コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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海は広いな 騒がしいな 3

 12時前になると彼らは誰とも言う事なく飛び起きた。
 部屋は森を始め鷲尾、榊原でひと部屋、後の6人でふた部屋続きの大部屋を使う事にした。
 彼らは大急ぎで昼食を済ませるとさっそく海水パンツに着替え、その上にTシャツやビーチウェアをはおると玄関前の庭に集まった。
 朝はあんなに涼しかったのにこの頃になると夏の太陽はその持てる限りの輝きを一度に彼らに向けているかのようにギラギラとしている。
 こんな中2、3時間もいれば、すぐさま9人の黒ンぼができ上がるだろう。
 彼らは太陽の光を眩しそうに浴びながら石階段を降り船着き場の前を通ると、ちょっとした山道に入って行った。この向こうに海水浴に適した場所があるのだ。
 山道はそうきつくはないが前日雨が降ったとみえて土が柔らかく、あっちこっち小さな水たまりができている。が、ビーチサンダルの彼らはその水たまりを避ける事なく歩いて行った。
 ちょうど半ば程に小さな竹林があり、まだ細い若竹が青い空に向かって頭を上げている。途中ヘビが顔を出したが、9人の屈強そうな男共の軍団に驚いたのかすぐさま枯葉の中に逃げてしまった。
「枯れ木があったら拾っておけ。向こうでたき火をすれば獲ったサザエや魚が食えるぞ」
 鷲尾長官のこの指令はたちまち1番後ろの神宮寺にまで伝わった。この速さはさすがであるが、パリ本部の長官からJBにこれほど早く伝わった指令はおそらくこれが初めてだろう。
「これ抱えてるだけでいっぱいで、薪集めてるひまないよ」
 ハル(ウインドサーフィンのボード)やマストを担ぎあげている洸がわめいた。176センチの彼が365センチのハルを担いでいるのだ。おまけに道は2人通れるか通れないか、というほど狭い。ハル後部が時々枝を擦ったりする。
「どうも危ないな」
 すぐ目の前にあるスケグ(ハル下部のフィン)を見ながら神宮寺が呟いた。
「なにが─」
「わっ!振り向くな!」神宮寺はあわてて頭を引っ込めた。ぼやぼやしてたらハルパンチに見舞われる。そうなったらその部分だけハゲかねない。彼はそれを恐れた。「おれ前に行くよ。なんか目ん前にあるとこわ・・・いや邪魔だからな」
 口早にそう言うと、神宮寺はサッと洸の横を通り一平の後に着いた。
「重いな、くっそ?。ぼくの体重の三分の一もあるんだもんな?」
 洸のお気に入りの黄色いヨットパーカーは汗でグショグショになった。が、口ではそう言いながらもそう簡単にくたばる洸ではない。なにせ本場アメリカから取り寄せた新品だ。おまけに彼らのうちで今ここにこのウインドサーフィン一式を持っているのは自分しかいない。と、海辺のかわい子ちゃん達の視線は、波の上を格好良く滑る洸に集まるのが当然だ。何より彼らに差をつけられる─。
 洸はニヤニヤしながらふと前を見た。誰もいない。もちろん後ろにもだ。
「ひえ???!
