コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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闇に溶け込む黒い影 5


 やがてカローラは中野坂上の榊原病院に到着した。2人は第4病棟の6階に上がる。
 ここは以前は伝染病などの隔離病棟で、その一部をメサドンセンターとして使用していた。
 しかし最近専門の病院が田無方面に出来たので、今はその頃の半分の規模となり対象も軽度の患者に限られている。

「神宮寺君、ジョー」ナースステーションの前で榊原が待っていた。「君達が尋問する事は森チーフを通して新宿署の許可をとってあるそうだ。ただし30分だけだよ」
「わかりました、ドクタ」
 病棟へと通じるドアが榊原の手によって開けられた。
「──」
 ジョーの体が一瞬強張る。榊原に続いて病棟に入る神宮寺の─しかし、その後に続く事ができない。
 病棟内の廊下は決して暗くなく、柔らかなクリーム色の光に包まれていた。だが、この病棟で辛い思いをしたジョーの目にはその柔らかい光も映らず、ただ恐怖心だけが湧き上がってきた。
「ここにいるか?」
 チラリとジョーに目を向け神宮寺が訊いた。彼もここには何度か入った事がある。
 潜入作戦のため勝手にヘロインを使用しベッドに拘束されているジョーを、そしてヘロインを体から完全に追い出すために何日も苦しむジョーを見た。
 神宮寺はジョーに近寄る事も許されなかった。彼もここには辛い思いがあるのだ。
「いや・・・大丈夫だ」
 顔を上げジョーは真っ直ぐな目を神宮寺に向ける。彼の後に続き、廊下に足を踏み入れた。
 少し先ではやはり心配気に榊原が待っていた。が、2人が追いつくと何も言わず先に進む。
 やがてひとつのドアの前で止まりキーを解くとゆっくりとドアを開けた。
 以前は10人程の大部屋だったが今は個室になっていた。その室内のベッドに上半身を起こした若い男がいた。神宮寺達といくつも変わらないだろう。
「今朝、私にしてくれた話をもう一度彼らにしてくれないか」
 2人を指差し榊原がやさしく言った。頷いた男が話し始めた。
 それによると、男は友人の誘いと好奇心から街に立つヘロインの売人から〝薬〝 を買い使用した。
 1回でやめるはずが2回3回とだんだん止まらなくなってしまった。
 当然金が掛かるが、ニートの男にはまとまった金がない。そこで暴力団の下っ端の仕事をしながらヘロインに手を出してしまった─というよくあるパターンだった。
 だが何度かヘロインの売買現場に出て、そこでノーマンを見たと言う。ただその時は彼が誰だか興味がなかったので、どの組との取引の時かはわからないそうだ。
 それが1週間前で、男は昨夜路上に倒れていたところを保護された。
「ヤクのやり過ぎで倒れたのか」
 口元を曲げジョーがボソッと言った。と、
「違う。どこかの組員に襲われたんだ」男が言った。「そのノーマンって奴の情報が高く売れると聞いて、取引のあった組を探っていたら」
 なんだって、と2人が顔を見合わせた。
「他にも襲われて殺られた奴もいる。おれはもう戻りたくない」
「で、襲ってきた奴は知ってるのか」
 ジョ-の問いに男が首を振った。
「ありがとう。君は専門の病院で治療を受け、やり直すんだよ」
 榊原の言葉に男はコクンと頷いた。3人は病室から出た。
「あの男は軽度だしまだ若い。きっとすぐに立ち直るだろう」
 ジョーがかすかな息をついた。
「そうだ、ジョー。山形から戻ってまだ1回しか診察に来ていないが、胸の具合はどうだ。わき腹の傷は」
「ええ、もうすっかり」ジョーがシャツのボタンを外した。きれいなオリーブ色の肌にアザはない。「わき腹もきれいなもんです。なんならここで全部脱ぎますか?」
「お~、いいねェ。脱いでもらおうじゃないの!」
 突然後ろから声がした。
「関」はだけた胸元をそのままにジョーが鋭い目を向ける。「なにしに来たんだ」
「例の男を田無の専門病院までお送りだ」
 関の後ろには山本が見える。
「この部屋の男をか? あいつ、公安に関係する事をやらかしたのか」
「容疑者じゃない。話を訊くだけだ」
「なんの話だ」
 榊原に会釈し、自分の前を通る関をジョーが止めた。
「こんな所で話せる内容じゃない。JBに帰ってチーフにでも訊いてくれ」
 拳(こぶし)でジョーの胸をコンッと叩いて、さっきまで彼らがいた男の部屋へと向かう。榊原も関達の後に付いた。
 ジョーは気になったが神宮寺が病棟の出口に向かったので仕方なく従った。
「ノーマンの事件(ヤマ)は公安とは関係ない。関は一体何を訊きに来たんだろう」
「ん・・・」ちょうどエレベータが降りて来た。足を止める。「関さんの言うとおりチーフに訊いてみよう」
 ドアが開いた。
 神宮寺に続いてエレベータに乗り込もうとし、ジョーはふと振り返った。
 ドアの閉まった隔離病棟は誰もいないかのようにシンとしていた。

