コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

闇に輝く光の下(もと)に 2


「なんだ、ジョー、その顔は。いい男が台無しだな」
「関」
 チーフ室には1人関がいた。
「やっと寝付いたばかりだったんだ。そこを起こされたんだぜ」と、うるさそうに髪を掻き上げた。「おまけに男に寝顔をじっと見つめられてよ。その後どうなるかと思ったぜ」
「・・神宮寺君が?」
 関がチロッと神宮寺に目を向けた。が、知らないふりされた。
「あ、すまないな」
 続き部屋のドアが開き、森が入って来た。2人にソファを勧める。
「君達が保護した科学者の1人が奴らのアジトの場所を覚えていてね」
 大きなスクリーンに地図が映し出された。
「ここは千葉県の鋸山という観光地なのだが、この展望台から鋸山々頂までの間に奴らのアジト・・というほど大きな物ではないらしいが、研究施設を兼ねた建物があるそうだ。そこではMOX 燃料システムのデータを撮ったり試作品の製作も行っていたらしい。佐藤という科学者が2日程そこにいたそうだ」
「だとしても、もうそこには誰もいないかもしれないがね」
 関が言った。
 国際警察により、誘拐された科学者は取り戻されている。当然その情報は伝わっているだろう。
「だが人は動けても建物や機器はそう簡単には動かせないからな。奴らの組織に関する手掛かりのひとつでも見つかるかもしれん。なんでもいいんだ。情報がほしい」
 関の言葉から公安もザーツに関する情報が掴めていないのがわかる。
「奴らの情報・・・」
 ジョーが呟いた。一瞬顔ををしかめる。
「そこで君達への指令だ。そのアジトに潜入しデータの奪回と試作品を破壊してもらいたい。いつのもようにチーム1をつける」
「今回の件は政府の機密事項に関係しているので、我々が公に動く事ができないんだ」しかめっ面の関が言った。「政府と繋がっていない君達に頼むしかない」
「わかりました」
 神宮寺が立ち上がる。が、ジョーはソファに座ったまま動かない。
「ジョー?」
「どうした?」
 森と関が怪訝な目を向けた。
 と、ジョーが2人を見る。指令を受ければいつもは不敵に輝くブルーグレイの瞳がなぜか不安そうに揺れていた。
 森も関も驚いたようにジョーを見つめる。が、
「いえ─、行きます」
 立ち上がりスッと踵を返しチーフ室を出て行った。その後を神宮寺が続く。
 関が声を掛けようとしたが、ふと振り返った神宮寺の双瞳に止められ口を閉じた。
 ドアが閉まった。

「本当におれ達の仕事って昼も夜もないよな」
 今さらながら立花がグチる。彼がステアリングを握るハリアは、今アクアラインを川崎から木更津に向かっていた。
 昼間なら海の上を走る道路から輝く海や遠く木更津の町が見えるのだが、今は真っ黒な海面と遠くに瞬く町の明かりしか見えない。
「アクアラインは夜通るものじゃないな」
 後部席の2人に向かって言うが返事はない。立花はちょっと不思議そうにミラーで2人を見た。
 寝てるわけではない。
 神宮寺は関から受け取った報告書に目を落としたままだし、ジョーは窓ガラスに頭を預けたまま真っ暗な海を見ていた。
 それは現場に入る前のいつものダブルJ の姿だったが、緊張感はあるものの活気が感じられなかった。
 疲れているのかな、と思ったが口には出さなかった。チーフの指令を受けてしまったらもう前を向いて進むしかないのだ。

