コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Three days 4

 銀座ホテルは中央通りから1つ入った通りに建っている7階建ての小さなホテルだ。
 しかし銀座でも老舗で、細やかなサービスが評判のホテルである。
 その正面玄関前に赤いカウンタックが停まった。降りてきたのはジョーだ。バレット・パーングにキーを渡そうとして、ふと思い直し自分で駐車場に入れた。と、少し向こうに青いポルシェが見えた。
「おばさん、ご無沙汰してます」ジョーはこちらに歩いてくる神宮寺と彼の母、和美に向かって頭を下げた。「招待ありがとうございます」
「ごきげんよう、ジョーさん。急なお話でごめんなさいね」
 上品なベージュのスーツを着た和美は、ジョーの顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
 幸子より小柄だが、雰囲気はよく似ている。ジョーはなにげなく和美の手を取ると自分の腕へとエスコートした。神宮寺に向かってウインクをひとつ送る。
 神宮寺は肩をすくめ2人の後に続いた。
 ベルボーイがドアを開けその3人がホテルのロビーに現れると、人々の目は一斉に3人に向けられた。
 40半ばの上品な婦人、そしてその左右に立つ青年に目を奪われる。
 婦人に似た顔立ちの、黒に近いスーツを着たしなやかな体つき、知的に輝く黒い瞳で鋭く辺りを見回し、が、母には優しい眼差しを向ける。
 スポーツで鍛え上げられた体が醸し出す優美さと力強さのコントラストが、なんともいえず魅力的だ。
 もう一方の、枯葉色の髪に灰色がかった青い瞳の青年はスラリとした長身とやはり鍛えられた身体を濃いグレイのスーツで覆い、婦人をエスコートしている。
 もう1人の青年とは違い、スーツのボタンを掛けずに前を開いたままという少々行儀の悪い着こなしだが、彼の風貌には不思議とよく合っている。
 しかし、やはり時折辺りを見回す鋭い目つきが彼らを普通の青年とは違う印象を与える.
 3人は周囲の視線に物怖じする事なくロビーを横切り、エレベータで5階に上がった。1番奥のレストランにボーイの案内で入る。
 とたんにジョーの足が止まった。
 店内はそう広くはないが、白い壁と落ちついた北ドイツのインテリアでまとめられていた。壁には、黒い屋根に赤レンガ作りの家が並んでいるリトグラフが掛けられている。
 間違いなく北ドイツ・・・ハンブルク周辺の街並みだ。
「・・今まで気にしていなかったが・・」
 ジョーの様子を見て神宮寺が気がついた。が、
「ここだ・・」ジョーが呟いた。「鷲尾さんのオムライスの店・・・」
「え?」いつだったか聞いた事がある。食事に行ったレストランのメニューにオムライスがなく、鷲尾がゴネたのでシェフに作ってもらった、と。「ここなのか?」
「間違いない。今まで忘れていたけど・・・」目を細め店内を見回した。「確かにオムライスはないだろうな」
 苦笑してボーイが引いてくれたイスに腰を下ろした。
 ドイツより日本で暮らした年数の方が多いはずなのに、ドイツの雰囲気やインテリアとピタリとマッチする。
 やや顔を上げ、街並みの絵を懐かしそうに見るジョーの横顔を神宮寺も和美も何も言わず見つめている。ふとジョーが目線を2人に戻した。少しきまり悪そうに、だが口元には小さな笑みが浮かんでいた。
「お誘いして良かったのかしら」
 青い瞳の中に一抹の寂しさを見たのか和美が訊いた。
「Natulich、Danke schon(もちろんです。ありがとう)」
 その瞳に極上の笑みが輝いていた。

 射撃場に銃声が響く。グロック銃を手にした中根だ。射撃は元々得意分野だ。警察学校でも常にトップだった。
 だがJBには中根より上手な者はいくらでもいた。その頂点がジョーだ。
 彼に追いつきたい。そして追い越したい。いつしか中根はそう考えるようになっていた.
「中根」洸だ。「すごく良くなってるね。フォームもビシッと決まって、弾道もいい」
「ありがとう」
 中根はちょっと複雑な面持ちで微笑んだ。ジョーに言われた欠点を直した成果だった。これでは追いつくどころか後についていくのが精一杯じゃないか。
「中根がこんな格好良くなったら、?悪童軍団?のナカネも替えなきゃいけないかな」
?国際秘密警察悪童軍団?は洸が作ったゲームで、JB内のみ流通している。実際に、?JBの悪童共?と呼ばれているメンバーを登場人物にハデなアクションを繰り広げ、最後には敵の基地を破壊する。なかなかの人気のゲームだ。
「それだけどさ、洸。どうしておれはいつもジョーに怒鳴られる役なんだ?」
「愛される役の方がいーい?」洸の言葉に中根の首がブルル・・と高速で振られた。「今、作ってるパート2では、もっと格好良いキャラにするよ。もっとも今忙しくて全然進んでいないんだけどね」
「JB2は事件を抱えてないだろ?」
「事件はないけど、システムセキュリティだのプロジェクト・タカコだの─」タカコ?と聞き返す中根に、「あ─な、なんでもない。秘密のプロジェクトさ」
 と、あわてて自分の練習用のブローニングを的に向ける。が
「─地震?」
「ほんとだ」2人は一瞬動きを止めた。「けっこう大きいな。この前もあったし─」
「うん。でも地震相手じゃ、手の出しようがないな」
 洸がブローニングを構え直した。

