コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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サンゴ礁は危険がいっぱい 3

 夕食にアジの刺身とタタキが出た。驚く神宮寺とジョーに
「ギンガメアジだ。ハウスリーフの外縁で釣った」
 八木が言った。
 リゾートホテルのような豪華な食事ではないが、宿泊者の国の料理を一品は出すようにしているそうだ。もちろん醤油やわさびもある。
「アサ・・ジョーの故国(くに)は訊き忘れたから明日にでも─」
「おれ、サシミやタタキも、サバのみそ煮も好きですよ」
「そうかい。でもサバは釣れないなあ」と、カツオの切り身がドサッと入ったスープ─ガルディアの食べ方を教えてくれた。「自分の皿にご飯やイモを乗せて玉ねぎやココナッツ、そしてカツオを混ぜ合わせよくこねてカツオのスープを少しづつ加えていく。あ、ライムを忘れた」
 八木がライムを絞った。これらはすべて右手で行わなければならない。もちろん食べる時もだ。しかし神宮寺もジョーもスプーンを使った。
「そういえば、ルウクは右手だけで器用にターリーを食べていたな」
 カツオのダシとライムの香りが程良く効いている。玉ねぎは生なので味もピリッと締まっていて日本人の口にも合う。
「タージ・マハル・ホテルは一部だが営業を再開したそうだ」
 八木が言った。
 ロビーはともかく、ほとんどの客室に被害はなかった。ジョーが使っていた部屋も無キズで、ベッドの下に隠したルウクのパスポートやウッズマンも無事返却された。
 ジョーはカルナタの事を思い出していた。おれ達が休暇を楽しんでいる今も、あの男は再びどこかの組織へ潜り込んでいるのだろうか。2度と会いたくはないが、そう思うと遊んでいる自分が少々後ろめたい。
「ところで隣のリゾートはずいぶん大きいですね」
 ふいに神宮寺が言い出した。
「ああ、イタリアの大企業の経営だ。豪華だったろ?設備もツアーも充実している。こちらは客が少ないからツアーに受け入れてくれるよう契約しているが、そのためにぼくもイタリア語を習った。難しいね。今だにカタコトだ。─そうだ、日本酒を出そう。いけるね?」
「はい」久々の日本人の客で嬉しいのだ、と麻子が笑っている。「島で聞いたんですが、なんでももう一島リゾートアイランドを計画中だとか」
「うん、ぼくも聞いた。その島はハウスリーフは小さいが緑豊かでね─麻子、猪口は・・・あ、あった─。だがもう一社・・アメリカの企業とその島の権利を争っていると聞いたが─」
 そう言い八木は神宮寺のガラスの猪口に酒を注いだ。フワッと豊かな香りが漂う。
「モリディブで冷酒とアジの刺身に会えるとは思わなかった」
「八木さん、こいつ?アミ?ですからね。酒も魚も女の子もイチモーダジンにしちまいますよ」
「それを言うならザルだ。いいかげん覚えろ。自分で自分の事を言っていると誤解される」
「どっちでも同じさ」
 カパッとジョーが酒を呷る。“あっ”と神宮寺が声を上げた。

 コバルトブルーの海を白いスピードボートが滑るように進んでいる。舵を握る神宮寺はセスナを飛ばすのと同じ確かな腕で乗り心地は良い─はずなのだが
「う?、気持ちわり?。頭いてぇ?。あまり飛ばすな、神宮寺!」
「だから保養所に残ればよかったんだ。勧められるままに飲むお前が悪い」
「刺身もタタキもうまかったんだもん。酒も甘口だったし」
 ハンブルクは港町で新鮮な魚介類も多く揚がる。刺身やタタキはなかったが、マリネなどは子どもの頃から食べ慣れているので生の魚もそれ程抵抗はない。
「八木さんがアメリカの企業と争っていると言っただろ。なんか気になるんだよな。ダイビングはお前に任せておれはそっちを─って、ジグザグに走るんじゃねえ!」
 自分の声が頭に響く。相棒の笑い声も癇に障った。が、それと同じくらい何かが起きそうな気がして、ジョーの頭の中は幾重もの思いがグルグルと渦巻いていた。

