コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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明日(あす)への一歩 完

 建物の陰に停まっていたクレスタに気がつかなかったのか、突然現れたジョーに驚いた三神が車を発進させようとした。が、ジョーのウッズマンが後輪を撃ち抜く。
 ギュュ・・・ンとタイヤの音が響いたが、車は発進できなくなった。
「降りろ」
 ジョーが窓越しに三神に言った。三神は一瞬顔を引きつらせたが
「これは何のまねですか」
 ゆっくりと車を降りながら言った。その瞳は今までにない強い光がある。
「何のまねはこっちの台詞だ。浩二の拉致に協力し捜査に協力すると見せかけて何をした。今、携帯を掛けた相手は誰だ?」三神が怪訝な顔をした。「あんたの上着のポケットにトレーサー付き盗聴器が入ってる。さっきおれが入れたのよ」
「な─!」三神がポケットに手を入れた。「こ、こんな事、警察がしていいのか!」
「いいんだよ、おれ達はな」
 少し上目遣いのジョーの目に三神が口を閉じた。
「私は浩二君の拉致に関与などしていない。奴らからの電話に出たのは私だ」
「おれがおかしいと思ったのは、その時のあんたの言葉だ。向こうがドイツ語で掛けてくる確率が高いから、当然自分が出るように言われると思ったんだろ。そこであわてたフリをして思わず言っちまったのさ。“Gruse Gott”ってな」
 三神が眉をひそめた。
「こいつは、“こんにちは”だが、“もしもし”の意味もある。だがおれならこう言うね。   “Guten Tag”」その言葉に三神はハッとした。「そう、同じドイツ語なのに明らかに違う。おれは?低地ドイツ語?で、あんたは?高地ドイツ語?、主に南ドイツやオーストリアで使われている言葉─。日本で言うなら?方言?って奴だ」
 ジョーは三神を睨み、チラッと瞳を横に向けた。ティーダの立花や山本がこちらに向かってくる。
「実はその前に、ゾンタークを名乗る奴らからの手紙にも違和感があった。文中の   ?Sonnabend?─土曜日の事だが、これも南ドイツで使われる言葉だ。さらに電話での奴らのアクセント─sw発音やchの違いで、おれにはひどく耳慣れない言葉に聞こえたんだ」
 神宮寺と関が三神の左右に分かれる。
「あんた、浩二と同じ大学ならドイツ語のアルトール教授を知っているだろう。あの教授は本当はオーストリア人で、研究テーマは?高地ドイツ語について?だってな。おれ最初にあの教授の講義を受けた時、発音がヘンだと思ったが、あまり深く考えなかった。あの講義は高地ドイツ語で行われていたそうだ」
 ジョーがドイツにいたのは9才までだ。日々普通に使っている言葉に方言があるなんてわからないのも無理はない。大学の講義も真剣に聞いていなかったので、“ヘンな発音の教授”としか残らなかったようだ。
「あんた、在学中にあの教授の講義を取っていたんだってな」
「それがどうした。高地ドイツ語を話す者など珍しくない。日本にだって、ゾンタークにだって─」
「そーなンだよね」ジョーがサラッと前髪を掻きあげる。「?知っている?という条件ならおれも入るし─。だけどもう1つ引っかかったんだ」三神が再び眉をしかめジョーを見た。「3日程前にあんたドイツでザーツがらみの─そうアウトバーンに降りた貨物機の話をしたよな。“水色の機体に○マークの、翼に赤い線の入った中型の─”。確かにその通りだが、あんたどこで主翼の上部を見たんだ?」
 三神が?え??と目を見開く。
「赤い線が入っていたのは主翼の上部だ。機体を上から見るか、あらかじめ知っていないとわからない場所だ」
「あっ」三神が思わず声をあげた。「いや、それは後からニュースで見たのかも─」
「おれも報告書を書くために、散々ニュース映像や写真を探したが見つからなかった。あんた、どこで見つけたんだ?」三神の目が何かを探すようにキョロキョロ動く。「あ、アウトバーンに着陸しているのを見た、っていうのはダメだぜ。不時着の衝撃で主翼はぶっ飛んだし、着陸してすぐに機体の○マークをおれの相棒がぶち抜いちまったんだからな」
