コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Valentine panic 3

「こんな赤坂の一等地に2LDKのマンションを持ってるなんてすごいな、洸」
「って、ここ元々ぼくの家だよ」ポテトチップをつまみ洸が言った。「ぼく赤坂生まれの赤坂育ちだもん。2、3年イギリスで暮らしたけど。父さんと母さんは仕事でイギリスにいるから、今は一人暮らしだけどね」
 そーなんだ、と西崎や伊藤らが頷く。と、玄関フォンが鳴った。
「あ、神宮寺達だ」洸が出迎える。と、確かに神宮寺とジョーが立っていた。「遅かったから先に始めちゃってるよ。何かあったの?」
「いや、パトカーに穴開けちゃったから始末書を書いていた。これお土産」
「えっ」神宮寺が持ってきたダンボール箱を渡され洸が声を上げる。「まさかチョコレート!?」
「違うよ。ジョーの所のワインだ。フランスからの直輸入だぜ」
「わあすごい!シャトー・マルゴーにシャトー・オー・ブリオンに─」箱から次々とワインを出しテーブルに並べていく。幸子が送ってくれた物だ。「こんなにたくさんいーの?」
「家にまだあるんだぜ。おれはヤマタノオロチじゃねえぜ」
 苦笑しつつジョーが言った。昨日はあまり乗り気ではない様子だったが、とりあえず機嫌はいいようだ。
「半分はおれのだ」
 さりげなく所有権を主張する神宮寺にジョーは肩をすくめた。
「じゃあもう一度乾杯しようぜ」一平が神宮寺とジョーのグラスにシャンパンを注ぐ。「洸、モトクロスライセンス、国際B昇格おめでと!」
 グラスを掲げみな口々に繰り返した。
「ありがと、ありがと。─ん?、何回聞いてもいい響きだ」
「モトクロスの国際Bって?」
 グラスを空け神宮寺が訊いた。
「MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)の主催するモトクロスレースに出場できるライセンスさ。今まで国内Aだったけど、国際Bに昇格したから全日本選手権にも参加できるんだ」
 洸のモトクロス歴は長い。
 5才の時に両親の仕事の関係で一時イギリスで暮らし、帰国した8才の時からMFJに入りモトクロスを楽しんできた。
 16才になり正式にバイクの免許が取れるようになると本人の希望により国内Aへ昇格する。その後は地方選手権や公認レースに出場し、1年間で得たポイント─例えば1位は20点、2位は17点というように─によって、上のライセンスが収得できるのだ。
 光はその実力だけをみれば全日本はもちろん世界選手権に出場してもおかしくないのだが、レースに出なければ昇格に必要なポイントが得られない、という事がネックになっていて同等の力を持つ者達の中では遅い昇格となる。だから嬉しさもひとしおだ。
「JBの養成所時代はレースに出られなかったし、JBに入ってからもなかなか日にちが合わなくて苦労したよ。でもまだ上がある。今度は世界選手権に出られる国際Aを取るつもりさ」
「ふうん・・・」
 ジョーがうらやましそうに洸を見た。
 レースに関しての状況はジョーも似たようなものだ。彼は先日、国際ライセンスを取るのを諦めている。
「偉いぞ、洸」
「必ず出ろよ。世界選手権!」
「そしたら応援に行ってやるからな。旅費はすべて洸持ちで!」
 伊藤や樋口、立花が煽てる。
「まかせて?」と洸も調子がいい。「あ、まだおつまみあるんだ。高浜がいないから減らないや」
「妹さんの結納だって?健康そうな妹なんだろうなァ」
 伊藤が言った。
「それがすごい美人だよ」立花が伊藤にワインを注いでやる。「背が高くてスマートで」
「え?、ホントか?」
「近くにそんな美人がいたのか?」
「惜しかったなァ」
「西崎の妹も美人だそうだ」ジョーが自分でワインのボトルを傾けている。普段は多くは飲まないが雰囲気でグラスが空いていく。「弟もピチピチの18才だってよ」