 トーニに頼んで、神宮寺はスキューバダイビングのインストラクターの助手としてツアーに同行する事になった。
 休暇中の2人に手間を掛けさせるのは、とトーニは渋ったが1度決めたらテコでも動かないジョーの性格を知っているので最後には承知した。それにトーニ自身も調べたいと思っていたのだ。
 ただはっきりした事はわからないので警察に頼む事はできない。グランディーテの調査団を動かそうかと思っていた矢先だったので、ジョーの申し出はありがたかった。
 神宮寺がツアーに参加している間、ジョーはリゾートを回って情報を集める事にした。
 何ヵ国もの人が集まるリゾートは英語、イタリア語、フランス語などで溢れていて時々混乱した。だが多いのはやはりイタリア人のようだ。
 彼らは陽気で、男1人で寂しく歩いているジョーにも気さくに声を掛けてくれた。
 だがリゾートで働くイタリア人はジョーを見ると一瞬ハッとしたようにその瞳に見入り頭を下げた。そんな彼ら、もしくは彼女らから聞いたのは─。
 新しいリゾート島を巡っての争いは本当らしく、トーニが来たのもそのためだ。そして相手のアメリカの企業の人間は別のリゾートに泊っているが、この島にも何度か来ているらしい。もちろんトーニとの話し合いのためだが、その予定がない日でも半日くらいこの島に上がりあちこち見て回っているという。
 リゾートは初めて手掛けるというので参考にでもしているのだろうと─。
(リゾートを手掛ける大企業がこんなチャチな妨害手段をとるとは思えねえけどよ)
 もし故意にダイビング器材に手を加えるのなら、チェックが終わってドーニに運ばれるわずかな間しかチャンスはない。できるのはスタッフかツアー客か─。
 ゲストは多いが日中はスキューバダイビングやフィッシング、海辺に出ているのでホテルの中はすいている。午後はトーニもマルティーノも仕事があると言っていた。
 と、ジョーは自分がリゾートから離れた森林まで来ているのに気がついた。
 島のほとんどを覆う森林は、東側にはゲスト用コテージがあったが西側のここにゲストハウスはない。
 代わりに緑色に塗られた木々にカモフラージュされた建物があった。おそらく自家発電施設や海水ろ過設備だろう。案内板には載っていないこの辺りに来るゲストはいない。
 一瞥して踵を返そうとしたジョーの目に、建物の後ろから上がっている黒いものが映った。
 見ると小窓から一筋の煙が出ていた。わずかだがもし火事になら大変だ。しかし建物の中には入れず─と、近くに木の形をした箱の中に収められている緊急用の電話があった。受話器を取ると
『Sì, è una stanza di guardia。(はい、警備室です)』
 ダイレクトに繋がった。
「西側の森林の中にある建物から─」
 突然、背後に殺気を感じた。とっさに横に跳び退く。ガッシャン!と電話が壊された。
「誰だ!」
 ジョーは目の前に現れた2人の男を見た。白人─アメリカ人か?─が、男達は答えず鉄パイプを振り下ろしてきた。避けるがわずかに左肩が残った。
「うっ!」
 直撃され、だが2打目のパイプをジョーは右手で掴んだ。無防備になった右側から男がタックルしてきた。地面に転がるその勢いで男を蹴り飛ばした。
 そこをすかさず、もう1人の男が鉄パイプを振り下ろした。スレスレで転がり避けた。が、立ち上がったところをパイプで突かれ、後ろの木に背中から激突した。
 一瞬息が詰まる。そこへ再びパイプが打ち下ろされた。
 肩の傷が裂けたのか左胸に小さくプリントされている写真の魚が赤く染まった。
「買ったばかりのTシャツだぜ!」
 ジョーは男に掴み掛かった。と
「こいつは昨日アントニオと一緒だった奴だ!」男が叫んだ。「グランディーテの一族か!」
(トーニの知り合い?)
 しかしそれならなぜこんな事を・・・。
 ふとジョーは、男が自分の瞳を見つめているのに気がついた。グランディーテ・アイ─トーニより深い灰色がかった青い瞳─。
「おとなしくしろ」男がジョーに銃を向けた。彼からの電話で警備の者が駆けつけて来るのが見えた。「これ以上暴れると彼らも巻き添えになるぞ」
 一瞬動きを止めたジョーの後ろから、もう1人の男が鉄パイプを振り下ろした。
 衝撃と共に視界がブラックアウトした。

