コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

海は広いな 騒がしいな 2

「あと5キロで厚木インターだよ」
「くそォ、大井松田まで行って引き返して40分のロスか。800円損した。何もまた厚木まで戻らなくたってそのまま行っちまえばいいのに」
「でももし待っててくれてたらどうするのさ。心配してると思うよ、きっと」
「どーだかね!」ジョーがハンドルをバンと叩いた。「向こうにはチーフと一平がいる。きっと今頃おもしろがって出発している事だろうよ」
「ぼくのコンビを信じないつもり!」洸が大声を上げた。「ぼく達は何よりも仲間を第一と考える。特にコンビの相手は自分自身なんだぜ!」
「だからこそだよ。もしこれがおれだったら相手の事を考えスリルを与えるな」
「それが無敵のダブルJといわれる者の言い草!」
「カンケーねェだろ!」
「まあまあ」後席に1人悠々と座りたばこを吹かしている鷲尾が片手間に2人を制した。「大丈夫、きっと待ってるよ。なによりも私がいるのだからね」
 彼は落ちつききっている。さすがは最高司令長官といわれるだけはある。
(が、JBの本性を知らないのが運の尽きだな)
 バックミラーに映る鷲尾の顔を見ながらジョーは気の毒そうに思った。
「ジョー、出口まであと0,3キロだよ。今度こそ出てよ」
「わかってるよ」
 が、彼はスピードを落とそうとはしない。そのままのスピードで標識の横をクッと曲がった。そこからグルリと回ってインターの出口に出る。料金所は目の前だ。
「やったァ!バンザ?イ!」
 洸が思わず両手を上げた。と、同時にゴキッという音がした。
「アホやってねえでチーフ達の車を捜せよ」
「あ、そうだった。ええ・・と・・」
 遠くまで見回すには遠視の洸の目が1番いい。が、彼のその目にも茶色のクラウンやすみれ色したコロナマーク?は映らなかった。
「・・・・・」
「思った通りだぜ」
 ジョーが呟いた。洸は思わず彼を見た。が、もちろん何も言えるはずはない。ただ口を開かず目だけが見開いている。
 しかしもっと驚いているのは、さっきまで悠々とたばこをくゆらせていた後席の鷲尾だ.
 彼は信じていた。自分がこちらにいる以上、当然待っていてくれるものと思っていた。が、その信頼は見事に裏切られたのだ。
それも世界各支部のうち、1番繋がりの深く親しい─それもつい4年ほど前までは鷲尾が支部長をしていた所にだ。
 彼の頭の中ではJBに対する信頼や愛情がガラガラと音を立てて崩れて行った。
 そんな鷲尾の様子を見てジョーはハァとため息をついた。秘密警察の長官ともあろう者が、世界に名高い(?)JBの実態を知らなかったのが悪いと言えば悪い。が、それを言うには今の鷲尾にはあまりにも可愛そすぎる。
 それにもしヘソを曲げて、“帰る”などと言われてはたまらない。ジョーはわざと明るい声を出した。
「だけど大丈夫だよ。地図があるんだし、それにただ繋がって行くより地図だけを頼りに行った方がおもしろいじゃないか。なっ、洸」
「天は我れを見放したァァ??」
 両手を差しのべ洸が格好つけた。
「し・・死の行進だったのだ・・・」
「長官まで、も?!」ジョーは横の洸の頭をぶっ叩くと、地図を彼の顔面にベシャッと貼り付けた。「しっかりナビ頼むぜ。この若さで路頭に迷うのは真っ平だからな」
「ぼくだってイヤだ。ジョーより若いんだもの」
「・・・すると私のような年寄りならいいのかね・・」
 背後から呪いに満ちた声がした。
「しゅぱ?つ!」
 これ以上くっちゃべっていたらいつまでも出発できない。ジョーは強引に車を246に乗せた。
 時計は4時5分を差していた。

