コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Countdown a deadline 1

「腹へった?」JBの食堂の入口でジョーが声を上げた。「杉本さん、何か食わせてください」
 彼は調理場に声を掛け、神宮寺と共に指定席のようになっている窓際の席に向かい合って腰を下ろした。真夜中近い時間とあって、食堂内には2人と待機中の洸の3人しかいない。
「公安3課と交替したの?」洸が訊いた。
「ああ、冬の張り込みはやっぱ辛いな。ずっと車の中だと体が痛くなるし」
「それは大変だな」杉本が2人の前に大きめのお椀を置いた。「さあ、食べてくれ」
「・・・なんだ、これ?」
 ジョーが覗き込む。
「正月用雑煮バージョン3だ」
「杉本さん・・・」ジョーがテーブルにクタッとへたばる。「おれ、腹へってンですけど・・・」
「バージョン3って事は─1と2もあるんですか?」
 苦笑しつつ神宮寺が訊いた。
「ああ、1はチーフ、2は今洸君が試食してくれた。これは改良最新版だ」
「そうか・・・。もう後3日で年明けか・・・」
 神宮寺は暖かい椀を手にし、ふと時計を見た。日付が変わっていた。

 年の瀬も押し詰まった12月末のJBに、公安3課から1つの情報が寄せられた。
 国際的密輸組織?デルタ?が、東京湾から大量の銃と弾薬を日本に上陸させようと計画しているという。
 この件は始め公安だけで手掛けていたが、他に年末のテロ情報や要人の護衛などの仕事が入り、この密輸計画の件は3課に一任されJBに応援を求めてきたのだ。
 もちろんJBもいくつかの事件を抱えており、3課8係の責任者でもある関もなんとか自分の所だけで対応できるよう頑張っていたのだが、東京湾というだけで場所の情報はなく、もちろん日にちもわからない。
 密輸品の物が物だけに即危険度が増すので、のんびりしているわけにもいかなかった。
 そこでJBの出せる人数での応援を依頼して来た。と、事件を抱えていないのはダブルJとJB2のSメンバー4人だけだった。
「?東京湾??年末?。この2つだけの情報しかないのに張り込むなんて。関も知恵がねえな」
 JBの捜査車両の1台、ハリアの運転席でジョーが毒づく。
「こっちの人数が限られているんだ。いくつかのポイントをアップするしかないだろう」助手席の神宮寺が言った。「それに、事が起こる前に防ぐ。これが本当の警察の姿かもしれない。おれ達が日常のようにやっている銃撃戦の方が異常なんだ」
「・・フン」
 ジョーが口元を曲げて前方を睨む。
 ここ品川埠頭はあまり大きな船の出入りはない。が、小さな船が多いという事はかえってこちたを混乱させやすい。
 ここの他に晴海や大井など5、6ヶ所に公安とSメンバーが交替で張り付いている。
 2人も昨夜一度JBに戻り、食事と仮眠を取り今朝また交替したばかりだ。
「・・・ゾウニってさ・・・」
「え?」
「あれは変わった食い物だな」
「・・・雑煮の話か」神宮寺がイヤホンを外した。ニュースを聞いていたらしい。「日本の正月では定番だけどね。杉本さんは神奈川出身だから醤油味だけど、白みそやあんこ餅を入れる所もあるんだぜ。鷲尾さんちは雑煮なかったのか?」
「あったけど、おれ食わなかったし」
 ジョーが鷲尾家に引き取られてから7、8回は正月を一緒に迎えたはずだ。
 もっとも鷲尾は海外生活が長く、あまり日本風の正月に拘らなかったのかもしれない。
 JBは独身者が多く、おせちは無理だがせめて雑煮くらいは、と何年か前から杉本達が色々と工夫して提供している。
 だがそのせっかくの料理にジョーは箸をつけなかった。もちろんそれ以外の普通の食事も出されたが。
「うまいのにな。餅は腹持ちがいいし。でもその後に焼き魚定食はちと重かった」
 食べ過ぎた、と神宮寺は仮眠の前にジムでひと運動してきたのだ。
「しかしじっとしているのも疲れるぜ」
 ジョーが車外に出た。冷たい海風が彼の前髪をサァッと跳ね上げた。鋭いブルーグレイの瞳が現れる。その瞳を少し隠す長さまでようやく髪が伸びたところだ。と、男が1人足早に近づいてきた。
「何かあったんですか?」
「あ?」前髪を掻き上げジョーが男を見る。3課の・・・誰だ?「別に何もねーよ」
「なんだ」男が顔をしかめる。「何もないのにあまり動かないでください。それでなくてもあなたは目立つ。どこで誰が見ているかわからないのだから」
「なんだと?」ジョーが男に体を向けた。その男は決して小柄ではないがジョーの全身から吹き上がる威圧感に一瞬たじろぐ。唇が動き何か呟いた。「あんまりピリピリしていると、いざという時動けねえぜ。足手まといになってくれるなよ」
「わ、私が足手まといになると─!」
「坂下さん」神宮寺だ。「すみません。彼にはおれから言っておきますので─。それにこんな所で言い合いをしている方が目立ちますよ」
「─フン」
 男─坂下は2人をジロリと睨み、自分の車に戻っていった。
「なんだあいつ。関の部下にあんなきつね目がいたか?」
「配属されたばかりらしい。さっき紹介されただろ?」
「ヤロウなんかいちいち覚えてられっかよ」
 舌を打ち、それでも車内に戻った。
「覚えてなくてもいいから、ケンカはするな。時に仕事中はな」
「あっちが先に仕掛けてきたんだ」
 子どものように口をへの字に曲げ、前方の公安のカローラを見る。ここからなら充分ウッズマンのターゲット内だと思った。
『ハリア、カローラ、こちら関だ』通信機が鳴った。『湾岸事務所から不審船の連絡が入った。品川埠頭に向かっている。5千トンクラスの貨物船で、船体名は─』
「あれだぜ」ジョーの目が早くも不審船を捕らえる。「インディス号─」
『もう見つけたか。相変わらず鋭いな、ジョー』
「あんたンところのきつね目よりは目が利くかもな」
『きつね目?なんだそれ?ジョー、なんかスネてるのか?』
「関さん、確認しだい相手を確保します」
 神宮寺が言い通信を切る。ジョーはすでに車外に出ていた。
 インディス号がかなりの速さで岸壁に近づく。
「しかし、こんな真昼間に東京の近くで堂々と密輸品を降ろすだろうか」
「おかしーよな」
 それでも確認しなければならない。2人は接岸するインディス号にゆっくり近づいていく。と
「君達!関主任からの命令は出ていないぞ」坂下だ。「戻りたまえ!」
「なんだって?今、連絡してきたじゃないか」
「あれは情報連絡で、突入は指示されていない」
「・・・・・」
 2人は一瞬坂下を見つめてしまった。坂下がまたたじろぐ。だが
「主任達がこちらに向かっているそうだ。到着してからでも遅くはない」
「冗談言うな!おれ達はただ見ているためだけに張り込んでいたんじゃねえ!」
 2人は再び歩を進める。さらにわめく坂下の元に他の公安のメンバーも車から出て来た。と、そこへ数発の弾丸が撃ち込まれる。インディス号の甲板からだ。
「チェッ、気づかれちまったぜ」
 ジョーはウッズマンを、神宮寺はオートマグをホルスタから抜いた。が、明らかなミスを自覚したのか、坂下はポカンと口を開けその場に突っ立ったままだ。
「危ねえって!」ジョーが積み上げられている木箱の陰に坂下を引っ張り込んだ。木箱の上を弾丸が走る。「あんた、銃は?」
「・・・車の中に・・・」
「な─!バカかっ!」
 ジョーが叫んだとたん、何か大きな物が飛んでくるのが見えた。木箱の上に落ちる。
 ジョーがとっさに坂下を抱き込み跳び出した。
 ドンッ!と轟音と共に木箱が吹っ飛んだ。爆風と破片が2人を直撃する。
「ぐうっ!」
 脇腹に激痛が走る。坂下を抱えたまま地面に転がった。痛めたらしい脇腹を再び硬いコンクリートにぶつけ、一瞬気が遠くなった。
「ジョー!」
「陰に入れ!」
 神宮寺と関の声が聞こえた。
「さ、坂下・・・。あそこのコンテナの陰に・・・」
 ジョーの指差す方に坂下はあたふたと転がって行った。ジョーは再びウッズマンを抜くと応戦に入った。

