コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Breaking the habit 8

「だから言ったんだ。あんな奴にやらせるな、と。おかげで拉致は失敗だ」
「こっちに引っ張り込めればいい戦力になると思ったんだが」三神達の報告を聞き、大川は渋い顔で唸った。「公安の内部を知っている奴がいると有利になるし」
「しかしあいつは危険です」内山の言葉に皆が彼を見る。「おれ達の動きを阻止するために自分でブレスレットを壊そうとした。簡単にこっちに引き込めるとは思えない」
「─仕方がないか」
 大川が自分の部下に合図する。2、3人まとまって出て行った。
「実はあっち(アジト)に警察の手が入ったらしい。関とやらがタレ込んだんだろうな。おそらく機密書類も持ってこないだろう」
 くそォ、と内山が毒づいた。
「甘くはないねェ、日本の警察も─」
 と、先程出て行った部下がジョーを連れてきた。
 銃を向けているはずなのに、なぜか部下達がビクビクしている。
 反対に、銃口を向けられているジョーは相変わらず不遜にも見える態度で大川達の前に立った。
 枯葉色の髪は乱れ痩せて頬やアゴの肉が落ちているが、それがかえって鋭利な刃物のような印象を見せる。前髪の間から突き刺すようなブルーグレイの瞳も、傷だらけの身体から湧き立つ闘志も少しも萎えてはいない。
 大川達は一瞬言葉を失ってジョーを見つめる。が、
「惜しいな・・・」と呟いて、「これが最後だ。おれ達に協力する気はないか。お前ならすぐ幹部になれる」
 だがジョーの表情は動かない。静かな褪めた眼で大川を見る。
「その眼は何か大きな事をやる眼だ。日本の警察ではその力を発揮できない。もっと大きな組織の中でこそ、その眼は活かされる」
 ジョーの体がビクッと震えた。かすかに目を伏せたがすぐに顔を上げる。ゆっくりと男達を見回し、そして
「無駄だ。あんたらの仲間になる気はない」三神に目を向ける。「あいつはもっと生きたかったろうに。罪を償ってやり直す事もできたのに、あいつは死を選んだ」
「お前が追いやったんだろ!」
「根っからの悪党じゃなかった。だから自分で自分を裁いてしまった。死ぬ事なんてなかったのに。あいつがどうしてあんた宛てに遺書を残したのか、わからないのか?」
「黙れ!」三神は部下の一人が持っていた木刀を取り上げジョーに振り下ろした。「お、お前が殺したんだろ!お前が─!」
 木刀がジョーの肩を、胸を打ち据える。足を払ってその場に倒した。上半身を起こしたジョーにさらに木刀が襲いかかる。
 だがジョーは避けなかった。床から真っ直ぐに三神を見上げる。その目が三神の怒りにさらに火をつける。頬を思いっきり打ち払われ血が飛び散った。
「三神さん!」
 内山が叫び、一瞬三神の動きが止まった。すかさずジョーが跳んだ。木刀の切っ先を掴み、横で茫然と見ていた若い男の拳銃を蹴り上げキャッチした。木刀を引いて三神を捕まえる。首に腕を回し頭に銃を突きつけた。
「動くな!」
 一瞬の出来事だった。誰もその場を動けなかった。顔も体もボロボロの男がこうまで動けるとは思っていなかった。
「スケボーやブレスレットの起爆装置を持ってこい」ジョーは三神の頭にグッと銃口を押し付ける。三神が体を硬くした。「早くしろ!」
「さて、ね」大川がニヤリと笑う。サッと手を振るとその場にいた内山以外の銃を持つ男達がジョーと三神に銃口を向けた。「そいつを撃ったとたん、君の穴だらけだ」
「大川・・・」
 三神と内山が目を見開き呟いた。
「フン・・、なるほどね」ジョーもニヤリと笑い、ドンッと三神を内山の足元に押しやった。そして左手首のブレスレットに銃口を押し付ける。「ショックで爆発するんだろ。その実験、今ここでやってやろうか」
「撃て!」
 大川の合図で男達の指に力が入る─が
「!」
 一瞬早く、ジョーがトリガーを引いた。ギンッ!と金属音が響き、ブレスレットが飛んだ─。
 ジョーにはある考えがあった。
 衝撃を受けると爆発するというが、金属で覆われているブレスレットは火薬と違って衝撃を受けてもすぐに爆発はしないだろう。必ず機械的な処理があるはずだ。それは1秒か2秒の間・・・。
 その無謀でわずかな時間にジョーは賭けた─。
 ジョーの撃った弾丸は彼の手首の肉を削ぎブレスレットを飛ばした。弾丸の発射角度と着弾点とを一瞬に見極めた至上の荒技だ。
 だが彼はそのブレスレットの行方を確かめる事なく入口から飛び出していた。壁で体を隠す。
 バーン!!
 爆発音が響き黒い煙が廊下に吹き出してきた。だが威力はそう大きくはなかったようだ。大川や内山の声が聞こえる。
「チェッ!ホラ吹きやがって」
 ジョーはすぐさま立ち上がり駆け出した。
 今気がついたのだが、ここは今までいたアジトとは違うようだ。だが確かめているひまはない。被害を免れた男達が追ってくる。
 距離があるのに無謀にも撃ってくるのは、こういう状況に慣れていないのかもしれない。と、行く手に男が2人飛び出してきた。
 撃ってきたのでジョーは足を狙い廊下に倒した。さらにもう1人─撃った弾丸がジョーの肩を掠る。が、
「くそォ!」ジョーは応戦したが弾丸が出なかった。「早いぞ!」
 悪舌をつき銃を放る。その勢いで銃口を向けてくる男の腹にタックルした。
 まさか向かってくるとは思わなかったのか、男はあっさりとジョーのタックルを受けた。そのまま背中から壁に激突する。
 ショックで一瞬クラッとしたが、気力を振り絞りまた走り出した。
「逃がすな!」
「あっちだ!」
「出口に回れ!」
 男達の怒号が響く。
 今度捕まったら無事では済まないだろう。と、先が行き止まりになっていた。仕方なく横の階段を上がる。上がりきりすぐの部屋に入った。窓から外へ出るしかない。幸い簡単なクレッセント鍵なのですぐ開いた。と
「スピードマスター?」
 テーブルの上の箱の中に他の色々な物に紛れそれは無造作に入れられていた。が、間違いなくジョーのスピードマスターだ。
 彼はそれをポケットに押し込み窓を大きく開けた。3階だった。だが躊躇う事なく飛び降りた。
 右足で着地したのだが、走り出した瞬間昨日撃たれた左足がズキッと痛んだ。ザッと転倒する。しかしここで歩みを止めるわけにはいかない。
 響き迫る男達の怒声と足音の中、ジョーは一気に樹海へと走り込んだ。

