コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Breaking the habit 完

「関さんが?」手を止め、榊原が神宮寺を見た。「そうか・・・」
「ジョーが樹海に入ったと聞いただけでかなり動揺して、とてもいつもの関さんとは思えなかった」神宮寺がジョーに目を向け再び榊原に移した。「ドクターは何か知ってますね?」
「まあ・・・」
 榊原は迷って自分の横に立つ神宮寺を、そしてベッドに上半身を起こしているジョーに目をやった。
 しばらく考えていたが、彼らはこれからも関と仕事をする事があるだろう。知っておいた方がいいのかもしれない。たとえ何を聞いても彼らが他に吹聴する事はない。
 榊原はジョーの右腕の包帯を換え終え、
「関さんの息子が10年前に亡くなった事は知ってるね?」2人が頷く。「当時、国際警察と公安がタッグを組んである大きな組織を追っていた。私は関さんと同じグループで捜査をしていたが1ヶ月も経たないうちに膠着状態に入ってね。ちょうど子ども達が夏休みに入った頃だったが・・・。久しぶりに取れた公休だったが急に事態が動いて、関さんも私にも呼び出しが掛かり全員が警察庁に集合した」
 榊原の話は続く─。
 それから2日間、警察と組織との攻防が続き、証拠を押さえ幹部全員を逮捕し関や榊原が一時帰宅したのは4日目の夕方近かった。
 だが家には息子─慎一はいなかった。
 しかし関が家を空ける時はいつも駅を挟んで反対側の街に住む祖父母の家に行っていたので、今回もそこだろうと安心していた。ところが慎一はそこにもこの4日間1度も顔を出していない事がわかった。
「実は呼び出しが掛かった日、関さんは慎一君と山登りに行く約束をしていたんだ。祖父母もそのことは知っていたから慎一君が家に来なくても不思議に思わなかったんだね。だけど実際には関さんは出動し慎一君は1人家に取り残された」
「魚釣りだ・・・」ふいにジョーが呟いた。「家のそばに大きな川があって・・・あの日は親父と魚釣りに行く約束をしていたんだ。だけど電話が入って─」
 ─君には1回だけ会った事がある─ 
 ─君がベソをかきながら父親の後を追ってきた─
「あの時、迎えに来たのが関か─」
 その時、ジョーは関と目を合わせている。だが幼かった彼はその顔を今まで忘れていた。
「それで慎一君はどこに?」神宮寺が訊いた。「・・まさか」
「そう、彼は父親と登るはずだった山に1人で向かった」2人が息を呑む。「山と言っても小学生の息子を連れていくので本格的な登山ではない。しかし4日間も山中にいるとなると・・・」
 夏とはいえ山の中は地上より温度が低くなる。夜はかなり冷え込むだろう。
 慎一が関が出動した日にその山に行った事は目撃証言から明らかだった。関は地元の警察と一 緒に山へ入り息子を探した。─が
「・・・遅かったよ」榊原が息と共に言葉を吐き、神宮寺をそしてジョーを見る。「関さんの憔悴はひどくて・・・、そしてずっと言っていたらしい。息子を死なせたのは自分だって」
「だからジョーが樹海に入ったと聞いてあんなに・・・」神宮寺の言葉にジョーがビッと眉を寄せた。口がへの字に曲げられ厳しい顔つきになる。「関さんは息子とジョーを重ねるつもりはない、と言ってたけど、そんな事があったのなら─」
「──」
 ジョーは無意識のうちに左腕を押さえていた。
 以前、自分で撃ち抜き─しかしもう完治しているはずが、今でも時々痛むような感覚に襲われる。
 やがて榊原は回診のためジョーの病室を後にした。しかしジョーも神宮寺も長い間押し黙ったまま時間が流れた。と
「関さん、息子をすごく自慢していたんだ。聞き分けの良い子だって」イスに腰を下ろし神宮寺が呟く。「そう思ってたけど、今考えるとあれは自慢していたんじゃなく─」
「おれは関の息子じゃない」
 左腕をギュッと握りジョーが言った。
「おれはその慎一とは違う。おれは─」一瞬口を閉じる。が「・・・勝手に思われるのは迷惑だ 」
