コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

サンゴ礁は危険がいっぱい 4

 この狭い部屋に放り込まれて1時間程経つだろうか。
 ランチの時間はとうに過ぎているが、ここでサービスを求めるのは無理かもしれない。
 さっき足を振り回したせいで、両手だけではなく両足まで拘束され不自由で仕方がない。  両手の縄はすぐに解ける。だが問題はそれを元に戻せないという事だ。向こうはジョーをただの若造と見ている。警戒させたくはない。
 幸い─というのもヘンだが─まだ死なれては困ると左肩の手当てはしてくれた。血は止まっている。大丈夫だ。
(で、ここはどこなんだ?)
 ボヤ騒ぎからまだそんなに経っていない。まさかあの島─という事はないだろう。
 案内板にその名を見た時、ジョーは母の中にいるような気がした。その島を荒らす奴らは許せない。トーニのライバル社だろうがなんだろうが、皆まとめてぶっ潰してやる。その青臭さに我れながら恥ずかしくなるが、
(とにかくおれが捕まっているうちは、トーニは無事だって事だ)
 エアコンの効いていない室内は暑い。天窓は開いているが風は入って来なかった。
 ふとジョーは以前にも暑くて狭い部屋に、やはり両足を拘束され閉じ込められた事を思い出した。
 いつの事件(ヤマ)の時だ?いや・・仕事ではない・・・もっと昔だ・・。まだ大人に抗う事も、自ら逃げ出す事もできなかった頃・・・あれはいつ・・どこで・・・。
 が、ジョーは考えるのをやめた。何かいやな記憶が・・思い出したくない事を本能がストップを掛けた。
(大丈夫、なにもない・・・)
 そう強く思う事により、ジョーは自分の動揺を抑えた。

 3時間かけ島内を捜索したが、正当なゲストとスタッフしかいない事がわかった。
 神宮寺が追った道も島の裏側の砂浜に続いていたがそこで途切れた。しかしここまで運べばボートが使える。ノイス社の者が滞在している島へと連れて行かれたのだろうか。
 心配したトーニがその島に行くと言ったが、神宮寺は様子を見た方がいいと諭した。ジョーはプロだ。こんな事には慣れている。だがその神宮寺の落ち着きが、さらにトーニをイラつかせていた。と
「トーニ!」ノックと同時にマルティーノが飛び込んできた。「ミスター・レビンがお会いしたいと─」
「レビンが?」ノイス社の重役で、やはり今回の計画を任されている1人だ。その彼がトーニに会いたいと訪ねて来たという。一瞬、神宮寺の顔を見たが、「わかった。通してくれ。ジングージも同席してください」
 はい、と頷いた神宮寺はソファセットから少し離れた壁際に移動した。
「急で申しわけありません、シニョーレ・カルロス」
 入ってきたのは黒髪の男だった。
「実はお話しなければならない事がありまして─」と、初めて見る神宮寺を気にしている様だったが、“秘書です”というトーニの言葉に納得したのか、「1時間程前に我が社の子会社の者が訪ねてきまして─」
 レビンが言うには、現地視察のためノイス社は下請けとなる子会社の人間を数人同行してきたが、そのうちの一社が仕事を受けるためにグランディーテに手を引く様画策している、という。
 その1つに責任者─つまりアントニオ・カルロスの誘拐計画があり、それを知った他の子会社の者がレビンに注進に及んだのだ。
「その者達は知り合いの2人の男を頼み、こちらに入り込んで悪さをしているようで─。我々も探したのですが見つからず、シニョーレの事も心配になり駆けつけたのですが、ご無事で安心しま─」
「私の縁(ゆかり)の者が1人行方不明になっています。2日後の会議に出るな、という手紙も来ました」それは─と、レビンが絶句した。「我々も捜索中です。しかしこの事は公にしない方がいい。このような事がモルディブ政府に知れたら今回の計画は─」
 仲間なのに落ちついた神宮寺の態度にイラつきながら、しかし今自分はジョーの事より会社の事を考えている。
 自分に一任されたこのプロジェクトを成功させたい。企業のイメージを落とすわけにはいかない。神宮寺の言うとおり、ジョーならきっと無事に帰ってくる─。
「ぼくも冷たい奴だと軽蔑するかい、ジングージ」
 騒がないようにとレビンに言い含め帰し、トーニが訊いた。
「とんでもない。今あなたがしなければならない事をしているだけだ。公にならない方がこちらとしてもありがたい。国際警察が誘拐されただなんて格好悪いですからね」
「しかしミスター。ジョーを救出するのに我々だけでは手が足りないのでは」
「?我々?ではなく、おれ1人でやります。いつもそうですから─。2人は2日後のプレゼンの準備を進めてください」
 そう言い切る神宮寺に、トーニもマルティーノも口を閉じた。