「出ましたよ、関さん」倉本が書類を手に関達の元へやってきた。「アジトから採取した指紋の1つが富士吉田市に本部を置く過激派グループの代表大川泰造のものと一致しました」
 そのグループが公安で言う?B1?なのだろう。ではやはりE3─三神寛之もこの事件に絡んでいるのだろうか。
「これから市内の事務所にガサ入れです」
「もうすぐ約束の2時ですね」神宮寺が言った。「関さんの車は今西崎がこちらに運んでいますが」
 言葉を切り関を窺う。
「おそらく奴らは出ては来ないだろう・・」
 関の言葉に後の3人が頷く。
 奴らはアジトから姿を消した。それが福田参事官襲撃を失敗したためか、それとも他に何かあったのかはわからないが、もう自分達から公安官である関の前に姿を現す事はない。
「だけどもしもという事もある。おれは指定された地点に行きたい。おれが行かなかった事でジョーに危害が及ぶ事だけは避けたい」
「あいつなら大丈夫ですよ」神宮寺が微笑む。ぞして、「関さんは約束の地点へ。一平と洸はここの捜査員に同行してB1の事務所に向かってくれ。そして奴らの行き先を掴んでほしい」
 了解!と各自が動き出す。
「西崎、今どこだ?」
『河口湖ICを降りた所だ』
 リンクから西崎の声が響く。
「関さんが合流する。君がここまで来るのはまずいから関さんに通信機を渡す。これで連絡をとって合流してくれ。君も一緒に約束の地点へ行ってくれ」
 了解、と西崎が快諾した。神宮寺は関に小型の通信機を渡した。
「これはSメンバーはもちろん、西崎や我々の車についている通信機とも繋がります。持って行ってください」
「ありがとう」
 関は通信機を受け取り倉本に車を出してくれるよう頼んだ。

