コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Valentine panic 完

 芝浦運河沿いにあるその小さな倉庫の前に2台の車が着いたのは、夜の11時を回った頃だった。先に3台が着いていたので今は5台の車が並んでいる。
「やっとご到着か」
 倉庫の入り口が開き、2台の車から出てきた6人の男が中に吸い込まれる。その光景をジョーは神宮寺と共にハリアから見つめていた。
「あの倉庫の出入り口は正面と裏だが、裏にはさっきダンプを横付けしておいた」いたずらっ子のような目をした神宮寺が言った。「まず、出られないな」
 そしてハリアの後ろに停めてあるダンプ─ハイゼットをミラー越しに見た。
「本当にやるのか」
「今日1日で2度もおれ達の手を煩わせたんだぜ。これくらいしてもいいだろう」
「よく杉本さんが作ってくれたな。普段なら“食べ物を粗末にするな”って怒られるぜ」
「杉本さんにはパーティで使うって言ってある。それにあのチョコの量だ。こうでもしないと当分デザートはSachertorteだな。一平、用意はいいな。行くぞ」
『ラジャ!』ハイゼットの運転席に座る一平が楽しそうな声を上げた。『洸に見せられないのが残念だな。ビデオを用意しておけばよかった』
「どうぜしばらくは病院暮らしさ。話す時間はたっぷりある」
 そう言うとジョーは通信を切り、神宮寺に続いて車外に出た。2人は倉庫の前に置かれているコンテナで身を隠しながら入口に近づき、まずそこを守る2人の男を倒した。
 神宮寺がソッと入口を開ける。中は真っ暗だ。だが奥の方からかすかに明りが漏れている。2人は素早く体を滑り込ませると明りを目指して進んだ。
「思った通り、取引は1番奥の部屋だな」
「窓には皆スタンバイしてるぜ」
 実はこの辺りの倉庫は皆同じ作りで、男がこの場所を吐いた時に倉庫の管理会社から内部の見取り図を手に入れているのだ。30メートルくらいのフロアが3つある簡単な作りなので多少暗くても支障はないし、奴らの動きの予想はつけやすかった。
「一気に片付けよう。ここは寒くていやだ」
「JBに戻れば杉本さんのクリームシチューが待ってるぜ。いや、チョコシチューかも」
 ニヤッと口元を歪めるジョーを、神宮寺がいやそうに見た。が、明りが漏れているドアの前に着くとそっと覗き見る。
 外国人─たぶんイタリアの密輸組織の人間だろう─と、日本人の男達12、3人がダンボール箱に何かを仕舞っていたり、アタッシュケースのそばでは金を数えたりしていた。
「取引は成立したようだな。立派な現行犯だ」
「行くぜ!」ジョーがウッズマンを片手に一気にフロアに飛び込む。「Non ti muovere! Metti su una mano!(動くな!手を上げろ!)」
 ジョーがイタリア語で、それにわずかに遅れ神宮寺が日本語で警告する。
 男達は驚き、一瞬手を止めたが相手が日本の警察とみたのか手を上げる代わりに次々と拳銃を取り出し2人に向かって発砲した。
「おれ達は威嚇なんてしねーぜ!」
 警察の拳銃使用規定には、警告ののち2発の威嚇射撃を経て─云々という細かい決まりがあるが、国際警察の彼らには適用しない。
 2人はとっさに左右に飛び退く。と、ジョーがスピードマスターのリューズをカチカチと押し鳴らした。間隔を置かずフロアにある3つの大きな窓がガシャンと割られ、黒くて丸い物がザザーと音をたてて大量に流し込まれた。
 フロアはたちまち甘い香りとコロコロ転がる物体で埋め尽くされた。
「バレンタインプレゼントのチョコ爆弾だ。Ricevilo!(受け取れ!)」
 イタリアにもバレンタインがあってチョコレートをプレゼントするのかどうかはわからないが、知ったこっちゃない。
