コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Breaking the habit 7

「福田英二─防衛省のお偉いさんだ。名前くらい知っているだろう」大川がジョーの前に写真を放った。年配の、厳つい顔の男が写っていた。「近頃テロや過激派に対しての対応が厳しくなってね。皆こいつが後ろで糸を引いている。目障りだ」
「・・・・・」
 ジョーは写真に目を落とし、再び大川を見た。
 昨夜は一睡もできずぼうっとして過ごした。頭に浮かんでくる事をそのまま放っておいたらかえってラクになった。
「こいつが朝霧高原のゴルフクラブに来る。そこでちょっと君に手伝ってもらいたいんだ」大川は内山に持ってこさせた地図を広げた。三神は少し離れた所で彼らの話を聞いていた。「この辺で福田にこっちの車に移ってもらう。君にはその車を運転してもらいたい」
「バカな事を言うな」大川を睨めつける。「おれがそんな手伝いをするはずないだろ」
「君の相棒が吹っ飛ぶよ」大川がジョーの左手首のブレスレットを指差した。「互いに電波で繋がっている機能は解除したが、こいつはリモートコントロールで爆破させる事もできるんだ。もちろん君のもね。この部屋くらいは軽く吹っ飛ぶよ。相棒も君も─」
「やってみろよ」ニヤリと口元を歪めジョーが笑う。「スイッチを入れる寸前にあんたに抱きついてやるぜ」
 今だ関がブレスレットをつけていたとしても彼の向かった先はJBだ。もうとっくに外されているだろう。そう、ジョーは確信している。
「公安にはもったいないバカだな」大川が感心と呆れと半々のようなため息をついた。「だがな、もっとおもしろいショーがある。スケボー爆弾を知ってるだろう。実は今日東京でスケボーの大会があってね。その予備のスケボーの中に爆弾付きを紛れ込ませてある」
「なんだとっ」
「そのスケボーが勝手に走りまわって爆発したら、さぞ大騒ぎになるだろうな」
「・・・・・」
 ギリ・・・とジョーが唇を噛む。
 奴らの言っている事が本当だという確信はないが、現実となる可能性が少しでもあればそれを防ぐのはジョーの仕事だ。
「試しに2、3台爆発させてみるか。今はまだ会場に運ばれる途中だろうが」
「ま、待て」ジョーの声に大川がゆっくりとこちらに振り向いた。「運転するだけで、いいのか」
「そうだ」大川が満足そうな笑みを浮かべる。「素直なバカでお互いよかったぜ」
「大川さん」三神だ。「こんな奴にやらせなくても、あんたの所のドライバーに任せた方が─」
「いざという時、あいつを盾にすればいいさ」
 大川は自分の考えを通すつもりだ。三神は密かに舌を打ちジョーの胸倉をグッと掴んだ。片手を喉元に押し当てる。
「変なマネしてみろ。今度こそ─」
 喉元をグッと締めてくる。ジョーは一瞬顔をしかめたが、
「こんな事をして弟が喜んでいると思うか。あいつが何を言いたかったのか、あんたならわか─」
「黙れ!」三神の手がジョーの頬をバシッ!と叩いた。「こいつ、今ここで─」
「いい加減にしろ、三神。おれの言う事が聞けないなら、おれは手を引くぜ」
 大川の言葉に三神は悔しそうにジョーを睨んだ。が、掴んでいた手を離す。
 ジョーが口元に指を滑らせた。口の中に血の味が広がる。気のせいか今日はとても苦い。
「お前も余計な事は言うな」内山が楽しそうにジョーを見る。「樹海に捨てれらるぞ」
「今、捨ててほしいね」
 負けじと言うジョーに内山は肩をすくめた。が
「なんだか昨日と顔つきが違うな。どうしたんだ?」
 と、内山が訊いてくるもジョーは顔を背けた。
 辛い記憶は消えてくれない。ならば後はそれを放置するか、どこかへ押しこめるしかない。だがジョーにはどちらかを選ぶ事ができない。