「ほォ、ホテルや旅館ばっかりだな」
「熱海に出たんだ」地図から目を放し風間が言った。「ここまで来ればもう後はラクだな。このまま135を南下すりゃイヤでも下田に出る」
「もっとも我々は下田までは行かんがな」
 榊原がたばこに火を点けた。煙が車内に漂う。それが窓から流れ込む涼しい風に吹かれ、反対の窓から外へ流れ出た。
「それはそうと・・。ジョー達は大丈夫かなァ」神宮寺が呟いた。「まったく抜け目がないようでどこかしら抜けてるんだからな、あの2人─」
「その2人を同じ車にした君もだよ」

 風間の言葉に神宮寺は思わず絶句した。当たってるだけに一言もない。
「それより私は森チーフにあんな決断力と冷たさがあるとは思わなんだ」榊原がしみじみと言う。「今頃長官もびっくりしている事だろうて」
「見たかった!そんな長官の顔」
「そんなチーフの下で働いているのかと思うと、今さらながら恐ろしくなってくる・・・」その時ふいに神宮寺の腕時計が鳴り出した。2人は思わずビクッとした。「・・・聞こえたかな」
 神宮寺は恐る恐るリューズの上のツマミを押した。
 この時計は言うまでもなくSメンバー専用の通信機になっている。型はそれぞれの趣味によって違うが、この波長が使えるのはチーフ、サブチーフ、Sメンバーだけである。
 ツマミが押されるとそのすぐ上から小さなアンテナが飛び出した。
「神宮寺です」
『私だ』案の定、声の主は森チーフだ。『ここら辺で少し休憩していこうじゃないか。どこか適当なドライブインでもあったら着けてくれないか』
「了解」
 神宮寺は通信機を切るとハァと息をついた。

