コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Valentine panic 4

「これを見てくれ」
 森はデスクの上に置かれた物を指差し4人の男達に言った。
「これってバレンタインのチョコレート?」洸が呟く。確かに綺麗に包装されたチョコの箱とその横には2つに割られた丸いチョコがあった。「チーフがぼく達にチョコくれるの?」
「私が君達に愛の告白をしてどうする」真顔で言う森を神宮寺やジョー、一平が恐ろしいものを見るように眼を向けた。「問題はこのチョコの中味だ。なんだと思う?」
「この中の白い奴ですか?」神宮寺が2つに割られているチョコの1つを摘まみ上げた。目の前に掲げ鼻を近づける。ちょっと突っついてみた。「もしかして・・・ヘロイン?」
「その通りだ。鑑・研で調べたところかなり純度の高いものらしい。実はこれは一昨日君達が捕らえたバスジャックの男が持っていたもので、これと同じチョコが日本に輸入されているらしい」
 男を取り調べた山田と眉村が森に報告を挙げてきた。それによると、イタリアの密輸組織が日本にヘロインを送るためにチョコレートに仕込んだという。日本は今バレンタイン前で外国からも大量のチョコが入ってきている。それに紛れ込ませたらしい。
 だが国際警察から指名手配を受けていた男が捕まり、このチョコの存在が明らかになった。
「ではこのチョコは市場には出ていないんですね?」
「各方面に協力を頼み、今市場調査をしている。結果が出るまでには何日か掛かるだろう。君達にはこのチョコが運ばれた輸入会社に向かってほしい。今日の午後2時からヘロイン入りのチョコの受け渡しがあるらしい。だがチームは今全部出払っていてね、君達のバックアップに入れるのは各課長達だけだ。それも通信のみで現場には入れない」4人が頷く。「男が押さえられた事で取引は中止されるかもしれないが、万が一という事もある。頼むぞ」
「はい」
 4人が答えチーフ室を後にした。が、1番最後に出ようとしたジョーがチラッと森に目を向けてきた。なんだ?というように森も見返したが、結局ジョーの口からはなんの言葉も発せられず、彼はすぐに神宮寺達の後につき森の視界から消えた。

 4人は一平が運転するハリアで、男がカタコトの日本語で白状した隅田川沿いの会社兼倉庫に向かった。
 Sメンバーが4人揃って出動するのは珍しいが、バックアップがないので万一を考えたのだ。 ジョーはスピードマスターに目をやった。
 榊原は手術は2時からだと言っていた。もう始まっているだろう。血液センターのストックで大丈夫だろうか。ま、おれが承知したとしてもこの状況ではどっちにしろ無理だったのだが。
 だけどもしもの時は・・。仕事を早く終わらせれば─。
「あの建物だな」
 大きなビルの陰にハリアを停め一平が言った。割と広い敷地を持つ会社で、開けっ放しになっている門の横には男の口にした会社名の書かれた看板が掛けられていた。敷地内には3、4台の車と通勤用らしいバイクが置かれている。
「もう取引は始まっているのかもしれねえな」
 建物を眼にしたとたん、ジョーの中から榊原や子どもの事は消えていた。高額になるヘロインの取引現場に武器も持たずに来る奴はいないだろう。奴らはどんな手を用意しているのか。他の事を考えている余裕はない。
「ちょっと様子を見てくる」隣に座っている神宮寺が何か言おうとしたが、「お前は残って指揮を執れ、なァに、覗いてくるだけさ」
