コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Way of life 2

 外に出ると冷たい風が吹いていた。
 伸ばしっぱなしの前髪がフワッと持ち上がり、あまり見ないブルーグレイの瞳が現れる。その輝きは見る者を魅了し、また恐れさせた。
 ジョーはたばこを探したがテーブルに置いてきたのか彼の手元にはなかった。だが取りに戻る気にもならない。諦めて店の壁に背中を預けた。
 街はそろそろ人通りの多くなる時間だ。だがジョーが立つその空間だけは深く沈んだような暗さを醸し出している。頭を振り彼の瞳は再び髪で隠された。
(変な事、思い出しちまったな・・・)
 前髪を伸ばし瞳を覆い始めたのはいつの頃からだろう。彼は自分の瞳が周りの人間に与える影響を知っている。それも子どもの頃からだ。
 綺麗な色だと褒められた事もあれば、なんて鋭い目だ、心の中を見透かされるようだ、と嫌われた事もある。それでも子どものジョーには大した問題ではなかった。意識し始めたのは日本に来てからだ。
「ジョー」振り向くと神宮寺が立っていた。「大丈夫か?関さん達、気にしているぞ」
「ん・・・」
 決まり悪げに答えたが、店内に戻ろうとはしなかった。
「どうしたんだ?気分が悪いわけじゃないだろ?」
「ちょっとガキの頃の事、思い出しちまってさ」薄っすらと口元に笑みを刷き神宮寺に目を向けた。「笑うか?笑うなら話さねえぜ」
「そんなの、聞いてみなきゃわからないさ」
「そりゃそうだ」口元の笑みが大きくなる。が、「おれ、セツブンって日本に来て初めて知って・・・。その頃のおれはもう鷲尾さんの所にいたんだ」
 アサクラ氏の事件は確か秋頃だった。紅葉の盛りの、日本でもっとも美しい時にジョーは1人になった。
「鷲尾さんはおれを近くの私立の小学校に入れたがったけど人数に空きがなくて、新学期の始まるまでの数ヶ月間、地元の小学校に通った事があるんだ。日本語は日常会話くらいだったらなんとかなったし」
 それでも日本人ばかりの学校で彼は目立っただろう。
 当時鷲尾の家があった赤坂界隈は外国人も多く住んでいたが、その子ども達の多くはインターナショナル・スクールか私立の学校に通っていた。ジョーは父親から日本語を教えられていたので地元の小学校でも困る事はなかったのだが、
「何の授業だったか忘れたけど、Lehrer(教師)がセツブンの話を始めてビデオを見て・・・、そこでおれは?オニ?というのを初めて見たんだけど、驚いたよ。だってそいつは黄色の髪に青い目をしていたんだ。自分と同じだ、と思った」
 子どもの頃のジョーは、髪の色は今より明るくブロンドに近かった。瞳ももっと青かった。
「おれはここでは?オニ?と呼ばれて、人々に嫌われる存在なのか、と思った」
 日本の子どもなら幼い頃から昔話で見聞きしていた?オニ?。悪いオニもいるが良いオニもいる事を知っている。
 しかしジョーには未知の存在だ。節分に出てくるオニは豆をぶつけられ追われる。
「もちろんLehrerの話からオニは架空の生き物だってすぐにわかったし、誰も何も言わないし・・・いや、2、3人だったか・・チラッとおれの方を見た奴がいたけど、でもそれだけだ。だから今まで忘れていた」フッと神宮寺に顔を向ける。「ガキみたいだろ?─って、その頃おれは本当のガキだったけど・・・。まさか今頃思い出すなんてな」
 ジョーは自分の子どもの頃の話をしたがらない。どうしても辛い出来事を思い出してしまう。
 しかし本当はしたくてもできなかったのだ。
 両親が殺された夜、庭でクロードを見た事を忘れていたように、彼の子どもの頃の記憶の一部は彼の受けたショックと共に記憶の片隅に追いやられてしまった。自分で取り出す事もできない所に─。
 しかし所々穴の開いた記憶をジョーは不自然だとは思わなかった。そう、あのクロードの事件までは─。
 冷たい風が2人の間をすり抜ける。
 話を聞いても神宮寺は笑わなかった。ただ黙って聞いているだけだ。ジョーも彼の言葉を期待してはいない。ただ聞いてもらうだけでよかった。
「うう、さむっ。酔いがさめちまった。戻ろうぜ」
 店のドアを開けようとした。が、すぐそばに立つ3人の男に気がついた。道路の明るい所から2人を見ている。
「お兄さん達、仲いいね。少し都合してくれる?」
 1人がニヤニヤしながら言った。仲がいい事となんの関係があるんだ?と思ったが黙っていた。
 こんな奴ら転がすのは簡単だが、関達と一緒なのであまりハデな事はしたくない。と、何も言わない2人をビビッていると見たのか、3人は調子づいて一歩2人に近づいた。