「いーかげんにしろよ!さっきから何回やったら気が済むんだ」
「あと1回!もう少しで1万点いくんだから!」
 洸は必死でテーブルにかじりついている。
「まったく、ピコンピコンポヨヨヨヨヨーンって・・・まずい所で休憩しちゃったな」
「うーさいな!自分ができないからって人に当たる事ないだろ!」
「そーかい!それならいつまでもそこにいろ。おれ達は先に行くからな。お前は歩いて来い」
 そう言うとジョーは3人分の伝票を洸に叩きつけ出口の方へ行ってしまった。
「へっ!そんな事ぐらいで驚くような洸様じゃありませんよ!ほれ、9千5百、もう少しだ。UFO出ろ、UFO・・・大丈夫、長官まだいるんだもん。いくらジョーでも長官を置いてはいかれま─いっ!」
 洸が声を上げ、と同時に戦車がぶっ壊された。しかし声を上げたのはそのせいではない。見ると鷲尾も席を立ちジョーの後ろを追っていくではないか。
「うひゃあ!」
 まだ一機残っている戦車やインベーダー共をほっぽり出し、洸はあわてて外へと飛び出した。
 彼らは今やっと熱海市を抜けたところだった。先行の2台とあまり大差がないのは朝早いので道が空いていたせいもあるが、大半は平均時速120キロで突っ走って来たおかげである。
 途中湯河原辺りで道路わきに停まっていたパトカーを見つけ、あわてて速度を落とした。が、パトカーはサイレンを鳴らし追ってくる。一同ドキッとしたが、それは彼らの前を走る追い越し車を追って行ってしまった。
「この分なら伊東辺りで彼らに追いつくかもしれんな」
「そうですね。向こうもどこかで1回くらい休憩しているだろうし」
 鷲尾の言葉に答えたジョーだが心の中ではそんな事ないように、と思っている自分に気が付いた。
「ねぇっ」ふいに洸が声を上げた。「あそこに停まってるマーク?、そうじゃないの」
 2人は反射的にその方を見た。なるほど確かにスミレ色したコロナマーク?が1台、小さなドライブインの所に停まっている。その少し向こうには車種はわからないが茶色っぽい車も見える。
「どうやら・・追いついたようだな」
「チェッ、つまンないの!」
 洸が地図をほっぽり出し舌を打った。
「少し早く走らせ過ぎちまったようだな」ジョーもガッカリしたように言う。が、ハンドルは放り出さなかった。「しかしよ、考えてみれば頭くるよな。仲間を第一に考える我々が、よりによってその仲間を置いてきぼりにしちまうなんてさ。悔しいから止まらないでよ、このまま先に行っちまおうぜ。クラクション鳴らして手を振って、ヘーゼンと通り過ぎてやるのさ」
「さ?んせ、さんせっ!そうでもしなきゃとても収まんないよ」
「長官・・は訊くまでもないな。そおれ、行くぞォ!」
 ジョーはギアを跳ね上げ♪ファンファファンファファ?ンと高らかにクラクションを鳴り響かせた。マーク?のそばにいた2、3人の男が驚いて振り返る。
「今だ!叫べ!わめけ!なじれ!」
もしもしかめよ?、かめさんよ?ンなろ、置いて行きやがって!後から泣きながら付いてこい!」
「お前ら、帰ったら軍法会議だぞ!私自らとっちめてやる!」
「てめえら、覚えてろ!全員ワルサーのターゲットにしてやる!」
 叫んでしまってからジョーはハッと口を閉じた。が、それは何も彼だけではない。洸も鷲尾も、マーク?目掛けて怒鳴ってしまってから気が付いたのだ。
 彼らが罵声を浴びせた相手は、同じスミレ色のマーク2でもチーフや西崎達よりずうっと年配の一行だったのだ。
 3人はあわててそっぽを向いた。だが飛び出した言葉を回収する事はできない。ジョーは一気にスピードを150に上げ、ポカンとしている彼らの前を風のごとく突っ走り抜けた。
「あー驚いた。洸の目もアテにならねえな」
「ぼくは何もそうだとは言ってないよ。勝手に早合点したのは長官さ」
「私に責任を押し付けるつもりかっ。軍法会議の必要もない」
(軍法会議なんてあったかな・・)
 そう思ったもののジョーはあえて訊こうとはしなかった。
「何にしろ元を糺せば悪いのは我々を置いてきぼりにしたチーフ達さ。飛ばせジョー!あとは一直線、その力の限りセリカXXを飛ばすのだ!」
 隣でわめく洸にジョーは息をつくと、一気に160キロに上げた。
 こうして置いてきぼりを食った3人が下田の少し手前の須崎に着いたのは6時半を少し回った頃だった。
 海はすぐ目の前で、なるほど民宿ばかりだ。しかし海といっても小さな漁港なので海水浴ができそうな場所はない。
「泳ぐにはもう少し奥の方へ行かなきゃな。だが海は綺麗だろう」
「あーー!!」
「ど、どうした、洸」
 車を駐車場に停め戻ってきたジョーに洸の大声が襲い掛かった。
「そうだよ、忘れてた。オベントオベント。確かミスターの車に積んであるはず」
「・・そう言われれば・・。あいつらもう民宿に入っているだろうな」
「どこどこ、民宿どこ」
 洸の首が毎秒10回転した。
「あそこだ」
「ひえ??!!
 鷲尾の指差す方を見た2人は思わず声を上げた。なんとその民宿は百何段という石の階段を登った山の上にあるのだ。そしてその階段と言うのは、どう見ても45度はある。2人でなくたって声を上げたくなるだろう。
「いい若い者がなんちゅー声出すんだ。途中でへたばったら今年のボーナスはなしだ」
「ボーナスなんかないくせに・・」
 洸が呟いた。が、いくらぼやいたところで民宿は下に降りてきてはくれない。
 仕方なく2人は鷲尾の後に続いて石の階段を登り始めた。

