コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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走り続ける者 完

   「結局何もなかったね。スプーンの不振物は片づけ忘れた備品だったっていうし」

    徐々に少なくなっていくスタンドの観客を見ながら洸が言った。
  「取り越し苦労だったかな」神宮寺もかすかに微笑む。
   2人は今、持ち場よりピット横のコントロールタワー2階に設けられている対策本部へ戻るところだ。本当はこのままホテルに帰ってしまいたいが、イヤホンを返さなければならない。報告の義務もある。ブツクサ言うわりには彼らは律儀だった。
   ピットではまだ勝負冷めやらずのスタッフ達で華やかだったが、もう帰り支度をしているチームもある。2週間後のブラジルグランプリに向けて次の戦いが始まるのだ。
  「ジョー」コントロールタワーの2階に上ると、ジョーはすでに来ていた「関さんは?」
  「それより来いよ、神宮寺」ジョーは大きくドアを開けた「見ろ」
  「あ」「ここって」2人は同時に声を上げた。
   ジョーの示した所は表彰台のフロアだった。つい先ほどまでアロンソやマッサが立ち、カップを受け取っていた。床にはまだシャンパンファイトの跡がある。勝負に勝ち、限られたレーサーしか登れない所だ。四輪をやっていれば、いつかはこの台に上がりたいと思うだろう。と、
  「やあ、お疲れさん」関が声を掛けてきた「まったく人騒がせな事だ。東京からわざわざ出張(でば)ってきたのに。活躍の場面はなしだ」
  「それが1番でしょ」神宮寺が苦笑する「で、本命はどこだったんですか?」
  「わからん。どこかがすっ飛んだという連絡は入ってきとらんでな」
  「愉快犯だったのかなァ」洸が言った「どっちにしても迷惑な話だ」
  「一応、全チームが出るまで警戒は解かないがね」
  どうやら大半のチームが今日中に鈴鹿を出るようだ。ジョーの目にもフェラーリやマクラーレンの大型トレーラーが何台も出発する姿が映っている。
   「君達は今日、東京に戻るのかい?」ええ、と神宮寺が頷く「じゃあ、その前に風呂に行こう。汗かいただろう。近くのホテルにクアガーデンがあるんだ。おれもまだ行っていないが」
  さあ、と3人の肩を押す。が、
  「おれはパス」ジョーが手を振り払う「あんただけ行けよ」
  「汗臭いと女の子に嫌われるぞ」ジョーの腕を掴みニッコリと笑う「それとも何か?体に自信がないとか、か?若いのにもうブヨブヨ?」
  「─」
  ジョーが無言で関を睨む。が、そんな事はお構いなしに関はジョーの腕を引っ張り、あとの2人も連れて車に乗り込んだ。
  「関さん、報告とかいいんですか?」洸が訊いた。
  「部下がやってるよ。教育がいいからな」
  ケラケラと関が笑う。気の毒な部下達だと、3人は同情した。
  クアガーデンはフラワーガーデンホテルの隣にあった。誘った手前か関が3人の分も料金を払い4人は入場する。
  「おお、やはりいい体をしているな、3人共」脱衣室で関が感心したように言った。
  ガッシリとしてバランス良く筋肉の付いたジョーと、細身だが、やはり鍛え上げられた神宮寺と洸の体は、同年代の若者達の中でもそうはいないだろう。
   「世界を守る体だな」言いながら浴室に入っていく。と、ふいに顔が強張る。
  目はジョーの右腕に吸いつけられていた。
   「─あの時のキズか」関の問いにジョーは答えずシャワーのコックを開けた「残ってしまったのか─。いや、なんと言うか・・」
  「だからパスだと言ったのに」ボソッと呟く。
  「気を遣ってくれたのか。ジョー、おれに惚れたか?─ギャア!」
  関が悲鳴を上げた。ジョーが関のシャワーを冷水に変えたのだ。
  あまり長湯もせず湯から上がり、車に戻った4人を出迎えたのは、車内に置いてあった関の無線機の呼び出し音だった。相手はサーキット場にいる関の部下だ。
  なんと予告電話をしてきた男が、爆発物は鈴鹿のF1マシンに仕掛けたと知らせてきたのだという。爆発時間は18時0分。
  「どこのチームのマシンかは言っていないのか!」言わなかったという。