 と、親指で神宮寺を指差す。
 あの時ジョーは、神宮寺に抱えられながら機体に開いた穴から外へ出た。ドアの横─ちょうど○の書かれた場所だった。
 後で神宮寺が、“○がついていたから、そこをぶち抜けというマークかと思って”と笑って言った。機体にそんなマークがついているわけないが、確かに着陸してすぐに両主翼と○マークはなくなった。
 あの時は周囲はかなりの範囲で交通規制されていたので、間近で貨物機の着陸を見た者はいないはずだ。
「・・・え?あ、ま、まさか・・・」
 何かに気がついたように神宮寺をそしてジョーを見る。
「そう、あの貨物機を操縦していたのはおれだ」
 三神の顔が青ざめた。すかさずジョーが一歩彼に寄る。と、左右から神宮寺と関も一歩詰めた。
 三神がジョーの推理の?穴?に気がつく前に彼を追い詰めてしまいたい。立花や山本も加え5人の男に詰め寄られた三神は為す術もなく立ち尽くしている。
「教えてくれ三神。浩二はどこだ?無事でいるのか?」だが三神は答えない。「おれは奴が大学で手掛けているプロジェクトを完成させてやりたい。いや、完成は無理かもしれない。それでももう一度奴を皆と共に─」
 あまり他人の事には構わないジョーが珍しく熱くなっている。車好きとキットという言葉が2人を繋いでいるのか。
「三神!」
「・・・浩二君はもう日本にはいない」えっ!?と男達が声を上げた。「正確には日本から出つつある。今頃は東京湾を出て太平洋を西に向かっているはずだ」
「西!?どこへ行くんだ!」
 関が怒鳴った。
「おそらく中国か北・・・。ゾンタークの奴らがここから船で─」突然三神がジョーの両肩をガッと掴んだ。「頼む、浩二君を助けてくれ!彼を日本から出すことは反対したんだが─」
「さっきの電話はそいつらに?」
「そうだ。2時間ほど前に出港したらしい。砂浦丸という貨物船だ」
「それならまだ追いつける。関!この近くでヘリを出せる所は!?」
「羽田に海保の航空基地があるが─」
「そこに頼んでヘリを一機回してもらってくれ。三神、もう少し詳しい情報を─」
「簡単に言ってくれるよな・・・」
 それでも関は警察庁公安課に電話を入れた。その間ジョーと神宮寺は三神から少しづつ情報を引き出していく。
 浩二の救出は願うものの、その他の事となると三神の口も重い。と、
「課長が留守だあ!?かまわん、お前が海保に頼め!不都合があったら全部おれにツケとけ!何かあったら公安と国際警察の優秀なメンバーが責任とってやる!」
 ピッ!と電話を切る。優秀なメンバーっておれ達か?と顔を向けるジョーに、
「もちろんおれも入ってる」
 と、自らを指差しニッと口元を歪めた。
 やがて海上保安庁第3管区所属のヘリ、SH177─?はちどり?が男達の頭上に現れた。
「時間がない。ホイストを降ろせ!」
 ジョーがスピードマスターの波長を海保仕様に合わせた。と、ヘリのドアが開き、足場のついたホイストが降りてきた。一度に2人の昇降ができる訓練用の物だ。
 ジョーと神宮寺が取り付く。
「三神を頼むぜ!」
 上昇していくジョーが怒鳴る。関が何か言ったがブレード音に消されお互い聞こえないだろう。
「緊急通信」コ・パイ席に座っている隊員が2人に振り向く。「御前崎沖で巡視船?あしたか?が該当船とみられる貨物船を発見。停船を呼びかけていますが応答はありません」
「いいタイミングだ」ジョーが口元を歪める。「急いでくれ」
?了解!?とパイロットが答えた。
 この時にはすでに立花から連絡を受けた森が正式に海保に協力要請を出しているので、若い2人が言う事もスムーズに通る。
 やがて?はちどり?は通報のあった海域上空へ到着した。
「あっ!」
 全員が声を上げた。
 海上に針のように小さく見える貨物船から真っ黒な煙が吹き上がっていた。一瞬、抵抗して?あしたか?の13mm多銃身機関砲の攻撃を受けたのかと思ったが、停船を呼びかけている時、突然煙が上がったという。
 何人が乗船しているのかわからないが、脱出した者は1人もいないそうだ。
「まずいな・・・」
 ジョーがチラッと神宮寺に目をやる。
「?あしたか?から救助隊が移ります」