 真正面から立ち向かうには今のジョーには辛すぎた。

「富士吉田署警務課の倉本です」
 40才くらいのやせ型の男が頭を下げた。
「公安3課の関です」
 こちらは4人のうち関だけが名乗った。が、倉本は何も言わなかった。山梨県警の本部長から何も訊かず彼らに協力するよう言われている。
「今、樹海に入る準備をさせていますのでその前に」
 と、ガサガサと地図を広げた。それは西湖から南─青木ヶ原樹海周辺のものだ。
「青木ヶ原樹海というと入ったら最後、迷って出てこられないイメージがありますが、ご覧のように国道も遊歩道も通っています。また野鳥の森公園や風穴などの観光施設もあります。ですから普段人が入らない所はほんのわずかな範囲なんです。ただそこがかなりの難所でして─。ハイキングコース以外は原生林に囲まれ足元が不安定で、真っ直ぐ歩いているつもりがいつの間にか曲がってしまい、とんでもない所へ行ってしまいます。あちこちに穴が開いていて、落ちたらどこまで下るかわかりません。場所によっては方位磁石がグルグル回り、北を指してくれません。夜は1時間に300mも進めないでしょう」と、白いヒモを手にした。「ですから我々も入口にひもを結んでその先っぽを持って入ります。もちろん1人では無理で、チームを組む必要があるのですが─」
「今回は最少人数で。できればこの4人と案内の方1人か2人で」
「そう聞いています。大変危険ですが」
「大方の場所は目星がついています。ここの」関が地図の一点を指差した。機密書類を持ってくるよう言われた、待ち合わせ地点だ。「ここから北へ徒歩なら10分くらい、もし車が使えたら1、2分だと思います」
「北側は車道はありませんね。歩きで半径10分くらいですか・・・」地図を見て倉本が唸る。「樹海の中心近くですね。こんな所に建物があったかな・・」
「とにかく我々は現地へ行きます。そちらが入れないと言うなら我々だけで─」
「い、いえ、それはだめです」
 倉本はあわてて関を見、他の3人にも眼を向けた。関以外は皆若く、どう見ても20才(ハタチ)そこそこだ。先程から一言も口をきかないが、いったい・・・。と、“倉本さん!”と呼ばれハッとする。
「わ、わかりました。捜査課から何回も樹海に入っている職員を同行させます。おそらくご期待に添えるでしょう」
「勝手を申してすみません」
 関が頭を下げ、若い3人もそれにならった。
「ただし、何かトラブルが発生した場合は必ず職員の指示に従ってもらいます。これだけは約束してください。あなた方を無事東京に帰すのも我々の仕事です」
 温和そうに見えた倉本の顔が厳しいものに変わる。樹海の怖さを知っている者の貌だ。
 関達は頷くしかなかった。

「よし、その先で止めろ。連絡は来るまで待機だ」
 ジョーは、隣に座っている内山の言う位置で車を止めた。国道139号に通じる細い山道だ。車の往来はほとんどない。
 ジョーはエンジンを切りステアリングを握ったまま、真っ直ぐ前に目を向けている。車内には内山とジョーの2人しかいない。後部席には後で三神達が福田を連れて乗り込む予定だ。
「だけどお前が引き受けるとは思わなかったな。警察に知れたらそれこそまずいだろ?」
「・・・・・」
 まずいどころではない。防衛省から森にどんな文句が入るか想像がつかない。
 もちろんジョーは本気でこの拉致に関わるつもりはない。だがこうなっては、彼に出来る事はただ1つ。こいつらの邪魔をして、相手に逃げてもらう事だ。
「あんた、いいパンチしてるな」ジョーは内山の質問には答えず関係ない事を訊いた。「ボクシングでもやっていたのか」
「K1の選手を目指していたんだよ。3年前にやめたけど。だから力には自信がある」