「・・・・・」神宮寺は口を閉じふと窓の外に目を向けた。街はそろそろ黄昏時を迎える。「親を亡くしても子どもを亡くしても、残された者は一生辛い思いをするんだな。ましてや自分のせいで失ったと思っている者には・・・」
 彼の弟はひき逃げに遭い亡くなった。神宮寺は今でも弟を死なせたのは自分だと思っている。
 関も神宮寺も?誰か?を恨む事ができない。自分自身を恨むしか─。
 その神宮寺も両親を殺され1人残されたジョーも、自分だけが生き残ってしまった事に罪悪感を持ち生きてきた。
 だが、その苦しさから逃れるために両親の後を追おうと考えるにはジョーは幼すぎ、神宮寺は哀しむ両親にまた同じ想いをさせる事を恐れ、自分の想いを押し込めてきた。
 関はどんな想いで1人生きてきたのだろう。あの呆れるほどの陽気さは彼の心の裏返しか。
「あいつは大人だ。自分でなんとかできたさっ」
 バサッとジョーがブランケットを被りベッドに潜り込んだ。
 10年前も大人だった関は自分で考え自分で人生を決める事ができた。しかし当時まだ子ども だった2人に選択肢はなかった。
 だが幸いな事に神宮寺には優しい両親がいて、また鷲尾に引き取られたジョーも彼らの愛情を受け育った。
 少なくとも彼らは1人ではなかった。─と
「こらあ、ジョー!生きてるか!」突然ドアが開き関が顔を出した。振り向いた神宮寺はまともに関と目を合わせ思わず引きつった。「どうした?変な顔をして」
「い、いえ・・・」なぜか頬がピクピクと震える。「いつも元気なだと思って・・・」
「あたりまえだ!おれから元気をとったら、な?んにも残らない!」
 ガハハ・・・と笑う。と
「関!」ガバッとベッドの上でジョーが跳ねた。「見舞いに来るたびに大声出しやがって!ここは病院だぞ!もっと静かに来い!」
「るっせー!おれのタカコちゃんが当分走れないんだ!大声でも出して元気づけなきゃ、このまま地平線に沈んじまいそうだぜ!」
「──」
 とたんにジョーが黙る。
 ナイト2000のレプリカパーツを扱っているのは世界に2社しかない。そのうちの1社は日本にあるのだが今では手に入り難いようだ。
 ランサーとのカーチェイスでフロントマスクやリアを潰されたトランザムは、パーツが揃うまで走れないという事か。そうだとしたらジョーにもその責任の一端は・・・いや、大部分がある。
「おれ・・・少しなら貯金あるけど・・・」“借金もあるけどな”“へー、そうなの?”と神宮寺と関の会話に、「多少増えたって同じようなものだ!」
 と、うそぶく。
「冗談じゃない。子どもに借金させた金なんて受け取れるか」関がため息をついた。「金より体で返してもらうぞ」
 えっ、とジョーが身を引いた。
「1日掛けてタカコをピカピカにしろ。あさってにはパーツが届く予定だ。だからそれまでに君も退院して手伝え」関がニッと笑う。ジョーは肩をすくめ、神宮寺は1人クックッと腹を抱えている。「それにしても、いくら同じ車だったからといっておれ達と運び屋を間違えるなんて、どーいうドジだ」
「それなんですけどね」涙を拭いて神宮寺が言った。「奴らの証言によると、間違えた切っ掛けは車だったけど、そのそばに立つ男達を見て、“あー、これは絶対に?その筋?の人間に違いない!”と思ったそうです。初対面だったらしいし」
「なんだよーそれー!関のせいでひどい目に遭ったぜ」
「話を聞いていなかったのか?奴らは?男達?と言ったんだ。君も入っている」
 が、ジョーはフンッと顔を背ける。都合の悪い事は聞かない主義だ。
「ところで関さん、公安の方は大丈夫だったんですか?報告遅れたんでしょ?」
「まーね」なぜか関がニヤッと笑う。「大丈夫なんだよね、それが。なにせおれは国際警察のSメンバーを助け、テロ組織を2つも挙げたんだからね」
「え?」
「は?助けた?」2人同時に声を上げた。「Sメンバーって・・おれ?」
「そーそー、迷子になったSメンバーを見つけ組織のボスを追いかけて─」
「それはあんたじゃない!西崎とタカコだ!」
「おれとタカコは一心同体。ジョー、貸しだぞ、貸し」
「あんたに借りなんか作りたくない!」
 ジョーがベッドから飛び出し関に掴み掛かる。が、関も慣れたもので迫りくるジョーの両手をガシッ!と掴んで目の前で止めた。
