コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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よみがえれ 歩き出せ 2

「で、結局あの男に金を与えてあんな事をさせた人物はわからないってわけか」
「無理だよ。あの男でさえその人物が誰だか知らないんだもん」ベッドの横で洸がご自慢のノートパソコンを開け、モニタをジョーに向けた。「あの男はネットで“君も世の中を変えてみないか”なんて小学生でも信じないようなサイトに応募したんだ。自分が何をしたいかを送って─。後日サイトから連絡が来て、金と共に爆発物の設計図が送られてきて─それだけさ」
「なんだってそんな簡単に相手を信用しちまうんだ?全然知らない奴なのに。あの男だって金だけ貰って爆弾なんか作らなきゃいいのに」
「それじゃあ世間に認められないだろ。ぼくのノートパソコンに開いたあの窓だけど、本当は警視庁のメインコンピュータに送るつもりだったらしい。なのになぜか─」
「お前のノーパソが拾っちまった」ジョーが、洸の膝の上のノーパソに目をやる。「チェッ、そのまま警視庁に行ってれば、おれがパソに釘付けされたりこんな苦労しなくてもよかったのによ。お前がヘンなソフト作るからだ」
「いーじゃん。そのおかげで希望通りの寝正月になったんだから!」
「絶対違う!」
 ジョーが洸の頭をパコンとはたいた。と、
「ドクタにごあいさつして来たわ」
 幸子が入ってきた。
「JBに寄るんですよね?だったらもう出た方が」
 洸がスクッと立ち上がる。
「そうね。お手間かけてごめんなさいね、洸さん」
「とんでもない!これでも8倍の競争率を勝ち抜けて来たんです」
 荷物はこれとこれですね、とスーツケースを持つ。今日、幸子が帰仏するのだ。
「ええ、ありがとう」それからジョーに目を向けた。「ドクタによくお願いしておいたから。ゆっくり休んで早くいつものジョージに戻ってね」
 頬にそっと手を添えキスをする。ホリの深い男っぽい顔のジョーの瞳だけが、まるで子どものように幸子を見つめた。名残惜しいがグズグズしているのはお互いのためにならない。幸子がドアに向かおうとした。
「エレベータまで─」ジョーがベッドから出た。昨夜から少しづつ歩いているので苦にはならない。でも、と言いかける幸子に、「大丈夫。少し動いていた方が調子がいいんだ」
 そう言ってパジャマの上に厚手のシャツをひっかけた。これ以上言うと病院内でジュギングでもやり出しかねない。本当はジョー自身が成田まで幸子を送って行くたいのだろう。
 ちょっと心配顔の幸子の手を取り、自分の腕にエスコートした。
 先を進んでいた洸がエレベータのボタンを押した。上階にあったのですぐに到着した。ドアが開く。
「鷲尾さんと健によろしく。気をつけてね。洸、頼むぜ」
 任せて!、と洸が答え幸子と共にエレベータに乗り込む。自分のシャツの胸を掴み、ジョーが見送る。
 幸子がニコッと微笑みドアが閉まった。パネルの点滅が下がっていく。
 ジョーはちょっと気の抜けたように息をついた。病室に戻ろうとクルッと踵を返した。と、並列しているもう一機のエレベータのドアが開いた。何人か降りてくる。
 なにげなく中に目を向けた。とたんにビッ!と体内を何かが走って抜けた。
 エレベータには3人の男が残されていた。真ん中の小柄の男はともかく、その左右に立つ男達にジョーのセンサーが反応した。
 外国人らしく、185cmのジョーより大きい。サングラスを掛けているのではっきりとはわからないが、その瞳はおそらく真っ直ぐにジョーに向けられているだろう。それも敵として。
(同業者・・?)