「弟がピチピチしててもなァ」樋口が苦笑し、「今度紹介してくれよ。もち、妹の方だ」
「やーだよ。大事な妹だ。見てくれだけの奴に会わせられるか」
 と、チラリとジョーを見る。
「なンでおれを見るんだよ」
「そーだよな。この外見だけで女の子が騙されて、チョコを─」ジョーに睨まれ一瞬口を閉じた立花だが、「ところでジョーはどこであんなにチョコを貰ったの?」
「知らねーよ。行きつけのサ店に行ったらマスターに押し付けられた」神宮寺と同じだ。「でもこんなにチョコ貰っているのに、どうしてデートできないんだろう」
 ジョーの言葉に一同─特にダンボールクラスの神宮寺と西崎─はウンと頷いた。
 普通に考えればチョコレートの数だけ彼らを見ている女の子がいるはずだ。なのに彼女達はそれ以上のアプローチをしてこない。名前も連絡先もチョコには入っていないのだ。
「絶対、誰かのインボーだよな?」
 と、ジョーは言うが・・・。
 確かにジョーも神宮寺も見てくれは良い。少し離れた所からいつまでも見ていたいと思わせる 。だがそれ以上近づくと・・・。
 彼女達は女のカンで、普通の男とは違い─自分達の手に収まる事はないだろうと見抜いているのかもしれない。それが証拠に洸や一平も、そして西崎や立花達が貰うチョコも同様だ。いわゆる義理チョコや友人から貰うものを抜かせば、送り主を指定できるものはない。
「は?い、追加のおつまみ?。杉本さん特製のウイスキー・チョコボンボン」
「あ?、杉本さん、またこんなの作ってる」
「ワインにウイスキーチョコって、ヘンじゃないか?」
 と、文句を言いながら口に放り込んでいる。それから一同は学生時代に付き合った女の子の話に花を咲かせた。
 一平はかなりモテたらしく、ハイスクールのダンスパーティでは10分ごとにパートナーが変わったという話をして皆に突っつかれた。
「神宮寺なんかモテたんだろ。見てくれもいいし頭も良さそうだし」
「君、X線を発見したレントゲンとウランを発見したキュリー夫妻とどっちが好み?─な?んて!」
「そんなデートあるかっ」神宮寺のグーが樋口の後頭部をパカンと鳴らす。「第一、キュリー夫妻が発見したのはラジウムだ。ウランじゃない」
「ジョーだって見かけだけはいいからモテただろ」
「だけってなんだよ」
「ターゲットスコープ・オープン!右5°修正、目標ロックオン!狙った女の子に向かってバルカン砲発射!」
 パコン!と立花の後頭部が鳴った。
「なんか暑いな。少し窓開けるぜ」
 あ、逃げるな、ジョー!とわめく立花を無視し、ジョーがベランダの大きな窓の前に立った。
 ワインも手伝って暑がりのジョーには暖房が効きすぎているようだ。窓に手を掛け、しかし眼下を見てその動きが止まる。ブルーグレイの瞳が不思議なものを見たように見開き、記憶の中に埋もれたものを一心に浮かび上がらせようとしている。そして─
「あれは・・・Grundschuleか」
「グル・・・?なに?」洸が首を傾げると、小学校の事だ、と神宮寺が教えてくれた。「ああ、赤坂小学校だよ。その向こうの中学もぼくの母校さ」
「おれもあの小学校に行っていた・・・」えっ!と洸が声を上げる。「3年生の3、4ヶ月だけだったが」
 そういえば当時の鷲尾の家は赤坂にあった。ジョーはわずかの間だが地元の小学校に通った事がある。この辺りは赤坂小学校の校区だ。
「えー?でもジョーみたいに目立つ奴がいたら、絶対忘れないと思うんだけど」洸が再び首を傾げた。「それってジョーが3年生の12月から3月まで?と、いう事はぼくは2年生・・・あー、そうか!ぼくその3月に帰国したばかりだ!」
 つまり2人が同時に在学していたのは1ヶ月もなかったのだろう。洸は授業以外は校庭にいる子で、ジョーはめったに教室から外へ出なかった。それだけでも接点はかなり減る。
