コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

走り続ける者 4

   翌日、F1グランプリの決勝日は朝からよく晴れていた。
  昨日は時々雨がパラついてピットクルーをヤキモキさせたが、今日はスリックタイヤ1本でいけそうだ。
  9時からのスーパーカーパレードの参加者達はホテルの駐車場から愛車を乗り出し、鈴鹿サーキットまでの公道をほぼ並んで進んでいく。これだけでもちょっとした眺めだ。
  参加車両18台。3人の他にポルシェ911カレラやフェラーリF40、コスモスポーツやランチャ・ストラトスなどのスーパーカーが沿道の人々の目を楽しませている。
  マーシャルカーを先頭に、18台のスーパーカーが鈴鹿サーキットのメインストレートのグランドスタンドに並ぶ。 
  順番はくじで決めていて神宮寺は3番目、ジョーは6番目、洸は11番目からのスタートだ。
 9時ぴったりにスターターライトがオールレッドになる。各車いっせいに魅力的なエキゾーストノートを叩き出す。
 セルモーターがイタリア車独特のクーっという唸りを聞きながら、ジョーはこのままコースに飛び出したい衝動に駆られる。やがてV型12気筒が爆発したように目を覚ます。
  前方のフェラーリが動き出した。一速で90?/hを叩き出すマシンをゆっくりと前進させる。
  F1本戦までまだ4時間もあるのにスタンドはほぼ満員だ。その前をゆっくりと走って行く。
 (まるで、おあずけを食らった犬みたいだぜ)
  自分は今サーキット上にいる。なのに30キロ程度でしか走れない─。レーサーのジョーにはかなり酷な仕打ちだ。
  スプーンやヘヤピンはともかく、ストレートをゆっくり走るというレース中なら絶対にない体験をしながらジョーが唸る。
  F1なら1分半前後で1周するこのコースを、その何倍もの時間をかけ、最終コースを抜けメインストレートに戻るとマーシャルカーがスピードを上げた。
   (よし!)ステアリングを握り直す。愛用のレーサーグラブがキュッと鳴った。
 ここからの三周は、前車を追い越してはいけないが80キロくらいで走る事ができる。それでも大方のドライバーは不満だろうが、ここでレースをするわけにはいかない。
  マーシャルカーのすぐ後ろに付いているストラトスが、マーシャルカーを煽るように追い立てる。
  メインストレートを抜けコーナーに入る。ブレーキをギリギリまで遅らせて飛び込む。レーサーなら皆そうするが、今日参加している人のほとんどは普通のドライバーだ。ジョーはもう少しで、前方のフェラーリを追い抜かしてしまうところだった。
  やがてテグナーカーブを抜け、世界中でも珍しい立体交差に入る。次のヘヤピンでマシンは一気に減速し200Rをまわりスプーンに入る。鈴鹿のコースはまさしく世界屈指のテクニカルコースだ。
  やがてゆるやかに下っていく長い最終コーナーに入る。はるか遠くに遊園地の観覧車が見えた。本当のレースなら、ここからの立ち上がりがメインストレートでの加速に大きく影響するのだが、80キロ前後でトロトロ走っている彼らには影響はなさそうだ。 
   (“あと1日、メシは抜きだ!”って言われた犬みたいだ)
  この変な感想をあとで聞いた神宮寺と洸は、もちろん大きく頷いた。


  「チェッ、やっぱり面倒な事になっちまったじゃねえか」
  イヤホンを耳にはめながらジョーは口をへの字に曲げたまま、まわりを見回した。
  ここS2席はメインストリートやピットのまん前の席で、すでに観客でいっぱいである。 
  目の前には22台のF1マシンが並び、ピットクルーの最終調整を受けたりレーサーと打ち合わせをしているのがよく見える。まさしく特等席だ。
  「なのに気が散って楽しめないじゃないか。関のオヤジめ」
  パレードを終え、戻ってきた三人を出迎えたのは満面笑みの関だった。
  “かっこよかったぜ、マシンも君達も。女の子の目が三人に釘付けだ。─あ、これがイヤホンね。いいねえ、若いというのは。人生バラ色だ。─これが小型無線機だ。周波数を間違えないでくれ。ピットラジオと混線すると困る。IDカードだ。ピットとコース以外なら入れる。指揮は鈴鹿署の大津警部が執っている”
   ジョーが文句を言おうとしたが、
   “シューマッハやアロンソがぶっ飛んだらどうするんだ”に、何も言えなくなった。
  “わかりました”ため息混じりに神宮寺が答える“ジョー、メインストレート前のV席やS1、S2辺りを頼む”
  レース観戦を楽しみにしていたジョーに対するせめてもの情けだ。が、ジョーはまだスネている。
   “森チーフからも協力するよう命令が来ている。諦めろ”
  そう言われ、やっとS2に向かう。もちろん関を睨めつけるのを忘れない。
  F1グランプリ決勝レースは13時ちょうどにスタートした。今期はあと2戦。シューマッハとアロンソが同点首位で並んでいる。
  もし今日シューマッハが優勝すれば、今期の王者となる。アロンソは何があっても負けられないのだ。
  『こちらテグナーカーブ横、異常なし』『200R、不審物なし』
  小型無線機に繋がっているイヤホンから、しきりなしに声が飛び出す。
  「うるせえな・・」
  悪舌をつきながら、それでもジョーの目はレースを、耳はイヤホンに集中している 。レースを楽しみたいが事件の事も気になる。
   「仕方ねえな。おれも一応メンバーだし」
  自分達が受けた任務ではないのに、放り投げる事もできないでいる自分に苦笑する。
  ジョーはスタンドを回ってみる事にした。


