コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

封印されし記憶 5

   『バンソウコウの数が増えたね』
  開口1番、これだ。ジョーはモニタの中の鷲尾を睨んだ。
  昨日肩を撃たれ床に転がった時、アゴの下を切ったらしい。大したキズではないのでバンソウコウを貼って済ませた。
   そして今日─ジョーはよく覚えていないのだが、前方から爆風を食らったらしい。気が付くと額と右頬から出血していた。バンソウコウが3つになる。
  『日本に密入国したテロリストは全員確保できた。ご苦労だった』
  鷲尾がどこからどう聞いたか知らないが、こんな事を言うために国際警察のホットラインを使ってくるとは思えない。
  ジョーは黙ったまま鷲尾を見続けた。と、鷲尾が小さくため息をつく。
  『実はクロード・シモンの事なんだが─』ジョーがピクリと反応する。
  なんだって?クロードの事?・・・それはそうだろう。長官はおれとクロードを接触させたがらねえだろうぜ─なおも黙っているジョーを、鷲尾は正面からしっかりと捉える。
  『ICPOからの情報だ。クロード・シモンは武器密輸の疑いで国際手配されている』
  「・・え」ジョーが鷲尾を見る。思ってもいなかった言葉だ。
  『日本に来たのも、おそらくそのためだと思われる』
  「・・・・・」あのクロードが・・密輸犯?日本に何しに来たって?
  『彼とはもう会わない方がいい。すでにICPOには彼が日本にいる事を─』
  「・・クロードは・・」呆然とジョーが呟く「おれを利用しようとして・・」
  『いや、それは違うだろう。たとえ君がJBにいる事を知っていたとしても、この件に関してはJBが関与していないのは彼もわかっているはずだ』
  が、その言葉が聞こえていないのか、ジョーは2、3歩後ろに下がるとストンとイスに腰を落とした。鷲尾から視線を外し、ただただ呆然と時を送る。
  確かに鷲尾の言う通りだろう。クロードはJBの事もジョーの仕事の事も訊かなかった。
  彼は親切で陽気だった。偶然にもジョーと会い、本当に喜んでいたのだろう。ジョーを懐かしみ、一緒に過ごす事を望み楽しんだ。自分を騙していたわけではない。それはわかる。
  しかし自分と同じJBにいた人間が、それも父の同僚だった男が今は国際指名手配を受けているなんて・・。ジョーにはどうしても受け入れられない。
  「─じゃあ、クロードの言った事は・・」
  『え?』
 「訊きたい事があります」
  ジョーは立ち上がり、モニタの中の鷲尾に近づいた。強い意志と力を持ったいつものジョーの眼だ。鷲尾とて無視できない。
   「おれのワルサーは・・あの夜、親父達を撃った銃なんですか」
  『!』鷲尾が目を見開く。驚愕の表情が全身にあふれる─その反応から、ジョーはクロードの言った事が真実だと確信した。
 「どうして・・」ジョーはさらにモニタに近づく「どうして、そんな銃をおれに─」
 膝がガクガクと震えている。このまま座り込みたくなるのを辛うじて耐える。
   「おれはあの銃を、親父の形見だと思って今まで持っていたのに・・」
  『あ、あの時は仕方がなかった・・』鷲尾の言葉が、それが真実だと肯定してしまう『年令のために世界大会に出られず、しょげている君を見ていると─』
  そうだ、とジョーは思い出す。力を入れていた射撃大会で日本一になったのに、未成年だったために世界大会には出場できなかった。その少し前、悩んだ末に高校を中退している。
  さらに鷲尾家の実子である健が生まれたばかりだった。だからといって鷲尾家でのジョーの位置は何も変わらない。変わったのはジョー自身だ。
  彼はわずか16才にして生きる目標を失いつつあった。
  『あの時の君の様子を見て、少しでも元気つけたかった。アサクラの物はほとんど火事で失った。形が残っているのはワルサーだけだった』鷲尾が苦しそうに言う『ちゃんと話そうと思った。しかし・・ワルサーを手に、目を輝かせている君を見て何も言えなくなった・・。その輝きを再び失いたくなかった・・』