 目が合う。関の目は優しくジョーを見ていた。が、
「あんた─やっぱ気持ち悪いぜ」
「なんだとー!」
 関がジョーの左腕を捻った。
「い、いてっ!やめろ、関!」
「せ、関さん」神宮寺が止める。「彼は一応けが人なので─」
「この、生意気なところが好きだぞ、ジョー!」
 は?と神宮寺が手を離した。と
「放せ!悪オヤジ!」ジョーの右腕が関の鳩尾に入る。「調子に乗るな!手負いのSメンバーに怖いものはないという事を教えて─」
「なにを騒いでいる!」ドアが開き榊原の雷が落ちた。「静かにできないのなら全員に麻酔を打ち込むぞ!」
 現役時代ナイフ投げの名手だった榊原の言葉に3人の男達はピタリと動きを止めた。

 後日─
「えー!西崎、トランザムの乗ったのォ!」食堂に立花の叫ぶ声が響いた。「それって、黒くてフロントマスクは純正のナイト2000仕様で飛行機の操縦桿のようなステアリングで、ホイールは15インチの82?84年もので、ブラックゲルコート仕上げのリアバンバーに─」
「・・・見てたのか?」
 西崎が目を見開いて立花を見た。
「それでカーチェイスをやったわけー!?あー、なんでその時ぼくはニューヨークになんか行っていたんだー!」仕事だろ、と西崎は思ったが口には出さなかった。「で、ミサイル飛ばしたの?ターボブースターで車を飛び越してスモークリリースやマイクロジャムを─」
「さすがにそれはないけどな」
 テーブルに頬杖をつきニヤニヤと見ていたジョーが答えた。
 ジョーに負けない車好きの立花は元々おぼっちゃん育ちのせいか、仕事の時以外はのんびりゆったり穏やかな性格だ。ステアリングを握ってもそれは変わらない。
 しかし今は見事に豹変している。
「あのステアリングの握り具合、ツンと伸びた見事なナイトノーズ。おれの動きにピッタリついてくる力強さ、アクセルを踏めば踏むほど吹き上がる走り─」
「ジョ???
「なんだったら関に頼んでやるぜ。タカコちゃんに乗せてくれるよう」ジョーがいたずらっ子のような目を立花に向ける。「ま、一晩つきあえば運転させてくれるかもしれねえぜ」
「・・・ジョーと西崎は関さんと一晩つきあったから運転させてもらえ─」
「ないっ!!」
 2人同時に叫んだ。そばで洸がテーブルに俯っぷしてヒッヒッと引きつっている。
「おれを巻き込むな」
 西崎がジョーを睨む。ジョーがそっぽを向いた。が、その次の日、立花はジョーの好意(?)で関自慢のナイト2000レプリカモデルカーのステアリングを握る事ができた。
 立花は狂喜乱舞し、駐車車両を隅っこに集めて作った広い空間をいつまでも走り回っていた。
「JBにあんなに熱烈なナイト2000のファンがいるとは思わなかった」
「おれをナイト2000好きにしたのはあいつさ」駐車場の隅で関とジョーが飽きもせず走りまくっているトランザムを見ている。「立花!そろそろ車を元に戻しておかないとチーフ達帰ってくるぜ!」
 森や各課部長は今警察庁に出向いている。もちろんこの日を狙ってトランザムを持ち込んだのだ。
「いや?、すごいよ!いい走りだよォ!」やっと車を止め立花が降りてきた。「助手席のスイッチもノーズを走る赤い光も一緒だし最高だ!本当に720キロ出そうだ!」
「そうかそうか」上機嫌で関が頷く。「気に入ったぞ。いつでも乗りにおいで」
「やれやれ・・」
 ホント?やった?!と喜ぶ立花を尻目に、ジョーが息をついた。
「これで少しはおれの前に現れるのが減るだろう。今度は立花の尻を追いかけてくれ」
「おれは男の尻を追いかけた事はない」キッパリと言う。「真っ向勝負だっ」
「あのなァ・・・」
「そうだ。今度GT見に行きません?関さんのトランザムとぼくのアテンザスポーツ、ジョーのカウンタックを連ねて・・・。目立ちますよ?」
「いーね、それ!」
「絶対やだっ!」
 2人同時に叫んだ。

                               完


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