コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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海は広いな 騒がしいな 4

「満潮になってきたな。そろそろ引き上げるか。残ったのは民宿で焼いてもらえばいい」
「それじゃおれ、チーフ達呼んできます」
 神宮寺が駈け出した。
「太陽が陰るとやっぱ涼しいな。さすが海辺だ」
「ずい分焼けましたね、長官」榊原が言った。「民宿へ帰ったら長官もいただけそうだな」
「私より君の方がうまそうだと思うが」
 これには一同大爆笑である。こんな時でもなければ、いつも痛い注射をされている榊原をいじけさせる事などめったに出来る事ではない。と、そこへ神宮寺がトボトボと戻ってきた。チーフ達も後から来るのかと思ったが誰もいない。彼は1人で戻って来たのだ。
「どうした、神宮寺君。森君達は」
「・・そ・・それが・・」
 いつになく神宮寺の態度はすっきりしない。
「帰らない、と頑張ってでもいるのかね」
「いえ、当人達はそうじゃないみたいなんですが、小島の方がどうも・・」
「小島?」鷲尾は思わず振り返り一同を見た。神宮寺は困ったように頭を掻いている。いや、半分呆れているようにも見える。「君らしくもない。はっきり言いたまえ」
「ええ・・、実は─」
「わー!道がない!」
 神宮寺が言いかけて、突然一平の大声が辺りに響いた。
 一同何事かと思い一平のいる所まで駆け付けてきると・・・なるほど彼の言うとおり道がない。つまり陸地からチーフらのいる小島を結ぶ点々とした岩場がなくなっているのだ。つまりのつまり、小島の4人はまさしく島流しの刑の遭っているという事になる。
「満潮で岩が没したんだな・・」榊原がため息混じりに呟いた。「それにしても、前もってわかりそうなものを・・・。4人もいて気がつかなかったのかね」
「おれ、言ったんです」と、神宮寺。「満潮だから早くこっちに戻ってこいって。そしたら彼らかえって意地になり、もう少し遊んで行くよーって・・」
「それでかえって帰れなくなったのか」
 風間が唸った。
 ここから小島までそう距離はない。あってもせいぜい20メートルぐらいだ。泳いできたってどうって事ない。
 ただ波の静かな時を狙わなければ危険である。荒波に乗って岩に叩きつけられる可能性も無きにしも非ずだ。
「彼らの事だから大丈夫だと思うけど─」

「やあっほ?!」風に乗って洸の声が聞こえて来た。「みんな元気?!もちらも生きてるよ?!カニのアパートがあるんだ。来てごらんよ?!」

「なにのんきな事言ってやがる。あのバカ・・・。洸!早く戻ってこい!帰れなくなるぞ!」

「だ?いじょうぶだよ、一平!いざとなったらここで一晩や二晩─」
「みんなもどうかね!」今度は森だ。半ばやっけぱちと言った感じである。「今夜はここで星空を仰ごうではないか?!」

