コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

つながる想い 完

 「ジョー!」神宮寺は床に転がったジョーに駆け寄った。「すまん、あせってしまって」
 「・・・コンピュータ撃っちまったのはおれだしな・・・大丈夫」JB特製のジャンプスーツだ。弾丸には強いが完全に防ぐ事はできない。右肩が血に染まる。「それより原子炉を止める方法を見つけないと・・・。動作不安定でドカンッはご免だぜ」 
   原子炉が動いているだけなら問題はない。時間を掛けても正しく止めればいいだけだ。だがこの研究炉は動作不安定で使用停止になっている。ヘタをすれば原子炉が暴走する。それが1分先か、1時間後かはわからない。 
 「あいつ、自分の逃げる時間は取ってあると言った。という事はすぐには暴走しないという事か─」もちろんそれも定かではない。と、どこかで小さな爆発音がした。建物が揺れる。「洸達か、それともここにも爆発物が─」
 「ミスター!ジョー!」洸と関が飛び込んで来た。「原子炉が作動し始めたって!」
 「そうらしい。いつ暴走するかわからない」
 ジョーを床に残し神宮寺が立ち上がる。
 「やられたのか」関がジョーの肩をハンカチでギュッと縛る。「─気休めだな」
 「だったらするな!」弾丸(たま)キズより力いっぱい縛られた方が痛かった。と、またどこかで爆発音が聞こえた。「これはお前達か?」
 「西崎達が奴らと闘っているけど爆弾は持ってきてないよ。奴らかな?」
 と、洸のGショックが鳴った。森チーフからだ。
 『今、公安3課からフロイントリヒ研究炉の元所長を捜し出して、ここに来てもらっている』どうやら森は警察庁公安課にいるらしい。『原子炉を安全に止めるのは中央制御室のコンピュータで行えるらしい。だがその原子炉は不安定なので、原子炉建屋の制御弁も一緒に操作した方が確かだそうだ』
 「建屋のですか?放射能漏れの恐れは?」
 『・・・皆無ではない、そうだ』 
 「・・・・・」神宮寺が口を閉じた。
 原子炉は?五重の壁?と呼ばれる強固な五層の壁に守られている。これによって核分裂生成物が外へ漏れないようにしているのだ。 
  だがこの原子炉は停止して数ヶ月。もちろんその間のメンテナンスも行われていない。もし壁の一部にでも異常があれば、その外側の制御弁に近づくのは危険な事だ。
 「とにかく制御室のコンピュータだけでやってみます。通信機で操作を教えてもらえますか」  
 『わかった。気をつけてくれ』
  通信が一時切られた。    
 「制御弁を同時に噛まし方がいいんだろ」ジョーが言った。「おれが行く」
 「だめだ。危険すぎる。万一放射能が漏れていたら取り返しがつかない。それに動くと出血がひどくなるぞ」そう言いジョーの前に屈む。「ここにいるんだ。わかったな」 
 「・・・わかったよ」  
 「よし、洸、来てくれ」
 神宮寺と洸、そして関が制御室に走る。  
 「─ンなわけねえだろ」フンッと鼻を鳴らしジョーが立ち上がった。キズは痛いがもう血は止まりかけている。大丈夫、動ける─と、「関」 
 「なるほど。神宮寺君は君の事をよくわかってるね」 
 「え?」 
 「君を止め置くように頼まれた」 
 「あのやろ?。おれを信用してねえな」 
 「適切な判断だと思うがね。で、どうする?行くのか?」 
 「おれを止められるなんて思ってないんだろ」 
  ブルーグレイの瞳が関を射る。 
 「まあね。それにおれも君の考えに賛成だ」え?、とジョーの目が和らいだ。「やれる事はできる限りやった方がいい。あそこで反対しなかったのは言い争う時間がもったいなかったからだ」 
 「チェッ」ジョーが再び関を睨む。関から見れば自分達はまだ若造の域なんだろうな、と思う。「来たかったら来ればいいさ」
  精一杯、粋がってみせるジョーに、関は口元をニヤッと引き上げたが黙ってついて来た。
  原子炉本体の場所は所内の案内図に載っていた。それはやはり小規模の物だったが、中味はウラン燃料だ。臨界に達し、もしその時予想もつかない出来事に襲われたら─。 
 「関!」
  原子炉建屋に通じる廊下を3人の男が守っていた。ふいに現れたジョーと関に銃口を向ける。 
 「Get out! You die if explodes!(逃げろ。こいつが作動したら死ぬぞ)」
  英語とドイツ語、片言のフランス語で言ったが通じない。発砲してきた。 
 「仕方がない」
  ジョーはウッズマンを抜くと男達の手や足を狙う。
  銀色に輝くウッズマンを手にジョーが跳ぶ。男達の銃弾を躱し、傷を負った右手一本で銃をかまえ次々と男達の動きを止めていく。
  関が銃を抜いた頃には、男達は手や足を押さえ廊下に転がっていた。 
 「急ごう」
  男達を飛び越えジョーが走る。彼にウッズマンを渡した事は間違っていなかったと関は思った。
  目の前に上部が丸くなった建造物が見えた。原子炉から核分裂生成物の漏れを防ぐ?五重の壁?の一番外側─建屋と呼ばれるものだ。
  ジョーが通信機をオンにした。神宮寺のリンクと公安からの通信をキャッチする。 
 「こちらジョー。今、原子炉建屋の前にいる」なんだって!と双方が声を上げた。「制御弁を操作するタイミングを教えてくれ」 
 『ジョー!戻れ!関さん、一緒ですか。早く出てください!』 
 「う・・・怒られた・・・」
  スピードマスターを覗いていた関が首をすくめた。 
 「うるさい、神宮寺!おれは所長さんとやらに言ってるんだ!聞こえてますか!」 