 やがてハリアと後続のエルグランドは国道127号から鋸山登山自動車道に入った。2.6キロの短いものだがクネクネと曲がり山頂近くまで行かれる。
 2車はもう観光客の車もない頂上駐車場に車を停めた。
「おれとジョーで行く。西崎達はここで待機していてくれ」
「おれと立花も行こう。待機は伊藤達に任せて─」
「いや、奴らはもうアジトにいない公算が高い。2人で充分だ」
 いつになく強い口調で言う神宮寺に西崎は口を閉じた。長い付き合いで、彼に何か考えがあるのだとわかる。
「行くぞ、ジョー」
 一瞬、黙ってしまった西崎に目を向け、だが神宮寺は彼らに背を向けた。その後を眉を立てたジョーが続く。
 鋸山の山頂まではヤブ道の尾根を歩いて40分。道標はなく明りもない。2人が手にしているのは小さなライトひとつだ。足元も不安定で歩きづらい。と、
「・・おい」今まで無言だったジョーが口を開いた。「ヘンな気を遣うな」
 だが神宮寺は目だけでチラッと後ろのジョーを見たが、そのまま進んで行く。
「・・チッ」
 ジョーが舌を打った。だがその貌は決して激しいものではなかった。
 と、ヤブ道に入って10分程で細い横道があった。佐藤博士から話を聞いた関がまとめた報告書に書かれていたアジトへの入口だ。
 先を行く神宮寺のライトが下を向く。ジョーはライトを消し相棒にすぐ後ろに着いた。
 やがて闇の中に小さな建物が沈んで見えた。驚いた事にいくつかの窓は明かりが点いていた。
 奴らはまだいるのだろうか。神宮寺がライトを消す。
「おれ達の任務はMOX 燃料システムの試作品の破壊とそのデータの奪回だ」なぜか神宮寺が念を押す。「それ以外の事は考えるな」
「──」
 ジョーは一瞬唇をキュッと結んだがとりあえず頷いた。

 2人は建物を一周する。2階しかないが面積はけっこう広い。裏口には鍵が掛かっていたが例の電子ロック外しで開けた。
「「奴らがまだここにいるって事は、データや関が欲しがっていた奴らの情報も取れるかもしれねえな」
 そしてジョーが確かめたい事もまた─。
 と、2人は建物内がざわめいている事に気がついた。声が聞こえるわけではないが、落ち着かない雰囲気が建物内を占めている。 
 奴らは移動するのかもしれない。
 2人がそう思った時、目の前に1人の男が飛び出して来た。両手でファイルを抱えた日本人だ。
 男は2人を見てハッとその足を止めた。すかさずジョーが男の口を押さえ、その体を近くの部屋に押し込んだ。
「ザーツに日本人がいるとはな」
 薄暗い室内でジョーの瞳が鋭く光る。男の手からファイルを取り上げザッと目を通すと神宮寺に押し付けた。
「MOX 燃料システムのデータファイルがあるはずだ。どこだっ」
 男の胸倉を掴みグッと締めあげた。ジョーより小柄の、どう見ても学者タイプのその男は抵抗もできずにいる。
「MOX 燃料システムの試作品があるだろう。言え!」
 ダンッ! と壁に男の体を押し付けた。神宮寺がジョーの腕を掴んだが、
「イ、イタリアのマフィアがザーツに出入りしているというのは本当かっ」
「ジョー」
「そのファミリーは─」
 ジョーが男の体を壁伝いにグーと持ち上げた。
「やめろ、ジョー」
 神宮寺が男の体からジョーの手を引き剥がそうとした。が、それより早くジョーが手を振り払った。男が床に尻もちをつく。
「落ち着け、ジョー。おれ達は─」
「わかってるさ!」
 腕に掛かる神宮寺の手を振り払い、ジョーは室内の棚やデスクの引き出しから次々と書類やファイルを出していく。
 読めるものは読み、フロッピーやディスクは叩き割った。引き出しをひっくり返す。ザーと床に書類やペンが広がった。
 関が欲しいと言っていたザーツに関する情報の収集など完全にどこかへ飛んでいた。
 だがそれを見ている神宮寺はジョーの暴挙を止める事はしなかった。明らかな命令違反だが、神宮寺はジョーの気の済むようにさせてやりたいと思った。
 今、自分に出来る事は黙ってジョーを見守る事だ。
 ─ と、ジョーの動きが緩やかになり─ やがて止まった。神宮寺に背中を向け、デスクに両手をついたその肩が震えていた。静かに歩み寄った神宮寺がソッと肩に手を掛けた。
「くそォ・・・」ギリッと歯が鳴った。「いざという時には試作品もデータも皆まとめてふっ飛ばしてやるっ」
「Stop it 」開いていたドアから大柄の外国人の男が入って来た。その手には銃が握られている。「研究には多額の費用が掛かっている。簡単にぶっ飛ばされても困る」
「まだいたのか」
 ジョーがゆっくりと男に顔を向けた。その瞳はいつもの猛禽類の鋭さだ。床に座り込んでいる白衣の男の前に立ち塞がる。
 そのジョーより一歩下がって、神宮寺は白衣の男の横についた。
「あんたの方が話ができそうだ。MOX 燃料システムの試作品はどこだ」
「とっくに運び出したよ。だがデータファイルを取りに来て侵入者に出会うとはな」
「お前達の中に─」
 言い掛けて、ジョーは口を閉じた。その一瞬の空白を男が突いて来た。
 銃声が響きジョーは横跳びでそれを避けた。と、男の銃口が白衣の男に向けられた。神宮寺が飛び掛かり、白衣の男共々床に転がり避けた。
「ヤロウ!」ジョーがウッズマンで応戦する。しかし男は廊下に飛び出した。「待て!」