「お前の言う?ちょっと?は、どこまでなのかわからんからな」
「大丈夫。ぼくが付いて行くよ」
 早くも車外に出たジョーを追い洸も降りた。
 2人は門を避けブロックの壁伝いに細い道に入っていく。30メートル程で行き止まりになった。ちょうど建物の左側に当たる。壁の高さは3メートル程か。
「ここからなら入れそうだね」
「へっ、わかってんじゃねーか」
 早くもブロックの足場を探す洸にジョーが言った。
「こーいう時のジョーはわかりやすいからね」
 という事は、神宮寺もおそらく─。ま、あいつがわかっててくれれば心強いが─。
「トウッ!」
 ひと声上げ洸が跳び上がる。身の軽さは天下一品だ。あっという間に壁の向こうに消えた。
 ジョーも足場を探しブロックを登る。洸のようにはいかないが、大きな体のバネを使い難なく敷地内に飛び降りた。そのまま建物横の小さなドアから入いる。薄暗く長い廊下が続き、等間隔にドアが並んでいる。だが人の気配は感じられない。
「静かだね。やっぱり取引は中止になったのかな」
「ん・・・」
 だが門もドアも開いているのに人がいないというのは・・・。やばいと思って早々にずらかったのか。
 2階も3階も誰もいなく2人は4階に上がった。やはり薄暗い廊下を進む。 ─と、2人の足が止まった。一瞬顔を見合わせしかしすぐに前を向く。突き当たりの部屋から明かりが漏れていた。
「行くぞ」
 低く響くジョーの声に洸が頷く。ドアの、ほんのわずかな隙間から覗き・・・しかし人の気配はなかった。
 ジョーが思い切ってドアを開けた。20メートル四方くらいの部屋だ。誰もいない。
「チェッ!やっぱずらかった後みたいだな」ジョーがウッズマンを胸のホルスタに収めた。その時、「うっ!?」
「なに!?」
 2人が同時に声を上げた。ガラガラ・・・とハデな音をたてて、今入ってきたドアにシャッターが降りてきた。駆け寄る洸の目の前でガッシャン!と閉まる。
「ジョー」
「油断するな」
 2人が背中合わせで辺りに目を向ける。と、どこかでカチッと音がした。2人の瞳がその方を向く。部屋の中にはダンボールが重ねて置かれているがどうやらその中から音がしたらしい。
 ジョーが近づこうとして─スピードマスターが鳴った。
『ジョー!大丈夫か!』待ちきれなくなった神宮寺だ。『どこにいる!』
「4階だ。え?大丈夫かって─。中が見えるのか?」
『なに言ってる。正面のドアのシャッターが勝手に降りてしまったぞ!』
「あ?あ、そっちもか。実は部屋のドアにもシャッターが降りて閉じ込められ─」
「ジョー!」ダンボールを覗き洸が叫んだ。「時限爆弾だ!タイマーが作動している!」
「なんだってっ」ジョーがダンボールを覗くとチョコレートの群の中にそれより少し大きい箱が1つ混じっていた。正面のカウンターが数字を刻んでいる。「あと5分か」
『ジョー、今から一平とそっちへ行く』
「待て神宮寺。ここには誰もいない。こいつはトラップだ。それよりおれ達がこの建物に入ったのを見ていた奴が外にいるはずだ。そいつを確保しろ」
『ジョー、建物の横は薬品工場だ。ヘタするとこの辺一帯が火の海になるぞ』
「大丈夫、任せとけって」ジョーが通信を切った。と、「洸」
 見ると洸はダンボールを足掛かりに壁を登ろうとしている。目指すは3メートル上の明りとりの窓か。
「ドアがダメなら窓から出るまでさ。ジョー、あの窓をぶち抜いてよ」
