コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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よみがえれ 歩き出せ 3

 新年を迎えて3週間が経とうとしていたある日、14階の特別病棟に1つの異変が生じた。
 この1411号室に入院しているのは地元の実業家だ。
 病気は軽度の胃炎だが、地元の警察からの口添えで2人の付き添いが付いている。この実業家については悪い噂もあったので、誰もがボディガードだろうと思った。と、それが2人から3人に増えたのだ。それも3人目は昨日までこの病院に入院していた男だった。
 パジャマ姿からシャツにジャケットというスタイルになっているが、あの枯葉色の髪と当たる光によって色が変わるブルーグレイの瞳を見間違えるはずはない。
 彼の顔を知っている医師や看護師は驚いた。それはそうだろう。つい3週間ほど前、呼吸停止の状態で搬送されてきた男が、今は他の男を守ってその目を光らせているのだから。
 しかし医師達は患者のプライバシーに深入りする事はない。彼の雰囲気から、これが本職なのだろうと勝手に思っているようだ。
「馴染んでるな、ジョーの奴・・・」神宮寺が呟いた。「違和感がない」
「ホント・・」洸も小声で呟く。「天職だね」
 2人は同じ14階にある別の病棟を訪ねるふりをして、特別病棟のすぐそばを通り過ぎた。
 1411号室の前の廊下にはジョーともう1人の男が立っていた。
 ボディガードを生業としているのか、2人の外国人はジョーより体も大きく目つきも鋭かった。元はどこかの軍隊か警察にでもいたのか動きに無駄がなく的確だ。ジョーとて、まともに相手をしたら苦戦するかもしれない。
 もっともそんな事で怯むジョーではない。彼の持ち前の勝気と強引さ、そして若さ故の無謀な自信を武器に2人の間に入って行き、新参者のくせにもう10年も一緒に仕事をしているような貌になっていた。
 特別病棟とはいえ建物の一角なので廊下を通る人は多い。だが彼らはその人達を睨むような事はしない。もちろん視界には入れているが。
「でもさ、ジョーの身元もよく確かめないで雇うなんて。切羽詰っているのかな」
「いや、そうではないようだ。昨夜、有田との会話をスピードマスターから送ってきたんだけど」
 JBから県警本部長を介しこの大学病院の院長に働きかけ、JBのメンバーは病院近くの職員宿舎の一室を借りる事ができた。
「どうやらドイツ語の通訳が欲しかったらしい。それで腕が立てば一石二鳥だろ」
「ジョーが通訳・・・」洸がちょっと考える。「その取引き、きっと失敗するよ」
 プライスダウンの交渉で、“高いからまけろ。まけねーとぶっ飛ばすぞ”と、あの顔と瞳で迫るジョーを想像する。双方気の毒だ。
「失敗した方がいいかもしれないな。相手がゾンタークなら」神宮寺の言葉に洸が真顔になった。「いや、まだ相手が本当にゾンタークとはわからない。あいつのカンだけだ」
「こーいう時のカンって当たるからなァ」
 このまま歩いていたら1周してまた特別病棟に出てしまう。ホテルなら張り込み用に同じ階に部屋を用意できるが、さすがに病院では無理だ。
 2人はエレベータで1階に下り、病院前の駐車場に出た。と、
「神宮寺君!」
 ふいに呼ばれ2人は振り返った。
「関さん」目立たない白いボンゴバンの前に関がいた。車内には木村の顔も見える。「今年初めてですね。またよろしくお願いします」
「い、いや、こちらこそよろ─って、それどころじゃない。ジョーはいつからあっち側になった!?」
「昨日からですよ」ケロリとした顔で神宮寺が言う。「馴染んでるでしょ?天職ですね」
「あのなあ・・・」関はため息をつき2人をボンゴの後部席に引き入れた。「で、そっちの目的は?」
 ジロリと睨む関に、が、2人はニコニコしたまま何も言わない。合同捜査ではない。今はそれぞれの組織で動いているのだ。
 しょーがねえな、と関が頭を掻く。
「知っていると思うが、あの男は有田といって貿易商をしている。だが世界的な犯罪組織に金を出している疑いがあって、おれ達も抑えている1人だ」まさか、?知ってます?とも言えないので2人はそのまま黙って関の話を聞いていた。「ところがそのうちの1つの組織とトラブルを起こしちまったらしく、一変、命を狙われる立場になったらしい。うちとしては消される前に押さえたい」
(その組織がゾンタークなのか?)
