コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

走り続ける者 2

   「じゃあ、どうすれば良かったと言うんだ。あのままピッチに落としちまった方が良かったのかよ」憤慨たっぷりにジョーが言う「それともキーパー並べてキャッチさせた方がいいって事か」
  怖い事を言う。
 「あの予告時間が正しかったらキーパーがキャッチしたとたん、ボンッ!だね」隣に、やはりうつ伏せに寝っ転がっている洸だ「まあ、爆発物の種類も確かめずに撃ち抜くというのも無茶だとは思うけど」
  「冗談じゃねえ!確かめる時間なんかあるもんか!」思わず体を起こす「あるとしたらあのままピッチに落ちた時だろうよ!─いてェ!」
   背中を押され、ベッドの上にうつ伏せに潰された。
   「も、もっとやさしくしてくれよ、秋山さん」
  「こんな逞しい体にやさしくしていられるか」白衣を着た秋山が言った「それに、力を抜いてくれないとマッサージの意味がない。痛いのは自業自得だ」
  「ちぇ・・」ジョーは腕の上にアゴを乗せ唇を歪めたが、とりあえずおとなしくなった。
  2人は今、JB医療部の秋山と千葉にそれぞれマッサージを受けていた。
   秋山達は整体師の資格を持ち、JBのメンバーは体を酷使したあとやケガを抱えている時など、彼らのマッサージを受けに来る。
   このところケガ続きだったジョーも、訓練のあとによく寄っていた。
 体中の筋肉が気持ちよく解れ、とてもラクになる。ともすればうたた寝さえしてしまうほどリラックスする。
  しかし今は、秋山がやさしくマッサージしてくれてもジョーの心は収まらない。というのも、昼間のスタジアムの件で神奈川県警がJBに対して文句を言ってきたのだ。 捜査に加わったのはまだよい。しかし上の人間も指示の受けずに爆発物を、それも銃で撃ち抜くとは無謀である─と。
  それはそうだが、しかしあの時、他にどんな手があっただろう。あのままピッチで爆発した場合の被害は考えないのか、と、ジョーが怒る。
  もちろん県警もそんな事は百も承知なのだ。その上で自分達の対面を考え文句をつけてきたのだ。
  こういう事はよくある事で森も慣れていた。なんと言われようとこちらが折れる事はない。ジョーの功績が県警の記録に残る事もない。国際秘密警察の存在は警察でも上層部の一部の人間しか知らないのだ。手柄は神奈川県警のものになる。
  だから森の“では次回からは上層部の判断を待ってから撃ち落としましょう”に、県警もとりあえず黙った。
  「で、親善試合はどうなったんだい?」秋山が訊いた。
  「やったさあ。観客には花火が暴発したって説明して」ベッドに、フニャっと体を伸ばして洸が言った「中止になるかと思ったけどね。試合が見られたのは嬉しいけど、日本人の危機感ってこんなもんなんだなーって思っちゃった」
  「ぼくはテレビで見てたけど、とても花火には聞こえなかったよ」若い千葉が言った「JB内でも見ていた人がいたけど、皆すぐに爆発物だとわかったし」
  「本物の爆弾の音を知ってる奴なんて、そうはいないさ」少しは怒りが収まったのかジョーが呟く。が「うー、いてて。階段の昇り降りは効くなァ」
  「情けない事を」秋山がジョーの右足に手を掛ける「サッカーの選手は1試合で12キロ走るというぞ」
  「今日おれ達はもっと走ったぜ。それも平面じゃなく上下にだ。そのうえJBに報告に来たのに文句言われたら割に合わないぜ」
  「でも、立石さんだっけ?あの人は西崎を通して感謝の意を伝えてきたぜ。きっとそっちが本音なんだと思うよ」
  「フン」ジョーが鼻を鳴らす「とにかくおれはもう爆弾には関わらないからな。ピッチに落ちようが県警本部に落ちようが知るもんか」
  突然体を起こしベッドを降り、掛けてあったシャツを取るため右手を伸ばした。手首から肘の間に大きな線を引いたような傷跡が残っている。肩や脇腹にも銃創の跡が見て取れる。秋山がちょっと痛そうにそれを見た。
  ジョーの体に直接手を掛ける秋山には、それがどの程度の傷なのかわかるのだろう。
