コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Three days 3

 神宮寺が森と共にJBに戻ったのは夕方の6時を回った頃だった。
 すでに相棒の姿はなかったが、まっ、そんなところだろう、と予想はついていた。
 Sメンバーに勤務時間はない。事件を抱えていなければJBに出てこなくてもよいのだ。が、一人暮らしをしている4人は仕事がなくてもJBに来ている事が多い。時々佐々木に捕まって手伝いをさせられるが。
「はい─あ、母さん」神宮寺の電話の相手は母親の和美だった。「ええ、わかってます。明日の晩でしょ?7時にホテル銀座の5階─え?」
 引き出しをガサガサ引っ掻き回していた手が止まる。
「えー?そんな・・・。肝心の父さん抜きだなんて・・。ええ・・まあ、それは・・。え?ジョーをですか?まあ、話してみますけど、あいつ堅っ苦しいのはきらいだし・・。はい、わかりました。明日、話してみます」それじゃあ、と電話を切る。「だけど・・もし事件が起きたら2人共ダメになってしまうな・・。そうしたら母さん1人か・・」
 今さらながら親不孝をしているなあ、と思った。
 
「JBのセキュリティ原案ですか?」洸がモニタの中の情報課々長の井上を見る。「ああ、これか─。ええ、ファイルはこっちに来ています。これ見るんですか?」
『うん、まだ草案なんだけど君にも目を通してもらえると助かる。コンピュータに関しては我々より君の方が上手(うわて)だからな』
 井上の言葉に、いや?まあ?、と洸がテレる。
「でも今は無理ですよ。まだ途中の仕事があって─」
『仕事?JB2は事件を抱えているのか?』
「いえ、事件じゃないけど、プロジェクト・タカコが─」タカコ?と聞き返す井上に、「あ、な、なんでもないんです。とにかく手が空き次第見ますので」
 あわてて通信を切った。
「まったく、いくらコンピュータが得意だからって女性の調査までできないよっ。セキュリティのファイル読む方がずーとラクだ!」とはいうものの、このまま放っておく事もできない。なにせ頼んできたのはあのジョーだ。「仕方ない。こうなったら裏の手を─」
 洸はケータイのアドレス帳を表示し、‘木村’と書かれた名前をプッシュした。

