コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Three days 1

(今日もいい調子だぜ、ブルーコンドル)
 愛用のレーサーグラブをキュッと鳴らしてジョーはステアリングを繰った。
 青い車体を輝かせながら走るブルーコンドルは、彼のもう2台ある愛車のうちの1台と同じランボルギーニ・カウンタックLP500だ。が、こちらは特殊ツーリングカー・N2タイプでゼッケンのついたレース用だ。
 ジョーは今、久々にレースに参戦している。
 ここ数ヶ月間はレースどころか練習もままならない状態だった。それが祟り、今日のレースは7位スタートだ。
 だが彼の持ち前の勝気とテクニック、そしてブルーコンドルの完璧な整備のおかげでレース半ばでジョーはトップに立った。あと5週、このままの位置を保つ事はそう難しくはない。久々にチェッカーフラッグを受ける事ができる。─が、
「うっ!?」
 突然ステアリングが何かに捕らわれたように勝手に回った。いやタイヤだ。タイヤに何かが─ジョーのソーイング以外の力が加わっている。車体がわずかだが左へ流れる。
 ふと見ると、前方でレッドフラッグが振られていた。後方を確認しながらブルーコンドルの速度を落とす。他の15台の車も止まった。
「くそォ、いったいどうしたっていうんだ」
 ステアリングを掴みジョーが唸った。

「ヘェ、それで結局レースは中止になっちゃったんだ」洸が言った。「確かに昨日の地震は大きかったもんね。ここも結構揺れたぜ」
「地震だけで中止になるなんて滅多にないけど、コースに亀裂が入っちまったんで仕方がない」ジョーがサンドイッチからキュウリを取り出す。「入れないでくれ、って言ったのに・・・」
「サンドイッチにキュウリは定番だけど、おれも苦手だ」ジョーの手元を覗き西崎が言った。「あと、巻き寿司に入ってるキュウリもやだな。なんで入れるんだろう?」
「食感、じゃないか?」食べる事が大好きな高浜だ。「おれは好きだぜ」
「お前は食い物はなんでも好きじゃないか」
 西崎の言葉に、“今だ食い盛り!”と高浜が居直る。
 珍しく彼らは事件を抱えていない。
 食堂の一角はすっかり彼らの溜まり場になっていた。が、不思議な事に、この溜まり場にジョーが自ら入っていく事はない。彼がいる所に皆が溜まってくるのだ。
 それは自分から進んで他人と係わりを持つ事を苦手とするジョーに対しての心遣いなのか。いや、単に彼の座っている席が新宿御苑を見渡せる窓際の特等席だからなのか─。
「それでお前、朝から機嫌が悪いんだな」キュウリを挟んだままのサンドイッチを食べながら神宮寺が言った。「そんな顔して食ってるといい朝食にならないぜ」
「悪かったな。この顔は生まれつきだ」
 ジョーが言うのをその場にいる全員が、赤ん坊の体にそのままジョーの顔をはめ込み想像する。
 悪寒が走った。
 こういう時のジョーはカンがいい。
「てめえら・・。人の顔で遊びやがって」
「そ、そんな怖い事は考えてないぞ!」
 素直な高浜の口を西崎が押さえた。
「チェッ!なーんかムシャクシャするな!」
 立ち上がり腕を上に伸ばした。先日肺炎の手前まで行き、3日ほど寝込み痩せてしまった体はもう元に戻っているようだ。シャツの上からでも綺麗な筋肉の付き方がわかる。
「射撃場でも行って、ぶっ放してくるかなっ」
「ウッズマンはもう慣れたのか?」西崎が訊いた。
「あー、おれもウッズマンも完璧!」
 振り返り笑顔を見せる。とたんに年相応のまだ大人に成りきれていない子どもっぽさが現れる。だがそのおかげで、ともすれば一人になりがちなジョーを仲間達も敬遠するという事がないのかもしれない。と、
「ジョー」今まで黙っていた中根が口を開いた。「おれに射撃を教えてくれないか?」
「え?」
 ジョーも、そして他の面々も驚いて中根を見る。ちょうどトレイを片手に仲間に入ろうと近づいてきた伊藤も立ち止まった。
「射撃って・・お前得意じゃん」
『最近銃を替えたら、命中率が落ちたんだ」
「それならおれより、狙撃部の曽我部さんか高木さんの方がいいぜ」
「アドバイスだけでもいいんだ。見てもらうだけでも─」
「・・・ふうん」
 ジョーは不可解そうに中根に目をやったが、すぐに踵を返し出口に向かった。
 中根はどうしてよいのかわからず、思わず神宮寺を見る。と、彼はジョーに向けアゴをしゃくると中根に片目を瞑ってみせた。
 中根があわててジョーの後を追う。
「あ?、びっくりした」洸が息をついた。「中根があんな事言い出すなんて・・・。彼、ジョーが苦手じゃなかったっけ?」
「ジョーが、というよりSメンバーが苦手なのかもな」西崎の言葉に神宮寺が彼に目を向けた。「彼のJBでの初仕事はダブルJのバックアップ班だったんだ。ハデな銃撃戦があって、最後はジョーの強行突破で事件は収まって・・・。で、その後ジョーと、突破に反対していた神宮寺とで言い争いになって」
 と、神宮寺がちょっと渋い顔になった。よくある事なのだが西崎が覚えているくらいだからよほど激しく言い争ったようだ。
「銃撃戦に強行突破─それまで警視庁にいた中根は国際警察の、特にSメンバーのハードさに驚いていたよ。特にジョーの無謀とも言える行動にね」
「それはわかる」真剣な表情で神宮寺が頷く。「あいつの無謀さにはおれだって今だに慣れない。年中ビビってるよ」
「だが、そのジョーを平気でひっぱたく神宮寺にも驚いたって言っていた」