「あの船は密航者を隠していたんだ。例の密輸船じゃなかったよ」
 関が言った。駆けつけた関の班が船内を捜索している。
「なんだよ、紛らわしいな」ジョーが舌を鳴らした。「品物を降ろすにしては堂々としているからおかしいとは思ったが、?お客さん?だったのか」
「そのお客さんを降ろすために撃ってきたんだ。案外大物かも─」
「だから止めたんだ」神宮寺の言葉を坂下が遮る。「関主任の到着を待ってから乗り込んでも遅くはないと。なのに彼らは私の命令を無視して─」
「命令?」神宮寺が眉を立てる。「我々にはあなたの命令に従う義務はありません。公安と我々はまったく別系統で動いています」
「君達が先走ったために、奴らに気づかれたんだぞ!」
「気づかれたのはあんたが不用意に騒いだからだ。おれ達なら奴らに職質を掛け、抑える事もできた。あんたの手を煩わせなかったろうよ」
「私を無能扱いする気か!第一、イタリアマフィアのジェルマーノの血縁者がなんで国際警察にいて、公安の仕事にちょっかい出してくるんだ!」
「!」
 ジョーの動きが止まる。青い瞳が坂下を凝視した。と、関が坂下を殴り地面に転がした。驚いて関に目を向けている坂下をジョーは一瞥したが、何も言わずに踵を返し停めてあるハリアに向かった。
「ジョー」関が追いついてきた。「す、すまない。あいつはキャリでうちには研修に来たんだが─。手柄を立てようと狙っているようで─。だが君達が活躍したので─」
「─マフィアの身内だって事で・・・公安はおれを抑えているんだな・・・」
「ン・・まあ・・・それは・・・」
 関が困ったように口籠もる。
 ジョーの母方のグランディーテ家はイタリアの元貴族の素封家だが、彼の曽祖父の時代までマフィアと繋がりを持っていた。
 その後曽祖父が一代を懸け関係を断ち切ったが、長年繰り返された婚姻により一族の中にはまだマフィアの血族が残っている。
 もし今でもそのまま関係が続いていたら、そのファミリーの頂点に立つのはジョーだったかもしれない。公安が情報の1つとして抑えておくのは当然だ。
「だが君の身内が何をしようと君は君だ。彼らとは関係ない」
 なっ、そうだろ、と神宮寺に同意を求めた。
「まっ、しようがねえや。会った事もない奴らだが事実だもんな。気にしていても仕方がねえ」きつく微笑み関に目を向ける。「だけどこんな事でキャリアをぶん殴ったらあんたの立場が悪くなるぜ」
「そうしたらJBに拾ってもらうさ」
「やめてください。ムチャな奴はジョー1人で充分です」
 神宮寺が言い関が笑う。と、甲板から部下が関を呼んだ。“じゃあまた”と走っていく。
 2人はハリアに向かうため歩き出したが、コンテナの陰に入ったとたんジョーが身を屈めた。
「どうした?」
「さっきの爆発で・・・」脇腹の少し上を手で押さえる。今まで我慢してきたが、動くとズキッと激痛が走る。「アバラ・・やられちまったかも」
「なにをやせ我慢していたんだ」
 神宮寺は、膝を付きそうになるジョーの体を支えてやる。
「だってあんな奴に弱みは見せたくないだろー!いってて」
「─ったく」
 ため息をつき、助手席のドアを開けてやる。