「あ、ちょっと待って。あれってもしかして─」
 そう言うと洸は奥の部屋へ走って行ってしまった。
「驚いたな。こんな偶然ってあるんだ」西崎が言った。「イギリスから帰国した洸とドイツから来たジョーが同じ小学校に入って、そしてJBで顔を合わすなんて─」
「ここには以前に一度来た事があるが、小学校にはまったく気がつかなかったぜ」
「あったー!これこれ!」洸が厚ぼったいアルバムを抱えて戻ってきた。「3学期の終業式の前にドッチボール大会があっただろ?その時父さんが撮ってくれた写真なんだけど」
 そこには体操服姿の小学生の洸がボールを受けたり投げ返したりしている姿があった。幼い頃からのライオンヘヤーが太陽の光を浴び、健康な肢体がのびのびと跳ねている。
「これ、この後ろの方に写ってるのって─」
「ジョー?」神宮寺が呟いた。洸の後─別のコートでの試合が写り込んでいる。その端にブロンドの背の高い少年が─「これ、お前だろ、ジョー」
「え?でも」覗きこんだ樋口が言った。「この子金髪だぜ。ジョーは─」
「おれ、ガキの頃ブロンドだったんだ」写真に目を向けたままジョーが呟く。「中学を卒業した頃から今の髪の色になって─」
 確かに鷲尾に引き取られた頃のジョーは髪も明るいブロンドで瞳も今より青かった。
 写真の中に写るジョーは太陽を背にしたように金色の髪を輝かせ、体操服のハーフパンツからはスラリとした長い脚が伸びていた。3年生にしては大きな体が、だがあまり気がなさそうに立っている。
「この写真見たのってかなり後で、ずーと気になっていたんだ。その時にはもう君は赤坂小にいなかったし。別の学校に転校したの?」
 洸の問いにジョーは頷き再び写真の中の自分に目を向けた。正直言ってこの頃の事はあまり覚えていない。ドッチボール大会があったのかさえわからない。
「ジョー、この写真焼き増ししようか?」
「・・・・・」
 ジョーは一瞬迷ったがやがて首を横に振った。
 この頃の写真は鷲尾家にある。ジョーが欲しいのはこの前の、両親と暮らしていた頃の─。
 それはそこにいる全員にもわかったのだろう。なんとなく静かになってしまった。と、
「だけどJBだけじゃなく小学校でもおれの後輩だったとはな、洸」ニッとジョーが口元を歪める。「これからはおれを二重の先輩として崇め、なんでも言う事を聞くんだぞっ」
「ひぇぇぇ??、余計な事を思い出させてしまった?」
 ハムレットのように天に手を伸ばし嘆く洸の姿に笑い声が上がり、皆はまたワインを注いだり生ハムのサラダやピザをつまみ始めた。
 ジョーもソファに戻る。
 だが彼が無意識のうちに左腕を押さえているのを神宮寺だけが気が付いていた。

 手にピタッと吸いつくように収まるグリップを握り、意外に長い指をトリガーに掛けた。
 いつもと変わらぬ破裂音と共に、30メートル向こうのターゲットの中心に着弾する。続いてもう1発・・もう1発・・。
 装填弾を撃ち尽くしジョーがイヤープロテクタを外した。
 長い枯葉色の髪がバサッと後ろに引かれる。プロテクタをそのまま首に引っかけ、ジョーは手にしているウッズマンを見た。
 フロントサイトもリアサイトも狂ってはいない。スライドもスムーズに動くしトリガーもいつもの軽さだ。ウッズマンにはなんの変りもない。やはり自分か・・・。
「ジョー」呼ばれて振り向くと、そこにはイヤープロテクタと44オートマグを持った相棒の姿があった。「珍しいな、午前中に出てくるなんて。オフ明けはいつも重役出勤なのに」
「たまには、な」
 ジョーはちょっと口元を歪め、それからまじまじと相棒の顔を見た。
 昨日洸の家で皆と一緒に飲んで─確かこいつはワインを2、3本、それからウイスキーとブランディと、あと一平の作ったナントカいうカクテルも味見していた。
 それが夜まで続き─なのにその翌日の午前中になんでこんな爽やかなツラしていられるんだ?