?あしたか?からの通信を受けていたコ・パイが言った。見ると貨物船に接近した?あしたか?から梯子が伸びていく。
「おれ達も降りよう。貨物船の上空につけてください」
 パイロットがアッケにとられたように神宮寺に目を向けた。が、相手が真剣に言っているのがわかったのだろう。“はい”と小さく答え、貨物船の上空でホバリング態勢を取り始めた。
「行けるか、ジョー」
「大丈夫だ」
 ジョーは自分が左腕を無意識に押さえているのに気がつき手を放した。一瞬不安そうな顔をしたが、すぐにホイストを右手で握った。
「やってくれ!」
 重いドアが開かれウインチに繋がれたホイストが2人を乗せ降下していく。
 ブレードが生み出す風が2人の体を揺らした。海上に波が立ち、水飛沫が上がる。
 しかし?はちどり?がギリギリまで降下してくれたので、ホイストを使う時間は短くて済んだ。
 まずジョーが飛び降り、続いて神宮寺が彼の横に着地した。
 見ると船のあちこちから黒い煙が上がり重油の臭いがする。風が強い海上なので煙はどんどん流されていくが途切れる事はない。
 海保の救助隊は火の元と乗組員を捜索するために船内に散っていく。と、
「神宮寺」
 ジョーに呼ばれ振り向いた神宮寺の目に、船室から飛び出してきた1人の男の姿が映った。
 銃口がこちらを向いていた。2人はとっさに左右に飛び退く。甲板を銃弾が跳ねていく。ジョーがウッズマンを抜き、男の気を引きつけた。
 その間に神宮寺が男のすぐそばまで回り込んだ。一気に飛び掛りゴロゴロと甲板を転がる。
 下になった神宮寺が男を蹴り上げた。男は仰向けにひっくり返った。が、すぐさま銃を抜き上半身を起こした。だが男がトリガーを引くより早くジョーが銃を撃ち飛ばした。
「浩二はどこだ!言え!」ジョーの勢いに男は何か言ったが日本語ではなかった。「チェッ」
 ジョーは駆けつけた救助隊に男を引き渡した。
「ジョー!」神宮寺の声が飛んだ。彼はフタの開いている倉口から船倉を見下ろしていた。「浩二だ」
 ジョーが覗き込む。と、浩二らしき男が船倉の床に倒れていた。
 一瞬2人の脳裏に横須賀港での出来事が走った。
 あの事件でクロードは命を落としジョーはフランスへ発つ事になった─。
 それはジョーはもちろん神宮寺にとっても辛い日々の始まりだった。お互いが相棒を求めているのに日本とフランスの距離が─いや、それ以上に2人を囲む状況がそれを許さなかった。
 さらに神宮寺はジョーの心境を思い、彼の力になれなかった事を、ジョーはクロードの死を理由に現状から逃げたという負荷を負った。だが
「─今度は逃げない」
 ジョーがかすかに、しかし力強く呟くと船倉に下りているロープで一気に滑り降りた。神宮寺も続こうとしたが考え直しその場に留まった。
 どこかで爆発音がした。
 小さな貨物船の船体が震える。あの時と同じだと神宮寺は思った。と、ジョーの下りて行った船倉からボワッと黒い煙が吹き出てきた。
「ジョー!」
「大丈夫だ!」ジョーの声が聞こえた。煙いなあ、くそっと文句を言い、「浩二!おい!目を開けろ!」
 力任せに揺さぶるが浩二は気を失ったままだ。
「薬でも嗅がされているのかな・・・。神宮寺!梯子か何か捜して─」と、その時、頭上で銃声がした。オートマグではない。「神宮寺!」
 ジョーは立ち上がりかけた。と、誰かが倉口から顔を出した。銃声が響く。
「うっ!?」
 ジョーがとっさに浩二に覆い被さった。銃声が続く。が、煙が邪魔をしているのか正確性に欠けていた。
 だが一発がジョーの頭のすぐそばに着弾した時、彼は決心した。
 胸のウッズマンを抜き、クルッと体を仰向けに返した。両手でウッズマンを天に向けトリガーを引いた。覗いていた男が声を上げて引っ込んだ。
「あ・・つっ・・・」
 そのわずか前に弾丸が左足を掠ったようだ。幸い厚いデニムに守られダメージは少ない。
「ジョー!無事か!」
 頭上から神宮寺の声が降ってきた。
「お前こそ大丈夫かよ!ビビらせるな!」
「悪い。奴ら何も言わず撃ってくるんだもんなー」それはそうだろう。「で、上がれるか?」
「足をやられた。ロープに浩二を結ぶから引っ張り上げて─」
 突然、目の前で光が跳ねた。まさかフラッシュバックの再発か!?と思った次の瞬間、轟音と爆風がジョーと浩二に襲い掛かった。
