コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Three days 2

 その日の昼過ぎから新編成の確認会議が森、佐々木、各課部の責任者、チームリーダー、そしてSメンバーを代表して神宮寺と一平が参加し行われた。
 もっとも内動部(食堂や医療部など)の編成変えはなく、チームを組んだとはいえ仕事の内容が変わるわけではない。
 だが新たに任命された各チーム(チーム1から5)のリーダーに対する細かな指示が出された。
 40人あまりの猛者をまとめる5人のリーダーは、その仕事に見合う人材が選ばれている。中には時期課長候補と言われている者もいる。
 彼らは自らの権限でチーム内からサブリーダーを選ぶ事ができる。さらにそのリーダー達をまとめるM(マスター)リーダーに眉村が就いた。
「リーダーになった西崎や島内も大変だなァ。Sメンバーで良かったかも」
「そうだな」会議が終わり、神宮寺と一平が並んで廊下を歩いている。「チーム分けの名簿を見ると、行動派、知能派、ちょっとムチャ派、メチャクチャムチャ派に分かれてないか?」
「そのメチャクチャムチャ派が、Sメンバーのバックアップ班だったりして」
「やめてくれ。ジョーだけで手一杯だ」神宮寺の言葉に一平が頷いた。彼は洸で懲りている。「あ、この前のゾンタークの残党が─」
 と、一平がハデなくしゃみをした。
「風邪か?」
「昨日遅くまでアイフルと走っていたからかな。寒かったし」
「頼むからうつさないでくれよ。スープ責めはもうご免だ」
 情けなさそうに眉をしかめる神宮寺を見て、一平がナハハ・・・と笑う。
 先日ジョーに風邪をうつされ2日間寝込んだ神宮寺の元に、大量のカンスープを持って看病に来てくれたのはその相棒だった。
 好意なのかおもしろがっているのかよくわからない目で、しかし暖かいものを提供してくれるのはありがたかった。
 神宮寺が喜んだのに気を良くしたジョーは、それからの2日間スープで彼を責め続けた。
 さすがに神宮寺が文句を言うと、“フランスの高級品だぜ。じゃあ今度はシチューにしてやるよ。水分摂らなきゃいけないんだろ”と、目を細めて言った。
 スープもシチューも大して変わらない。看病というより仕返しだ。
「あいつは物の限度を知らないから困る」
「一応悪いと思ったんじゃないの。彼なりに─」
「本当にそう思ってるなら、シチューを1ダースも置いていかないぜ」本当に持って来たのだ。「一平はいいよな。寝込んだりしたら可愛い彼女が来て、やさしく看病してくれるんだろ?」
「ん?」鼻の頭をコリコリ掻き、ちょっと困った顔になった。「家に呼んだ事はないよ。本命は・・・無理だろ?どこで誰とどう繋がっているかわからないし。気軽に遊べるガールフレンドはいっぱいいるけど、本命ともなるとなかなか─」
 ああ、そうだったと神宮寺は思った。
 以前自分に見合いの話があった。相手は旧家のお嬢さんで女子大生だという。写真も見ずに断った。
 一平と同じだ。
 相手の身元はしっかりしているだろう。だがこの仕事をしている自分と関わって、相手に万が一の事があったら・・・。普通の大学生の女の子を危険なこの仕事に巻き込むわけにはいかない─。
 強気のSメンバーの彼らも、相手がある事に関してはかなり臆病になる。
「おれ達が本気でつき合える女の子って─」
「神宮寺君」後ろから呼び止められた。佐々木だ。「悪いんだが、これから─」
 彼と神宮寺が立ち止まり話し始めると、“先に行くぜ”と一言断り、一平が踵を返す。帰りにまた馬場に寄ってアイフルに乗って思いっきり走りたいと思った。

「たばこやめたんじゃないのか、西崎」
「う?ん・・。この2日間で復活した」たばこに火を点けようとして高浜に言われ、一旦手を止めたが結局点けた。「疲れるとやはり手が出てしまうな」
「なんだい、西崎さんともあろうお方が。そんな事じゃチームリーダーは務まらないぜ」
 向かい側のソファに座る島内が言った。
 彼はチーム4(フォー)のリーダーで自信家だ。常々自分はSメンバーになるべき人材だと豪語している。彼はジョーに反感を持っていたが、少し前の事件の時タッグを組みわずかだが見方が変わったようだ。その分、対抗意識が増えたが。
