コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

走り続ける者 3

   週末の晴れたある日、ジョーは久々に真っ赤なランボルギーニ・カウンタックLP500で東名高速を一路名古屋に向っていた。
   右横にはミットナイトメタリックブルーの車体を輝かせた神宮寺のポルシェ928GTSが、後ろには洸が乗るトヨタ2000GTが続いている。
  この三台は云わずと知れたスーパーカーで、ブームは下火になっているものの、さすがに三台も連なって走っていれば相当目立つ。おまけにドライバーの三人もそれぞれ人目を引く容姿という事もあり、SAに入るとわざわざ見に来る人もいる。
  土曜日で人出もあるので、三台のまわりはちょっとした人の山になった。
  「あれま・・」右手にアメリカンドッグ、左手に缶コーヒーを持った洸が立ち止まる「車まで辿り着けるかな・・」
  その言葉にあとの二人も歩みを止めた。
  「やっぱり沢口さんの言うとおりキャリアカーでくればよかったかな」
  「冗談じゃねえ。せっかく長距離を走れるのにもったいないぜ」
  ジョーは持っていたホットドックをその場で食べてしまい右手を空けた。その手で人垣を掻き分けカウンタックに辿り着く。 
  ホップアップドアが上がる。人々がわあっと沸いた。大きな体を素早く座席に滑り込ませる。
  神宮寺も洸もそれぞれの車に乗り込んでいる。
  三台がほぼ同時にエンジンを掛けた。カウンタックの、思ったより軽い音。ポルシェの勢いある音。そして2000GTの重めの音がハーモニーのように混じり合い四方に広がったかと思うと、三台はスーと滑るように発進した。
  見物していた人の中には、すぐさま自分の車であとを追ってきた者もいたが、三台が本気を出せばとても追いつけるものではない。
  高速の制限速度など、少しの間どこかに飛んで行ってしまったようだ。
  やがて彼らは名古屋ICからひがし名阪自動車道に入る。ここから三重県の鈴鹿市に向うのだ。
  今回は仕事ではなくまったくのプライベートだ。しかしSメンバーが三人揃ってなぜ鈴鹿市に─というと、これは結城自動車工業社長の結城からジョーに持ち込まれた話から始まる。
  この週末、鈴鹿サーキットではF1日本グランプリが開催される。
  日本で開催されてからちょうど20年目、さらに来年からは富士スピードウェイのみの開催になるので、最後の鈴鹿でのグランプリを飾ろうといくつかの催し物が開かれる事になった。そのひとつにスーパーカーによるパレードがあった。 
  決勝当日の午前中に行われる予定だが、その2日前になって5台のスーパーカーがエンジン等の不調のため参加できなくなった。
  主催者はあわてて、各方面に参加可能な車を持つオーナーを探した。その主催者サイドに結城の知り合いがいたのだ。
  結城自動車工業は鷲尾の時代からJBとは周知の仲で、JBの車両の改造やメンテナンス、またジョーのブルーコンドルの改造をも携わっている。また去年まではジョーがレースに出る時のピットクルーを務めていたが、今年新たにレーシング部門を立ち上げ、ジョーや他のレーサーのバックアップも行っている。そこの責任者が沢口だ。
  彼らはジョーに、神宮寺と洸共々パレードに参加してほしいと依頼してきたのだ。
  話としては興味がある。おまけに午後からはピット前のいい席でF1観戦ができるとあらば、これ以上望む事はない。
  しかし当日は午前9時開催の予定なので、どうしても前日から現地に入っていなければならない。つまり1泊2日になるのだ。
  一平がアメリカに行って日本にいない今、他のSメンバー三人が休暇を取るのはむずかしい。諦め半分で森に相談したら、驚いた事に許可が下りたのだ。森としても、自分が赴任する何年も前から世話になっている結城の申し出を無下に断る事もできなかったのだろう。ただし何か事が起きた時は、すぐさま東京に戻る事を条件としたが。
  ジョーは機嫌よくカウンタックを飛ばしていた。
