コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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サンゴ礁は危険がいっぱい 2

 隣の島─といってもスピードボートで10分程かかるが─に続く海は、進むたびにその色を変えて行く。
 白味がかった水色からエメラルドグリーンに、そしてアクアマリン─見ていて飽きる事はない。が
「・・・彼女(麻子)が言いたかったのは、こーいう事か・・」
 桟橋へ降りジョーが呟いた。
 その島は保養所のある島に比べて遥かに大きく豪華なリゾートだった。
 パブリックスペースらしい大きな建物とスパ、そして水上コテージを含む多くのゲストハウス、テニスコートやショッピング街もあるらしい。
 当然ゲストも多く、ジョーが期待した綺麗な女の子もかなりいた─が、そのほとんどにペアがいた。
 女の子だけのグループもいるようだが、一度に2人も3人も相手をするほどジョーは器用ではない。おまけにこのリゾートのゲストではないので勝手もわからない。
 凶器を振りかざし迫る相手なら、やり様があるのだが・・。
「一平を連れてくればよかった・・」
「他力本願で獲物を捕まえようとするなんて、猛禽類とはいえないな」
 ボートを固定しダイビングツアーのレセプションに向かいながら神宮寺が言った。
 原則として一島一リゾートのモルディブでは、ホテルの経営体とアクティビティの経営体は別になっている。さらにボートの会社も別という所もある。
 しかし八木の話では、このリゾートではすべての経営体は一緒なので一ヶ所ひと回りで手続きが済むのだ。
 レセプションのある建物に入ると英語よりイタリア語が多いのに気がついた。リゾートによってイタリア人が多い所、ドイツ人が多い所とあり、そのようなリゾートでは日本語はもちろん英語も通じない。
 幸いこのリゾートでは英語は通じるようだ。
「待っててくれ」
 神宮寺はツアーの申し込みに行ってしまった。
 ジョーは広い建物内に並ぶ店を覗いている。ムンバイから直接ここへ来たので着替えが少なくなっている。日用品は保養所にもあるが下着などはどうしようもない。
 少し仕入れておくかな、と店を回っていると店員─それもどうやらイタリア人の店員が自分を見ているのに気がついた。
 言葉や建物の造りからこのリゾートの経営体はイタリア系なのだと推測できるが─。
 それに案内板に描かれているこのリゾートのエンブレム・・・どこかでこれとよく似た紋章を見た事があるような・・・。
 ぼお・・っとその前に突っ立っていると、イタリア人の店員がジョーにていねいにお辞儀をして通り過ぎて行った。もちろん見覚えがない。
(まてよ、このエンブレムは確かシチリアの別荘で・・)
「待たせたな」神宮寺だ。「今日はダイビングの客が少ないから、潜らなくても一緒にボートに乗って沖まで連れて行ってくれるそうだがどうする?」
 だが目の前の案内板を見たままジョーは神宮寺の方を向こうともしなかった。
「どうしたんだ?」
「─いや、なんでもない。おっ、魚の写真がプリントされたTシャツがあるぞ。どうだ?」
「・・・お前、意外と?根?に持つのな」眉を寄せる神宮寺の目の前で若いイタリア人の女性店員がジョーに目を向け赤くなっていた。いや、彼女だけではない。「なんか怪しまれてるぜ」
「見惚れてる、の間違いだろ。まっ、そうしたいのもわかるがな」
「よく言うよ、その顔で」
「あー、お前には負けるさ。特にEU圏の紳士方はそのお顔の方がお好みで─」ジョーの後頭部がバコン!と鳴った。「なにしやがる!うわっ!いてェ!」
 とっさに振り上げた左腕がズキンと鳴った。一人バタバタと暴れている相棒を置いて帰ろうかと神宮寺が思った時、
「Joe!」ふいに呼ばれて2人は振り向いた。「Dopo tutti è così. Io fui sorpreso.(やっぱりそうだ。驚いたな)」
「トーニ・・」
 ジョーも目を見開いて相手を見る。黒髪の巻き毛にジョーより少し薄いブルーグレイの瞳─。確かにトーニ─アントニオ・カルロスだ。
「驚いたのはこっちだ。なんでこんな所に─」そう問いながらも自分達がリゾートにいるよりトーニの方が自然だと思ったが─。「あ・・もしかしてこのエンブレムはグランディーテの・・」