 2人はチラッと互いに目をやった。
「で、来てみたら奴のそばにジョーが張り付いてやがる。彼はまだ入院してるって聞いていたのに」
「他人の空似かも」
「冗談じゃない。あんな怖い目の奴がそう何人もいてたまるかっ」関はタバコに火を点けようとした。が、ちょっと考えてやめた。「さあ、こっちはしゃべったんだ。そっちも状況を話せ」
「情報交換に同意した覚えはありませんが」なぜか今日の神宮寺は意地が悪い。関が噛み付きそうな顔になった。やれやれとわざとらしく息をつき、「病院内で偶然ジョーがあの男を助けたら、ボディガードにスカウトされたんです」
「なにっ?」関と、前席から後ろを向いている木村が声を上げた。「スカウト?」
「ええ、それまで有田なんて男の事は知らなかったけど、スカウトされてからジョーが調べたらさっき関さんが言った事がわかって・・・」後はご覧の通り、と14階の窓に目をやる。関がううん─と唸っている。「消される前に押さえたいと言いましたが、有田を押さえるための材料があるんですか?」
「ない」
「は?」神宮寺と洸がキョトンと関を見た。「な、ないの?─に?」
「ない。だが押さえたい」14階に目を向けた。「これはいいチャンスかも」
「どうでしょう。ジョーが関さんに協力するかどうか」
「な、なに?」今度は関がキョトンとした顔になった。「もしかして、おれ・・・嫌われてる?」
 そう言い迫る関をジロリと睨み、神宮寺はボンゴを降りた。
「ミスターらしくないじゃん」
 後ろから追いついてきた洸がボソッと言った。だが、何かに腹を立てているような不機嫌な顔をした神宮寺にそれ以上何も言わなかった。
 そう、彼は怒っていた。自分の子どもっぽい言動に。
 今回の一連の出来事で彼は相棒として、そして友人としてジョーを失いたくないと改めて思った。
 ジョーが突然フランスに行ってしまった時もそう思ったが、あの時は彼の健在ははっきりしていたので必ず会えると思っていた。
 しかし今回、血に塗れ息もしていないジョーを見つけた時─死ぬかもしれないと思った時、神宮寺は戦慄した。
 もしそんな事になったら、坂下の野郎をぶん殴ってやろうと思った。
 もちろん仕事上の事で、坂下一人の責任ではない。しかし彼の言動がジョーを一人JBに残し、一人横浜に向かわせる事になったのだ、と。
 それが間違った考えだという事はわかっている。しかし─。
 結局坂下を殴らなくても済んだが、ジョーの信頼を崩し気がつかない関にも腹が立った。そしてそんな自分自身にも。と、ふいに背中をポンッと叩かれた。ハッとし横の洸を見る。大きな目が神宮寺を見つめニコッと微笑んだ。
 彼は坂下がジョーに言った言葉も、ジョーの?親戚?の事も知らない。神宮寺がなんでこんなにイラついているのかもわからないだろう。なのに彼の瞳は何もかも理解していて安心感を与えてくれるようだ。
 神宮寺は自分よりわずかに低い洸の肩に手を回しバンッと叩いた。
 それから2日後、有田は3人のボディガードを連れ退院した。

 外に出ると高地独特の冷たい空気が纏わりつく。樹木に囲まれたこの大きな建物を一周し、ジョーは再び表玄関に戻ってきた。
 冷たい空気を吸うと胸が痛い。が、気のせいだろう。医師はまだ退院するのは早いと言って止めたが、ジョーは強引に退院の手続きを取ってしまった。ゾンタークと聞いておとなしく寝てはいられない。
 もっとも有田が本当にゾンタークと繋がっているのか確証はないのだが─。それでもジョーは動かずにはいられなかった。
 彼は小型無線機でグレンに、“異常なし”と連絡した。
 黒髪のグレンとダークブロンドのライトは、元FBIの出身でプロのボディガードだった。ジョーも主にグレンの指揮で動いている。
 Sメンバーにはボディガードの規程はない。ダブルJもJB2もチーフの護衛に付いた事はあるが、アドバンスから始まるような本格的なボディガードの経験はない。それにジョーはその仕事は自分には合わないと思っている。
 ボディガードはその名の通り、警護対象者をガードする事だ。
 テレビのドラマではよくVIPを護って銃を撃ち、襲撃者を倒していくボディガードの姿が映されるが、本来のボディガードの仕事はあくまでも要警護者を護る事で、その基本行動は危険に近づかない─すなわち事前回避が原則なのだ。つまり要警護者を銃で撃たれるような状況に置いてしまう事自体、ボディガード失格なのである。