「向こうも同じ案を持ってくるとは思わなかったな」自分の後ろに続いて桟橋を降りてくるマルティーノを振り返りトーニが言った。「もっともあの規模の島なら考え付く事だけど」
「かなりの資金投資と地元の雇用を強調していましたね」ドーニの操舵手に礼を言いマルティーノが答える。「しかしリゾート計画自体は我々の方が綿密です。なんと言っても世界中でいくつものリゾートを手掛けていますし、シニョーレの経験と信頼も─」
 ハッと口を閉じた。目の前で足を止めたトーニに、
「申しわけありません、私は─」
「いいんだ。じい様がバックにいるのは本当なんだし。だからこそぼくのような若年者でも相手にしてもらえる」トーニが再び歩き出した。「だがいつかはじい様とではなく、ぼくと話をしたいと相手に言わせて見せる。そのために、じい様はお前をぼくに付けてくれた」
「はい」
 マルティーノが再び頭を下げた。
 2人は同時に同じ事を思っていた。商売には向かないが、ジョーのあの存在感と押しの強さがあれば─と。
「あの存在感はどこからくるんだろう。やっぱり仕事による経験からかな」
 トーニはそう言うがマルティーノは違うと思った。
 確かにそれもあるだろう。しかしあの圧倒的な存在感は彼が持って生まれたもの─父であるジュゼッペ・アサクラから受け継いだものだ。
 例のイタリアでの事件の後、ロレンツォがマルティーノに話してくれた事がある。
 ジュゼッペはある件でロレンツォの、そしてカテリーナの前に現れた。そしてロレンツォを亡き者にしようと狙う者達の銃口の前に、ジュゼッペはその身を置いた。
 その彼の、刃のような凄絶な鋭さと盤石な威圧感に相手はトリガーを引く事ができなかった─。
 ジョーはジュゼッペとそっくりだという。姿形はもちろんあの独特な雰囲気さえも。
 そして大きなものを、多くの人を従わせる事ができるという、あのグランディーテ・アイ。
 確かに強いが、経営者になるべきトーニが必要とする強さとは違う。
 あれは危ない瞳。手を出したらこちらも巻き込まれて─。
「トーニ」ダイビングツアーから戻った神宮寺がホテルのエントランスで待っていた。「今日はトラブルはなかったよ。もっともおれがずっと器材に張り付いていたから手を出さなかったのかもしれないが」
「それでも何もない方がいいよ」トーニが神宮寺をカフェに誘う。「ジョーは?」
「島を歩いて情報を集めると言っていたが」ジョーにしては珍しく地味な行動だ。「ところでさっき知ったのだけど・・・。この島は?カテリーナ・アイランド・リゾート?というんだね」
「うん。この地域はぼくに任されているからぼくの好きな名前を付けたんだ。今度手掛けるあの小島は?ジョージ・アイランド・リゾート?にしようかと思ってるんだけど、どう?」
「・・・優雅なリゾートにはなりそうにないな。悪夢を見そうだ」
 眉をしかめる神宮寺に
「ん?、サバイバル・アイランドになってしまうかも・・・」
 と、トーニも眉を寄せた。

「Who is this?(これは誰だ)」男の声が聞こえる。「連れてくるのはアントニオじゃなかったのか」
「ろ過装置の所にいて仕方なかったんだ」
 この声はおれに銃を向けた奴だ。という事は・・・おれ捕まった?・・やれやれ・・・。
「それにグランディーテの一族ならそれでいいじゃないか。アントニオがいなくなったらかえって騒ぎになるぞ」
 これにはもう1人の男も頷いたようだ。
「気がついたか」目を開けたジョーに金髪の男が言った。ジョーは後ろ手に結わかれ床に転がされていた。足は自由だ。「訊きたい事がある。お前はグランディーテ一族か?それとも─」
「・・・・・」
 違うと─実際そうなのだから─言いたいが、自分がグランディーテとは関係ないとわかれば今度はトーニが危ない。マルティーノと神宮寺が付いているから大丈夫とは思うが─。
 と、男が踞みジョーの顔を自分の方に向けた。
「─なるほど、?本物?のようだな」
「・・アントニオを盾にリゾート計画から手を引けと脅すつもりなのか」
「そのつもりだったが、盾はお前になりそうだな」
「おれはグランディーテではなんの価値もない。ナベのフタにもならない」
「やってみなければわからないさ」と、男がナイフを取り出した。「ちーと、おとなしくしていろよ」
「!」
 とっさに足を振り回した。ナイフが飛び、もう1人の足元に落ちた。
「このやろう!」
 男がナイフを拾い、立とうとするジョーの胸を蹴り上げた。
「やめろ、ギラー」金髪の男が制し、ナイフを取り上げた。「勘違いするな。お前に傷を付けるつもりはない。それよりこれ以上暴れると出血多量で自滅するぞ」
「う・・・」
 かすむ眼にナイフの刃だけが銀色に輝いて見えた。