 ドイツ料理のフルコースの最後はザッハ・トルテとコーヒーだ。ベルギーのチョコを使い、甘さを抑えた大人の味に仕上げてあるので神宮寺もジョーも食べる事ができた。
「近くにこんなドイツ料理を出す店があったなんて知らなかったな」
 食べ終えたデザートフォークをキチンと揃えジョーが言った。普段はぶっきらぼうだが食事のマナーは幼い頃に躾られていたので公式のディナーにも対応できる。もちろん、そんな機会はめったにないが。
「でも1人じゃ入りづらいですね」
「あら、彼女と来ればいいじゃない」和美の言葉にジョーはコーヒーを吹き出しそうになった。「あら、いないの?こんなに素敵なのに。いい人を紹介しましょうか?」
「母さん」神宮寺が眉をひそめる。「やめてください。相手に迷惑です」
「なんだよ、自分だっていないくせに」
「そうですよ。2人共だらしないわよ。しっかりいい人を捕まえなきゃ。いつまでもこんなおばさんにつき合ってもいられないでしょ」
「おれ、おばさんがいい。神宮寺の親父さんがいなかったら放っとかないのに」
「あら、嬉しいわ。こんな若い人に言われるなんてめったにない事ね。シンガポールに行かれたお父様に感謝しなくては─。でも、そうね、せめて後20才若ければ・・・」
「あ、おれ全然OKです。おばさんの魅力の前には、こんなコブ付きでも─」
「いいかげんにしろ。?子ども?の前で」?コブ?が苦笑する。「母さんもです」
 ジョーと和美が顔を見合わせクスッと笑った。
「さあ、もう行きましょうか」神宮寺が立ち上がり、ふと動きを止めた。「地震だ」
 シャンデリアが揺れ、テーブルの上のグラスがカタカタ鳴った。が、すぐ収まる。
「最近多いなァ」
 レストランの出口で伝票にサインした。
 マネージャーがドアを開けようとした時、突然、ドドド・・・という音が響いてきた。床を誰かが何かで殴打しているようだ。頭上のシャンデリアがキラキラと音を立てて大きく揺いだ。
「危ない!」
 シャンデリアが落下する瞬間、神宮寺はすぐ横にいた和美を体で覆い、ジョーは2人の体を落下物が到着する前に自分の方へ引き込んだ。
 ガッシャーン!とハデな音を立ててシャンデリアが床に散らばる。誰かの叫び声が聞こえた。と、神宮寺が体を起こす。自分の下にいる和美に、
「大丈夫?母さん」
「え、ええ、私は─。あら、ごめんなさい」
 自分の下になっているジョーに気がついた。
「おれは大丈夫。おばさんにケガがなくて良かった」間一髪でシャンデリアの直撃は免れたようだ。と、神宮寺が小さく声を上げた。「どうした?」
「足を・・・ちょっと・・・」
 見ると彼の左足がシャンデリアの下に挟まっていた。ジョーは重いその部分を退かす。足に触れると神宮寺が顔をしかめた。
「折れちゃいない。打撲か悪くて捻挫だ」ジョーの言葉に和美がホッと息をついた。「しかし・・・いったいどうなってるんだ」
 ジョーは神宮寺に手を貸し近くのイスに座らせると店内を見回した。
 平日の夜のせいかお客は少ない。彼らを入れて5、6組か。マネージャーとスタッフが1組づつケガはないか訊いている。
 和美が氷を貰いにスタッフと厨房に向かった。どうやら店内は、入口近くのシャンデリアが落ちた以外は壁に掛かっているリトグラフが何枚かずれたくらいで大した被害はなさそうだ。一番重傷なのは神宮寺らしく、和美が息子の足にタオルに包んだ氷を当てている。その横でマネージャーがしきりに頭を下げていた。と、その彼をスタッフが呼んだ。
「大変です。階段が埋まって通れません」
「埋まって?」
 神宮寺が顔を上げジョーを見た。
「見てくる。ここにいろ」
 ジョーが階段の所まで行くと、なるほど上から落ちてきた瓦礫で上下共階段は完全に埋まっていた。人力で掘り起こすのは時間が掛かりそうだ。
 ジョーはふと上に目を向けた。細かい破片がパラパラと落ちてくる。
「どうだ、ジョー」
 レストランに戻ってきたジョーに神宮寺が訊いた。
「かなりの量の瓦礫が落ちている。このメンバーで退かすのはちょっときついな」
 ジョーが辺りを見回した。客はマネージャーによって店の中央に集められている。場所柄か年配者が多い。若者は彼ら2人とレストランのスタッフ5、6人か─。
 と、天井がミシッと鳴った。次の瞬間、ドーン!と轟音が響き、大量のコンクリート片が落ちてきた。
 神宮寺がとっさに和美を抱え込み、その2人をジョーが覆った。店内が白くなった。

 激しい震動に洸は自分の前のパソコンを守るように抱きついた。
 一平は全館放送のスイッチを入れる。これで司令室にもなっている森の部屋からの放送が聞ける。と、同時にテレビのスイッチも入れた。画面は全局臨時ニュースになっていた。
「─震度6弱、震源地は千葉南部─」
 男性アナウンサーが自分を落ちつかせるようにゆっくりと原稿を読んでいる。と、画面が唐突に切り替わった。どこかの街中─建物のいくつかから黒い煙が出ている。一軒はホテルだろうか。上階の一部が壊れ傾いている。
『各課部、被害状況を知らせよ。各長は直ちに─』
 スピーカーから佐々木の声が響いた。
「これひどいな」テレビを見ていた洸が眉をしかめた。「ホテルかな。銀座みたいだ」
「こ、このホテルって」一平が声を上げた。「まさか神宮寺達の─!」


          3 へ     ⇔     完 へ

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