「タバコやめると、なんでもおいしくなるぜ」
「そのようだな」
 西崎が、ちょっと太めの高浜を横目で見る。だが大らかな彼は気にしない。食べなければ仕事はできない!と、こちらも豪語している。
 ここ4階の休憩室には会議中たばこを吸えなかった5、6人が顔を揃えている。本来なら喫煙コーナーに行くべきだが、周りの許可を取った時は吸っても見逃されている。
「それにしてもこんなに出動がない日が続くのは珍しいな」チーム4の江川だ。「後でツケのようにドカンとくるのはご免だぜ」
「事件といえば」思い出したように西崎が言った。「例のゾンタークの残党が九州で捕まったらしい。奴ら日本各地に散らばっているようだな」
「そういえば四国でもなにやら不穏な動きをする団体があると─」
 立花の言葉が途切れた。ふっと上を見る。西崎も島内も振り返りドアに目を向けた。江川や高浜も???マークを飛ばしている。
 なにやら不穏な空気が近づいているような・・・。と、突然ドアが開いた。男達がわっ!と跳び上がった。入ってきたのは洸だった。
「な、なんだ、洸か」「ああ、びっくりした」
 と、口々に安堵の息をつく─が
「神宮寺とジョーがケンカしているんだ」洸らしからぬ暗い口調と内容の恐ろしさに、一同?えっ!?と固まった。「なんだか知らないけど、チーフがどうのこうの言ってる」
「チーフに対する不満か?」島内が言った。「おれをチーフにしろ!とか」
「お前じゃあるまいし・・・」西崎が呟く。が、島内も気にしない。Sメンバーの次はJBのチーフだ!は、彼の決まり文句だ。「で、ケンカの本当の原因はなんだ?」
「知らないよ。原因がわかるほどそばに寄りたくないもん」
 洸の言葉にもっともだと男達が頷いた。
「あそこ(ダブルJ室)は治外法権だからな」マジな顔の立花だ。「放っておこう」
「うう・・部屋に戻れない・・」
 JB2室も同じ6階だ。しばらく捜査課室にいていいよ、と江川が慰めてくれた。
「あー、やっぱりここかあ」突然ドアが開きジョーが入ってきた。男達が一斉に飛び退る。「この前借りたCD持って来たぜ、洸。なかなか良かった─。どうしたんだ?」
 部屋の隅で固まっている男達を見て、ジョーが怪訝な顔になる。
「ち、治外法権が・・・あ、いや、なんでもないんだ」
 アハハ・・・と引きつる彼らに、ジョーはますます怪しげに目を向ける。紫煙越しに見る灰色がかった青い瞳は、見慣れている彼らから見てもかなりの迫力だ。つい口を開いてしまう。
「いや・・神宮寺とケンカしてるって─」
「なんだ、そんな事か」ジョーがCDを洸に抛った。洸は一歩も動かず、しかし彼の手元に正確に落ちる。「神宮寺の奴が佐々木さんからチーフの護衛を頼まれたのによ、この前は自分が行ったから今度はおれに行けって言うんだぜ」
「神宮寺に、というよりダブルJに頼んだんじゃないのか?」
「ンな、大の男に2人も付いていくかよっ。おまけに行き先は警察庁だぜ。もっと楽しい色っぽい所ならともかく、あんなとこ行きたかねえやっ」仕事中に楽しく色っぽい所に行く方がまずいと思うが。「だから、どっちが行くかジャンケンで決めたんだ」
「・・チーフの護衛をジャンケンで決めるなよ」西崎がため息をついた。島内の目が、こいつは絶対Sメンバーに向いていない、と言っている。「で、結局神宮寺が行ったのか?」
「ああ」珍しくジョーがVサインを出す。「知ってるか?あいつジャンケンの最初にパーを出す確率は80%だぜ」
 Vサインではなく?チョキ?らしい。
「まったくチーフもいい年なんだから、おつかいくらい1人で行ってくれよなー」なんの番組を見たんだ?と思ったが、みな口を閉じたままだ。「ところで、洸。頼みてえ事があるんだ」
「え・・」迫り来るジョーに、男達は洸1人を部屋の隅に置いて左右に掃けた。ジョーが洸の耳にささやく。「え?そーなの?えー!それをぼくが!?」
「頼むぜ、洸」
 にっこりと微笑みウインクを送るジョーに、伊藤の言うとおりだとみな思った。

「やあ、神宮寺君。森さんのお供か?」
「関さん」神宮寺が廊下のソファから立ち上がった。森はドアの向こうで会議中だ。「ケガはもう完治したんですか?」