 廊下に出たジョーが男の後を追う。と、足元が揺れた。爆発音が響き、ジョーは一瞬足を止めた。
「くそォ、吹っ飛ばすのはおれがやるって言ったのに」
 この爆発は明らかに奴らの仕業だ。混乱のうちにデータファイルを持ち出すつもりか。 
 ジョーは目につくドアを片っ端から開けて行ったが誰もいなかった。
 やがて他の部屋より少し広めの部屋に出た。室内にはいくつかの木箱が置かれている。だが人が隠れている様子はない。逃げた男の姿もなかった。
 またどこかで爆発音がした。やはりここを潰す気だ。
 ジョーは置いて来た神宮寺が気になり、スピードマスターの通信スイッチを入れた。そのとたんすぐ近くで爆発が起こった。
「うわっ!」
 壁が破壊され、積み重なっていた木箱がジョーの上に落ちて来た。
 とっさに床に伏せる。だがわずかに残った下半身が木箱の下敷きになった。
「うっ!」
 何が入っているのか木箱は重かった。それがいくつも両足の上に伸し掛かっている。
「くそォ・・・こいつっ」
 ジョーは木箱を押し退けようとしたが、体が床に転がっている状態では腕に力が入らない。いや、入ったところで1人でこれらの木箱を動かすのは無理だ。
「くっ! やっ!」
 床に転がったままジョーは片手で木箱を押す。爆発音が響きジョーの上に天井がパラパラと落ちて来た。細かいチリが容赦なく彼の目や口に入る。
 スピードマスターから神宮寺の声が聞こえた。だが木箱の下から抜け出すのが先だ。
「くっ、うっ!」
 満身の力を腕に込め木箱を押すと1番上に乗っていた箱が落ちて来た。
 バラバラ・・・と中味が広がる。機器の部品やフロッピー、CD─ ROMなど・・・。それから英語で書かれた何冊かのファイルがあった。
 どうやらMOX 燃料システムだけではなく、色々なデータが収められているらしい。
 ジョーがページを繰る。と、
「A son of a little while ago? (さっきの坊やか)」
 男の声にジョーが顔を上げた。逃げた男だった。手には銃と薄いファイルを2冊持っている。
 男はジョーが身動きできないと知るとニヤッと口元を歪ませた。が、用心してか近づいてはこない。
「そのファイルをこっちによこぜ。それからお前の名前と所属を教えてもらおう。おそらく国際警察だと思うが」
「・・・・・」
 向けられた銃口をジョーが睨めつける。
 ウッズマンは彼のすぐ横に置いてあるが、この状況ではジョーが銃に手を伸ばした瞬間に相手の銃が火を噴くだろう。
 奴の腕は先程の銃撃戦でわかっている。ましてやこの距離では外しようがない。
「早くしてくれよ。もうじきここは吹っ飛びからな」
 トリガーに掛かる男の指がクッと動いた。仕方なくジョーは手元のファイルを男の足元までスーと滑らせた。
 ファイルを取ろうと男がゆっくり腰を屈める。
 ジョーの手がウッズマンに伸びた。男が銃口を向ける。双方の銃が火を噴き銃声がひとつになった。
「うっ!」
 右手を撃たれ、ジョーはウッズマンを落とした。傷は浅いが表面を弾丸が走ったようで広範囲から出血している。
 ジョーの撃った弾はファイルに当たり、男の左肩を掠った。だが右手はしっかりと銃を握ったままだ。再び銃口をジョーに向ける。
 ジョーは床に落ちたウッズマンを掴もうとしたが右手が思うように動かなかった。