「いくらチンピラでも、こう周りをウロチョロされるのはうっとうしいが」たばこに火を点け太い声で男が言った。「こう何人も黙らせていたのでは、やがて疑われるぞ」
「しかしかなりの額を出している組もあり、そいつに目が眩んであちこち嗅ぎまわっている奴が多くて・・・。大半がチンピラ同士のケンカ、もしくは事故を装ってますが」
「うむ・・。だがくれぐれもサツに目を付けられないようにやれ。今はまだノーマンの居場所を知られるわけにはいかない」
 男が灰皿にキュッとたばこを押し付けた。

「ふ~ん、じゃあノーマンやヘロインの事を探ろうとすると、どこからともなく現われた奴らにボコボコにされるわけだ」
 ダブルJ室のソファに腰を下ろし一平が言った。
「左近さんに訊いたら、多い組ではこの1週間に5人がやられたそうだ」コーヒーをひと口啜り神宮寺が言う。「なのにノーマンやヘロインに関する情報はない」
「60憶だもんな~。よほどうまく隠しているんだろうな~」自分のノートパソコンのキーを叩きながら洸が言った。「こっちにも全然引っ掛かってこないもん」
「だけど、それならこっちにもやり様があるぜ」
 仮眠室のドアが開きジョーが出て来た。
 今まで着ていた服を脱ぎ、明るい色合いのシャツやパンツに着替えている。胸にジャラジャラと2連の金のネックレスを付け、ジャケットは買ったばかりのアルマーニの新作だ。
 ファッションには興味のないジョーだが、そのスラッとした長身のおかげで何を着ても一応様になる。
「巧妙かつ効率的な作戦があるんだけどよ、神宮寺」
「おれが賛成しなくてもやる気だろ?」ジョーの格好を見て苦笑いする神宮寺にジョーもニッと口元を歪めてみせた。「待っててくれ。おれも着替える」
「2人してチンピラになる気?」
「存在感ありすぎるぜ」
 確かに下っ端のチンピラにしては神宮寺もジョーも迫力がありすぎる。が、それがかえって目を引くだろう。
「それより、一平。公安があの男に話を訊きに来たぜ。なんでだ?」
「あの男が世話になっていた組とヘロインの取引を行っていた組の中に天道会があるんだ。実は公安2課の堂本達が麻薬Gメンの捜査内容を流し、取引現場に顔を出していた可能性があるらしい。その証言を取りたいそうだ」
「天道会・・・。ロブに協力していた組か」だがそれならジョー達が追っている事件(ヤマ)とはまったく別のものだ。「思ったより大変な事になってるんだな、公安」
「うん。もしかしたらJBへのバックアップも打ち切られるかもしれないって、チーフが」
「・・・・・」
 ジョーが眉をしかめ洸に目を向けた。一瞬その目が戸惑いを映す。
「これからはあまり関さんと会えなくなるかもしれないね、ジョー」
 ニヘッと口元を歪める洸に、だがジョーは何も言わず唇に指を当てじっと考えている。そして、
「それは・・・困る」
 ポツリと言い、洸と一平が、〝えっ!、まさか本気に!?〝 とジョーを見た。
「奴にはピカピカの色っぽい所へ連れて行ってもらう約束をしているんだ。だけどまだ行ってねえ。このまま逃げられてたまるかっ」
「そーいう事ね・・・」
 立ち上がっていた2人が脱力してイスに腰を落とした。