『ジョーがユーカイされた?』間延びした八木の言葉に受話器の向こうの顔の表情がわかる。『可愛い女の子に?それとも屈強な男共にか?』
「残念ながら後者に、です」
 苦笑し神宮寺が答えた。
 国際警察の職員の八木にはジョーとカテリーナ・アイランド・リゾートの経営企業との関係を簡単に説明した。そしてこれは仕事ではなく、あくまでもプライベートな件であると。
「今夜はこちらに泊ります」
『わかった、手がいるようなら言ってくれ。ジョーを攫った気の毒な男共が無事でいる事を祈るよ』ダブルJの仕事ぶりは、現場ではない八木もよく知っている。ジョーの事より本気で男共の心配をしているようだ。『JBには君からちゃんと報告を入れてくれよ』
「はい」
 電話を切ると神宮寺はトーニは用意してくれた部屋を見回した。
 最高級のリゾートホテルに相応しく、どこもかしこも豪華な造りだ。スイートルームで寝室には大きな天蓋付きのダブルベッドが置かれている。
 確かに女の子は喜びそうだが、ジョーが戻ってきてとしてもここに一緒に泊るのはカンベンしてもらいたい。
 神宮寺はリンクをオンにした。が、ジョーのスピードマスターからの応答はない
「今夜はここに1人で寝る事になりそうだ」
 つい言ってしまってから神宮寺は複雑な面持ちで眉をしかめた。

 翌朝早く、神宮寺は1人スピードボートで例の小島へと行ってみた。歩いても15分とかからず一周できるその島にまだ建物はなく、もちろんジョーの姿もない。
 他の島も当たってみたいが、リゾート以外の島や環礁へ行くにはアトーレ管理局の許可書がいる。まさかリゾートのある島へ人質を隠しているとは思わないが・・・。おそらく奴らは許可を取らず、無人島へでも上陸しているのだろう。
 それにしても1190もある島を1つ1つ調べるのは無理だ。
 それにレビンを始めノイス社の関与が完全に否定されたわけではない。しかし昨日の様子から直接手を下した可能性は低いと神宮寺は見ている。
「ミスター!」カテリーナ・アイランドの桟橋に戻ってくるとマルティーノが待っていた。「トーニの部屋へ!」
 走り出したマルティーノの様子に事態が動いた事を悟った。神宮寺が続く。
「ジングージ」
 トーニがテーブルに置かれた昨日とよく似た小箱の前に立っていた。
「─Tシャツ?」ソッと箱から出す。「これは・・昨日ジョーが着ていたのと同じ─」
 その言葉にトーニとマルティーノは絶句し、広げられたTシャツを見た。それは肩から胸のあたりまで血で染まっていた。ナイフで裂かれた痕もある。治りかけていた傷が再び開いたのか。
「一緒に手紙が入っていて、プレゼンの辞退をモルディブ政府に申し出ろ、と─」
「なるほど・・そう来たか」神宮寺がかすかに口元を曲げTシャツを箱へと戻した。「奴らこちらを脅したのはいいが、本当に欠席するか不安になったのでしょう。そして追いうちをかけてきた─。焦っている証拠だ。大丈夫です、ジョーから連絡が入ればすぐにでも─」
「でもジョーは連絡を寄こさない。なぜだ?1人で片をつけようとしているのか?」
「・・・もし彼が逃げ出したら、次に狙われるのはあなただ、トーニ。だからジョーは─」
「・・・・・」トーニが茫然と神宮寺を、そしてマルティーノを見た。「ぼくのために?この計画がうまくいくようにジョーは相手の所に留まっていると・・・」
「計画というよりはあなたのためです、トーニ。もちろん国際警察としてのプライドもありますが」神宮寺は静かに箱を閉めた。「この箱を持ってきたのは誰ですか?」
「アクティビティ・レセプションに置いてあったそうです。あちらは夜間は人がいませんからね。今、防犯カメラを調べて箱を置いた人物の割り出しを急がせています」
「おれは1度保養所に戻り、ノートパソコンを持ってきます」
「パソコンならお貸しできますが」
「ジョーの通信機の位置を捜索できるソフトが入っているんです。向こうがオフになっているので難しいのですが・・・。すぐ戻りますので人物の特定ができたら教えてください」
「はい」
 マルティーノが頷き、だがトーニは無言で神宮寺を見送った。

