コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Breaking the habit 3

「公安3課からの危険組織情報が入ったけど、この頃少ないね」
「いい事さ」パソコンに向かっている洸に一平が言った。「ザーツもゾンタークもこの頃おとなしいし。だけど3課にバックアップしてもらってからおれ達が情報集めしなくてもよくなってラクだな」
「そーかなあ。そのかわり公安の現場に引っ張り出されてるじゃん。関さんや木村達はいいけど、あの?きつね目?には2度と会いたくないね」
「もう3課にはいないよ。キャリアとしてどう評価されたのかは知らないけど」
「あんな奴、評価してほしくないっ」
 人好きの洸にしては珍しく憤慨してキーボードを叩く。2人は?きつね目?とジョーとの間に起こった細かい事は知らないが、それでも箱根での仕事の後、しばらく関を避けていた神宮寺と珍しく物思いに沈むジョーの姿を目にしている。何もなかったと思う方が不自然だ。
「神宮寺もジョーの強いね」洸がフィンガーパッドを撫でる。「今はもう何事もなかったように付き合っているもん。そりゃあ関さんが?きつね目?を3課に入れたってわけじゃないけど、あのジョーが沈んでいたんだもん。相当の事があっただろうに」
「うん・・・」
 もちろん2人共、神宮寺やジョーが3課に対してどういう感情を持っているのかわからない。ただ多忙なJBの活動の負担を減らすためには3課の協力が不可欠だ。

「う・・・」
 かすかに頭を動かすと頬が何か硬い物に触れているのを感じた。やがてそれは全身に広がっていく。目を開けてゆっくりと体を起こした。後頭部がズキッと痛んだ。
「くそォ、あいつ思いっきり殴りやがって」
 手で押さえジョーが唸る。
 あの時、向けられた銃口に目をやると突然隣に立っていた関が倒れた。その後ろには銃底を向けている男がいた。あれで殴られたんだ、と思った瞬間、ジョーも後頭部に衝撃を受け、何もわからなくなった。
 ─と、自分の横に転がっている関に気がついた。
「やれやれ、2人揃ってドジな事だ─。関、おい、起きろよっ」
「ん?」長い息と共に関が目を開けた。やはりイテテ・・と頭を押さえる。「2人だけの朝だ。もっと優しく起こしてくれよ」
「あんたな─」
 眉を寄せ関を見るが、その視線を周りに向けた。3メートル四方くらいの小さな部屋だ。壁も床もコンクリートでできていて、天井近くに小さな窓が1つあるだけだ。
「おれ達が着いたのがまだ4時前だった。明るいところを見ると、眠っていたのはそんなに長い時間じゃないな」
 試しにノブをガチャガチャしてみる。もちろん開かない。しかしこのくらいの鍵なら針金1本で難なく開けられるだろう。
「さて、どうするかな」
 呟くがそれほど困っているようには見えない。こういうシーンは今までにもあった。
 ジョーは落ち着いて周りの状況に目を向ける。
「まずいなァ。警察手帳を取られちまった」
 ジョーとは反対に関は落ち着かない。携帯電話はまだしも警察手帳を取られたのだから無理はないが。
「どじだなァ。なんであんな物持ってるんだよ」
「仕方ないだろ。オフでも携帯する規則なんだから」自分の事は棚に上げて言うジョーに関が口を尖らせる。「君こそ、なんで“自分は関係ない”って言わなかったんだ」
「え?」
「あーいう時は、“こんなおじさん知らない”って言うもんだぞ」
「・・・・・」ジョーは関から視線を逸らして、「あんたに借りを作りたくない」
「君は本当にバカだなあ!」
「なんでだよっ!」
 その時ノブがガチャリと音をたてた。関に詰め寄ったままジョーの動きが止まる。入ってきたのはさっきの男達─内山や岡田達だった。と、関がスッとジョーに寄る。
