コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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明日(あす)への一歩 2

「ふうん、そんな事があったのか」モニタを見ながら神宮寺が言った。「まさか、それって─」
「いや、わざと事故ったとは思えない。本当に運転ミスだろう」ジョーがコーヒーを淹れ、神宮寺の横にカップを置いた。「?大学生のおれ?を狙ってもしょーがねえだろ」
「そうだが・・・」
 モニタを見たままの目が浮かぬそうにジョーに移る。なんとなくイヤな感じがするのだが、口には出さなかった。
 彼らは今、大学の研究実験棟の中にあるコンピュータルームの監視室にいた。
 目の前には要所要所を映したモニタが並んでいる。夜の11時を回った今、棟内には2人の他には3、4人の警備員がいるだけだ。
 彼らは潜入した日から交替で監視室に詰める事にした。が、昨夜ジョーが帰ってこなかったので、神宮寺と西崎が一晩中ここにいる事になった。そのかわり今夜は自分一人でいいとジョーは言ったが、そういうわけにもいかず神宮寺が組んでいる。
「学生の頃は2、3日寝なくてもなんともなかったんだけどな」
「って、お前いくつだよ?」
 ジョーが笑う。最初の半日以外の大学生活は結構気に入っているようだ。
 高校を1年も経たないうちにやめてしまったジョーにとって、学校にはあまりいい思い出がない。
 この大学は学生のやりたい事をやらせてくれる学校なので、ジョーに合っているのかもしれない。
「ところで、盗まれたデータっていったいなんのデータなんだ?」
「チーフが説明したはずだぞ」眉をひそめる神宮寺に、“そーだっけ?”とジョーが首を傾げてみせた。「─ったく・・・。将来の新しいエネルギー源についての研究らしい。今、主流は原子力かプルサーマルだろ。それとは違う、まったく新しいエネルギーを見つけ将来は原発事故もない公害もないクリーンなエネルギー作りのための研究データだ」
「なんだ?その新しいエネルギー源って?」
「それは教えてもらえなかったそうだ。もっとも国内では他に2、3ヶ所の研究室がデータを取っているから調べればわかるらしいけど」
「なのにこの大学だけが狙われたって事は─」
 ジョーが顔をしかめ左腕を押さえた。昼間の事故の時ぶつけたらしく青アザになっていた。ちょうど前回のキズの上だ。
「大丈夫か?辛かったら西崎を呼ぶぞ」
「アザになってるだけだから大した事ないって。それより?ご老体?を2晩も徹夜させるわけにはいかないだろ」西崎はジョーより4、5才年上だ。?ご老体?は気の毒だ、と神宮寺が笑う。「けどよ、ここってそう簡単に入れるのか?当然、IDチェックがあるだろ」
「棟の入口はもちろん、コンピュータルームの入口、さらにはメインコンピュータへのアクセス─すべてにIDとパスワードがいる。前回の侵入はそれがすべてクリアされたそうだ」
「どーいうセキュリティだよ、それ」ジョーが悪態を吐く。と、「あっ」 
 一番端のモニタに何か動くものが映った。が、すぐ見切れた。
「こっちだ」
 神宮寺がその横のモニタを指差す。人間だ。警備員ではない。
「初日にお出ましとは、Welch eim Gluck!(ラッキー)だぜ」が、「─井出浩二?」
「確かか?」
「チラッと見えただけだから─」モニタに映った人物は浩一によく似ていた。が、すでにカメラのない場所に移動したらしくモニタには映っていない。「行こう、神宮寺」