「お待たせ」   
 神宮寺が出て来た。
 スキッとしたスタンドカラーのシャツが端整な彼の貌によく似合っている。その上にやはりスタンドカラーのシンプルなデザインのジャケットを重ねている。
 確かに遊び着っぽいが、チンピラにしてはおしゃれすぎる。
「軍資金はあるのか?」
「ねえよ。チーフの所にでも行って貰ってくるか」
 大きな体がゆっくりと立ち上がり、胸のネックレスをまるで鎖のようにクルクル回し脅すような目を向ける。とても演技とは思えない。
「そんな事したらチーフにボコボコにされるぞ」
 確かにどこかの組員よりチーフの方が怖い。 
 ジョーは肩をすくめ、ダブルJ室を出て行く神宮寺の後を追った。

「吐いたぜ、ロブが」パテーションの上からヒョイと顔を覗かせサントスが言った。「やはり取引場所にドーモトもいたそうだ。奴ら、それをネタにTEに協力させていたんだな」
「そうか・・・」関が一瞬眉を寄せる。「おれの方も榊原病院の男に確認した。写真を見せての証言だ。間違いないだろう」
 容疑者を送検できる証言を得たのは警察としては嬉しい。しかし今回ばかりは喜んでもいられない。
 彼らは自らの手で同僚を送る事になるのだ。
「TEばかりか天道会とも関係があったとはな・・・」
「もっと証言がいるなら、街へ出てチンピラ捕まえていくらでも訊いてくるぜ」
「サントス」出て行こうとするサントスを止めた。「そのついでにJBに寄るつもりだろう」
「だってロブの証言は取った。ドウラはまだ退院してこない。ヒマそうに見えるのか、こんな関係ない事件(ヤマ)の尋問までやらされてよ。だったらジングージの手伝いがしたいよ」
「神宮寺君といえば病院で会ったな。ジョーが廊下で服を脱いでいたっけ」
「ジ、ジングーも・・?」
「彼はそんな無節操じゃない」
 サントスがホッと息をつく。
「とにかく許可なくして出ないでくれ。バートンがドウラの様子を見に行っている。その連絡を待つんだ」
「チェ・・・」大きな体がガックリとうなだれる。が、急に顔を上げた。「山本!」
 部屋に入って来た山本を見つけ走り寄る。
「これ、昨日と同じガムだ。珍しいって言ってただろ」
「あ、ありがとう─」
 ちょっと引きつり山本が受け取る。
「いーよ、いーよ。アメリカからいっぱい持ってきたんだ。いつでもやるよ」
 ガハガハ笑うサントスに、
「神宮寺君から山本に鞍替えしたのかな・・」関が呟く。部下を守るのも上司の仕事だ。「これ以上の面倒はごめんだぞ」
 じーと上目づかいでサントスを睨みつけた。

