コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

よみがえれ 歩き出せ 完

 翌日、朝食も終わらないうちに昨日ホテルで会ったガイヤーと6、7人の仲間が有田の別荘を訪ねてきた。
 ライトが応対に出たが、銃を突きつけられ建物内に押し入られた。おまけにすごい勢いで怒っている。有田は地下室からジョーを連れてくるようグレンに命じた。
 一晩中暖房のない部屋にいたせいか、ジョーの腕を取るとその冷たさにグレンが身震いした。しかしジョーは何でもないようにおとなしくグレンについて行く。有田はジョーに通訳を命じた。
 ガイヤーの矛先がジョーに向けられた。銃が目に入ったがとにかく話を聞く。
「え・・・」2、3言聞いてジョーの顔色が変わった。「まさか・・・」
「なんと言ってるんだ!」
 有田が怒鳴った。
「今朝早く、日本の警察がミスターの事で事情を訊きに来た。警察署へ同行を求められたので、逃げてきたらしい。なぜ自分達の事が警察にわかったのかと─」
「こいつだ!こいつがスパイだ!」ジョーを指差す。「そう伝えろ!」
「・・・・・」
 言えるわけがない。
 だがガイヤーは有田のわめく意味がわかったのかジョーに銃口を向けた。
 ジョーはガイヤーを正面から睨みつけた。その瞳の─あまり見ない灰色がかった青い瞳にガイヤーは一瞬何かを思い出したように戸惑う。だが、
「誰の手の者だ。パローマのボッティか。それともさっき来た奴らか」
 両方違うがジョーは何も言わず、ガイヤーとその後ろの男達に目を向けた。銃口が上がる。
「待ってくれ」グレンだ。「まだジョインがスパイだと─」
 銃声が響いた。グレンの体がドンッ!と押された。
「ジョイン!」
 振り向くと、血の吹き出る左腕を押さえているジョーがいた。と、
「旦那様、警察庁の方がお会いしたいと─」
 開いていたドアから中を覗いた赤井がヒッ!と声を上げた。と、その後ろから5、6人の男達がなだれ込んできた。先頭は関だ。
「有田広一郎。パローマへの資金提供の件で事情を訊きたい。同行してください」
 が、やはり室内の様子に驚く。ジョーと目が合い、関の口が彼の名を呼ぶように動いた。
 ガイヤーと男達が部屋から出ようとし、関達と揉み合いになった。有田も逃げようとしたがジョーに跳びつかれて一緒に床に転がった。
「何をする!放せ!」有田はわめき、隠し持っていた小型の銃をジョーに向けた。が、一瞬のうちに蹴り飛ばされた。その銃がライトのそばに落ちる。「ライト!こいつを撃て!」
 ライトは銃を拾ったが撃つ事はできなかった。
 彼らはボディガードとはいえ一般人だ。日本にいる時は日本の法律に従わなくてはならない。 有田はジョーの銃創を攻めてきた。だがジョーは有田を放さない。と、グレンがジョーの腕を取り捻りあげた。
「くっ!」ジョーの体が有田から離れ床に倒された。「グ、グレン」
「すまない、ジョイン。依頼主が襲われてるのを黙って見ているわけにはいかないんだ」
「奴は犯罪組織に加担しているんだぞ」
「依頼主が何者かは問題じゃない。契約の内容は遂行しなければならない」グレンがライトの手から銃を抜き取る。そして銃口をジョーに向けた。「頼むからミスターにこれ以上手を出さないでくれ。君を撃ちたくない」
 だがグレンは自分を撃たないだろうと、ジョーは思った。
 日本の法律は知っているだろう。この状況だけでも充分罪になるのだ。それにこの男に撃たせてはいけないと思った。と
「ジョー!」
 ベランダのガラス窓が開き神宮寺が入ってきた。
 グレンがとっさに振り返り銃を向けた。その後姿にジョーが跳びつく。
 ジョーよりひと回りほど大きいグレンを体重を掛けて前に倒した。が、その瞬間、グレンの体が寝返りジョーの上に伸し掛かった。さらに体を返しジョーに顔を向けた。目が合う。グレンが戸惑っているのがわかる。
