コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

明日(あす)への一歩 4

 順番に夕食を摂り、その後井出と三神、関、木村、ジョーの5人は応接室の電話の前に詰めていた。
 山本は井出が関達のそばにいるのを確認して食事に、井出のもう1人の秘書は明日からの井出のスケジュール調整に追われていた。
 5人は食後のコーヒーを飲みながら─それでも楽しい会話ができるはずもなく、話は自然にザーツやその下部組織と思われるゾンタークの事になる。
 井出は日本のテロ対策の弱さを唱え、その横で三神がしきりに頷いている。木村は電話を気にしつつも井出の高論に耳を傾けていた。ジョーはサイドボードの中にある高そうな酒を見ていて関に睨まれた。
「そういえば三神君はドイツでザーツが関係している事件に遭遇した事があるそうだ」井出の言葉に三神は、“またですか?”と苦笑した。「いいじゃないか。参考に話してあげなさい。日本ではニュースにならなかった事件だ」
「はあ・・・」
 三神は気が進まないようだったが、井出に促されては仕方がない。
 今夜の井出はよくしゃべる。きっと少しでも不安感を払拭したいのだろうと思い話し始めた。
「何ヶ月か前ですが、ドイツ南部のアウトバーンに貨物機が着陸した事件がありまして、それを現地で見ていたのですが─」三神の言葉に、ジョーは危うくコーヒーを吹き出しそうになった。「─それで水色の機体にOマークと、翼に赤い線の入った中型の貨物機が─」
 間違いない。ジョーがカイザーと共に乗り込み、フライブルクの西を走るアウトバーンに強引に落としたあの一件だ。遥かドイツの地で起こった事件に関係する人間がこんな所で出会うとはすごい確立だな、と思った。
 もちろん三神が、目の前にいる男があの貨物機の操縦桿を握っていたと知ったらもっと驚くだろう。
(そうか、その時彼は現地で─。あの辺りは南ドイツになるのか)ジョーは一応納得した。が、(あれ?)
 ジョーは何かに気づき三神を見た。彼は関と山本相手に話を続けている。
(─どうして?)
 ジョーの疑問が増えた。

「こねーな」クレスタの後部座席で関が何度目かのため息をついた。「もう1時間も過ぎてるぜ。おれ、こーいう地味な仕事合わないのよねー」
 ムスッとした視線(?)を30mほど離れて立つ三神に向け、次に隣に座るジョーに移した。
「なあ、どうして金の渡し役をあいつにしたんだ?」
 昨夜遅くに掛かってきた電話は金の受け渡しの日時と場所だけ告げてすぐに切れた。
 前回同様テープに録音したものを流し、くぐもった声は声紋を録られないようにするための人工的なものらしい。
 関は受け渡し役をドイツ語のわかるジョーに頼もうと思った。が、その役はぜひ自分が、と三神が手を上げたのだ。
 浩二は大学の後輩だし、井出の力になりたいと語る。秘書としての株を上げたいという気持ちもあるだろう。今は秘書という立場だが彼も当然議員のイスを狙っているのだ。
 しかし受け渡しの時は犯人逮捕のチャンスでもあり、それ以上に危険も伴う。ここは本職のジョーの方がいいだろう、と関は思った。
 ところが当のジョーがそれを断り三神を押してきたのだ。奴らはおそらく井出やその家族、秘書の情報を持っているはずだ。何者かもわからないおれが出て行くより、秘書の1人が出た方が相手も信用する─と。
 確かにそのとおりではあるが、関にはジョーが他に考えがあって言っているように思えた。
「おい、ジョー」
 関が声を掛けてもジョーは答えない。時々口を動かしかすかに呟いているのはアルファベットか?それともドイツ語の単語─。
「こら、ジョー!おれの相手をしろ!おれは退屈なんだ!」
「うるせーよ、関。ドイツ語の勉強をしている真面目な学生なんだぜ、おれ」
「熱、あるのか?」
 額に触れようとする関の手を片手で弾き、ジョーが助手席に移った。
「ね、山本さん」運転席の山本に声を掛ける。「大学の講義とゼミの違い、わかります?」 「は?講義とゼミ?」
 急な問いに目をパチクリさせる山本に頷き、ジョーが目を向けてくる。自分より確実に年下であるこの男の、隣に座っているだけなのに感じるこの存在感はなんだ?圧倒的な威圧感と、何でも見透かしてしまいそうなブルーグレイの瞳─。
「はあ、一応大学出てますんで」
 警察官として、自分と彼のどちらが上の階級なのか山本にはわからない。が、自分の上司である関にはぶっきらぼうな口を利くくせに自分には一応敬語だ。関もそれを咎める事なく、いやむしろ息子のやんちゃぶりを楽しんでいるようだ。それでも山本は自分の常識の範疇を越えたこの男の質問にていねいに答えた。
「そうか・・・」ジョーが唇を撫でる。「彼があの教授の話を聞くチャンスはあるわけだ」「こらー!おれを仲間に入れろ!」後ろから助手席をガツンッ!と掴みガタガタ揺すった。「でないと、仲間はずれ禁止法で、しょっぴくぞ!」
「あるかよっ」
 ジョーが後ろに手を伸ばし関の頭をパコンッと叩いた。隣の山本が引きつった笑みを浮かべる。と、彼らの車の横を白い車が通り三神の前で止まった。
「来たぜ」
 ジョーが前に目を向け、彼の座席の後ろから関が顔を出した。

