コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Breaking the habit 9

「ん・・・」
 何か暖かいものがジョーの顔に当たる。ゆっくり目を開けたが、刺すような眩しさに思わず目を閉じた。
「・・・光?」
 ジョーは再び目を開けた。それはまさしく太陽の光だった。
 頭上の穴から一筋─しかしキラキラ輝いてすべてのものを目覚めさせようとしている。
「そうか・・・おれ、穴に落ちて一晩・・・」
 ジョーは立ち上がると再び頭上を見上げた。幸いな事に穴は浅く簡単に出る事ができた。
 ジョーは土塗れの体をパタパタと叩(はた)き、辺りを見回した。
 樹海の様子は一変していた。
 木々の間から太陽の光が差し緑が活き活きと輝いていた。その光はジョーをも勇気付ける。
 落ちた時に打った背中は多少痛いが体調はよかった。一晩穴の中にいた事がかえって寒さを防ぐ事になりよかったのかもしれない。
 運は自分に向いている。必ずここから出られる。と、木々の間から白い建物が見えた。
 人のいるエリアに出られたのかと思い建物に近づいた。が、それは元はホテルかペンション─だが今は廃業し放置されている小さな建物だった。と、廃墟であるはずのその建物の中で何かが動いた。
 窓から内部を窺う。男が4、5人大きな木箱を積んでいた。その横に立っているのは─。
(大川!)
 そうだ、間違いない。さらによく見ると男達の中には三神の姿も見える。
 ジョーは一瞬、逃げ出したアジトに戻ってきてしまったのかと思った。しかし明らかに建物が違う。ここも奴らのアジトの1つなのだろう。
 やがて男達が部屋から出て行った。
 ジョーは迷ったが好奇心には勝てなかった。窓から滑り込み木箱を覗く。中には火薬やダイナマイトが入っていた。
(5箱共全部そうか。ここは奴らの武器庫なのか)奴らはこれを使って何をやらかすつもりなのだろう。(どう考えてもいい事じゃねーよな)
 こいつをまとめて爆破処分してやろうかと思ったが、近くに人のいる施設があるかどうかわからないし、木々に燃え移るとまずいのでやめた。それより大川と三神を抑えてやろうと思う。と、男が1人、部屋に入ってきた。ジョーを見て口をアングリと開ける。そこへ拳を打ち込んでやった。昏倒する男の体を支え、音がしないように床に横たえる。膨らんでいた内ポケットから小型の銃を失敬した。改造銃なのかよくわからない代物だがないよりマシか。
 ジョーが廊下に出ようとしたその時、手首のスピードマスターが突然振動した。通信が回復したのだ。
『ジョー、応答してくれ。聞こえたら返事をしろ』
「西崎?」画面に表示されたコードナンバーは洸のものだったが、「ジョーだ。西崎か?」
『ジョー!よかった、無事で。今どこだ?』
「わからねえ。だが奴らのアジトの1つにいる。お前は神宮寺と一緒か?」
『いや、神宮寺達は君を探して徒歩で樹海に入っている。おれは車で周回して君を探していたんだ。そうだ、これ洸のGショックなんだ。トレーサーで君の場所を追える』
「わかった」ジョーが自分のトレーサーコードを発信した。西崎はそれを追ってくればいい。「どうやら通じるのはGショックだけらしい。おれはこれから奴らのボスを押さえる。急いできてくれ」
 え?そこにいるのか?と西崎が言ったが、すでに通信は切れていた。
 これで神宮寺に連絡が行く。あいつが来てくれれば怖いものはない。思いっきり暴れられる。
「誰だ!」声が飛んだ。「お前は公安の─!」
「チッ!」
 ジョーはとっさに後ろに跳び退いた。銃弾が床を走る。だが相手はそれ以上撃たず走り去った。
 ジョーは男の後を追い広い部屋に飛び込んだ。元は食堂だったのか、が、入ったとたん足が止まった。そこには逃げ込んだ男の他に驚いた顔の大川と三神がいた。
「お、お前・・どうしてここに・・・」
「さあね、神様の、いや悪魔のお導きかな」
 ジョーが一歩前に出る。と、男が発砲した。体を横に流し避けると男の腕と足に正確に撃ち当てる。
「もうすぐおれの仲間がくる」再び2人に目を向ける。「それまでおとなしく待っててもらおうか」
「そしておれ達を連行して吐かせるのか。弟の時のように」三神の言葉にジョーは一瞬目を眇めた。「“─Joe、Deine Schlubfolgerung ist von Lchern voll・・・(ジョー、君の推理は穴だらけだ)”─おれ達も責めて弟と同じ道へ追いやるのか」
「・・・・・」
 ジョーに宛てられたこの1行。
 三神はジョーの推理が穴だらけなのに気がついた。しかしその事を主張せずに逝ってしまった。もし言っていれば、少しは自分を有利にする事ができたかもしれないのに─。