  現在サーキットに残っているのは2チームだけで、爆処が検知機を使って調べたが爆発物はなかったそうだ。
   「あとの9チームのうちのどれか、か」再びサーキットに向かう。
   「その9チームは今、空港に向かってるんじゃないの」後席の洸が言った。 
   「ああ、関空とセントレアに分かれているが─。くそっ、いったいどのチームの─」
   「関!」突然ジョーが叫んだ「マクラーレンだ。マクラーレンはどっちに行った?」
   「マクラーレンがどうしたんだ」神宮寺が訊いた。
   「レース中に予備のマシンをずうっといじってた奴がいたんだ。変には思ったんだけど予備マシンの整備は珍しくないし─。くそっ、やはりあの時確かめるべきだったぜ!」
  ダッシュボードをバンッ!と叩く。と、車がサーキットに着いた。
  4人はコントロールタワーの2階に上がる。そこには鈴鹿署の大津警部が待っていた。関が、ジョーから聞いた話を説明する。
   「マクラーレンはセントレアから飛ぶ予定です。出発時刻は20時。ですが彼らと連絡は取れません。今、各所に検問を置いて止めるよう指示しています」
  それを聞くとジョーが走り出した。
   「どこへ行くんだ!?」神宮寺が声を掛けた。
   「うまくすれば空港に着く前に追いつけるかもしれない!」
   「そうか、カウンタックなら─。おれも行く。洸は残って情報をくれ!」
   「わかった!」左腕のGショックを掲げ頷く。
  ジョーのカウンタックにはJB用の装備は設置していないので、連絡は腕の通信機だけで行われる。
  駐車場まで走りジョーがドアを上げドライバーズシートに付く。クーとセルモーターの唸りが上がる。と、助手席に関が滑り込んできた。
   「危険だ!降りろ!」
   「なに言ってるんだ。君より長いことこの仕事をしているんだぞ。それにしても低い車だなァ。まるで仰向けに寝ているような─うわあ!」
  バロロロ・・とエンジン音が上がりカウンタックが飛び出した。そのすぐ後ろに神宮寺のポルシェも続く。
   「飛ばすぞ。シートベルトをしっかり締めてくれ」
  昨日と反対のコースを取り、やがてひがし名阪自動車道の鈴鹿ICを入り名古屋方面に向かう。レブリミットを7500rpmまで回し、街中では出番のない3速で飛ばす。ガードレールが1本の白い線に見え、関が“危険って、この事かよ”と唸っている。
  先行しているマクラーレンとは1時間強の時間差があるが、向こうは大型コンテナを連ね、制限速度内で走っているはずだ。カウンタックの最高速度を出せば空港に着くまでには追いつけるだろう。─そう思ったが、少々甘かったようだ。
  鈴鹿ICを入り少し行くと渋滞が始まっていた。日曜日の夕方、それも鈴鹿でF1が開催されたのだ。帰途に付く車が多い。
   「仕方がない」 
  ジョーはリトラクタブルヘッドライトを上げてパッシングを繰り返した。神宮寺も同様にライトを点滅させる。と、前方を行く車が少しづつ端に寄り始め、目の前に車1台がやっと通れるくらいの空間ができた。ジョーと神宮寺は迷わずその空間に飛び込む。
   「道を空けてくれたのか」関が呟いた「こっちの緊急を知らないのに」
   「車に乗っていると時々あるんだ。走り方によって、何かあったのかな?って感じる時が」
  前車が左右にきれいに割れて行く。
   「モータースポーツを見に来る人達だ。何か感じてくれたんだ」それからちょっと口元を歪めて  「ま、単に、危ない奴が来た、と思われたのかもしれないが」
  その危ない車2台が渋滞を抜ける。まだ車は多いがあとは彼らの腕でカバーできる。150キロのスピードを出し、しかし車の間をスルリと抜けていく。コーナーを曲がるたびにステアリングに手ごたえを感じ、けしかけるようなエンジン音にジョーは自分もこの車もまだ走り続ける事ができるんだ、と感じた。
   「ま、なんにせよ急いでくれ。追いついたら君の言う事をなんでも聞いてやるよ。ピカピカの色っぽい所にも連れていってやる」
  スピードに慣れたのか、それとも観念したのか関が大口を叩いた。と、ジョーのスピードマスターが鳴った。洸からだ。ジョーは時計を外すと“頼む”と関に抛った。「関だ。ジョーと一緒にカウンタックに乗っている」