  「おれ帰るから。もしチーフに訊かれたら、そう言っておいてくれ」
  「わかった。ジョージ・アサクラは森チーフに叱られて泣いて帰ったと言っておくよ」
  「─」
  ジョーは眉をしかめて秋山を睨んだが、何も言わず出て行った。
  「あ?あ、スネちゃった。秋山さん、余計な事言わないでよ。彼、スネると長いんだ」
  「子どもみたいだな」秋山が苦笑する。
  一方ジョーは捜査課室の前を歩いていた。
  医療部と捜査課は同じ4階にあり隣同志だが、その間には通行人をチェックするアーチ型の機械が設置されている。
  JBの建物は正面から見て左側にチーフやSメンバーの部屋、捜査課などがある行動部が、右側には食堂や医療部などの内動部とに分かれている。万一の時、例えば火災や不審者の侵入などがあった場合、双方の間にあるこのアーチにシャッターが下り、被害を最小限に防げるようになっている。
  捜査課室の前で何人かのメンバーとすれ違った。
  彼らはジョーがスタジアムの事件の時現場にいた事を知っていて、その話を聞きたいと思ったが、不機嫌そうなジョーの表情に声を掛ける者はいなかった。
  ジョーはエレベータのボタンを押した。と、ちょうど着いたところらしくドアが開いた。
  「西崎」
  やあ、とボックスの中の西崎が微笑む。
  「まだいたのか?」
  「ああ、課長に報告して、そのあと皆に寄ってたかって話をさせられた」ドアが閉まる「君はチーフに説教食らったんだって?」
  「説教ってほどのものじゃないけど」ジョーはムスッと壁に寄り掛かった「神奈川県警の言い分を聞かされた。おれのやり方が気に入らなかったらしい」
  「チーフは相手にしなかったんだろ。気にする事はないさ。やり方は少々乱暴だったかもしれないけど、君は7万人の人を危険から守ったんだから」
  「・・・・・」
  西崎にそう言われてもジョーの表情は変わらない。
  爆発物は威力が弱かったのか、照明機器数台の表面にヒビが入る程度で収まった。犯人はヘリコプターを所有している会社の人間で、テロ組織とは関係なさそうだ。
   「おれ・・やっぱりこういう仕事に向いてないのかな・・」
  「─」西崎は驚いてジョーを見た。
  彼は冬に二ヶ月ほどフランスに滞在した。向こうでは色々な事があったらしい。帰国し久々に会ったジョーは何かが変わっていた。相変わらずの無茶もするが、そのあとに自分の行動を考えるようになった。以前の彼からすれば、大きな進歩なのかもしれない。
  しかしそのために、ジョー独特の行動力やカンが鈍ったようにも見える。
  今回爆発物を銃で処理する判断と射撃の正確性を目の当たりにして、以前の鋭いジョーに戻ったと思っていたのだが。
  「そんな事考えるなよ。合ってるか合ってないかなんて誰にもわからないよ。自分自身でさえもね」
  ポンッとチャイムが鳴り、地下駐車場に着いた。
  「あ」ドアが開いたがジョーが立ち止まる「いけね・・。おれ今日、車じゃなかったんだ」
  スタジアムに行くのに洸に車で迎えに来てもらい、帰りもそのままJBに来た。
  「麻布に帰るのか?だったら送ってやるよ」
  「だって、お前高円寺だろ?」
  「いや、これから新高輪プリンスまで行くんだ」
  西崎がコードレルキーでロックを解除する。彼の愛車はマツダのMPVだ。
  「ヘェ、デートか?」ジョーが助手席に乗り込んだ。
  「そうだけど、相手は妹さ」エンジンを掛けた「もうすぐ誕生日だからディナーの約束をしていたんだ。本当は横浜から直接行くつもりだったんだけど」
  「妹かァ、お前の妹なら美人だろうなァ。いくつだ?」
  「大学出たての22才。もち美人だ」MPVが地下駐車場をゆっくり出て、JBの出口ゲートでチェックを受ける「だけど紹介しないぞ。お前、見てくれだけはいいから」
  「だけって、なんだよ」
  「弟だったら会わせてやるぜ。大学入りたての18才!」
  「するか?ふつー」クサるジョーを見て西崎が笑った。

  その夜、ジョーは久々に自宅で夕食を摂った。と言っても、宅配ピザと幸子が送ってくれたフランスの白ワインだったが。