 2人は監視室を出てコンピュータルームに向かった。警備員には、何か異変があってもこちらが連絡するまではコンピュータルームには近づかないように言ってある。
「あいつ、どうやって入ったんだろう」
 呟き、やがて足を止めた。角の向こうがコンピュータルームだ。が、すでに侵入者の姿はなく入口がわずかに開いていた。
「奴が何をしているのか確かめる。押さえるのはそれからだ」
 神宮寺がドアを少しスライドし体を滑り込ませた。ジョーも続く。
 室内には20台ほどのパソコンが並んでいた。その奥の部屋にメインコンピュータがある。
 2人が慎重に覗くと、侵入者はメインコンピュータに何か入力しているようだった。それはパスワードらしいと神宮寺が気がつく。が、そのとたん室内に甲高い金属音が鳴り響いた。
「あ、バカっ」
 珍しく神宮寺が言い放った。
「警報かよっ」ジョーが逃げようとする侵入者の前に立ち塞がった。「・・・浩二」
 男はやはり井出浩二だった。
 しかし彼はジョーを見ても驚かず、それどころか平然と見つめ返してきた。それはこの状況をどう回避すればよいのかわからないというのではなく、この状況そのものがわからないといった目つきだった。
 何も考えていない人形のような瞳─。
「こいつ・・・」
 ジョーは一瞬戸惑ったが、浩二が黙ってこちらに歩いてきたので確保しようと身構えた。もちろん銃は持っていない。コンピュータで囲まれた室内で発砲したらどうなるか言うまでもない。それに同年代の男の1人や2人、素手で充分だ。と、突然浩二が走り出した。内ポケットから何かを出しジョーに向けて噴射した。
「うわっ!ぷっ!」
 目に焼け付くような痛みを感じジョーが両手で顔を覆い跪く。
「ジョー!」
 神宮寺が駆け寄る。しかし彼も目に刺激を感じた。
 ようやく目を開けると、ジョーが床に転がってのたうちまわっている姿が目に入った。
 金属音はまだ続いていた。

「護身用の唐辛子スプレーとはな」
 冷水に浸し固く絞ったタオルを神宮寺に渡し西崎が言った。その向こうのソファには、目にやはりタオルを当て仰臥しているジョーがいる。
 浩一の放ったスプレーをまともに顔に受けたジョーと神宮寺は近くの病院で目を洗浄してもらい、さっき拠点にしているマンションに戻ってきたばかりだ。
「相手が学生という事もあって油断した」
 タオルを目に当て神宮寺がため息をつく。
「侵入者に気がついた警備員があわてて警報を鳴らしてしまったんだろ?あれほど言っておいたのに─。ジョー、タオル替えるぜ。まだ痛むか?」
「目が開かねえ」かなり辛そうだ。「なんかすごい原始的な武器でやられたような気がする。ドジなこった」
 悪態をつくジョーに西崎が冷たいタオルを当ててやる。
「だがこれで目標は井出浩二と決まった。一応チーフに報告しておこう」
「この事は言わないでくれよ、神宮寺」ジョーが開かない目を向ける。「格好悪いぜ」
「ラジャ」
 もちろん神宮寺も格好悪いのは嫌いだ。リンクをオンにする。
「まだヒリヒリするぜ」
 右目だけ開け、少し眇めるように遠くに目を向ける。
「青い瞳に赤い唐辛子で紫になってる。アメジスト・アイの正体はこれか」
「ぬかしてろっ」
 ジョーがグーで西崎の頭をパコンと叩いた。

 翌日、ジョーは昼過ぎに大学へ出向いた。
 神宮寺は朝から行ったようで、西崎は交代のためジョーが起き出した時にはもういなかった。
 2人共、ジョーは今日は休むと思ったらしい。いや、彼もそのつもりだった。行くのならプロジェクトチームが集まる夕方にしようと─。
 しかし西崎が作っておいてくれた朝食を摂りながら、浩二の事が気になって仕方なくなった。昨夜─といっても夜明け近かったが─森に連絡を取り、潜入捜査はこのまま続行される事が決まったからだ。
