コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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よみがえれ 歩き出せ 4

「い、今のは襲撃者の車かね」
 後席の有田が怯えたような声で訊いた。
「いえ、そうではないようですが・・・」グレンが首を傾げた。「敵意はなかったようでした。ただ、このまま引き連れていくわけにもいかないので阻止しましたが」
 ジョーはあの車が公安の車だと知っているから、襲撃される事はないだろうと思っていたが、グレンや有田にしてみれば立派に怪しい車だ。意図がわからない。いやそれはジョーも同じだ。
 有田を確保できる証拠を持たない彼らが、なんの目的で周りをウロチョロするのか。まさか事故を起こさせて、病院の代わりに警察に搬送するつもりではないだろうし。
(いや・・・あり得るかも・・・)
 相手はあの関と坂下だ。ジョーが眉をしかめバックミラーを覗く。
「ジョイン」グレンに呼ばれドキッとした。「運転が得意なのはよくわかった。だがさっきのやり方は要警護者を乗せている車がやるには危険だ」
「おれは通訳と運転手で雇われたんだと思ってますけど」
 ちょっと口元を曲げて答えるジョーを見てグレンが苦笑した。
 目つきは鋭いが時々やんちゃボウズのような表情を見せるこの男をなぜか気に入っている。が、その反面、ただのやんちゃボウズではないな、とも思っているが─。
 やがてクラウンは料金所を通り右折した。そのまま一般道を仙石原方面へ向かった。

「Es freut mich、Herr Arita(はじめまして)」
「Es freut mich auch、Herr Geier(こちらこそ、はじめまして)」
 ジョーが有田の言った言葉を目の前の金髪の男に伝える。
「Es ist sofort Herr Geier(さっそくですが)」
 お互い初対面なのだが、あいさつもそこそこにさっそく本題に入る。
 ここ仙石原のホテルの一室には有田と護衛役のグレン、相手は金髪のガイヤーとやはり護衛なのだろう、グレンより大きな体の黒髪のライナーと名乗る男、そして通訳のジョーの5人がいる。
 話の内容だが、どうやら有田がある組織と起こしたトラブルをその組織のナンバー2であるガイヤーに何とか取り成してもらいたい─いや、もしその気があるなら、ガイヤーをナンバー1に押し上げ資金の援助をしてもよいという危ないものだった。
 小柄な有田が必死の表情でガイヤーに迫る。今、この男を取り込んでおかないと自分の身はますます危うくなる。
 ジョーは、だが有田の熱弁とは反対に淡々と言葉だけを伝えていく。
 彼の命乞いの手助けをするつもりはないし、何よりも有田の真剣さは見ればわかるだろう。
 それにその国の言葉を知っているからといって、すぐに通訳ができるというものではない。
 双方の言いたい事を正確に掴み正確に伝える。たったこれだけの事が意外と難しく、ジョーは有田の激しい口調の日本語と鋭い剣のような質問を繰り出してくるガイヤーのドイツ語に手一杯の状態だ。
「お茶にしようと伝えてくれ」
 有田が湯気を上げているコーヒーポットを見ながら言った。とりあえず言いたい事は言ったらしい。
 グレンが有田とガイヤーのカップにコーヒーを入れた。
 ジョーにも“飲むか?”と目で訊いて来たが首を振った。2人とは少し離れたイスに腰を下ろす。
 2人の話の内容には興味がある。1つの組織のトップが変わるか、それとも有田が消されるか。
(だがこいつらはゾンタークではない)
 話の中にはザーツもゾンタークもサーバトも出てこなかった。隠しているのかと思ったが、そんな様子もなさそうだ。
 もしゾンタークと関係ないのなら公安に任せて帰ろうかと思ったが、
(だけど、こんな細かい話を聞いちゃ、この仕事が終わった後おれの命はねーかもな)
 やれやれ、骨折り損のナントカって奴か─。と、ガイヤーとライナーが小声で話しているのが聞こえた。
“Come? Senbra essere usabili?(どうだ?使えそうか?)”“?o posso usarlo(利用できるかもしれない)”
(─イタリア語か。用心のいい事で)
 ジョーはここ数ヶ月イタリア語の勉強をしている。まだカタコトだが簡単な言い回しならわかる。が、もちろん今はわからない振りをする。
 有田はもちろんグレンもドイツ語やイタリア語はわからないようだ。
「2日後に連絡します」
 と、ガイヤーは言い部屋を出て行った。さすがにこの場では決められないようだ。
 今、返事が欲しかった有田は残念そうに唇を噛んだ。
 部屋に残された3人は、廊下で見張りに立っていたライトも交えホテルのロビーに下りた。
 有田の前方を行くポイント・マンにライト、有田の横に付くディテール・リーダーはグレン。そしてジョーは後方を守るテイル・マンに付く。と、ロビーの端に5、6人の男達が固まっていた。ジョーがチラッと目を走らせる。関や坂下、山本─クレスタに乗っていた面々だ。
(こんな所でひと悶着起こす気か)
 ジョーは警戒したが彼らはそのまま関達の横を通り過ぎようとした。が、グレンが関達に目を向けている。クレスタの連中だと気がついたようだ。
 だが向こうが手を出さないうちは何もしない。その場から早く離脱するだけだ。と、坂下が最後を歩くジョーに一人近寄ってきた。
 彼の顔を見てニヤリと笑う。が、それだけだ。
(・・・・・)
 ジョーは不可解な視線を坂下に向けたが、すぐに有田達を追っていった。ライトと共に車の点検をして有田を乗せた。
「ジョイン」運転席に着こうとしてグレンに呼ばれた。「あいつ、なんでお前に笑いかけたんだ」
「─さあ」
 ジョーにもわからない。関が止めなかったところを見ると予定された行動か。
 グレンはかすかに眉をひそめ、しかしそのまま助手席に座った。