   『わー、それはお気の毒!』余計な事を言って『目標は名古屋市内から知多半島道路とセントレアラインを通って空港まで行くと思うので、今、大津警部が愛知県警に協力を要請した。各所で検問を設け、爆処も出動の準備を始めているそうだ。だけど今のところ、まだ捕まえていない 』 

   「おれ達はもうすぐ名古屋西JCTに着く」
  口元に持ってきてもらったスピードマスターに向かってジョーが言った。鈴鹿から名古屋市内まで3、40分掛かるところを20分で着いた。
   「空港に繋がるすべての道路で検問を行うよう要請したか?」
   『言ったけど、日曜日のこの時間に幹線道路をあちこち止めるのは無理だって県警が─』
   「新設したばかりの空港がぶっ飛んでもいいのか!と言ってやれ!」
   『り、了解!』プツ!と音を立てて通信が切れた。
   「しかし、あまりあちこち止めるとこの車も通れなくなるぞ」
   「それまでに追いついてやるさ」
  ジョーが不敵な笑みを浮かべ、青い瞳が前方を睨む。と、後方のポルシェのクラクションがファン!と鳴った。ジョーが道を譲る。
   「どうしたんだ?」
   「あっちの車にはJBのサーバに繋がっているPCナビが付いているんだ」
  名古屋西JCTから知多半島道路に入るには3線の名古屋高速線を通らなければならない。距離は20キロ強だが、初めての道路なのでカーナビに従った方がよさそうだ。
   「ツーと言えばカー、というやつか。昔のアサクラさんと鷲尾さんのようだな」何気ない関の言葉に、ジョーはふと彼に顔を向けた「前を向け。この件が解決したら話してやるよ。Sメンバー時代の2人の武勇伝をな」
   「・・知っているのか?」
   「もちろんさ。世界中の警察関係者の間では有名だったぜ。ただ、話は伝わってくるが実体がわからなくてね。それが日本に実在していると知った時は本当に驚いたよ。あまりの武勇伝に、もしかしたら架空の人物では、と思われていたし」
   「・・・・・」
   「ついでに、おれの武勇伝もたっぷり聴かせて─」
   「それはいらねえ」ステアリングをクッと繰る。
  名古屋西JCTから名古屋高速5号万場線に入った。さすがに市内は混んでいて、2人も無茶な運転はできない。
  再びスピードを上げたのは知多半島道路に入ってからだ。検問に引っかかった。が、関が“公安だ!マクラーレンを追っている!”と強引に突破した。
  カウンタックに乗った公安なんているのか?という顔をされたが構ってはいられない。
   「スーパーカー刑事(デカ)って呼ばれて評判になるかもしれないな」とニヤついている。
   『ジョー』先行する神宮寺だ『追いついたぞ』
  前方に赤い点滅が見える。マクラーレン一行が検問に引っかかったのだ。すぐ横に車を停め飛び出す。愛知県警に囲まれたスタッフ達は、今しもトレーラーに乗り込み出発しようとしている。
   「協力を頼めなかったのか」神宮寺がそばの警察官に訊いた。
   「ドイツ語を話せる者がいなくて。今県警にー」
   「Einen moment bitte!(ちょっと待ってください)」ジョーが叫んだ。マクラーレンのスタッフがこちらに顔を向けた「日本の警察です。あなた方のマシンに爆発物が仕掛けられている可能性があります」
  口早なドイツ語にスタッフが驚きの声を上げた。
   「予備のマシンです。トレーラーから降ろしてください」それから県警に向かって「車を止めろ!道路を封鎖するんだ!」
  突然飛び込んできた若造に命令され、警察官は迷った。と、どこかに連絡を取っていた指揮官らしい年長者が“言う通りにしろ!”と怒鳴った。下り線はたちまち封鎖された。
  その間にトレーラーからF1マシンが静かに下りてくる。その雄姿に皆の目が吸い寄せられた。走るためにだけ生まれた完璧な姿だ。
   「爆処は到着していますか?」いつまでも眺めていたい気持ちを振り払い、神宮寺が訪ねた。はい、と5、6人の男達が進み出る「お願いします」
  爆処のメンバーがF1マシンに取りつき、探知機でていねいに調べて行く。
   「あと、20分しかないぞ」ジョーがイラつく。
   「落ちつけ。こういう時はあわてた方が負けだぞ」と言うものの、関も落ちつかない様子で爆処の作業を見ている。と、
   『神宮寺!ジョー!』2人の腕時計が同時に鳴った『犯人は捕まえたよ!』
   「ホントか!」「よくやった!」関も含め3人が声を上げた。