 今回の件に浩二が関わっている事は明らかなので彼を確保すればよいのだが、ジョーは昨夜コンピュータルームで対峙した時の浩二の目つきが引っかかっていた。あれは自らの意思で動いている者の目ではない。第3者に操られているような目だ─。
 もしかしたら彼は、今だにゾンタークと繋がっているのかもしれない。もしそうなら彼だけを確保しても事は解決しない。
 ジョーの話を聞き、そう考えた森がもうしばらく様子を見るように2人に指示したのだ。おそらく朝一番に神宮寺が浩二と接触していると思うのだが─。
「ジョー」正門を入りすぐ呼び止められた。「君も午後からかい」
「浩二・・・」
 自分の後ろから来る男は確かに井出だった。今、登校という事はまだ神宮寺には会っていないという事か。いやそれよりも─。
「今日の集まりは3号館の11教室に変更になったそうだ。君、携帯を持っていないんだって?珍しいな」
 昨夜とはうって変わってにこやかだ。コンピュータルームに忍び込み、ジョーにスプレーを噴きかけた事など彼の中には存在しないようだ。何の迷いもなく話し掛けてくる浩二にジョーが戸惑う。
「どうした?なんか変だぜ」
「いや・・・」ヘンなのはそっちだと言ってやりたいが、「ちょっと寝不足で」
「デートかい?そういえば目が赤いや」
 アハハ・・・と笑う浩二をジョーは蹴飛ばしてやりたくなった。が、結局ジョーは浩二をそのまま見送る。
 講義を受ける気にもならず、このまま帰ろうかと思っていると彼を呼ぶ声がした。例のテラス席に座る神宮寺だ。
「見たか」
 ジョーが神宮寺の前に座り込む。とても疲れた顔をしている。
「ああ、やっこさん何も覚えていないようだな」
「いつもの浩二だった。昨夜の方が異常だ。いったいなんなんだ」
「ん・・・、もしかしたら」神宮寺が真っ直ぐにジョーを見る。「後催眠(あとさいみん)かも」
「後催眠って・・、かけたその時ではなく後から効いてくるって奴か?」
 神宮寺が頷く。一度だけJBで資料用のDVDを見た事がある。
 被験者に催眠術を─例えば、?犬を見たら、ワンと言う?とか─かけ、それが数時間後、あるいは数日後に現れるようにするのだ。
 その時かかっている時間もセットしておけば、現れて覚めるまでの時間も指定できる。また腕の良い術者なら、予め暗示を与えておく事によって催眠中に被験者を自由に操られるとも聞く。もちろんその間の記憶は残らない。
「奴はゾンタークのアジトにいる時に、そいつをかけられたって事か?」
「早計には言えないが・・・その可能性はあるな」
「チェッ、ややっこしい事になっちまってるぜ」ジョーがため息をついた。もしそうなら自分達の手には負えない。催眠術師にでも代わってもらった方がいいかもしれない。「こうなったら早いとこ浩二を抑えた方がいいんじゃねえか?奴はまた忍び込んでくるぜ」
「そうだな・・・」
 考える神宮寺を前に、ジョーはふと周りに目を向けた。
 自分達と同年代の学生が賑やかに楽しそうにしゃべりながら歩いている。何がおかしいのかケラケラと大声で笑う女子のグループや、ゆっくり寄り添って歩くペア、または講義をサボってカラオケに行こうぜ、と言っている声も聞こえる。
 そんな中で自分はいったい何をしているのだろう、と思った。あのまま高校を続けて大学に行っていれば、ジョーは彼らの仲間に入る事ができた。勉強はイヤだがサークルは楽しそうだ。
 彼らは希望に溢れ自らの未来に向かって驀進している。
 では、自分は?
 人と比べるつもりはない。大事な仕事をしているのだ。なのに時々胸に穴が空いたような感覚に捕らわれるのはなぜ?
