コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Posted by  朝倉 淳   3 comments   0 trackback

クリスマスの行方


「クリスマスオルガンコンサート?なんだ、それ」
 淳から手渡されたチケットをヒラヒラさせてジョーは眉をひそめた。
「クリスマスになんでオルガンなんか聴かなくちゃいけないんだ」
「だからそーいう催しで」
 1週間ほど海外に行っていたジョーをクリスマス1日前にやっと捕まえたのだ。このチャンスを逃してはならない。
 ジョーの言葉にイラっとした淳だったが、なるべくにこやかに優しげに答えた。
「クリスマスといったらパイプオルガン。パイプオルガンといったらバッハよ。毎年行われているけど人気でチケットがなかなか取れないのよ。今年はギリギリでやっと。ねぇ、行こうよ」
「まあ、明日は休みだけど・・・。あ、洸がパーティやるとか言って─」
「あっちはあっち!こっちはこっちよ!とにかく明日16時にバッハ・コンサートホールよ。私は用事を済ませてから行くのであなたは直接行ってね」
 淳の大雑把な説明に首を傾げるジョーの手に強引にパンフレットを押し付けて、淳は踵を返した。

 確かにクリスマスにオルガンコンサートなんてベタだし、どうして?というジョーの疑問ももっともだ。
 しかしそんな事はどうでもいい。
 今年の曲目はバッハ特集で「小 フーガト短調」「トッカータとフーガニ短調」「小プレリュードとフーガ第5番」「幻想曲とフーガ ト短調・大フーガ」とバッハ好きには堪らない選曲なのだ。 
 大好きなパイプオルガンでバッハを聴き、その隣にはジョーが。
 明日の予定さえ組めない彼らだ。行ける時に、やりたい時にやっておかないと後悔する。
「いいじゃない。クリスマスなんて女の子のためにあるようなものだもの」
 自分でもメチャクチャな論理(・・・じゃないぞ)だとわかってはいるが・・・淳は自分の感情を優先させた。

 コンサートにドレスコードはないが、この日のために淳はサーモンピンクのワンピースと、ちょっと背伸びをして踵の高いヒールを用意した。これを履いても長身のジョーを追い越す事はない。
 自慢の栗色の髪は後ろにフワとまとめ、体が細く見えるようにセットする。
 淳は日本人とフランス人のハーフで、それなりの格好をすればそれなりに見栄えがする外見だ。
 現にコンサートホールに入るなり、全男性の視線をその身にあつめた(と、彼女は思っている)

 が、

「なにやってるのよ。もうすぐコンサートが始まっちゃうわ」
 視線をあつめている身ゆえ、シートにゆったりと優雅に座ってはいるもの淳の内心はイライラマックスに達しようとしていた。
 彼女の隣のシートは空席・・・そう、ジョーの席だ。
 本当はホールの入り口で待っていようかと思ったが寒いし、女性を外に立たせておく男なんて、という思いもあるので先に入場したのだが。

(やっぱり待っていればよかったかしら。携帯は繋がらないし・・)
 一瞬、仕事が入ったのかと思った。だから携帯を切っている・・・。が、JBに確認したらあの2人の公休は変わらないという。
 舞台の中央には年代物のパイプオルガンが存在感たっぷりに人々を見降ろしている。
 緞帳がないので、その優美な姿を観賞するふりをしながら淳は足踏みしたがる両脚を必死に抑えた。   

 開演5分前のアナウンスが流れた。客席は満員。
 天井から下がる豪華なシャンデリアがだんだんと灯りを落としていく。舞台の上のパイプオルガンにピンスポットが当たった。正装の奏者が舞台の袖からにこやかに登場した。
(ああ、始まる。ジョーったらすっぽかす気?)
 客電が落ちた中を立ち上がってドアを開けるわけにもいかず、淳は思いっきり口元をへの字に曲げたまま舞台へと目を移した。

 休憩を挟んで2時間のコンサートに幕が下りた。
 淳の期待どおりパイプオルガンの音は素晴らしく、その調べに心を同調させ充分に楽しむ事ができた。できたが・・・彼女の隣の席が埋まる事はなかった。

 ホールの外は風が吹き、来た時よりも寒かった。淳はマリンブルーのコートの襟を合わせ・・・と、少し離れた所に赤い車が見えた。その横に枯葉色の髪を風に煽られ立つ長身の男が。
 淳の眼がチロリと動いたが、すぐさま顔を逸らし足早にその場を離れようとした。と、男・・・ジョーがゆっくりと近づいてくる。
 普通こういう時ってあわてて引きとめに来ないか?と淳は思った。が、ジョーはあくまでもゆっくりと焦る事なく淳の行く先へとコースをとった。そしてその足がピタリと彼女の前で停まる。
(格好いいけど、なんか頭にくるわ)
「乗れよ、寒いしさ」
「・・・その前に言う事はないの?」
 淳がジョーを睨む。と、ジョーが肩をすくめた。
「チケット」
「え?」
「チケットがない」
「・・・え?」
「チケットがないと入れねえぜ」
「え・・・?」
 ハッと淳がバッグの中を掻き回した。半券の切っていないチケットが1枚・・・パンフレットを一緒に渡したと思っていたが・・・自分が持っていたのだ。
「電話してくれればよかったのに。そうすれば─」
「電源切ってたじゃないか。それとも通信機を持ってきてるか?」
 いや、ない。あっても一般人の前で使うのははばかれる。
「やだ、てっきり渡したと・・・ごめんなさい」
 焦ったり怒ったりイラついたり・・・自分1人で空回りしていた。さすがの淳も恥ずかしくて彼の顔が見られない。
「ま、いいや。とにかく乗れよ。クリスマスのイルミネーションのはしごをしようぜ」
「でも、今夜は洸君のクリスマスパーティがあるって─」
「あっちはあっち、こっちはこっちさ」
 ニッと口元を歪め、ジョーの腕が伸びガツッと淳の肩に回された。高いヒールでトトト・・・とよろける。だがコケる事はない。
 その力強い腕の中で淳は、次はもっと高いヒールにしようと思った。


                              おわり


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