  飲み始めてすぐに、今JBから呼び出しがあったら車が使えないな、と思った。が、その時はその時だと居直る。もしくは出動できない、いい口実になるかもー。
   (なに考えてるんだ、おれは)
  ジョーはピザの最後の一切れを口に抛り込み、ワインをグラスに注ぐ。11月のヴォージョレーヌーボ開催の時にフランスに居たにもかかわらず、事件を追っていて飲み損ねたと気がついたのは帰国してからだ。もちろんその頃にはもう日本全国どこでも手に入ったのだが。
  (鳴るなよ、ホットライン)
  寝室に目を向け思う。テーブルの上のリモコンを取りテレビのスイッチを入れた。 あちこちまわしたがストーリーのわからないドラマばかりやっている。と、ニュース速報のテロップが流れた。  
   (品川で爆発事故?)テロップを読んでいく(高輪三丁目って確かプリンスも)
  他のチャンネルに合わせると、ちょうどニュースの時間だった。それによると高輪三丁目の店舗で爆発事故があったようだ。地図も出たがプリンスホテルとは少し離れている。
  西崎はプリンスホテルでディナーの約束があると言っていた。それならゆっくりと2時間近く掛けた食事になるだろう。ジョーが彼に送ってもらって元麻布のマンションに着いたのが2時間半前。もう帰っている頃だとは思うが・・。
  ジョーはちょっと迷って、しかしスピードマスターで洸を呼び出した。
  「洸か。今どこだ?」
  『JBだよ。佐々木さんに捕まって報告書の山と格闘さ。で、どうしたの?』
  「西崎の事を聞いていないか。あいつあれから高輪に行ったんだが」
  『ああ、爆発事故の事だね』さすがに洸の情報網だ。
  JB員は外出先で事件事故に遭った場合、ただちに情報課にその仔細を入れなければならない。
  しかしいつも思うのだが、洸はどこからどうやってそれらの情報を手に入れるのだろう。
  『西崎は大丈夫だよ。ちょうどホテルを出る時だったらしいけど。警察発表ではガス爆発らしいし』
  「そうか・・」
  『なに?西崎が巻き込まれたと思ったの?』
  「奴はどうでもいいが、美人の妹が一緒だからな」
  『えー、そうなの!それは一大事。心配だ!』洸が大げさな声を上げた『でもジョー、爆発物には関わらないんじゃないの?』
  「!」
  一瞬置き、思いっきりスイッチを切ってやった。スピードマスターを抛り出しソファに寝っ転がる。ソーでこれをすると幸子に叱られた。自由なのは嬉しいがすぐに反応してくれる相手がいないのは寂しい。今、ここから自分が消えても誰も気がつかないだろうな、と思う。
  「なに考えているんだ、おれは」
  ソファに体を伸ばしたままテレビに目を向ける。ニュースは終わっていた。

  「ジョーからかい?」佐々木が訊いた。
  「ええ、西崎の事を心配して─。だけど・・」言いよどむ洸に佐々木が目を向けた「彼、フランスから戻って何か変なんです。変と言うか・・変わったと言うか・・」
  洸の前のデスクには報告書が山になっている。記入の不備を佐々木と一緒に直していたところだ。
  「いいように変わったんならいいけど・・なんと言うか不安定・・ん・・やる事はやってるし、今日みたいな無茶も相変わらずなんだけど、見てて・・なんか脆くなったような・・ちょっと押したら倒れちまうよな・・」
  「・・・・・」
  それは佐々木も感じていた。おそらく森や神宮寺もだろう。
  クロードの事件、そしてフランスでの事、故郷ドイツでの事件、そして彼の祖父が名乗り出たイタリアでの出来事─それらの事はもう終わった事であり、うまく乗り越えてきたとジョーは思っていた。
  しかしそれがまた、彼の心の奥底に整理されないまま押し込まれているとしたら─。だからと言ってまわりの人間がしてやれる事は少ない。一番いいのは彼を静かに見守る事だ。
  「皆が付いているから大丈夫だよ」
  気休めの言葉のようだが、案外それが本質なのかもしれないと思う。
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