「1万円・・・なかったら5千円札2枚でもいいよ」
 ヘタな冗談を言い、ヒャッヒャッと笑う。神宮寺もジョーも相手をするのが面倒になった。
「お前らの相手をする気はない」
 ジョーが一歩前に出る。
 暗い空間からライトの当たる場所へ、精悍な顔と圧倒的な存在感を発する男の姿が現れる。笑っていた3人は一斉に口を閉じた。
「だけどちょっと虫の居所が悪いから、相手してやってもいいぜ。治療費は払わねえが」
 さらに一歩前に出る。それとは反対に3人の男達は2歩引いた。これでもう相手は退散するだろう。神宮寺がそう思った時─
「お?い、ジョー。大丈夫なのかあ!?」
 ガタンと店のドアが開き、関が顔を出した。と、5人の若者の姿が目に入った。
 手前の2人は知っている。しかし後の3人は・・・。だがさすがは公安3課の主任、彼はすぐさまこの状況を理解した。そして
「おー、楽しそうなシチュエーションじゃないの」
と、すっかり自分も参加する気で2人のそばにスタンバイした。
「まずいですよ、関さんは」
「なーに、君達と一緒だと言えば、どうとでもなるさ」
「・・・そーいう事に利用しないでください」
 ため息をつき神宮寺が店に戻ろうとした。
「お、神宮寺君は不参加か?」
「もう相手がいません」
 見るといつの間にか3人の男達は消えていた。
「えーっ、あれー?どこ行ったんだー。楽しいシチュエーション!」
「あんたが余計な首突っ込むからだぜ、関」体を半分こちらに向けジョーが言う。自分が脅した事などおくびにも出さない。「あ?あ、久々にひと暴れできると思ったのになァ。こーなったらあんたのボトル、全部飲んでやるっ」
「えっ、ちょっと待て。君は酒グセが─」
 関がわめきながらジョーの後を追っていった。
「このまま帰ろうかな・・・」
と、思ったがそういうわけにもいかず、神宮寺もまた店のドアを開けた。

「う?、頭イテェ。安酒じゃねえのか、関のボトル」
「彼らに合わせて飲むからだ」ずーとブツクサ言い続けているジョーの横を歩き、神宮寺が言った。「自分のペースで飲めばなんともない」
「?アミ?と一緒にするな」
「?ザル?だ」
 言ってから、自ら?ザル?だと認めたようで、ちょっと眉をしかめる。
 昨夜はあの店の後2、3軒ハシゴして終電を見送った。
 一番近いのは曙橋の関の家だったが、山本と木村が泊まるというのでジョーは中野の神宮寺のマンションに転がり込んだ。
 そこを翌日の昼頃出て、2人はJBに出勤したのだ。
「うー、まずいなあ。おれこれから榊原さんの診察があるのに」
 元旦早々の肺の手術からもうすぐ2ヶ月が経つ。今はもう完治しなんの支障もないのだが、榊原から自分が来署する時は必ず診察を受けに来るよう言われていた。今日がその日だ。
「行かなかったら怒られるだろうなァ」
 さすがのジョーも榊原に抵抗するのは難しい。
「観念して行って来い。ついでに二日酔いも治してもらえばいい」
 片手をヒラヒラさせて言う神宮寺に舌を打ち、それでもジョーは医療部のある東館に向かった。
 神宮寺はそのままダブルJ室に入る。弱く暖房を入れ、コートを掛ける。今、彼らが抱えている事件はない。唯一気になっているのが三神の事だが。と、室内フォンが鳴った。
「はい、神宮寺です」
『神宮寺君、すまないが』佐々木だ。『昨日までの三神の証言をまとめてパリに送ってくれないか。長官が日本でのザーツの活動を気にしておられるそうだ』
「わかりました。長官宛のメールでいいですね」
“ああ、頼む”と佐々木が言いフォンが切れた。
 神宮寺はパソコンを立ち上げ三神の証言の入ったファイルを開けた。しばらくキーボードを叩いていたが、“チーム3捜査課、第1会議室へ集合”の館内放送に、なにかあったのかなと手を止めた。
 しかし室内フォンは鳴らないのでまた作業を始めた。と、突然ドアが開いた。入ってきたのはジョーだ。
 彼はムスッとした表情でソファに体を落とし、頭の後ろで両手を組みそのまま寝っ転がった。
「どうした?二日酔いは治ったか?」
「榊原さんに怒られた」不機嫌のオーラが増していく。「ケガのしすぎだって。無キズの所を探す方が難しいって。そんなのおれのせいじゃねえや」
 前回の事件で負傷した左足をポンッと蹴り上げ組み替えた。もう痛みもないし傷跡もわからない。
「そんなの相手に言ってくれ」
 普段は他人の言う事などどこ吹く風のジョーだが、二日酔いのイライラも重なっているのか今は機嫌がかなり悪い。
 確かにジョーはケガをさせられた方なので、彼の言う事はもっともだ。榊原もわかっているが、敢えて口にしたのだろう。