 いや、雰囲気は似ているが違う。もっと泥臭く威圧的だ。ジョーは思わず構えてしまう。が、ドアはそのままスーと閉まった。
(あ、あれ?)ふと我れに返ると、エレベータの前で立ち竦んでいる自分を人々がチラリと見て避けて通っていた。(気のせいだったのか)
 そんなはずはない。あの気配は確かに・・・。が、少し考えてバカらしくなった。こんな所で顔も知らない奴がジョーを敵視するはずがない。あの小柄の男がどこかの偉いさんで、左右の2人はボディガードだろう。ジョーの事は、エレベータ内を覗き込んだ胡散臭い奴だと思われたのだ。
(もう2週間以上ここにいるんだもんな。鈍っちまったかも)
 院内にスポーツジムでもあればいいのに、と本気で思った。
 だがこの数時間後、ジョーは再び彼らと相見える事になる。

 ジョーは階段をゆっくり下り、また登って行く。
 彼の病室のある9階と、外来との境目である5階とをもう何往復した事か。
 個室なのを良い事に、室内で柔軟体操をしていたら担当の看護師に見つかってひどく怒られてしまった。といって廊下をジョギングするわけにもいかない。
 そこで入院病棟ではあまり使う人のいない階段で足慣らしを始めた。
 経過の良さは医師も太鼓判を押してくれた。ジョーも自覚している。胸部も何かに強くぶつけなければ─それはケガをしていなくても痛いと思うが─大丈夫だ。
 後は医師の追い出し許可とJBから迎えが来てくれれば─。
 その時のために、少しでも体力を戻しておかなければ、と思った。
「フウ・・・。でもやっぱりきついぜ」
 歩くのは飽きたので走ってみたら、たちまち足に来た。20日近いベッド生活で完全に鈍っている。
 だがここで無理をして転びでもしたら退院が遠のくかもしれない。ジョーは彼にしては珍しく慎重に歩を進めた。
 少し早足でさらに3回往復したらかなり汗をかいた。暑がりのジョーには館内は暑すぎる。
 彼は5階にある屋上庭園へ出た。
 隣接する低層外来棟の屋上を利用したこの庭園は、低木の植木で道が作られ所々にベンチが置かれている。
 周りで高い建物はこの病院と大学だけなので風の通りが良い。が、暖かい昼間ならまだしも、冬の夕方近いこんな時間に人はいないだろう。と思ったが、庭園の奥に先客がいた。
 ピタッとジョーの動きが止まる。先客は昼間エレベータ内で見たあの3人の男達だった。
 小柄な中年の男は厚いガウンを着ている。入院しているのだろう。
 2人の大柄の外国人は、シャツの上にブルゾンを着ていた。今はサングラスをかけていないが、その目はジョーの存在を捉え警戒している。
 だがジョーは彼らに用はない。冷たいが気持ちの良い風にしばし吹かれて、また館内に戻ろうと踵を返した。
 瞳の端でチラッと3人を見るとなにやら話をしていた。ジョーに敵意がないのがわかったのだろう。男達の目が弛んでいた。と、館内に通じるドアから2人のスーツ姿の男達が庭園へ出て来た。
 ジョーのセンサーが反応した。多分彼らの仲間なのだろう、とそのまま擦れ違おうとした。が
“Es gaf ls、Es ist dieser Kerl(いたぞ。あいつだ)”“Ich werdo es hien machen(ここでやってしまおう)”
 ふいに耳に飛び込んできた言葉に思わず振り返る。男達の手には小型の銃が握られていた。
 その銃が持ち上がる前に、ジョーが男にスライディングをかけた。足を取られた男は植木の上にひっくり返った。
 中年男についていた1人が騒ぎを聞きつけこちらに向かってくる。
 思わぬ所から攻撃を受けたスーツの男は戸惑い、ジョーとブルゾンの男のどちらに対応したらよいのかわからなくなっていた。
 とりあえず近くにいたジョーに向かい発砲した。弾丸は彼の頬を掠りしかし次の瞬間、ジョーの足が男のアゴを蹴り上げていた。
 先にひっくり返った男は、ブルゾンの男に地面に押さえつけられていた。
 この時になってやっと病院の警備員が駆けつけた。