「そりゃかまわンがね?!」陸地側の鷲尾である。「ただし後30分もすればその小島は海の中だ。海中から見る星もまた美しかろうて!」

「・・・・
 小島の上の4人が絶句した。

 鷲尾が振り返りVサインを示す。一平や風間がニコッと勝利の笑顔を返す。榊原も神宮寺もニタニタしている。

「それじゃァ仕方ないな!」
 森の声が聞こえて来た。後の3人に向かって言っているのだが、それにしては少し声が大きいような気がする。20メートル離れている陸地までとてもよく聞こえるのだ。
「残念だが岸に帰るとするか」
「仕方ねえな」沖を見ながらジョーが言った。「だがすげえ波。無事に帰れるかね」
「あれェ!ジョーったら自信ないの?」
「バカにするな。ハワイの嵐の海に飛び込んだ事だってあるんだ。─フン」
 鼻を鳴らすとジョーは格好良く波間に飛び込んだ。が、1メートルも行かないうちに大波に押され、再び小島の岩場に押し戻されてしまった。右腕を擦りむきジョーは顔をしかめた。
「かなり荒くなってきたな」西崎が呟いた。泳ぎの得意な彼がこんな弱気に言うなんて今までになかった事だ。「こりゃ波の弱い時に泳ぎきるしかないな」
 彼の言う事はもっともだ。風や波はさっきよりかなり荒くなってきている。変に意気込んで飛び込んだらジョーじゃないが、もっと強い力で岩に叩きつけられるだろう。
 小島の4人も陸地の5人も冗談言ってる場合はない、という事に気が付いた。が、両方共そんな事はおくびにも出さない。
 無理しているわけではないが、それほど大変な事だとも思っていないようだ。
 死地を何十回となく潜り抜けて来た彼らだ。当然といえば当然かもしれない。太平洋の真っただ中で嵐に遭った事を思えばなんでもない。
「西崎の言うとおり波のない時を狙って向こう側へ行く事にしよう」
「誰が生き残れるか。こりゃ見ものだな?♪」洸が他人事のように言う。「それじゃぼくから行くよ」
 そう言うと彼は勢いよく飛び込んだ。

「1番手は洸だ」一平が言った。「続いて西崎、そしてジョー・・・いや、ダメだ、大波が来た」
「よし今だジョー!飛び込め!」神宮寺がわめいた。「なにやってるんだ。早く入れ!」

「風呂じゃねえんだぜ!まったくあのヤロウ、波の荒い時にばかり言いやがる」
「コンビの信頼感がわかるな」
 サラリと言うと森はゆっくり岩場を下りて行った。そして舌を鳴らしジョーが続く。
 4人は陸地に向かって泳ぎ始めた。