「ああ、とっくにな」ドアに目をやる。「支部長さんって、踏ん反り返って座ってりゃいいものを・・・。森さんもよくあちこち動くねぇ」
「他の所ならともかく、うちは座っていたら仕事になりません」
「そーだがね」ハハ・・と笑い声を上げる。「ところで森さんの護衛は君の担当なのかい?確かこの前もそうだったね」
「違います。ジョーにジャンケンで負けたんです」
「・・・・・」
 JBではチーフの護衛をジャンケンで決めるのか?と思ったが、他所様の事なのであまり深く追求するのはやめた。そんな事より今は・・・。
「それはそうと・・・え・・と・・・あれだな・・つまり・・・」言いよどむ関に神宮寺が不可解な目を向ける。「ジョーが何か言ってなかったか?たとえば・・その・・女の事とか・・」
「女?」神宮寺が驚いて目を見開いた。「女って、ジョーのですか?」
「あ、いや。ジョーではなく・・その・・女の名前を君に・・だな・・」
「ジョーに女性を紹介してもらうのは無理ですよ」
「いや、その必要はないんだが・・。その・・」
 いつになく煮え切らない関の様子に神宮寺の目がスッと細くなる。こうなると関はますます話せなくなってしまう。と
「お待ちどう様、神宮寺君」森が出て来た。「関さん、先日はどうも─」
「あ、どうも、森チーフ。お疲れ様です。じゃあ神宮寺君、またな」
 ハハハ・・とヘンな笑いを残してソソクサと2人の前から去っていった。
「・・・なにかあったのか?関さん、変だな」
「さあ、ジョーに女の名前は必要ないとか言ってましたが」
「?」国際警察もそうだが公安の仕事もハードだ。特に関の部署はJBのバックアップも担当している。「少し休んだ方がいいのかな、関さん。今度警備部長に進言してみようか」
「休暇ですか?」神宮寺が眉をひそめる。「やめた方がいいですよ。休暇なんか貰ったらこれ幸いとJBに入り浸りになります。ジョーの身が持ちません」
「??」
 神宮寺にも休暇が必要か?と、森は本気で思った。

 JBの正面ゲートが開くと真っ赤なランボルギーニ・カウンタックがスッと出て来た。
 近くの小学校から下校する子ども達が?わっ!?と目を向けてくる。彼らが見ているのはあくまでも車であって、ドライバーには興味はないようだ。
 彼らは以前のスーパーカーブームは知らないし、目の前の車の名前もわからないかもしれない。だがこの車が目を引く事だけは確かだ。しきりに声を上げ、特に男の子は目を輝かせている。
 そんな子どもらの横をゆっくり走り、ジョーはやがて左折して明治通りに入った。このまま恵比寿まで走り駒沢通りに入る。
 この先の中目黒1丁目に、結城自動車工業レーシング部門の整備工場があるのだ。
 今セリカを定期整備に出している。カウンタックに乗れるのはこの時ぐらいだ。
 神宮寺がいないのをいい事に早めにJBを出てゆっくり走らせる。と、低速では格好のつかない車が文句を言う。
 もちろんジョーも思いっきりスピードを出して飛ばしたいが、日本の道路事情がそれを許さない。
 やがてカウンタックは、目黒にしては広い敷地を持つ結城自動車工業の駐車場に入っていった。入り口から少し奥まったレーシング専門の工場まで進む。
 セリカと今乗っている赤いカウンタックはレース仕様ではないが、ジョーは3台の愛車の整備をすべてここに任せている。
 ジョーは工場の前に車を停めドアを開けた。黒いコートがスラリと伸びる。あの車高の低い車にどうやって入っていたのかと思うほどの長身と、風に靡く枯葉色の髪が相まって独特な雰囲気を称えている。
 赤いカウンタックの横に立つその姿は車専門誌のグラビアのようだ。
 現に何度か、スーパーカーのオーナーとしての取材申し込みやモデルとして出てほしいという依頼を受けた事がある。カウンタックだけならまだしもジョーも込みだというので丁重にお断りしたが。
「沢口さん」
 レーシング部門の責任者の沢口を見つけた。
「早いぞ、ジョー」カウンタックのエンジン音でわかったのだろう。タオルで手を拭きながら作業服姿の沢口が顔を出した。「君がこのセリカを預けたのは今朝だよ」
「いや・・仕事が早く終わったので・・・」
「それは世の中が平和って事だな」
 結城自動車工業はJBと古いつき合いだ。沢口もジョーの仕事は知っている。
 彼はジョーを事務所に招き入れた。