 洸の言葉にジョーがウッズマンを取り出した。22口径LR弾が窓ガラスを撃ち抜く。
 ガシャン!とガラスがその下の洸に降りかかる。が、洸は壁にピッタリと体をつけ避けた。手を伸ばし窓枠に辿り着いた。
「ジョー、出られるかな・・・。ジョー、爆弾の箱をぼくにちょうだい」
「どうする気だ」
「いいからぼくに任せて。そのまま静かに上に放り上げて。タイマー式だから振動には強いと思うよ」
 確かに手渡しするにはちょっと高い。ジョーは洸の言うとおり箱をスッと持ち上げるように放った。と、洸は膝で箱を軽くリフティングし手の中に収めた。
「む、無茶するぜ」
 さすがのジョーも一瞬ドキッとした。
 以前一平が、無茶をするのは洸の方だと言っていたのを思い出し本当だったのかと納得した。機械に対しては天才的な眼を持つ洸だ。一目見て多少の振動には耐えられると判断したのだろうが─。と、
「洸!」ジョーが叫んだ。なんと洸はそのまま窓から身を躍らせたのだ。ジョーはてっきり川にでも投げ込むと思っていたのだが。「な、なにをやってるんだ」
 ジョーも壁を登り始めた。
 明りとりの窓は下から見たのより小さく、ジョーの大きな体ではギリギリだったがなんとか身を乗り出し下を見た。ちょうど1階くらいの高さの所にスレートの屋根が見える。洸はそこに飛び降りたらしい。建物の横を正面に向かって走っていくのが見えた。
 
 その洸はジャケットの胸に爆弾を入れハリアへ急いだ。ハリアへ行けば工具がある。しかし解体している時間があるだろうか。
 幸い門は閉まっていなかった。だがその前で神宮寺と一平がバイクに跨っている若い男を止めていた。男はバイクのエンジンを掛け強引に発進しようとしている。
 後ろから一平が組みつき引きづり降ろそうとしたが、肘鉄を食らい体が後ろに跳んだ。神宮寺はハンドルを持ち、止めている。
 あの男がジョーの言っていた?奴?だろうか。
 男が神宮寺を殴ろうと手を伸ばした。その手を引き自分の体ごと地面へ倒す。下になった神宮寺が男の腹を蹴り上げた。男は地面に転がる。一平が押さえ込んだ。
「洸」神宮寺が、こちらに走ってくる洸を見つけた。「よく出られたな。ジョーは?」
「さあ、どこかでつっかえているかも!それよりそのバイク貸して!」
 言うなり洸はヒラリとバイクに跨った。左足でフートチャンジレバーを踏みつける。アクセル全開で飛び出した。
「つっかえる?」
 その時どこからか、バキッ!ワァ!と何かが壊れる音と叫び声がした。
「くそォ、あの屋根め。洸の時は大丈夫でなんでおれの時は壊れるんだっ」
「どうしたんだ?」
 腰を押さえながら走ってくるジョーに目を向けた。
「なんでもねーよ。それより洸は?」
「バイクに乗ってどこかへ行っちまったぜ」
「なんだって!」神宮寺の指差す方へジョーが顔を向けた。「あいつ爆弾持ったままなんだ。いったいどこで処理するつもりだ」
 周りは薬品工場や製紙工場などが立ち並んでいる。それこそ川へでも投げ込まなければ。こんな所で爆発したら大変だ。
 そう、洸は川を─隅田川を目指していた。
 周りに工場が多い事は、ここへ来るまでの道のりでわかっている。爆弾の規模はわからないが、もし大きさに反して威力の強いものだったら─。
 洸はペダルを踏みギアチェンジしスピードを上げた。
 普段乗り回している750に比べれば250のこのバイクが軽く感じられる。洸は建物の明りとりの窓から見た隅田川の位置から正確にそこへ辿り着く道を選んでいった。
(川だ!)