 面倒な事になる前に・・・と、ジョーはその場から立ち去ろうとした。が、その彼の腕を中年男がグッと掴んだ。

「ボディガードにスカウトされたァ!?」神宮寺は思わず声を上げ、目の前のジョーをまじまじと見た。「お前なァ。入院しているくせになんでそんなものに雇われるんだ?」
「動きが良くてケンカ慣れしてるって。ドイツ語がわかるのもいいらしい。報酬なんかJBの何倍だぜ」いたずらっ子のような顔でジョーが言う。「もっとも、まだ?Ja?とは言ってねえけど」
「あたり前だ。OKされてたまるか」
 神宮寺が怒ったようなため息をついた。
 幸子が帰国して気が抜けているだろうジョーの顔を見てやろうと楽しみに来たのに、彼はもう別の事に気持ちを移していた。それも楽しそうに。
「早いとこ断れ」
「そうか?一緒に転職しようかと思ったのに」神宮寺がジロリと睨む。「だがよ、1つおもしろい事があるんだ」
 そう言ってジョーはベッド横のテーブルに置いてあるノートパソコンを取った。昨日幸子を迎えに来た洸にJBから持ってきてもらったのだ。
 体を伸ばす時、無意識に胸部を庇うような仕草をするが、実際にはもう痛くないようだ。
「スカウトの話を聞いてから情報課の奴に調べてもらったんだけど」と、ファイルを開ける。「小柄な中年─有田広一郎というんだが、地元の実業家で主に鉄鋼関係の貿易で稼いでいる。紳士録にも載っているらしい。家族はいない」
 指がキーボードを滑り、もう1つのファイルが開いた。
「と、今までのは誰でも手に入れられるデータで、問題はこっちだが─くそ、漢字ばかりで読みにくいぜ」日本に12年もいるくせに、今だ漢字は苦手だ。「こいつは洸の例の?お騒がせソフト?で集めたデータだが、どうやら奴は過去に2回ほど公安の調査対象に挙がった事があるらしい。おそらく公安のデータ内に抑えられてる1人だろう」
「公安の」
 神宮寺は、ちょっといやな顔をしているジョーを見てモニタを覗いた。
 通称、洸の?お騒がせソフト?は一般のデータバンクに入っている以外のデータをどこからともなく拾ってきてしまう。あまりにも危険なのでチーフから使用を制限されているはずだ。強力なコピーガードが掛かっている。ソフト本体はもちろん、データの内容を他のパソコンに送る事はできない。
 もっとも今回のように、内容を別に書き起こしてメールで送る事はできる。かなりの手間が掛かるが。
「・・・使われてるな、洸の奴・・・」
「で、その挙げられた理由なんだが、有田はいくつかの犯罪組織に資金提供をしている疑いがあるそうだ。そのうちの1つにゾンタークの名がある」
「なんだって」
 神宮寺はモニタの、その部分だけドイツ語で書かれた文字を見た。
「なんでゾンタークの名が挙がってきたのかわからねえし、奴自身も証拠不充分で逮捕は免れている」ジョーがキーを叩く。ファイルが閉じた。「ま、そーいう事だ」
「そいつがボディガードを付けてるって事は、誰かに命を狙われている─」
「ここは完全看護で家族でも付き添いは制限される。だがあの2人が1日中有田に付いていられるのは、伊勢原署からの要請が病院にあったらしい。だからこの事は警察も知ってる。チーフに頼んで伊勢原署に確認したが保護の要請は出ていない」
「いつもと違って仕事が早いな」神宮寺がニヤッと口元を歪める。よほど退屈していたのだろう。「警察に頼まずに自前でボディガードを雇ったって事は」
「よほどヤバイ事やったんだろーな。警察に頼めばタダなのによ」
 ジョーがノーパソをパタンと閉じた。本来こういう仕事は苦手だ。動きたくてウズウズしている。
「で?」神宮寺がじと目でジョーを見た。彼はニッと口元を大きく歪めた。「やれやれ・・・」
 入院してエネルギーを溜め込んだらしい。神宮寺は再びため息をついた。


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