 ジョーはウッズマンでチョコ爆弾の真ん中に弾丸を撃ち込んだ。
 バーン!ボーン!とチョコ爆弾が跳ねる。
 奴らが密輸したチョコにはヘロインが仕込んであったが、同じ型のこのチョコには少量の黒色火薬が仕込んである。したがって爆弾といえる規模の物ではないのだが、火気があれば跳ねる。なにせ床一面に広がっているのでバンバンボンボンと連鎖していく。
 フロアはたちまち煙で真っ黒になった。
「一平!ダンプを引いて窓を開放してくれ!」
 リンクに向かって神宮寺が叫んだ。
 一平や立花、樋口が運転するハイゼットはその荷台にあったチョコ爆弾を全部倉庫内に送り込み荷台を下げながら窓から離れていく。これで少しは煙が外へ出てくれるだろう。
「ちょっとやりすぎたかな。煙がすごくて見えない」
「かまうもんか!奴らをチョコレート色にしちまえ!」悪ガキ顔でジョーが叫ぶ。だが相手も密輸を生業に色々と危ない橋を渡ってきた連中だ。煙が切れてくるとたちまち反撃してきた。「チッ!やっぱチョコみたいに甘くはねーな」
「お遊びはお終いだな」
 神宮寺もホルスタからオートマグを抜いた。結局最後にはこれ(銃)に物言わせなければならないのか─そう感じたのか神宮寺の表情が曇る。が、それは一瞬の事だった。
 彼の背後のドアから西崎や立花達が走り込んできた。ジョーの眼が彼らを捕らえる。
 昨日夜まで飲んでオフ明けの任務を半日で片付け、ダブルJのバックアップに入ってくれたチーム1の頼もしい面々だ。しかも揃いも揃って皆さん爽やかな、二日酔いなんてありません、という顔をしている。?アミ?の大量発生か。
「ジョー!ボヤッとしてるな!」
?アミ?の親玉の叱咤が飛んだ。
「どうせおれはアミじゃねーよ!」
 ジョーの言葉に、は?と神宮寺が顔を向けた。だがその時には、ジョーはもう奴らの前に飛び出していた。
 それが合図であったのか西崎や立花達も銃撃戦に加わる。だが奴らはヘロインと一緒に銃の取引もしていたのかと思うほどの豊富な弾丸数で応戦してくる。
「立花!」
 西崎の声に振り向くと立花が肩を押さえていた。大丈夫だ、と合図を寄こす。
「外へ逃がすと面倒だな」ジョーがふと床に目をやる。転がったまま跳ねずに残った黒い塊がいくつか落ちていた。それをジャケットの両ポケットに押し込む。「西崎、クレーンを降ろしてくれ」
 ジョーの指差す天井には運搬用の大型クレーンがぶら下がっていた。どうするのかわからないが、西崎はコンソールパネルに向かい動力を入れた。微調整してジョーの所までクレーンの先を降ろす。足を掛けた。
「上げろ!」
 グイーンとクレーンが上がる。
「わあっ!ジョー!」立花が声を上げた。「すごいや。これが本当の?コンドルは飛んでいく?」
 クレーンは天井近くまで上がると今度は横に移動した。ちょうど固まっている奴らの頭上に差しかかる。奴らの何人かが上に向かって発砲し始めた。下ならともなく上を狙うのは難しい。それでも何発かがクレーンに当たって跳ね返った。
「お返しだァ!」
 ジョーがポケットからチョコ爆弾を取り出しバッと男達の頭上に放り投げた。向かってくる黒い球体を、男達は反射的に撃ってしまう。球体は弾け小さな火の玉となって男達に降り注ぐ。その煽りを避けようとしたのか、西崎が急にクレーンを横に滑らせた。ジョーがバランスを崩した。
「うわっ!」
「あー!ジョォ!」グラグラ揺れるクレーン上で体勢を立て直す事ができず、掴んでいたアームから手が離れたジョーは数メートル落下した。「・・・コンドルは落ちていく・・・」
「いってー!今回ついてないぜ、おれの腰─」
 強かに腰を床に打ちつけジョーが顔をしかめる。だがその間にチーム1の他のメンバーが男達を抑えにかかった。
「大丈夫か、ジョー」