「暑い時に熱いお茶っていうのもまたいいもんだね」
「ヘェ、やけに日本人っぽい事言うじゃないの、一平」
「おれは日本人だぜ。ミスターの方こそ日本人なのにミスターなんてヘンだよ」
「名は体を表すさ」
 神宮寺が格好つけ、一平がハデに吹き出した。
「その名にはな、一平。由来があるんだよ」2人の話が聞こえたのだろう。まだ半分ほど残っているお弁当を抱えたまま森が振り返った。「あれはいつの事だったかねえ。ある事件で彼は小さなミスをした。つまりミスったのだ。あれ以来彼は仲間から、?ミスった、ミスった?と呼ばれ、いつしかそれが訛って?ミスター?と─」
「チーフ!」
 神宮寺が大声を上げ、森はひっくり返って爆笑した。
「なんだ、おれ本気で聞いてたのに」
「チーフの言葉が信用できるのはJBにいる時だけさ」
 風間が口を出し森に小突かれた。
 朝早くに民宿に到着して先行組は一室を借り、朝食代わりのお弁当を食べているのだ。と、そこへこの民宿の人が声を掛け静かにふすまを開けた。
「あ、今年もまたお世話になります」
 何度か来ている森がさっそくあいさつした。
「こちらこそよろしく。ところで東京から荷物が届いているんですが」
「荷物?」森と一平が同時に声を上げた。「東京からですか」
「ええ、?ひびきあきらさん?って方、こちらの方でしたね」
「洸君の」榊原がアゴを撫で眉をしかめた。「こりゃ覚悟がいるな」
「とにかく行ってみよう。ついでに風呂に入りたい者は用意して行くといい」
 森に続いて皆腰を上げた。
 階段を降り玄関を出ると、なるほど真ん前に大きな荷物がドサッと置かれてある。宛名は確かに洸だが発送人は彼らの知らない名前だった。
「・・なんだろうね、これは・・・」
 皆その周りを囲んでジロジロ眺めた。
「洸が来ればわかるが─洸」
 西崎の声に皆振り向いた。と、そこにはやっと階段を登り終え真っ赤な顔で喘いでいる洸の姿が目に入った。続いて鷲尾、ラストがジョーである。
 3人はようやく登り切り、ハーと息をついたところに自分達を置いてきぼりにした6人が突っ立っているのにびっくりして思わず指を指し、わなわなと震えている。
 6人は殺気を感じたのかタジッと下がった。互いの視線が空中で絡みバチッと火花が散る。しばしの沈黙が生じた。
「あー!」突然の素っ頓狂な声に緊張の糸がプツリと切れ一同はドドッとコケた。声の主は他ならぬ洸だった。彼はその大きな荷物を見るや否やそれに突進した。「わ?、来?たよ、来たよ。今年の夏はなんと言ってもこれさ!」
「洸君、なんなんだね、これは」
「ウインドサーフィンの一式ですよ」
「ウインドサーフィン!」
 一同思わず声を揃えた。
「友達に長距離トラックのバイトをしてるのがいてね、ちょうど今日朝早くにこの近くを通るって言うから頼んじゃった。こんな大きなのワゴンに入らないもんね」
「ウインドサーフィンか」一平が荷物に手を掛け微笑んだ。「今、流行ってるもんな。おれも1度やってみたいと思ってたんだ」
「ダーメ!ぼく1人でやるの!」
「冷たいな!それがコンビに対する言葉!」
「なに言ってるんだい。コンビのぼくを置いてっちゃったくせに!」
「まあまあ」睨みあう2人の間に森が割って入った。「ケンカは後でゆっくりやるとして、今からお午後(ひる)頃まで少し寝よう。そしてそれから海へレッツゴーだ」
「さ?んせ!」
「そうしましょ、そうしましょ」
 いくら若い彼らでも眠い時はやはり眠い。皆背伸びやあくびをしながら宿へ上がって行った。
「さあ、君達2人も来たまえ。少しでも休んでおかないと後もたんぞ」
「ざまみろ一平。ウインドサーフィンはぼく1人の物!海辺のスター!」
「あ、そうだ、洸」行きかけて森が振り向いた。「ここへ来る前に見たと思うが、ここら辺の海はほとんど漁港でな。泳ぐには少し先へ行かなけりゃならない。そうだな・・・山道を20分くらい歩くかな・・」
「やま─!」
「そんなわけだから、ま、せいぜい頑張ってくれたまえ」
 それだけ言うと森はさっさと行ってしまった。その後に笑いを押さえた一平が続く。
 洸はため息も出なかった。


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