 彼はボードを担いでいる事も忘れ、一目散に走り出した。

 山道は彼らの足で15分くらいだった。遠くに聞こえていた波の音が急に大きくなったかと思うと突然目の前がパッと開けた。
「すご・・・」
 鷲尾のすぐ後ろにいた西崎が思わず息をもらした。確かに上から見た眼下の景色は広大であった。
 青と言うより青緑色に近い海、遥か向こうに突き出た半島の上の白い灯台、海上を点々とする岩場、少し向こうには砂浜も見える。風があるせいか波が荒く、白いしぶきをあげている。が、波静かな入江もある。沖の方を漁船が荒波を押し分けへし分け進んで行く。水平線には大島と初島が見え、東京や熱海からの連絡船がまるでプラモデルのように小さく見える。
「・・これはいい・・」少々太り気味の体いっぱいに汗をかいている榊原が呟いた。「あそこの岩場にはサザエやアワビがたくさんいそうだな。水中メガネを持ってきてよかった」
「あまり食べるとまた太りますぞ、ドクター」
 そう言うと鷲尾は山道を下り始めた。下はすぐ岩場である。彼は石の間の窪みに枯れ木を置いた。つまりその周りがベースキャンプだ。
 他の者も鷲尾に倣い枯れ木を積み上げると思い思いの場所に荷物を置いた。
「マッチと新聞紙は誰が持っていたかね」
「はい」風間が袋からマッチと束ねた新聞紙を出し火を点けると枯れ木の下の方へ突っ込んだ。が、木が湿っているのかなかなか点かない。「なンだ、このやろ。逆らうのか」
 風間は木を睨んだ。しかし木は気にしない。あくまでもマイペースだ。
「貸してごらん、こうやるのさ」
 一平は風間の手からマッチを取ると手頃な枯れ木を5、6本折り、少し皮を剥ぐと火がうまく点かず燻ぶっている下の方に再び火を点けた。と、少しづつだが枯れ木に火が燃え移り始めた。
 こういう事はやはり牧場育ちの一平に限る。そんな事を考えながら鷲尾はふとジョーに目を止めた。
 彼は皆とは少し離れた大きな岩の上に立ち、その瞳をじっと海に注いでいる。
「どうかしたのかね」
 鷲尾は岩には上がらず下から話しかけた。
「いえ、別に─」とっさにそう答えてジョーは口を閉じ再び海を見た。「・・・おれ、民宿に着いた時も思ったんだけど・・・あの民宿もこの海もずうっと昔に来た事があるような気が・・」
「そりゃそうさ」鷲尾がニッコリとした。「ここはお前が家に来て次の年の夏に、私とママとお前とで初めて来た海だよ。あの民宿はそれからの付き合いだ」
「なんだ、どうりで」
「あの頃のお前は可愛かったぞ。岩場から飛び込むのを怖がってとうとう泣き出してな。仕方がないから向こうの入江でボート遊びだ。そしたら沖に流されて─」
「ヘェ、ジョーが海を怖がって泣いた」鷲尾の言葉を耳にしたのだろう。横から神宮寺が口を出した。「こいつがそんなに純真だったなんて信じられないな」
「ハンッ!お前はガキの頃からひねくれてたんだろうぜ!」
「今のおれからそんな姿が想像できるか?」
「そのものズバリだから言ってンのさ!」
 2人のやり取りに鷲尾はフウッと息をついた。いつも思う事なのだがこんな2人を見てると、とてもあの名高いダブルJとは想像できない。まさに20才(ハタチ)ソコソコの子どもだ。が、考えてみればその通りだ。
「遅いぞ?!あきら?!」
 一平が声を上げた。見ると大きなボードを抱えた洸はヒイハイと息荒く山道を下りてくる。そしてたき火のそばに座り込んだ。
「あつい、あつい、あつい」
 洸が連発した。が、たき火のそばから退こうとしない。
「なんだ、洸。枯れ木取ってこなかったのか」
 木を折りながら風間が言った。
「持てるわけないだろ。この荷物でさ」
「そんなの知らないよ。長官やチーフだって持ってきたのに」
 風間はため息をつき、ふと一平と顔を合わせた。一平の目がキラリと光った。振り返る風間の顔もにこやかだ。洸は一瞬背中にゾッとしたものを感じた。
「それ持ってちゃしようがないよな、うん。だったら代わりにそいつを燃やしてやる?!」
「ひえ??!
