コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

一緒に歩こう この道を 完


「行け、一平!」
 神宮寺の命令にラジャ! と半ばヤケになった一平の声が響いた。ヘリを列車に近づけ伴走させる。
 ジョーがヘリのドアを開けた。空気の流れにヘリがグラッと揺れる。が、一平の腕は確かだ。
 神宮寺がマグナムを構える。が、
「ストップ、ミスター! 1回上がるぞ!」
 ヘリが急上昇した。列車との間に小さな林が入ったのだ。列車が一瞬隠れてしまう。
「一平、あと20キロくらいで海岸線に出るよ。その方が障害物が少ないだろう」
「わかった」
 ヘリが一旦線路から離れた。
 パラパラと人家が見えた。小さな子どもが普段目にした事がない銀色に光る列車を見てしきりに手を振っている。
「くそォ・・、絶対止めてやるぜ」
 小さなジョーの呟きが全員の耳を突いた。
「出るぞ!」
 〝沖波〝と書かれた駅舎を抜け一平が声を上げた。
 神宮寺がオートマグのトリガーを引く。ガンガンと列車に当たるものの、なかなか壊す事はできない。爆薬の方が確実だが、内部のコンピュータをも壊す危険がある。
 が、残り弾が少なくなってきた時、列車のドアが吹き飛んだ。
「よし、一平! 近づいてくれ!」
 ジョーがスキッドに降りる。かなりのスピードで走る列車に伴走するヘリだ。風圧で体が吹き飛ばされてしまいそうだ。
「行けるか、ジョー」
「やるしかねえだろ。くそォ、おれはガッチャマンじゃねえって!」
「接近するぞ!」
 一平の声と共にヘリの機体がグッと左に滑る。
 躊躇う事なくジョーの体が空(くう)を飛んだ。壊されたドアの部分をガツッ! と掴んだ。右腕1本で車体に貼り付く。すぐ先の線路際に大木が見えた。ヘリが列車から離れた。
「ぐあああ・・!」
 全身の力を右腕に込める。筋肉が膨張し少しづつ体を、車体に開いた穴に引き寄せる。
 左手が掛かった。全身のバネを使い車内に跳び込む。その直後、大木の枝が車体をなめた。

「フウ─」神宮寺が安堵の息をつく。と、スキッドに降りた洸が目に入った。「何をするんだ」
「相手はコンピュータだよ。ジョー1人じゃ無理だ」
 確かにその通りだが、
「危険だぞ、洸。ヘタするとあの列車は─」
「そんなの百も承知さ。大丈夫、ミスターの足の分もジョーを補佐するよ」子どものような邪気のない瞳が神宮寺に笑いかける。「一平! 今度は列車の入口より少し前にヘリを出して!」
 洸はジョーより体重が軽い。風に流される距離が多くなる。それがどのくらいなのかなんて計算はできないが、
「とうっ!」
 洸の体が空(くう)を跳ぶ。ガツン! と、やはり右腕1本でマグナムが開けた穴に取りついた。
「・・・洸にもバレてたか」チッと神宮寺が舌を打ち、「ジョー! 洸を!」

「洸!?」車内のジョーが気がつき、洸の腕を掴むと車内に引き摺り込んだ。「無茶する奴だ。この列車は爆破されるかもしれないんだぜ」
「その前に止めればいいんだろ。それとも君1人で手に負える?」
 コンピュータを指差し洸がニッと口元を歪めた。グッと詰まるジョーに満足したのか、さっそくコンピュータに取り付く。
「MOX燃料システムに直結した爆弾は後ろの車両だ。そいつをなんとかするより起爆装置を解除した方がいい」
 洸はザーツのアジトのコンピュータから手に入れたデータを見ながら言った。
「うわ・・・すごいロックが掛かってる」
「いけるか、洸」
「・・・やってみる」
“任せておけ!”と即答しないのは珍しい。洸にしても難しいのだろう。
 そちらは洸に任せて、ジョーは列車を止めようとした。が、ブレーキを掛けても配線を何本か切断しても列車の勢いは止まらない。
 いっその事コンピュータをぶち壊してやろうかと思ったが、それを察した洸に止められた。
「起爆装置と連動してるんだから無茶しないでよね!」
「だったらさっさと解除しろ!」
「やってるよ!」
 洸はムーとコンピュータをUSBケーブルで繋げる。ロックを解く4つの数字の組み合わせをものすごい速さでムーからコンピュータへと叩き入れる。
「時間が掛かり過ぎる─。ジョー、誘導装置の解除も同時にやろう。プログラムから入って─」
 洸がムーを操作しながらジョーに指示を出す。ジョーもコンピュータが苦手なわけではないが、専門知識の豊富な洸にはとても及ばない。
「ロックは掛かってねぇけど、誘導装置のプログラムなんてねえぜ」
「えっ」洸の目が一瞬、ジョーの前のモニタに向けられた。「別のコンピュータか、それともそこだけは独立システムなのか・・・。あっ、解けた!」
 起爆装置のプログラムには入れたようだ。モニタには数字と記号とアルファベットが並ぶ。それらを洸がすごいスピードで書き替えて行く。