 万が一そのような状況になったとしたらドラマのように格好良く襲撃者に向かって行くのではなく、あくまでも要警護者を護り危険から早く遠ざける事が第一の仕事だ。
 任務とはいえ、敵に後ろを見せるような事はジョーにはできない。ヘタをすれば要警護者を放っておいて襲撃者を追って行ってしまう。だからジョーは護衛の仕事は性に合わないと思っている。
「ジョイン」呼ばれて振り返った。グレンだ。彼らとの会話は英語だが、有田がいる時は日本語になる。「ライトと交替だ。昼食に行ってくれ」
「Ja」と答えてから。「あ・・・sorry」
「No problem─Jaくらいわかるさ」
 厳つい顔が笑顔になる。が、グレンもライトも始めはジョイン─ことジョーの事を警戒していた。ボディガードに扮した暗殺者などドラマでなくてもあるだろう。
 実はこの2人も、何日か前病院のエレベータを覗き込んだジョーに、?同業者?の臭いを感じていたのだ。それは彼が有田に雇われる際に聞いた、?元機動隊員?という説明で一応納得したのだが。
「早く行け。午後から客人がある」
「Yes Boss」
 ジョーはちょっと口元を歪めドアを開けた。
 この建物は有田の別荘で箱根の芦ノ湖近くにある。観光地に近いわりには周りは樹木に囲まれ静かだ。
 今、ここにいるのは有田と3人のボディガード、管理人兼料理人の60代の夫婦の計6人だ。
 人は自分が狙われていると知ると、人があまり来ない場所に引き籠るか、反対に人目のある場所に隠れるが、有田は前者を取った。ここは一般道から細い私道に入る。周りはほとんどが有田所有の土地だ。普通なら誰も入っては来ない。
 しかし現状は相手の常識に頼ってはいられない。樹木の多い分もし侵入者がいても発見しづらいのだ。
(こんな所に籠っているのに、それでも会う客人って何者だろう)
 ジョーは、赤井と名乗る管理人の妻が作ってくれたかなり大きなハンバーグを持て余していた。入院中にかなり体力が落ちている。ここに入ったのは昨日だが、それから周囲の警備を兼ねて時々ジョギングをしている。しかし以前の三分の二も回復していないだろう。
 ジョーは立ち上がり食事を残す事を赤井に詫びた。優しく言ったつもりだったが、妻はおどおどしてぎこちなく笑う。それはそうだろう。主人を護るためとはいえ、目つきの悪い屈強な男が3人も出入りしているのだから。
 だが任務遂行には、一緒に暮らしている人の協力も必要だ。3人の厳つい男達はこの初老の夫婦にできるだけ柔らかく接するように心掛けている。
 ジョーは交替の時間までまだ15分ほどあるのを確認してまたジョギングでもしようかと思った。と、スピードマスターが振動した。ジョーは急いで彼らにあてがわれている部屋へ入った。
 盗聴器などの捜索は昨日のうちに済んでいる。それでも念のためイヤホンを耳に入れた。相手は神宮寺だ。
『午後にそっちに行く人物がいる。なんとかしてその人物との会話を録ってくれ』
「なんでそんな急に。おれ、録音機も持ってないぜ」
『3課が有田を押さえたがっているんだ。それには奴が犯罪に関係しているという証拠がいる』
「そんなの3課が押さえりゃいいだろ。おれはJBの任務で動いているんだ」
『スネてる場合じゃないぞ、ジョー』
「そんなんじゃねーよ」ムスッと子どもみたいな口調で答える。しっかりスネているようだ。「とにかく証拠が欲しかったら自分で来い、と関に言ってやれ」
 通信を切った。
 一瞬、本当に関が潜入してくるかもしれないと思ったがその時はその時だ。“こいつは公安だぞ!”と叫んでやる。そう思うとちょっとスッとした。が、
「あれ?」
 3課はなぜ午後に客人がある事を知っているんだ?おれだってさっき知ったばかりなのに・・・。
 建物内はもちろん電話にも盗聴器はない。昨日、有田と共にここに入ってから誰も外出していない。なのに─
『今どこだ、ジョイン』耳に掛けたままのイヤホンからグレンの声が呼んだ。部屋だと答えると、『予定が変わった。ミスターが出る。玄関ホールに来てくれ』
「Yes、sir」
 通信機を切りスピードマスターをオフにする。