「やめよう、グレン。契約はわかるが奴は間もなく逮捕される」静かに言うジョーにグレンの手がかすかに弱まる。「いくら君でも、日本の警察から奴を守る事はできないぜ」
「・・・・・」
 グレンが息をつきジョーの体の上から退いた。手を差し出してきたので、ジョーが左手を出す。その手を引っ張り立たせた。手にしている銃をジョーに渡す。
「ジョー」神宮寺だ。「あ?あ、お前またケガして─」
「大した事ねえって」
 強がりを言ういつものジョーに神宮寺がかすかに微笑む。が
「奴らの何人かが外に逃げて関さん達が追って行った」
「どじなこった」
 呆れてため息が出た。と、外から男達の怒鳴る声が聞こえてきた。
 2階のベランダから見下ろすと、眼下はちょうど駐車場のすぐ横に位置していた。
「ガイヤーが逃げる」
 奴らが乗ってきたらしい車に、ガイヤーともう1人の男が乗り込もうとしていた。
 ジョーが手すりに手を掛けヒラッと飛び越えた。駐車場の端に着地する。その目の前をガイヤー達が乗った車が走り抜けた。
 さっきグレンから受け取った銃を両手で構え車の後輪を狙う。そのジョーの後ろで関達の乗った車が止まった。誰かが、“どけ!”と叫んだが無視した。
 バンッ!
 銃声と共に後輪を撃ち抜かれた車が右に傾き、さらにスピンし植木に激突した。
 ジョーのすぐ横を関達の車が走りぬけ、大破した車から這い出て来たガイヤーに向かう。
 煽られた風にジョーの髪が舞った。
「ジョー」いつの間にか神宮寺が来ていた。「無茶な奴だ。大丈夫か」
「体重が増えたみたいだ。着地の時、足にズンッと来た」
 チラッと微笑を浮かべた。
「今度は足を折るつもりか?」
 神宮寺も苦笑して返した。と、ガイヤーともう1人の男をクレスタに押し込み、関と坂下がこちらに向かって歩いてきた。
「ご苦労さん。あいつを叩けば有田のパローマへの関与が立証される。消されないうちに有田を確保できてよかった」と、右手を差し出した。が、ジョーはその手を見たまま動かない。「あー・・・その・・・君を利用したのは悪かった。だが─」
「いいじゃないか。君のお手柄になるんだから」坂下がジョーに向かって言った。「どうだ?自分の一族に関係しているファミリーを自分で捕まえた気分は?」
 ジョーが怪訝な目を坂下に向けた。
「知らなかったのか?ガイヤーがナンバー2を務めるパローマは、君の一族のジェルマーノ・ファミリーの末端組織だ」
「!」
「坂下!」
 ジョーが息を呑み、関の声が飛ぶ。
「もっとも末端すぎて、ジェルマーノのドンも覚えているかどうかわからないくらいだと─」
 突然、坂下が後ろにすっ飛んだ。左頬を押さえ目の前に立つ神宮寺を見上げた。
「それ以上なにか言ってみろ。当分、口が開かないようにしてやるぜ」
 端整な顔立ちの、しかしその中央を占める黒い瞳の迫力に坂下はジョーとは違う恐ろしさを感じた。
 神宮寺がふとジョーに目を向けた。彼は目を見開き体を強張らせたまま動かない。前方に向けている瞳には何も映っていないようだった。
「ジョー、おい─息をしろ!」
 背中をバンッと叩かれジョーの喉が鳴った。瞳に光が戻ってくる。坂下が映った。
 ジョーは銃を持っている右手をゆっくりと上げた。
「ジョー?」
 神宮寺が眉をひそめ、坂下がヒッ!と声を上げた。ジョーの指がトリガーに掛かる。銃声が響いた。
「ジョー!」
 神宮寺と関が驚いて声を上げた。
 ジョーは血の止まったばかりの左腕の銃創に、自ら弾丸を撃ち込んでいた。
 あまりの事に誰一人その場から動けない。が
「な、なんて事するんだっ」
 関がジョーの手から銃を取り上げた。キズを診ようとしたがジョーに手を跳ねられた。
 ジョーが瞳を坂下に向けた。
「相手が何者だろうと、テロや騒ぎを起こすような奴らは容赦しねえ。おれが潰してやる」
