コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Breaking the habit 6

 太陽はとうに沈んでしまったが、月の光が天井近くの小窓から入ってくるので部屋はほのかに明るい。本を読むわけじゃないからいいや、とジョーは思った。
 胸や背中の傷は相変わらず痛い。右腕の銃創も出血は止まっているが動かすとズキッと痛む。だが体力は回復していたし気持ちも萎えてはいない。後はチャンスを見て─。と、ドアのノブがカチッと回った。ドアがゆっくりと開く。さっきの若い男がトレイに乗せた食事を持って来たのだ。
 壁に寄りかかり自分を見つめるジョーに、男は一瞬ビクッと体を震わせた。ほのかな光の中で光るジョーの瞳が男を射る。思わず動きが止まる。
「騒がしいな」ジョーの低音が響く。「何かあったのか?」
「な、何もない。ボスが来ただけだ」
「来た?ボスはいつもここにいないのか?」
「忙しい人だから─って、お前に関係ないっ」
 ハッと気づき、男はドア近くにトレイを乱暴に置くとあわてて出て行った。
 ガシャンと鍵が降ろされる。
「ふうん・・・」
 ジョーは口元をかすかに歪めドアに目を向けた。

 ジョーはドアに近寄るとそっと耳を付けてみた。食事を持ってきた男がドアを開けた時に聞こえた話し声などは今は聞こえない。しかし大勢の人の気配はある。
 実は彼は少し迷っていた。
 関はJBに行っているだろう。だとしたら神宮寺達が動くのは夜明け前、実際に樹海に入るのは夜が明けてからだろう。彼らが来る前に、この場所を確かめボスを押さえておこうか。それとも到着してからの方がいいだろうか、と・・・。
 ただジョーには1つ気になっている事があった。奴らに取られたスピードマスターの事だ。ここにあるのか、それとも別の所に・・・。
 あの時、富士スピードウェイの駐車場で遇った男達はこの中にはいなかった。そいつらがまだ持っているとすれば、ここではなく別の場所にあるのかもしれない。
 しかし結局ジョーは動いた。そろそろじっとしているのも飽きたし、ボスとやらの顔も見てやろうと思った。
 ドアの鍵は針金で簡単に開いた。ジョーは慎重に廊下に踏み出す。
 照明は点いていなく、彼がいた部屋とあまり変わらないくらい暗かった。
 試しに、出てすぐの部屋を開けてみたが誰もいなかった。彼は朝に連れて行かれた方とは反対の廊下を進んだ。
 人が少ないような気がする。ここが奴らの本拠地ではないのかもしれない・・・っていうか・・誰なんだ、こいつら?物騒な実験をしている事はわかったがそれだけだ。やはり一種のテロ集団か?
(ま、そーいう細かい事は神宮寺達に任せて)
 とにかくスピードマスターを取り戻したい。
 ジョーは眼に着くドアをそっと窺い片っ端から開けてみた。室内は暗く誰もいない。と、廊下の奥がぼおっと明るいのに気づいた。ジョーが慎重に進む。角を曲がったすぐの部屋のドアがわずかに開き、室内の明りが漏れていた。その隙間から覗くと40才くらいの男が2人、話をしていた。
“─明日に─”“─カントリークラブ─”という声しか聞こえずジョーが眼を放そうとした時、今まで背中を向けていた男が、ふとジョーの方に顔を向けた。
 40より2、3つ若いかもしれない。目つきの鋭い、しかしなかなかいい顔立ちをしている。
(─あれ?)