 樹海と言われるだけあって、360度本当に木ばかりだ。
 場所によっては昼間でも薄暗く、太陽がどこにあるのかもわからない。せめて富士山でも見えれば方向がわかるのだが、天を覆い尽くすように伸びている木々に自分の周りしか視界に入れる事ができない。
 ジョーはけもの道らしい、半分草で覆われた細い道に入り込んでいた。
 足元が硬く歩きづらい。あちこちに穴が開いている。それらを避けているうちに自分がどちらから来たのかわからなくなった。
 取り戻したスピードマスターは方位磁石の機能もついているが、針がグルグル回ってしまい役に立たない。通信機もガーとノイズが入ってしまう。
「う・・・」
 とうとうジョーは座り込んでしまった。
 撃たれた左足を庇いながら歩いているので体力の消耗が激しい。体に受けた傷の痛みはないが、左足と傷口が裂けた右腕の銃創は木刀も受けてしまったのでまた痛みがぶり返してきた。本当はあまりあちこち動かない方がいいのかもしれない。
 ジョーは青木ヶ原に入るのは初めてだが、確か国道が通っていたし観光施設もあるはずだ。そこへ出られれば警察やJBとも連絡がとれるだろう。
 しかし彼は今自分が樹海のどこにいるのかわからなかった。自分の向かっている方向が人のいる方なのか、それともさらに奥に入り込んでいるのか─。 それでもジョーには進むより道はない。このままここにいても体力を消耗するだけだ。移動して通信機の使えるエリアに出れば─。
 ジョーは木に手をついて立ち上がった。ふと関や神宮寺の顔が浮かんだ。今は彼らに会いたいというより、こんな格好悪い姿を見せるのがいやだった。
 彼らに会う時は笑って颯爽と目の前に立ってやりたい。絶対に挫けた姿を見せたくない─。
 ジョーは痛む左足を一歩出した。

 捜査員とB1の事務所に同行した洸からの連絡で、樹海にもう一軒大きなアジトがある事がわかった。
 事務所には大川と数人の部下がいなかったのでそちらに行っているかもしれない、と留守を預かる若い男達が言っていた。また福田参事官のスケジュールが書かれた書類も見つかった。やはり参事官を襲ったのは奴ららしい。洸達は第2アジトの資料を押収してきた。
「これによると西湖の西側、樹海の中心部に近いね」洸が言った。押収した地図はかなり大雑把な物だったが今日探し出したアジトも、もう1つのアジトの場所にも○が付いていた。「もう1つの・・この×はなんだろうね?」
「訊かなかったのか?」神宮寺の問いに一平と洸が申し訳なさそうに頷いた。「まあいい。この第2アジトに向かおう。ジョーもそこにいるかもしれない」
「関さんはどうするの?」
「連絡が取れないんだ。樹海の内部に入ったのかもしれない。とにかく今はおれ達だけで向かおう」神宮寺が地図を畳む。「関さんの言うとおりジョーを早く見つけたい。いざという時、何をするかわからない」
 3人は立ち上がった。

「やはり来ませんね、関主任」西崎が呟き関が“ん・・”と頷く。約束の時間を1時間過ぎたがやはり奴らは姿を現さなかった。「どうしますか?」
「・・・・・」神宮寺から預かった通信機はノイズを発したままで使えない。この場所から離れないと無理のようだ。「おれは富士吉田署に戻る。君はもうしばらくここで張っていてくれないか」
 わかりました、と西崎が答えた。