 民宿に着いた頃には昼間とは打って変わって涼しくなっていた。
 彼らは風呂に入ってさっぱりするとさっそく夕食と飲み会を始めた。神宮寺達の使っている2部屋続きの大部屋の真ん中にテーブルを2、3台固め、その上にビールや日本酒、ウイスキーにおつまみなどが置かれている。その他鯛や鱒の生け作り、アワビやサザエ、クキワカメの胡麻和えなどいかにも海辺の町らしい。
 ここは鷲尾の古くからのなじみという事でサービスも良く、料理も1ヶ月分はあるんじゃないかと思われるほどすごい。が、そこは9人の男共。多少の老若はあっても食べる事に関しては底の破れた袋に砂を入れるようなもの。全員で掛かればこれくらいの敵・・・いや料理の量など目ではない。
 特に昼間、他の者より少し多く泳いだ離れ小島組の食欲はすごい。人間開き直るとけっこう入るものである。鯛の生け作りがたちまちのうちに頭と尾だけになった。
「ここら辺は昔から魚のよく獲れる所でな。それだけに新鮮でうまい」
「本当ですね。─長官、ビールを・・・あ、長官ビールはダメでしたっけね」
「飲めん事はないが・・あまり好きではないな」
 彼は森のコップにビールを注ぎ返した。
「ドイツにいたのにビールがきらいなんて、ヒジョーに珍しいですなァ」
「何を言うか、青二才め。お前なんぞコーラで酔っぱらうではないか」
「ハ?」
 鷲尾の言葉に、横から口を出した洸が首を傾げた。
「一平が言っておったぞ。洸はコーラで酔えるから安上がりでいいと─」
「あんの?、変なデマ吹きやがってェ!」
 洸は向きを変える、少し向こうで輪を作っている彼らの中に突っ込むと一平の腕を引っ張りその上にデーンと腰を下ろした。
「な、なんだァ!」
 神宮寺が驚いて声を上げ、ワンカップ大関ひと瓶が彼の手から飛んで行った。。
 ジョーはやっとの思いで箸で刺身を捕まえたところを押されせっかくの刺身を逃がし、風間はその飛んできた刺身が自分のウイスキーのグラスの中を泳ぐのをしっかり見た。
 だが一番哀れなのはなんと言っても洸の下敷きになっている一平だ。彼は好きなウイスキーのボトルを西崎から悪戦苦闘して奪い取り、それをチビチビやりながらサンマのひらきを食べていたのだ。が、今は一平自身が魚のひらきのようにぺったんこになっている。
 彼はまだ何がどうなったのかわからず、洸の下敷きになりながら半ばポカンとしている。が、いつもでもボケている彼ではない。理由(わけ)なんかわからないが洸の下になっていておもしろいはずがない。一平はすぐさま我れに返るとバッと体を起こし洸を跳ね退けた。
「プロレスが始まったな・・」
 唇の周りを舐めながら神宮寺が呟いた。
「こりゃいいや!やれ、一平!そこだ、洸!」
 西崎がわめいた。
 彼はすでにさっき一平に奪われたボトルをしっかりと抱え込んでいる。その素早さはさすがJB捜査課だ。
「こらお前ら!ここは野中の一軒家じゃないのだぞ!」
 森が2人の間に割って入った。しかしそんな事で止まるようではSメンバーは失格であろう。それが証拠に誰も森に期待してはいない。いや、かえっておもしろがっているようだ。JBのチーフとSメンバーとのドタバタ、めったに見られるものではない。
「うるさい!静かにしろ2人共!わめくな、暴れるな!」
「チーフの方がずうっとうるさいぜ」
 赤鬼のジョーが悪舌を打った。
 見ると彼の前にはカティサークのボトルがデンッと置かれている。すでに中味はない。
「うるさくしている奴らを止める者がうるさくしているんなら、うるさくしている奴らはそのうるさい者に同調してうるさいのが増えてさらにうるさくなり、そうするとうるさいの二重になって─」
「もっともっとうるさい奴が出てくる」
 神宮寺のじと目がジョーに横づけされた。
「アッパーカットだ、一平!キックだ、洸!ぶちのめせ!」
 西崎がまだ騒いでいる。洸と一平のお遊びが依然続いているのだ。そこに森が加わっているのだからちょっとやそっとでは止まりそうもない。が、一種の音楽だと思えばいい。周りの連中は無視する事に決めた。
「どうも背中が痛いな」グラスを持ったまま榊原が背骨をぐっと伸ばした。「長い時間車に乗り、すぐ海へ行ったせいかな。いやはや年には勝てんな」
「マッサージしてあげましょうか、ドクター」風間が身を乗り出してきた。「大学にいた頃指圧を習いましてね。ツボはよく知っていますよ」
「そりゃいい。ひとつ頼むとするか」
 榊原はさっそく畳に腹ばいになった。
「あ、あの、ドクター」神宮寺が近づき小声で耳打ちする。「彼は上手ですが、その─」
「いーから。君はジョーの相手でもしていろよ」
「ジョーダンじゃない」
 風間に押し退かされ神宮寺が呟いた。
 ジョーはまだ飲み続けている。いつもならボトル半分でダウンするジョーにとっては珍しい。よほど機嫌が良いか悪いのだろう。
 しかしどっちににしろ、後の事を恐れて神宮寺はジョーに近づかない事にした。
「ぐええっ!」突然、押し殺されたような悲鳴が上がった。洸達かと思って降り返ると声の主は意外にも風間に伸し掛かられている榊原であった。「き、き、君、も、もっとやさしくていねいに可愛く痛くなくできんのかね」
「そんな事してたら効き目はりませんよ。痛いからいいんです。それっ!」
「ぐわっ!」
 榊原が潰れた。だから言ったのに、と神宮寺が憐みの目を向ける。
「この腰の所が1番凝り、また遣り甲斐のある所なんです。─ムッ!」
「ギェェ!」
 とうとう耐えきれなくなり榊原は廊下に飛び出した。
「待ってください、ドクター!やっと巡り会った実習材料、そう簡単には逃がさないぞ」
 そう言うと風間も榊原の後を追って廊下を走って行った。
「これが世界でも1、2の優秀さを争うJBの実態なのか・・」グラスを掲げたまま鷲尾が呟いた。そのグラスにジョーがウイスキーを注ぐ。山盛りだ。「こ、これ、ジュースじゃないんだかぞ。グラスいっぱいに入れる奴があるか」
「い?らありまへんか、ちょ?かん。?アミ?の飲みっぷりをた?ぷりと見せてくださいよ」
「アミ?」
「?ザル?の事ですよ」
 少し離れた所で神宮寺がボトルを振って答えた。
 鷲尾は呆れたようにジョーに顔を向けたが彼の視線に仕方なしにグラスに口をつけた。
 神宮寺はニンマリとすると1人、酒を楽しんだ。
 洸と一平はまだドタバタを続けている。西崎は相変わらず応援している。が、いつのまにか2人を止めていた森までドタバタに加わっている。そう、応援の方ではなく取っ組み合いの方にである。
 止めているのか進んで殴っているのかわからない。しかしあまり大変な事だとは皆思っていないようだ。このぐらいのじゃれあいは彼らにとってむしろ良い運動である。とはいえ夜、部屋の中というのはどうかと思うが・・・。と、そこへ榊原を追って行ったはずの風間がすばらしい勢いで飛び込んできた。
「みんな、ここら辺今夜祭りがあるんだってさ!浴衣のかわい子ちゃんもいるぜ!」
「かわい子ちゃん!」洸と一平も動きがピタリと止まりタイミングを外した森が畳にコケた。「行こ、行こ、祭りに行こ!かわい子ちゃん誘いに行こう!」
「ここらの祭りは荒っぽいぞ。ヘタすると怪我する事になる」
「なに言ってンの、チーフ!誰がおれ達に怪我させられるっていうのよ。さっ、行こ、行こ」
 洸は一平を突き放すとサッと髪と服を直し、いそいそと部屋を出て行った。
「奴だけにいい思いをさせるもんかっ」
 一平も風間もすぐさま彼の後を追う。
「祭りか・・。日本のは久しぶりだな」鷲尾が言った。「どうだ、我々も行ってみないか」
「それはいいんですが、ジョーが・・」
「ジョージ?」
 鷲尾はふと傍らのジョーを見た。と、今まであんなに元気に飲んでいたジョーがいつの間にかひっくり返り小さな寝息をたてている。顔面真っ赤である。
「飲めもせんくせに粋がるんだからな、この子は・・・。隅にふとんでも敷いて寝かせておけ。静かでいい」
 神宮寺がふとんを広げ鷲尾はジョーを抱き静かにふとんの上に降ろした。
「・・重くなったなァ。昔は軽々と抱きあげられたのに・・」彼はジョーの体の上に夏掛けを掛けてやった。そして立ち上がり振り返った。「さっ、祭りに行こう!」