 ジョーは男に目を移した。どこかで会った事のある男だ。いや、会ったというよりは誰かに似ているのか?それもつい最近の記憶だ。
 何かとてもいやな感覚が浮かぶ。頭の中が徐々に霧で覆われ、それがだんだん白くなっていくような─。
「夜の散歩か?」
 ふいに声を掛けられジョーが驚いて顔を上げた。振り返るより早く背中をドンッと押され、2人の男のいる部屋へ転がるように飛び込んだ。
「な、なんだ、内山。こいつは」
 メガネの男が言った。
「例の公安の相棒ですよ。どうやら1人で退屈だったらしい」内山はジョーに銃を向けゆっくり立つように命令した。「腕じゃなく足を撃っておいた方がおとなしくなるかな」
 銃口が下がる。ジョーは口元をキュッと締め、わずかに身を屈めた。
「まて、内山。そいつだろ、スタントマン並みの運転する奴って」メガネの男の問いに内山が“ええ”と頷いた。「使い道があるかもしれん。それ以上傷をつけるな」
「だとよっ」内山がちょっと残念そうに銃口を背ける。「よかったな、ジョー君」
「ジョー?」もう1人の、40前の男が呟いた。「そいつはジョーという名前なのか?」
「そうですよ。相棒がそう呼んでましたから」
「公安・・・ジョー・・・。まさか・・」男がジョーを見つめ彼に近づく。やはりどこかで見た事のある顔だと、ジョーが思った。と、「Verstehst du Deutsch?(ドイツ語がわかるか?)」
「えっ」
 ジョーが反応した。と、男がさらに近づきジョーの右腕を取る。ちょうど銃創の上を掴まれジョーが腕を引こうとしたが、それより早く男に引っ張られた。
「Kennst du Toshihiko Mikami?(三神利彦を知っているか?)」
 目の前の男がゆっくり口を開いた。
「トシヒコ・・・三神!」ジョーが眼を見開く。「あ、あんた、いったい─」
「お前達に責められ自殺した三神利彦の兄だ」
「!」
 ジョーが息をのむ。腕を取られすぐ前に見える男─三神の目を見た。
 ああ、確かにそうだ。見た事があるはずだ。
 この男の目は、井出の所で会った三神にそっくりだ。
「お前が利彦の遺書にあった?Joe?か。弟を自殺に追い込んだのはお前か」
 三神が右手に力を入れる。ギリリ・・と掴まれた右腕が悲鳴を上げている。ジョーは顔をしかめ、しかし抵抗はしなかった。
「弟に何をした。なぜ弟は自殺なんかしたんだっ」
「つっ・・く・・・」傷口が裂け血が滲む。ジョーは左手で三神の右手を掴んだ。「あれを読んだのならわかるだろう。あんたの弟は自分のした事を後悔したんだ。あれは、こんな事をしているあんたに宛てた奴の言葉だったんじゃないのか」
「黙れ!」
 三神はジョーの右腕を大きく曲げようと力を入れた。が、それを見越していたジョーが左手一本と自分の体重を掛け三神の体を横に倒し、共に床に転がった。
 ジョーは放された右手を床に着き素早く立ち上がろうとした。が
「うわっ!」
 銃声と共に左足に激痛を感じ再び床に尻をついた。
「大丈夫ですか、三神さん」
 ジョーに銃を向けたまま、内山が三神を助け起こす。
「こいつ─」三神が内ポケットから折りたたみナイフを取り出した。ジョーは壁に背中を預けゆっくりと立ち上がった。「弟はな、体中を刻まれて帰って来たんだ。顔はきれいだったよ。だが体はあちこち切られ、また縫い合わされて・・・傷だらけで・・・」
「──」
 ジョーの顔が引きつる。かすかに首を振った。
「自殺だとしたら、なんで解剖なんかするんだ!あんなに切り刻んで!」
「や・・・」息が詰まる。目の前の男と黒いファイルが重なる。あれに書かれているのは生きていた人間の最後の記録。無機質に正確に─。「やめ・・ろ・・・」
「こういうふうに─!」
 三神の右手が横に動いた。シュッ!と音がし、ジョーの目の前をシャツの切れ端が飛ぶ。
 胸に赤い線が引かれ、血が玉になって吹き出す。続いてもう2回─赤い線が増える。
 だがなぜか避ける事もせず、ジョーはその身に三神の怒りを受け続けた。
 不思議と痛みはない。ただ三神の想いは痛かった。
 この男は弟を可愛がっていたのだろう。どうして2人がこんな事に足を突っ込んでしまったのかわからないが、それでも兄は兄なりに弟を愛し─。
(だったら弟を巻き込むような事をしなければいい─)
 ジョーはかすかに顔を上げ三神を見る。その表情が気に入らなかったのか、三神はナイフを振り降ろそうとした。
「三神、そこまでだ!やめろ!」
 メガネの男が声を上げた。ナイフの動きが止まる。
「し、しかし、大川さん・・」
「もういいだろう。その男は使える」
 大川は三神の耳元で何かを告げる。三神は唇を噛み。だが大川の言う事に頷いた。
 ジョーは壁に背中をつけたまま、ズーと体を落とした。ぼんやりと三神に目を向ける。
「内山、手当てしてやれ」
「大した傷じゃないですよ。表面を掠っているだけだ」内山がジョーの腕を取り引っ張り上げた。「切り刻まれたのがシャツでよかったな」
 ジョーの腕に力が入った。