「チャンスがあったら逃げろ。君1人の方が逃げ切れる可能性が高い」
「関・・・」
 ジョーが関を見つめた。自分より小さなこの男の瞳が強い決意に満ちて見えた。
 ずっと前、ジョーにもこんな瞳を向けてくれた人がいた。だがその人達は─。
「関さん」内山が言った。「話してもらおうか。おれ達の何を探りに来た?」
「だから言っただろう。おれは休暇中だったんだ。なのにどこかのバカがおれ達を運び屋と間違えた。こんな物(ブレスレット)はめやがって。で、運んでやったらこの扱いか?いい迷惑だ」
「そんな話、信用できると思うか?」
「事実だ!第一、潜入捜査に警察手帳を持ってくるドジな奴はいない!」
 その言葉に内山はウム・・・と考えたようだ。ふとジョーに目を向ける。
「こっちの若いのはあんたの仲間じゃないんだな」
 内山が訊き関がそうだと頷いた次の瞬間、内山のパンチがジョーの鳩尾に入った。ジョーが体を折る。そこをすかさずアゴにアッパーを食らわす。ジョーの体が後ろに飛び、壁に背中を打ちつけた。
「ジョー!」関が駆け寄ろうとしたが岡田に押さえられてしまう。「放せ、こら!」
「早く本当の事を話さないと、なんの関係もない若い子が痛い目を見るよ」内山はジョーの髪を掴んで顔を上げさせた。その頬をガツンと殴る。ジョーは勢いで床に体を倒したが、すぐさま顔を上げ内山を睨み返した。「ほお、これは遣り甲斐のある眼だ」
「や、やめろ、本当にそいつは─」
「じゃあ、本当の事を話してもらおうか。公安の関さん」内山が笑う。しかし潜入捜査などしていない関には何も言う事はない。「警察が一般市民を危険に晒していいのかい?それにこの若いのも只者ではないだろう」
 え?と、関が内山を見た。
「実はあんたらがここまでくる道中を中継で見ていたんだ。あんな無謀な、しかし正確な運転ができる奴はそうはいない。だからおれ達も騙されたんだ」
「中継だと?」茫然とした面持ちで関が呟く。「お前らいったい何者なんだ」
「それはあんたらがよく知っているだろう」
「だから知らねーってば!」わめく関を尻目に内山がジョーの腕を掴んで立たせた。再び鳩尾に右腕が入った。声を発せず、ジョーがその場に倒れた。「ジョー」
「・・・大丈夫だ」かすかに目を開け関を見る。「おれは大丈夫だ。だから余計な事を言うな」
 そのジョーの顔を内山が蹴り上げた。彼はそのまま再び仰向けに倒れた。
「内山さん」その時ドアから男が顔を覗かせた。「ボスが来ました」
「チッ」
 内山は忌々しそうにジョーを見たが、そのまま他の男達と共に出て行った。
「ジョー」関が床に膝をつく。「大丈夫か?」
「このくらい、なんでもないさ」ニヤリと口元を歪めジョーが体を起こす。手の甲で口元を拭った。薄っすらと赤い線が引かれた。「あいつボクシングか何かやってるのかな。いいパンチだった」
「感心してないで、避けられるなら避けろよ」
「そんな事したら、あいつますますいきり立つぜ。あんたも殴られていた」
 ジョーは、目を見開いて自分を見つめる関から視線を外して立ち上がった。

『おはよう、神宮寺君』モニタの中の森が言った。『ジョーはまだか?』
「おはようございます。ジョーはいつものオフ明けの重役出勤だと思います」
『仕方がないなあ・・・』と森は言うが、本来Sメンバーに決まった出勤時間はない。事件を抱えていれば1ヶ月JBに詰める事もあるし、なければ数日顔を出さない事もある。『実は、昨日公安から送られてきた情報の中に気になる名前があってね。今チーム4に調べさせているのだが、もしかしたらダブルJにも出てもらうかもしれない。ジョーから連絡があったらそのように伝えてほしい。あと2、3時間で目星がつくだろうから』
「わかりました」モニタが消えた。「ジョーの奴、GTに刺激されて中目黒にでも寄ってるのかもしれないな」