 JBの医療部に詰めていた榊原の診察でジョーはアバラ骨1本が折れ、2本にヒビが入っている事がわかった。
 動けないほどのケガではないが、このところケガ続きの彼にドクターストップが掛かってしまった。が、かといって忙しい年末に休みをくれるほど国際警察は甘くない。
 動けなくても連絡係くらいできるだろうと、ダブルJ室のパソコンの前に座らされた。
「チェッ、うまくすれば寝正月できると思ったのによっ」
 デスクワークは苦手だ。それなら多少痛くても動いていた方がいい。ジョーはそう抵抗したが無駄だった。
「ジョー、ちゃんと聞いててよ」洸がジョーの顔をグッとモニタに向けさせた。「ぼくの作ったソフトを使えば、情報収集も連絡も一度に簡単にできるんだ。ジョーにもすぐできるくらいに」
「こんなのより、JBを脱出できる装置を作ってくれ」と言いながらも洸のご教授通りキーボードを叩いてみせる。「フウン・・・こいつでおれ達の通信機にも連絡できるのか」
「そうだよ。だからしっかりバックアップしてよ」
 ジョーの肩をバンッと叩き、交替時間だからと行ってしまった。
 神宮寺は佐々木の下に報告に行ったまままだ戻らない。
 ジョーは何気なくモニタの検索欄に“maf─”と入れ、しかし途中で手を止めた。
(おれはおれだ。奴らとは関係ない)
 普段はそんな事忘れている。仕事上で利用できるなら利用してやろうと思うが、ここ何ヶ月思い出しもしなかった。
 いやたとえ思い出したとしても、顔も見た事もない奴らの事など自分にはなんの影響もないと思っていたのだが。
(そんな奴らの影に捕らわれるなんて・・・どうかしている)
 決して任務から外されたからではない。何か不安のようなものがジョーの心を占めつつあった。
「気にしてるのか?」
 ふいに声を掛けられ振り向くと神宮寺が立っていた。
「そうじゃないけど・・・」検索欄をクリアにする。「いや・・・それだとうそになるかな。今までは気にしてなかったんだけど、初対面の奴に言われるとな・・・」
 ちょっときついかも、とかすかに笑う。ウッズマンを手に入れてからは見せた事のない気弱な表情だ。
「お前自身が彼らの仲間というわけじゃないんだから気にするな」
「わかってるけど・・、やっぱイメージ悪いよな。イタリアマフィアといえば本場だぜ。ギャングと同一視されそうだ。絶対何人か殺ってるよな」
「それならうちだって武士の家系だ。何人か斬ってるだろう」
「・・・かなり違うぜ、それ」ちょっと口元を緩ませる。が、「公安に握られてるなんて思わなかったな。関も知ってたんだ。それでおれのまわりをウロチョロしていたのかな」
「それは違うぞ。関さんは本当にお前が気に入ってるんだ。小細工するような人じゃない」
「・・・・・」
 神宮寺の言葉にジョーは何も言わずモニタに目を向けた。しかしその目から、関やまわりの者達への不信感は消えていなかった。


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