「ジョーの奴、遅いな・・」神宮寺が時計を見た。「ツアー終了の時間は知っているはずなのに」
「可愛い女の子に捕まっちゃったのかな」
 デスクから顔を上げトーニが笑った。
 この部屋はホテルの中にあるが管理エリア内の執務室なので他の客室と違い大きなデスクが置かれている。ジョーを待ってもう1時間もそこにいる神宮寺はなんとなく申しわけなってきた。
「気にする事はないよ。君がいてくれた方がマルティーノの小言が少なくなる」
 と、先程レセプションに呼び出されたマルティーノが戻ってきた。トーニがあわてて唇に指を当てた。
「カフェのイスの上に置いてあったそうです」片手に乗る小さな箱だ。宛名は?アントニオ・カルロス?となっている。「軽いので機械類ではないですね。開けていいですか?」
「待ってください」神宮寺がマルティーノから小箱を受け取りリンクを当てた。「火薬類も有毒な気体も入っていませんね。開けても大丈夫です」
「便利ですね」感心しつつマルティーノが慎重に箱を開ける。と、「・・髪の毛、ですか?」
「これは─」覗き込んだ神宮寺が思わず手を伸ばした。「ジョーの髪と同じ色だ」
「え?」
「まさか、これは─」
 2人も箱を手に取り見た。
 確かにジョーと同じ枯葉色の髪がひと房─それも毛先が赤く染まっている─。
「手紙が入っています」
 マルティーノがトーニに渡した。
「“2日後の会議には出るな”─まさか今回の事でジョーが・・・」
 会議とはモルディブ政府相手に行う最後のプレゼンの事だ。これを欠席するという事は─。
「大丈夫。ジョーの事だから相手を引っかき回して帰ってきますよ」
「ですが・・・」マルティーノが口籠るが、「彼は怪我をしていますね。左の肩か腕か」
「知っていたんですか?」
“はい”とマルティーノが頷く。トーニは気がつかなかったらしく驚いている。
「前の事件で負傷したもので、もうほとんど治っているのですが─」
「あ、もう1つ報告が─。1時間前に西の海水ろ過施設でボヤがあったそうです。警備に連絡を入れて来た男性がいて、ちょっとカタコトのイタリア語だったそうですが、警備員が到着した時、男が3人去っていくのが見えて、そのうちの1人がぐったりしていた、と─」
「どこですか!」
 神宮寺が駈け出しトーニとマルティーノが続いた。執務室の棟は西側にあるので2、3分で着いた。
 ろ過装置は配線を何本か焦がしただけでもう修理を終えている。
「・・・これは、争った跡かな」
 地面の草がひどく乱れていた。相手は少なくとも2人─。
「ミスター」マルティーノが呼んだ。「これは─」
 指差す木の幹にわずかに付いている赤いものは─。
「・・・やはりジョーはこの場所で拉致されたようですね」
「ぼくの代わりに・・。ノイス社がこんな事をするなんて・・・」まだ新しい血の跡を見てトーニが呟いた。が、「スピードボートを用意しろ、マルティーノ。彼らの元に乗り込んでやる」
「それがだめです、トーニ。まだノイス社の仕業さと決まったわけではありません。それに─」
「うちと争っているのはノイス社だけだ。他にプレゼンを妨害する者がいると言うのか」
「?だから?です。ノイス社はアメリカでは名の通った企業です。グランディーテ相手にこんな─相手がすぐに特定されるようなやり方をするとは思えません」
「おれもマルティーノに賛成です。ヘタすると名誉棄損で訴えられる。いやそれが狙いかも・・・」
 2人に言われ、トーニは悔しそうに唇を噛みながらも落ちつこうと深く息を吸った。
 神宮寺はリンクのトレーサーをオンにしたが返信はない。スピードマスターはオフになっているようだ。
「会議までまだ2日ある。少なくともそれまではジョーは無事なはずです。トーニ、何か理由を付けて島内の使われていない建物とか森林の奥などを捜索してください」
「わかった。─マルティーノ」はい、とマルティーノがホテルへと引き返した。「どこへ行くんだ、ジングージ」
「おれはこの草の乱れた道を行ってみます」
 と、当然のようにトーニも付いて来た。


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