 目の前にコンクリートの車止めが映り、その向こうにはまだ春遠い隅田川の姿があった。
 洸は川面に船のない事を確かめるとジャケットの腕を捲り、下に着ていたシャツの袖をビリリ・・と破いた。そしてジャケットの胸から爆弾を取り出し、左手と左足で器用に箱をミラーに押し付け破いたシャツでグルグルとミラーに巻きつけた。
「行けー!!」
 両手を放し洸の体が後ろに飛んでいく。まるで風に乗るように美しいフォルムを作ってスーとバイクから離れた。
 無人になったバイクが車止めの上を跳ねた。空転する車輪を洸の眼が捕らえた瞬間、バイクが空中で爆発した。
「うわっ!」
 飛び散る破片が洸を襲う。いくつかが服を切り裂いた。ドッ!と地面に落ちる。
「洸!」ハリアから神宮寺と一平が飛び出した。一目洸を見て、「ジョー!チーフに連絡だ!誰でもいい。医療ヘリを飛ばしてもらってくれ!」
「ラジャ!」
 確保した男を見張るためにハリアに残ったジョーは前部席に移動して通信機のスイッチを入れた。すぐに森が出た。

 榊原病院の手術室の前の廊下に、一平は1人ソファに腰を下ろしていた。さっきまで幾人ものざわめきが彼を包んでいたが今はそれもなく静かだ。
 隅田川での事件の後、ジョーの要請でJBから医療ヘリが飛び立った。操縦桿を握るのは医療部の南だ。彼は難なく川沿いにヘリを降ろすと洸を診た。応急処置をしてヘリに洸を運ぶ。今度は一平が操縦桿を握った。
 神宮寺とジョーは確保した男を市ヶ谷に送る仕事が残っている。ヘリは一路榊原病院を目指した─。
「一平」ジョーがこちらに向かって歩いてくる。「洸は?」
「まだ手術中だ」前に立つジョーを見上げる。「左肩にバイクの破片が食い込んでいるらしい。でも大した事はないって医師は言ってたから」
「そうか─」ジョーが息をつき、一平の隣に座った。「すまん、一平。おれの勇み足だ」
「ジョーのせいじゃない」少し口元を緩め、一平はジョーに顔を向けた。「おそらく洸が言ったんだろ?“この辺りなら中に入れそうだ”、とか─」
「──」
 ジョーは驚いて一平を見た。まるで見ていたかのような一平の台詞─。
 一平がジョーの驚く顔を受けて、ま、いつもの事だから、と笑った。と、手術室のドアが開き女性の看護師が1人出てきた。一平達に気付き足を止める。
「何かあったんですか?」
 一平が思わず立ち上がった。
「大丈夫ですよ。ただ今日は手術が続いたので輸血用の血液が足りるかどうかわからないので、今血液センターに問い合わせを─」
「おれ、O型です」一平が言った。「洸はB型だからおれでも大丈夫でしょ?」
「おれも─」
 一平の勢いに釣られ立ちかけたジョーだが、すぐにまたソファに腰を下ろした。
 O型だがRHマイナスのジョーの血はプラスの洸に輸血する事はできない。いや、洸だけではなく─。
「そうですか」看護師はちょっと考えて、「ではあなたの血液を検査させてもらっていいですか?」
「はい」
 2人は検査室に向かい廊下にはジョー1人が残された。と、2人が曲がっていった廊下の角の反対側から神宮寺が姿を現した。彼は車を置いて今来たのだ。
「どうしたんだ?一平は」
「輸血用の血液検査だとよ」ジョーが大きく息をつく。「役に立たねえのな・・おれ・・」
「・・・・・」神宮寺がジョーの隣に腰を下ろした。手術室の赤いランプを見上げる。「今、そこで榊原さんに会って、手術はそう難しいものではなく、洸の意識もはっきりしていたそうだ」
「榊原さんが執刀医じゃないのか」
「本職は内科医だよ。ま、弾丸の摘出なんかは慣れたものだけど。それに今日は手術が続いたらしくて─。あ、例の子どもの手術はうまくいったそうだ。血液も間に合ったって」
「そうか・・・」
 ジョーの瞳がふっと和んだ。しかしすぐにまたいつのも鋭い瞳に戻る。
「そんなに気になるんだったら、OKした方が気がラクだったんじゃないか?」
「そうかもしれない。でも・・・いやなんだ」
 矛盾は他人が見つけるものだ。どちらも本心であるジョーにはこう答えるしかない。
「あ、それから、30分後にはJBに戻るぞ。奴が本当の取引の場所を吐いたそうだ」
「くそォ、あいつらコケにしやがって。洸の怪我とおれの腰の分、しっかり仕返ししてやる」
「仕返しはまずいだろう」
 苦笑する神宮寺だが、ジョーが元気になった事だし、まあいいかと思った。


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