 国際警察の支部の中でもJBの平均年齢は若い。行動部に限れば中心は20代から30代が多い。
 各方面から選り抜かれた男達だけにその行動や体力は人一倍優れている。それ故自分の体を過信して無理な行動を起こす事も多い。それはジョーに限らずSメンバーも捜査課も、時には森チーフもだ。
 そんな彼らに一言釘を刺すのが榊原や石丸の役目だ。
「榊原さんだって、おれ達がケガをするのを見るのは辛いだろう」
 榊原自身、10年前のケガでJBをやめざるを得なかったのだ。だからどんな小さなケガでも気を遣う。
「だったら、道案内の勤務にでもまわしてくれ」
 ジョーが言い放つ。と、室内フォンが鳴った。
「聞こえたかな」
 神宮寺が苦笑しスイッチを入れた。モニタに映ったのは佐々木だ。
『今、公安3課から連絡があって、三神が自殺したそうだ』
「なんだって!」
「三神が!」
 ジョーはソファから跳ね起きモニタの前に立った。
「詳しい事は今調査中だ。ジョー、公安に行ってくれ』
「お、おれがですか・・」
『神宮寺君には急ぎの仕事を頼んでいる。待機中のチーム3は出動した』
「・・・わかりました」フォンが切れモニタから佐々木の顔が消えた。ジョーは自分の体を支えるようにデスクに片手をついた。前髪が彼の瞳を隠す。「なんで自殺なんかしたんだ。おれは奴を死なせるために捕まえたんじゃない」
 支える手が震える。
「お前のせいじゃない。おれ達は任務を遂行したまでだ」
 バンッ!とデスクを叩く音が神宮寺の言葉と重なった。ジョーが反発の目を彼に向ける。が、何も言わず踵を返した。
「ジョー」
 神宮寺がポルシェのキーを放ってよこした。ジョーは今日車ではなかった事を思い出した。キーを受け取り、だがそのまま出て行く。
 神宮寺は再びパソコンの前に座った。が、マウスを手にしたまま、長い間動けなかった。

「ジョー」廊下に置かれたソファから関と木村が立ち上がった。「来たのか」
「公安に問い合わせたらこっちだと言うので」
「ん・・・、おれも呼び出された」関が近くのドアに目をやる。「今、検死中だ。もっとも山本の話では自殺なのに間違いないらしい─おい、大丈夫か」
 見るとはっきりわかるほどジョーの顔が青白くなっていた。瞳は相変わらずの鋭さを湛えているものの、なぜか脆く今にも崩れそうに見える。
 関はジョーの体を押すようにしてソファに座らせた。警察病院のこの階はまるで彼ら3人しかいないかのように静かだ。と
「なんでこんな事に・・・」声が震えるのを抑えるようにジョーが呟く。「あいつは根っからの悪人じゃなかった。浩二の救出には協力的だったし時間は掛かるがゾンタークの事だって話してくれると思ってたのに・・・なんで・・・」
 組み合わされた手に力が入る。
「根っからの悪人じゃないからさ」ボソッと言う関にジョーが目を向けた。木村も彼を見ている。「だから自分がやろうとしてた事がとんでもない事だったと気がつき─」
「そうですね」木村が頷いた。「?仕事?をしている時は夢中だけど、拘束され考える時間ができるとふと気がつくんですよ。自分のした事がどういう事かって」
「だったら皆話してやり直せばいい。あいつにはそれができた。なのに自殺だって?なんで自分で死ぬんだよ。挙句の果ては検死で・・・体を切り刻まれて・・・。あいつの親はどんな気持ちでそれを・・・」
 全身が震えた。
 黒いファイルが浮かぶ。1つ1つ正確に、無機質に書かれたデータ。
 生きていた人間の・・・死んだ両親の、私的な感情を挟まない最後の記録。
 両親のものだとは思わないようにデータとして読んだ各事項を、残酷な事にジョーの脳は記憶している。これこそどこかに押し込めたいのに─。
「ど、どうしたんだ、ジョー?自殺だが今回のような場合検死するのは当然で、それは君も知っているだろ?」
 いつもと違うジョーの様子に関はすっかり戸惑っている。肩に掛けられた手をジョーは首を振って拒否した。と、ドアが開き白衣の医師が出てきた。関と木村が立ち上がり医師のそばに寄る。医師はカルテを片手に2人に向かって話を始めた。
 ジョーはソファに座ったまま、ぼんやりと3人に目を向けた。
 白衣の医師・・・誰だろう・・・。
 榊原?いや、違う・・・。
 榊原だが、ジョーのよく知っているJBの医療部長ではない。もっと年配の低い声の・・・。
 その白衣がぼやける。
「主任!」
 木村の声に関が振り返る。
「ジョー!?」
 関がソファに走り寄った。
 枯葉色の髪をソファの背に預け、ジョーは意識を失っていた。


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