コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Breaking the habit 2

 やがてトランザムは国道138号に突き当たった。右折して山中湖方面に向う。
「なんかすごく腹立ってきた。このままUターンして東京に帰っちまおうか」
「いいね、そしたら君とおれはずーとくっついてるってわけだ」左腕のブレスレットをかざす。とたんにジョーの不機嫌が最高潮に達した。トランザムのスピードが上がる。「おい、一応制限速度は守ってくれよ。ネズミ捕りに引っかかったら格好がつかない」
「─関」
「ああ─。お約束だな」バックミラーに目をやる。シルバーのスズキ・エスクードがぴったりとついてくる。「さっきの奴らじゃないな。狙いはこの箱か」
「関、どの程度までやっていいか?」
「トランザムにキズをつけるな」
 キッパリ言う関に、ジョーは肩を竦めステアリングを握り直した。丸型ではないので左手を大きくステアリングに回す彼独特の運転スタイルはとれない。だがジョーにはそのハンデを補う技術がある。
「だがこんな一般道で仕掛けてこられては─」その言葉が聞こえたのか、エスクードがスピードを上げた。トランザムのリアにガツンと当ててくる。「トランザムにキズをつけるなと言ったはずだぞ!」
「おれのせいじゃねえぜ!」
 ジョーのソーイングが忙しくなる。バックミラーを見て“あっ”と声を上げた。
 さらにスピードを上げたエスクードがトランザムに並んだ。助手席の男がこちらに銃を向けているのが見えた。
「伏せてろ、関!」
「そんなかっこ悪い事できるか!」
 ふと思いついた関が例の箱をエクスードの奴らにチラチラとかざして見せた。エスクードの男が銃を下ろす。
「やっぱ狙いはこの箱か。これがこっちにある限り、無茶な事はしてこないだろ─えー!?」突然エスクードが幅寄せしてきた。「当てるな!トランザムにキズをつけたらどーするか─!」
「うるせえよ、関!」
 ジョーはリバースでアクセルを踏み、車3台分ほど後退した。その前をエクスードが横に滑っていく。ジョーはステアリングを切り、車体を回転させ元の体勢に整えた。
「ヤロウ、レーサーをなめるなよ」
 ジョーの瞳が青く輝き始めた。

「あれ?立花?」江川が声を掛けてきた。「今日はジョーと富士に行くんじゃなかったのか?」
「それが、これからニューヨーク支部に行かなければならなくなって。例のゾンタークに関する書類を届けるんだ。さすがにこれはファックスやメールというわけにはいかないし」
「そういえば、ここしばらくは奴らおとなしいな。もう日本にはいないのかな」
「せめてF1やGTが終わるまではおとなしくしていてもらいたいよ」立花がため息をつく。「ジョー、今頃は公開テスト見てるんだろうな・・・。いいなァ」
「案外ちゃっかりGTマシンに乗ってたりしてな。そしてサーキット走ってたりして」
「ZやNSX相手にデットヒートをやらかしているかも」
 ありそー、と2人が笑った。

 国道138号はいくつかのカントリークラブの間を抜けて山中湖に出る観光道路だ。
 今はオフシーズンなので車は多くないものの、それでも時々一般車両と擦れ違う。だがそんな時は不思議とエスクードの動きがおとなしくなる。一般車は巻く込みたくない、狙いは黒い車(トランザム)だけという襲撃マナー(?)を弁しているのか。
「でも目障りだ。こんな奴らを引き連れて行きたくない」
 目の前を行くエスクードを睨みジョーはカーナビに目をやった。この先、富士高原CCを抜けた所に急カーブの表示がある。
 ジョーは口元を歪めトランザムを左側に寄せた。当然エスクードも左に寄る。
 2台はしばらくそのままの位置で走行した。
 やがて右に曲がる急カーブが見えてきた。前を行くエスクードが右に曲がろうとする刹那、ジョーがアクセルを踏み込み、相手のインに入った。ついでにちょっと尻を振ってエスクードの側面にぶつけてやる。
 関が悲鳴を上げたが、エスクードは路肩に押し出されスピンした。
