コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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明日(あす)への一歩 1

「よおっ」
 呼ばれて神宮寺は振り向いた。テラス席の端のテーブルでジョーが手を上げている。この寒いのに外かと思ったが、隣接している学食は昼という事もあり学生でいっぱいだ。ざわめきと熱気で溢れている。ジョーが敬遠するのも無理はないなと思い、テラス席に向かう。
 太陽を背にしてジョーの髪が金色に輝く。この時だけは相手がジョーだという事は無視して綺麗だと思う。が、キラキラと光る髪とは裏腹に、ジョーの表情は暗く険しい。神宮寺が前に座ると、クタッとテーブルに俯した。
「おれ、もうだめ・・・。退学する」
「なに言ってるんだ。今日入学したばかりじゃないか」
「わけわかんねえ事を90分もじっと座って聞いてるなんて、ひでェ拷問だぜ。ジンケンジューリンだ」
 2人の横を女子学生が通った。目を向けてくるがジョーはそれどころではない。
「へェ、難しい言葉覚えたな。大学に来ただけはある」
「勘弁してくれよ。人選ミスだ」
「だから講義を聴かなくてもいいように、ドイツ語を選んだんだろ?」
「知ってる事をもう一度聞いてもな・・・」という事は勉強する気はあるのか?「それにあのセンセイの発音ヘンだ。それを堂々と言っているから、おれの方が間違ってるのかと思った」
 時々ヘンな日本語の解釈をするジョーに言われてはその教授も気に毒に、と神宮寺は思った。
「それに、おれがドイツ語を話せるとわかったら学生達が話し掛けてくるんだけど、なに言ってんだかさっぱりわからねえ。日本語で言ってくれって言っちまったよ」9年間とはいえドイツ語で育ったジョーにJapan Deutschは通じないようだ。「すげえ、疲れた・・」
「昼食まだなんだろ?適当に買ってくるぞ」
 神宮寺の申し出にジョーは手をヒラヒラさせて答えた。こんなにヘタばっているジョーを見るのは久々だ。神宮寺はなんとなく楽しい気分で学食に入った。
 とたんに若い熱気と雑然とした空気に包まれる。騒がしいがきらいではない。むしろ懐かしい。ついこの間まで、神宮寺もこのざわめきの中にいたのだ。
 セルフサービスなので彼はトレイにパスタやサラダを乗せていく。これはJBと同じだなと思い、2人分の昼食を持ちテラス席に出た。と、ジョーが何人かの学生に囲まれていた。
 相手がしどろもどろに何か言ってくるのをジョーが不機嫌そうに答えている。女学生のキャーキャー言う声が響いた。
「なるほど」
 神宮寺が気に毒そうに呟いた。

『ま、私も明らかな人選ミスだとは思ったが』モニタの中の森が苦笑した。『本当は洸あたりが適任だと思うが、彼も一平も向こうで?彼ら?に会っている可能性があるからな』
「そうですね」
 神宮寺と、その横でコーヒーを淹れている西崎が頷く。
『年齢的には不自然ではないし、任務だから我慢してもらうしかないな』
「ちょっと覗いたけど、ジョーの奴けっこうモテてたじゃないか」
 西崎が言った。
「あーいう風に周りからちょっかい出されるのが一番嫌いなんだ」
 神宮寺には、頻繁に話し掛けられ、しかし耐えて答えているジョーの苛立ちがよくわかった。
 若く向上心に溢れた大学生達は?生?のドイツ語に触れられ単純に喜んでいる。
 さすがのジョーも、そんな彼らをいつもの鋭い目つきで睨み返すような事はできない。
「反動が怖いぞ」
 夜の9時を過ぎているのに、今だ帰ってこないジョーの部屋に目を向けため息をついた。
 神宮寺とジョーは森チーフの指令により、ある大学に学生として潜入している。
 新年早々ジョーが世話になった大学病院のキャンパスが湘南にある。
 広大な緑の中に17の教室棟の他、実験実習棟や研究実験棟、体育館、各スポーツ用コートやグランド、プールなどを持つ巨大な大学だ。学生数も1万3千人を数え、もはや1つの街のようだ。
 事の始まりはジョーの入院だった。
 便宜を図ってもらうため、彼の素性は病院長と事務長にだけ明かしてあった。
 その病院長が県警本部を介してJBに相談してきたのだ。
 数ヶ月前の、新宿界隈から若い男達が姿を消したあのゾンタークの事件。
 実は湘南キャンパスに学ぶ3人の学生も、あの時さらわれた男達の中にいたのだ。
 もっとも3人は一連の破壊活動には参加しておらず、保護された後はまた以前の生活に戻り大学へも通っている。が、去年の終わり頃、小さな異変が起きた。
 大学のコンピュータから研究データが盗まれ、どこかに送信されているらしいのだ。
 そのデータは他の端末から取り出す事はできないので、?犯人?はどうしても大学のメインコンピュータを操作しなければならない。
 夜間に1人の学生らしい男がコンピュータ室に忍び込んで操作している姿を防犯カメラが捉えている。しかし男はカメラの存在を知っているらしく、微妙に顔が映らない角度で動いていた。そして体つきだけ見れば、例のさらわれた3人によく似ているのだが─。
 彼らの事は保護された後もしばらくの間は平塚署が様子を見ていた。が、なんの変わりもなく生活しているので、監視を解いたばかりだった。
 だがこの事を聞いた平塚署は3人に事情を訊こうとしたのだが、学生への影響を懸念した大学側が首を縦に振らなかった。おまけに学生の1人の父親は国会議員だったので、一地方署には荷が勝ちすぎて手が出せない。監視状態にある時もかなりの圧力を掛けられたのだ。
 そんな時、ゾンターク事件を手がけた国際警察のメンバーが入院した。
 彼の素性を聞いた病院長がまず県警本部長に事情を説明して─病院長は約束を守り、大学長にもまだジョーの素性を話していなかったので─JBに伝え、捜査の了解を取ってから大学長に話を持って行った。
 そしてダブルJの2人が学生として大学に潜入し捜査する事になったのだ。
「政治家の息子だからって当事者かもしれないのに、そこまで気を遣う必要があるんですかね」話を聞いてジョーが言った。「その政治家はチーフより偉いんですか」
「どうかな」森がかすかに口元を歪める。「殴り合いになれば私の方が強いかもしれん」
「じゃあ、そっちの手を使ってください」
 前回の事件で負傷した彼の左腕は、完治した今でも時々思い出したように痛む。そのたびにジョーはあの時の事を思い出し不機嫌になる。今もちょっと痛むらしい。
 だが、事件の選り好みなどできるわけのない彼らは翌日から湘南にある巨大なキャンパスに潜入する準備に入った。

