山本とでアメリカまで移送の予定だ」
「そういえばバートンの事を忘れていた。サントスと別行動だったんだ」
「おれはロブを捕まえるまで帰らねえ。帰国命令が出ても無視だ」
 と、ポンッと音が響いた。誰か外からチャイムを押したのだ。関がドアを開ける。山本だった。  彼は関に耳打ちしてすぐにドアを閉めた。関の表情が険しい。
「8係内はもちろん、3課全室を調べたが盗聴器は発見されなかった」
「それって・・どーいうこった??」
 サントスが首を傾げ神宮寺の眉が寄った。


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