「そう、このリゾートはうちの会社が経営している。グランディーテ個人ではないから、エンブレムは少し違うデザインにしてあるけど」
 そうだ、シチリアの別荘によく似たものが飾られていた。とすると店員達は自分のこのブルーグレイの瞳─別名グランディーテ・アイと呼ばれるこの瞳を見て一族だと思ったのだろうか。
「だけどまさか君にこんなオトメチックな趣味があるとは思わなかったな。もしかして・・ハネムーンか?」
「こいつとか?」ジョーが眉をしかめ神宮寺を指差す。「まだ1人旅の方がいい」
「おれ達はここのリゾートの客じゃないんだ」
 神宮寺が隣の小島が勤め先の保養所である事、2人は休暇で訪れここへはスキューバーダイビングのツアーを申し込みに来た事を話した。ムンバイテロに巻き込まれジョーが負傷した事は言わなかった。
「どこかの会社の保養所だとは聞いていたけど、まさかね」おまけにジョー達はもちろん、トーニもここへ来たのは初めてだという。「近々ここから20キロ程南下した島にリゾートホテルの計画がある。その下見や地元と話し合いに来たんだが─。そうだ、2人共こっちに来ないか?海が見えて最高にロマンチックな部屋を用意するよ」
「だから、こいつとロマンチックしてどうすんだよ」
「おれだってご免だ。海の中の綺麗なお魚と同室する方がよっぽどいい」
「ダイビングツアーって、ジングージだけ?」
 神宮寺の手には申込のカードが握られている。
「ジョーは地上で綺麗な女の子にダイビングしたいと」
 時々とんでみない事を言う相棒にジョーがじと目を向けた。まあ・・ちょっとはそんな気もあるが・・・。
「ではジョーはぼくと一緒に外洋クルージングというのはどうだい?午後は時間があるんだ。マルティーノが準備をしている。彼と2人だと色気もないしね」
「ヤロウ3人の方がもっとウザったいと思うがな」
 相変わらず口の悪いジョーに、だがトーニはニコニコと応じてみせた。
 神宮寺にも促され、ジョーはトーニの申し出に甘える事にした。

「あれがアントニオ・カルロス─グランディーテの跡取りだ」
 金髪の大柄の男が言った。
「まだ子どもですね」
 小柄だが目つきの鋭い男が口元を歪める。
「だがコンツェルンの重役だ。今回の件は彼に一任されている。─ギラー」
 大柄の男に呼ばれギラーはその鋭い瞳を3人の男達に向けた。

「Io sono dopo un'assenza lunga.joe(おひさしぶりです、ジョー)」ロレンツォが選んだトーニの片腕─マルティーノとはモナコ以来だ。「こちらで休暇とは、ずい分とオトメチックですね」
「相変わらず、人も口も悪い奴だ」
 それ以上をいくジョーの言葉に、しかしマルティーノはやんちゃな末弟を見るような目でジョーとの再会を喜んでいた。
 彼らのクルーザーはかなり大型でデッキにはテーブルやイスが、後部にはゲームフィッシングで使われる釣り竿が固定できる器材も設置されている。もちろんモルディブ人の操舵手やスタッフがすべて用意してくれる。
「ここへ来て5日だけど、仕事のない日はクルーザーで外洋に出ているんだ。釣りをしたりただプカプカ浮いていたりね」
 道理で、仕事で来たにしては2人共見事に日焼けしているわけだ。
 やがてクルーザーは静かに桟橋を離れた。昼食を摂ったばかりなのでテーブルにはソフトドリンクとフルーツが並んでいる。
 モルディブでは宗教上飲酒は禁止されているがリゾ?ト島は別だ。だがトーニの考えで、海上ではアルコールは出さないようにしている。
 ジョーはスタッフが切り分けてくれるのを断り、マンゴーを丸かじりした。
 敷地が極端に狭く農業が発展していないこの国では、食料のほとんど─南国特有のトロピカルフルーツさえも─が海外からの輸入に頼っている。したがってフルーツを新鮮なままかじれるのは一番の贅沢かもしれない。
「気持ちいいなァ」
 枯葉色の髪を海風が流していく。エメラルドグリーンの海は透き通り、驚くほど多くの魚達の姿が見える。神宮寺が潜りたいと思うのも当然だ。
「これであと綺麗な女の子がいれば言う事ないんだがなァ」
「ホテルのスタッフを仕事中にデートに誘う事はできないよ」トーニが言えばどうとでもなると思うが─。「ほら、あれがリゾート計画が出ている島だよ」