 たった1行の文がジョーを突き刺し苦しめた。だが─。
「おれは逃げない。いつでもあんたの前に立ってやる」
 そう、ジョーはもう恐れない。惑わされない。彼はこれからも生きていかなくてはならない。
 強い決意の炎が全身から吹き上がる。
「惜しい男だ・・」
 大川が呟き銃を撃った。ジョーは転がり避けると低い位置から大川の銃を撃ち飛ばした。大川が右手を押さえジョーを睨む。三神は銃を持っていない。
「おとなしくしていろと言ったはずだ。2人共部屋の隅に─」突然爆発音が響いた。建物が揺れ、壁が粉々になって跳び天井にヒビが入る。「火薬か─!」
 ドドッと天井が落ちてきた。コンクリートの破片が容赦なく体を打ち男達を埋めていく。しかしそれも長くは続かなかった。
 破片はすぐに細かいチリに変わりジョーはゆっくり目を開けた。と、前髪の間から男が2人よろめきながら出て行くのが見えた。
「くそォ、逃がすかよ」
 手にしていた銃はどこかへいってしまった。が、ジョーは2人の後を追う。すぐに外へ出た。
 男達─大川と三神が車に乗るのが見えた。細い道の向こうに広い道路が見える。樹海を周回する国道か。2人を乗せたランサーはその道路に飛び出した。
 ジョーが追う。国道に出た。と、
「西崎!」
 ジョーのスピードマスターがピッ!と鳴った。Gショックを持つ西崎が近くにいるはずだ。 
 ジョーが振り向いた。だんだんと大きくなる黒い車体が目に入る。
「・・・トランザム」それは間違いなく、関の黒いトランザムだった。「西崎!」
「ジョー!」少し前で西崎が車を停めた。ジョーが走り寄る。が、彼は真っ直ぐ運転席を目指してくるのがわかり、あわてて助手席に移動した。「無事だったか」
「あたりまえさ」
 シートベルトをつけアクセルを踏み込む。黒い車体がバッと飛び出した。
「ど、どこへ行くんだ?富士吉田署は反対方向─」
「あのランサーに奴らのボスが乗っているんだ。絶対に捕まえてやるっ」
「だ、だけど─」
 西崎は改めてジョーを見た。
 爆発にでも遭ったのか─そういえばなんとなく焦げ臭いが─シャツはボロボロだ。その隙間から見える身体にはいくつもの赤い線が走り血が固まっている。右腕の一部は肉が裂けていた。
「だ、大丈夫か、ジョー」
「血は止まっている。大丈夫だ」
 前方を睨んだままジョーが答える。こうなるともう誰にも止める事はできない。と、トランザムがランサーを捉えた。ピタリと後ろにつけ湖─後でわかったが、精進湖の手前を右折して山道に入る。
 SUVタイプのランサーに比べ、車高の低いトランザムは山道などの登坂が苦手だ。だがトランザムのスピードは落ちない。
 カーブが多くなり車が左右に車体を振る。しかし慣れていない飛行機の操縦桿のようなステアリングはまるでジョーの手にピッタリ吸い付いているように彼の意のままに動く。と、ランサーの窓が開き黒い物が放り出された。トランザムに向ってくる。目の前で破裂した。が、ジョーは避けず、広がる粉塵の中を突破した。
「こっちもミサイルだ!西崎、右端のスイッチを押せ!」
「えっ!?」西崎が飛び上がった。「つ、ついているのか?本物(ナイト2000)みたいに─」
「だったらいいんだけどよー!」
 黒い物が今度は地面を転がってきた。車体を左右に振り避ける。が、車体の下に入り込んだひとつが爆発した。
「チッ!」
 左の後輪が持ち上がりトランザムがスピンした。だがジョーはブレーキを掛けずフロントが進行方向に向くとギアを一気にトップに突っ込みそのままランサーの後を追った。
 自分が運転していた時とはまったく違うトランザムの動きに西崎はただ掴まっているしかない。ふとナビを見た。
「この先かなりきついカーブが連続している。山道だ、気をつけろ」
「それはあっちに言ってやってくれ」
 山道だろうがカーブだろうがジョーの運転は変わらない。
「だがそろそろ決着をつけた方がいいな」え?と西崎がジョーを見た。「燃料がない」
「あ」
 なるほど、燃料計の針が?E?を差している。コンパクト・カーならまだしもこの車ではあといくらも持たないだろう。そういえば関から借りて1度も給油していない。
「西崎、シートベルトを締めて口を閉じていろ」
 ナビを見て確認するとジョーはステアリングを左に切った。一部ガードレールのない箇所からトランザムが飛び出した。キュュ・・とタイヤが空回りしやがて草地に落ちる。ショックで体が上下に振られた。
 車はそのまま坂になっている草地を走り降りる。
 口を開けるどころか西崎はただただ固まって事の成り行きに身を任せている。ジョーの右腕がギシッと鳴ったような気がした。小さく呻く声も聞こえた。