「で、その白い車は関係なかったんだ」
 コーヒーをジョーに差し出し立花が言った。
「ああ、見知らぬ外人に頼まれて三神に伝言しただけだ。“今日は中止だ”って」
「その一言で1万円ならいいバイトだな」
「その分、関達にみっちり調べられてたけどな」
 ジョーはコーヒーに少しだけミルクを入れた。白い広がりがクルクル回る。掻き回さずこのまま飲むのが好きだ。
「でも何か変だ。すっきりしない。ゾンタークを詳しく知ってるわけじゃねえが、何かが違うような気がする。で、別の2人には異常はないか?」ジョーの問いに神宮寺が首を振った。「そうか・・・」
「着替えを詰めたらまた町田に行くんだろ。早く戻った方がいい」と言いながらも、「金の受け渡し時に警察が張り込む事は奴ら百も承知だろう。なのにやり方が稚拙すぎる。目的がどこにあるのかわからない」
「ん・・・」ジョーが唇を撫でる。「神宮寺、大学の事務所に訊いて欲しい事があるんだ」 ジョーは井出宅で感じた疑問や違和感を2人に話した。
「なるほどね。お前でなければ気がつかなかったかもな」神宮寺が感心したように頷く。「だけどそれだけで疑うのはかなり弱いぜ。いくらでも言い逃れができる」
「わかってる。だから関にも言ってない」
 だが神宮寺にはすべて話した。確信はないが、ジョーの考えをわかっていれば神宮寺はきっとジョーの知りたい事を的確に調べてくれる。
「わかった。明日訊いてみる」
 答える神宮寺に、?じゃあ?と手を挙げジョーが出て行った。
「今回のジョーはいつになく理知的なキャラだね」
「一応大学生だからな」
 タイヤを鳴らし走り去るセリカが窓から見えた。
 だが翌日になっても、その次の日を迎えてもゾンタークからの連絡は入らなかった。

「帰ってきた」目の前を通りすぎた紺色の車が井出邸の前庭に入るのを確認し、神宮寺が言った。「ジョー、うまくやれよ」
「任しとけって」
 ジョーは門の外に止まっているクレスタから出て井出邸の庭に入った。その後姿をクレスタの中から神宮寺と関が見ている。と
「・・・神宮寺君」関が小声で呼んだ。神宮寺が彼に目を向ける。「前回の事件での事だが・・・。まだ怒っているのか?」
「・・・・・」
 神宮寺がまじまじと関を見た。自分より20は年上の男に心配そうな目を向けられちょっと気の毒になった。
「いいえ、ジョーがもうなんとも思っていないようですし」関がホッと息をついた。が、「ただし、この次はありません」
 スッと深く突き刺すように告げる。
 ジョーが?動?なら神宮寺は?静?の迫力だ。派手ではないが深く静かに進攻する。
(まるで水と油だ。いやだからこそいいのか─)
 関は改めて思った。
 一方ジョーは、井出邸の駐車スペースに停まった紺色の車から降りてきた三神に声を掛けた。日本語なのになぜかビクッと体を震わせ自分を呼ぶ方を向いた。
「三神さん、井出さんは一緒ではないんですか?」三神が首を振る。「じゃあ自宅かな。実は浩二君の居場所がわかりそうなんです。目撃情報がありまして─。井出さんに知らせてきます」
 そう言うとジョーは一足先に井出邸へ走り込んだ。
 三神はポカンとその様子を見ていたが、再び車に戻ると井出邸を飛び出していった。
「ホオッ、意外と簡単に動いてくれたな」
「ここ2日間、お互いに動けないでいましたからね」
 神宮寺がクレスタのエンジンを入れた、と、ジョーが助手席に乗り込み小型のトレーサーを取り出す。その画面に点滅する光が映る。
「うまくくっつけられたようだな」
 その言葉にジョーが?あたりまえだ?と片目を瞑ってみせた。
 クレスタが発進する。
 光はやがて16号線から首都高速神奈川3号線に入った。
 神宮寺の運転するクレスタの後方2キロには、立花や山本が乗るティーダがついている。
 車はやがて川崎臨海底トンネルを過ぎて川崎区千島町の京浜運河そばに出た。
「神奈川県警か水上警察に協力要請をしておいた方がいいんじゃないか」
「いや、待ってくれ」後ろから関が言った。「要請するには課長を通さなければならない。そのためにはもう少し様子を見て、奴が関わっている確証を得たい。相手は議員秘書だ」
 その言葉に神宮寺は少々不満そうだったが、とりあえず言う事を聞いた。
「仕方ねえよ。硬直状態とはいえ危ない橋を渡っている事は確かだ。北極送りになるのは少ない方がいい」珍しくジョーが神宮寺を嗜めた。「だが急いだ方がいいと思う。これ以上救出が遅れたら浩二は─」
 もちろんどうなるのかジョーにもわからない。しかし浩二は成人の男性だ。いつまでも生かしておくとは限らない。自分の判断の甘さが浩二の救出を遅らせたと思っているジョーにあせりが見える。
「あいつの、キットを作る夢を叶えてやりたい」
「北極か・・・」関が呟く。「一気に人口が増えないよう祈るね」
 と、前方の紺色の車が止まった。ジョーが耳にはめているイヤホンを手で押さえニヤッと笑う。三神が電話で誰かと話したようだ。
「行こう」
 後ろの2人の返事を待たずにジョーが出た。真っ直ぐに三神の元に向かう。


        3 へ     ⇔
スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/126-05c07f69