 洸はパッとボードやマストをひと抱えすると素早くその場を飛び退いた。さすがである。しかし一平も風間も負けてはいない。一団となって洸を追い始めた。
「おーい!海に来てまで追いかけっこしてないで、ここへ来てごらん!サザエがいっぱいいるぞ!」
 少し離れた岩場で森が手を振っている。その横に榊原と西崎の姿が見える。3人共水中メガネとシュノーケルを着けている。潜るつもりなのだろう。
 そう思ってる間に森が飛び込んだ。続いて西崎が。榊原は岩を下り静かに海に入った。
「おれも潜るかな」
 そう言うと神宮寺は、まだ何かわめいているジョーをほっぽりシュノーケルを取りに行った。
 彼はダイビングを特技のひとつに持つ。ここはウェットスーツを着て貝や魚を獲りに海に入るのは禁止されているが、素潜りならいくら獲っても構わない。神宮寺は50メートルまで素潜りで行ける。それに比べればこんな岸辺で潜るのは朝メシ前だ。
 彼はシュノーケルを着けザブンと海に飛び込んだ。
「よし、おれも潜るぜ」
 ジョーは水中メガネを掛けた。普段ゴーグルを掛けているせいかあまり違和感は感じない。もっともうっかりしてつい鼻を出してしまったが─。
「腰網を持って行った方がいいぞ、ジョージ。獲ったらそこに入れれば─」
「うわー!」突然海上から叫び声が聞こえた。みんな反射的にその方に振り返る。声の主は西崎だった。「ウツボだ?!ウツボが出た?!」
「ウツボ・・・」鷲尾が呟いた。「岩場だからな・・・」
「なんでぇ、ウツボぐらいでギャーギャーわめいて」
「そう言うがな、ジョージ。お前が小さい頃はウツボと聞いただけで─」
「わ、わかった。わかりましたよ!」
 これ以上弱みを曝け出されては堪らない。ジョーはシュノーケルを握り早々に鷲尾の元から退散した。
 1人残された鷲尾は、今はもう追いかけっこをやめ協力してウィンドサーフィンを組み立てている洸や一平、風間の所にトコトコ近寄った。
 さすがは選り抜きの彼らだ。チームワークも良く、あっという間に完成した。
「さ?、行くぞ?!」
 洸が勢いよく海へ乗り出した。一平や風間も付いて行く。鷲尾は波打ち際で彼らを見守っている。
 洸はまずボードの真ん中に立つとゆっくりとセイルを引き上げた、ここでバランスを崩すと後ろにボチャンである。次に前の手でブームを掴み、後ろの手でそれを引き込む。と、セイルが風を受けて走り出した。サーフィンよりかなりイージーである。
「そおれ!クロードホールドだ!」
 彼はいきなり難しい技をやらかす。が、崩れないのはさすがだ。と、大波が彼を襲った。洸は素早くランニング状態に戻す。
「ハン!こちとらハワイのサンセットビーチの荒波でサーフィンに挑戦したんだ。こんな波なんともねーよ!」
 洸は波に向かって怒鳴った。波はいじけて浜に打ち寄せ、鷲尾の足に跳ね返った。
「あきらー!おれ達にもやらせろよ?!」
 一平が怒鳴った。
「や?だよ!君達はこいつを燃やそうとしたじゃないか!」
「何言ってる!命令違反のくせに!それに組み立てを手伝ってやったじゃないか!」
「勝手にそっちが手伝ったんじゃないか!ぼくは頼んでないもんね?!」
「あンの?、コンビ解消してやるぞ?」
 頭から湯気を出し一平が歯ぎしりした、と
「お?、いるいる。いっぱいいる。ここはウツボのアパートだぜ」
 ジョーの声がした。
 見ると彼は少し沖にある岩場の小島で西崎と共にわめいている。するとその言葉を聞き、今まで小島の周りを泳いでいた森があわてて小島に這い上がった。
 それを見ると一平が口元を歪めた。
「ウツボって確か黄色を好むんだったよな・・」
「そう言えば聞いた事ある」風間が頷いた。「・・やるか」
「よおし!」
 2人は突然波間に身を躍らせ、見事なクロールで洸の乗るウィンドサーフィンを追い始めた。そして洸が右に回り込むのを確かめると距離を計りグルリと回り込み、ウィンドサーフィンの行く手に先回りするとその10メートル前に飛び出した。
「危ない!」
 洸はあわてて左に旋回しようとマストを後ろに傾けた。が、それより早く一平と風間はギリギリの所で海中に潜るとボードの下に入り込み、ダガーボードやスケグを握りガシガシ揺らし始めた。
「ひぇっ、ひぇっ、ひぇっ」
 洸はバランスが保てず悲鳴を上げている。このままではいずれボチャンだ。洸は必死でブームを操った。が、彼も必死ならボードの下の2人も命がけである。なにしろ走っているボードにしがみついているのだから─。