 やがて眼下に道路が見えた。トランザムは道路に戻る手前で1回ボムッ!と跳ねたがうまく路 上に着地した。と、そこへランサーが突っ込んできた。
 ジョーはとっさにステアリングを切り、トランザムのリアでランサーのフロントをひっぱたいた。
 ランサーはクルッと回り反対側の崖に激突し、ズーと滑ってやがて止まった。トランザムも勢いで横滑りしたがガードレールに当たりなんとか止まった。
「─大丈夫か、西崎」
「ま・・なんとかね」
 息をついてジョーを見、ギョッとした。ジョーの顔に真新しい血が飛んで列を作っていた。避けた右腕から飛んだようだ。
 だがジョーは西崎の様子を確認すると車から降りランサーに向った。西崎もあわてて後ろに続いた。

「上の道と下の道の間を走り降りるなんて・・ジョーらしいね」
 西崎の連絡を受け駆けつけた洸と一平が上の道路を見上げ呆れたように言った。
「前に北海道でやってるからな。なンて事ないさ」ジョーが強がる。が、「いてて!洸、 もうちっとていねいに優しく手当てしろ!消毒薬は使うな!」
「なンて事ないんでしょ!」
 ペチンと傷をひっぱたきジョーが睨んだ。と
「ジョー!」
 さらに2台の車が到着し、その1台から神宮寺と関が降りてきた。
「あ」ジョーが立ち上がる。「あはっ、ごめん、関。ちょっと潰した」
「ジョー・・」
 関が真っ直ぐにジョーに向う。手が振り上がった。ジョーがビクッと体を竦める。が、大きく広げた関の両腕がジョーの体に回り、ガシッ!と抱きしめられた。
「よ、よかった!無事でよかった!」
 そう連呼しさらに力を入れ抱きすくめる。
「せ、関・・・」
 驚きのあまりジョーは動けないでいた。神宮寺達もアッケにとられ、固まって離れない2人に目をやる。と、ジョーの瞳が揺らぎ関の肩を掴むとゆっくりと体を離した。真正面から関の目を見つめる。
 涙を浮かべている関の瞳にジョーは驚いて目を見開いた。肩を掴んでいる腕に力が入った。そして、
「・・・お前、気持ち悪いぞ」
「なっ、なんだと!」頭から湯気を噴き出しジョーの胸倉を掴んだ。「人に散々心配かけて!なんだその言い方は!」
 乱暴にジョーを揺さぶる関を一平が引き離した。
「な、なんなんだよ、いったい」
 ジョーが呟き、ふと目の前に立つ神宮寺を見た。
「大丈夫か?」
「・・・ん」
 頷き、かすかに口元に笑みを刷く。
 ボロボロの服や怪我の様子から見るととても大丈夫だとは思えないのだが、しかしジョーはそれ以上の言葉を口にしなかった。と、その2人の横をやはり応急処置を終えた大川と三神が捜査員に連行されていった。
 ジョーが三神に目を向ける。三神もまたジョーに目をやった。眇められた瞳が一瞬和んだように見えた。
 三神の唇が動く。
 ─Ich verstehe es─
「!」
 声は聞こえなかった。が、確かに三神は言ったのだ。わかっている─と。
 2人はすぐに警察車両に乗せられその場から走り去った。その車をジョーが見送る。
 太陽の光がジョーの髪を瞳を輝かせる。灰色がかった青い瞳には後悔と哀しさ、そして安堵の色が映し出される。
 もう逃げない。惑わされない。これからもおれは─。
「ジョー」呼ばれて自分を見ている神宮寺に気がついた。「あの男は─」
「あ?、ハラへったぜ、神宮寺!メシ食いっぱぐれちまってさ。それにシャワーも浴びたい」
「──」一瞬、言葉が切れた。が、「そうだな。樹海原人みたいだもんな、お前」
「これでも今流行(はやり)の富士のバナジウムで顔を洗ってたんだぜ。いい男の樹海原人さ」
 アハハ・・と笑うジョーに、三神との間に何かあったのだろう、と神宮寺は思った。だがジョーが自ら話してくれるまで訊くのはやめた。
 今はただ精一杯虚栄を張っているジョーを見守ろうと思う。

 公安にE3、B1と呼ばれていた三神と大川の組織は山梨県警によって手が入れられ、福田参事官襲撃及び危険物取り扱い法によって検挙された。
 彼らは手を組み、樹海の中に実験室を作り─地図のあった?×?の所でジョーが見つけた元ホテルだった─そこで爆発物を作り時々実験をしていたらしい。ジョーと関が間違えられたのもその実験絡みだった。
 爆弾付きブレスレットなんて物騒な物をはめられたのは、前に使っていた男達が実験成果を持ち逃げた事があったからだという。迷惑の二重奏だ。
 彼らはこれから公安と県警の厳しい取調べをうけるだろう。
 しかしこのように小さいが自ら武器を作り出す事のできる組織が日本にもあるのだと、関を始めJBのメンバーも改めて思い知らされた。


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