コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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一緒に歩こう この道を 7


「これ見てよ、神宮寺。研究所のセキュリティを破ったプログラミング・パターンだよ」
「え?」神宮寺はイスごと横のデスクの洸の元に移動して来た。「残っていたのか?」
「ううん、ぼくが作った」
「・・・・・」
 つい洸を凝視してしまう。あまり詳しい事は聞かない方がよさそうだ。
「そしてこっち」画面が二分割され、もうひとつのパターンが表示された。「この2つのプログラム・・・似てると思わない? 作ったのは同一人物か、同じマニュアルを使用した人物だね」
 絵や彫刻を見れば作者がわかるように、プログラミングにも製作者の癖が出るらしい。ちょっと見ただけではわからないが洸には一目瞭然なのだろう。
「それで、こっちは何のプログラムなんだ?」
「1ヶ月くらい前に防衛省のコンピュータに入り込んだ奴がいて、セキュリティは破られなかったけどいくつかの足跡を残して行ったんだ。それを参考に組み上げたパターンさ。そしてこれはパリ本部に資料として記録されているものと一致する。例の、ザーツがよく使うパターンだ」
「ザーツ!?」神宮寺が思わず声を上げた。「では、今回の事は─」
「ザーツが関わっている可能性が高いね」洸も真剣な目を向けて来た。「で、ひとつ疑問があるんだけど」
 え? と神宮寺が顔を向ける。
「この机、なんで横に並んでるの?」
「・・・・・」
 またも洸を凝視する。思考回路がよくわからない。
 模様替えだと自分のデスクを窓側に動かしたジョーは、結局そのままそこへ居座ってしまった。もちろん神宮寺も譲る気はない。
「・・・男の意地の結果かな」
「なにそれ? 2人の思考回路ってよくわかんないや」呆れた洸の言葉と同時にジョーと一平がダブルJ室に入って来た。「遅いなァ。どっかでデートして来たの?」
「大事な車を盗まれたアホな研究所を見に行って来た」
 バッグをソファに放り、ジョーが2人のデスクの前に立った。
 シャツのエリを大きく開けた隙間から包帯が見えた。が、その動きに怪我を庇う様子はなくいつもと同じだ。神宮寺の表情が和んだ。
「なんだ。ぼくはまた、関さんとおとといの夜のデートの続きでもしているのかと思った」
「・・・なんでお前がそんな事を知っているんだ」
「高浜に言っただろ? デートだったって。いい所で呼び出されて欲求不満(←言ってないって・・)だって。それでトランザムで乗りつければ誰だってわかる。皆優秀なメンバーだからね」
「たかはまのやつ~」
 メラメラと炎が噴き上がるが、さすがにそれどころではないと気がついた。ヘラヘラ笑う洸をひと睨みし、
「で、何かわかったか?」
「ちょっとね、これ見てよ」
 洸がジョーと一平に自分のパソコンのモニタを示した。
「・・・おれをまた病院送りにしたいのか、洸」目の前に広がるいくつもの数字と記号の乱舞にジョーが凄む。「お前も一緒に送ってやろーか?」
「理解しろなんて言わないよ。ただ─」
 洸が説明する。ザーツの名を聞き、2人も驚いた。
「ザーツがMOX燃料を搭載した車を盗んで、いったい何に使うんだ」
「世界平和に貢献しようって事は、まずねーよな。くそ、しばらく聞かなかったのに」
「そーいう難しい事はチーフ達に考えてもらおうよ」
 洸がプログラミング・パターンの件をファイルにしてチーフに送った。ヘラヘラと無駄話をしているが、やる事はちゃんとやっている。
「おれ達(JB)が担当するかわからないけど、出動に備えておいた方がよさそうだな」
「机上の分析はこれで精一杯だね」
 洸と一平は隣のJB2室へと戻って行った。