 ふと男と目が合う。一瞬、双方の動きが止まり─ 男の口がかすかに動いた。
「─ え」
「ジョー!」
 神宮寺が飛び込んで来た。
 男はとっさにジョーが渡したファイルを拾い上げ反対側のドアから走り出た。
「遅くなってすまん。西崎達に連絡していて」
 だがジョーは神宮寺に気づいていなかった。男の出て行った方を見つめている。
「ジョー」
「神宮寺─」ようやくジョーの目が神宮寺を見た。「なにしてる。今の男を追うんだ。あいつMOX燃料システムのデータファイルを持って行ったぞ」
 神宮寺はチラッとドアに目を向けたがリンクで西崎に男が1人逃げ出した事を伝え、自分はジョーに伸し掛かっている木箱を動かし始めた。
「おれは後でいい! それより奴を追え!」
「ここはもうすぐ爆破される。今、お前を置いて行く事はできない」
「なっ─」ジョーが絶句し思わず相棒を掴む。「なにバカな事言ってる! 早く行け!」
「いやだ!」
 神宮寺がジョーの右手を振り払った。パッと血が飛んだ。
「おれは今まで任務のために何度もお前を危険の中に置いて来た。もちろん生還を信じてだ。だが今回はだめだ。このままでは建物と一緒にお前も─」
「・・・・・」
 ジョーが目を見開き神宮寺を見た。
 現場に残る事は危険だ。ジョーも何度も怪我を負っている。しかし神宮寺は、相棒を現場に残し怪我を負わせたという苦しみを味わっていたのだ、と今気がついた。
「そんな事、お前が─」
 近くで爆発音がした。壁の一部が吹っ飛んできた。神宮寺がジョーを覆う。が、爆風のおかげで木箱が1個2人の頭上を越えて飛んで行った。
「よし、持ち上げるぞ。足を引けっ」
 神宮寺の合図と共にわずかに木箱が持ち上がり、空間ができた。素早く体を引く。
「折れてはいないようだが・・・立てるか?」
「大丈夫だ」
 ジョーはウッズマンを掴み神宮寺の肩を借りて立ち上がった。だが打ち身と足首を捻ったらしく、床に足を着くと痛かった。
 神宮寺がジョーの左腕を自分の肩に回し支えて歩き出そうとした。
「手を離せ。1人で歩ける」
「走るのは無理だろ。時間がないんだ」神宮寺の言葉を裏付けるようにどこかでまた爆発音がした。「行くぞ」

 2人は廊下へ出て裏口へと向かう。途中誰にも会わなかった。
「さっきの白衣の男を西崎達に頼んだんだ。もう着いているだろう」
 目の前を黒い煙が埋め尽くす。一気に走り抜けた。と、爆音と共にドアが飛んできて2人に当たった。床に転がる。
「大丈夫か」
 神宮寺がジョーを起こした。
「神宮寺、お前先に─」
「それ以上言うな」
 神宮寺が再びジョーに手を貸し2人は走り出した。
 体力には自信のある神宮寺だが、自分より大柄のジョーを支えて進むのはかなりきつい。しかしここで何を言おうと神宮寺は聞かないだろう。それを承知しているジョーは懸命に付いて行く。
 やがて2人は裏口から外へ出た。
「神宮寺!ジョー!」西崎だ。「やられたのか?」
「まさか。ちょっとコケただけだ」
 不敵に口元を歪めるジョーに西崎が肩をすくめた。



                              3へつづく


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