 彼らは有田を?ミスター?と呼ぶ。仕方なくジョーもそう呼ぶが、?ミスター?と聞くたびに相棒の顔が浮かんでくるのには閉口した。それも“無茶するな”と睨んでいる顔だ。
「見張られてるようだぜ」
 苦笑して玄関ホールに下りるとグレンと有田がいた。ちょっと頭を下げ、車両の点検をするために外に出た。すでにライトが車体の下を点検していた。無口だがテキパキと仕事をこなすタイプだ。
 ジョーは窓ガラス越しに車内を確認し、カード状のプラスチック板をドアの隙間に差し込んで異物がないか確認してからゆっくりドアを開けた。このやり方も車内の点検もグレンに教わった。
「ライト、バックアップに付いてくれ。ジョインは運転を頼む」
 グレンの指示でライトが2台ある車のうちの1台─セルシオに乗り込む。ジョーはもう1台のクラウンロイヤルの運転席に着き、助手席にグレン、後部席に有田が座るのを確認するとゆっくりと車を発進させた。バックアップ車のセルシオが続く。が、別荘の門を出てすぐに1台のクレスタがセルシオの後ろに着いた。
 しばらくそのまま縦走していたが、突然クレスタがセルシオを追い抜かそうとスピードを上げてきた。セルシオは横に並んだクレスタに当たらない程度に車体を寄せる。クレスタのスピードがわずかに落ちた。
「あれはライトに任せよう。ジョイン、ICまで急げ」
「Ja!」
 クラウンがスピードを上げたのでセルシオとの距離がどんどん離れていく。やがて芦ノ湖スカイラインの箱根峠ICが見えてきた。雪景色の富士山を正面に見ながらスカイラインに入る。
 神奈川県と静岡県の県境を走る山岳道だが、富士山や芦ノ湖を同時に楽しめる景勝道としても有名だ。
 箱根ターンパイクと並び自動車雑誌のグラビア撮影によく使われる。当然、?走り屋?も多いが、今日は通行車両は少ない。と、途中のレストハウスの前に止まっていたクレスタが、いきなりクラウンの後ろにピタッと着いてきた。さっきのとは車体の色が違うので別のクレスタだとわかる。だが
(関!?)バックミラーで後車の助手席を見てジョーは目を瞠った。確かに公安3課の関だ。さらに運転しているのは坂下だった。(じゃあ、さっきのクレスタも公安の?)
「気になるな」バックミラーをチラチラ見るジョーに目をやりグレンが言った。「料金所までに引き離せるか」
 グレンの問いにジョーがニヤッと口元を歪める。グレンには車の運転が得意だと言ってあった。
「ミスター、シートベルトをしっかし締めてください」
 グレンの言葉と共にクラウンのスピードが上がる。が、クレスタもスピードを上げしっかり付いてくる。
 ここ芦ノ湖スカイラインはコーナーも多く、そこを2速か3速で曲がる中・高速コーナーがほとんどなので結構スピードが出てしまう。
 だがジョーの安定したソーイングで確実にスピードを上げコーナーを抜けていく。クレスタとの距離が少し空いた。だが坂下も意地になっているのかスピード狂なのか、コーナーを抜けると必ず前方のクラウンを捉えた位置にまで上がってくる。
「仕方ねえな」
 ジョーが呟き、突然車を止めバックし始めた。急ハンドルを切り、車が横を向いた瞬間ギアチェンジし、ステアリングを逆方向へ目いっぱい切りアクセルを踏みつけた。
「わっ!」坂下が急ブレーキを踏む。その目の前でクラウンが見事なKターンでクレスタの横を逆送して行った。「あのやろ」
 坂下がクレスタをUターンさせ反対車線に入る。クラウンを追おうと、来た方向に戻り始め─と、その横をクラウンが反対方向に走っていった。
「え?あ?」
 坂下は再びUターンしようとしたが、対向車が来ているのですぐには曲がれない。
「あ?あ、やられたな」
 関がため息をつき、だが楽しそうな口調で言う。
「まだ追いつけます」
 坂下が言った。
「無駄だ。あの車を運転しているのはジョーだ。もう追いつけんよ」
「公務執行妨害で、とっ捕まえましょう」
「それもダメだ。むしろ妨害をしているのはおれ達の方だからな」関の言葉に坂下は悔しそうに唸る。「ま、奴らに圧力は掛けられたし・・・。とりあえずよしとするか」
 クレスタは近くの展望台前の駐車場にノロノロと入った。


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