  鷲尾はただひたすらにジョーの事を思っていたのだろう。現にワルサーを受け取ったジョーは少しづつだが立ち直り始め、1年後にはJBに入隊している。
  だが・・それはわかっているが・・。ジョーの思いが詰まる。
  JBに入隊してから今まで、彼はずっとこの銃と共にあった。犯人確保のために・・そしていつか必ず両親の復讐を果たすために、ジョーはこの銃で腕を磨き想いを込めてきた。寄りによってその銃こそが、両親の命を奪った物だとも知らないで─。
  『ジョージ』鷲尾はモニタの中で、顔色を失い立ち尽くしているジョーに声を掛けた『私はいくらでも君に謝る。しかしその銃は本当にアサクラが使っていた物だ。彼はとても大事にしていた。その銃にはアサクラの思いが─』
  「・・おれは・・自分のこの目で確かめたい・・」
   『え』
 今にも崩れ落ちそうなジョーが、しっかりと鷲尾を見る。
  「当時の報告書があるはずだ。検視書も、ここに・・」
  『あ』鷲尾が絶句する。
  あの事件はJB管轄内で起こったものだ。それどころか、当時の支部長が殺されているのだ。その一部始終の書かれた報告書がJBには保管されている。
  『ま、待て、ジョージ』
 モニタの中で鷲尾が身を乗り出す。ワルサーの事はもう真実としてジョーも知ってしまった。今更報告書を見ても、知ってしまったという結果は変わらない。
  だが鷲尾は、ジョーを1人で両親の検視書になど向き合わせたくなかった。
  『森君が戻ったら、君に見せるよう話をしよう。だから─』が、鷲尾の言葉を振り切り、ジョーがドアに向かう『ジョージ!ま、待ちなさい、ジョージ!』
  「ジョー」そのドアが開いて神宮寺が入ってきた「西崎の手術が終わって─」
  『神宮寺君!』鷲尾の声が飛ぶ『ジョージを止めてくれ!行かせてはいけない!』
  「えっ、え?」
  理由(わけ)もわからず神宮寺は戸惑った。しかしとっさに、自分の横をすり抜けようとするジョーの腕を掴む。次の瞬間、首に激痛を感じた。ジョーの手刀が入ったのだ。
  神宮寺は首を押さえた。息が詰まる。
  手加減なしの、本気のジョーの手刀だ。気絶しなかっただけでも大したものだ。
  『ジョージ!』
  鷲尾の声を背に、ジョーは膝を付く神宮寺を一瞥もせず部屋を走り出た。
  資料室は2階下だ。フロアの半分を占めている広い部屋だが、このビルに移ってきてからはまだ入った事がない。
  ジョーは階段を駆け降りた。頭がふらつき足元がもつれる。気持ちに体が付いていかない。それでも彼は走る。捜査課室の前の廊下を突っ切る。資料室はその向こうだ。
  出入り口には、手の平の静脈による個人識別承認システムが設置されている。
  登録されているのはチーフを始め各部署の責任者のみだ。Sメンバーであるジョーももちろん登録されている。
  彼は通称“トレイ”と呼ばれている設置パネルに左手を押しつける。続いて自分のコードナンバーを入力する。
 “ピピピ・・”と軽い音が響きドアが開いた。素早く滑り込む。室内はまるで巨大な図書館のようだ。今までJBが扱った事件のあらゆる記録が保管されている。もっともここ何年かの分は、直接パソコンからサーバに記録しているのでここにはない。今、過去の記録も順にサーバに移している最中だという。
  アサクラ氏の事件のあった年代の記録は、まだここに残されていた。
  ジョーは片っ端からファイルを見ていく。が、なぜかアサクラ氏の事件の記録だけがスッポリと抜けていた。その前後の事件の記録は残されているのだから、ここにあるのは間違いないはずなのだが─。
  (そうか、奥だ!)
  ジョーは細長い部屋の奥に向かう。そこにもう1つドアがある。第2資料室だ。特に重要な記録が収められている。
  ジョーは震える左手をゆっくりとトレイに向けた。