 神宮寺はまたパソコンに向かいキーを叩き出した。
 ジョーのいる位置からだと横顔しか見えないがいつもの彼の貌に見えた。チラッとその横顔に目を向けて、
「やっぱ変だよな」
 と、自分のデスクに近寄る。神宮寺が怪訝な目を向けて来た。
「2人並んで仕事をしてるのも変だ。気持ち悪い。元に戻すから手伝え」目をパチクリしている相棒を促し、「あれ? 上に乗ってた書類はどうした? 片付けてくれたのか?」
「まさか」
 神宮寺の指差す方を見ると書棚の上に乗っていた。チェッとジョーが舌を打つ。
 2人はジョーのデスクを元のソファのそばまで戻した。
「おれのも戻してくれ」
「ひでえ相棒だ。怪我人だぜ、おれ」
 ブツクサと勝手な事を言い、それでも神宮寺のデスクをズーと引いてこちらも元の場所に収まった。
「─ まだ林さんの所に行ってるのか?」
「え?」
 デスクを戻しホッと息をついていた神宮寺がジョーを見た。真っ直ぐに自分を見つめる青い瞳には今までのような激しさはなかった。
「いや、ここ6日程行っていない」
「・・・そうか」
 ジョーは、またパソコンに向き直ってしまった神宮寺の横顔をしばらく見ていた。が、ふと目が書類の山に移る。
 1番上に管理課へ提出する始末書が乗っていた。

 この日、1日スカイラインの行方を捜査していたチーム1がJBに戻ったのは夜中近かった。
 ナンバープレートの付いていない車両なので大型車両に積んで運ばれたらしく目撃者もなく、GPSによる追跡システムも途中で犯人に寄って切られてしまった。
 チーム3は結城達に張り付いている。
 森の指示で神宮寺と洸はザーツに関するニュースをネット上で検索する作業に入り、一平はチーム1との捜査に参加している。
 だが怪我を治す事に専念するよう言われたジョーだけは、医療部に処置入院させられていた。
 と、いっても同じJB内なので、2人が作業しているダブルJ室に戻るのは難しくない。
 だが事が動いたら必ずおれ達が出る─ と確信しているジョーは、珍しくおとなしく処置を受けていた。

「おはよー、ジョー」カチャカチャと何かを掻き回している洸の手元をジョーがじっと見ている。「なに?」
「茶・・・じゃねえよな・・・」
「お茶にネギとしょう油入れてご飯にかける気?」
 洸が小鉢の中味をジョーに見せた。
「よかった、茶色だ」
 ホッとし洸の向かい側に腰を降ろす。
 トレイにはハムエッグやウインナーなどが乗っている。
 日本に12年もいるが朝食に米を食べる習慣はつかなかった。和食は好きだが、それでも週に1、2回だ。
「目、赤いぜ。一晩中モニタとにらめっこか?」
「ぼくも年とったよな。学生の頃は3日程徹夜しても大丈夫だったのに」暖かいご飯に卵も加えた納豆をかけ掻き込んだ。ジョーが見ている。「食べる? おいしいよ」
「いや・・・いらねえ」
 以前食べようとしてひどい目に遭った。皆で海へ行った時だ。あの時は鷲尾も森も榊原も一緒だった。今はいない風間も─。
「で、神宮寺は?」
「とっくに部屋に戻ったよ。相変わらずやる事が早いね」
 漬物を口に入れ、洸は何か言いたそうにジョーを見たが結局何も口にしなかった。
 神宮寺の変化を洸が気がつかないはずがない。だが今は黙っていてくれた方がありがたい。
 ジョーはロールパンをふたつに千切り、
「─ あ」
「うわ、どうしたんだ、あれ」
 2人の目が食堂の隅に置かれているテレビに向けられた。
 点いているのをあまり見た事がないが、今日はやはり徹夜明けの西崎や伊藤達がテレビの前のソファに座ってニュースを見ていた。
 画面には激しい炎と黒い煙が見える。列車が横転しているようだが暗くてよくわからない。洸がわざわざテレビの前まで見に行った。
「リオデジャネイロの郊外だ」西崎が教えてくれた。「列車が脱線して爆発したらしい」
 転んだだけで列車が爆発するわけがない。案の定、キャスターは爆弾テロの可能性があると伝えている。
「向こうは夜の8時頃だから、帰宅する人が多く乗っていただろうに」
「もし東京で起こったらと思うと─」
 モゴモゴと洸が口籠る。
 テーブルに戻ると、前に座るジョーが激しい形相でテレビを睨みつけていた。彼の想いはここにいる全員の想いだ。
 世界の平和を守るヒーローのつもりはないが、混乱を起こす奴らはやはり許せない。と、
『ダブルJ及びチーム1、チーフ室へ集合せよ』
 と、館内放送が入った。
 とっさにジョーが立ち上がる。トレイの上のウインナをひとつ口に放り込んで食堂を出た。その後に西崎達も続く。
 1人残された洸の眼には、まだ黒い煙を噴き上げている列車が映っていた。