 鷲尾、榊原、森、神宮寺、西崎らが外へ出た時には祭りは最高潮に達していた。
 さすが海辺の町の祭りだ。大漁旗や幟が所狭しと掲げられている。広場の中央にはやぐらが組まれていて2、3人の男達が全身で太鼓を打っている。その周りには踊る人や見物する人でいっぱいだ。
 夜店もけっこう並んでいる。都会の真っただ中に住む彼らにはちょっと珍しい光景だ。
 特に喜んだのは老年組(?)だ。昔懐かしいわたあめやべっこうあめに大騒ぎしている。
「懐かしい、本当に懐かしい。わためなんて何十年ぶりだろう」
「本当に。うちの病院の近くでも祭りはやるけどなかなか行く暇がなくて」
「あっ、あれに見えるはあんずあめ!」
 森の言葉に鷲尾も榊原もすぐさま振り向き夜店に向かって突進した。後に残された神宮寺と西崎はポカンとしたまま3人の行った方を見つめて、ただ黙っている。
 別に作者が台詞書くのをさぼっているわけではない。あまりの事に作者共々声が出ないのだ。
 国際警察長官や日本支部長がわたあめやあんずあめを舐めているシーンを目の前にして、いったい誰が何を言えるだろう。彼らとて例外ではない。と、3人が戻ってきた。
「なにをポケッとしている。君達にもやるからな」
 そう言うと森は神宮寺と西崎の両手に1本づつ赤い実の入ったあんずあめを握らせた。2人はしばしそれを見つめ、長い間そのままの格好で突っ立っていた。


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