 神宮寺は頬杖をつき口をへの字に曲げた。一瞬だがいつもの精悍な面持ちが影を潜め、やはり年相応の青年の表情に見えた。
「でもそのジョーに教えを請おうっていうんだから、苦手意識もなくなったんじゃない?」
「ならいいけど・・・」オレンジジュースをズーと吸い上げ洸が呟く。「なんか、ますます怖がらせるような事になるんじゃないかと・・・」
「・・・・・」
 一斉に口を閉じた男達は洸を見てすぐ“うん”と頷いた。

 2日前、JBは署内各課の編成替えを行った。
 狙撃部は廃止され、20名の部員は捜査課に組み込まれた。
 その捜査課も第1部隊から第6部隊を改め、チーム1(ワン)からチーム5(ファイブ)までの5つのチームに分かれた。
 その中には捜査課だけではなく情報課と通信課から10名、鑑識課7?8名がひとつのチームのメンバーに組み込まれている。これによって。ひとつの事件の対応が1チームでできるようになった。
 ちなみに各課長はこのチームには含まれていない。
 またSメンバーのバックアップが必要な時は事件を抱えていないチームか、もしくは各チームからそのつどピックアップされたメンバーが集まり、チーム0(ゼロ)を発足させる事になった。
 昔より組織的な大掛かりな犯罪が増え、Sメンバーだけでは対応できない事態も考えられる。
 本当は専用のバックアップチームがいればいいのだが、現在の人数ではその余裕はない。
 国際警察に入隊できるのは?何月?、という決まりはない。小数精鋭の頂点のような組織なので希望人数が多くても実際に入隊できるのは年に1人か多くて2人だ。
「結局、おれ達また同じチームだな」
 チームリーダーを拝命した西崎が目の前の男達を見る。このチームがSメンバーのバックアップに付く事が多くなる。
「気心が知れているからやりやすいな」
 立花の言葉に高浜が頷いた。
「コーヒー奢るぜ!」樋口が器用にトレイを2つ持ってきた。「これ西崎ね。これは伊藤。高浜、お前砂糖入れすぎだぜ。半分にしろよ。そしてこれは─」
 気心を知りすぎてコーヒーの好みまで覚えてしまったらしい。特に樋口の記憶力はバツグンだ。
「何か良い事でもあったのか?」
「反対さ。姉に子どもが生まれたんだ。おれはこの年でもう?おじさん?って呼ばれるんだ」
「なに言ってンだ」「めでたい事じゃないか」
 と、口々に言われるが樋口は納得しない。
「だからイヤな事は皆に飲み干してもらおうと思ってさ」
「じゃあおれ達はゴミ箱か?」「ひどいなァ」
 と、笑いながらコーヒーをご馳走になる。
「あ、中根」樋口が、食堂の入り口にいる中根に気がついた。「コーヒー飲むかい?」
「いや・・おれはいいや」
 樋口の横にストンと座り、ボーとしている。
「どうしたんだ?ジョーに怒鳴られたとか─」
「そうじゃないけど・・・。やっぱ銃を扱っている時のジョーは格好良いなァ」
 “ヘェェ・・・”“まっ、その時だけは、な”と、周りも頷く。
 射撃場への同行は許したものの、ジョーは中根に射撃の仕方など教えなかった。
 彼は教官ではないし、人に教えるなんて難しい事もできない。ただ2人並んで銃を撃った。
 が、そのうち撃つのはジョー1人になった。
 中根は彼の射撃スタイルに見入った。
 主に立射の片手撃ちが得意なジョーはウッズマンを握る手を真っ直ぐに的に向け、少しアゴを上げ体を捻った独特のスタイルをとる。
 射撃の教科書からすると決して正しいフォームではないが、彼の撃ち出す弾丸は1つ残らず的の真ん中をぶち抜いた。そして銃を下ろし、満足そうに目を向ける。