 左腕から流れ出る血を押さえようともせず、青白い顔と鋭い瞳を向けられた坂下は絶句する。そのジョーの横にスッと神宮寺が立った。
「おれ達がいつでも相手になってやる。覚悟して向かって来い」
 犯罪組織に言っているのか、それとも坂下にか─。
 坂下はもちろんだが、関まで身動きひとつできないでいた。
「行こう、神宮寺」
 ジョーが踵を返した。神宮寺は2人を一瞥しジョーの後に続く。
「大丈夫か?」
 神宮寺の問いにジョーが珍しく首を振った。そして
「・・・すげえ、痛ぇ」
 ちょっと情けなさそうな顔を相棒に向ける。青い瞳の隅がキラッと光ったのは神宮寺の見間違いか。
 と、別荘の玄関から公安のメンバーと共に出てくる有田やグレン、ライトの姿が見えた。

 有田の服に盗聴器を仕掛け、公安に情報を流していたのは管理人夫妻だった。いや、管理人に化けた公安3課8係のメンバーだった。
 この箱根の別荘は購入したばかりで、有田は管理人の赤井に1回しか会った事がない。それを利用して公安が8係から似たような人物を探し、特殊メイクを施したのだ。
 ちなみに有田は赤井夫人には会った事がないので、こちらは若い女性警察官を年配の夫人に作るだけで良かった。
 有田はいくつかの組織に資金提供をしている疑いが持たれている。パローマもその1つだ。まずパローマとの繋がりを立証して、さらに他の組織にも手を入れていくようだが、それはもう公安の仕事でジョーも神宮寺もそこまで関わるつもりはなかった。
 ジョーを囮に使おうと発案したのは関だった。おかげで偽管理人は動きやすくなり、疑われる前に有田を確保する事ができた。
 ジョーは何があっても、自らで無事切り抜けられるだろうと思っていた、という。まさか最後にあんなおまけがつくとは思わなかったが・・・。
 そのジョーは再び伊勢原の大学病院に戻る事になった。
 以前のような生死に関わるほどのケガではないが、小型銃の弾丸が貫通しなかったので手術に時間が掛かり、神宮寺が術後のジョーに会えたのは夜になってからだった。
 翌日、関が見舞いに来た。が、神宮寺が会わせなかった。
 関は一度帰ったように見えたが、1時間後にまたやって来た。が、“今、眠っているからだめだ”と言われ─結局5時間ある面会時間に5回訪れ神宮寺を呆れさせた。
 仕方なくジョーに訊くと、“別にいーぜ”と言うので関を病室に通し自分は出て行った。
「やれやれ、神宮寺君に嫌われちまった」関はイスに腰掛けると情けない表情をジョーに向けた。が、ジョーも自分を見ようともしないのでため息が出た。「ケガ、どうだ?」
「─こんなの、明日にでも退院できる」
「そうか。それは良かった」
 会話が戸絶えた。と、包帯がキッチリ巻かれているジョーの左腕が目に入った。
「なあ・・・。どうしてそんな事したんだ?」
「・・・・・」
 ジョーがゆっくりと関に顔を向ける。ちょっと表情を緩め、薄っすらと笑みを刷いた。
「おれの中にマフィアの血が流れているんなら、それを洗い流しちまえばさっぱりするかな、と思ったんだ」
 関の口がジョーの名を形どる。
「そんな事、できるわけないのにな。まるでガキみたいだ」笑みを浮かべた顔から吐き出される言葉に、関は何も言えなかった。「手術してくれた医師に怒られちまった。あまりない血液型なんだから大事にしろって。流すくらいなら献血してくれだとよっ。まったく医者って奴は皆同じような事を言うぜ」
「坂下の事は許してくれとは言えないが」関がため息混じりで言った。「彼が大学生の時、ご両親がイタリア旅行中にテロに巻き込まれて亡くなったんだ。それまでは、気は強いが普通の学生だったらしい。が、その事があってから警察官を目指して─、ま、だからと言って君に対する奴の態度を庇うわけじゃないけどな」
「・・・・・」
 坂下も凶行で両親を失っているのか。好きにはなれないが自分と同じなのだとジョーは思った。人が動くには、やはりそれなりの理由があるからなんだと改めて思う。