「へっ!ざまーみろ!」変形のアウトインアウトだ。ツーリングカーレーサーのジョーにはお手の物だ。「でもこいつすげえな。おれの動きにピタリとついてくる。あんたよりおれと相性がいいようだ。おれが鍛えてやろーか」
「やめてくれ。ジャジャ馬になる・・・」
 ジャジャ?と首を傾げるジョーにため息をつき、関がバックミラーを見た。エスクードは追ってこなかった。

「OK、ミスター。これでセキュリティはバッチリさ」
「サンキュー、洸」神宮寺が洸からノートパソコンを受け取る。先日新しいOSに変えたばかりだ。「プライベートのパソコンまで面倒見させて悪かったな」
「なんの!新しいOSは映像が楽しいね」ふと向こうのデスクのノーパソに目をやる。「あれジョーのノーパソだろ?ついでにセキュリティ強化しておこうか?」
「いや、いじらん方がいい。JBのではなくプライベートのノーパソだ」
「それはまずいね。あーんな画像やこーんな画像が入っているかもしれないし」
 洸が目を細めムフフと笑う。当人(ジョー)がいないので言いたい放題だ。と、ノックがした。
「神宮寺」立花だ。「例の書類、プリントアウトできた?」
「ああ、これだ」封筒に入れた書類を渡す。「手直しに時間が掛かってしまってすまん」
「今日オフだったんだろ。って、ぼくもなんだけどね」書類を確かめ立花が笑う。「無事にオフを過ごしているのはジョーだけか」
 ちょっと羨ましそうに呟いた。
「精鋭揃いのチーム1のサブリーダーともなると大変だね」
「さ?て、立花には悪いがおれは帰ろうかな」神宮寺がウ?ンと伸びをした。「最近オフでも休めないもんな。何かしら誰かが問題起こして─」
 伸ばされた腕がピタッと止まる。後の2人も無言で顔を見合わせた。
「・・・あまり余計な事は言わないようにしよう。また本当になったら困る」
 神宮寺の言葉に洸も立花もウンウンと頷いた。

 突き当りを左折すると山中湖をグルリと回る道に出た。富士五湖中最大の湖だ。
 春から秋はサイクリングやボートセイリング、水上スキーが楽しめる。湖畔にホテルやペンションも多い。
 ジョーはこの辺りはあまり来た事がないので時々湖に目を向けている。
 水上を走るヨットに、故郷ハンブルクのアルスター湖を思い出しているのかもしれない。
 9才でドイツを出たジョーはアルスター湖でレイクスポーツをした記憶はないが、家が近かった事もありよく遊びに行った。湖畔の公園がお気に入りだった。
 ─いや、違う。1回か2回、両親とアルスター湖でヨットに乗った事がある・・・。
 あれは本当にアルスター湖だったのか?それとも別の湖か。
(ドイツでの記憶もはっきりしない・・・。なんで・・・)
 ジョーには日本でのあの夜から数週間の記憶が所々抜けている。はっきりと繋がるのは鷲尾の家に引き取られてからだ。
 それを今まで不思議とも思わず気にしていなかった。だが─
「どうした、ジョー?」関の声にジョーはハッと我れに返った。「運転中に余計な事考えるな。敵さんもあれで終わりだとは思えない。─ま、君に言う言葉じゃないね」
「ああ─、すまない」
 ジョーがステアリングを握り直す。
「そう素直だと気味が悪い」ムッとするジョーの反応を楽しむように関が言った。「なあ、やはり連絡を入れておいた方がいいかもな。そうすれば応援もすぐ頼めるし」
 トランザムは湖畔の回遊道を離れ、138号線を河口湖方面に向う。
 公安でもJBでも、連絡を入れこの件を任せてしまえば簡単に片付くだろう。左腕にはめられたブレスレットも、10キロ以上離れなければ安全だとしたら外す方法はいくらでもあるはずだ。
 だが今まで2人共手助けを請おうとは思わなかった。
「入れるなら公安だけにしてくれ」ジョーが言った。「おれの名前は出すな」
「そんなにおれと一緒にいるのを知られるのがいやなのか?」
「そうじゃない」ちょっと口籠もるが、「こういう状況が格好悪くていやなんだ」
「・・・・・」
 関がまじまじとジョーを見る。彼は口をへの字に曲げ、苛立つ自分をなんとか押さえようとしている。