 列車のスピードが上がったような気がした。と、スピードマスターが鳴った。
『まだか、ジョー! もう3分の1まで来たぞ』
「今、洸が起爆装置を無効にしている。誘導装置はまだ解除できない」
『列車のスピードが上がっている。脱線の可能性がある。今JBに連絡して沿線の町や村に警官を出してもらっている』
 が、人間は避難出来ても原子力研究所は動かす事はできない。まだウランなどの燃料は入っていないが、列車が衝突すればMOX燃料が拡散しさらに被害を増やすだろう。いやその手前で脱線し列車が破壊されても─。
『脱線する前に脱出するんだ!』
「まだだ、神宮寺。もう少しで─」
「できた!」洸の声が上がった。エンターキーをひっぱたく。モニタに〝clear〝の文字が表示された。「起爆装置は解除したよ、ミスター。あとは列車を止めれば─」
 その時、ガシャーン! という音と共に、マグナムで吹き飛ばしたドアの部分や窓など外部に通じる空間を鉄のシャッターが下りて塞いでしまった。
「閉じ込められた!」
「くそォ!」
 ジョーがウッズマンを向ける。が、この距離では相手が鉄製なだけに跳弾の危険がある。
 それに神宮寺のマグナムでさえ、あれだけてこずったのだ。ウッズマンの22LR弾では穴を開けるのが精々だろう。
 ジョーは送電を切断しようと思った。─ が、この列車はMOX燃料システムで動いている。送電は受けていないのだ。それならば、
「洸、MOX燃料システムからのエネルギー供給を切れば列車も誘導装置も止まるんじゃないか」
「そうなんだけど、ここにあるコンピュータではシステムから誘導装置や動力への供給コントロールはできないんだ。まったく別のシステムで動いているらしい。この運転車両内には誘導装置は見当たらないし」
 本元がなければ、さすがの洸もムーも手が出せない。
「誘導装置の設置場所はわかるか?」
「待って」洸の指がキーの上を走る。ムーのモニタが列車の側面図を映し出した。「列車の先端だね。ほらここに突起物が見えるだろ。これが受信機─ アンテナだ」
「外かっ」
 ジョーが舌を打った。今この状況で彼らが外に出るのは難しい。と、スピードマスターが自分を呼んでいるのに気がついた。通信は切れていなかったのだ。
「悪い、神宮寺」
『先頭車両が鉄板で覆われちまったぞ。状況を説明しろ』
「ここのコンピュータからでは誘導装置を切る事はできない。装置は列車の先端についている。蛸島の先の原子力研究所までこのまま突き進むだろう」ちょっと言葉を切ったが、「おれ達は車外に出る事はできない。先端のアンテナを撃ち抜いてくれ」
『なんだと!? 飛んでいるヘリから走っている列車を撃てというのか!』
「そうだ。お前ならできる。誘導装置さえ壊せばあとは洸が制御できる」
『だ、だが万が一撃ち損ねたら─』
「そんな事考えるな!一平! 神宮寺をひっぱたけ!」えっ、と遠くから一平の声がした。「やるんだ、神宮寺。こいつを止めなければ大事故になる。お前ができないと言うのなら、おれが内部から爆破してでもこいつを止めてやるぞ!」
『・・・・・』ジョーは本気だ。本気で列車共々自爆するだろう。『・・わかった』
「ジョー・・・」
 洸がジョーを見上げた。
「すまねえ、洸。お前だけでも出してやりたいが」
「わかってるさ。Sメンバーになった時から覚悟はしているさ。ただ予想よりちょっと早かったけど」洸の口元がニコッと上がる。「それに神宮寺の腕も信じているし」
「うん」
 ジョーが頷き、見えぬ相棒に目を向けた。

「あの小さなアンテナをか」
 ベルトで体を固定された神宮寺が、大きく開いたヘリのドアから腰を降ろし眉をしかめた。が、それは一瞬の事だった。
「行け!一平!」
 合図と共にヘリが列車に急接近する。神宮寺がオートマグの銃口を列車の先端に向けた。
 実際の長さはわからないが、神宮寺には2、3センチにしか見えなかった。
 もし失敗し車体を撃ち抜いてしまったら。その場所にMOX燃料システムが設置されていたら─。さすがの神宮寺の手も震えた。
 と、ヘリと列車の速度がピタリと合った。恐れと不安を断ち切るようにオートマグが火を噴いた。
 チュイーンと長い余韻を残し、アンテナが吹き飛ぶのが見えた。うわ~お~! と一平が声を上げた。
「ジョー!アンテナは壊したぞ!列車を止めるんだ!」