 『元所長の有沢です。最初は制御室のコンピュータを使います。制御弁はその一番最後の手順になります。うまく進めば5、6分後です』 
 「わかりました。それまで待機します。連絡して─」ジョーの言葉が途切れた。ドドド・・・と大きな振動が迫ってくる。突然、爆発が起こった。「うわっ!」
  ジョーは何かに突き飛ばされ床に転がった。煙とコンクリートの破片が体中に降り注ぐ。大きな塊が額の横を跳ねた。スーと血の道ができた。が、
  「関!」床に伏している自分の上に関がいた。彼がジョーを押し倒し、爆発から庇ってくれたのだと知った。「おい!関!」
  顔を上げハッとした。出口が崩れたコンクリート片に埋もれ完全に塞がっていた。 
 『ジョー!どうしたんだ!』
 スピードマスターから神宮寺の声が響く。 
 「爆発で関がやられた。おまけに出口も塞がれちまった」額から流れ落ちる血がジョーの視界をぼやかす。「こいつはどうしても原子炉を止めなきゃならなくなった」 
 『─わかった。作業を急ぐ』
  一旦、通信が切れた。 
 「関、おい、関」
  ジョーが関の頬をピシャピシャ叩いた。と、 
 「・・・天国にしては乱暴だなあ」関がうっすらと目を開けた。「わ!ジョーの顔をした天使だ!?怖いぞ!」 
 「ぬかせ!こっちだってあんたと一緒に天国へランデブーなんてご免だ!」
  ピシャン!と頬を叩いて床に放り出した。イテテ・・・と関が体を起こす。 
 「ひでぇなァ・・・。だがジョー、借りは返したぜ」 
 「え・・・」
  あのホテルでの爆発事件の事を言っているのか。 
 「ご老体が無理をするな。そんなものいらねーよ」フッと口元に笑みが浮かぶ。「それより今の爆発でここから出られなくなっちまった。悪いが最後まで付きあってもらうぜ」 
 「おお、いいぞ!天国だろーが、地獄だろーが、愛の世界だろーが」 
 「─やっぱ、帰れ」
  ジョーが言い放ち立ち上がろうとした。フッと視界が揺れた。目の前に流れ落ちてくる血を手で払う。床に倒れた時肩を打ったのか傷口が少し開いたらしい。
  だがジョーは関から顔を背けるように立ち上がった。
  ゆっくりと辺りを見回し、建屋横に取り付けられている制御弁を見つける。2機あるそれは丸いハンドルのような形をしていた。 
 『ジョー!』神宮寺だ。『コンピュータの設定が終わった。これから停止作業に入る』 
 「わかった」またどこかで爆発音がする。奴らはこの研究所ごと吹っ飛ばすつもりなのだろう。「自分達の逃げる時間を取ったのが間違いだったな」
  ジョーが不敵に笑いハンドルを握る。が、 
 「うっ!」ジュッと音がし手を放した。ハンドルが素手で持てないほど熱せられていた。「くそォ」
  ジョーはウッズマンを関に預け、ジャンプスーツの上部を脱ぎハンドルに巻きつけた。それでもまだかなりの熱が手に伝わってくる。 
 「くっ!」
  彼はハンドルを少し引いてから体を使って回し、押し込んだ。見ると関がジャケットを脱ぎ、もう一機のハンドルに取り付いている。爆発でやられた背中は傷だらけだ。
  ジョーはハンドルがカチッと嵌まるまで押し込むと、関の加勢に移る。と、すぐ横の壁が爆風と共に飛んできた。 
 「うわっ!」爆風で2人も飛ばされる。「つ・・う」
  ジョーが床を這うように再びハンドルの所に戻る。握り、押し回した。巻いてあったジャケットは取れていたが、不思議と熱さは感じなかった。
  カチッと音がしハンドルが嵌まる。ズルル・・・とそのまま床に倒れ込んだ。が、すぐに顔を上げ関の所に戻る。 
 「無事かい?ご老体」 
 「うるさい、若造」関がニヤリと笑う。「君と同じくらい無事だ」
  だが体を起こすのは辛いらしい。と、すぐ近くで今までより大きな爆音が響いた。建物全体がビシビシいっている。天井の一部が細かい破片となって落ちてきた。 
 「原子炉は止まったのか?」 
 「わからない」この爆発が爆弾によるものなのか、それとも原子炉の暴走によるものなのかジョーには判断ができない。「関、ここから出してやりたいが─」 
 「バカ、それはこっちの台詞だ。見ろ」関が指差したのは、何回目かの爆発でできた壁の隙間だ。「君なら登れるだろう。あそこから出ろ」 
 「あんたには無理だ」 
 「おれはいいから出るんだ。そして向こう側から壁を蹴り崩せ」 
 「おれはスーパーマンじゃねえぜ」ジョーが眉をしかめる。と、突然頭の上で爆音が響いた。天井がバラバラと落ちてくる。「だ、だめか」 
 ジョーが関の上に覆い被さった。彼の胸の上に置いてあったウッズマンがジョーの肩に当たった。その肩に、関の手が回されギュッと掴まれた。ジョーが驚いて関を見た。その腕は彼が記憶している父親の力強い腕、そのものだった。顔も体格も全然違うのに─。と、関の口がかすかに動いた。 
 「─え?」
  ジョーが再び関を見る。と、爆発が止み辺りは静かになった。 
 『原子炉が停止した!』神宮寺だ。『ジョー!関さん!無事か!』 
 「たぶん・・・」関の胸から体を起こす。埃や細かい瓦礫が彼の体からパラパラと落ちた。「だけど関がやばい。早く来てくれ」 
 『ラジャ』
  神宮寺のリンクを通して何人もの男達の声が聞こえた。西崎達が合流したのだろう。もう大丈夫、彼らが来てくれれば─。
  ジョーはふと目の前の建屋を見上げた。あの数々の爆発によく持ってくれた。堅固な作りに感謝した。が、 
 「だけど、もっと早く解体しろよな」
  一言文句を言い、関の横に座り込んだ。