  スーパーカーが三台も並んで走っていたら目立つので、キャリアカーを出そうかと沢口が言ってくれたがジョーが断った。神宮寺は普段でもポルシェを乗り回しているが、ジョーと洸は別の車に乗っている。ジョーはセリカSS??.洸はMR?Sだ。これももちろんいい車だが、2人はできればカウンタックや2000GTで走りたかった。
  しかし両者共すでに製造中止になった車両だ。万一事故や故障に遭ったら修理ができなくなってしまう。
  それで極力乗らないようにしているのだが、やはり時々は動かさなければならない。今回はいいチャンスだ。
  本当ならカウンタックの最高速度で飛ばしたいところだが、さすがにそれはできない。速度計とにらめっこしながらの走行だが、愛車のシートに収まりエンブレムの付いたステアリングを握り快活なエンジン音を響かせるだけでも満足だ。
  やがて彼らは鈴鹿ICを降りる。が、今日はサーキットには行かない。市内のホテルに入るのだ。
  本当は明日のために一周でもいいから走りたいのだが、F1のフリー走行は今日も行われているのでそれはできない。ぶっつけ本番だ。
  もっともスーパーカーでスピードレースをするわけではないから、事前に一周できれば大丈夫だろう。
  市内に入った辺りから神宮寺のポルシェが先頭になる。カーナビが付いているのはこの車だけだ。イベント主催者が用意してくれたホテルに着いた。
  「どうも遠いところ、お疲れ様です」
  駐車係の申し出を断り自ら指定の位置に愛車を納めた三人がロビーに入ると、開催サイドのスタッフが出迎えてくれた。
   「急なお願いで申し訳ありません。私、横山といいます」よろしく、と三人と握手するが、ジョーを見るとちょっと困ったように言った「あ、すみません。部屋は和室で三人ご一緒なんですが」
  「ワシュツ?」
  「畳の部屋の事だよ」そう言い神宮寺が横山を見た「大丈夫です。和室でも三人一緒でも構いません」
  その言葉に横山がホッと息をつく。
  三人はチェックインし、とりあえず部屋に入った。
  「本当だ。タタミだ」ジョーが声を上げた「ドアなのにタタミの部屋だ。もうひと部屋あるぞ。だけどベッドがない。ここはなんだ?」
  「はしゃぐな」布団の詰まった押入れを開けるジョーに神宮寺が苦笑する。
  「このお茶受け、おいしいよ」早くも洸がお茶とお菓子に手をだしている「鷲尾さんの家には和室はなかったの?」
  「ソーの家にはなかったぜ。日本の家にはあったけど、おれは使わなかったし─。えーと・・ここで皆で寝るのか?」
  「そう布団敷いて─久々だなァ、そんな事するの。出張で使うのって洋室ばかりだもん。高校の修学旅行以来だ」
  「ふうん・・」ジョーがちょっと不可解そうに洸を見る。が、窓に寄ると両手でいっぱいに開け放した「早く走りてえなァ。ブルーコンドルも連れてきたかったぜ」
  「おいジョー、レースじゃないんだぞ。ゆっくりのんびりパレードだ」お茶をフーフーしながら神宮寺が言う「だけど考えてみれば、スーパーカー集めてゆっくり走らせるのはかえって邪道かもしれないな。やはり持てる力を精一杯出して走る事こそスーパーカーの醍醐味だ。トロトロ走ってたら、そりゃスーパーカーじゃない」
  「だよなー」
  言いながら窓枠に腰を下ろす。枯葉色の髪が太陽の光を受け金色に輝いている。ケガと入院続きで手入れができないと、先日かなり短く切ってしまったが、波打つ髪はまだ豊かな分量を湛えている。
  そのあと彼らは再び主催者側のあいさつを受け、ホテル内の小会議室で他の15人の参加者と共にスケジュールの説明を受けた。終わって部屋に戻ると6時近かった。 このあと7時から親睦会を兼ねた小パーティがあるそうだ。
  「その前に風呂に入ろうぜ。展望風呂があるってさ」
  「そうだな、疲れも取りたいし─。ジョーはどうする?」神宮寺が訊いた。
  「ん・・」ちょっと迷ってから「おれは部屋のシャワーでいいや。2人で行ってこいよ」
  「気にしているのか?お前らしくないな」