「神宮寺も坂下を殴っちまった事をちょっと後悔しているようだし」
「ああ、その事で彼から謝罪文が届いている。一応形式に則ったものだったが、文下の隅に小さく書かれていたよ。“Es war schlecht!(悪かったな)”ってな」
「──」ジョーは一瞬キョトンとした顔になったが、すぐにクッと口元を歪めた。「神宮寺も言う時は言うなァ」
 楽しそうに笑う。と、キズに響くのかイテテと顔をしかめた。
「ジョー、頼むからそんな事はもうしないでくれ。君に何かあったらアサクラさんに面目が立たない。おれは彼にとても世話になった」
「親父はとうにいないんだぜ。あんたがそんな事を気にする事はない。それに・・・おれがいたらJBに迷惑が掛かる事もよくわかったし」関に目を向ける。「あんただっておれが一般人だったら、おれの動きを気にする必要はなくなるだろう」
「ち、違うジョー。おれが君にちょっかいを出しているのは君を見張っているからじゃない」関がシーツの端をグッと掴んだ。「おれは君が気に入っている。アサクラさんの息子という事もあるけど、なんというか・・・昔の、まだ無茶やっていた頃の自分を見ているようで懐かしくて楽しいんだ。神宮寺君も洸君も一平君も好きだし可愛い。しかし1番気になるのはやっぱり君で、だからつい─」
「関」ジョーが吹き出す。「やめろよ、口説かれてるみたいだ」
 アハハ・・・と笑い飛ばすジョーを見て関はホッとした。
「あ?あ、あんたが女だったら喜んで口説かれてやるんだけどなァ」
「だいぶ年上だぜ」
「かまわねーよ」
 ニッと口元を歪める。
 時は彼を少年から大人に変えた。今、関の前にいるのは、彼が初めてジョーと会った時の─父親の後を泣いて追っていた頃のジョーではなく、JBに入隊したてで現場に出られないと文句を言っていた頃のジョーでもない。
 時折見せるやんちゃな表情は同じだが、遥かに成長したジョージ・アサクラだ。
「でもな、関」笑いが引き、急に真顔になる。「おれ、これが原因で国際警察をクビになっても─それはいいんだ」
「え?」
「おれまだ他にやりたい事あるし、今から国際A目指せばF1だって夢じゃない。なあ、おれのシャンパンファイト見たくないか?」
「見たくねえよ!」関が大声を上げた。「こんな事で君をクビにするなんて許さないぞ。いや、やめてもいいがそうなったらうちへ来い!おれが面倒みてやる!」
「だから口説くなよ」
「気に入っている奴を口説いて悪いか!とにかくやめてはいかん。やめたらウッズマンを返してもらうぞ。いやウッズマンごとうちへ来い!」
「関・・・」ジョーが呆れてため息をつく。「なんかメチャクチャ・・・」
「ジョイン、クビになるのか?」
 ドアが開きグレンが顔を出した。
「立ち聞きか。行儀の悪い奴だ」
「Sorry、だが彼が君を口説いていたから入りづらくて」
「だから違うって!」ジョーが口を尖らせる。が、「ずいぶん早く出られたな」
「ミスターセキやジングージが口添えしてくれたおかげさ。次の仕事が1週間後に入っているから助かった」関を見てニッコリ笑う。「それよりジョイン、仕事クビになったのか?だったらぜひおれ達と組んでくれ。ライトも賛成している」
「まて。ジョーはうちに来るんだ。横から口を出すな。今度は送検してやるぞ」
「Oh!日本の警察は横暴だなあ。クビになってよかったなジョイン」
「ジョーはまだクビになっていないぞ。?なったら?の話だ」
「いつなるんだ、ジョイン」
 グレンと関が期待を込めた目をジョーに向けた。と、
「お前ら・・・。人を勝手にクビにするな!!」
 ジョーが怒鳴った。

                               完

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