「ジョーが樹海に入った!?」神宮寺が声を上げた。「本当か!」
「本当だ。もう2時間も前だぞ」肩を掴まれた内山がニヤッと笑う。「奴はおれ達の追手を振り払って逃げやがった。だがあの体では夜は越せないかもな」
「──」
 神宮寺が洸、一平と顔を見合わせた。押収した地図のおかげで第2アジトは思ったより早く発見された。だがそこには大川や三神、そしてジョーの姿はなかった。
「樹海の夜は早いし冷えるぞ。野宿なんかしたら命の保証はない」
「──!」
 ヘラヘラ笑う内山の胸倉を掴み腕を振り上げた神宮寺は─しかしその手を離した。今はこいつに構っている時ではない。無理矢理怒りを押し込める。そして
「一平、倉本さんに連絡して捜索隊を組むよう頼んでくれ。洸、関さんに連絡を─」ふと内山に顔を向ける。「あいつはこんな事で参るような奴じゃない。だがもしもの事があったら、お前も樹海の中に放り込んでやる」 神宮寺らしからぬ言い方に一平も洸も驚いて彼を見た。
 あの男(ジョー)の青い目とは違う黒い目の圧力に内山は口を閉じた。

「神宮寺!応答しろ!洸!一平!」だがスピードマスターからはノイズ音しか聞こえない。「・・だめか」
 もう何回この言葉を繰り返しただろう。かなりの距離を移動したつもりだが、今だ通信可能なエリアに出られない。進んでいるようで、もしかしたら同じ所をクルクル回っているのかもしれない。
「くそォ」
 ジョーはスイッチを切り辺りを見回した。夜までには時間があるのに周りはすでに暗くこれ以上の移動は危険だ。どこかで夜明けを待つしかない。そう思い足を踏み出した。が─
「あっ!」
 片足が空(くう)に浮いた。バランスを崩し引っ張られるように体が傾いた。とっさに手に触った木を掴む。ズッと滑り、手から抜けて行った。
 背中にショックを受け、意識が遠のいた。

「ジョーが樹海に入ったというのは本当かっ」関が厳しい顔で神宮寺に迫る。「なんでそんな所へ!は、早く見つけなければ─」
「今、倉本さんが捜索隊を組んでくれています。ですが出発はおそらく明朝に」
「遅い!1秒を争う!樹海だって?そ、そんな所に入り込んだら・・・」
「せ、関さん・・」
 神宮寺は茫然と関を見た。
 心配なのはわかるが、ジョーは5つや6つの子どもではない。危険を回避し生き延びる術を知っている国際警察の、それもSメンバーだ。そんな事は関も充分承知しているはずなのに。
「落ちついてください。おれや洸達も捜索隊に加わります。西崎にも樹海を周回させて─」
「説明はいい。行くぞ!」
「あ、関さん!」
 神宮寺の手を振り切り関が勢いよく部屋を飛び出した。と
「今、すごい顔して走って行ったぞ、関さん」一平が顔を出した。「どうしたんだ?」
「・・・わからない」
 そう答えるしかない。
 普段の関はジョーや洸をからかって喜ぶお調子者だが、いざ仕事となるとどっしりと構え落ちついて周りを見る事ができる男だ。無鉄砲に見えるがその指揮は的確だ。
 ジョーや神宮寺のような鋭さはないが、関の年齢や経験から醸し出されるオーラは今の2人にはないものだ。
 なのに今回は─。
「捜索隊の出発は明朝になるそうだ。それまでジョー、大丈夫かな・・」
「・・・・・」
 神宮寺が机上の地図に目を落とす。直径わずか5キロほどの青木ヶ原樹海。しかし今の彼にはとてつもなく広大な空間に見える。
 ジョーは大丈夫だ、と神宮寺は思った。が、あの男(内山)の前では断言できたのに、今は口にする事ができなかった。


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