「おっと。今度暴れたら助けてもらえないよ。?これ?もあるしな」
 と、今だ左手首にはめられているブレスレットを突っつく。ジョーが力を抜き内山に目をやる。
 ライトの下で見る瞳はアメジストのような深い紫色に変っていた。一歩間違っていたら、今この場で命を落としていたかもしれないのに、ジョーの眼にその恐れはない。その代わりに映るのは、静かで何者にも屈する事のない強い意志、熱い心内─。
「本当にいい眼をしているな」
 今度は素直に感心するように内山が呟いた。そしてジョーを引っ張り隣の部屋に入りソファにトンッと押した。
 ナイフの傷は深い所が一か所あるだけで、後は皮膚を切り裂いただけだった。内山はジョーのシャツをビリッと引き破り、ジョーは一瞬身を引いた。が、傷にバンソウコウを貼ってくれ、
「これでも着てろ」
 と、黒いシャツを放ってきた。内山はジョーとあまり体格的には変わらない。ジョーは内山に目を向けたまま袖を通した。そして
「あの三神という男があんたのボスなのか?」
「そうだよ」
 意外にあっさりと内山が答えた。
「もう1人の、大川という奴は?」
「あの人はうちと手を結んでいる組織のボスでね。力はあっちの方が上だが─。それより、本当にお前がボスの弟を死に追いやったのか?」
「・・・・・」
 ジョーが内山から眼を背けた。
 彼は直接三神への尋問はしていない。しかし彼の推理が三神逮捕の切っ掛けになった。その意味では三神を死への道に追いやったのは自分かもしれない。
「まあ、いい」黙ったままのジョーを見降ろし内山が言った。「だが大川が一緒でよかったぞ。奴が止めなければボスはお前を殺していた。弟が死んだと知った時のボスの様子を見れば無理もないと思うがね」
「・・・・・」
 ジョーは顔を上げ再び内山に目をやった。深い紫色だった瞳が元の灰色がかった青い瞳に戻る。
 ジョーの心情を明確に語るブルーグレイの瞳。だが内山には伝わらない。もちろん口に出して言う事もない。
 やがてジョーは元いた部屋とは違う部屋に入れられた。ここならノブの鍵と外側からの差しこみ鍵とが2重に掛かるという。逃げるなよ、と内山が言ってドアを閉めた。
 ジョーは部屋の隅に座り込んだ。コツンと壁に額を当てる。
「・・消えろ」コツンと音が響く。「消えろ・・消えてくれ・・」
 コツンコツンと音が響く。
 こんな所で三神の家族に遇うとは思わなかった。三神の自殺はジョーのせいではない。彼が自ら出した自分への答えだ。三神の兄もそれがわかっているのかもしれない。それでも誰かを責めずにはいられないのだ。
「消えて…」
 ジョーは壁に額を押し当て呟く。
 体格に恵まれた彼は体力には自信がある。しかしメンタルは21才の若者だ。どうしても対処できない時もある。
 限界だった。

 まだ夜も明けきらない午前4時─。ミットナイトメタリックブルーの車体を輝かせ、ポルシェ928GTSがJBの正面ゲートを出た。その後ろを白いMR─Sが続く。前車にはステアリングを握る神宮寺と関。後車には洸と一平が乗っている。
 2車は高井戸ICから中央自動車道に乗った。山梨県警富士吉田署に向かう。
「それにしてもJBは設備がいいな。ゆっくり寝られるベッドにいつでも食べられる暖かい食事─あそこで暮らせそうだ」
 確かに関の言うとおり、JBの施設は日本の警察署に比べれば充実している。決して豪華ではないが24時間体制のJBは、その機能を維持できる最小人数が1ヶ月籠っても生活ができるだけの施設を備えている。関の言うとおり充分暮らせるのだ。
「それでもジョーなどは、サーキット場も欲しいって言ってますけどね」
「さすがにそれは無理だろう」
 関が苦笑し運転席の神宮寺を見た。
「いえ、JBビルの後ろのスペースをちょっと借りれれば、と─」
「そこは新宿御苑じゃないか!」
 やっぱりダメですよねェ、と神宮寺が笑う。冗談かと思ったが少なくともジョーは本気だろう。
「タカコをジョーに会わせなければよかった」え?、と神宮寺の眼が関に向いた。「ついジョーに自慢したくなって・・・。あの時タカコに会わせなければ、こんな騒ぎに巻き込まれる事はなかった」
「関さんのせいでも、タカコちゃんのせいでもありません。悪いのは奴らです」
「?ちゃん?付けはやめてくれ」
 関が口元を尖らせる。
 そのタカコ─黒いトランザムは今は警察庁の駐車場に置いてある。発信機がついているのでこの時間に現場に戻るわけにはいかない。もし時間までにジョーを見つけ出せなければ、その時間に合わせて後から西崎達が運ぶ予定だ。
 そう決まった時、後で立花に恨まれそうだ、と西崎が苦笑していた。
 やがて2車は河口湖ICを降り、富士吉田署に向かった。


        5 へ     ⇔     7 へ
スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/146-7896f450
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。