 そうこうやっているうちにボードは離れ小島に近づいて行った。小島の4人は何事かと目を剥いた。が、もっと驚いているのは当の洸だ。
「ぶ、ぶつかる?!島、どいて?!」
 洸は力任せにブームを引き込んだ。と、そこへ横波を食らう。しかししつこいというか根性があるというか、洸自慢のウィンドサーフィンは倒れずわずかだが小島から遠のいた。
「見事というか・・超人的なバランスだな・・」
 森が関心と呆れを半分に呟いた。
「短足だとそれだけ重心が下に行ってバランスが取りやすいですからね」
 ジョーがヘーゼンと答えた。
 とにかく洸のバランスは見事なものだった。しかしいつまでもそれが続くとは限らない。
 一平と風間の両派攻撃によく耐えていた洸だったが、小島から5メートルほどの所でとうとうバランスを崩し頭からまともに海に突っ込んでしまった。
「ラストォ!」
 風間は、海面に浮かび上がってきた洸の体をドンッ!と突き飛ばした。洸の体は一時的にスッと小島に近寄ったが水の抵抗でやがて止まった。が、止まった所が悪かった。そこはさっきジョーがわめいていたウツボのアパートの真ん真ん中だったのだ。
「ギョエ??!」
 洸が口を半分海面に出し叫んだ。
 ちょうど不運な1匹のウツボが彼のすぐ横を通り過ぎようとしたのだ。両者は一瞬目を合わせ、あわてて左右に飛び退いた。
「人間対ウツボの一戦。こりゃ見物だぞ」
 小島の上で西崎が興味深そうに綻んだ。その頃にはもう一平と風間は、波間に漂うウィンドサーフィンの方へ泳いで行ってしまっていた。
「ギェッ、ギェッ、ギェッ」
 水で膨れた黄色のヨットパーカーがやたらと洸の体に巻き付いている。
「大丈夫かね・・。もっともこんな事で参るようではクビにするが・・・」
「いい実験だ。ウツボはホントに黄色が好きなのか」
 そう言うとジョーは岩場に座り込んだ。後の2人もそれに倣いその実験を見る事にした。

 一方、榊原、神宮寺、そして鷲尾の3人は陸続きになっている岩場でサザエやアワビなどを獲っていた。3人共腰網は収穫物ではち切れんばかりである。
 神宮寺はそれらを集めてたき火の上で熱くなっているアミに乗せた。
「うまい。やっぱり獲りたては新鮮じゃ」3つ目のサザエに取り掛かっている鷲尾が言った。「パリじゃこんなのめったに食えんからな。ん、うまい」
「・・こりゃまた太るわい」
 そう言いながら榊原の前には10個のサザエのカラが転がっている。
 彼はよくそう言うが決してダブといわれるほど太ってないない。背だって182とすばらしい身長である。
 しかし彼らの中に入ればやはり太っている方だろう。185センチ64キロのジョーや188センチ71キロの鷲尾らにはとても敵わない。
 それに仮にも彼は医者だ。自分の体をブクブク太らせるほどボケてはいない。
「それにしても・・一平と風間はあそこでサーフィンの奪い合いをやってるけど、チーフやジョー達はどこへ行ったんだろう」
 アイスボックスから缶ビールを出し他の3人に渡し、岩場に腰を降ろすと神宮寺が呟いた。
「20メートルほど向こうの小島で何かわめいておったぞ」
「洸がサーフィンから落とされてな。ウツボの餌食になっとった」
「ウツボ」榊原が前に位置する鷲尾を見た。「そりゃ困ったな。きっと腹壊すぞ・・。私はウツボを診察した事はないしな─。ん?、やっぱり夏は冷たいビールが1番だ。腹が出るかな・・」
 結局大した心配はしていないようだ。と、そこへ一平と風間がウィンドサーフィンを抱え戻ってきた。
「どうだ、マスターしたかね」
 鷲尾が2人に缶ビールを放った。
「ええ、なんとか。しかしこれ以上は無理ですよ。波が荒くなってきた」
「そういえばそうだな。そろそろ満潮の時間かな」
「まだ大丈夫だろう。さっ、突っ立ってないで食え。うまいぞ」
「もういただいてます」
 鷲尾の言われるまでもない。2人はとっくに腰を下ろしフォーク片手にサザエと一戦交えている。
 しばらくの間彼らはサザエを食べ、真っ赤になったところで冷たい缶ビールをキュッとやる事に専念した。たまらなく気持ちが良い。海辺の天国(キャバレーではない)である。
 だがしばらくすると風や波の荒さが彼らを天国から地上へと引き戻した。
 波は始めから確かに荒かったが今はそれ以上である。岩場に当たった波が大きな円を描いて空(くう)に舞っている。


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