 2人は2mほど飛ばされ床に転がる。そこへ大量の水が押し寄せ2人の体を船倉の壁に押し付けた。あっという間に体が沈んだ。
「ジョー!」
 目を開けるとすぐ前に神宮寺がいた。
「お前まで飛び込んできてどうするんだよ!」
「ジョー、浩二の体を支える。このまま水の勢いで上がるぞ」
 たちまち足が床につかなくなった。穴の開いた船底からどんどん海水が入ってくる。
 2人は立ち泳ぎのまま倉口へ着くのを待った。
 水の勢いで押され、船倉内をグルグル回る。お互いを繋ぐ手が離れそうになるのを必死で耐えた。
 今この手を離してしまったら、また相棒を失うかのように─。
「く・・・」
 ジョーの左腕が痛み、力が抜けていく。その腕を神宮寺がガツッと掴んだ。ジョーもまた神宮寺の腕を掴み直した。
 2人は浩二を真ん中に挟み互いの体を支えあう。
 倉口に近づいた。水の流れが緩やかになる。しかしのんびりしてはいられない。船底に穴が空いた船はいつ沈むかわからない。もし甲板に水が入ったら、その勢いで彼らは船倉から出られなくなる。
「浩二!おい、井出!」
 できれば自力で上がって欲しいのだが、いくら呼んでも浩二の意識は戻らなかった。と、頭がつっかえた。水が船倉を満たしたのだ。そのまま倉口を目指して泳ぐ。
 体力には自信のある2人も、男1人抱え冷たい水の中を泳ぐのはかなり辛い。ジョーの左腕を気遣い神宮寺が浩二を抱えた。と、倉口が見えた。
 ジョーがすかさず縁に手を掛け甲板に上がる。すぐさま浩二の体を掴んだ。救助隊の何人もの手が浩二と神宮寺の体を掴み引っ張り上げた。
「早く?あしたか?に。もう沈みます」
 救助隊員が浩二を背負い、ジョーと神宮寺の体を支え?あしたか?に向かう。船の傾きが増した。
「この船の乗組員は?」
「全員?あしたか?に収容しました」
 その答えにホッと息をつく。
 貨物船にいた全員が巡視船に移り終えると同時に、水の侵入を許した船は傾き、船底から沈んでいった。

「浩二は外傷もなく、やはり薬か何かで眠らされているようだ」
 治療台の上で上半身を起こしているジョーに神宮寺が言った。
 ジョーは弾丸の掠った左足の治療を受け、しばらくの安静が言い渡されていた。もちろん今日中に東京に戻るつもりだ。
「関さんから井出氏に連絡を入れてもらったから、ここまで素っ飛んでくるそうだ」
「そうか」
 町田から静岡までなら3時間もあれば充分着くだろう。こんな時?キット?が装備されたスポーツ・カーがあればロケット・ブースターでもっと早く着くだろうに、と思った。
「これで浩二もキットの製作に戻れるな」
「そうだな」ふとジョーを見て、「羨ましそうだな。お前も大学に行くか?」
「いや、もう学校はコリゴリだ。プロジェクトだけなら参加してもいいけど」
 ジョーが治療台に伸ばしていた足を床に着けた。また少々痛むが歩けない事はないだろう。できれば浩二の父親が来る前にここから出たかった。
「それに・・・今さらのんびり学生やる事もできねえし・・・」
「ん・・・」神宮寺がちょっと寂しそうな顔をした。が、「お前、大学に通うのは無理でもキットのテストドライバーとして参加すればいいじゃないか。そしてキットに怒られてもらうのさ。“もっとおとなしく運転しろ”とか“スピード出すな!街中で3速出すな!”とか」
「そんな事言ったら配線抜いてやるっ」
 ジョーがゆっくり立ち上がり神宮寺に体を向けた。そして一歩前に踏み出す。
 貨物船から脱出し病院に搬送され治療を受けた後も、彼は?ここ?にいる。神宮寺の目の前に、いつもと変わらず強気な笑みを浮かべながら─。
 もう逃げない。どこへも行かない。
 ここが彼らの生きる場所だ。
「それにしても三神に言った“犯人はお前だ!”推理は、ボッコボコに穴が開いていたな。三神が気がつき反撃してこないかハラハラしたよ」
「おれもだ」
 ジョーは笑いながら病室のドアを開けた。白く長い廊下が目の前にあった。
 左足はまだ痛む。しかしジョーは確かな足取りで神宮寺と共に歩き始めた。


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