 確かにこの状況は格好の良いものではない。ジョーが神宮寺達に知られたくないと思うのも当然だ。
「見栄っ張りだもんなあ、お互いに」
 関がカツンと携帯を閉じた。
 やがてトランザムは138号から139号─富士パノラマラインに入る。北にはこれも観光地で有名な河口湖がある。
 その周りを1周すれば目立つのになあ、と関が残念がった。
「なあ、その箱の中身は何だと思う?」
 瞳だけを関に向けジョーが訊いた。
「さてね、開かないし音もしないから爆発物ではないと思うが」
 20センチ四方の金属製の小さな箱だ。耳元で振ってみる。カサッともいわない。よほどギッシリ詰まっているのか。まさかカラという事はないだろうが。
「お望みなら開けてみようか?工具はあるよ」と、突然、箱からピーピーという音が聞こえてきた。「わっ!お、怒ったのか!?」
 関が箱を放り上げ、再び両手でキャッチした。音はまだ鳴り続けている。
「鳥のヒナでも入ってるンじゃねーの」なぜかジョーが笑っている。「エサくれっ!ってよ」
「鳥ならいいが、なんかもっととんでもない物を呼んでいるような気が─」バックミラーを見て
関が振り向いた。トランザムの後ろを?板?が追いかけてくる。「な、なんだ、あれは」
「スケートボード?」ジョーもバックミラーに目をやった。「こいつの親はあれなのか?]
  その親・・・ではないスケートボードが近づいてくるに従い、ボードの上に機械が乗っていてその一部が赤く点滅しているのがわかった。箱のピーピー音に連動しているようだ。
「・・・なんかこんなシーンを映画で見た事がある。爆弾を積んだスケボーが車を追いかけて─」
「ゲッ!それじゃあ、あれにも!?」関が箱を外へ放り出そうとした。が思い留まる。「ジョー、車に当てるな。なんとか振り切れ」
「映画では振り切れなかったような気がするが─」
「映画はいい!君は振り切れ!」
 わめく関に眉をしかめジョーがスピードを上げた。このあたりはカーブも少なくほとんど直線に近い。スケボーはピッタリとついてくる。
「離れねえぜ、くそォ」
 大きなゆるいカーブがあった。ジョーはわざと急角度で曲がってみる。しかしスケボーの追跡は止まない。
「小さすぎて車を当てる事もできねえな」指で唇をなぞる。「関、その箱を捨てろ。あのスケボーはそいつに誘導されているようだ」
「そんな事はできない。これは奴らがこれからやろうとしている事の証拠の品だ。こいつの届け先を確かめるまでは手放すわけにはいかない」
「─そうか。じゃあシートベルトをしっかり締めろ。飛び出すなよ!」
「え、な、なにを─」関に言葉が途切れた。ジョーが急ブレーキを踏んだ。キーとタイヤが響きトランザムが止まる。「突っ込んでくるぞ!」
 が、スケボーは車輪の間を通り抜け車の前方に飛び出した。
「お、おお?」
 関が声を上げる。
「安心するのはまだ早いぜ」
 ジョーが楽しそうに口元を歪める。
 今、自分が置かれている状況をこの男はわかっているのか、と関は思った。それとも彼の仕事ではこのくらいの事は日常茶飯事なのか。
 公安に所属しテロやJBのバックアップも担う関だが、Sメンバーに比べればまだ危険度は小さいのだ。と、かなり先に進んでしまったスケボーがピタリと止まった。しばらくしてこっちに戻ってきた。
「やっぱりな」
 ジョーがレースのスタートのごとき加速でトランザムを発進させた。スケボーが迫る。
「ジョー!」
「口を開けるな!」
 スケボーが近づき、ジョーが左に急ハンドルを切る。右前輪にショックを感じた。と、目の前のフロントをスケボーが斜めに飛んでいく。
「な、なん─!」
 シートベルトに体を締められ関が呻く。と、路肩に飛び出したスケボーは林の中に飛び込み小さな爆発音が聞こえた。
「あぶねっ、やっぱり爆弾スケボーだったな」
 ステアリングを叩きジョーが声を上げた。
「こ、こ、こ、こ・・・」
「にわとりか?」車を立て直しジョーが言った。「ちなみにおれはコンドルのジョーだ」