  鷲尾から簡単に事情を聞いた神宮寺もまた資料室に向かっていた。途中、捜査課の前を通ると眉村をはじめ高浜や中根など7、8人が部屋から出てきた。戸惑った顔を神宮寺に向ける。おそらく鷲尾が捜査課にも応援を求めたのだろう。 
   しかし事情は説明されていないようだ。皆が皆“なぜジョーを?”という顔をしている。だが森がいない今、パリ本部の長官の指令は絶対だった。
  とりあえず資料室に向かう。神宮寺がトレイを叩いた。
  「ジョー!」彼らが室内に入った時、ジョーは第2資料室の前にいた「長官の命令だ。戻ってくれ。それにそこはチーフの許可がないと─」
  「来るな!」 
  ジョーはとっさにブレザの内ポケットからワルサーを抜き出し、神宮寺達に向けた。
  「ジョー!?」男達が驚き声をあげる「何をするんだ!」
  「来るな・・そこから一歩も動くんじゃねえ・・」
  「ジョー」神宮寺だ「お前、自分が何をしているのかわかっているのか」
  「ああ・・よくわかっている」さすがに神宮寺に銃口を向けるのは苦しいらしい。息が荒く、先ほどまで青白かった顔が今は赤い「わかっているが・・頼む、おれに時間をくれ・・」
  「・・・・・」
  一瞬、すがるような眼を向けられ神宮寺が黙る。眉村達も動きを止める。
  ジョーを資料室に入れるな、と鷲尾から直接指令を受けた彼らだったが、初めて見るジョーの様子からしてよほどの事情があるのでは、と思う。このまま彼のやりたいようにやらせてあげたい、とも。
  しかしそれはできない相談だ。神宮寺がスッと息を吸うとゆっくりと歩き出した。
  「・・神宮寺」ジョーの瞳が、絶望を映す。
  彼は右手1本でワルサーを持ち上げ、再び神宮寺に向けた。神宮寺は止まらない。眉村達もゆっくりと動き出す。“ジョーは撃たない”と確信していた。と、突然ジョーは空いていた左手でトレイを叩いた。素早くナンバーを入力する。ドアが開く。横っ跳びで飛び込んだ。
  「しまった!」神宮寺達が駆け寄る。左手をトレイに押し付けたが拒否された「くそォ、内部からロックを掛けられた」
  セキュリティのため、中からロックが掛けられたら外にいる人間はいくらトレイに左手を押しつけてもドアは開かれない。開けるには中の人間にロックを外してもらうか、管理課のセキュリティ用サーバを操作して、直接システムに働きかけるしかないのだ。と、若い伊藤が資料室を飛び出していく。捜査課室から1階の管理課に連絡を
入れるためだ。
  残された男達はただ待つしかなかった。