「怪我でもしたのか?それで自暴的になってこんな事を─」ガツッ!と左腕が掴まれた。ステアリングから離され曲げられる。「く・・・」
「言ったろ?力には自信があるって」両眼をギラリと光らせ内山がジョーを見る。「余計な事言ってねえで前でも見てろっ」
 バンッと腕をステアリングに叩きつけられた。
「色男じゃねえんだな」
 わざとらしく左腕をさすりながらジョーが呟いた。確かに力は強いが大丈夫。これくらいなら充分対抗できると思った。
 さっきまで冴えなかった気分が車のシートに着きステアリングを握ったとたん、まるで霧が晴れるように気分が鮮明になる。自分が今すべき事を明確に自覚する。我れながら単純な奴だと思った。
(おれにステアリングを握らせた事を後悔させてやる)
 フツフツとジョーの闘志が盛り上がる。だが万が一の場合は─。左手首にはまるブレスレットを見て覚悟を新たにする。
「行くぞ」
 無線機で話していた内山が命令した。ジョーはエンジンを掛け山道から139号に車を出した。
 2人が乗っているのはトヨタのRAV4、4WDのSUV車だ。2400CCのエンジンを積み山道も軽快に走り抜ける。カースタントには向かないが、相手の車に体当たりされてもビクともしないボディを持っている。
「あの黒い車を止めるんだ」
 前方から対向車線をこちらに向かってくる車─黒いフーガの後ろには、三神や岡田達が乗るランサーが見える。さらにその後ろから追いかけてくるのはフーガの護衛車か。
 ジョーはRAV4を対向車線に移した。フーガのスピードが落ちる。ステアリングを切りフーガの進路を塞ぐようRAV4を横に向けた。
 しかし完全には車線を塞がなかったので、フーガはRAV4の後部に車体を当て少しふらつきながらも突破した。その後ろをランサーと護衛車のアコードが追いかけていく。
「なにしてる!」内山がジョーの髪を掴んだ。「お前、わざとだろう!」
「放せ!」
 ジョーが内山の手を弾き車をバックさせ3車を追い北上する。あっという間にアコードに追いついた。
 だがアコードは後ろに迫るRAV4には目もくれず、前を行くランサーに並ぼうとしている。体当たりして路肩に排除するつもりだろう。が、突然アコードがバンッ!と跳ねた。左の車輪が前後とも持ち上がり、片輪のまま左右に車体が滑って行く。そしてガードレールが途切れた一角に突っ込んだ。
 一瞬、空(くう)を飛び、すぐ下の草地に落ち止まった。どうやら先行するランサーから爆発物が投げられたようだ。
 ジョーはアコードにチラッと目をやる。乗っていた3人の男達が車外に出てきた。怪我はないようだ。しかしあの車はもう動かないだろう。目標のフーガは盾を失った。
 ランサーが後ろのRAV4とフーガを挟み撃ちにしようとフーガの前に出ようとしている。運転しているのは大川の組織の男らしくなかなかの腕前だ。対向車を避けながらフーガを追い抜いた。前にピタリとつける。
「詰めろ!」
 内山がジョーの左足を蹴った。
 ジョーはスピードを上げフーガに迫る。後部席に1人座る男が防衛省の─。このままではフーガは止められ福田に危害が及ぶ。
(仕方ねえっ)
 ジョーがRAV4をフーガのリアに突っ込ませた。
 たとえ脅されても、都内でスケボー爆弾を爆破させると言われても、今目の前にある危機を見過ごす事はできない。どちらも人の命が掛かった苦しい選択なのだが─。
 かなりのスピードでリアに当てられたフーガは、車体を大きく歪ませた。
 ジョーは今度はRAV4のフロントをフーガのリアにつけ─アクセルを踏み込み、ステアリングを左に切る。
 その勢いでフーガが反対車線に押し出され路肩に飛び出した。