「神宮寺」
 昨日と同じテラス席でジョーが呼んだ。
「お前、昨夜帰ってこなかっただろう」
 神宮寺も昨日と同じ席に着いた。
 彼らはバックアップの西崎も含め、大学近くのマンションに寝起きしている。しかし昨夜はジョーの部屋に明かりが点く事はなかった。
「初日から朝帰りか。いい根性だな」
「エレクトロニクス・ブレーン・ナントカいうプロジェクトがあるんだ。学生主体で行うプロジェクトの1つで大学側が色々サポートしてくれるらしいけど、そこに入った。昨夜はそのプロジェクトの学生達と飲みに行ってどこかに泊まった」
「電子・・頭脳プロジェクト?」
 なんでそんなところに?
「キットを作るのさ。ナイトライダーに出てくる電子頭脳を搭載したスポーツ・カーさ。そこの学生は皆それが夢でこのプロジェクトを立ち上げたんだとよ」
「・・・・・」
 喜々として語るジョーを神宮寺はまじまじと見つめた。
 昨日の今頃はこの世の終わりのような顔をしていたくせに、その日のうちに彼には珍しく同年代の男達と付きあい外泊までしてきた。
 2年間付きあっているがよくわからん奴だと改めて思う。が、大学にいられる理由ができた事は良かったかもしれない。
「だけどキットみたいな奴が乗ってたらうるさいんじゃないか?“スピード出すな”とか“無茶な運転するな”とか」
「だから、そんな事言わねえキットを作るのさ」
 金色の光の中でジョーの顔が輝く。
 決して美男子というわけではないが、こういう時の彼の表情─髪や瞳の輝きは人目を引く。男はもちろん、女子学生が何人も目を向けてくる。が、突然その表情が変わった。いつもの鋭さを瞳に刷いて、ちょっと上目遣いに神宮寺を見る。そして、
「ちなみに、このプロジェクトには?井出浩二?も参加している」
「─例の政治家の息子の」神宮寺の問いにジョーが頷く。その瞳はさっきとはうって変わって獲物を狙う猛禽類のようだ。「慎重にいけよ」
 神宮寺の言葉を、しかしジョーは顔を逸らした。その視線の先には何人かの学生達と共に井出浩二の姿があった。175センチくらいの体格の良い、今時の格好良い男の子といったところか。
「やあ、ジョー」浩二も気がついて、友人を引き連れ2人の方に向かう。「遅刻しなかったかい?」
「ああ」
 浩二の問いに、ジョーには珍しくにこやかに答える。
 枯葉色の髪の間から真っ直ぐに向けてくる青い瞳に、そこにいる男も女もホウと息をついた。と、2人の女子学生がジョーの前に座る神宮寺に目を向けた。
 ホリの深い精悍な風貌のジョーに比べ、細身だが凛とした美しい男らしさを備えた神宮寺に女の子達の目が迷っている。
「友達?」浩二も神宮寺に目を向けた。「君もエレクトロニクス・ブレーンに参加しない?」
「いや、おれは別のプロジェクトに─」
 答えながら神宮寺が浩二を観察する。
 彼の人を見抜く目は鋭い。ジョーは本能で見抜き、神宮寺はデータから引き出すと言われているが、ジョーより2才だけ年上の彼に人を選り分けるデータがそうあるとは思えない。やはり本能と、生まれながらの才の成せる技か。
 その神宮寺から見ても井出浩二という男は大学に、いや街中によくいる男で、見栄えは良いがとてもコンピュータ室に忍び込んで犯罪の片棒を担ぐような人間には見えなかった。が、ジョーは彼に狙いをつけたようだ。
 せっかくやる気になっているようだから、浩二はジョーに任せ、自分は後の2人をみてみようと思った。