 灰色がかった青い瞳がウッズマンを見ると射撃中の鋭さが消え、柔らかな光が溢れる。
 ジョーは16才の時、全日本射撃大会で日本一に輝いた事がある。その頃の彼の射撃スタイルはお手本通りのもので、彼のクセが入っているとしてもほんのわずかだった。
 それが1年後にJBに入り、彼のフォームがガラリと変わった。と、いうか変わらざるを得なかった。
 大会は動かない的を動かない位置から撃つ。しかしJBでの実戦ではそういうわけにはいかない。自分が動きながら、動く相手に対応しなければならない。しかもその相手は生身の人間だ。
 結局2年間の間、彼が実戦に出る事はなかったが、大人と一緒に仕事をするストレスやフォームを変えなければならない途惑いから、ジョーのフォームは一度完全に崩れた。
 今の彼の撃ち方はその後に築き上げたものだ。お手本通りではないが今のところ困ってはいない。
 そしてそのフォームは偶然にも彼の父ジュゼッペ・アサクラとまったく同じだという事をジョーは知らない。
 と、ジョーが中根に目を向けた。射撃場で見詰め合っているのも変だし、教えて欲しいと言ったのはこっちだ。
 中根は新しく手にしたグロック銃で的を狙い撃つ。ジョーはしばらく見ていたが2言3言告げて射撃場を出て行った。
「で、ジョーはなんて言ったんだ?」
「おれのクセを教えてくれた。自分では気がつかなかったよ」中根が苦笑して続けた。「それとグロック銃の組み立て不備も。おれがやったんだけど的確じゃなかったようだ。リアサイトとフロントサイトがわずかにズレているって─。高木さんに見てもらったら、ほんの0、2?3ミリの狂いだったよ」
「ジョー、よくわかったな」立花が言った。「天性って奴?」
「野生のカンって気もするが」樋口が中根の前に紅茶を置いてくれた。「でも良かったじゃないか、原因がわかって─。なのになんでそんな暗い顔をしているんだ?」
「ん・・・。ジョーには感謝してるし、教えてくれてありがたいと思うよ。でも─」男達が見つめる。「・・・言い方が怖いんだ」
 ドッと男達がコケた。
「大声で怒鳴ったわけでもなく、ボソッと小声で言うんだけど・・でも怖い・・・顔も怖い」
「な、なんだよ、それ」「ま・・・わかる気も」
「決して嫌いとかじゃないんだけど・・・やっぱ怖い・・・」
「そーかな」伊藤だ。「おれなんか、ジョーがヘラヘラ笑って言う方が怖いけどな」
「・・・・・」
 確かにそれは怖い。できれば見たくない。
「あれでも10代の頃に比べれば、ずいぶんと人当たりがよくなったんだけどな」
「あ、あれ以上怖かったのか!?」西崎の言葉に中根が声を上げた。彼は10代の頃のジョーを知らない。「うわ?、今の方がまだマシだったなんて?」
「そう思って諦めようぜ」樋口が中根の肩に手をかけた。「眉を立ててると怖いけど、その眉と目を?への字?にして、口をニマ?と?Uの字?すれば─」
「てめえら
 ふいに地獄の底から響きあがってくるような声に男達が振り向く。そこには?への字?や?Uの字?とはまったく反対の顔をしたジョーが立っていた。
「言ったろ!人の顔で遊ぶんじゃねえっ!」
 雷が落ち男達が飛び上がる。
 小声でも大声でもジョーは怖いと、中根は改めて思った。

                
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