コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Valentine panic 2

「こちら神宮寺。目標の現在位置を教えてくれ」
『目標は南品川駅付近、第1京浜を北上している』ハリアの通信機から西崎の声が響く。『もうすぐ品川駅だが、君達のハリアとはその前に出会うはずだ』
「ラジャ」
 神宮寺は一度通信機を切った。
 ダブルJに下された指令は羽田空港でリムジンバスを乗っ取った男の確保だった。男はターミナルに停まっていたまだ乗客を乗せる前のバスに押し入り、運転手を脅して発車させたらしい。
「この男って樋口と中根が張っていた奴だろ」ステアリングを握るジョーが言った。「つまりまんまと逃がしちまったって事か?それでおれ達が尻拭いかよ」
「こいつは国際警察が指名手配をしていた男だからな。おれ達が出るのは当然だ。樋口達に伝わっていた情報とは違う便で着いたというし、空港警察が追ったらしいが・・・」
 男は銃を所持し何発か撃ったらしい。樋口と中根が気がつき、駆けつけた時にはもうすでにリムジンバスに乗り込んでいた。
「どっちにしてもドジを踏んだものだ」
 ジョーの悪舌はいつもの事だ。だが今日の言い方はいつもよりトゲがあるように神宮寺には聞こえた。眉をひそめジョーを見る。が、
「あれだ」目の前の第1京浜を白とオレンジ色のバスが横切った。ハリアは左折し後を追う。「さて、どーしてやろうかな」
 ジョーの口元に笑みが広がる。猛禽類の目が前を行くリムジンバスを標的内に捕らえた。
 しかし平日の昼間とはいえ、第1京浜の通行量はかなりある。ここで大型車両相手にあまり無茶な事はできない。と、バスの横に樋口と中根が乗るパジェロが見えた。
「フン、ドジったわりには動きは早いじゃないか」
「ジョー、いいかげんにしろ」強い口調で神宮寺が言う。「チーム1にはいつもおれ達のバックアップをやってもらってる。彼らの手助けをおれ達がするのはあたり前だろ」
 ムッとジョーが口元を曲げる。
「お前、何をそんなにイラついているんだ?」
「・・・・・」
 ジョーはかすかに眉を立て、瞳だけを神宮寺に向けた。と
「ジョー、ちょっとこっちを向け。口を開けろ」
「は?なん─」向いたジョーの口の中に何かが放り込まれた。甘い。「な、なんだよ、これ」
「杉本さん特製、生クリーム入りトリュフチョコだ」笑顔の神宮寺の横に黒く丸い物が浮かぶ。「お前宛のベルギーチョコから作ったそうだ。だからお前にも食べる権利はある」
 そう言いながら自分の口に入れた。
「疲れている時に甘いものを摂るといいしな」
「・・・・・」
 口の中に広がるかすかなほろ苦さにジョーはキョトンと神宮寺を見た。が、すぐに前に向き直る。口の中のチョコを噛もうかどうしようか迷う。そのうちチョコは溶け出した。ジョーはあわてて飲み込んだ。
「・・・苦ぇ」
「そうか?」
「─うまいけど」
 そーだろ?と、まるで自分が作ったように神宮寺が笑った。ジョーにの口元も穏やかな笑みが浮かぶ。
 まったくこいつはヘンな奴だ。でもおれは一生こいつには敵わないのかもしれないな─。と、前方のリムジンバスが右折した。海の方へ向かう。
「よかった。これで少なくとも東京タワーに突っ込む事はないな」
「そんな事を考えていたのか」
「奴は麻薬常習犯だろ。何するかわからないぜ。早く抑えた方がいい。中根!奴を竹芝へ追い込むぞ!バスの左側につけ!途中、曲がらせるンじゃねえぞ!」
『ラ、ラジャ!』
 一瞬怯えたような中根の声だ。ジョーに対する苦手意識はまだ続いているらしい。
 だがジョーは気にしない。何と思われようがそれは相手の問題で自分には関係ない事だ。任務中に自分の邪魔をしなければそれでいい。
 第1京浜から竹芝埠頭へと続く道を、真ん中にリムジンバスを置き、右にジョー達のハリア、左側に中根の運転するパジェロがピタリと貼りつく。と、途中の交差点でバスが右折しようとハリアに向かってきた。
「させるかっ!」
 ジョーがステアリングを左に切り、ハリアをバスにぶつける。しかし相手はゆったりと乗れるよう作られている大型バスだ。大人と子どもの勝負のようだ。
「くそォ、乗っ取るならもう少し小さな車にしてほしいぜ」
 ジョーがグチりアクセルを踏み込む。
 接触したままの2台は右に曲がりきれず結局元の道に戻るが、右に押し出されていたハリア戻りきれず、バスに挟まれたままガードレールをズーと擦っていく。
「潰されるぞ!」