 その夜、神宮寺とジョーはJB車両RX-8で新宿に向かった。
 平日のまだ7時前だというのに歌舞伎町辺りは休日のような人出だ。
 彼らは1丁目の新宿コマ劇場の辺りをウロウロ歩く。2人と同じくらい年令の男や女が劇場前の広場に大勢たむろしていた。
 ちょっと南に下がって近くのゲームセンターに入る。
 少し前までは、暴力団の組員や下っ端のチンピラ共はさもそうです、という格好をしていたが今は一般人と同じでまるでわからない。隣でクレーンゲームをしている大学生風の男が実は─という事もある。
 だが神宮寺もジョーも4年間という短いキャリアではあるが、持ち前の鋭さで見分ける事ができる。
 2人はしばらくゲームで遊びながら何人かの男に目を付けていた。
「おっ、ここにもあるじゃねえか」
 ジョーが見つけたのは最新型と銘打ったシューティングマシンだった。
「300円かぁ。高いなあ」と言いながらもコインを入れる。「ほらよ」
 ジョーがコードで繋がっているゲーム用の拳銃を神宮寺に放った。対戦型なのだ。
「なにもこんな所でやらなくても」
 銃を手に神宮寺が苦笑する。JBでは本物をタダで使う事ができるのに。こんなもの訓練にはならない。
「いいじゃねえかよ」
 ジョーがスイッチを入れる。と、目の前の大きなスクリーンにどこかの街並みが映り、そのあちこちから銃をかまえた男達が飛び出してくる。それを撃ち取るのだ。
 単純だがスクリーンの中の男達は動きが早く、時々とんでもない所から飛び出してくる。
 相手が撃ち、それをジョー達の銃が感知すれば被弾したという事になりマイナス1点だ。
「なんだよ、これ!おれ達は避けられねえじゃん!」
 銃はコードに繋がっているのだからあまり大きく動かせない。スッと横に滑らせ避けようとしたがコードがそれ以上伸びずマイナス1点になった。
「くそォ、引きちぎってやるか!」
「避ける前に相手を倒せばいいのさ」
 事なげに神宮寺が言う。
「わかってるよ!まともにやったらおもしろくねーだろ」
 楽しそうにジョーが答える。
 2人共ゲームセンターで遊ぶのは何ヶ月ぶりだろう。無責任に銃を撃てるのは気がラク。
 やがて2人の周りに1人2人と人が集まって来た。
 神宮寺にマイナスはなかったが、彼以上に相手を倒したジョーがこのマシンの最高得点者になった。
 ほとんど満点に近い。オンラインで全国の同じマシンに繋がっているので日本一という事になる。
「あ~あ、もうこのマシンで張り合おうって奴がいなくなるぜ。出たばかりなのに」
 神宮寺が言うのへ、当然だというようにジョーが鼻を鳴らした。
 と、周りから、“すごいな” “このマシンなかなか得点できないのに” という声が聞こえ、ジョーが自慢げに顔を向けた。と、
「おっ」
 目を付けていた男達が店を出て行く。素早く神宮寺に合図し彼らの後を追った。
 店を出た所で神宮寺が声を掛け、サントスの写真をちょっと編集して作った〝ノーマン〝 の写真を見せ、この男を見た事がないか、と訊いた。
「こいつかノーマンって。おれのダチでも捜している奴がいるけど─」
 しかし彼らは見た事がに、と答えた。
 うそか本当かはわからないがどちらでもよい。本当に知っていたら他人に教えるはずがない。
 神宮寺達はただ〝ノーマンの事を訊き回っている男〝 と認識されればいいのだ。
「気を付けた方がいいぜ。こいつの事を嗅ぎ回って何人もの奴がやられたっていうからな」
 じゃあな、と男達は行ってしまった。
「病院の、あの男の言った事は本当だったな。やはり何人もやられているんだ」
「こうなったらよ、目ぼしい奴を片っ端からとっ捕まえてノーマンの事を訊きまくろうぜ」ジョーが店に目を向けた。「初日に最高点なんか出すんじゃなかった。あとやりたいゲームは─」
「おい、メインは仕事か?それともゲームなのか?」
「いいじゅあねえか。JBの金でゲームが出来て酒が飲める。久々においしい仕事だ」
「おまけに鉛玉のごちそう付きだ」
「そんな物は弾き返してやる」ポンッとジョーがジャケットの胸を叩く。「こいつはコードが付いていない。いくらでも動けるぜ」
 そう言い向こうから歩いて来る3人の男達に歩み寄る。
 神宮寺が肩をすくめジョーの後を追った。


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