 ジョーは素早くステアリングを右に切り返し、挟み撃ちにしようとスピードを落としていたランサーを巻き込んで路上をスピンした。
「うわァァ!」
 ジョーはブレスレットのはまった左腕をダッシュボードに振り下ろした。
「やめろ!」
 ダッシュボードに打ちつける寸前、内山がジョーの左腕を掴んだ。自分の方に引っ張る。ステアリングが左に回った。RAV4はランサーから離れ、ガードレールを突っ切った。
「内山!」
 路上のランサーから三神と岡田が降りてきた。ガードレールの向こうは草地だったのでRAV4のダメージは少なくて済んだ。
 横倒しになった車体から内山が出て、次にジョーを引っ張り出した。そのまま草地に放り出す。
「こいつ、やっぱり!」三神がジョーを蹴り上げた。ゴロッと転がり俯せになる。「こいつがわざと奴らを逃がしたんだ!だからおれは─!」
 再び蹴られたがジョーは抵抗しなかった。と、三神が銃を向けた。
「み、三神さん」内山が止めた。「こいつは生かして連れて帰るよう大川から言われています。それに─」
 ふと遠くに目を向けた。かすかにパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「とにかくここを離れましょう」
 内山はジョーの腕を取り自分の肩に回した。引きずるように路上まで登る。
 ふとジョーが目を開けた。かすかに頭を動かし周りを見る。フーガの姿はどこにも見えない。
 ジョーはフッと息をついた。

「ジョー!」薄暗い廊下を関が走る。「どこにいるんだ!ジョー!」
「関さん!」前方から神宮寺が叫んだ。「どこにも、誰もいません」
「くそォ、いったいどうなってるんだ」
 関が唸る。
 樹海に入って3時間後に、彼らは関が連れてこられたアジトを見つけた。小さなコンクリートの建物だった。何かの廃墟というより奴らがアジトとして建てたものらしい。が、中には人1人いなかった。
「どこかへ移ったんでしょうか。それとも─」“神宮寺!”と一平が呼んだ。彼に続いてベッドとソファだけが置かれている部屋に入った。と、「これは・・・」
「ジョー・・・」一平の手にした切れ端を見て関が絶句する。ジョーが着ていたシャツだ。ボロボロに破かれ、ナイフか何かで切り裂かれた痕も見える。「まさか・・・」
「関さん・・・」
 一瞬、神宮寺が悲痛な貌を向けてきた。が、すぐに気を取り直し富士吉田署の署長に鑑識を呼ぶよう頼んだ。ここは無線が通じる。と、リンクが鳴った。
「はい」
 神宮寺の周りに関や一平、洸が集まった。
『今、警察庁から連絡があって、朝霧高原を走行中の防衛省福田参事官の車が何者かに襲撃を受けたそうだ』
「朝霧高原?近いですね」
『幸い福田参事官も護衛の者も無事だ。だが参事官の車に乗っていたSPが妙な事を言っている。襲撃車のうち1台の車は、こちらを逃がす行動をとっていたらしい』
「相手の連携がうまくいってなかったのでは?」
『うん・・。しかしその車を運転していたのは外国人の若い男だというんだ』
「外国人?それってまさか─」ジョーだ、と洸が呟くのが聞こえた。が、「たとえ脅されてもジョーがそんな事に協力するとは思えません。ただの偶然です」
「いや、もし彼がまだおれの手にブレスレットがはまったままだと思っていたら」関が辛そうに呟く。「それを爆発させると脅かされたら─」
 後の3人は思わず顔を見合わせた。
「一刻も早くジョーを見つけるんだ。あのブレスレットは奴らの切り札だが、同時にジョーの切り札にもなる。ジョーが自ら爆発させる事もできる」
「せ、関さんっ」
 関の言葉に神宮寺達は戦慄し立ちつくした。


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