「違う!こんな車の運転しやがって!スケボーが他の車に当たったらどうする!」
「当たらないようにしただろ!この車にはミサイルもロケットブースターもついていないんだ。他にどんな手があるんだよ!文句があるならあんたが運転しろよ!」
「──」
 関が黙った。
 ナイト2000仕様のトランザムを転がしているのだ。運転には自信がある。しかしさすがにジョーのようなスタントマン疑いのテクニックはない。
 関が同じ事をしたら、トランザムはあっという間におシャカになるだろう。
「君のセリカにすればよかった」
「なに言ってるんだ。このトランザムだからこそ、間違われたんだぞ」え?と関が見る。「おれがセリカを停めた駐車場に同じトランザムが停めてあった。運び屋は間違いなくあっちだ。─おっ」
 カーナビの画面に右折の矢印が出た。ジョーがステアリングを右にクッと繰る。いつにない激しい動きをさせているだろうに、動作にまったく支障はない。
 車好きの常としてジョーは他人の車はあまり褒めない。だがこの車は素直に良いと思った。
「なんだって、ジョー?おれに惚れたって?」
「・・・は?」おれ、そんな事言ったか?この車に惚れた事は確かだが。「補聴器がいるな」
「人の言う事を聞いてない君に言われたくないね」と、林の中に伸びていた道が行き止まりになった。ナビもここが終点だと示している。「さて、何が出てくるのかね」
 オフなので銃は持ってきていない。ジョーもウッズマンをセリカのキャビネットに置いてきている。車体を壊さない限り、ジョー以外の者が取り出す事はできないがやはり気にはなる。
 2人は車外に出てみた。周りは背の高い大樹が多い。
「青木ヶ原樹海かね、ここは」
 と、数人の足音が聞こえてきた。2人が目を向ける。
「予定より早かったな」5人の男の中で髭の男が声をかけてきた。「モニタで見せてもらったが、さすが元スタントマンという触れ込みだけはあるな。実験はひとまず成功だ」
 髭の男が手を出し関から例の小さな箱を受け取ろうとする。が
「この中には何が入っているんだ?あの爆弾スケボーのコントローラーか?」
「まあ、そんなとこかな」髭男がグッと睨む。「あまりアレコレ訊かない方がいいぜ」
「─わかった。だがまずこのブレスレットを外してくれないか。物騒でいけない」
「ああ、悪かったな」髭男がニヤリと笑う。「こっちの実験はできなかったがな」
「されてたまるか」
 関が左手を差し出す。と
「誰だ、お前達」1番後ろにいた若い男が言った。髭の男が振り返る。「内山、こいつらは?彼ら?の仲間のスタントマンじゃない。おれの知ってる奴とは違う」
「本当か、岡田」髭の男─内山の問いに岡田が頷く。「お前ら、組織の者じゃないのか」
「組織ってどの組織だ?」
 ジョーがしらばっくれる。相手は5人だが関と2人ならなんとかなるだろう。自然と関と背中合わせの位置に立ち男達を牽制する。
「おっと、暴れない方がいいぜ。そのブレスレットは激しい衝撃を受けても爆発するんだ。おれ達も巻き添えは食いたくない」
 内田が合図すると残る4人が2人づつ関とジョーの体を押さえた。上着やズボンのポケットに手を入れてくる。
「内田!こいつ警察だ!」岡田の手には関の内ポケットから取り出された警察手帳が握られていた。「潜入捜査か!おれ達の何を探ってる!」
「勝手に決めるな。相手を間違えたのはそっちだ。おれはただGTを見に来ただけだ」
「こっちの若いのも警察かっ」
 短髪の男がジョーのブルゾンの内ポケットも探る。
「そいつは関係ない。ただおれの車を見せていただけだ。知らない奴だっ」
「本当か?」
 短髪の男がジョーに目を向けた。だがジョーは答えず男を睨めつける。ブルーグレイの瞳に鋭い光が差し、男がたじろいだ。
「とにかくこのままにしてはおけない」内山が言った。「我々の事がどこまで知れているのか確かめなくては」
 内ポケットから銃を取り出し2人に向けた。



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