 彼が遅いのはいつもの事だ。神宮寺は気にせず自分の仕事を片付ける事に専念した。

「──」
 部屋に入り、その男の姿を目にし関は絶句した。
 2人は時計も携帯も取られていたが、明りとりの窓からの光で夜が明けた事を知った。
 10時間程放って置かれたわけだが、やがてジョー1人がどこかへ連れていかれた。そして30分程して関が連れてこられたのは、2人がいた部屋よりさらに狭い部屋─いや窓も何もないそこは、もはや部屋とは呼べない所だった。
 その中央に、両腕を手首の所でひとつに括られ天井から縄で吊り下げられているジョーがいた。
 足は床に着いているものの、縄できつく縛られている手首は青く鬱血している。ボロボロのシャツは着ているというよりは纏っている言った方がよく、はだけた胸元や背中にはいくつものミミズ腫れが見える。気を失っているのか頭は下がっているので表情は見えなかった。
「なんだ、これは」
「こいつ、けっこう頑固だな、いくら叩いても自分の事は何もしゃべらない」
 そう言い内山は手にしている乗馬用の短鞭をジョーの肩に振り下ろした。ビクッと体が震える。
「いつの時代のやり方だ?悪趣味な奴だ」
 震える声を抑え、関が言う。
「だがな視覚効果はこれが一番だ。そうだろ?」
 内山がジョーの髪を引っ張り顔を上げさせた。思った通り赤い線がいくつも見える。
 頬を撲(は)られジョーが眼を開けた。
「ほら、意地張ってないで早いとこ吐いちまいな。お前は何者だ?こいつと一緒におれ達を探りに来たんだろう」
 ヒュンッと短鞭が鳴る。ジョーは歯を食いしばり、だが一言も発しない。
 短鞭の音が響き、新しい傷が増えていく。乱れた前髪が彼の表情を隠す。見えるのはキュッと締めた口元だけだ。
「こいつ、大したものだ。・・・と言うより呆れた奴だ。神経ないのか?」
 と、傷を爪でガリッと引っ掻いた。“クッ!”とジョーの顔が上がり内山を睨めつける。それはいつもの彼の瞳だった。その鋭さに内山が思わず一歩引いた。が、
「こいつ!」
 蹴りがジョーの鳩尾に入る。グフッと息を吐き、ジョーの瞳がまた隠された。だが、
(大丈夫だ。ジョーは負けてはいない─)
 その瞳を見て関は思った。
 仕事柄このような状況に対する訓練を受けているのだろう。見かけより苦痛ではないのかもしれない。
 いや、たとえどのような状況でも彼は、いやおれ達は負けないし諦めない。
「ひと思いに殺っちまった方が面倒なくていいぜ」
 岡田が銃を取り出した。
「待て。本当に彼はおれの仲間じゃない。彼を責めたって何もしゃべる事はないんだ。おれを責める方がまだ有意義だぞ」
「ご老体を痛めつける趣味はないんでね。若ければ3日は持つだろうし」
 内山が笑って答える。“このサドヤロー”と関が睨む。が、ヘラヘラ笑っている岡田の一瞬の隙を突き、彼に体当たりしその手から銃を奪い取った。内山に向ける。
「彼の縄を解け!早く!」そう叫び、内山スレスレに一発撃った。本気だとわからせるためだ。「今度は外さないぞ!早くしろ!」
 眉を寄せ関を睨みつけていた内山だが、近くにいた別の男に合図しジョーの手首の縄を解きにかかった。かなり硬く結んであるらしく、なかなか解けない。
 関は辛抱強く、周りを牽制しながら待った。
 やがて縄が解かれジョーの体が床に崩れ落ちた。「こら立て!早く逃げろ!」関の言葉にジョーは顔を上げ彼を見た。「ボサッとするな!早く行け!」
 と、ジョーの縄を解いた男が前に出ようとした。すかさず関が男に発砲する。弾は男スレスレに掠り、後ろの壁に当たった。
「動くな!おれは本気だぞ!ジョー、行け!」ジョーはゆっくり立ち上がり、だがかすかに首を振った。「ジ、ジョー・・・」