「どうしたんだ?」神宮寺に声を掛けられハッとする。「ぼおっとしてるぞ」
「なんでもねーよ」視界から周りの学生達を追い出す。「なあ、浩二を抑えようぜ。おれ、もうここに来るのいやだ」
「・・・・・」
 てっきり気に入っているとばかり思っていたが・・・。神宮寺が不可解そうにジョーを見る。その目を受け、だがジョーが顔を背けた。と、
「Guten Tag Joe!」何人かの女の子がジョーに手を振っている。「Wiegeht es Ihnen?(ご機嫌いかが?)」
「─いいもんか」
「おい、日本語で返してどーすんだよ」神宮寺が眉をひそめる。「ドイツ語で言ってやれ」
「めんどくせー」
 コテンとジョーがテーブルに懐く。
 バサッと髪が流れ、男らしい顔の輪郭と少しくせのある枯葉色の髪が見事に調和して美しい曲線を描き出す。そこだけ見ればかなりいい男だ。あとこれでもう少し愛想が良ければ女にモテて、学校に来るのも楽しくなるのにな、と神宮寺は思った。
 もっとも女の前でヘラヘラしているジョーというのもあまり見たくはないが。
「─おい」声を掛けられ見ると、テーブルの上に頭を乗せたまま上目遣いの目が神宮寺を睨んでいた。「お前、今ヘンな事考えていただろ」
「え・・・いや、別に・・・」
「わかるんだよ。お前の顔(ツラ)見てるとな」
「だったらおれの顔色より女の子の顔色を見てやれよ。ほら、いっぱい来たぜ」神宮寺が目を向けた方を見ると5、6人の女子が固まってこちらに来るのが見えた。ジョーがギョッ!と体を起こす。「さて、次は尾田と一緒の講義だ。一応まだ押さえておくぜ」
「あ、ちょっと待て神宮寺。おれも─」
 だが、一歩脱出に遅れたジョーは女の子達に囲まれてしまう。
「Viel Erfolg(がんばれよ)」
 神宮寺が手をヒラヒラさせエールを贈った。

 ダブルJのバックアップを立花と交代したに西崎は一旦JBに戻った。そして佐々木と共に昨夜の大学の研究棟やコンピュータルームのセキュリティに関して先方に問い合わせ、パソコンを介して報告書ファイルを見ている。
 それによると、セキュリティを掌るサーバがなぜか?その時間帯?だけシステムが解除になっていた事がわかった。故障ではないし大学側の誰かが手を加えた形跡もないそうだ。とすると外部からサーバに侵入したのか─それはまだ調べている最中だという。侵入者の事は一部の人間にしか知らせていない。
「セキュリティシステムがダウンしたらどうしようもないな」以前のサーバドの事件はまだ記憶に新しい。「昨夜は途中で見つかったせいか、データは取り出されていないそうだ」
「そうまでして欲しいデータなんでしょうか」西崎がモニタから顔を上げた。「テロリストと新エネルギー源・・・なんかピンときませんね」
「そうだな」佐々木も首を傾げる。「まさかアジトの自家発電に使うとは思えないし」
 どのくらいの規模のアジトだ?と、西崎が眉を八の字に笑う。
「だが新エネルギーと聞くと、我々はすぐ?発電?が思い浮かぶが、もしかしたら奴らはまったく違う物をそれから生み出そうとしているのかもしれないな」
「それはいったい・・・」
 西崎が訊いたが佐々木には答えられなかった。
 この夜、大学のコンピュータルーム監視室にはジョーと立花が詰めていた。
 侵入者は浩一だとわかったが、かと言って後の2人がシロだとは限らない。3人共、第3者の影響を受けているかもしれないのだ。
 本来なら1人1人に張り付きたいところだが、大学側との約束でそれはできない。未成年ならともかく、20才(ハタチ)過ぎのグレイゾーンにいる者達に対しての捜査でそこまで気を遣うのかと神宮寺とジョーは思ったが、教育機関のガードは意外に高く堅い。学生はもちろん大学側のデメリットも考えられる。
 しかしこの夜侵入者はなく、コンピュータにも異常は起きなかった。


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