 このキャンパスには、日本の大学としては初のパイロット養成のための専攻学科が設置されている。
 この航空操縦学専攻には大手航空会社や航空大学校の協力により、全国からパイロットを夢見る若者が集まり学んでいる。
 しかし一学年40人前後なので、今神宮寺が新たに入ることは難しい。
 そこで彼もジョー同様、学生が主体となって立ち上げる採択プロジェクトの中の航空機プロジェクトに参加した。目当ての1人がここに入っているからだ。
 このプロジェクトは学生が航空機を自作する事で知識や技術を習得する事が目標だ。
 すでにライセンスを取っている神宮寺には今さら─という内容だったが、それでも年の近い彼らと飛行機についてワイワイ話すのは楽しかった。
 目当ての男─?岩本岳?と登山家のような名前の22才の男は明るくよくしゃべる。
 その後の調べで、彼は洸と一緒に公安に抑えられていたあのアジトにいた事がわかった。
 しかし彼に対しても神宮寺のセンサーは反応しなかった。
 あと1人─?尾田?という男はプロジェクトに参加していないので、講義の中で押さえていくしかない。
 経済学科の彼の担当も自分かな、と神宮寺は森の人選ミスを呪った。

 エレクトロニクス・ブレーンのメンバーのほとんどが自動車部だった。
 部が所有している何台かの車に?キット?を取り付けたいらしい。
 ジョーはメンバーに誘われて部室に来ていた。井出浩二も一緒だ。
 私有地のみ走行が許された改造車の1台はセリカXX(ダブルエックス)だった。今のセリカに乗り換える前、ジョーが長年乗っていた鼻づらの長いスポーツタイプだ。
 自分が廃車にしてしまったXXが公道は走れないとはいえ、今目の前に現存している事が嬉しかった。
 これからグランドで先日手を入れたエンジンの様子を見るという。もう1台の改造シルビアとゼロヨンを行うらしい。
 グランドは土なので本当はアスファルトを走りたいが、まさか大学のメインストリートを走り抜けるわけにもいかず我慢するしかない。とりあえずエンジンの吹き上がりを見たいのだ。
 まず部長と副部長がそれぞれの車に乗って走る。スタート前の吹き上がりは上々のようだ。
 何人かが試した後、“乗ってみるかい?”と部長がジョーに声を掛けてくれた。もちろん頷いてXXを選ぶ。シルビアには浩二が乗った。
 2台は並んで今までしてきたようにエンジンの回転数を徐々に上げていく。スムーズだ。パワーバンドに回転数がうまく保たれている。
 2台はリア駆動なので、5000?6000回転になったところでクラッチを若干使いながらスタートした。
 パワーは2台共あまり変わらないようだがテクニックで差が出た。
 ジョーの運転するXXが車体半分ほど前に出る。さらに差がつき─が、その時、突然シルビアがXXの方にスライドしてきた。XXのリアに思い切りぶち当たる。勢いついたXXが大きくスピンした。皆の悲鳴が上がる。
「チッ!」
 ジョーはエンジンストールを避けるために、とっさにクラッチを切った。次にブレーキを掛ける事がスピン時の鉄則なのだが─。
 ジョーはXXが半回転して後ろ向きになっている事に気がついた。すぐ前にはスライドしてきたシルビアが見える。このままブレーキを掛ければ正面衝突は免れない。
 ジョーはブレーキを掛けず車輪を回したまま後ろ向きに走らせた。幸いシルビアはすぐ横に逸れ、一回転して止まった。
 それを見てジョーがブレーキを掛けた。キーと甲高い音を上げてXXが止まる。すぐ後ろにグランドの柵があり、ジョーをヒヤッとさせた。
 フロントガラスから7、8人の男達が走ってくるのが見えた。
「大丈夫か!」
 浩二とジョーにそれぞれ声を掛ける。
「ああ」ジョーは答え車外に出た。少し離れたシルビアから浩二が引き出される。ジョーも浩二の元に向かった。「無事か?」
「ご、ごめん、ジョー」その場に座り込んで浩二が言った。「急に頭がボーとなって、何もわからなくなって・・・。危ない目に遭わせてすまない」
「おれはなんともない。気にしなくていいさ」
 ジョーがかすかに微笑んだ。
「貧血かな?」
「でもケガがなくて良かった」
 男達が口々に言う。
「でもジョー、運転うまいな。ダートトライアルのレーサーみたいだったぜ」
「ホント。てっきり柵にぶつかるかと思った」
「そ、そうか?」
 ジョーはちょっと複雑そうな笑みを浮かべ、しかし視線を再び浩二に向けた。


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