 途中でドロップアウトしたおれでさえ、今朝は頭の中をゾウの群が走っていたのに─。やっぱ?アミ?だ。
「なんだ?」
 いつまでも自分を見ているジョーに、神宮寺が不可解な顔を返す。
「いや、お前の?アミ?は、ろ過装置でもついているのかと思って」
「?」
 神宮寺は眉をひそめたがあえて意味は訊かなかった。こういう時のジョーはロクでもない事を考えているのだ。
 ふとウッズマンに目をやる。太いバレルの、銀色に輝く美しい銃だ。短時間のうちにジョーの手に馴染んでしまった。車と銃の好みにはうるさいジョーにはまさしく出会うべくして出会った逸品だ。
 と、自分の愛銃に目をやっている神宮寺を、オフ明けの不機嫌さといつもの圧倒的な威圧感を押し付けるような目つきで睨むジョーに気がついた。
 こいつはいつもそうだ。こうやっておれに口を開かせないようにする。
  そう言えばさっき─。
「ジョー、お前榊原さんの頼みを断ったそうだな」
「えっ」鋭い瞳が丸くなる。珍しく素直に動揺している。「どうしてそれを」
「さっき榊原さんがチーフに報告していた時、おれもその場にいたんだ」
 榊原の頼みというのは─。
 中野坂上の榊原病院で10才の子が手術を受ける。それ自体は難しいものではない。が、1つだけ懸念すべき事があった。
 その子どもの血液型はRHマイナスのO型。日本はもちろん世界的にみても珍しく、少ない血液型だ。おそらく血液センターのストックで大丈夫だと思うが、万一の場合にはジョーに協力を頼みたい、という。
 だがジョーの仕事を熟知している榊原は、もし輸血の後に事件が起きてジョーが動けなくなると困ると思い、まず森に説明して協力を頼んだ。
 森は反対だった。
 もちろん最終の決断はジョー自身がする事だが─。
 そのジョーから断られたと榊原が森に報告している時、神宮寺がチーフの部屋に居合わせたのだ。
「そうか」ジョーの瞳がいつもの鋭さを再び取り戻す。「それなら問題ねえな」
「本当にそれでいいのか?」
「チーフが反対しておれが断った。それ以上何があるんだ?それに─」カチッと音をさせマガジンがジョーの手の上に降りてきた。「おれの血なんて誰も望んではいない。ましてや子どもに、なんて・・・。おれの血はおれで断ち切る」
 言い切った口調とは裏腹に、かすかな後悔の色と後ろめたさからか、ジョーは神宮寺から顔を背けウッズマンに新しいマガジンを装填した。
 ガシャンと響く音に、ジョーの態度に、
「なに格好つけてるんだ」神宮寺には珍しく硬く冷たい声が響く。「自分は輸血で散々世話になっているくせに、自分は協力するのはいやだという事か。勝手な奴だ」
「!」
 ジョーの、突きさすような視線が神宮寺に向けられた。
 森や鷲尾でさえ一瞬黙らせるブルーグレイの瞳が、しかしその威力を急速に失っていく。ゆっくりと神宮寺から眼を逸らし手元のウッズマンに移す。長い前髪が彼の瞳を隠し、キュッと口元が結ばれた。
「すまん─。言い過ぎた」
 詫びる神宮寺にジョーはかすかに首を振ったようだった。
 ジョーの自分勝手な言い分はともかく、彼がこう言うしかない心境を理解したいと神宮寺は思 っていたが、彼とてジョーと2つしか違わない若者だ。ジョーの言葉や態度に反感を持ち、時には相手にぶつけてしまう。それもまた彼の素直な想いの表れなのだが─。
 と、リンクとスピードマスターが同時に鳴った。チーフからの呼び出しだ。
 2人はイヤープロテクタを収納ボックスに放り込み、7階のチーフ室へと急いだ。


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