コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Breaking the habit 5

 日の光が沈むとコンクリートに囲まれた部屋の気温はグッと下がる。だが体を休ませる事に専念していたジョーはかなり体力を回復していた。
 1回だけ若い男が食事を差し入れに来た。パンと一杯のスープだけだった。
 ジョーはパンをちぎりスープを少し舐めてみた。何かが入れられている様子はない。だが彼は結局手をつけなかった。
 2、3日食事を摂らなくても動くに支障はない。それより1人でぼおっとしていると、どうしても余計な事を考えてしまう。
 ─白い壁とベッド、白衣の医師─。
 これは今までの話から榊原医療部長の父で、先代の榊原病院の院長だとわかったが─。
 ─そして冷たくなんの飾りもない部屋。30代の鷲尾夫妻─。
 ジョーにはあの夜から鷲尾に引き取られるまでの数日間─いや、これさえも何日間なのかわからないのだが─の記憶が所々抜けている。
 以前榊原にこの間の記憶を繋げたい、と訴えた。榊原はジョーが望むなら話してあげられると言った。しかしジョーは今だに榊原の元を訪ねてはいない。
 仕事が詰まっていたせいもある。しかしそれ以外の何かが彼の足を、想いを止めていた。
 記憶を繋げたい。何があったのか知りたいというのは本心だ。
 病院内での事なのでおそらくは何事もなく、ただ傷を治しそのまま鷲尾に引き取られたのだろう。たったそれだけの事だ─。
 なのになぜかジョーの足は榊原の元には向かわない。
(この件が終わり、東京に戻ったら─)
 大勢で連むのは苦手だ。だが1人でいるのがこんなに心許ないと思ったのは初めてだった。
 誰でもいい、知っている奴の顔が見たかった。が、ふと目の前の現実に我れに返る。そして、
(奴らが来るとしたら夜が明けてからか。それまでにスピードマスターを取り戻しておきたいが)
 しかしスピードマスターが今どこにあるのか、ジョーには知る術がなかった。