「関」ジョーは自分の横に立っている男を見上げた。「なんであんたがここにいるんだ?]
「なに言ってる。君が呼び出したんじゃないか。店の地図付きで」
「え?おれは神宮寺を─」ジョーがケータイのアドレスを開けた。神宮寺の名前の上に関の名があった。「・・間違えた」
「君はおれと話したんだぜ。その時に気がつかなかったのか?そうとう酔ってるな」
 とりあえずジョーの横に腰を下ろす。
 新宿の裏通りにある小さな店の止まり木は、今のところ2人だけだ。
「酒はあまり得意じゃないんだろ。それとも何かあったのか?」
「うるせェよ。あんたには関係ない。いい気分で飲んでいるのにゴチャゴチャ言わないでくれっ」
「関係ないなら帰るぜ」
 立ち上がった。と、ジョーが怒った様な目を関に向けた。目が合う。
「・・・ったく」関が再び腰を下ろす。「あ、おれ水割り。シングルのシングルね」
「なんだ、それ?」
「この時間だと、まだ一斉があるんだよ」
「ふうん・・」
 ジョーが気のない返事をする。グラスを手にし中の氷をカラカラ鳴らした。と、急に後ろから近づいてきた女がジョーの髪を引っ張った。そのまま店から出て行く。
「なんだ、今の女?知り合いか?」
「知らねぇよ。さっき声を掛けられたんだけど、男と待ち合わせしてるって言ったら変な顔をされた」
「・・・・・」それはそうだろう。もっともその‘男’は自分ではなく彼の相棒なのだが。「で、その男に何か相談事でもあったのか?」
「別にあいつじゃなくても・・・。一人だと女がうるさいから呼んだだけだ」
「ナマ言ってんじゃねえ。ガキが!」
 ジョーのおデコをピンッ!と指で弾いてやった。
「なにすンだよ!せっかくご老体のグチを聞いてやろうと思ったのに!」
「どーいう展開だ、そりゃあ?」関が呆れるのを、ジョーはフンッとそっぽを向く。彼自身よくわかっていないようだ。「ま、明日は久々の公休だからいいけど・・」
「そういえば」ジョーが思い出したように呟き、関に目を向けた。「あんた、昔はこっち(JB)に来たかったって言ってたよな。なんで来ないんだ?」
 あ?と、関が顔を向ける。
「あんたなら希望すればこっちに移動するのは難しくないだろう。なんでだ?」
「さあ・・・なんでだろう・・・」
 たばこに火を点けたがジョーが灰皿をグイッと押し付けてきたので仕方なく消した。
「あの頃のJBはアサクラさんや鷲尾さんがいて・・そう理想的な組織だった。おれも若かったしどうせ働くのならここで、と思ったんだが」彼の心の奥底にある記憶に触れたのか、ちょっと辛い顔になった。「そのうちおれにも部下がついて・・・。これがまた使えない奴らでよ。そうこうしているうちにこの年になった。まっ、いやな上司もいたけど、あそこはあそこでまあ居心地も良くなったし、JBに関わる部署に移動したし─」
「今じゃあんたがその‘いやな上司’だ」
「なんとでも言ってくれ。でもなぜ急にそんな事を訊くんだ?」
「・・・・・」ジョーはグラスに目を移し、水割りに口をつけた。「願えば叶うかもしれないのに、それを蹴っちまうというのはどういう心境なのかなっ・・て・・」
 ボソボソ言いグラスを呷る。
「おれは今の所で満足しているがね」
「そうだよな。あんたはいいんだ。もう望まなくてもいいんだよな」
 追加のグラスを片手に関を見る。灰色がかった青い瞳に、さらに白みがかかって見えるのはライトのせいか?
「なにグチってんだよ。何かあったのか?普段はズバズバ言うくせに、こーいう時はハッキリしない奴だなァ」と、ジョーの頭がガクンと前に下がる。「あ、こら、寝るな!お前みたいなでかいのを抱っこして送りたくないぞ!」
「おれだってあんたに抱っこされたく─」
 スーと息を吐き、動かなくなった。
「─って、おい・・・」
 でかいのに寄りかかられ関がため息をついた。

「おはよう、洸」一平がJB2室に入ってきた。「早いな」
「早いも何も泊まりだもん」赤い目の洸がモニタから顔を上げた。「セキュリティファイルを読んでいたら帰りそこなったんだ」
 ファ?と大きなあくびが出る。
「ファイルってこれか」一平がモニタを覗き込む。「うわ、ダメだ。○と△と×とにしか見えない」
 まさかァ、と洸が笑いちょっと煮詰まってしまったパーコレータのコーヒーをカップに注ぐ。
「そうだ。さっきチーム3が出動したぜ。まだ捜査課のメンバーだけだけど」
「今まで静かすぎたもんな」洸の指がキーボードを滑る。情報課のサーバに繋がった。「ぼく達、やっぱ休ませてはもらえないんだな」
 モニタに映し出された事件の情報を読みながら苦めのコーヒーを一口啜る。眠気は覚めていた。