「そうだ。協会から連絡があって、先日地震で中止したレースは再開されないそうだ。したがって順位の認定もない」
「・・・そうですか」コーヒーを受け取りジョーが呟く。しばらくその褐色の液体を見つめていたが、「おれ・・・?国際C?取るのをやめようかと思ってるんです」
「・・・ん」予想していたのか沢口が頷く。「実力はあるが、君の場合は・・な・・・」
 レースに参加するためには専用のライセンスが必要だ。
 取得しているライセンスによって参加できるレーズの格式(種類)が決まっている。
 19才でレース用ライセンスを取り始めたジョーは、現在?国内Aライセンス?保有者で、国内で開催されるモータースポーツイベントに出場できる資格を持っている。
 この上が?国際Cライセンス?で、これは国内の競技はもちろん準国際競技にも出場できる。
 取得するのはそう難しい事ではなく、申請前12ヶ月以内に公認レースで少なくとも2回以上完走し、順位認定を受ければよい。
 会社勤めをしていても、土日にレースに関われる時間があればそう難しい規定ではない。
 だが土日はもちろん、昼夜の区別のない仕事をしているジョーには少々きつい規定だ。彼らが扱う事件は国内に留まらず、外国で何日も拘束されればレースはおろか練習もままならない。
 特にこの数ヶ月は彼の身の回りが激しく動き、レースどころか彼の身の上さえどうなるかわからない状態だった。
 さらにジョーが登録しているのは?特殊ツーリング・カー・レース?─通称?N2?と呼ばれる部門だ。市販車に大幅なチューニング・アップが許されている。2シーターの車でもOKでスポイラーやウイング、オーバー・フェンダーの設置も可能となり、より本格的なレース・カーとなる。その車を走らせるためには多くの練習時間を必要とするのだが、
「そんな事、承知の上だったんだけど・・」
 ジョーはコーヒーを一口飲んだ。
 レースをやりたいと思ったのは、Sメンバーになってすぐの19才の時だった。
 森と話し合い、鷲尾の耳にも入った。仕事をやりながらのレース参加という事もあり、鷲尾はいくつかの懸念をジョーに示した。
 大丈夫だと思った。鷲尾の言う心配事など乗り越えられると思った。が、2年が経って彼の言った事の確かさがよくわかった。
 19才には19才の考えしかない。まずいと思ったらその場でやり直せばいい。若いジョーにはその時間がある。
「そうだな・・。このまま国際Cを取ってしまったら、君はますますレースに出場し難くなるかもしれない」
 沢口の言葉にジョーが頷く。
 国際Cライセンスを持っていれば国内競技と準国際格式競技に出場できる。
 プロレーサーを目指す者なら、F1やスーパーGTの参加資格が取れる国際A・Bの足掛りとなる。
 しかしその反面、国内競技のうちの地方格式競技には出られなくなってしまう。これにはアマチュアも気軽に参加できるレースも含まれ、開催数も多い。本来ジョーがメインとしているN2は準国内格式だが開催数が少ない。
 ここでもし彼が国際Cを取ってしまったら、一番参加できるチャンスの多いレースの出場資格を失う事になるのだ。
 もちろんレースをするからにはより上のクラスを目指したい。しかし今の彼の状態では現状維持が精一杯だ。海外で行われているレースにも出たいが、彼のドライバーズ・テクニックと車両の保持のためには開催数の多いレースに出て保つしかない。
「プロやF1のレーサーになるのでなければ、上級ライセンスを取るのはあまり急がない方がいい。君はまだ若いし、チャンスはいくらでもある。今、できる事をやればいい」
「・・・・・」
 興味はある。レースをやりたいと思った時、頭に浮かんだのはやはりプロのレーサーだった。だが・・・、
「そうですね・・」ふっと頷き、しかしすぐに顔を上げた。「でも諦めてはいません。いつか必ず国際レースに出場してやりますよ」
 ジョーの、強い意思を込めた瞳が真っ直ぐに前を見る。彼の瞳の先にあるもの・・・。
 その瞳を正面から見据え、いくつになろうと、この男だったらやり遂げるだろうと沢口は思った。


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