  「そーいうわけじゃねえけど・・」そう言い前髪を掻きあげる「日本式の風呂は苦 手だ。あ、おれパーティもパスね。頭痛えし、明日走れなかったらイミないからな」
  「また・・」と呟いたものの、いつもの事なので神宮寺も洸もそれ以上は何も言わない。
  三人は揃って部屋を出た。神宮寺と洸は風呂へ、ジョーは車の中に置いてきてしまったらしいライターを取りに─
  「ジョー?おい、ジョーじゃないか?」
  突然後ろから声を掛けられ三人は驚いて振り返った。
  「関・・」
  「やっぱり君か。おお、神宮寺君、洸君も一緒か」
  そこに立っているのは確かに公安三課の関だった。以前事件でタッグを組んだ事がある。
   「三人揃ってるってーのは穏やかじゃないな。仕事か?」もちろんJBの事だ。
  「いえ今回はプライベートです」神宮寺が答えた「関さんこそ、こんな所で何を─」
  「よせ、神宮寺」ジョーが口を出した「聞いたら面倒な事になるぞ」
  「もう遅いよ」関がジョーの肩に手をまわしてきた。が、思いっきり撥ねられた「まあ聞くだけ聞けよ」
  廊下の隅に手招きし、声をひそめる。
   「今朝、爆発物を仕掛けたという予告電話が警察庁にあってな。それによるとー」
  「また爆発物かよ」ジョーが眉をしかめる「バーゲンセールでもやっているのか」
  「大きな声を出すな」ジョーの頭を押さえた「奴らが言うには、週末に開催されるスポーツイベントの会場に爆発物を仕掛けたというんだ」
  「奴らというと・・一人ではないんですね?」神宮寺が訊いた。
  横では渋い顔をしたジョーが、しきりに神宮寺を突っついている。
  「ああ、警察庁に電話が入ったほぼ同時刻に神奈川、愛知、宮城、大阪などの県警にも同様の電話が入っている。全国で11ヶ所だ。だが考えてもみろ。週末のスポーツイベントなんてそれこそ山ほどある。このF1のようなでかい規模のものから、町内のゲートボール大会まで、それこそ数えきれない」
  「ゲートボール大会を狙っても仕方ないと思うけど」
  いつの間にか洸も関のペースにはまってしまった。ぶっきらぼうだが不思議と人を引き付ける魅力のある男だ。
  「離せよ」ジョーは一人その場を立ち去ろうとしたが、関に腕を掴まれた「あんたの仕事だ。おれ達には関係ないだろ」 
  「君達、F1を見にきたんだろ?もしそこで爆発事故でも起きたらどうなると思う?」手を振り払おうとしていたジョーが、ピタリと止まった「もちろんここが奴らの言う現場かどうかわからない。サッカーのリーグ戦や競馬もあるからな。だがかなりの確率で、何か起きるとすればやはりここだと思う」
  「だったら早いとこサーキット内を捜索すればいいだろ」
  「もちろんやったさ。だが発見されなかった」
  「・・本番は明日の決勝時ですかね」神宮寺が怖い事を言う。
  「おそらくな」関が一瞬真剣な顔付きになる。が「まっ、そんなわけだから何かあったら協力してくれ」
  にこやかに笑いかける。美人ならともかく、関に笑いかけられてもあまりやる気にはなれない。しかし本戦中に何かあったら大変だ。
  「あ、お風呂行ってる時間がなくなっちゃった」洸が時計を見た「仕方ない、シャワーで我慢して、あとで行こう」
  「わかりました関さん。我々も気を付けてみましょう」2人は部屋に引き返した。
  「忙しいようだが・・これから何かあるのか?」
  「これだよ」ジョーが壁に掛かっているポスターをコツンと叩いた「明日このパレードに出るのさ。今夜はこれからシンボクカイとかでパーティがあるんだ」
  「君は出席しないのか?」
  「メンドーだし、ガラじゃない」
  「そうかな、君なんか行ったらモテると思うぜ」
  「40、50のオヤジばかりだぜ。そこでモテてどーすンだよ」
  「それじゃあ、こっちの40オヤジにつき合ってくれ」
  え?と目を向けてくるジョーの腕を引っ張り、ホテルのロビーを突っ切ると外へ出た。この辺りは鈴鹿市の中心部から外れているせいか割合静かで、それ故外にはあまり店がない。