 トーニの執務室を借り、神宮寺は自分のノートパソコンにリンクを繋げてジョーのスピードマスターの現在位置を割り出していた。機能がオフになっていても、時計として微量な電波は出しているのでそれを捕まえようというのだ。
 だがその確率は低く、リンクを通してモニタにその電波が表示されたのはもう昼も過ぎた頃だった。
(同じアリ環礁・・・ここから20キロ程、北西か)
 しかしその辺りにはかなりの数の有人無人の島がある。神宮寺1人ではとても手に負えない。
「失礼します」マルティーノだ。「これが例の小箱を置て行った男です」
 プリントアウトしたものを見せてくれたが、小柄で眼付の鋭いその男に見覚えはない。
「うちのスタッフでもゲストでもないので、彼がレビンが言っていた─」と、電話が鳴った。「アントニオに?名前は名乗らないのか?」
 どうやらトーニに電話らしい。いつもなら名乗らない相手の電話など取り次がないのだが─。と、そこへトーニが入ってきた。マルティーノを見て頷く。
「─わかった。繋いでくれ」
 マルティーノがトーニに受話器を渡しスピーカーに切り替えた。
「アントニオ・カルロスです。どなたですか?」答えがない。しかし人の気配となにか小さな音が聞こえてくる。そしてかすかな声も─。「・・ジョー・・、ジョーか?ジョー!」
 突然、バンッ!と何かを叩いたような音が響きトーニがビクッと跳ねた。
「ジョー、どうしたんだっ」
『こいつは話をしたくないようだ』低い男の声だ。『ジョーというのか、青い目の坊やを預かっている。迎えに来い』
 え?と、トーニが神宮寺と顔を見合わせた。
『時間は明日の10時、場所は追って連絡する。いいか、時間を間違えるな。もし10分でも遅れたらぼうやは死ぬぞ。それから迎えはシニョーレ・カルロスが来い。わかったな』
「まってくれ。ジョーは無事か。電話に出してくれ」しばらく間があったが誰かに代わった気配がした。「ジョーか?大丈夫か?ジングージもここにいる。必ず迎えに行くから」
『・・おれは大丈夫だ』ジョーの、低いがよく通る声が、しかし今はかすかな息遣いと共に聞こえる。『だからおれの事は気にするな。君は君のやるべき事を─うわっ!』
 再びバシッ!と何かが叩きつけられた音が響いた。苦痛を感じさせる声もかすかに聞こえる。
『あまり暴れると傷が裂けて自滅する、と言ってるんだがな。口も元気なぼうやだ。じゃあまた明日連絡する、シニョーレ』
 ガシャンと電話が切られた。だがトーニを始め誰1人声を発する者はいなかった。
 たっぷり1分も経っただろうか。
「マルティーノ」静かなトーニの声。「モルディブ政府とフィレンツェに連絡を入れてくれ。今回のこの件から手を引く」
 トーニ!とマルティーノが声を上げた。
「プロジェクトも大事だが、ぼくにとってはジョーの方が大事だ。これ以上グランディーテ家の者を失いたくない」
「まってくれ、トーニ。ジョーはそんな事は望んではいない。このまま続けてほしくて─」
「ジョーがぼくを大切に想ってくれるのと同じくらい、ぼくだって想っている。君こそジョーと生死を共にするバディなんだろ。彼が危険な目に遭っているのに心配じゃないのかっ」
「・・・おれはジョーの希望を叶えてやりたい。そのためならおれの心配など、どこかに閉じ込めておきますよ」
 黒い瞳が静かに、だが深くトーニの心に入り込む。
 ジョーがトーニと出会う前から文字通り生死を共にしてきた仲間─。平気でいるわけではない。
 トーニは気まずげに目を逸らすとそのまま部屋を出て行ってしまった。
「彼はジョーに対して負い目を感じているんです」マルティーノには珍しく小声で呟く。「本当ならグランディーテの後継者はジョーです。自分はジョーから肉親も財産も奪っているのではないか、と。ジョーがそれを望まないのはわかっているのですが」
 ボディガードを兼ねるこの男がトーニを見る目はやさしい。彼もトーニを想っている1人だ。
「とにかくフィレンツェやモルディブ政府に伝えるのは待ってください。まだ1日あります。結論を出すには早すぎる。いや、あと1分しかなかったとしても、おれ達は決して諦めない」
 自分を信じ相手を信じ─そうやって彼らは闘ってきた。
「あなたのような方がジョーのそばにいて良かった・・。きっとトーニもそう思っていますよ」
 マルティーノの双瞳がフッと細くなり口元には穏やかな笑みが浮かんだ。

「余計な事は言うなと警告したはずだが」
「・・彼らを脅しても無駄だ。おれ達はそんな事でお前らの言い成りにはならない」
「うるさいガキだ」ギラーが舌を打つ。「殺っちまった方がラクですよ、ステン」
「せめて明日の10時までは生きていてもらわんとな。ほら、ちゃんと調節しろ。今度は不備を起こすわけにはいかない。10時前にオダブツになってしまう」
 ステンが手元に目をやった。


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