「グレン、ジョインをどう思う」
 別荘の自分の部屋に戻り有田が訊いた。
「どう、と言いますと」
 一人部屋に呼ばれたグレンが慎重に答える。
「あの車(クレスタ)の連中が何者か知らんが、急に変更になった車の道順をどうして知っていたんだ?芦ノ湖スカイラインで待ち伏せしていただろう。その後のホテルの場所もだ」有田がスーツの上着をソファにバサッと置いた。「それにホテルを出る時、ジョインに?合図?していた。日本人だったから、あの組織の連中ではないかもしれないが」
 確かに予定が事前に漏れていた節はある。ジョインが来てからだ。ゲレンの目から見てもジョインは油断のならない相手だと思う。
 彼は常に外に向かってアンテナを張っている。食事の時も、ぼんやりしているように見える時もジョインは決して気を抜いてはいない。動きひとつとっても何か特殊訓練を受けたような体の使い方が見える。日本の機動隊というのもレベルがアップしているのかと思っていたが。
「彼はミスターが雇われた男ですよ」
「あの時はドイツ語のわかる奴が欲しかったし、それで腕っ節がよければいいと。どうせその後で─」
 と、口籠りコホンとわざとらしい咳をした。が、グレンはこの仕事が終わったら有田はジョインを消すつもりだと思っていた。
 依頼主ではあるがグレンは有田を好きにはなれない。もちろん彼の犯罪の片棒を担ぐつもりはない。仕事はあくまでもボディガードだ。
「ん?」腕時計を外した有田が怪訝そうに見る。「なんだ、時計が狂ってるじゃないか」
「失礼、ミスター!」
 グレンがいきなり有田の体をパタパタとはたいた。が、すぐにやめて今度は脱いだままになっている上着を手に取りポケットに手を突っ込んだ。と、
「─盗聴器?」グレンが取り出した物は小指の先ほどの薄っぺらい物だった。「トレーサーか?」
 どっちにしても見た事もないくらい軽い。これでは付けられても気がつかないだろう。グレンはそれを握り潰した。
「ジョインか。ジョインが仕掛けたのか。だからコースやホテルの場所がわかったんだ。グレン!ジョインを地下室に呼べ!」一方的な有田にグレンは戸惑っている。が、「早くしろ!」
 言われて仕方なく通信機でジョーを呼んだ。グレンも真実を確かめたかった。
 地下には食料庫と備品を納めている部屋がそれぞれあった。2人は備品室で待つ。と、ノックが聞こえジョーがドアを開けた。
「ジョイン、これはなんだっ」有田は潰された機器をジョーの前に投げ落とした。ジョーは眉をしかめそれを見たが、再び視線を有田に戻す。「盗聴器か?お前が仕掛けたのか?」
「・・・おれじゃない」
「じゃあなんでこんな物が!」有田がスティックでジョーの胸を突こうとしたが、とっさに身を躱す。「お前はスパイか!?おれの命を狙っているのか!」