 神宮寺が叫んだ。ジョーはブレーキを掛け、すぐさまギアをバックに入れた。タイヤが一瞬、空転する。シートベルトが体に食い込んだ。
 だがバスがすぐに左に避けてくれたので、ハリアはうまくバスとガードレールの間からバックで脱出した。
「奴に脅かされているんだろうが、無茶をする運転手だ。ヘタしたらバスごと大破だな」
 と、バスが左折した。
「この先は海だ。もうどこにも行かれないぜ。中根!左のホテル側に停めろ!道を塞ぐんだ!」 パジェロがバスから離れホテルに通じる道を塞ぐように止まった。目の前に広がる海にバスは行き場を失い、急停車する。その後ろ20メートルにハリアも停まった。
 遠くからパトカーのサイレンが近づいてくる。だが彼らはここまで入ってはこない。これは国際警察の仕事だ。要請があるまで一般警察は手が出せない。
 ジョーと神宮寺がダッシュボードからそれぞれの銃を取り出し車外に出た。パジェロの2人はバスが急発進した時に備え車内に残る。と、バスの車輪が動いた。神宮寺のオートマグが車輪を撃ち抜く。
 銃声の、長い余韻を残しバスが止まった。と、ドアが開き運転手を引き連れた男が降りてきた。
「Non verge、fermara(来るな、止まれ)」
 運転手に銃を突きつけ、男が言った。
「Getta via una pistola in quel luogo(そっちこそ銃を捨てろ)」ジョーの声が響く。その言葉に神宮寺が驚いて相棒を見た。「あいつ、ヤクやってるかな」
「ん・・・」神宮寺が男の顔を見る。遠いのではっきりとはわからないが目がキョロキョロとおちつかず声の調子もなんとなく変だった。「可能性はあるな」
 と、男が2人の方に向かってゆっくりと歩き出した。2人は一瞬体を引く。やはり行動が変だ。麻薬の影響だろうか。だとしたら予測もつかない事をするかもしれない。
 それを見た樋口と中根がパジェロから降りようとした。が、神宮寺が止めた。
 突然男が走り出した。運転手の手を取りグルッと遠心力を使い神宮寺にぶつけてきた。神宮寺は運転手を受け止めそのまま後ろに倒れた。
「ヤロウ!」走っていく男に向けジョーはウッズマンを撃った。が、「─え」
 弾丸が男の足元で跳ね返る。もう一発、やはり男の足を狙ったがこれも地面を跳ねた。
「な、なんで─」
 ジョーは一瞬呆然となった。
「ジョー!あの先は水上バスの発着所だ!」
 神宮寺が叫んだ。
 我れに返りジョーが男の後を追う。
 200メートル先に水上バスの浜離宮発着所がある。しかしそこへ行くまでの道は3台のパトカーで塞がれている。いくら手出しはできないと言っても、逃げてくる犯人を見逃す事はしないだろう。パトカーから私服の刑事や警察官が降りてきた。男が警官達に向かって銃を撃った。皆パトカーのドアに隠れる。
「Farmara!(止まれ)」
 ジョーが叫んだ。だが男は止まらない。銃をかざし突っ込んでいく。
 ジョーが両手でウッズマンを構えた。銃口を再び男の足に向けた。だがもしまた撃ち損じたら弾丸は後方のパトカーに着弾する。一瞬そう思ったのだが─。
 ジョーはトリガーを引いた。パトカーのドアがボクッとへこんだ。続いてもう一発─男が倒れた。撃たれた足を引きずり、まだ進もうとしているのを警官達が抑えた。
「樋口」神宮寺が合図し樋口と中根が男の引渡しを求めに向かう。と、ウッズマンを下ろしたものの、まだ呆然としているジョーに、「Capisce Italiano?(イタリア語がわかるのか)」
「え?・・・ああ」
 息を吐いてジョーが答えた。
「驚いたな。いつの間に話せる様になったんだ?」
「まだカタコトだ。短い言い回ししかわからない」
 2人の横を、男を確保した樋口達が通る。手を上げて2人に礼を言ったがジョーは答えなかった。
 射撃が自慢のジョーだが百発百中というわけではない。しかしこんなに外れたのは初めてだ。フロント・サイトが狂っているわけではない。原因は明らかに自分だ。と、神宮寺が自分を見て何か言いたそうにしているのに気がついた。
「独学だとやっぱり限界があるな。正しい発音がわからない。だけど仕事で使う言葉はとりあえず覚えたぜ。“Metta su und mamo(手を上げろ)”とか“Non loNon lo resistere a”“Io lo sparo quando io mi muovo(動くと撃つぞ)”─」
「色気のない台詞ばかりだな。イタリアならまず女性を口説く言葉を覚えなきゃ」