「こいつ!」茫然とする関に、岡田がお返しとばかりに体当たりし銃を奪い返した。「撃ち殺してやる!」
 床に尻もちをついた関に岡田が銃口を向けた。
「関!」
 ジョーが関に飛びつき、そのまま転がった。弾丸が床を跳ねる。
「こら、ジョー!」関は自分の下になり床にぐったりと伸びているジョーに掴みかかった。「なんでおれの言う通りにしない!なんで逃げなかったんだ!」
「・・おれが逃げたらあんたが危ない」胸倉を掴まれ、苦しそうにジョーが言葉を吐く。「おれはSメンバーだ。あんたを見捨てては行けない。・・それに借りを作りたくないし・・・」
「この─、バカー!!」
 関は相手の状態も忘れガクガクと激しく揺さぶった。が、すぐに男に体を取られジョーから引き剥がされた。ジョーは仰向けに床に体を倒した。
「内輪揉めか?」内山の手には銃が握られていた。「あんたはこいつの仲間じゃないと言うが、あの動きを見るとそうとも思えないんだけどね。だけど、あんたでもいいってわけだ」
 2人の男に抑えつけられている関が内山を睨み上げる。
「公安に機密書類ってのがあるんだろ?それをここに持ってきてもらいたい」
「な、なんだと!」
 関が叫び、ジョーがハッと眼を開けた。
「テロや暴力団、右翼らの資料があるんだろ?それを渡してくれ」
「そ、そんな事できるわけないだろ!」
「そうかい?」内山は関に銃口を向けだが、スッと横に流した。バンッ!と銃声が響き弾丸はジョーのすぐ横の床に跳ねかえった。「本気で殺るよ」
「・・・・・」
 関が唇を噛み黙る。そしてジョーに目を向けた。
 今は床に体を預けているが余力は充分あるはずだ。それは先ほどの動きでもわかる。時間を掛ければ必ず彼は─。
「1日待とう。昨日の樹海の道に持って来い」沈黙を了解ととったのか内山が言った。「念のため発信機と盗聴器を着けさせてもらうぜ」
「それはだめだ。そんな物を着けていたらおれ達の部署エリアには入れない。登録された機器でないとセキュリティでシャットアウトされてしまう」
「登録された周波数でないとだめという事か?」
「違う。登録された機器でないとだめなんだ。おれ達の使用する機器はすべてセキュリティシステムに登録されチェックを受ける。それ以外の物は持ち込めない」真剣な関の様子に、これは本当だという事が内山にもわかったようだ。「もちろん警察手帳も所持していないとまずい」
「・・・・・」内山はしばらく考えていたが、やがてそばの男に指示し、関の携帯と警察手帳、車のキーを持ってこさせた。「忘れるな。期限は明日のこの時間。それまでに戻ってこないと─」
「わかった。だが彼に万一の事があったら、総力かけて貴様らを潰してやるぞ」
「どっちが立場が上かわかっているのか?」
 内山が呆れたように言う。そして自らジョーの腕を掴み上半身を起こした。ジョーの上目づかいの眼が内山を射る。内山が銃を彼の右腕に押し当てた。
「うっ!」
 銃声が響き血が飛び散る。ジョーは再び床に倒れた。
「こ、このォよー!」
 詰め寄ろうとする関に内山が銃を向けた。そして
「早く行け。こいつの体力がなくならないうちに戻ってこいよ」
「くそォ・・・」
 ギリリと歯を食いしばり今にも内山に飛び掛かりそうだった関が、ふと自分を見ている  ジョーに気がつき動きを止めた。
 撃たれた右腕を押さえ・・・しかしジョーは唇の端をキュッと上げ、かすかに笑みを浮かべてみせた。
「ジョー・・・」
 そうだ、大丈夫だ。こいつは大丈夫なんだ・・・。
 関は男から携帯や手帳を受け取ると彼らと一緒に出て行った。
 その後ろ姿をジョーははっきりとした意識の中で見つめていた。


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