『洸!』
『だめだ! 動力システムにロックが掛かってしまった!』

「な、なんだと・・・」
 リンクから響き出る2人の叫びに神宮寺が茫然と呟く。と、
「ミスター!」一平だ。「まずいよ。この先に急カーブがある。その先は大きな町だ」
 グンッとヘリが上昇する。と、大きく曲がる線路が見えた。スピードを落とせばなんという事のないカーブだが、あの列車のスピードのまま突っ込んだら─。

『仕方がねえな、神宮寺』リンクからジョーの声が静かに響く。『車輪を撃って列車を脱線させろ。カーブに差し掛かる前にやるんだ』
「じ、冗談じゃない! そんな事をしたら─!」
『このスピードじゃあのカーブは曲がりきれない。脱線してヘタすりゃ町中に突っ込むぞ』ジョーと洸はムーで線路の映像を見ているのだろう。『カーブの手前には人家はなさそうだ。完璧な条件じゃないが町中で爆発するよりはいい。やるんだ!』

「──」フラリと神宮寺が立ち上がる。武器箱から小型のバズーカと取り出した。「一平、列車の正面に出るんだ。ギリギリまで地上近くに降りられる地点を探してくれ」
「ミ、ミスター・・・」
 一平の瞳が揺れ言葉が震える。ジョーは仲間だし洸は大事な相棒だ。それを・・・。
 しかし神宮寺の顔には決心とある確信とが現われていた。凛とした静かな落ち着き─。一平はそんな神宮寺に賭けた。
「ラジャ!」

「ジョー、洸、よく聞け。今からバズーカで1両目の前輪だけ脱輪させる」
『脱輪?』
『そんな事出来るの?』
「角度さえ合えばな。うまくすれば横転せずに済む。確率は低いが」
『発射角度の計算がいるね。しようか?』
「その時間はない。おれのカンでいく」
 え~、と洸の声が上がるが、
『ま、いいや。やってくれ、神宮寺』
「ラージャ!」
 まるでどこで待ち合わせるか決めるような軽さだ。

「最後まで諦めるなよ。必ず止めて外へ出してやるからな。─ まだか、一平!」
「見つけたぜ! 人家もないし平坦地だ」ヘリがホバリングを始めた。ゆっくりと降下していく。「ただしカーブがすぐ後ろだ。チャンスは1回しかないぜ」
「失敗する時は何回やっても失敗するものさ」バズーカを担ぎ、神宮寺が再びドアを開けその端に腰を降ろした。「成功する時は1回でもする。今回のように─」
 神宮寺が言葉を切り顔を上げた。遥か前方から列車が迫る。
 肩に担いだバズーカの砲口を列車の左前輪合わせる。車輪の外側に当て線路内に脱輪させるつもりだ。
 バズーカを押さえる手の平が汗ばんだ。指が太いトリガーに掛かる。

 バムッ!

 その反動で神宮寺の上半身が後ろに倒れた。
 ヘリが急上昇する。その下を列車が通り過ぎた。ガガガ・・・と金属音が響き、砂利が巻き上がる。
 車体を傾けた列車が線路の幅だけ左右にガンゴンと揺れながら進んで行く。

「ジョー!洸!」ヘリで追う2人が叫ぶ。「頼む!止まってくれ!」
 と、その声が届いたのか列車がキーと鳴った。ブレーキが掛かったのだ。
 キキキ・・・とさらに鳴き、左に傾いた列車はカーブのわずか20メートル前で砂煙と共にその巨体を止めた。

「ミスターが脱輪させたのと同時に、動力システムのロックを解除したんだ」洸が自慢げにムーを目の前に掲げた。「それでブレーキを掛けたんだよ」
「そうか。それがなかったら危なかったかもしれないな」神宮寺が苦笑いし、いたずらっ子のような目を向けた。「実は全然自信がなかったんだ」
「ひでえ相棒だぜ」
 眉をひそめジョーが睨む。が、その目は笑っていた。
 列車が止まったのは良いが、鉄板で覆われた車両からジョーと洸が助け出されたのはそれから2時間も経ってからの事だった。
 早めに森に報告を入れていたのですぐに事故処理班が東京を出たのだが、長野県の上空で豪雨に巻き込まれ現場到着が遅れてしまった。しかしその後の救助活動は早かった。
 と、同時に車体の解体に入る。MOX燃料システムを取り出すためだ。
「2人共、掠り傷程度でよかった」医療部の手当てを受けているジョーと洸に目を向け佐々木が言った。「どうだい?講義は少しは役に立ったかい?」
「ぜ~んぜん!」
 洸が首を振る。
「あんな講義を受けても、結局おれ達肉体労働じゃん」
 ムスッと言うジョーがふと横に立つ神宮寺に目を向ける。
 いつもと・・今までと変わらぬ端整な静かな面持ちでしっかりと前を見つめていた。
 これから先、不安や躊躇いに捕われる事もあるだろう。だがこいつなら大丈夫だ。しっかり歩いて行かれる。そしておれも─。
 ジョーは神宮寺が見つめている方へとその目を向けた。


                                            完



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