 続けて打ち下ろしてくるスティックを、今度はジョーは逃げなかった。肩や腕に受ける。無意識に胸は庇ってしまう。
 腹を突かれ体がくの字の曲がった。そのまま壁に背中を預け床に座り込んだ。
「まさか、パローマからおれを狙って─」
(パローマ・・・やはりゾンタークではないんだ)
 執拗に続くスティックの攻撃にジョーは頭を庇ったまま、だがその場から動かなかった。勢い付いた有田がジョーの脇腹を蹴り上げた。
「待ってください、ミスター」グレンが止め、床に倒れたジョーに走り寄る。「本当に君じゃないのか」
「・・・おれはやってない」
 ブルーグレイの瞳がグレンを見上げる。その強さに、この男は決して参ってはいないと気づいた。と、小さく呻いて瞳が閉じられた。体が再び床に崩れ落ちる。もう完治したはずの胸が痛むのは気のせいか。
「ミスター、彼は本当の事を言っていると思いますが」
「ではこれは誰がおれのポケットに入れたんだ」そう言われるとグレンも何も言えない。「あの男達の仲間なのは間違いないだろう」
 一人の男(坂下)がジョーに意味ありげに視線を向けてきた。が、あまりにもあからさますぎる。そのやり方にプロなら疑惑の目を向けるが、素人の有田はそうは思わない。
 グレン達がボディーガードについてそろそろ3週間が経つ。有田の精神ももうギリギリなのかもしれない。
「とにかくジョインはここに閉じ込めておけ。グレン、明日の打ち合わせだ」
 有田が部屋を出て行った。
 グレンはまだ床に伏しているジョーを見たがすぐに有田に従う。カギが掛けられた。
「つっ・・・ってぇな・・くそォ」
 ジョーはゆっくりと体を起こし壁に寄り掛かった。入院中、体が鈍っていたとはいえ、それでもすぐに脆くなるような筋肉の鍛え方はしていない。だが胸に2、3発受けたのは効いた。
 今の痛さではなく、あの夜マリンタワーで受けた苦しさを思い出した。
 ふと潰れた機器が視界に入った。有田は盗聴器だと言っていたがもちろんジョーが仕掛けた物ではない。
「囮かな・・・おれ」
 ジョーもグレン同様、坂下の行動に疑いを持っていた。あれでは、“こいつは仲間だ”と言っているようなものだ。グレン達はともかく有田はそう見るだろう。だから盗聴器と聞いてすぐさまジョーと結びつけたのだ。
「奴らの目をおれに向けたいって事か」
 そしてどこかで動いている人物をカバーするというわけか。坂下辺りが喜びそうな作戦だ。
 だがジョーはそれでもいいと思った。
 公安は有田を抑えたがっている。協力するのはいやだが、有田から犯罪組織への資金の流れは絶たなければならない。そのためには囮でも何にでもなってやる。
 それもおれの仕事なのだから─。


        3 へ     ⇔     完 へ


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