「スカイラインの所在がわかった」
 森の言葉に目の前の男達がえっ、と声を上げた。
「あの車にはGPS追跡システムが搭載されていたが、それを故意にオフにすると自動的に位置を知らせる装置が付いているそうだ。今、研究所から連絡があった」
「持って行った先で犯人がエンジンを掛けたって事ですね」
 西崎が訊いた。
「うむ、場所は千葉県の君津市だ。捜査車両のハリアとエルグランドのPCナビで、スカイラインから送られてくる電波をキャッチできる。すぐに向かってくれ」
「了解!」
 ダブルJとチーム1の捜査課メンバー総勢10名が分乗する。
「たーかはまっ」ジョーが高浜の肩に腕を回した。「また、おれと組まねえ?」
「・・・・・」
 あのブルーグレイの瞳を間近に見て高浜が固まった。表情はにこやかだが目は笑っていない。仕事中に後ろからぶん殴られそうな気がするのは気のせいか?
「い、いや、おれは伊藤達と」
 あたふたとエルグランドに乗り込む。
「フンッ」ジョーがハリアの運転席に着いた。「おイタする子はあと2、3回ビビらせてやる」
「なにやったのかな・・・高浜・・・」
 後席で樋口が恐ろしげに呟いた。

 アクアラインを抜けると木更津市に入った。君津市はこのすぐ南だ。
「この先に牧場のテーマパークがあってね。子どもの頃はよく家族で遊びに来た」後席の白鳥が言った。「そういう所に仕事で向かうのっていやだな」
 ほとんど独り言のような呟きだったが、同乗している人の耳にはしっかりと届いていた。
「白鳥らしくないな。どうした?」
 と、樋口の問いに、う~んと首を傾げている。
「おれ、日本でそーいう思い出ねぇからいいや!」急にジョーが声を上げた。「仕事の前にそんな話するなよ」
 ジョーの勝手な言い分だが、すまんと白鳥が頭を掻いた。
「ナビによると、この道の先だが」
 PCナビのモニタに映る地図を見ながら神宮寺が言った。
 スカイラインからの電波はもう切れている。実際には10分もなかったそうだ。
 JBではその電波の記録をエンドレスで繋いでPCナビに取り込み、地図で位置を表示している。多少の誤差は仕方がないが。
「ジョー、あと50メートルくらいで一度止めよう」
「ラジャ」
 ジョーはピタリと50メートル走ってハリアを止めた。後ろのエルグランドも停車する。
 周りを木々に囲まれた山道の真ん中だ。前方の緑の合間に白い建物が見える。
 神宮寺がPCナビのグーグルを呼び出した。
 建物の上からの─ だが木々が邪魔して建物全体を捕らえるのは無理だ。しかしかなり大きな物だとわかる。
「相馬電子工学研究所、だとよ」車外に出て双眼鏡を覗いていたジョーが再びドライバーズ・シートに着く。「だけど門の鉄柵も壊れてるし、古ぼけた感じで今は使ってないみたいだな」
 再び神宮寺が、ジョーの言った名称をPCナビで検索した。
 それによると20年程前、相馬電子工業という企業の研究所として建てられたらしい。しかしその企業は3年前に倒産している。
「黒田と兵道は車に残れ。あとはペアを組んで建物の正面、左右、裏から入る」
「おれと一緒にランデブーなんてどうだ?」
 ニヤッとジョーが高浜の首に腕を回した。プルプル・・・と高速で首が振られる。樋口と白鳥が恐ろしそうに2人を見た。