   『逆探知が成功したんだ。あ、それより大変なんだ。その爆弾だけど解体しようと手を加えるとすぐさま爆発するそうだ!』
   「なんだと!」
  3人が叫ぶ。と、ピー!という音がまわりに響いた。爆発物が発見されたのだ。爆処の動きがあわただしくなる。解体に入るんだ。
   「ま、待て!」関が止めた「手を触れるな。解体しようとすると爆発するそうだ」
  その言葉に爆処の手がピタリと止まる。困惑した顔を彼に向ける。
   「ハッタリじゃないのか、犯人のよっ」
   「かもしれないが、もし本当だったら─」神宮寺も言葉に詰まる。
  時間はすでに20分を切っていた。
   「ここまで走っても大丈夫だったんだから振動には強いはずだ。配線を切ったりすると危ないという事か」
   「関」ジョーの声が低く響く。神宮寺がハッと彼を見た「あんたさっき、追いついたらなんでもおれの言う事を聞く、と言ったよな」
   「あ?ああ─」
   「よし、このF1マシンを買ってくれ」
   「は?えっ!?」
   「ジョー!」コクピットに体を入れるジョーに、神宮寺が叫ぶ「無茶だ!」
   「大丈夫だ─うう、さすがにきついな」
  F1マシンのコクピットは、それに乗るレーサーの体に合わせて作られている。ライコネンのサイズならジョーでもなんとかなると思ったが、思った以上に狭かった。「「メカニック!エンジンをスタートさせるぞ!」遠巻きにしていたマクラーレンのスタッフに向かって叫ぶ「Beeilen Sie rick!(急いでくれ)」
  責任者らしいスタッフが声を上げメカニックが飛んできた。
  F1マシンは通常、コンプレッサー、バッテリー、クランク操作など3、4人のメカニックが分担してエンジンを掛ける。ドライバーはコクピット内でスターターボタンを押す準備をしている。
   「ジョー」
  珍しく神宮寺が心配そうな目を向けてくる。ジョーの腕はよく知っている。しかしF1マシンとなれば話は別だ。通常の自動車ではない。何もかも未知数だ。もちろんジョーも無茶だとは思っている。本物のF1レーサーやスタッフが走らせた方が確実だろう。しかし、いつ爆発するかわからないものに彼らを乗せるわけにはいかない。
   「大丈夫だ」
  ブルーグレイの瞳を向けジョーが微笑む。自分のミスでこの事態を招いてしまった。だから─。と、エンジンが掛かった。一斉に回転数を上げる。それを見た神宮寺がポルシェに走る。先導するつもりだ。
  誰かがジョーにフルフェイスのヘルメットを手渡した。ジョーはスピードマスターを外すと内臓イヤホンを伸ばし耳にはめた。スピードマスターは胸ポケットに落ちつく。その上からヘルメットを被る。
  回転数が上がった。スターターボタンを押しクラッチを切りギアを入れる。F1マシンが物凄いスピードで飛び出した。
  フロントガラスがないので、まともに風圧を受ける。ヘルメットがなければ目も開けていられないだろう。
  早く走る事を目標として作られたF1マシンは、ドライバーの乗り心地などまったく考慮されていない。マシンには通常10、あるいは12気筒エンジンが積まれているが、この振動や騒音は並大抵ではない。
  聞いている分には心躍るエキゾーストノートも、ドライバーにとっては耳元で電気ドリルを最大パワーで作動されているような騒がしさだ。
  そしてステアリング─
   「重いし、まったくアソビがない」
  ハイスピード走行時のマシンのバランスをよくするために、市販車よりずっと重く作られているのだ。さすがのジョーも慎重の上に慎重に扱っている。興奮なのか緊張なのか体が震える。と、
   『ジョー、次の大府東海で降りるぞ』イヤホンから聞こえる神宮寺の声が騒音で聞こえにくい。だが『海へは─近い─』
  エンジン音にかき消されながら聞こえてくる神宮寺の言葉で、彼も自分と同じ考えなのだと確信した。
  下り線は封鎖しているが上り線には車が並ぶ。F1マシンとポルシェの猛進に何事かと目を向けてくる。
  やがて大府東海料金所が見えてきた。かなり手前から神宮寺がクラクションを派手に鳴らしている。事件で、下り線封鎖を知っている料金所の係員が何かを感じたらしい。ゲートを開けてくれた。そのままのスピードで素通りする。
  2台は155号線に降り、海沿いの247号線に入った。