  「ど、どこへ行くんだよ。それにあんた仕事は?」
  「9時のミーティングまで休憩だ」と足を止める「着いたぞ」
  「・・え?」
  ジョーは目の前の大きな建物を見上げた。何やら建物全体がピカピカしている。ドアが開くたびにハデな音楽が聞こえた
  「ゲーセン・・って、あんたいくつだ?」
  「この年だから、なかなか一人じゃ入りにくいんだよ」
  「チェッ!同じピカピカなら、もうちっと色っぽい所に─」
  クロードはクラブに連れて行ってくれたのに、と言おうとしてふと口ごもる。まわりの風景が一瞬飛んだ。
  「そんなものは東京に帰ればいくらでもあるだろ」さあさあ、と関がジョーを押し中に入る。とたんに大音響に包まれる。
   「おお、さすが地方のゲーセンだ。昔懐かしいギャラガやブロック崩しもあるぞ。お、ジョー、コイン奢ってやるよ」
  と、突っ立ったままのジョーの手に10枚ほどのコインを握らせ、自分はゲーム機の前に座り込んだ。仕方なくジョーも隣に座る。ゲーム機に頬杖を付いて、ゲームに興ずる関を見ている。
  この男はジョーの父がJBにいた頃、やはり仕事でJBに出入りしていたという。一緒に事件を追った事もあるそうだ。
  それにしてもクロードといい、この男といい、親父の昔の知り合いというのはおかしな奴ばかりだと思い、クスッと顔を綻ばせた。
   「おいおいジョー、その笑顔は・・・おれに惚れたか?」
  「なっ─!」思わず立ち上がる「帰るぜ」
  「冗談だよ。ま、もう少しつき合え」笑いながらピコンパコンと音を上げている「君だって、こうやって親父さんと遊んだ事あるだろ」
  一瞬置き、ふと音がやんだ。
   「いや・・すまん・そんなひまなかったな、親父さん・・」
  「・・しょうがねえなァ」また、座り直す。が「あっちのレーシングマシンやろうぜ。対戦できるにみたいだし。なんたってここは鈴鹿だ」
  「そうだな。よしやるぞ!」
  先に立って行く関のあとに付き、ジョーはクスッと笑う。
  関が振り返ると、そこにはひどく子どもっぽい青い瞳が彼を見ていた。 


   「それでさ、食事はおいしかったんだけど、まわり中おじさんばっかりでさ」風呂上りのポワンとした顔の洸がコーラ片手に言った「女の子一人もいないんだもんな?」 
   「あたり前だろ。女の子があんな車持ってるわけないじゃん」
  「明日があるからお酒飲めなかったし。で、ジョーは何してたのさ、3時間も」
  「関がピコピコして、レースとシューティングで勝ったから焼肉奢らせて─」
  「そっちの方が楽しそうだったな」神宮寺も今夜はコーラ組だ。
  「で、最後にミーティングに連れていかれそうになったから、蹴っ飛ばして逃げた」
  「関さんはジョーがお気に入りだからなぁ」洸が“ある種の目”でジョーを見る「あーんな趣味につき合せようと思ってんじゃないの??」
  「・・お前、またまわし蹴りを食いたいのか」 
  ジョーがスッと体を寄せてくる。洸が手を振り回すとジョーの顔面に枕がバフッ!とぶち当たった。
   「なにすんだよ!」
  「知らないの?こーいう布団に寝る時は、皆で枕投げをするルールなんだよ」
  「・・そうなのか?」
  「信じるな」神宮寺がクッとコーラを飲み干す。
  「こいつ!またおれにヘンな事教えやがって!」枕が飛ぶ。洸の顔面にヒットした。
  「ぶっ!ジョー!力入れすぎ!バカ力!」「神宮寺、お前の事、バカだってよ」「違うよ。ジョーがバカなんだ」「バカっていう方がバカなんだ!」「だったらジョーの方がたくさん言ってるじゃないか!」
  バフッ!!
  「痛ってー。このやろー、バカ力はお前のー」
  「うるさーい!!」雷が落ちた「これ以上騒いでいると布団巻きにして伊勢湾に放り込むぞ!」
  「???」
  本当に怖いのは誰だか知っている。2人は黙って布団に潜り込んだ。



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