 トーニが指差すのは、先程のリゾートの半分くらい─それでも保養所よりは大きいが─の緑豊かな小島だ。
「宿泊客は15人まで。それも1組─1家族、もしくは1グループだけという貸し切りの島にするんだ」
「この島を丸々ひとつ?」
「そうだよ。そんなリゾートがあってもいいだろ」トーニの眼は、まだ緑に覆われている島に向けられた。「いつかこの島にじい様やばあ様、ぼくやジョーの家族が集まれたら・・・」
 ジョー同様、早くに両親を亡くしているトーニは肉親に対しての想いが強い。本当はジョーも自分のそばにいてほしいのだ。それが自分のわがままだとわかっているのだが。
「家族を持つならマルティーノが先だろ。奴のマイホームパパぶりを見てみたい」
「こっちにおハチが回ってきましたか」搾りたてのオレンジジュースを手にマルティーノが苦笑した。「私のマイホームパパぶりが見たいのなら、早く一人前になってくださいね、トーニ」
「うわっ、ぼくにもおハチが回ってきた」笑い声と共にクルーザーが小島から離れて行く。帰港するのかと思ったが、「今日はこの辺りにしよう、マルティーノ」
「はい」と後部へ行こうとしたが、「ジョーも釣りをしましか?ゲームフィッシングですが」
 クルーザーで大海原を駆け巡りながら仕掛けを流し、ブルーマーリン(カジキマグロ)などの大物を狙う─人間と魚との力と知恵比べが勝敗を決める豪快で奥深いスポーツだ。当然体力もいる。
「いや、おれは陸上(おか)でのフィッシングに体力を使いたいから」
 肩の怪我はだいぶ良くなっているがブルーマーリンを釣り上げる程─掛かればの話だが─回復してはいない。トーニにバレるのもいやだ。
「今までに2回やってジャックフィッシュ2匹だけだった。今日こそ大物にお目に掛かりたい」
 トーニも後部に移動したので、マンゴーをもうひとつ手にしたジョーも後に続いた。と、マルティーノがサンチェアと大きなパラソルを持ってきてジョーの席を作ってくれた。
 パラソルの作る日影にジョーはマルティーノが自分の怪我の事を─程度はともかくとして─気がついていると悟った。
(相変わらず油断できない奴だ)
 だがそんな彼がトーニのそばにいる事を頼もしく思う。そのトーニがロッドキーパーに固定された釣り竿に付くと、マルティーノがジョーの元にやってきた。そばのイスに腰を下ろす。
「あの後、しばらくの間シニョーレは落ち込んでおられた」あの後とは、フランスのウェズレーでジョーが強引にヘリから飛び降りた時の事だ。「“ジョージのために何かしてやりたい。それで20年の歳月が埋まるとは思わないが、それでもジョージが1人で生きていけるように”、と─言っておられました」
「・・・・・」
 あの時ジョーは、ウェズレーに行きたいばかりにシニョーレの好意を逆手にとった。その事をまだ謝っていない。
「シニョーレの気持ちは嬉しいけど・・、おれ、放っておいてもらう方がいいんだ」フッと立ち上がり吹く風に身を向けた。「日本にいればおれは1人じゃない。トーニにはお前が付いているように─」
 長めの枯葉色の髪が太陽の光を受けて金色に輝く。グランディーテ・アイと呼ばれる灰色がかった青い瞳は確かな自信で水平線を見つめている。
 トーニ同様、マルティーノも今なおジョーにイタリアに来てほしいと思っている。だがそれは─
「マルティーノ」トーニが呼んだ。「あれはうちのダイビングツアー船じゃないか?」
 指差す方を見ると一隻のドーニが停泊していた。が、船上には1人しかいなくて5、6人が海面上で騒いでいた。
「何かあったようですね」マルティーノが合図するとクルーザーは方向を変えドーニに向かった。「ガーフ!どうしたんだ!」
 このツアーの責任者にマルティーノが声を掛けた。
「2人上がって来ないんです。流されるのを見たって。イタリア人と日本人の青年で─」
「神宮寺!?」
 ジョーが身を乗り出す。こんな静かな海で神宮寺がミスるとは思えない。
「もう1度おれが潜って─」
 と、誰かがガースの名を呼んだ。見ると彼らから離れた海面下に2つの影が見えた。だがなかなか浮上してこない。ダイバー達がそちらへ向かう。
「神宮寺!」飛び込もうとするジョーをマルティーノが制した。「放せ!」
「専門家に任せましょう。大丈夫です」
 両肩を掴むマルティーノにジョーが顔をしかめた。あわてて手を放す。ジョーが再び身を乗り出した。