「くそォ、なんでおれが関ンちのソファで寝てるンだよ」
 違和感に目を開けると暗かった。いや、頭から何かがスッポリと被さっている。あわてて体を起こすと自分を覆っていたのは1枚の毛布だった。
 周りを見るとやけに殺風景な部屋で、ジョーは3人掛けのソファで寝ていたようだ。
 ここが関の家の居間だという事を思い出すのに、そう時間は掛からなかった。と、同時に昨夜の事も─。
 ジョーは決まり悪げに唸った。関の前でとんだ醜態を晒してしまった。このまま黙って帰ろうかと思い、ふと気がついた。
 関は、寝入ってしまった自分をどうやってこのマンションまで運んだのだろう。年齢の割にはガッシリしたいい体格だが、関はジョーより小さい。店から車へ、そしてここへ・・・。そういえば体のあちこちが痛かった。
「Sメンバーを誘拐するなンざあ、いい度胸してるぜ」
 考えたくない事は考えない。自分が呼び出した事も忘れた。と
「起きたか」関が居間に入ってきた。「昼メシ買ってきたぞ。コンビニのサンドイッチだが」
「昼メシ?」
 ジョーは時計を見て飛び上がった。12時を回っている。あわててソファの背もたれに掛かっていた上着を手に居間を出て行こうとして、つまずいた。
「大丈夫だよ。ダブルJの出動要請はない。チーム3とやらは出たらしいが」
「え?」なんで出勤もしていないのに、そんな事知ってるんだ?「・・まさか」
「ちゃんと神宮寺君に訊いたから確かだよ」
「おれがここにいるって、言ったのかよ!」
「そりゃそうさ。でなければさすがに教えてはくれないよ、おれにだって」コンビニの袋を置きコーヒーを取り出す。「君がここにいる証拠に寝息も聞かせたよ」
「な─!」ジョーが関に詰め寄る。「なんだってそんな余計な事しやがる!」
「何を怒ってるんだ?おれは君に呼び出されて、お守りまでさせられたんだぜ」
「──」
 さすがにグッと詰まった。口をへの字に曲げ関から目を背した。と、
「帰る」上着を手に玄関に向かう。ドアを開け、しかしわずかに振り返り、「─悪かった]
 ボソッと言い出て行った。
「弱いんだよな・・。素直に謝られると」
 肩をすくめ、ジョーの出て行った後を見つめた。

 ジョーは関の家のある曙橋から地下鉄で新宿に行き、駐車場に預けてあったカウンタックを受け取った。
 一晩預けっぱなしになり、その請求書を見て一瞬クラッとなったがなんとか立ち直り、一度自宅に戻ってJBに出勤したのは3時近かった。
 気分は最底だった。よくわからないが腹が立った。
 体中から不機嫌のオーラを発して歩くジョーに声を掛ける者はいない。いや、1人だけ・・・この男は例外だ。
「遅かったな、ジョー」神宮寺だ。ジョーの不機嫌はわかっているが大した事ではない。「よく寝られたか?関さんがわざわざ電話で知らせてくれたんだぜ」
 関は何もジョーがうちに泊まると知らせたわけではない。様子のおかしかった彼の身に何かあったのかもしれないと言ってきた。だが神宮寺には心当たりはない。もし本当に何かあり、神宮寺の力が必要になれば言ってくるだろうと思った。それまでは余計な口出しをしない方がいい。ジョーの場合、あまりしつこく言うのはかえって逆効果になる。
「ああ・・。遅くなってすまん」
 気分の悪さは治らないが神宮寺に当たるのも筋違いだと、さすがのジョーも考えた。
「ところで・・。お前、今夜ひまか?」
「は?そりゃ仕事が入らなきゃひまだが・・・。デートのお誘いか?」
「ん・・・。ま、そんなものかな」神宮寺の言葉に“えっ!”とジョーが仰け反る。「自分で言って引くな」
 軽く睨み、“実は、な─”と話し始めた。
 神宮寺の父、高(たかし)は国立大学の教授職にある国文学士で、先日ある論文が認められ大学から表彰を受けた。副賞の1つにホテルでのディナーが含まれていて一家3人の予約を入れたまでは良かったのだが、本来なら3日後に開催されるはずだった学会が会場の都合で明日になり、高は出席のため日本を発ってしまったのだ。
「それで父の代わりに、というのもなんだけど、母さんがお前を誘ったらどうかと言うんだ」
「おれは、だって・・・」ちょっと口籠もる。「せっかくだから親子2人で水入らずしたらいい」
「だが少し前から母さんはお前を招きたがっていたんだ。波照間島での礼を言いたいって。任務だからいいって言ったんだけど」
「・・・・・」波照間島で聞いた和美の本心。神宮寺には話していない。「まあ・・メシ食うだけならいいけど・・」
「よかった。じゃあ今夜7時に銀座ホテルで─」
「あ、ちょっとまて。もしかしてフォーマルか?」
「一応上着は着用だが、そう堅っ苦しくなくていいぜ。あの茶色のアルマーニなんか─」
「弾痕でオリオン座、作ってるぜ」ジョーの言葉に神宮寺が黙る。「いい服買えねえよな、おれ達」
 苦笑してダブルJ室に向かう。気分は少し良くなっていた。


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