  第2資料室は資料室全体の三分の一ほどのスペースしかない。それでも保管されている資料は膨大だ。だが年代順に並んでいるので探すのには苦労しない。
  (これだ・・)
  ジョーは“G?572”と書かれた黒いファイルを手に、しばし立ちすくんだ。震える手でファイルを開く。
  “ジュゼッペ・アサクラ夫妻襲撃事件に関する一覧”の文字が見えた。かなり厚い。この中には、事件をまとめた報告書や司法解剖の記録などが収められている。
  さすがに気持ちが震える。見てはいけないと、誰かが頭の中で言っている。目がかすむ─しかしジョーはそんな弱い気持ちを振り払った。このファイルを見るためにジョーは鷲尾の命令に、やさしさに背き、神宮寺に銃を向けた。もう戻れない─。
  ジョーは心を決めるとファイルを繰り始めた。神宮寺達によってドアが開けられるのは時間の問題だ。急がなければ・・・。
  ファイルの冒頭は事件の経過が詳しく綴られていた。これはジョーの証言によって書かれたものなので、彼の記憶とも合う。最後の方だけ少し読んだ。 
  アサクラ夫妻を撃ったあとカルディは廊下のジョーに気がついた。ジョーは玄関の方に逃げる。弾けるような音が響き、ジョーの腕に痛みが走った。しかし彼は止まらず、そのまま玄関から庭へ走り出た。
  夜の暗さと木々が小さなジョーの体を隠してくれた。ジョーを追って庭に出たカルディだったが、結局彼を見つける事は出来ずもう1度屋内に戻った。その時ワルサーを落としたのか捨てて行ったものと思われる。弾倉がカラになったワルサーは玄関のすぐそばで見つかった。
  そう、両親ばかりではなく自分を撃ったのも父のワルサーだった事をジョーは改めて確認した。と、備考欄に一言“セキュリティの一部に不備あり”と書かれているのを見つける。なんだろう、と思ったが次のページに“司法解剖による検視書”という記述を見つけそちらに気が移る。
  検視書は20以上の項目に分かれ、一項一項細かい記入が成されていた。解剖の手順から摘出されたもの1つ1つのデータ。それによる医師の所見などなど・・。
  ジョーはそれらをただのデータとして読んだ。両親のものだと意識したらとても読めないかもしれない。それくらい正確に無機質に書かれていた。
  彼は、自分は冷静に文字を追っていると思っていた。が、その反面自分の心臓の鼓動が段々と大きく、早くなってくるのも気が付いていた。
  まるでふいごのように自分の全身に血液を・・いや何か熱く重いものを送り出している。これ以上続けば自分は爆発してしまうかもしれない!─が、その寸前で彼は行き着いた。両親の命を奪った凶器のデータに─。
  目の前を光が飛ぶ。だが眩む両目をしっかりと見開き、ジョーはデータを読んだ。
  “9mmパラベラム弾。弾丸一致、銃溝一致、登録番号2012、アサクラ氏本人のワルサーP38コマーシャルと断定”

   ジョーが崩れるように床に膝をつく。ファイルが手から滑り落ち、外れてバラけた。無意識に目が行く。その中には両親の体のどこに着弾したか、またその状態まで細かく書かれているものもあった。父が5発、母が2発、そして自分に1発・・・。カルディのあの腕なら1発で仕留める事もできただろうに。
  (じわじわと苦しめて・・奴は・・)
  ジョーは唇を噛みしめ、放りっぱなしにしたままだったワルサーを手に取った。両手で握る。
  ジョーが握っているこのグリップを、カルディもまた握っていた。そして銃口を父に母に向けて─。そんな銃をジョーは4年間も父に形見として、いや父そのものとして大切にしてきた。辛い時苦しい時迷った時・・このワルサーを握り耐えたのだ。グリップに残る父のぬくもりを感じながら・・・。
  だがそれは違っていた。グリップに残っていたものは─。
  「あああああー!」
  ジョーはワルサーを握りしめ、両手を大きく振りかぶった。


  ピピピ・・・。軽い金属音が響く。
  「開くぞ」眉村が言った。目の前のドアがスライドし始めた。─と突然、ドアの向こうからバンッ!と破裂音が響いてきた。
  「ジョー!?」眉村を押しのけ、神宮寺が飛びこむ。
  その彼の目には、両手を真っ赤に染め床に倒れているジョーの姿が映った。

 

 

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Comment

淳 says... "覚書き"
1巻(1~5)完成。資料室の事までになってしまった。
まだ書ける。また書ける。それにしても・・・。
以前書いていた時、「書いた事が本当に起こる」現象がよくあった。
怖くてあまり危険な話は書き難いし、友人からも「書くな」と言われていた。
今回はカナダでテロリストが捕まったという事だけ。
しかし!
1巻を書き上げて翌日のお弁当のお米をセットしてコンセントを入れたとたん「青い光が目の前で散って─」炊飯器がおシャカになった!
だ、誰のたたりだ!?
メールでKさんが「淳らしい」と言ってたが、悪いのは私!?
2010.12.22 16:59 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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