  「こちら西ストレート、異常なし─ひゃあ!すごいなァ」通信を終え、洸が声を上げた。
  ここ西ストレートはバックストレッチとも呼ばれ、最高速度がマークされるポイントだ。
   「ジョー、観客席よりこっちの方がよかったかもしれないね」
  「そうだな」目の前をF1マシンが飛んでいくのが見られるのに、神宮寺は固い表情のままだ「なあ、洸。狙われているのは本当にここだと思うか?」
  「ん?、天皇杯もあるしなァ。でも話題を呼んでいるのは、やっぱF1だと思うよ」
  「ここは客席が1ヶ所じゃない。スタッフも大勢動き回っている。小さい物を仕掛けられたら、そう簡単に見つかるものじゃない。それでいて何かあった時の効果は大だ」
  「テロリストか愉快犯かによっても対応が違うしなァ」洸の目が、赤いマシンを捕らえた。独走状態のシューマッハだ「それにしても犯人の情報が少ないってのも気に入らないね。目的くらい言ってくれればいいのに。あと爆発時間も」
  「どこに仕掛けたのかを教えてくれれば、1番いいのになあ」
  珍しく神宮寺がグチった。


   「シューマッハが首位を守っています。あ、ライコネンですか、ピットインですね─」
  ライコネンの乗るマクレーンがピット前に止まる。待っていたピットクルーが一斉に車体に取りついた。給油をしタイヤを換える。わずか7、8秒の世界だ。
  (ん?)
  そんなピット作業を見ていたジョーの目が、1人の男を捕らえる。マクラーレンのチームスーツを着ているのでピットクルーの1人だろう。だがクルーの多くが車体のそばにいるのに対して、その男はピットの奥でこちらに背を向け、予備マシンの所で何かしている。そちらにも仕事があるのだろう。他のクルーも急がしそうだ。 
    しかしジョーはなぜか、その男に違和感を持った。が、 
   『スプーン横で不審物発見!』イヤホンから捜査員の声が響く。続いて 
   『大津だ。近くの移動、及び爆処はスプーンに向かえ!』 
  スプーンカーブは、ジョーのいるメインストリート前からは西の端に位置する。彼の捜査範囲外だ。
  (これで終わってくれればいいけど)
  ジョーは再びマクラーレンのピットに目をやった。
  ライコネンは疾うにコースに戻り、気になった男の姿も確認できなかった。
   (関だけにでも伝えておこうか─) 
  ジョーが無線機のスイッチを入れようとしたその時、
  「おおっ!」スタンドから悲鳴と驚きの声が上がる。
  皆が指さし見ている方へジョーも顔を向けた。その先にある大型スクリーンには信じられない光景が映し出されていた。なんと首位を独走中だったシューマッハの乗るフェラーリの後部から突然白煙が上がった。急激にマシンの速度が落ち、コースを外れ芝に乗り上げた。最後の給油を終えた直後の周回で、充分なリードを取っていた。
   やがてフェラーリが停止した。その脇をアロンソがすり抜けて行く。
  シューマッハは37週目でリタイアとなった。
  「・・・・・」
  興奮冷めやらずのスタンドで、ジョーも呆然とスクリーンに見入っていた。シューマッハはマシンを降りピットに向かって歩いている。ジョーは同じレーサーとして、マシンに乗ってコースに出たのに、歩いてピットに戻らなければならない彼の無念さを思った。 
  レースはその後、何台ものリタイアを出しアロンソの優勝で幕を閉じた。




                              3 へ   ⇔   5 へ

スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/12-e185d597
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。