  F1マシンはサーキットのストレートコースなら300キロ近い速度を出すが、ジョーの腕ではそこまでのスピードは無理だ。ましてや一般道である。180キロで走るポルシェにくっついて行くだけで精一杯だ。
  道路もF1用コースとして路面整備されているわけではないので、ワンレース用に作られているタイヤの耐久性が心配になってきた。時々バンッ!と車体が跳ね上がるのだ。そのたびに尻や背中がシートに打ちつけられた。ジョーの全身を汗が流れ落ちる。時間は5分を切っている。
   『ジョー、次の信号で右折しろ。港に入るんだ』
  その通信にジョーは右側に目を向けた。
   ここはまだ港の中心部だ。もう少し離れた方が─
   『この先はコンビナートが続く。その先は海釣り公園だ。時間がない』
   「─わかった」神宮寺には聞こえないが声に出して答える。
  ポルシェに続いてジョーもヒール&トウで交差点を曲がり抜けた。キーとブレーキ音が響き、何台かの車が止まった。
  港へ続く道路に入った。遥か左側には巨大なコンビナートが立ち並ぶ。あそこへ近づけるわけにはいかない。ジョーは暗い海へと真っ直ぐにマシンを走らせて行く。
  先行するポルシェがクッと右に曲がった。が、ジョーはそのまま岸壁に向かう。
  あと2分もない 。
  「降りろ、ジョー!」車を降り神宮寺が叫ぶ。
   トラブルが起こった場合は5秒でマシンから脱出できる事、という設計上のレギュレーションが決められている。しかし初めてのジョーには、そう簡単に脱出する事などできない。ジョーはさらにスピードを上げ、その勢いで岸壁から海へと飛び出した。
   「ジョー!」
  神宮寺が走り寄る。と、海中から閃光が八方に飛んだ。続いて水柱と轟音が上がる。神宮寺が膝を折ってこれを避けた。が、規模が小さかったのか辺りはすぐに静かになった。
   「ジョー・・」神宮寺は暗い海を見まわした。
  ポルシェのヘッドライトもそう遠くまでは届かない。爆発のあった地点はきれいな波紋を見せていた。と、
   「ハァックション!」
   「ジョー」F1マシンが着水した場所より右側に枯葉色の髪が見えた。
   「着水寸前に脱出したんだ。いや、体半分出していたから振り落とされたってところかな」神宮寺の手を借り岸壁に上がる「爆発が小さくて助かった」
   「こりゃあ、もう1度クアガーデンに行かないとダメかな」口元を綻ばせる神宮寺の肩越しに、何台ものパトカーがこちらに向かってくるのが見えた。


   「なんか・・かっこ悪いな・・」前髪を掻き上げジョーが呟く。
   「ん・・・」神宮寺も眉や口元をへの字に曲げたままキャリア・カーへと積まれていく自分達の愛車を見ていた「ガソリンの量なんて、まったく考えなかったもんな」
   爆発物を追って鈴鹿からかッ飛ばして来たのはよいが、ガソリンの残量など考えていなかった。まだ少し残っているが、1キロも走ればダウンするだろう。
   「大食いだからなァ」関が言った「エコブームの現代には、そぐわないぞ」
   「だけどこの車だから追いつけたんだぜ。ガソリン代出してくれ」
   「なに言ってる!F1マシンぶっ壊しやがって。いくらするか知っているのか!」
   「おれのせいじゃないぜ。あんたの仕事なんだからあんたがなんとかしろよ」
   「おれを破産させる気か!」
   「公安の予算でなんとかなるだろ」
   「公安を破産させる気か!」
   「あんたらのボーナスを削れば、F1マシンの1台や2台ー」
   「そんなに貰ってるもんか!」
   「・・やれやれ」ジョーと関の怒鳴り声を聞きながら神宮寺がため息をついた「ま、なんにせよ、被害者がでなかっただけでも良しとするー」
   「おれが被害者だ!」関が叫んだ。


                                                            完
                                                
                                                              4 へ    



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