 神宮寺と西崎だ。
「す、すまん。手が滑った」
「大丈夫じゃねーよ」と言いながらも立ち上がった。「おムコに行けなくなったら責任取れよ、西崎」
 え!!と西崎が恐れ戦く。
「弟の方じゃなくて妹の方だぞ」
「いやだっ、絶対いやだっ。それくらいならおれが面倒みてやるっ」
 え!!と今度はジョーが恐れ戦いた。
「ま、奴らは全員確保できたし、ヘロインチョコも押収したし、とりあえず一件落着だな。大丈夫だよ、ジョー。もうこれ以上悪い事は起きないさ」
 確信ありげに、ニッコリと神宮寺が笑う。が、甘かった。
 JBに戻った彼らを出迎えたのは森や榊原、杉本達の雷だった。

 榊原医療部長が院長を務める榊原病院は中野坂上駅近くに建つ巨大な総合病院だ。この外科病棟302号室はJB専用病室のひとつだ。
「洸!生きてるか!」
 その302号のドアが勢いよく開いた。
「遅いぞ、ジョー」ベッドの上の洸だ。「生きてるけど、退屈で死にそうだよ」
「少しはおれの気持ちがわかっただろ」
 後ろ手でドアを閉めながらジョーが微笑む。
「昨日の夜は楽しかったんだって?今、2人から聞いてたんだ」2人というのは先に病室に来ている神宮寺と一平だ。「いいな?。ぼくも参加したかったな?」
「参加しなくてよかったぜ。おれ達散々チーフ達に絞られたもん。“無茶をするな”、“犯人確保で遊ぶな”ってよ。ちゃんと捕まえたんだからいーじゃねえか」それからジロリと神宮寺と一平を見る。「それにどうしてお前らや西崎達はすぐ解放されたんだ?おれはあの後始末書を書かされたんだぜ」
「それは、首謀者の取り調べが厳しいのは当然だろ」
 一平が言った。
「ひでえな、みんな喜んで乗ってきたくせに─。お前もだぜ、神宮寺」横でクックッと笑う神宮寺をジョーがさらに睨みつける。「とんだ相棒だぜ」
「おれは一応止めたぜ。ま、その後は楽しんだけど─。それよりジョー、シップ臭いぞ」
「ああ─、これか」ジョーがシャツの裾を捲りジーンズを少し下げて見せた。「榊原さんにでっかいシップ薬を貼られた。こいつがまた冷たくてよ。─だから笑うな!」
「お前もそんなビミョーな場所を見せるな」
「?」
 ジョーは頸を傾げながら裾をジーンズに挟んでいく。だがそのわずかな間に、以前ドイツで受けた銃撃で抉られたように残っている傷跡が見えた。今回の洸の傷が残らなければいいが、と神宮寺も一平も思った。
「そういえば洸、一週間後にモトクロスの公式レースがあるって言ってたよな」
「うん・・・でもキャンセルしたんだ。一週間じゃこの肩は治らないし」ちょっと眼を伏せ、しかしすぐに顔を上げる。「出るからにはトップじゃなくちゃ。無理に参加して不様な結果になるなら出ない方がマシさ。そうだろ、ジョー?」
「そうだな・・・」ジョーがちょっと眩しそうに洸を見た。「あ、忘れてた。見舞いだ、洸」
 そう言うとジョーはジャケットのポケットから綺麗に包装された小さな箱を取り出し洸に放った。
「今朝サ店に行ったら渡された。お前甘い物好きだろ?食って早く傷を治せ」しかし洸は包みを持ったままポカンとジョーを見ている。いや彼だけではなく神宮寺も一平も眼を見開きジョーを見たまま固まっている。「なんだ?」
「お前・・・今日が何日かわかってるのか?」
「は?」
「2月14日─バレンタインデーだぜ」
「うわ?!ジョーにチョコ貰った?!愛の告白だあ!」洸が爆発した。「どうしよう?!ぼくにはこーんな趣味もあーんな趣味もない!」
「おれもだっ!」
 ジョーのグーが洸の後頭部をバコン!とぶっ叩いた。

                               完

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