「行くぞ」
 西崎の命令と共に8名の男達が走り出す。塀は高いが所々崩れているので苦労せず敷地内に入る事ができた。
 研究所というだけあってコンクリート3階建ての建物は普通のビルより高さがあり堂々としていた。しかし長い間放っておかれたままなのは明らかだ。
 内部の見取りも相手の数もわからないので細かい作戦は立てにくい。行動しかなかった。
 最低でも、MOX燃料システムを搭載したスカイラインだけは奪回しなければならない。 ダブルJが正面から、西崎と高浜が裏側に回り、立花と伊藤は左、樋口と白鳥が右側へと向かった。
 監視カメラは見当たらない。だがここが彼らのアジトだとしたら侵入者の事はもう知られているだろう。
「チェッ、鍵が掛かってるぜ」
 ドアの前でジョーが舌を打つ。と、神宮寺がノブの下にマグナムの銃口を当ていきなり撃った。
 バン! と音が弾けドアが開く。
 ジョーが驚いて相棒に目を向けた。これはいつのはジョーの役だ。
「お前・・・機嫌悪くねえ?」
「眠い」え? とジョーが目を見張る。「仮眠しようとしたら呼び出された。眠いんだ」
「・・・・・」
 赤ん坊か、と言いかけてやめた。
 機嫌の悪い神宮寺をいじるのはさすがのジョーでも恐ろしい。早く仕事を終わらせ、神宮寺をベッドに放り込もうと思った。

 建物の中は思ったより明るく広々としていた。退却の際、機器類は持ち出したのだろう。所々イスが転がっているだけだ。
「人の気配がしねえな」ジョーが呟いた時だ。バンッとドアが鳴った。ジョーがドアを押した。ビクともしない。「閉じ込められたっ」
「気をつけろ、ジョー。奴らはどこかでおれ達を見ているぞ」
「西崎!立花!─ くそォ、通信機も使えねえ!」
 だがこのまま進むしかない。
 こういう状況には慣れている2人が、しかし言いようのない不安に襲われていた。言わなくても相手も同じ思いだとわかるほどに─。
「神宮寺」
「車を取り返さなければならない」
 それだけ言い、神宮寺が進む。彼はジョー以上に不穏な空気を感じているはずだ。それでも今は進まなければならない。
「ジョー!」
 いきなり神宮寺が走り出した。ジョーも続く。今まで2人がいた所に弾丸が降って来た。
「ホーガンズ・アレーのテーマパークじゃねえだろうなっ!」
 2人は向かいの廊下に飛び込んだ。そのまま左右のドアをどんどん開けて行く。
 本当なら慎重に行動したいところだが、この状況ではかえって危ない。
 西崎や立花達も同じような状況だろう。誰かが早く車を見つければその分早く脱出できる。
 どこかで小さな爆発音がした。
 ジョーが顔をしかめた。ノブに手を掛けようとして─ そのドアが轟音と共に飛んできた。
「うわあっ!」
「ジョー!」神宮寺がジョーの上に乗っているドアを蹴り退かした。「大丈夫か」
「─ ドアが盾になってくれたぜ」ニッとジョーが口元を歪め立ち上がる。「おかげでドアにキスされちまったけど」
 赤くなった頬を押さえた。が、
「─神宮寺」
「あ─」
 まだ煙が吹き出している室内に目を向けると、そこには黒い破片が散らばっていた。が、明らかに自動車の車体だとわかる物がある。
 煙を避けながら2人が黒い瓦礫の山に近寄る。
「間違いない・・・。あのスカイラインだ」
「パーツが足りねえ。エンジンやその周辺のパーツが無くなっている」爆発でバラけたわけではなさそうだ。人の手で乱暴に解体されたのだろう。「ひでえ事しやがる」
「奴らMOX燃料システムだけ持って行ったのか」
 いったいどこへ・・・。何に使うつもりなのか─。しかしそれを考えているひまはない。
 またどこかで爆発音がした。


                               8へつづく
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