「このベッドを使ってください」
 神宮寺は、シャワーや食事を済ませさっぱりした関を医療部の隣のフロアにある仮眠室へと案内した。
 等間隔に8室並ぶその部屋の内部にはベッドが置かれている。他には何もなくベッドと壁の間は人1人が通れるくらいの狭さだ。しかし窓やドアを閉じれば完全防音になる。
「出発は明け方の4時を予定しています。関さんはおれと組む事になりました」
「そうか。それは心強い。よろしく頼む」
「あの関さん・・・。訊きたい事があるんですが・・・」ん?と、関が神宮寺に目をやった。彼は一瞬躊躇したが、「関さんはどうしてジョーの事をそんなに気にするんですか?公安にジョーを引く抜くつもりですか?それともやはり、彼の行動を見張っているんですか?」
「・・・・・」
 立て続けに繰り出される神宮寺の質問に、関はちょっと驚いたように彼を見た。
 自分より遥かに若い神宮寺だがSメンバーを務めているだけあり、他の同年の若者達よりはしっかりしているし、大人でさえ一目置く迫力を秘めている。端正なその顔つきは彼の意志を明確に表し、その強い力は曇る事がない─と、今まで思っていた。
 しかし今目の前にいる若者の貌には色々な感情が入り混じり、自分でも収集がつかないように見える。その答えを自分(関)に求めているのだろうか。
「ジョーに公安に来てもらいたいがそれは無理だろう。彼は日本の警察の試験は受けていないだろ?今から警察学校に入って、またイチからやり直しなんて・・・ジョーにできるとは思えない」
「あ・・・」
 確かにそうだ。
 一般警察からJBに入るならまだしも、その逆をスムーズに動けるのは西崎達のように元警官だけだ。自分やジョー、JB2の2人もそうだが、国際警察にしか籍を置いた事のない者が組織形態の違う日本の警察に移ろうとしたらかなりの年月が掛かる。なんで今まで気がつかなかったのだろう。
「まあ、それでも来たいと言うなら歓迎するが、その時は君も一緒に引き抜くね。我々があのジョーをコントロールできるとは思えないし。それからジョーを見張るなんて嬉しい指令も受けていない。本当だよ」穏やかに自分を見つめる関に神宮寺が頷く。「どうして気になるかというと・・・アサクラさんの息子だという事もあるけど・・・子どもの頃のジョーの瞳を見てしまったからかな・・・」
「え?」
「前に話した事があるだろ。ある事件で公安と国際警察がタッグを組んだ事があるって。その事件が急展開してね。その日はオフだったアサクラさんにも呼び出しが掛かり、おれが阿佐ヶ谷の家まで車で迎えに行ったんだ。門の外で車を停め待っていると家からアサクラさんが出てきて─その後を追って飛び出して来たのがジョーだった。大きな青い瞳に涙を溜めてアサクラさんのスーツを引っ張っていた。ドイツ語だったから何を言っているのかわからなかったが、想像はつくね・・・。ここは禁煙かい?」
 はい、と申し訳なさそうに神宮寺が頷く。
「まあいい。本当はやめるつもりなんだが」丸めた上着にたばこを戻す。「彼はすぐに母親に抱きすくめられて、アサクラさんは彼の髪をクシャッと掻きまわし何か一言言ってこちらに来た。その時おれはジョーと目が合ったんだ。まるで父親を連れて行ってしまう悪者のような眼で見られたよ。大きな眼が眇められ、溜まっていた涙が頬を伝い・・・しかし子どもとは思えない鋭い眼光だった。だが父親に目を移すと、とたんに子どもの目に戻る。そう・・・あの目は・・・仕事に行ってしまう父親を見る目は、おれの息子と同じだ」
「息子?」
「もちろん、おれの息子はまったくの日本人だからな。金髪で青い瞳のジョーと外見は違う。しかし目は・・・あの目だけは、仕事に出ていくおれを見る息子と同じだったんだ」
「関さん、息子がいたんですか?じゃあ奥さんも?」
「いたよ、1人づつね」この年まで、寂しい独り身だと思われていたのか、と関が苦笑する。「もっとも息子は10年前に、妻はそれより前に亡くしてるがね。息子が生きていればジョーと同じか1つ上くらいかな」
 関に息子がいた事はジョーは高木から聞いていたが、神宮寺には話していなかった。
「おれの息子は聞き分けのいい子でね。休日に約束をしていても呼び出されて約束を破ってしまう事がよくあったんだが、文句ひとつ言わない子で・・・。それでも母親がいた頃はまだ良かったんだ。それがいなくなって、おれと2人暮らしになって。おれがいない時は近くのばーちゃんちに預かってもらってたんだが、いつの頃からかおれを見る眼が変わって・・・。反発するような寂しさに耐えているような色々な感情が入り混じり・・・。ま、無理もないがな」
 神宮寺が備え付けの小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを1本出し関に渡した。礼を言って受け取る。よく冷えた水は喉に気持ちがよかった。
「息子とジョーを重ねるつもりはないが・・・。前の事件で10何年振りに偶然遇ったジョーにおれは気がつかなかった。彼もおれの事は覚えていなかった。アサクラさんと同じSメンバーになっていたのは驚いたが、それよりも彼の変わり方に驚かされた。外見じゃない。ジョーの考え方や生き方にだ。何度か会っているうちに、それははっきり見えてきた。子どもの頃父親と遊べなかったとはいえ、彼には両親がいて暖かい家もありごく平凡だが幸せだっただろう。時々会うアサクラさんも、ジョーの事はよく話してくれた。おれの息子と同年輩だったからな。やんちゃで手を焼かせているらしいが、彼が平和に幸せに暮らしている事はよくわかった。それが10何年ぶりに遇った彼は─」
 9才からの12年間─。人として身体はもちろん心も考え方も1番変わり成長する時だ。ジョーに限らず誰でもそうだ。
 しかしその入り口で両親を失い人生が変わってしまったジョーは、もはや関の知っていた?幸せな子ども?ではない。
「こんなにいい仲間がいるのに。彼は何を1人で片意地張って生きているのだろう、と思った。皆がジョーの方を向いているのに、彼1人だけ違う方を見ている。目に入らないのではなく入れたくないというように・・・。子どもの頃に戻るのは無理だ。だがおれはジョーが幸せだった頃を知っているからか、今の彼がとても気になる。で、ついちょっかい出して嫌われる」
「あいつは自分勝手で、今回の事のように余計な所に首を突っ込んで面倒を起こすし命令違反はするしデスクワークはおれにやらせるし─コンビとしてはやり難い奴です」自分の分のペットボトルを出し神宮寺が言った。「だけど年末の事件で、横浜の真っ暗なタワーの中で血に染まって呼吸(いき)もしていなかったジョーを見た時・・・おれは怖くなって・・・。こいつを失うかもしれないと思うと怖くて・・・何もできなかった。もしそんな事になったら、遠因を作った坂下さんを同じ目に遭わせてやる、と・・とんでもない事を考えて─。後でその事をジョーに言ったら、“お前はそんな事しないさ”と言ってたけど、あの時のおれ、本気だったんです」
「うん・・・」関が頷いた。「ジョーが助かってよかったな。君や坂下のためにも」
 その言葉にちょっと気まり悪げに、しかしはっきりと頷く神宮寺を見て関は思う。
 人は年若くして責任ある仕事に就いた彼らを強く、何者にも負けない意志と力を持った人間だと思うだろう。
 しかし彼らは決してスーパーマンではない。ただ常に強く厳しくあろうと自分に言い聞かせ実行しているだけだ。
 そんな彼らに関は自分の息子が成長した姿を想像する。自分のせいで失ってしまった息子を。
「すみません、関さん。疲れているのに」神宮寺がカラになったペットボトルを手にした。「もう休んでください。6時間後に鳴るように目覚ましをセットしておきます」
「うん、ありがとう」じゃあ、と出て行こうとする神宮寺を呼び止めた。そして、「君がジョーを失う事を恐れるのと同じように、ジョーもやはり君を必要としている。お互いに命を大切に、無駄に使ってはいけないよ」
「・・・・・」
 自分を見つめる関の瞳が静かに、しかしユラユラと揺れているように神宮寺には見えた。
 明るく豪快ないつもの関とは違う貌に彼は一瞬戸惑い、どう答えてよいのかわからなかった。
 だから─コクリと無言で頷いた。


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