  確保された男達は全員海上保安庁の警備船に収容された。
  ケガを負った関やジョー、あと数名の者は別の警備船で酒田の病院まで運ばれた。
  島の原子炉は完全に停止し、公安による捜査後、解体されるそうだ。が、捕まえた男達からゾンタークの全容を知る事はできなかった。
  公安3課が引き続き捜査を行い、この事件はJBの手を離れた。
  ちなみに発端となった洸の友人の行方だが、彼はゾンタークの別のアジトにいて後日保護された。もちろん、洸が自分の後を追って潜入していた事も知らなかった。
  それでいいのさ、と洸は笑っていた。 

 「やあ、ジョー」ベッドの上の関が声を上げた。「やっと来てくれたか。待ちかねたぞ!」 
 「今日退院して東京に戻る」ちょっと眉をしかめながら言う。「だから?手ぶら?だ」 
 「かまわんさ。君に花なんか持って来られたら、おれは余命を疑うね」ハハハ・・・と笑うが、まだキズが痛むらしくその顔は引きつっていた。「そうか、もう戻るか」 
 「洸が余計な事しなかったら、おれ達が拘る事件じゃなかったしな。混乱させて悪かった」 
 「いや、早く解決できてかえって良かったよ。洸君に礼を言わンと」 
「やめてくれ。調子に乗る」
  再び眉をしかめるジョーを見て、“君にそー言われちゃ、洸君が気の毒だ”とまた笑う。
  そんな関をジョーが見つめる。
  鷲尾は関がジョーの父に似ていると言った。しかしジョーはそうは思っていない。顔も体つきも声も─当然だがまったく違う。 
  だが、あの腕の力強さだけは同じだった。幼かった自分を片腕一本で軽々と持ち上げてくれた父の腕。その まま肩に下ろされる。山に登ったようにまわりが小さく見えた。
  父が生きていても今の自分を持ち上げる事はできないだろう。だが─。 
 「どうしたんだ、ボーとして」急に黙り込んでしまったジョーを関が怪訝そうに見ている。「そんなにおれを見つめて・・・。そうか、おれの雄姿に惚れたか?」 
 「はあ!?」 
 「うんうん、無理もない。今回はおれの武勇伝の中でもピカ一だ。惚れて当然だ」 
 「冗談じゃない。第一あんたの相手はおれじゃない。タカコって女性(ひと)だろ」 
 「たか─!え!?な、なんで彼女を君が!?」
 「さ?ねっ。おれ達の捜査力を甘く見るなよ」
 ジョーが片方の頬だけで笑う。関は口をパクパクさせたまま、真っ赤な顔で固まっている。 
 「い?じゃねえか。あんただって一人身の男だ。女性の1人や2人いたって・・・あ、2人はまずいか─ま、いいや。今度紹介してくれよな。おれがあんたの武勇伝をたっぷり話してやるぜ。ついでにあちこちで若い男に声掛けてるって事も─」 
 「あ、いや、それは言わないでくれ。─って、だからどうして君が!な、なんで彼女の名前を!えー!ええっ!?」 
 「おれ達はSメンバーだぜ。皆の幸せを守るのさ」
  答えになっていない事を言い残し、完全にパニックになっている関に片目を瞑って見せ、ジョーが出て行った。

                               完

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