 ポカッと頭が2つ海面に出た。

「本当に検査入院しなくて大丈夫かい、ジングージ」
「おれは大丈夫。空気はずっと吸っていたし」
 エアコンのよく効いたトーニの部屋でアイスコーヒーを一口飲み神宮寺が言った。
 彼の話ではバディを組んでいたイタリア人の青年が突然パニックを起こし、レギュレータを口から離してしまったそうだ。とても自分で銜える事はできないと見た神宮寺が彼の体を支え、自分のオクトパス(予備呼吸装置)を銜えさせようとしたのだが暴れて─ドーニから離れてしまったという。
「ダイブ歴は浅いと言っていたからあわてたんだろう」
「だがそいつのためにお前まで危険な目に遭ったんだぜ。少しは怒れよ」当事者ではないジョーが1人憤慨している。「トーニ、こいつを病院に放り込んで頭の検査をしてくれ」
「・・・羨ましいな」ポツリとトーニが言う。「君にそんな貌をさせるなんて・・・」
 ジョーの顔が赤くなった。フンとそっぽを向く。
「わかってる。じい様だって納得したんだからな」
「・・・・・」
 なんとなく気まずげな空気が2人を押し包む。と、ノックがした。
「調査の結果が出ました」
 マルティーノだ。
「イタリア─」と言い室内の空気に気が付く。だが─「イタリア人の青年が使用していたレギュレータの不備です。高圧空気の自動調整がスムーズにできていなかったようです」
 それでは空気は口に入って来ない。経験の浅いダイバーならパニックになるのも無理はない。
「ダイビング前に器材のチェックはするんだろ。そいつのミスだな」
「それが・・・」言いにくそうにマルティーノがジョーに目を向けた。「ダイバーがチェックをした後、責任者がもう1度確かめています。その結果異常はなかったそうです」
「だけど実際には不備だったんだから、どっちかのチェックが─」
「なにかあるんですね」
 黒い瞳を真っ直ぐにマルティーノに向け神宮寺が言った。
「・・・あなたの眼は誤魔化せませんね、ミスター・ジングージ」
 マルティーノが苦笑した。
「おれなら誤魔化せるのか!」
 わめくジョーを、マアマアと神宮寺が制する。
「実はダイビングの事故はこれで3回目なんです。我々が来る前に1回、着いた当日に1回、4日間自粛して今日再開したのですが・・・」
 マルティーノはトーニの許しを得て事故の調査報告書を神宮寺に渡した。3回共装備の不備による?事故?だ。
「しかしこう続くのはおかしい・・・。まさか事故ではなくて、事件・・?」
「スタッフの身元は確かなのか?」
 ジョーの瞳が国際警察のソレになる。
「もちろんだ。ゲストの命を預かる重要なスタッフだからな」
 トーニの瞳もまた経営者の一員である自信と確かさで溢れていた。

「どう思う、神宮寺」海風に髪を靡かせジョーが訊いた。「事件かな」
「これだけではまだわからないな。事故にしては不自然だけど」
 速度を抑えてスピードボートを走らせ神宮寺が言った。
 夕食を一緒に、と言うトーニの申し出を断り2人は保養所のある島へと向かっている。トーニは残念がったが、グランディーテ家と距離を置きたいというジョーの気持ちもわかるので無理にとは勧めなかった。
「だがこれが続いたらいつか大事故になる。リゾートの評判も落ちるな・・・。それが狙いなのかもしれない」静養に来たはずだが、しかし知り合いの─ジョーにとってはいとこだ─事なのでやはり気になる。「明日もう1度あちらのダイビングツアーに参加してみようと思うんだけど」
「だが万一の時はお前にも害が及ぶかもしれない。くそォ、おれが潜れればなっ」
「そっちの方が危ない。おれの方がうまく対処できるさ」
 シラッと言う相棒を─だが事実そのとおりなので、唸ったもののジョーは何も言わず我慢した。
 やがてボートが保養所の桟橋に着いた。地面に足を着けたその時、一瞬だが冷たい風が2人の頬を撫でた。そして─
「ひゃあっ!」
「なんだ!?」
 ゴーという音と共に2人の体を大量の水が打ちつけた。スコールだ。それまで目の前に広がっていた青い海が水煙に遮られる。
「気持ちいい?!」
「天然のシャワーだな。痛いけど」
 バシャバシャと水しぶきを上げ2人はテラスに駆け込んだ。


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