「容疑者相手に“ Io l'amo(愛してます) ”って言ってどーすんだよ」ジョーが苦笑し、やっと全身の力を抜いた。「行こうぜ。樋口たちが待ってる」
 これ以上神宮寺に何も言わせないようにジョーは踵を返す。と、胸のホルダにウッズマンを仕舞った。

 JBの食堂のメニューは十数種類の定番がほとんどだが、日替わりメニューもある。今夜の夕食のクリームシチューがそうだ。にんじんやじゃがいもの他にブロッコリーやしめじが入った杉本お得意の一品だ。どうやらチョコレートシチューは諦めてくれたらしい。
「よかった。チョコレートの中に浮いているにんじん、というのもビジュアル的にはどうも─」
「でも試食品はあるぜ。クリームシチューを頼んだら、“おまけがあるよ”って見せられたもん。もちろん断ったけど」
 捜査課のメンバーが話している横を、任務を終えた神宮寺とジョーがクリームシシューの乗ったトレイを手に窓際の席に向かう。
「神宮寺」西崎が声を掛けた。「お疲れ様。手間掛けて悪かったな」
「なんの。チーム1にはいつも世話になってるしな」
「おかげで明日はチーム1全員がオフだ。洸のパーティに行けるぞ。君達も明日は午後からオフなんだろ?仕事が入らないといいな、ジョー」
「え?」暖かいシチューをひとさじ口に入れジョーが顔を上げた。「パーティ?」
「やだな、ジョー、おとといここで洸が皆を誘っていたじゃないか。君もいたぜ」
「・・・・・」そういえばそんな話をしていたような気がする。だが?皆?の中に?自分?が入っているとは思わなかった。「で、なんのパーティだ?」
「モトクロスのライセンスが昇格したらしい。君と同じく洸も仕事の合間にレースに出てポイントを稼いでいって。もっともただ騒ぎたいっていうのもあるみたいだけど」
「ふうん・・・」ジョーはかすかに眉を寄せたが、スプーンを置いて、「疲れたから、おれ先に上がるぜ」
 トレイを持ち立ち上がる。そのまま食堂を出て行った。
「疲れた?ジョーが?」西崎は驚いてジョーの後姿に目をやる。「何かあったのか?」
「いや・・・」
 珍しく神宮寺が口籠った。

 ジョーは東館から西館に移りエレベータに乗った。壁に体を預け息をつく。
 疲れていると言って出てきたが、疲れてなんかいない。左腕の痛みもなく、今から事件の1つや2つ担当できそうだ。フルマラソンだって走れるかもしれない。だけど─
「あれー、ジョー」2階で止まったエレベータへ洸と一平が乗ってきた。「もう帰るの?見事にバスジャック犯を抑えたようだね。これで樋口と中根も明日休める」
「え・・・と・・、洸・・・」
「ジョーがぼくの家に来るのは久々だね。JBに入る前はよく友人達を呼んでパーティをしたものさ。この前の時は君いなかったし─」
 フランスに行っていた時だろうか。それとも入院中だったか─。
「今回は絶対来てね。おいしいワインを用意したし」
「・・・・・」
 ジョーがちょっと困ったように目を背けた。と、エレベータが地下駐車場に着いた。
 ジョーは先に降りるとエレベータの近くに停めてあるセリカに乗り込んだ。
「待ってるよ?!」
 手を振って洸が見送る。セリカがスロープの向こうに消えた。
「洸、どうしてそんなにジョーに気を遣うのさ」今まで黙っていた一平が不機嫌そうに言った。「お前のコンビはこのおれだぜ。それともジョーの方がいいのかよ」
「そんなんじゃないよ。ただ─」ちょっと言葉を切り、再びセリカの消えた方へと目を向ける。「ジョーは一度この仕事を辞める決心をしたんだ。たとえ本心じゃなくてもそう決心するまで相当苦しんだと思うよ。でもぼくは自分のわがままで彼に言いたい事言って、この世界に引き戻してしまった。だから責任とらなきゃ」
「・・・・・」
 目を見開き一平が洸を見つめた。
 ジョーがこの世界に戻ったのはあくまでも彼の意思だ。光はそのきっかけを作ったにすぎない。そんな責任をとる必要はない。だが、
「お前にお守りされたらジョーも気の毒だ!だけどそんなお前はなかなか格好いいぜ!」
 一平が両手を広げ洸をギュッと抱きしめた。
「わっ、や、やめろ、一平!」洸が暴れる。「ぼくにはこーんな趣味はない!」
「おれもない。しかし今はこうしたい!」
 広大なアメリカ育ちの一平は、時々ストレートに自分の気持ちを出す。だが相手は男だ。おまけに場所的にも誤解(?)を受けやすい。
「ひぇぇぇ??!」
 状況が状況だけに助けを呼ぶ事もできず、洸はジタバタし続けた。


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